流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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アレオリ二周年!!
おめでとう!!



……と言ってくださいm(_ _)m


第百二十二話.流星のロックマン

「ウォーロック君っ!!」

 

 ミソラの悲痛の叫びはジャミンガー達の下品な笑い声に混じって薄められた。オヒュカスに取り押さえられたウォーロックの腹に、オックスの太い拳が突き刺さる。もう意識がほとんどないのだろう。支えるのに飽きたオヒュカスが手を離すと、受身を取ることもなく地面に横たわった。

 

「これで終わリと思うなヨ」

「この程度で僕らの怒りが収まると思ったら大違いだよ」

 

 調子に乗って「ブルル!」と喚いているオックスの横から、リブラとキグナスが近寄ってくる。

 まだ友達が傷つけられるのだと思うと、ミソラの目からまた一つ涙が零れ落ちた。できればウォーロックのそばに駆け寄って、FM星人達を追い払ってやりたい。しかし、今のハープ・ノートには自分を踏みつけているジャミンガーを払いのける力すら残っていなかった。

 彼女にできることがあるとするなら、せいぜいハープと共に叫ぶことぐらいだ。

 

「ウォーロック! しっかりしなさいよ、ウォーロック!!」

「やめて! お願いだから!!」

「そうだな、そろそろ終わりにしよう」

 

 面食らい、ミソラとハープは言葉を失った。こんな言葉が返ってくるとは思っていなかった。それを言った本人がジェミニなのだからなお更だ。

 だが現実は残酷だ。ジェミニが優しさの一欠けらでも持ち合わせているわけがないのだ。

 ジェミニは体から雷を放出すると、ウォーロックの頭上で集め始めた。雷の雲が形成され、少しずつ膨らんでいく。ギロチンの代わりだと察し、ミソラとハープは全身から血の気が引いていくのを感じた。

 

「おいジェミニ! もう少し我々に楽しませろ!!」

「ブルル! てめえもコイツに恨みがあんだろ!!」

 

 ジェミニの身勝手な決定にオヒュカスとオックスが反論し、キグナスとリブラも続こうとする。しかし星王の右腕が彼らの意見に耳を貸すことはなかった。

 

「うるさい。俺は早く星王様に、この『アンドロメダのカギ』をお渡ししたいんだ。てめえらの自己満足に付き合うのはここまでだ。とっととそこをのけ!!」

 

 ジェミニにとって第一優先すべきは星王への忠誠を示すことのようだ。それを果たせるのならば、ウォーロックへの恨みなどもうどうでも良いのだろう。アンドロメダのカギを手に入れた今、彼は早く任務を終わらせたいらしい。

 もっとこの時間を楽しみたかったオックス達だが、仕方なく引き下がった。任務を引き合いに出されれば文句は言えないのだろう。ウォーロックを捨ててジェミニの後ろに下がる。しかし、彼らの表情からは隠し切れない不満が見て取れた。その視線を背中に感じているはずのジェミニは気にすることもなく雷を大きくしていく。特大の落雷で裏切り者を消し飛ばすつもりらしい。

 刻一刻とウォーロックに死が迫る。この状況を打破しようとウォーロックは以前衰えぬ瞳を赤くぎらつかせながら、立ち上がろうとする。だがそれだけだ。徹底して痛めつけられた体は言うことを聞かず、腕どころか指一本動かすことも出来なかった。口うるさいはずだったハープの悲痛な叫び声すらよく聞き取れない。ついに終わりが来たのだとどこかで受け入れていた。

 頭上を見上げてみると、雷の塊が数個浮かんでいた。視点が定まらずぼやけているのだとすぐに気づく。もうじきあれが太い落雷となって自分を消滅させるのだ。

 死を前にしたウォーロックが思うのは、FM星王への憎しみでもなければ、復讐を果たせなかった悔しさでもなかった。

 なぜかあいつのことを思い出していた。大吾が笑っている。白い歯を見せて、子供のように笑いかけてくる。アイツの笑顔は苦手だった。どこか毒気を抜かれてしまうからだ。いつの間にかアイツと笑う時間が一番好きになっていた。

 だから面倒だと感じていても、あんな約束をしてしまったのかもしれない。だが、結局それも果たせそうにない。最後に見たスバルの顔が脳裏をよぎった。

 落雷の準備が整ったらしい。ジェミニが放出していた雷が途切れ、ウォーロックの頭上での動きも止まった。ジェミニの処刑執行の命が下りるのを待ち構えるように、雷の塊は今か今かと激しい音を鳴らしている。その隣では赤い星が煌いていた。いよいよ頭がおかしくなってきたらしい。真昼間から星が見えるだけでなく、声まで聞こえてくる。霞がかかったかのような頭の中で、自分の名を呼ぶ声がする。あいつの声が聞こえてくる。

 そこでウォーロックは気づいた。目の焦点が赤い星に集中する。よくよく見てみれば、それは徐々に大きくなってきていた。そして声はそこから聞こえていた。

 もう二度と聞くことは無いと覚悟していた、あいつの声が聞こえてくる。

 友の息子が……己の相棒がそこにいた。

 

「ロックーーーッ!!!」

「スバルッ!!?」

 

 見間違いようがなかった。スバルが空から降ってきていた。

 ジェミニ達も気づいて頭上を仰いだ。生身の人間が電波化して空を飛んでいるのだ。さすがの彼らも度肝を抜かれた。だが、突然の来訪者がウォーロックの相棒となれば自然と警戒心も高まる。全員がスバルを注視していた。

 甲高いギター音が鳴った。直後に雷の塊が爆発する。溜められていた強力なエネルギーが四散し、ジェミニ達に襲い掛かった。ウォーロックのすぐ側を雷が走っていく。

 そんな爆発の中でウォーロックははっきりと耳にした。「行って!」と叫ぶハープ・ノートの掠れた声だ。弾かれるように、ウォーロックは飛び出した。

 ウォーロックはスバルに向かって空を駆け上がる。動かなかったはずの体が嘘のように軽かった。ジェミニの怒声が上がり、ジャミンガー達の銃声音が一斉に襲い掛かってくる。熱気を帯びた弾丸がすぐそばを通り過ぎていく。それでも、ウォーロックはスバルだけを見ていた。

 赤い筋を帯びながら、スバルはまっすぐにウォーロックに向かって下りてくる。微かだがスバルの表情が読み取れた。

 二人の視線が交差する。ウォーロックを見据えたスバルの目に怯えはなかった。ウォーロックは軽く笑ってみせる。「本当にお前か? 昨日とは大違いだぜ?」と目でからかってやる。コクリと頷いてスバルは左手を差し出した。

 それが意味することは一つだ。

 ウォーロックも手を伸ばした。

 

 二人の手が重なった。

 

 

 

 

「電波変換 星河スバル オン・エア!!」

 

 

 

 

 光が溢れた。

 生まれた光は一瞬で全ての色を吹き飛ばし、空を白く塗りつぶした。誰もが手を止めてその輝きに目を奪われていた。

 光の中央で、触れ合っていた赤と青の電波体は幾千もの粒子となって弾け飛んだ。

二つ存在が混ざり合い、一つとなっていく。

 

 

――ロック……僕、やっと分かったんだ――

 

――……何がだ?――

 

――僕はずっと逃げていただけだったんだ。失うのが恐くて、ただ怯えていただけだったんだ。……けど、それじゃダメなんだよね。それじゃあ、何もできない。何も守れないんだ――

 

――……ヘッ、やっと分かったのか。それで、どうするつもりなんだ?――

 

――僕は、もう何も失いたくない。僕の大切な人たちが傷つくのを、これ以上見たくない。だから……――

 

 

 白い光が唐突にかき消される。その中から飛び出したのは一筋の青い光。

 再びジャミンガーにねじ伏せられていたハープ・ノートも、力強い存在に引かれて空を見上げた。青い光の主の姿を、翡翠色の目に宿す。青い装甲を身に纏い、赤いバイザーの下で茶水晶の瞳を鋭く尖らせる。全身から溢れ出る勇気の光を帯びて、雄々しく駆ける様はまさに流星の如く。

 

「流星の……ロックマン」

 

 青い光が戦場に舞い降りる。

 

「だから……僕は……」

 

 全身を包んでいた光が徐々に収束していく。姿を現したのは、大切な友を左手に宿した一人の少年。

 偉大な父の意志を受け継ぎ、人を愛する強さを知った流星の戦士。

 全てを背負い、少年はヒーローとなった。

 

「戦うよ! 絆を守るために!!」




ロックマン完全復活!!

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