流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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皆さん、長らくお待たせしました。
ついに、アレオリの最終話を書き終えました。

これから、二日に一話更新をしていきます。

急に連載速度が上がり、ラストスパートとなってしまいますが、どうか最後までお付き合いください。


第百三十二話.親友の証

 ルナ達と別れたスバルはウェーブロードを通ってアマケンの上空に辿り着いていた。そのままアマケンタワーまで行くつもりだったが、正門前にミソラがいることに気づいて歩を止めた。朝早くからスバルが来るのを待ってくれていたようだ。電波変換を解いて、ミソラに自分の姿を見せてあげた。

 

「ミソラちゃん」

「あ、スバルくん!」

「昨日はありがとう。おかげでぐっすり眠れたよ」

「フフ、どういたしまして。私の歌、凄いでしょ!?」

 

 ミソラは可愛らしい鼻息をたてながら胸を張ってふんぞり返ってみせる。その拍子に、首から提げているハート型のペンダントが小さく揺れた。

 彼女に連れられてアマケンの敷地内に入ると、そこはエンジニア達の戦場と化していた。アマケンスタッフ達が右に左にと、めまぐるしく動き回っているのだ。体の小さいスバル達がいることに気づく余裕すらないようで、こちらが少しでも気を抜けば誰かに突き飛ばされかねない。そんな身の危険すら予感させてくれる規模だった。

 その片隅で、難しい顔をした尾上たちが宇田海と話をしていることに気づいた。どうやら手に持っているスターキャリアーについて説明を受けているらしい。

 スタッフ達の竜巻を潜り抜けると、アマケンタワーの正面に出た。天地はそこで指揮を取っていた。どうやらシゲゾウも協力してくれたらしく、困っている若いスタッフに助言している様子が窺えた。

 ミソラに声をかけられると、天地はシゲゾウにその場を任せて時間を作ってくれた。

 

「約束どおり、ちゃんと間に合わせておいたよ」

「天地さん、本当にありがとうございます」

「ハハ、任せてくれと言ったろう? と言っても、まだ最終調整が残っているけどね」

 

 天地はいつもと変わらない優しいおじさんの笑顔をして見せた。

 そのまま現在の状況について簡単にスバルに説明した後、ある大切なことを伝えた。スバルはお礼を言うと単身アマケンの屋内へと入っていった。向かう先は医務室だ。

 

 

 スバルが訪ねてくると、医務室のスタッフは何も言わずに部屋を後にしてくれた。

 幾つか設けられたベッドの一つにツカサはいた。窓際の一番良い席を与えられているようで、風が入り込んでくる。この間まで冷たかったはずの朝方の風。気づけば心地よい温かさに変わっていた。

 入り口で突っ立っていたスバルは静かな足取りでツカサに歩み寄る。気づいているはずなのに、ツカサは窓の外を見たまま振り返ろうとはしなかった。

 

「スバルくん……来てくれたんだ」

「……うん」

 

 やっぱりツカサは気づいていた。そしてスバルを見ようとしない。ツカサが寝ているのは本格的な介護にも適応しているベッドのようで、上半身側を傾けて背もたれ代わりにしている。これが今の彼には一番楽な姿勢なのだろう。

 

「天地さんから聞いたよ。宇宙に行くんだね……」

「うん……」

 

 それだけで会話が終わってしまった。身にまとわりついてくる空気は冷たくて、居心地の悪い雰囲気が流れる。

 スバルは右に左にと視線を沿わしてしまう。あの医務室スタッフの計らいなのだろう。ベッドの側に置かれた花瓶には一厘の花が捧げられていた。残念ながらもうほとんどしおれてしまっている。種類は分からないが、おそらくは春に咲く花なのだろう。

 ポケットに手を入れると、スバルはできる限り明るい顔で話しかけた。

 

「ツカサくん……助けてくれて、ありがとう」

「あの程度のことで償えるとは思っていないよ」

「……そうでもないよ! ……あの時君がいなかったら、僕は死んでいたかも……」

「だからと言って、君を殺そうとした僕が許されるわけじゃない」

 

 ツカサの言葉は正論だった。スバルは黙りそうになってしまう。だが、ここで引けばもう永遠にツカサと話ができなくなるかもしれない。そんな恐怖がスバルの背中を押す。

 

「で、でもヒカルに唆されたんでしょ? それに、ヒカルはもういないし……」

「生きているよ」

「……え……?」

 

 そんなはずはない。電波粒子となって消えていくヒカルをこの目で見たのだ。

 だが、そんなスバルの確信をツカサは一蹴した。

 

「ヒカルは僕の半身……僕が存在している限り、ヒカルも存在する。まだ僕の中で生きているよ。すごく弱っているから眠っているけどね」

 

 今度こそ、スバルは何も言えなくなってしまった。何かを言わなければならないと分かっているのに、何の言葉も出てこない。喉に石でも詰まったかのようだ。

 

「僕は、君とブラザーになりたかった。もう一度、友達から始めたい。けど、僕はこれからどんな顔で君と会えばいい?」

 

 スバルには過酷だがツカサの素直な気持ちだった。そして彼の言っていることは正しい。自分の業を見つめなおした彼なりの結論だった。

 スバルは何も言い返さなかった。俯いて黙すだけだ。ツカサは窓から見えるアマケンタワーの先端を眺めているだけだ。

 

「僕もね、君を裏切ったんだ」

「……え?」

 

 唐突なスバルの告白だった。頑としてスバルを見ようとしなかったツカサは思わず振り返ってしまった。そこには、恥ずかしそうに顔を赤くしているスバルがいた。

 

「実はね……恋人がいるって前に言ったでしょ? あれ嘘なんだ。まだ友達なんだ。アハハ……」

 

 何を言っているのかさっぱり分からなかった。だが、すぐに思い出した。ブラザーを結ぼうと約束する少し前、ゴン太とキザマロが喧嘩してしまった日のことだ。そう言えば、スバルには彼女がいて、紹介してもらうという約束をしていた。

 

「……あれ、嘘だったの?」

「うん。だから、僕も君を裏切っているんだよね」

 

 裏切るというよりは、見栄を張った嘘だ。そう思っても、ツカサにはそんな細かいことを指摘する気にはなれなかった。

 

「まだ友達……もしかして、相手はミソラちゃん?」

「ええ!? な、なんで分かったの!?」

 

 ノーヒントでばれるなんて全く思っていなかったらしい。あまりにも分かりやすすぎる反応に、ツカサは小さく噴出してしまう。

 

「プッ……委員長は違うって言ってからね。もしかしてと思って、適当にミソラちゃんの名前を挙げたんだよ。スバルくんは騙されやすいね」

「ひ、酷いよ! はめないでよ~!」

「ハハハ。で、好きなの?」

「ど、どど、どうかな?」

「嘘も下手だね」

「そ、そんなんじゃないってば!!」

 

 気づいたら、二人は笑っていた。

 短いやり取りだったが、それでスバルには十分だった。確信を胸に秘めて、ツカサに告げた。

 

「ツカサくん……僕たち、いつかブラザーになれると思うんだ」

「なれる……かな」

「もちろんだよ!」

 

 自信のない顔をするツカサに、スバルはポケットからある物を取り出した。手渡されたツカサはそれを見て言葉を失った。それはどこにでもあって、誰にも気づかれないちっぽけな存在。だが、それはあの場所のものだとツカサは理解していた。

 

「スバルくん……これって、まさか……」

「うん。ツカサくんの憩いの場所……丘の上の花畑に咲いていたんだ」

 

 一厘の赤い花だった。

 

「昨日の夕方、あの花畑に行ってみたんだ。そしたら、もう雑草が生えていて、花も何本か咲いていて……悪いと思ったんだけど、一厘だけ摘んできちゃったんだ。

 もう少し先の話になるけれど、またあそこには綺麗な花畑ができるはずだよ。そしたら、あの場所で……満開の花の中でブラザーを結ぼうよ」

 

 ツカサは何も言わなかった。花を見つめるその目に、微かに光が見えた。

 次にスバルはポーチからあるものを取り出した。それはずっとツカサに渡したかったもの。包装紙はしわだらけで、綺麗に包めていない。それどころか、少し破けてしまっている。ツカサに渡したくて仕方なかった、あのカードの端っこがはみ出している。

 

「これは、その約束のプレゼントだよ。渡しておくね」

「スバルくん……」

 

 ブレイクサーベルのバトルカードを受け取ると、ツカサの両頬に涙が流れた。それを拭い、無理やり笑ってみせる。

 

「……僕は……や、やっぱり……君のブラザーになりたい」

「僕もだよ!!」

 

 しわくちゃの涙顔に、スバルは満面の笑顔を見せた。涙は見せなかった。


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