流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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第百二十三話.奪われた絶望

 生み出された暴風が襲ってくる。顔面に掲げた腕の隙間から、空からの来訪者を観察する。忘れもしないヤツがそこにいた。自分達が敗れた憎き相手が凛とした表情で佇んでいた。

 閃光と風圧で動けなかったオックス達はロックマンを目の前にして身を震わせた。そしてほくそ笑む。生き返る直前の記憶が彼らの戦意を燃え上がらせる。

 

「絆を守るために戦う? クク……ア、アハハハハ!!」

 

 そしてもう一つ、可笑しかった。ロックマンが宣誓した内容があまりにも稚拙で現実を見ていなかったからだ。耐え切れなかったキグナスが笑い出し、FM星人達とジャミンガー達も釣られて笑い出した。他人を見下した嘲笑の大合唱だ。

 

「フフフ、勇ましいな。だが、もうじき全てが終わるのさ」

「キフフ、もうすでにアンドロメダの鍵ハ、我等の手の中ダ」

「地球はAM星の二の舞になるのだよ」

 

 ジェミニが持っているアンドロメダのカギを見ていたオヒュカスは、一体のジャミンガーに指示を出した。ゴミが切り札に変わったのだ。使わない手はない。

 命じられたジャミンガーは、ずっと踏みつけていたハープ・ノートを持ち上げて、側頭部にガトリングガンの銃口を突きつける。

 

「おい、動くなよ! 動いたら……」

 

 ジャミンガーの言葉はそこで途切れた。ロックマンはこちらに背を向けていた。その両脇からピンク色の頭と足が見えた。自分の手元が寂しくなっていることに気づく前に、視界がぐらりと揺れた。

 倒れるジャミンガーを背後に、スバルは何事もなかったかのように歩を進める。

 

「……スバル君……やっぱり、来てくれたんだね……」

 

 腕の中のハープ・ノートが口を開いた。その声にはまるで力が感じられなかった。彼女の背中はとても細くて、力を入れることに遠慮してしまう。

 こんな華奢な体で彼女は戦ってくれていたのだ。ウォーロックを助けるために。そして、あんなことをした自分のために。

 宝石と見間違えた瞳には黒い影がかかってしまっていた。目を逸らしたかった。でもそれはダメだと自分の中の何かが制してくる。

 

「ごめん……ミソラちゃん……」

 

 自然とこの言葉が口から出ていた。折れてしまうのではないかと思いながらも、彼女を抱きかかえる腕に力が入ってしまう。

 

「君にはたくさん……たくさん謝りたいことがある。けど、ちょっとだけ待ってて……」

 

 足元のゴミを蹴り払い、整備された平たい地面を剥き出しにする。そこにハープ・ノートそっと下ろした。

 

「すぐに終わらせるから!」

 

 ハープ・ノートを背後において、ロックマンはFM星人達と向き合った。

 ジャミンガー達が一斉に尻込みを始めた。先ほどの救出劇は彼らを怯えさせるのに充分だったらしい。

 だがFM星人達は違った。ロックマンの強さを改めて認識したことで、さらに闘争欲が膨れ上がったらしい。「これでこそ自分達を負かしたロックマンだ」というところだろう。彼らの体から電波粒子が冷たく立ち上り始める。

 

「ブルル! 使いたくなかったが奥の手だ!! 星王様から貰った力を使って、お前を叩き潰……!!」

「引き上げるぞ」

 

 一人ずっと黙していたジェミニが張り詰めた空気を吹き飛ばした。流れを読まない発言に、オックス達は不機嫌な顔を見せる。

 

「何度も言わすな。任務が第一優先だ。さっさと引き上げるぞ」

 

 ジェミニの判断は最も正しいと言えるだろう。

 スバルが来て状況は大きく変わってしまった。ロックマンに電波変換されてしまった今、ジェミニ達が敗れる可能性は急激に高まってしまっている。それでも彼らの方が有利であることには変わりない。

 この優勢を捨ててでもジェミニは任務を第一優先とした。どんなことがあっても、星王様にアンドロメダのカギをお渡ししたいのだ。

 ロックマンの戦闘力を推し量った上での、冷静な判断だった。もちろんオックス達は納得がいかない。

 

「おいジェミ……」

「グズグズするな! さっさとしろっ!! ジャミンガー共、お前らは足止めだ。俺達の盾になれ!!」

 

 反論すら許さないという態度に、オックス達はシブシブ従うことにした。だが不満は消えない。ジェミニを見る目は冷たいものだった。

 FM星人達の忠実な下僕であるジャミンガー達はすぐに態度を切り替えた。ジェミニ達の前に躍り出る。

 ロックマンが迫ってきていた。

 

「アンドロメダのカギを返せ!!」

 

 ここまで来て奴らの切り札を渡すわけには行かない。カギを手に入れれば、彼らは迷わず最終兵器を起動するだろう。AM星を壊滅させたアンドロメダが地球に襲い掛かってくるのだ。想像したくもない未来を思い浮かべてしまう。

 AM三賢者が動けなくなってしまった今、この場で唯一戦えるロックマンに地球の全てが掛かっていた。

 使命感に背中を押され、ロックマンはジャミンガー達に向かって全力で地面を蹴飛ばす。

 

「おい、スバル。久々のバトルだが、なまってねえだろうな?」

「まかせて、行くよ!!」

「おう!」

 

 久々の電波変換と戦闘に体が脈を打つのを感じた。ウォーロックと共にいられるこの状況に体が熱くなる。

 だがすぐに気持ちを切り替えて余計な思考を捨てた。津波のように押し寄せてくるジャミンガーの大軍を斬り抜けて、逃亡するジェミニからカギを奪い返さなくてはならない。温存とか言っていられるような状況ではない。

 全力を出すことに決めて、素早く腕をクロスした。

 

「スターブレイク! アイスペガサス!!」

 

 ロックマンの体から水色の光が放射された。スターブレイクの光で怯んだジャミンガー達の隙を突いて、バトルカードを取り出した。

 

「バトルカード スイゲツザン!」

 

 水の剣を生成し、最初のジャミンガーに正面から飛び込んだ。相手の太い右拳が迫ってくる。右手払うように受け流し、左手の剣を切り上げた。雄叫びを悲鳴に変えて、ジャミンガーが宙を舞う。

 

「どいて!」

 

 次のジャミンガーを素早く切り伏せ、三人目のジャミンガーの攻撃をかいくぐる。今度は攻撃せずに無視して脇を駆け抜けた。一体一体を相手にすれば時間がかかってしまう。幸いにもジャミンガー達の攻撃は洗練されているとは言えず、隙だらけだ。ジャミンガー達の攻撃の中を、かすることもなく突き進んでいく。

 

「右だ!」

「っ!」

 

 気づくと、ガトリングガンの砲口がロックマンを狙っていた。十は下らない数だ。放たれる無数の弾丸を考慮すると、避けるのは難しそうだ。

 ちょうど殴りかかってきた大柄なジャミンガーの首根っこを掴み、射撃部隊目掛けて投げ飛ばした。憐れなジャミンガーが弾丸を防ぐ盾となり、射撃部隊を押しつぶしてくれた。同時に投げつけられていたパワーボムが爆発し、その周囲を一掃した。

 ジャミンガー達が巨大な爆発に気を取られ手いる間に、ロックマンは複数のバトルカードを使用した。

 

「クエイクソング! トリップソング! カウントボム!」

 

 周囲の敵の動きを止める黄色い獅子舞と、混乱させる青い獅子舞、そして強力な時限爆弾が周囲に召還される。それぞれ三つずつ、合計九個だ。

 ジャミンガー達は混乱の渦に叩き落された。三秒後に爆発が起きると宣言されているのに、同時に体の自由を奪われたのだ。焦りと恐怖で誰もが冷静に思考できずにいる。

 

「スバル!」

「分かってる!!」

 

 この瞬間を逃さず、ロックマンはウェーブロードへと飛び上がった。どさくさに紛れて空へと逃げようとしていたジェミニ達を追いかける。

 おそらくジェミニ達はジャミンガー部隊を目晦まし代わりにして、ロックマンの目を欺こうとしたのだろう。彼らにしては稚拙な作戦だった。ジェミニ達の逃亡先はFM星王のもとだ。つまり宇宙ステーション『キズナ』だ。空に逃亡することなどロックマンは最初からお見通しだ。ジャミンガー部隊を振り切ったロックマンは軽快にウェーブロードを飛び移っていく。その表情は焦りで歪められていた。

 

「ちぃ、まずいぞ……」

 

 ジェミニ達のスピードが思ったより早いのだ。今のジェミニ達は電波人間ほどの戦闘力はないが、空を自在に飛べる。最小限の動きでウェーブロードを避けて宇宙へと逃げていく。姿が徐々に小さくなっていく。何か効果的なバトルカードを使わなければ追いつくどころではない。

 

「うあ!」

 

 思案を巡らせていたスバルの右足から急に力が抜けた。遅れて激痛が足を支配し、銃声が聞こえてきていることに気づいた。ウェーブロードの下を窺うと、爆発から生き残ったジャミンガー達がガトリングガンで狙っていた。一部の者たちはロックマンと同じように慌ててウェーブロードを飛び移ってきている。目算すると、まだ二十体は残っている。

 見上げた先ではジェミニ達がどんどん小さくなっていく。

 

「スバルくん!!」

 

 絶望的な状況の中で天使のような声が聞こえた。ハープ・ノートがジャミンガー達の銃弾を潜り抜けて来ていた。音符のボードに乗って、ジェット機の如くロックマンに突っ込んでくる。

 

「これを使って! あいつらは私が食い止めるから!!」

「で、でも……いや、ありがとう!!」

 

 先程までロクに動けなかったはずのハープ・ノートが殿を買って出た。彼女のことが心配だったが今はその気持ちを押さえ込んだ。今自分にはすべきことがあるのだ。三賢者の影達が脳裏をよぎる。

 ハープ・ノートはロックマン目掛けてボードを蹴り飛ばし、ジャミンガー達に向かって飛び降りた。彼女の意志とボードを受け取り、ロックマンは高速となって空を駆け上がる。ギターの音と銃声が下方から聞こえてきた。歯を食いしばり、ロックマンはジェミニ達を見上げた。

 悠々と逃げていたジェミニ達もロックマンに気づいた。

 

「ジェミニ! 追いつかれるぞ!!」

「っ、なんだと!?」

 

 順調に撤退していたジェミニは、オヒュカスの言葉に驚いて下を窺った。スターブレイクしたロックマンが音符型のボードに乗って急速に近づいて来ていた。スピードは明らかにロックマンのほうが速い。左手のウォーロックと目が合うと、ニヤリしたと笑みを浮かべてきた。

 最初に挑発に乗ったのは意外にもキグナスだった。速度と連射力に長けた遠距離技を持つ彼は両翼をロックマンに向けた。

 

「キグナスフェザー!!」

 

 キグナスの羽弾が放たれる。刃のように磨かれた羽の群れが光を受けて白く輝いた。

 

「んなもん効くか! ロックバスター!!」

 

 ウォーロックの唸りの如くバスターが乱発される。キグナスフェザーは速度と連射力に秀でた一級品のマシンガンだ。しかし一枚一枚の威力は低い。バスターと相打ちになって消滅してしまった。キグナスのお得意技はロックマンの足止めにすらならなかったのだ。

 ウォーロックが対処してくれている間に、スバルはこの状況で効果を活かせそうなバトルカードを選んで取り出した。

 

「バトルカード レーダーミサイル!」

 

 白銀のミサイルがロックマンの周りに召還され火を噴いて飛立った。音符ボードのスピードなど鼻で笑うかのような超高速でFM星人達に襲い掛かる。

 

「スネークレギオン!」

 

 オヒュカスが蛇の雨を降らす。ミサイルを叩き落すつもりだ。

 

「ワイドウェーブ!」

 

 レーダーミサイルの軌道を確保するため、ロックマンは広範囲を攻撃できるカードを選んだ。三日月型の幅広い水の弾丸が蛇達を押しのける。だがこれは選択ミスだったかもしれない。蛇達を掃討するにはいささか威力が足りなかった。レーダーミサイルは生き残った蛇達に捕まり、全て打ち落とされてしまった。

 爆炎が灼熱の壁となってロックマンの前に立ち塞がる。だが回り道をしている余裕はない。

 スバルはウォーロックの頭の上に手を置いて、炎の巨壁を睨みつけた。

 

「ロック!」

「おう、強行突破だ!!」

 

 頷いたスバルはボードに捕まって姿勢を低くした。炎の壁は目と鼻の先だ。それでもスバルの目はその向こう側を睨みつけていた。その目に飛び込んできたのは壁の中から出てきたリブラの火炎玉だった。

 避けることはできない。打ち消す時間も無い。反射に近い一瞬の思考を挟んでロックマンはボードを乗り捨てた。ボードと火炎玉の衝突音が鳴り、足元で爆発が起きた。

 ボードが壊された今、もうロックマンが追いつくことはできないはずだ。ジェミニ達は安心していることだろう。だがロックマンは冷静に、晴れ行く爆炎の中に映るジェミニ達との距離を目測していた。

 あるバトルカードをウォーロックに渡した。この距離なら十分な効果が見込めるはずだ。

 

「ブラックホール!」

 

 全てを飲み込む黒い口がジェミニ達の真下に召還された。渦を巻き、周囲のあらゆる電波体を無差別に飲み込もうとする。それはジェミニ達も例外ではない。引力に捕まった五人は必死にもがこうとしている。

 

「や、やめろ!!」

 

 擬似的に作られた黒い渦は本物のブラックホールほどの引力は持っていない。しかしジェミニ達の動きを止めるには十分だった。宇宙へと逃げるどころか、飲み込まれないようにするのが精一杯らしい。明らかな焦りが見て取れた。

 最大のチャンスを前にして、ロックマンは一気に勝負に出た。攻撃を畳み掛ける。

 

「今だぜスバル!」

「うん! ボルティックアイ! ネバーレイン!」

 

 ブラックホールの周りに自動砲台が数個召喚された。中央の目のような砲口がジェミニ達を睨んで赤い光を灯す。それを見計らったかのように雨の弾丸が空から降り注いできた。

 上下からの挟み撃ちに加えて、ロックマンはウェーブロードから大技の準備をする。ここで確実にジェミニ達を倒すつもりだ。両手を上に挙げ、冷気の粒子が周囲に立ち上り始める。スターフォースビックバンのマジシャンズフリーズだ。

 勝利を確信してロックマンは両手に力を込めた。

 

「食らっえ!?」

 

 またも右足に痛みが襲ってきた。集中力が切れてしまい、マジシャンズフリーズが解除される。何匹もの蛇達がロックマンの足に噛み付いていた。

 

「い、いつの間に!?」

 

 良く見ると、別のウェーブロードにも蛇達が配置されていた。おそらく、リブラが火炎玉を放った直後に召還したのだろう。ボードを失ったロックマンを足止めするために、周辺のウェーブロードに蛇達を放っていたのだ。舌打ちするウォーロックに急いでタイフーンダンスのバトルカードを渡した。

 この間にジェミニ達もロックマンの攻撃に対応していた。

 

「ジェミニサンダー!」

「ゴルゴンアイ!」

 

 ボルティックアイが攻撃してくる前に、雷撃と紫のレーザーがそれらを撃ち壊した。残る三人はネバーレインにそれぞれの遠距離攻撃を放って相殺を図る。

 

「ファイアブレス!」

「キグナスフェザー!」

「アクアウェイト!」

 

 火炎放射、羽の刃、水の塊が雨の弾丸とぶつかり合う。細かい雨を全て防ぐことはできなかったものの、威力を大きく削ぐことはできたようだった。ジェミニ達に到達した雨はごく僅かで、被害を最小限に減らすことに成功していた。焦ってはいたものの冷静な対処ができるあたり、FM星人の精鋭に選ばれた力量が窺えるというものだった。

 そうしているうちにブラックホールの効果時間が切れてしまった。

 

「今だ!」

 

 途端にジェミニ達の逃亡劇が再開される。少しでも早くロックマンから離れたいのだろう。足止めの攻撃を放つどころか、脇目も振らずに空へと駆け昇って行く。その動きは俊敏で、攻撃を受ける前と比べても大きな違いは見られない。最大の好機は多少のダメージを与えただけで終わってしまったのだ。

 

「待てっ!!」

 

 蛇達吹き飛ばしたロックマンは慌てて追撃を開始する。だがもう音符ボードは無い。ウェーブロードを飛び移る方法では追いつけない。それでも短距離ではあるが高速移動する手段が残っている。

 

「バトルカード ジェットアタック!!」

 

 ウォーロックの姿が鳥の頭のような形に変わり、バーナーが全開にされる。強大な推進力が生み出され、ロックマンの体を空へと打ち上げる。左手の鋭い先端が空気を切り裂いて、あっという間に最高速度へと達する。自身を弾丸にした特攻攻撃だ。少し離された距離をあっという間に取り返し、ジェミニ達を間近に捕らえる。

 

「しつこいんだよ! ファイアブレス!!」

 

 オックスの特大の火炎放射が襲い掛かってくる。火炎放射がジェットアタックの先端に触れると、空気ごと切り裂かれて大きく広がった。端から見ればロックマンが巨大な炎の傘を抱えているように見える。

 熱気で目を閉じそうになってしまいながらも、ロックマンは次のカードを取り出した。この炎の柱を切り抜ければそこはFM星人達のど真ん中だ。このライメイザンを振るえばジェミニ達を一掃できる。カードを持つ右手に自然と力がこもる。

 そして炎の壁が消えた。スバルはウォーロックに素早くカードを渡そうとして、目を見開いた。ジェミニ達の姿はどこにも無かった。

 

「……え……? っうわああっ!!!」

 

 ほんの僅かな硬直が命取りだった。背後から雷に撃ち抜かれてしまった。痺れが全身に走り、身動きが取れなくなる。近くのウェーブロードに降りることすら叶わず、空へと放り出されたロックマンは真っ逆さまに落ちていく。

 そのときジェミニ達の姿が目に入った。彼らがいる位置を見て、ようやく気づいた。

 ジェミニ達はロックマンの進行方向から退避していたのだ。一直線にしか動けないジェットアタックの弱点を見抜かれていたらしい。回避さえしてしまえば、後は隙だらけとなったロックマンをジェミニの雷で打ち落とすだけだ。

 ロックマンを追い払ったジェミニ達は振り返ることも無く青い空へと飛び立っていく。

 ロックマンはそれをただ見つめることしかできなかった。追いかけようとは思わなかった。どう考えても、もう追いつくことはできないのだから。悔しそうに目を細めた。

 

「ロック……」

「言うなスバル。お前は良くやった」

「……ありがとう」

「……こっちの台詞だ」

「ハハハ、どういたしまして」

 

 痺れが取れてきた体をよじって下を見てみれば、地上が近づいてきていた。足止めに残ってくれていたハープ・ノートの姿が見える。ちょうどデンジハボールを壊すところだった。

 周りには大勢の人間達が倒れている。どうやら満足に動けない体でジャミンガー達を全て倒してくれたらしい。あの細い背中の感触を思い出す。彼女にこそ、よくやってくれたと言うべきだろう。

 デンジハボールを壊すと、とうとう彼女にも限界が来たらしい。前のめりに倒れてしまった。

 ロックマンはスターブレイクを解いて、ハープ・ノートの元へと向かった。

 

 

 ロックマンから無事に逃亡したジェミニ達は雲を抜け、大気圏を抜け出そうとしていた。ジェミニは下を窺った。ついてくるのはオックス達だけだった。ロックマンどころか、ウォーロックやハープの姿も見られない。

 

「追いかけてくるかと思ったが、心配は要らないようだな」

 

 ウォーロックとハープだけなら、自分たちと同じく空を飛べる。だが奴らにそうするつもりもないようだった。逃げ切れたことを確認して、ようやくジェミニは緊張を解いた。オックス達に指示を出す。

 

「このまま星王様の元へ行くぞ。遅れるな」

 

 屑共に簡単な命令を下して、再び上を向く。突然頭が捕まれ、後ろに引っ張られた。それだけじゃない。握りつぶされるのではないかと思うような握力がジェミニを襲う。

 

「な、何しやが……!!」

「ブルル! 偉そうに命令するんじゃねえぞ、ジェミニ」

 

 思った通りこの馬鹿力の主はオックスだった。単細胞の汚い手が宰相様の頭を掴んでいる。無礼極まりない行為だ。

 

「え、偉そうだと!? 俺は星王様の右腕だぞ!!」

「いや、もう違うゾ」

「なっ、なんだと!?」

 

 横から出てきたリブラがあっさりと否定して見せた。キグナスとオヒュカスも馬鹿にしたような口調で賛同する。

 

「君は任務に失敗したんだ。今は僕達と同じ、星王様に汚名を返上する身さ」

「キサマがデカイ顔をしていられたのは、もはや昔の話だ。身の程をわきまえることだな」

 

 ギリギリと加えられる痛みをプライドで堪えながら、ジェミニはオヒュカスを睨みつけた。裏切り者にだけは言われたくない。そんな台詞の代わりに苦痛の声が漏れだす。オックスが更に力を加えたのだ。全身がこのまま潰されてしまいそうだ。

 

「そういうコトだ。偉そうにするんじゃねえ!!」

 

 怒りが全身を走り、身を震わせてくる。膨れ上がった殺意が破裂しそうだ。それを何とか押さえ込む。

 その気になれば、こいつらをこの場で始末することぐらいできる。しかし無傷とはいかないだろう。もし、仲間殺しが星王様にばれれば、今度こそ自分の命は無い。任務失敗に仲間殺し。あの方はそんな者を許すような愚王ではない。それをジェミニは誰よりもよく知っている。

 ジェミニがとれる行動は沈黙だけだった。それを肯定と受け止めたオックスは上機嫌でジェミニを放り投げた。四人の人を食ったような笑い声が上がる。

 

「なぜ……俺が……」

 

 ジェミニの悔しさに満ちた低い声は誰にも聞こえなかった




ジェミニのやり取りが原作ゲームと違っている部分が多いです。
私なりの脚色です。ご了承ください。

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