流星のロックマン Arrange The Original 作:悲傷
戦いを終えたスバルにはまだもう一仕事残っていた。機関車を元に戻すということだ。階段の途中にこんな大きな物を置かれたら邪魔だ。なにより危ない。誰かに任せるわけにもいかず、結局スバル達が元に戻すしかなかった。
もう仕事帰りのサラリーマンの姿すら見かけない。そんな寂しい道を、スバルは疲れた足取りで歩いて行く。
「ほっといても良かったんじゃないのか?」
「ダメだよ。これで誰かが怪我とかしたら、僕たちのせいだよ」
仕事をやり遂げた彼の顔は少々満足そうだった。
「それにしても、お前って意外と格闘センスがあるじゃねぇか。気に入ったぜ。しばらくは、お前のところで世話になることにするぜ!」
ウォーロックの爆弾発言で、その表情は一気に失われる。
「ち、ちょっと待って! 嫌だよ! それって、またあんな目にあうってことでしょう!?」
今日の委員長と言い、この宇宙人と言い、自分勝手が多い。いや、自分がそうやって押されてしまう性格なのかもしれない。
「あ、そう? それじゃ、親父さんのことは知りたくないんだな?」
「そ、それとこれとは話が違うだろ?」
「じゃあな」
「ま、待って!」
これはウォーロックの作戦勝ちだ。ずるいと言えばずるいが、賢いとも言えるだろう。
「……分かったよ、もう……」
「よし、世話になるぜ!」
勝ち誇った笑みを浮かべ、ウォーロックはピュンとトランサーの中に入って行った。
「俺は普段からこうやって、ここに居候させてもらうぜ。まあ、どっちにしろ、地球人には見えないんだがな」
居候と言う自覚はあるらしい。返事の代わりにため息を返し、家路を急いだ。
□
遅すぎる帰宅について、軽く母にしかられた後、お風呂と遅い夕食も済ませたスバルは、自分の部屋に戻った。疲れてはいたが、まだあの戦闘の興奮が残っている。寝付けない。満足に見れなかった今日の星空を、自分の天体望遠鏡で覗いていた。展望台の時とはちょっと気候が変わったらしい。少し雲がかかり、見れない部分ができていた。でも、彼にとっては充分だった。
「ねぇ、起きてる?」
「ああ」
レンズから目を離し、そばに置いていたビジライザーをかけた。見えるようになった居候宇宙人が側にいた。いつの間にか、トランサーから出てきていたらしい。
「寝ないのか?」
「うん……寝付けないんだ」
「早く寝た方が良いんじゃないか? そこは宇宙人も地球人も変わらないはずだぜ」
「うん。そうだね」
少しのばかりの沈黙が流れる。それをスバルが断ち切った。
「ねぇ、教えてよ。父さんのこと」
「そのうちな。ふぁ~あ、俺は寝るぜ? 疲れてるんだ」
スバルには話していないが、あの場所から地球に来るまでの間、ウォーロックは一睡もしていない。それどころか、小休止すらしていない。それに加えて、地球人との電波変換に、電波ウィルスとの戦闘だ。疲労が溜まっていないわけが無い。
スバルの文句の言葉も無視して、再びトランサーに戻ってしまう。こうなるとスバルにはどうしようもない。がっくりと肩を落とす。そして、改めて胸に誓う。いつか、父の話を聞くと。
「ふぁ、ああああ!」
急に睡魔が襲ってきた。先ほどのウォーロックの言葉を思い出し、逆らうことをやめて、ベッドへと潜り込んだ。すぐに、スースーと寝息が上がる。
その様子をトランサーからウォーロックはうかがっていた。再び中から出てきた彼は、スバルの寝顔を覗きこんだ。
似ている
素直な感想だった。あいつと違って、臆病で消極的だが、顔も、周波数も、堅い髪質もよく似ている。
言えない
あのことは、今は絶対に言えない。この少年にあれを話せば……彼は持ちこたえられない。それは、あいつとの約束を破ることになる。まあ、約束と言っても、一方的に押しつけられたような物だ。だから、あまり守る気はない。それに、自分にはやるべきことがある。
だが……彼の願いの言葉が脳裏を過ぎる。
「……悪いな……」
夜が生み出す影に隠され、感情は読みとれない。誰に、何に謝っているのか。それは彼にしか分からない。ただ、謝罪の一言を述べて、自身もトランサーで眠りに着いた。
静かな夜だった。耳を澄ませば、川のせせらぎや木々のざわめきが聴き取れそうなほどだ。
この夜が嵐の前の静けさだと言うことは誰も知らない。とある宇宙人を除いて、誰も知らない。
だが、そんな彼すら知らない。
この二人の出会いが
この星のたどる運命を
そして、互いの運命を大きく変えていくということを
序章.出会い(完)