流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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第百二十九話.罪と希望と

「天地くん、君には最初に謝っておくことがある。すまなかった」

「え……? 何をですか?」

 

 屋外へと出ると、シゲゾウは唐突に天地に謝罪した。

 

「ワシはアマケンのスポンサーとなり、君にこの土地を譲渡した」

「ええ、今も感謝しています」

 

 スバルは天地のアルバムを見せてもらった夜のことを思い出した。そういえばそんな事を言っていた気がする。

 

「そのとき、君に黙っていたことがあるんじゃ……いや、利用したと言うべきかな?」

「……それはどういう……?」

「ここじゃ」

 

 天地が質問し返す前に、シゲゾウはある場所で立ち止まった。遠くに行くと思っていたスバルは少々驚きながら、目の前の建築物を見上げて目を丸くする。目の前に立っていたのは、アマケンのシンボル『アマケンタワー』だった。

 シゲゾウはアマケンタワーの前に立つと一枚のカードをプラスチックケースから取り出した。何の装飾もプリントも施されておらず、どこか不気味さを感じさせるほどに真っ黒だ。傷一つ付いていないことから、彼がどれほどこれを大事にしていたのかが見て取れるというものだった。それをトランサーに読み込ませる。

 するとどうだろう。硬い音が鳴り、シゲゾウの足元が動き始めたのだ。見る見るうちに四角い穴が空いた。正確には地面から地下へと降りる道が現れたのだ。

 天地が恐る恐るとシゲゾウの側に進み出る。どうやら、所長である彼ですらこの地下の存在を知らなかったらしい。

 

「し……シゲさん……これは……!?」

「この土地を渡す前に、ワシが造ったものじゃ」

「こ、この施設を立てる時に、配管や電線が書かれた地下の見取り図だって……」

「ワシが偽造した。ここにアマケンタワーを建てるように提案したのも、ワシだったじゃろ?」

 

 シゲゾウがゆっくりと壁に手をかけながら降りていく。様々な機材を持ち運ぶことを想定したのだろう、階段ではなく坂道になっていた。スバルたちが横一列に並んで降りたとしても、左右には十分なスペースが余りそうなほどに広い。高さも考慮すると、大型のトラックですら容易に出入りできそうだ。冷たい金属の反音の中、スバルは薄暗い足元に気をつけながらシゲゾウの後に続いた。

 坂道の奥に辿り着くと、大きな扉が姿を現した。物々しい鉄の扉は何者も通さぬという風貌で、壁のように立ち塞がっている。シゲゾウはその前に立つと、先程とは別のカードを使ってみせた。扉がゆっくりと、重い音を立てて開いていく。同時に電灯が点き、部屋の中を明るく照らした。

 中には巨大な機械が置かれていた。この真上辺りにあるであろうアマケンタワーと同じかそれ以上の大きさだ。フレームは分厚く、一メートルほどはあるだろう。所々から伸びているケーブルは太く、持ち上げるだけで大人数人の力が要りそうだ。

 そんな特注で造られたような、見るからに高価そうな機械は無残な姿をしていた。フレームもケーブルも何かとてつもない力で引きちぎられたような断面を見せている。よく見れば、所々に焼け焦げたような跡がいくつも見られる。

 人知れずひっそりと隠されていたその様は、まるでゴミが捨てられているようだった。

 その巨大な機械を見て、天地が中に飛び込んだ。血相を変えて、いつもの温厚な彼とは思えぬ形相だ。

 

「これは……!!」

 

 シゲゾウがゆっくりと杖をつきながら入っていく。機械を見るその目は、どこか懐かしむような、哀愁を漂わすようなものだ。

 

「何かの施設が上にある限り、これが見つかることはないはず。君が独立したいと相談してくれたとき、ワシは君を利用することを考えたのじゃ。君の実力なら必ず成功するという確信があったからのう。そう、ワシは君の大吾君を思う気持ちを弄んでいたのじゃ」

 

 シゲゾウは保管されていた巨大な鉄塊の前に立ち、膝をついている天地の肩に手を置いた。

 

「スバルくん……これが、ニホン海に落下した『きずな』の一部じゃ」

 

 スバルは震える足で機械に近づいていった。父が乗っていた宇宙ステーションの一部。見たのはこれが初めてだった。

 

「ワシはあの時……これを封印することに決めたのじゃ……」

 

 シゲゾウが静かに語り始めた。

 

「ニホン海に落下したこいつはまだ生きておった。残っていたデータから、『きずな』を探す事だって可能じゃった。じゃがワシは、そうはしなかった」

「……お爺さん……」

「残っていたデータから、異星人たちの凶暴さが分かったからじゃ。『きずな』が異星人達に襲われたのは明らかじゃった。もし、こちらから『きずな』にコンタクトを取れば、地球の場所を突き止められてしまうかもしれん。そうすれば奴らは地球を襲ってくるのではないか。考えたワシはこいつを封印することにしたのじゃ」

 

 淡々と語られた内容は、部下を見殺しにしたという残酷極まりないものだった。受け入れきれない告白を前に、スバルは言葉を失ってしまっていた。

 ふと、ミソラが腕を握ってくれていることに気づいた。どうやら励まそうとしてくれているらしい。その手を握り返した。

 

「すまぬな、ワシはキミのお父さんを……恨んでくれて構わない」

 

 三年間抱えてきた罪を語り終えたシゲゾウに、スバルは一度目を閉じてから静かに答えた。

 

「……いえ、僕はあなたを許します。父さんも、きっと分かってくれるはずだから」

 

 シゲゾウは息を呑んで後ずさりした。これが父親を見殺しにした男を前にして、子供が言う台詞だろうか。だが、記憶に残っている父を思い出せば、スバルには当然の答えだった。

 

「じゃ、じゃが……ワシは君のお父さんを……」

 

 手を震わし、恨んでくれと訴えるシゲゾウにスバルはゆっくりと首を横に振った。

 カランと音が鳴る。シゲゾウが杖を落としたのだ。顔を覆った両手から嗚咽が漏れ出していく。

 

「……お、お体に触りますよ。……上で休みましょう」

 

 宇田海はシゲゾウの杖を拾って渡すと、背中に手を置いてあげた。危ない足取りで歩き出す老人を支えながら、宇田海は天地たちに一礼してその場を後にした。このままアマケンでシゲゾウを休ませるのだろう。

 シゲゾウの話は終わった。だが、まだ一番大事なことが残っている。

 

「お願いします、天地さんコレを使って、『きずな』を探してください!」

「私たちには天地さんしか頼れないんです。お願いします!!」

 

 スバルとミソラの懇願。可愛い子供二人のお願いを受ければ、お人好しの天地は断れない。だが、それは普通のお願いならばの話だ。天地は返事をしなかった。無言で立ち上がり、巨大な機械の中央に設けられた階段を昇っていった。

 スバルとミソラは顔を見合わせると、慌てて天地の後を追いかける。階段を上りきると、そこには幾つものモニターが並んでいた。下には様々な色をしたボタンや計器。どうやらここは何かの制御室だったらしい。

 中央に設けられている、見るからに一番大事そうな操作装置の前に天地がいた。手元のモニターに光が灯っていることから、この巨大な機械の様子を調べてくれているらしい。

 天地は背後の気配に気づいているようで、二人が足を止めるとモニターを覗き込んだままの姿勢で呟いた。

 

「……うん、システムは生きているようだね。こいつを修理して、アマケンタワーに接続すれば『きずな』と交信できそうだ」

「それじゃあ!」

「けど、断らせてもらうよ」

 

 期待に心躍らせるスバルに向けられた天地の回答は、きっぱりとした拒絶の言葉だった。

 

「そ、そんな……」

 

 ようやく星王のもとに行く手段が見つかったのだ。可能性が目の前に転がっているのに、納得できるわけがない。

 抗議しようとして、スバルは言葉をつまらせた。天地の肩が震えていることに気づいたからだ。

 

「キミに何かあったら……僕はどんな顔でキミのお母さんと会えば良いんだ? それに……僕は送り出したんだよ! 君のお父さんを! この手で!! 大吾先輩を見つけるために作ったアマケンタワーで、今度はキミを宇宙に送り出せって言うのかい? 危険だと分かっているのに……僕は……僕は……」

 

 自分の中の何かが切れたように、天地は子供相手に一方的にまくし立てた。機械に手を突いて、倒れそうになる体を支えている。丸めた背中は泣いているかのよう。今までに見たことのない天地の姿だった。

 誰も天地を責めることなんてできやしない。誰が好き好んで幼い子供を戦地に送り出すというのか。それもたった一人で、はるか宇宙の彼方にある敵の本拠地に行くのだ。そんな前代未聞の無謀極まりない突入作戦を担うのが、大吾の一人息子であるスバルなのだ。天地の大吾を慕う気持ちと、底のない優しさを知っていれば、抗議などできるわけがない。

 ミソラは天地の気持ちを理解したのだろう。何も言えなくなり、口を閉ざしてしまった。

 誰も一言もしゃべらなかった。沈黙の時間が流れる。モニターから鳴る小さい稼動音まで聞き取れそうな静けさだった。

 そこに声をあげたのは他でもない、スバルだった。

 

「どんなに小さくてもそこに希望があるなら命を懸ける価値はある」

 

 その言葉に天地はハッと顔を上げた。

 

「父さんの言葉だよ……」

 

 天地がゆっくりとスバルに振り返る。その目元で滲んだ涙が僅かに光っていた。

 

「僕は失うことに怯えていた以前の僕じゃない。失わないために戦うんだ」

 

 今度は天地が言葉を失う番だった。呆けたような顔でスバルを見つめている。スバルの真っすぐな目に耐えられなくなったのか、目を閉じて再び背中を向けてしまった。先程と同じように、操作装置に手を置いて俯いている。

 数秒後に天地は体を起こした。トランサーを開いて、誰かを呼び出した。

 

「……宇田海くん、今大丈……ああ、シゲゾウさんも休んでいるんだね。ありがとう。それよりも頼まれてほしいんだ。アマケン全体に放送を流してくれ。至急、アマケンタワーの前に集合するように……と。今日は全スタッフに残業を頼むつもりだ……え? ああ、そうだ。頼むよ」

 

 そう言って、天地はトランサーを閉じた。

 

「天地さん……それじゃあ!?」

「……一晩時間をくれるかい? 明日にはコレを直してみせる」

「ほ、本当に!?」

「NAXAにも劣らない、アマケンスタッフを総動員して取り組むんだ。約束するよ。だから、キミも一つ約束して欲しい」

「約束……?」

 

 頷いた天地は腰を屈めて、スバルの両肩に手を置いた。そこでスバルが見たのは、一人の男の顔をした天地だった。

 

「……生きて帰って来い! 必ずだ!!」

「……うん!」

 

 簡単なやり取りだが、とても重要なものだった。スバルにとっても、そして天地にとっても。スバルの力強い返事を聞き、天地はこの地下に来て初めて笑みを浮かべた。

 

「さあ、今日は二人とも帰って休みなさい」

「うん!」

「はい!」

 

 天地の協力が得られたのだ。もう二人がここでできることはない。せいぜい、天地との約束どおり、明日に備えて体を休めることぐらいだ。スバルとミソラは頭を下げると、早々にその場を後にした。

 スバルを見送った後も、天地はしばらくの間、出入り口を見つめたまま動こうとはしなかった。

 

「そっくりだったな……これで良かったんですよね、大吾先輩」

 

 きずなの一部に触れながら、天地は表情を緩めた。その目はどこか遠いものを見つめるようなものだった。

 

 

 秘密の地下室から出てくると、館内放送が流れ始めようとするところだった。天地が宇田海に頼んだ内容だ。もうじき、ここにアマケンスタッフ達が集まってくることだろう。

 正門へと向かっていたスバルはチラリとアマケンタワーを見上げた。明日、自分はここから旅立つのだ。

 

「スバル君」

「何、ミソラちゃん?」

「えっと……」

 

 ミソラは何かを言いたいようだが、言葉が見つからないのだろう。口ごもってしまっている。

 

「大丈夫だよ」

「え?」

「父さんのこと、僕は受け入れているんだ。お爺さんに言ったことも本当のことだよ。だから、心配しないで」

「……うん」

 

 笑ってくれるミソラを見て、スバルは疲れているのだと思った。何故か顔が自分でも気づけるほどに熱いのだ。今日一日で様々なことがあったため、疲労で発熱でもしてしまったのかもしれない。早く帰って寝たほうが良さそうだ。

 正門まであと少しというところで、スバルは足音が近づいてきていることに気づいた。見ると、ひょろりとした長身の男がふらつきながら走ってくるところだった。

 

「宇田海さん?」

「す、スバルくん、ミソラくん……ち、ちょっと時間をいただけますか?」

 

 普段からの運動不足からか、今にも倒れてしまいそうな表情の宇田海。スバルとミソラは彼の体調を心配しながらも、要求を尋ね返した。

 

「どうしたの?」

「わ、私がキグナス・ウィングだったときの記憶を思い出したのですが……ス、スバルくんはバトルカードを使っていましたよね」

「うん」

「あ、あれってトランサーのカード読み込み機能でしょうか?」

 

 記憶力の良い彼は、戦いの中でスバルが何度も行う、ウォーロックにカードを渡すという作業まで思い出したらしい。そこからトランサーの機能まで予測するとは、さすがは一流の研究者といったところだ。

 だがそんな宇田海の鋭い推測に、当の本人であるスバルは首をひねってしまった。

 

「多分……そうです」

「そういや、あんまり気にしたこと無かったな」

 

 ウォーロックがトランサーの中から、宇田海にも聞こえるように呟いた。

 

「な、なら……これが使えるかもしれません! さ、さっき、唯一調整が終わっている一台を取って来ました」

 

 スバルとウォーロックの頼りにならない曖昧な返答。宇田海にはそれで充分だったらしい。ポケットから何かを取り出した。スバルに手渡されたのは、青色をした四角い機械だった。見たことのない手のひらサイズの機械にスバルは首を傾げる。

 

「なんですか、これ?」

「こ、コレは次世代型携帯端末、『スターキャリアー』です。今、NAXAと共同開発している途中なので、試作機ですし……ブラザーや通信機能はまだ未実装なのですが……」

 

 宇田海が打って変わった生き生きとした表情で語りだした。研究のことになると、疲れるという自然現象すら吹き飛ばすらしい。

 

「コレの最大の特徴はカードのデータを内蔵できるところです。

 今までのトランサーはカードを使おうとすると、その度に『カードを読み込む』という作業が必要でした。

 しかし、このスターキャリアーはある程度の容量までなら保存することができます。つまり、頻繁に使うバトルカードも……」

「いちいち読み込まなくて良いってことか!!?」

 

 今度はウォーロックが興奮してしまった。飛び出してきたウォーロックに驚きながらも、宇田海は頷いた。

 

「は、はい! もしかしたらですが……戦闘中の作業が減って楽になるかも……」

「よっしゃああ! おい、スバル! いますぐ電波変換して試そうぜ!!」

 

 言うが早いか、もうウォーロックはスターキャリアーの中に入り込んでしまった。これは断れない。

 

「う、うん、そうだね。ごめん、ミソラちゃん。また明日……」

「うん、また明日ね」

 

 ミソラとバスで帰りたかったが、スターキャリアーの性能テストのほうが大事だ。宇田海からありがたくスターキャリアーを受け取り、スバルは二人にお別れを告げて電波変換をした。

 青い光を見送ったミソラは、同じく空に手を振っていた宇田海に話しかけた。

 

「宇田海さん、あれって……」

「ええ、ほ、本当は最重要機密事項の一つなんです……でも、今はそんなこと言っていられません。天地さんも分かってくれるはずです」

「あ~、えっと……私が言いたいのはそこじゃなくて……」

 

 ミソラの意図はそこでは無かった。ミソラは話題を自分の目的に移して、あることを頼み込んだ。

 

 

 スターキャリアーを受け取ってから数時間、スバルとウォーロックはウェーブロードでウィルス退治を行った。

 宇田海の予測は大当たりだった。ウォーロックにカードを渡さずとも、自由にバトルカードを使うことができたのだ。これで今までどうしても生まれてしまっていた攻撃前の隙を気にしなくて済む。それどころか、ロックマンの戦い方にスピードがついた。

 スイゲツザンで近くの敵を切り払ったその直後には、ウォーロックの姿が遠距離射撃に優れたファイアバズーカに変わる。そう思えばすぐにスタンナックルを繰り出す。間合いも属性も流れるように変えることが出来るようになったのだ。

 この力にウォーロックは大興奮だ。それに付き合わされるようにスバルも電波ウィルス退治に挑んだ。ウィルス達を蹴散らしながら、新しい戦闘方法を体に馴染ませる。だが、流石に体力を消耗しすぎた。

 

「ハァハァ……そろそろ終わりにしない?」

「……そうだな」

 

 ウォーロックもカードデータを呼び出すことにかなりの体力を消耗したらしい。ちょっと息切れしていた。

 

「母さん……帰ってきてるかな?」

「大丈夫なんじゃねえか? 三賢者も無事だって言ってたろ。そんなに心配なら、早く帰ろうぜ」

「……うん」

 

 すぐに踵を返そうとして、スバルはあることを思いついた。

 

「ウォーロック……ちょっとだけ寄りたい所があるんだけど……」

「あ? いいぜ。どこに行くんだ?」

 

 スバルは高速で移動できる便利な体を使って、ある場所へと向かった。そこでの用事はすぐに済んだ。家に帰ると、少々疲れた顔をしていたが、あかねが温かい夕食と共に出迎えてくれた。

 

 

 地球に迫る危機、異星人の攻撃、敵の最終兵器。嫌な言葉しか出てこなかったスバル達は最後に光を見つけることができた。大切な友人達、頼りになる大人達、新しい武器。小さいが確かに希望は集まって、少しずつ大きな光へ成長しつつある。だがその間にも闇は巨大化していくのだ。ちっぽけな光など笑って飲み込むかのように。

 宇宙とはそれに良く似ているのかもしれない。

 星の輝きは壮絶だ。放った光は何億光年という途方もない距離を進み、その先にいる者を明るく照らす。これだけの光を生むのに、どれだけの力がいるというのだろう。

 そんな想像することすら難しい巨大な光の塊も、宇宙という暗黒の前では霞んでしまう。その様は、ちっぽけな存在が消されないようにと必死に足掻いているかのよう。

 そんな無数の星々の一つに向かって手を伸ばしてみる。むろん、届くわけがない。何も掴んでいない手のひらをじっと見つめると、静かに握り締めた。

 気配を感じ、ゆっくりと椅子へと戻る。立っていても良いのだが、座って迎えてやるのが彼の立場だからだ。

 入ってきた四体の電波体が、はるか下の階段で跪いた。

 

「我等が偉大なる星王様。ただ今馳せ存じましタ」

「うむ」

 

 リブラが代表して硬い言葉で報告する。それに対し、労いの言葉をかけることはない。

 

「わが優秀なる部下たちよ、よく聞け。先程アンドロメダが目覚めた」

 

 四人は何も言わないが、確かに彼らの周波数が跳ね上がった。自分達の勝利が決まったのだ。その喜びを抑えきれないらしい。もしくはAM星の惨劇を思い出し、ただ興奮しているだけなのかもしれない。

 

「よくぞカギを取り戻した。お前達の汚名はこれで返上とする。引き続き手柄を競い合うが良い」

「……王よ。一つご報告があります」

 

 すぐに返事が聞けると思っていた星王は、キグナスの言葉に眉を潜めた。

 

「申せ」

「ジェミニがデリートされました」

「構わぬ。あやつがいなくとも計画に支障はない」

 

 星王は玉座から立ち上がり、右手を前方にかざした。

 

「明日、地球に全面攻撃をしかける! 戦いに備えよ!!」

「ハッ!!」

 

 星王の激が飛ぶ。オックス達は今度こそ全身から戦闘欲にまみれた電磁波を立ち上らせ、最後の戦いへの意気込みを見せる。

 絶望が地球を飲み込もうとしていた。


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