流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

137 / 144
2014/6/28
クラウン・サンダーの戦闘シーンに加筆修正


第百三十六話.反撃

 結局、キャンサー・バブルはほとんど何もできなかった。度重なるダメージを身に受けて、いつ倒れてもおかしくないような体にされてしまった。対して、リブラ・バランスはほとんど無傷だ。こうなるまでにできたことと言えば、背中を向けて逃げ回ることぐらい。敗北の色は濃厚なものになっていた。

 

「先程から逃げてばかりダナ。諦めロ」

 

 無慈悲な言葉と共に、アクアウェイトが放たれてくる。キャンサー・バブルはよろけながらビルとビルの隙間……細い道へと逃げ込んだ。背後で弾けた水を頭から被りながら、キャンサーのささやきを聞く。

 

「千代吉、しかけるプク!!」

「わ、分かったチョキ!!」

 

 千代吉達は途中からただ逃げるだけを止めていた。意を決すると、振り返り、ガクガクと震える足に残った力を注ぎ込んだ。

 

「観念したカ。これで終ワ……」

 

 細い道にノコノコと入ってきたリブラ・バランスは攻撃しようとして、ハッと動きを止めた。この狭い道で自分の大きい力を使えばどうなるか、ようやく理解したのだ。

 

「食らえチョキ! ダイダルウェーブ!!」

 

 キャンサー・バブルの最大の奥義だ。横に広い津波はビルの壁にぶつかり、収束してリブラ・バランスに襲いかかる。

 鈍足かつ、後方にしか逃げ場のないリブラ・バランスに避けるすべはなかった。だから受けるしかない。ダメージを最小限に抑えるために、自分の体を水属性へと変える。これを受けきれば、一気に距離を詰めてヘビーウェイトで仕留めてやれば良い。体力が限界に来ているキャンサー・バブルはそれで沈むはずだ。もし逃げていたら、またじっくりと追い詰めてやれば良い。勝利の算段はできていた。

 そういうときに貰う不意打ちは大きなダメージへと変わる。ダイダルウェーブに触れた瞬間、体に電流が走ったのだ。電気属性の攻撃が、水属性の体を蝕む。

 

「な、なんダこれハ!?」

 

 リブラ・バランスの悲鳴に、千代吉とキャンサーは笑みを浮かべた。ダイダルウェーブに放ったクラウドシュートが功を成した。電気をたっぷりと含んだ雲は、ダイダルウェーブを雷の津波へと変えたのである。

 大きなダメージを受けた上に、体が痺れてしまっているリブラ・バランス。最大にしておそらく最後の勝機だ。

 左手の鋏を切り離し、回転させる。ブーメランカッターだ。そして、スターキャリアからカードを読み取って、鋏を電気属性の剣……ライメイザンに変える。

 

「いっくチョキー!!」

 

 高速回転し、切れ味を増した雷の剣をリブラ・バランスに投げつける。

 リブラ・バランスはガクガクと腕を前に突き出し、両腕を鉄塊に変えて盾代わりとした。ぶち当たったライメイザンは鉄塊の表面を削りながら火花を撒き散らす。

 

「こ、これサエ受けきレバ……」

 

 キャンサー・バブルの渾身の一撃を受けた気でいるのだろう。だが、彼は気づいていない。両手がふさがっていることに。頭上からの飛来物に。もう一つ、ライメイザンとなったブーメランカッターが彼に迫っていた。

 鋭くて重い切断音が鳴った。リブラ・バランスは真っ二つに切り裂かれる。最後の悲鳴をあげることすらなく、ゆっくりと前のめりに倒れていく。

 リブラ・バランスが消滅しても、しばらくの間キャンサー・バブルは動けなかった。声一つ発することなく佇んでいる。

 

「か、勝った……チョキ? ……あ」

 

 糸が切れたように崩れ落ちた。彼も限界だったのだ。人知れず、大きな戦果を挙げた彼の頭を、キャンサーは優しく撫でてあげた。

 

 

 オヒュカス・クイーンの怒涛の攻撃がクラウン・サンダーを襲う。嵐のように巻き起こる破壊力抜群の連続攻撃に、クラウン・サンダーはただ守りに徹しながらウェーブロードを飛び移るしかなかった。今、ドリルを持った髑髏のお供が消滅したところだ。

 

「ククク、これであと5分は使えまい」

 

 オヒュカスはこれまでの戦闘から、クラウン・サンダーが髑髏を消失してから再召喚できるまでのインターバルを計算していたらしい。力任せに攻撃しているように見えて、しっかり相手を観察していたのだ。クラウン・サンダーには答える余裕すらないようで、元は煌びやかだった破れたマントを抑えるだけだ。

 その隣に……オヒュカスからは見えない角度にクラウンが出てくる。

 

「クローヌ……」

「うぬ」

 

 クローヌは敵から目を離さずに小さく頷いた。だが、一歩前に踏み出そうとしてガクリと膝を突いてしまった。

 オヒュカスはこれを最大の好機と見たらしい。とうとうクラウン・サンダーを仕留めにかかった。蛇使いの座の女は、自らも蛇となり獲物を仕留めにかかる。現在召還できるだけの蛇達をクラウン・サンダーに放ち、自らも体を回転させながら質量に任せた体当たり……クイックサーペントを仕掛ける。

 蛇達が噛み付こうとしたとき、クラウン・サンダーは両腕を前に突き出した。

 

「テイルバーナー!! モエリング!!」

 

 手が火炎放射器に変わり、勢いよく炎が噴出す。おまけに、火を纏った三本のリングがウェーブロードを電車のように突き進んでいく。炎の壁の前に、蛇達は一瞬でかき消される。

 突然放たれた火属性の攻撃に、スターキャリアーの存在を知らないオヒュカス・クイーンは思わず動きを止めてしまう。待ってましたとばかりに、クラウン・サンダーはリュウエンザンを召還して、真正面から切りかかる。

 それでも、オヒュカスは勝てると思っていたらしい。目に紫色の電波が収束される。彼女の必殺技であるレーザー……ゴルゴンアイを使おうとしているのだ。それを見て、クラウン・サンダーは勝利を確信した。

 オヒュカス・クイーンの体がビクリと前方に捻じ曲がる。腹部には、先程消滅したばかりのドリルを持った髑髏がいた。後5分……いや、4分は出てこないはずの髑髏がだ。その現実が彼女の思考を妨げて、まともに機能させてくれない。

 その隙を突き、クラウン・サンダーは炎の剣をオヒュカスの顔につきたてた。決着はあまりにも呆気ないものだった。

 

「だ、騙した……な……」

 

 死の間際に理解したらしい。クラウン・サンダーは髑髏の再召喚にかかるまでの時間をずっとごまかしていたのだ。そして、ずっと追い詰められていた振りをしていたのだ。

 

「ひ、卑怯者、が……!!」

 

 オヒュカスは怨念のような声をあげながら消滅していく。

 

「卑怯者……か」

 

 それを尻目に、クラウン・サンダーは都市風にマントを閃かせながら、「カカカ」と笑って見せた。

 

「指揮官には最高の誉め言葉である!!」

 

 「カーッカカカカ!!」と笑うと、クラウン・サンダーはばたりと仰向けに倒れた。ゼヒューッゼヒューッと荒い呼吸を上げていた。

 

「といっても、ギリギリだったようじゃの?」

「あ、当たり前じゃ! あんな女……二度と相手にするのはごめんである!!」

 

 

 背中を鋭利な刃が走り抜ける。遅れて拳を振り回すものの、もうそこに敵はいない。視界の隅に緑色の影が一瞬見えるもののすぐに見失ってしまった。

 

「ブルル! ちょこまかと鬱陶しいんだよ!!」

 

 オックス・ファイア相手に苦戦していたウルフ・フォレストだが今は善戦に持ち込んでいた。特に彼が何かを意識したわけではない。戦場が変わっただけである。動きを制限される狭いビル内から、だだっ広い屋外へと放り出されたのが幸いだった。猪突猛進のオックス・ファイアを、すばやい動きで翻弄するというヒット&ウェイを繰り返して斬りつける。ウルフ・フォレストの戦い方が出来上がっていた。

 再び隙だらけの背後を取り、ウルフ・フォレストは迷わず飛び掛る。その野生の反射にも近い動きが命取りだった。オックス・ファイアの裏拳が顔に突き刺さり、ひしゃげる。道路の上を跳ね回りながら、十数メートル転がった。

 

「ブルル! あぶねえ」

 

 野生の感という意味では、オックス・ファイアも同じだったのだ。

 今の一撃は戦況をひっくり返すのには充分だった。ウルフ・フォレスト自慢のスピードで綺麗なカウンターを貰ってしまったのだ。しかも超ヘビー級のオックス・ファイアの拳だ。顔面が砕けていてもおかしくないダメージを受けながらも、ウルフ・フォレストは砕けた下顎とそこから漏れた舌をだらしなく下げながら立ち上がる。その足はヨロヨロとふらついていた。

 

「グルル……良いぜぇ……最高だ!!」

 

 常人ならば逃げるか諦めるかの二択を考えるようなこの状況を尾上は心底楽しんでいた。FM星軍きっての好戦派であるウルフも肩をすくめるしかなかった。

 

「尾上、てめえにバトルカードはいらねえな。好きにしやがれ」

「おう、そうさしてもらうぜ、ぐるぁァアア!!」

 

 ウルフ・フォレストは何のためらいもなくオックス・ファイアに正面から飛び掛った。オックス・ファイアからファイアブレスが放たれても、それに身を焼かれても、前進する速度は落とさない。炎を切り抜けるとオックス・ファイアが右拳を振りかぶっていた。目で満面の笑みを浮かべてウルフ・フォレストも左手の爪を広げる。

 二人の手が交差した。

 そして、決着はついた。

 オックス・ファイアの右腕が切り裂かれたのだ。確かな感触を覚えたウルフ・フォレストは左腕をなぎ払い、オックス・ファイアのタンクのような胴体ごと斬り裂いた。

 

「ブルオォォオオオ!? お、俺が犬っころなんかに!!? チクショウォォォオオ!!」

 

 最後まで敗北を認められなかったのだろう。オックス・ファイアは壊れていない方の手でウルフ・フォレストに最後の一撃を振りおろす。だが、それはウルフ・フォレストの周りに突如現れた青い障壁に防がれた。ウルフがバリアのバトルカードを使ったのである。

 

「ま、決着は付いてるんだ。これぐらいならいいだろ。あばよ、オックス」

「ブルォオオオ!!」

 

 オックス・ファイアは崩壊し、消えていった。

 その場に残されたのは、ボロボロになって横たわるウルフ・フォレストと、彼の心底満足した顔を見て呆れたように笑うウルフだけだった。

 

 

 揺れる視界にもつれる足。それでも体勢は崩すまいかとハープ・ノートは自分を奮い起こす。バトルカードの力でどうにか手に入れたアドバンテージも、とっくの昔に取り返されていた。

 手に持っているスターキャリアーから聞こえる、天地たちの声援にも悲鳴にも似た声はどこか遠くに感じてしまう。なのに、遙か上空にいるキグナス・ウィングの残酷な笑い声は一言一句聞き取れてしまうほど鮮明だった。

 

「アハハハハハ!! ゴミクズみたいな地球人を守ろうとなんてするからこうなるんだよ!!」

 

 キグナス・ウィングはどこまでも知的で狡猾だった。翼を負傷し、高速飛行で遅れをとった彼は、攻撃対象を天地たちに変えたのだ。そんなことをされればハープ・ノートは身を持って盾となるしかない。天地たちも慌てて地下に避難したものの、ハープ・ノートが受けたダメージは深刻だった。そのままいたぶられているにいたる。

 だがそれも終わりが近づいてきたらしい。

 

「そろそろ飽きてきたな。君を殺して、他の裏切り者達を殺しに行くとしよう」

 

 キグナス・ウィングは青白い顔を残酷な笑みに歪めると、両翼を広げてありったけの羽弾を撃ちだしたのだった。

 

「キグナスフェザー!!」

 

 白い羽が束となり、死神の鎌の様に降り下ろされてくる。それを黙って見ているわけが無い。

 

「ミソラ!」

「シ、ショックノート! ガトリング!!」

 

 自らの能力でコンポを召還し、対抗する。だが、もう力が残っていないのだろう。無数に放ったつもりの音符弾は指折り数えるほどの量でしかなかった。

 続いて、持ち上げることすら困難になった腕をガトリングに変換し、照準も定まらないまま撃ちだす。小さい弾丸同士がぶつかり合うわけもなく、白い羽は笑ってハープ・ノートに飛び込んでくる。

 ハープは独断でバリアのバトルカードを使い、ハープ・ノートの身を守った。無数のキグナスフェザーが着弾し、バリアは粉塵と共に紙切れの如く消し飛んだ。そして、粉塵の向こうからキグナス・ウィングが眼前に姿を現した。こちらが本命だったのだと気づいても、もう遅かった。大剣のような翼で体を斬られた。足から力が抜けて、ぐらりと体が揺らぐ。細い首が正面から乱暴に鷲掴みにされ、体が宙に浮く。キグナス・ウィングが彼女を持ち上げたのだ。

 

「これが君たちの限界さ。さ、死になよ」

 

 虫を踏み潰すようなあっさりとした死刑宣告。それでもハープ・ノートは傷ついた左手を敵に向ける。だがその手は相手に届かない。

 キグナス・ウィングはその様を鼻で笑い、もう少しだけいたぶろうかと高い加虐心を高揚させる。それが命取りだった。鋭い痛みが体を貫いた。

 ハープ・ノートの左腕は円錐状の剣に変わっていた。ミソラも持っていないバトルカードだ。ハープが促した方向を見ると緑色の髪をした少年がいた。アマケン本館の入り口で、医務スタッフに支えられながらトランサーをこちらに向けている。目が合うと彼は目を細めて笑ってくれた。ハープ・ノートも笑みを返すと、残った力を振り絞ってブレイクサーベルをなぎ払った。




地球側 VS FM星側のバトルはいかがだったでしょうか?
お話のテンポが悪くなるため、二話で四戦全てを終わらせるという突貫工事のようなものになりました。でも個人的には、彼らに出番と役目を与えることができたので満足です。
べ、別にオックス達の処理に困って、偶然思いついた産物ってわけじゃないんだからね!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。