流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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今回はあとがきを含めて二本立てです


第百三十五話.迎撃

 ヤシブタウン。ニホン国が誇る大都会の一つであり、競争するように建てられた高層ビルが所狭しと並んでいる。そのなかでも比較的巨大なビルの一角から突如爆発が起きる。場所は最上階付近。先程までは都市風を防ぐ壁だったものが火を纏った破片となって地上へと飛び散っていく。その中にはウルフ・フォレストの姿もあった。

 相棒の乱暴な叫び声に、一瞬飛んでいた意識を引き戻されると、慌てて身をよじった。かろうじて受身を取ったものの、すぐ近くまで来ていた地上に全身を打ち付けてしまう。

 バラバラと落ちてくる破片と共に、赤い巨体が降りてくる。何とか立ち上がろうとするウルフ・フォレストの横で、ウルフはあからさまに舌打ちをついて見せた。目の前にいる男は、故郷にいた頃から大嫌いだったあいつだからだ。

 

「ブルル! とうとう犬から飼い犬になり下がったか?」

「今から食われるカルビが吠えてんじゃねえよ!! やるぞ尾上!!」

 

 ウルフ・フォレストは獰猛な牙から涎を垂らし、爪を剥き出しにして飛び掛かった。腕がオックス・ファイア目掛けて振り下ろされる。太い腕を捕らえるものの厚い装甲を引き裂くまでには至らない。攻撃直後の隙を突かれ、もう一方の腕がウルフ・フォレストの細い胴体に打ち込まれる。後は飛んでいくだけだ。乗り捨てられていた大型トラックに直撃し、爆風が身を焦がす。

 オックス・ファイアは足元に降り注いでくる鉄くずたちには見向きもせず、ノズル上の口から小さく火の息を吐き出した。その目はトラックだった物の中央を凝視していた。

 立ち上る炎の中からゆらりと影が揺れる。這い出してきたウルフ・フォレストの姿は所々が火傷で黒く変色していた。特に酷い右腕を持ち上げ、その爪先をべろりと舐めると、鋭い犬歯を光らせた。目は赤く滾っていた。

 

「こういうのを、ずっと待っていたんだよ!!」

 

 

 上顎で対になった銀色の牙。それが無数に襲い掛かってくる。巨大な槌の一振りがそれらのほとんどを吹き飛ばす。その頭蓋骨だけの部下も続けざまに飛んできた紫色の光線で跡形もなく消し飛ばされた。部下の消失を嘆く暇すらなく、クラウン・サンダーは別のウェーブロードに飛び移ってレーザーを回避した。

 その動きを予想されていたのだろうか、着地際にまたもや無数の蛇達が降り注いでくる。これはボウガンを装備した髑髏だけでは捌ききれない。クラウン・サンダー自身も雷を放射し、蛇達を撃ち落とした。

 先程からこの繰り返しだった。よりにもよって、FM星屈指の猛者である女戦士と対峙してしまったクローヌとクラウンは、徐々にだが追い詰められていた。反撃らしいものはまだ一度もできていない。なぶり殺しにされているのである。それを楽しむのがオヒュカスという女である。

 

「ハハハハハハ!! 髑髏が無ければ何もできまい!! また召還できるようになるまでどうやって防ぐ?」

 

 一度消失した髑髏を再び呼び出すようになるまで、多少の時間を要する。それがクラウン・サンダーの能力の弱点である。

 

「クローヌ……」

「ヌゥ……この女、やりおるわい」

 

 肩を大きく上下させるクラウン・サンダーの頭上が緑色で覆われた。蛇の雨が降り注ごうとしていた。

 

 

「ヂョギー!!」

 

 炎の塊が弾けると同時に、キャンサー・バブルの間抜けな悲鳴が上がった。今彼はリブラ・バランスに追われているところだ。お尻に点いた火をハサミ状の手で弾いて消す。戦士とは思えない滑稽な姿だった。

 

「ゆ、ゆるさないチョキ!!」

 

 キッと目を釣り上げて、振り返りながら右手のハサミを相手に突きつける。

 

「俺っちのお尻のかた……き……」

 

 目の前に、山のようにそびえるリブラ・バランスがいた。その巨体で後ろの太陽を隠し、顔にかかった日影がさらに威圧感を増している。千代吉にとっては恐怖の対象でしかない。キャンサー・バブルの大きな顔についた皿のような両目に、ブワッと涙が溢れ出す。その間にも、リブラ・バランスは両手をゆっくりと持ち上げて、その手を鉄塊にするのだった。

 

「ヘビーウェイト!!」

「ギョヒャピー!!!」

 

 寸でのところで避けるとそのままゴロゴロと転がって、うつ伏せになって止まった。砂埃が目に入ってくる。

 

「キャンサー、FM星の落ちこぼれだッタ貴様に選択肢は無イ。大人しく殺されロ。時間の無駄ダ」

 

 どうやら、倒すべき敵としてすら見てくれていないらしい。涙が頬を伝う。キャンサー・バブルは両手でそれを拭うと、リブラ・バランスに向き直った。そこに浮かんでいた顔はリブラ・バランスを不愉快にさせた。

 

「……ス、スバルはもっと怖くて、強いやつと戦っているチョキ! オ、オオ、オイラだって、逃げるわけにはいかないチョキ!!」

「千代吉……今の千代吉は宇宙一プクー!!」

 

 キャンサーの応援に頷くと、キャンサー・バブルは降りかかってくる火と水の大玉を睨みつけた。

 

 

 自慢の音符型ボードにナイフのような白羽が幾本も突き刺さる。形状を維持できなくなり、慣性の法則にしたがって空へと投げ出される。世界が乱気流のように渦巻いても、敵だけは見失うまいかと目を凝らす。見つけた。すでに新しい白刃が迫ってきていた。

 ハープ・ノートは自分の進行方向上にコンポを生み出し、障害物として自分の動きを止めた。背中から突き抜ける痛みに歯を食いしばり、コンポを蹴飛ばして再び空へと飛び出す。足元でコンポが破壊されるのを確認しながら改めて音符型のボードを召還する。

 

「まだ僕と空中戦をするつもりかい?」

 

 頭上を取ったキグナス・ウィングがここぞとばかりに羽の刃を乱射してくる。雨というよりは檻だ。ハープ・ノートは思わずボードの動きを止めてしまう。

 それをキグナス・ウィングが見逃すわけがなった。翼を限界にまで広げ、ハープ・ノートめがけて猛禽類のように滑空した。翼がハープ・ノートを捉えた。その思いは一瞬で激痛にかき消された。何が起こったのかと考える前に姿勢を制御しようとする。片翼が思うように動かない。どうやら、翼を負傷したらしい。ウェーブロードに墜落するように着地しながら見上げる。無傷のハープ・ノートの手には水色の剣が生まれてた。

 

「あ、危なかった……」

「いえ、うまいわよミソラ」

 

 ハープの呼びかけがミソラを救った。スターキャリアーの存在を思い出し、手の中のハープをスイゲツザンに変化させて対抗したのである。腕にはへし曲がりそうな激痛が走ったものの、相手にはそれ以上のダメージを与えることができた。

 足元で心配そうに見上げているアマケンスタッフ達。その中にいる宇田海に感謝して、ハープ・ノートはしびれる腕を持ち上げた。

 

「……ここはスバルくんが帰ってくる場所……だから、私達が守る!!」

 

 地球を愛する者達の反撃が始まる。




*あとがきと言う名の+α

 避難警告を受けたあかねはコダマ小学校の体育館へと移動していた。すでに避難してきた人たちでごった返しており、ムワッとした湿気のある空気が顔にかかってくる。
 不安に頭を抱える者や、サテラポリスを無能と罵倒する愚か者、恐怖に狩られて泣きじゃくる幼い子供と慰める親。この場に来て、改めて自分達が危機にさらされていることを認識させられてしまう。
 見知った顔を捜そうと、あかねは辺りを見渡してみる。すぐに見つかった。モジャモジャのアフロが忙しそうに近づいてくる。

「星河のお母さん! 無事でしたか!?」
「育田先生……」

 スバルのクラスの担任教師、育田だ。避難してきた人達の相手をしてきたためか、肌黒い顔は少々やつれたようだった。その表情はすぐに曇ったものへと変わる。スバルがいないことに気づいたのだ。てっきり、スバルはあかねと避難してくるものと思っていたのだろう。

「あのお子さん……どうしたのでしょうか?」
「ここにはいないと思います。行かなきゃならないところに行っているみたいで……」
「……え? ち、ちょっと待ってください!! この非常事態の中、出かけているのですか!?」

 落ち着いたあかねの態度に、育田は目を全開にしてしまった。戦火の中、息子が行方不明になっているのだ。親としては涙を流すほど辛い状況のはずである。
 育田の言いたい事を察したようで、あかねは落ち着いた笑みを見せた。

「もちろんスバルのことは心配です。けど、私はあの子を信じています」

 あかねは唯一持ってきた鞄の中から写真立てを取り出した。先程のものとは違った、穏やかな笑みが浮かびあがる。育田は何も言えなくなってしまった。

「なにかお手伝いできることはありますか?」
「……ええ。なら……」

 育田の頼みを聞くと、あかねは足早にその場を後にした。彼女の後姿を見送り、育田は肩を竦めた。教師として、親としてまだまだ学ぶことは多そうだ。若い教師二人に指示を出し、自分も作業へと戻った。



 煙火が立ち上る。辺りに充満するコンクリートの粉塵に目鼻を覆いたくなる。できれば耳も塞ぎたいがそうは行かない。爆音と共にビルの一角から電波ウィルスの大群が飛び出してくる。それに向かって、五陽田は手に持った銃を向けた。

「ゼットイレイザー構え! 撃てぇっ!!」

 号令と共に、サテラポリスの隊員達が一斉に引き金を引いた。銃口から放たれた光の帯が敵を一掃していく。サテラポリスが開発した最新型対電波ウィルス兵器の威力は凄まじく、一体だけ混じっていたジャミンガーも十数発の集中射撃を受けては耐えることはできなかった。
 敵の気配がないことを確認し、二名の隊員が素早く人間に戻った男を保護する。隊員たちが戻ってくると、五陽田は瓦解したビルの破片で造ったお粗末なバリケードの後ろに隠れた。
 この近くに敵はいないらしいが、安心はできない。この防衛ラインを維持するだけで、何人もの隊員達が重症で後方へと引いてしまっている。部隊の数は三分の二ほどまで減ってしまっていた。残った者達も少なからず怪我をしており、いつ脱落してもおかしくない状況だった。五陽田も鬱陶しそうに額から流れる血を拭った。

「警部、先程の男。本当に信じて大丈夫なのでしょうか?」

 一人の部下が尋ねてきたのは、つい先刻現れた狼男の話である。


 電波ウィルスとジャミンガー達を相手に、対等以上に戦っていた五陽田の部隊は一瞬で危機に陥った。突如現れた、たった一体の牛男によって戦局をひっくり返されてしまったのである。牛男の圧倒的な破壊力を前に、五陽田たちはなすすべもなかった。
 そこに颯爽と現れたのが狼男だった。彼は牛男に飛び掛り、激闘を繰り広げ始めたのである。あまりにも激しい戦闘に、五陽田たちは巻き込まれぬよう、その場から撤退するしかなかった。そして、今の防衛ラインを守っているに至る。
 あの時は確認する暇もなかったが、誰もが分かっていた。あれがFM星人。自分達が倒すべき存在だ。
 この部下は狼男の危険性を考慮しているのだ。牛男を倒した後は、自分たちを襲うのかもしれない……と。
 五陽田は傷口に布切れを巻きつけながら答えた。

「本官達を守ってくれた上に、あの牛男と戦ってくれているのだ。信じようじゃないか」
「ですが、あいつら何者なのか……」

 もう一人、別の部下が話に加わってきた。不安げな顔二つに挟まれても、五陽田はその武骨な表情を変えることはなかった。

「今重要なのはそこではない。大事なのは本官達の職務を全うすることだ。違うか?」

 鉢巻のように布を額に巻きつけて、五陽田は銃を取り直す。部下二人は何も言わなかった。
 監視していた一人の隊員が五陽田の名を呼んだ。彼が指差す方を窺ってみれば、大量の電波ウィルスと幾人ものジャミンガー達がこちらに向かってくるところだった。とてもこのちんけなバリケードと負傷者だらけの部隊では敵いそうにない。舌打ちをすると、部下達に指示を飛ばした。

「防衛ラインを一段階下げる! 総員直ちに撤収!! 怪我人の運搬を最優先! それまで本官が殿を務める!!」

 言い終わる直前に、バリケードが悲鳴をあげた。五陽田が立ち上がる。その側に、先程の二人の部下が加わる。

「ご一緒します!!」
「……うむ!」

 津波のように襲い掛かってくる敵を前に、五陽田たちは銃を構えた。


**本当のあとがき**

 地球での様子を書けば緊迫感が出るのではないか? そう考えて書いたのですが……ストーリーが進まないので省きました。でも、消すのももったいない。そう考えてこの構成にしました。

 それに、唯一(・・)五陽田さんをかっこよく書いてあげられるシーンですからね。五陽田さんファンへのサービスシーンです。いらね(^ω^;)
 え? 五陽田さんファンクラブに入らないかって? いや、そこまで好きでも無いから遠慮します。
 あっ! あかねさんファンクラブなら入りま……!! ( °▽°)=◯)`Д)、;'.・

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