流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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第百二十六話.三人目と四人目

「……え?」

「い、今更って思うかも知れねえけれどよ……」

 

 鈍い反応を見せるスバルにゴン太のほうが混乱してしまった。説明が苦手な彼は髪を掻き毟りながら必死に言葉を並べていく。人と話すのには失礼な行為だがゴン太にはそんなことを気にかける余裕などないのだ。

 

「お、俺……ずっとロックマンに憧れてたんだ。あんな……強くて、皆を守れるヒーローみたいになりたいって、本当に思っていたんだ。……だから、俺とブラザーになってくれ!!」

 

 たったこれだけの言葉を言うのに、ゴン太はどれだけの勇気を振り絞ったのだろう。ゴン太の目は今までに見たことのない真面目なものだった。

 ゴン太の思わぬ申し出に、スバルは未だに状況に追いつけないでいた。

 

「スバルくん……僕からもお願いできませんか? 僕ともブラザーを結んでください!!」

 

 二人の様子を見ていたキザマロが前に進み出て来た。

 

「キ、キザマロも!?」

「ぼ、僕は何の取り得もありません……ただ、スバル君とは色々と話が合うし……もっと親しくなりたいと……ですけど、なかなか言い出せなくて、憧れていたロックマンだと分かったら、ますます……ですけど……けど……ど、どうか僕たちとブラザーを結んでもらえませんか!?」

 

 キザマロにしては珍しく言葉がまとまっていない。おそらく、二人がかりで迫ればスバルが断れなくなると思ったのだろう。少々ずるいかもしれないが、数で攻めるのは利口な方法だ。

 不安そうな二人に、スバルは笑って左手を前に出した。

 

「……う、ううん! 喜んで!」

「ほ、ホントですか!?」

「あ、ありがとよ。スバルー!!」

 

 ゴン太が見境無く抱きついてきた。スバルの背中辺りからゴキリと嫌な音が鳴る。いつもゴン太の暴走に振り回されているキザマロになった気分だ。ゴン太は全力で喜んでくれているのだろうが、ミソラの前でされるのはちょっと迷惑だった。

 なんとか解いてもらうと、すぐに三人はブラザーを結んだ。スバルのブラザーリストに三人目と四人目の名前が登録される。ついこの間まで空欄だったリストは、気づけば賑やかなものになっていた。右下の隅にいるウォーロックに笑い返す。

 

「ところで、スバルくんとミソラちゃんは、なんで変身できるんです?」

 

 キザマロの質問にスバルとミソラは目を合わせてしまった。ウォーロックとハープのことを話してもいいものか悩みどころだ。

 

「いいぜスバル」

 

 トランサーからウォーロックの声が聞こえた。スバルにだけ聞き取れる小声ではなく、ルナ達にも聞こえる大きな声だった。驚く三人をよそに、ウォーロックは続ける。

 

「こいつらなら俺達のことを誰かに話すことはねえだろうよ。もう色々と巻き込んじまってるんだ。良い機会じゃねえか。全部説明してやれよ」

「ポロロン、珍しく同感だわ。珍しく!」

「うっせえ! 二回も言うんじゃねえ!!」

 

 ミソラのギターからは女性の声だ。ますますルナ達を動揺させてしまう。本人達がそう言っているのだ。スバルとミソラが反対する理由はない。

 

「じゃあ皆、紹介するよ。僕の相棒で、FM星人の……」

「ウォーロック様だ!!」

 

 トランサーから青い光が飛び出し、ウォーロックが実体化した。途端に、スバル達は耳を塞ぐことになってしまった。

 

「きゃあああああ!!! ななな、何よそれ!!!」

 

 ルナが悲鳴をあげたのだ。ウォーロックを指差しながらゴン太の後ろに素早く隠れてしまう。彼女にしては珍しく失礼な行動だった。本能的にウォーロックを恐いと感じてしまったらしい。

 ガタガタと怯えるルナに、ウォーロックを含めて全員が動けなくなってしまった。自己紹介のタイミングを失ったハープも、ミソラの側で実体化したまま佇んでいた。

 

 

 ウォーロックとハープの紹介をしながら、スバルは全てを話した。

 FM星人という異星人の存在。

 彼らは地球攻撃計画というものを企てており、今までの事件はその一部だったということ。

 そして、父が乗った宇宙ステーション『きずな』が地球に向かっているということと、そこにFM星の王がいるということ……最後の戦いが迫っているということも全てを話した。

 

「これからどうするつもりなの?」

 

 ゴン太の後ろから身を乗り出したルナがハープに尋ねた。ウォーロックの姿が特別に恐いだけであり、ハープは恐くないらしい。

 

「アンドロメダを止める方法は無いわ」

 

 代表して答えたハープの言葉は単純にしてスバル達を絶望させるのに十分だった。

 

「じゃあ、どうするんだよ!」

「僕たちは、このまま餌になるしかないんですか!?」

 

 ゴン太とキザマロがうろたえはじめた。無理もない。スバルどころか、FM星人のハープですらどうすれば良いのか分からないのだ。二人の疑問に答えられるものはいない。誰もが閉口してしまう。

 この暗い雰囲気を吹き飛ばすのがウォーロックだった。

 

「へっ! なら、こっちから敵の本拠地に殴りこむしかねえだろ! アンドロメダをぶっ壊すんだ!!」

 

 単純かつ無策な解決方法だった。先程のハープの言葉を聞いていなかったのかと問いたくなる。そしてそれ以前に、大きな問題があるのだ。

 

「敵の本拠地って……アナタ達、宇宙に行くっていうの!?」

 

 ルナがゴン太の後ろから横に出てきた。ウォーロックへの恐怖など忘れてしまったらしい。

 

「い、いくらロックマンでも、宇宙だなんてよ……」

「む、無謀すぎますよ!!」

 

 ルナ達の反応は当然といえるだろう。この世で最も巨大かつ、未知数の危険を孕んでいる存在。それが宇宙だ。何の恐れや不安を感じない者などいやしない。

 反対意見を言おうとする皆と違い、スバルとミソラはそれほど抵抗を感じていなかった。

 

「宇宙は何とかなるかもしれない。ロック達は宇宙人だし、僕も電波の体になれるんだから」

「私は難しいことは分からないけど、大丈夫だと思うよ」

 

 電波変換の経験がある二人はそれほど問題視していなかったのだ。スバルとミソラが宇宙に行くことについて考え出してしまったため、ルナ達は反論するのに遠慮してしまう。

 

「でも、乗り込むたって、どうやって……?」

「ケッ、俺が知るかよ。あの天地ってヤツなら何か知ってるんじゃねえのか?」

 

 細かい手段は考えていなかったらしい。苦笑いしつつもスバルもその案に賛成した。

 この地球で最も早く『きずな』の接近を把握し、宣戦布告の声明を受信したのがアマケンだ。天地の力を借りられれば、これほど頼もしいものはない。

 

「よっしゃ! 時間がねえ。電波変換して行くぜ!!」

「うん! じゃあね、皆」

「……気をつけるのよ」

 

 三人に軽く手を振り、スバルとミソラは電波変換して空へと飛び上がっていった。

 光が見えなくなったとき、ゴン太が口を開いた。

 

「本当に大丈夫なのかよ……?」

「心配ですね……」

 

 三人は空を見上げたまま、しばらくそこから動かなった。思い出したかのように、ルナがぽつりと呟く。

 

「まったく、心配ばかりさせるんじゃないわよ」

 

 

 紫の宇宙が広がる。この色は我が主の力による影響だ。推し量れぬほどの強大なゼット波がこの場を覆っているのだ。その中にいる者が辺りを窺えば、黒っぽい紫色の宇宙を目の当たりにすることになる。

 目の前にあるのは階段だ。この宇宙船のパーツを使い、即席で作り上げた、玉座へと続く権力の証。その前にジェミニは跪く。

 

「我等が偉大なる星王様。どうか、これをお納めください」

 

 そうやって前に差し出したのは紫色のガラス玉のような球体。アンドロメダのカギ……地球を破壊する兵器を起動させる鍵だ。

 

「ようやくか……」

 

 ずっしりと声がのしかかってくる。言葉を発するだけで、ビリビリと体に振動が走るのが分かる。後ろでは、ジェミニと同じようにオックス達が頭を垂れている。その中で、オヒュカスは身を震わせていた。

 なにがFM星と地球を支配するだ。少しばかり優秀だからと頭に乗っていた。自分など、この御方の前では虫けら以下だ。幸いにも、ジェミニは自分の裏切りを王には伝えていないようだ。いや、分かった上で生き返らせてくださったのかもしれない。それはつまり、自分は王にとって敵にすらなりえないということだ。改めて、この方に忠誠を尽くすことを秘かに誓った。

 ジェミニの頭上に掲げられていたカギがふわりと宙に浮く。そのまま登り階段の先に設けられた玉座へと消えていった。ここからでは玉座は見えないが、星王様はカギを手にしているはずだ。その表情が笑みなのか、怒りなのかは分からない。おそらく無表情だと想像しながら、ジェミニは次の言葉を待つ。

 

「これより、余はアンドロメダの起動準備にかかる。次の指示があるまで控えておれ」

「ハッ!」

 

 四人のFM星人は忠誠の返事をして立ち上がった。だが、一人だけ動かない者がいる。ジェミニは少し迷ってから星王に尋ねた。

 

「王よ……なぜですか……?」

「……余の采配に不満があるのか?」

 

 相変わらず、感情がこもっていない声がジェミニを包む。気圧されそうだが、ここで引きたくはなかった。

 

「わ、私を、その場に置いては下さらないのですか?」

 

 AM星を滅ぼしたときもアンドロメダを起動した。そのときは自分だけにその様子を見せてくれた。だが先ほど王の口調からすると、今回は一人でする様に聞こえる。きっと言葉のあやであり、自分の勘違いだ。「そうだな……ジェミニ、共に来い」と言ってくれるのではないか、そんな期待がわずかに生まれる。

 

「そうだ」

 

 期待は簡単に切り捨てられた。背後から四つの笑い声が聞こえてくる。だがジェミニは怒りなど感じていなかった。それ以上に、別の感情が膨れ上がっていたのだから。

 

「わ、私は……私は、アナタが幼少の頃よりお仕えしてきました……」

 

 ジェミニが犯したのはたった一度の失敗だ。たったそれだけのことで、今の地位から追い出されることを彼は受け入れられなかった。この御方を玉座に押し上げたのはジェミニなのだから。文字通り血の滲むような日々を思い出しながら、ジェミニは星王に渇望する。

 

「私は……私はアナタにお仕えすることが……」

 

 体を衝撃が襲った。ガンガンと体が角ばったものに叩きつけられる。それは階段だった。いつの間にか、階段を登ろうとしていたらしい。先ほどの衝撃は、星王様の攻撃だ。宇宙の色すら変えてしまうほど巨大な電波の、ほんの一部を収束させて自分にぶつけたのだろう。いつの間にか、白い方の仮面が粉々に砕け散っていた。

 

――なぜ……俺が……――

 

 ぐったりと倒れたままジェミニは動かない。

 オックス達の抑えようともしない笑い声が頭の中でグルグルと回る。目に映るものも、体の感覚も、溶ける様に回り始める。

 全てがグルグル回っていく。

 グルグルと……グルグルと……。


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