流星のロックマン Arrange The Original 作:悲傷
しかし、原作のキャラの基盤とストーリーの大筋は極力変えない方針です。
それでも宜しければ、この作品にお付き合いください。
ではどうぞ、ご覧下さい。
2013/5/3 改稿
第零話.旅立ち
整備された道路を走る車の音がする。そのすぐ近くで驚いた小鳥達が羽ばたく。
都会とまでは言えないが、ちょっと大きい街だ。緑も多く、魚が泳いでいる川も流れている。すぐ近くの公園では子供達の遊ぶ声が毎日のように聞こえてくる。
この町が好きだ。なにより、ここには自分の家族がいる。
「スバル、元気にしてるんだぞ?」
まだ10歳に満たない我が子を抱き抱える。いつの間にこんなに重くなったのか。鍛えた自分の体なら持ち上げられないことは無い。しかし、予想以上の重量に唸ってしまった。
それにしても、この子の髪癖の悪さはどうにかならないものか。自分以上に堅い髪質がちょっとかわいそうに見えてくる。
「ねぇ……やっぱり、止められないの?」
自分と対照の表情をする妻に目を向ける。彼女が抱えているのと同じ物。それが己にそれが無いわけではない。少なからず存在している。けれど、それを見せるわけには行かない。今ここで見せたら、この人は立ち上がれなくなるかもしれない。そこまで弱い女を選んだつもりはない。しかし、彼女の心を支えているのは自分だ。だから、胸に渦巻く黒い靄を無理やり踏みつぶした。
息子を降ろして、その目をまっすぐに見つめ返した。
「どうしても行かなきゃならないんだ」
それだけで、妻は自分の気持ちを理解してくれたしい。潤んだ目を伏せて、コクリと頷いてくれた。
「ママ、どこか痛いの?」
「……フフ、大丈夫よ、スバル」
心配そうに見上げてくる息子の頭を、優しくなでる妻の姿。
どこの家庭でも見られる普通の光景。でも、これが自分が最も大切にしているもの。守り切きりたい、いや、守りきらなければならない物。だからこそ、心に決める。
「あかね」
妻の名を呼ぶ。息子から手を離すと、二人揃って振り向いた。
「絶対に、帰ってくる」
妻は自分の目をはっきりと見て頷いた。頷き返して、その隣に目を移す。
「父さんがいない間、母さんを頼んだぞ! スバル!!」
「うん、任せて! お母さんは僕が守るから!」
多分、自分の真剣さは伝わっていない。無邪気な笑みを返してくる。でも、これで良い。この子はまだ背負わなくて良い。その小さすぎる背中には重すぎる。でも、いつかは……誰かを……
母親だけじゃない
友達も
いずれはできるであろう”ブラザー”も
いつか出会う、大切と思える女の子も
全てを守ると言える男に……
できれば、地球を背負えるほどの男に……
「最後は大げさかな?」と顔の下で笑った。
最後にもう一度二人の顔を見る。妻は今にも泣きだしそうだが、気丈にふるまう。もう片方は、純真な笑顔で送り出そうとしてくれていた。
「行ってくる!」
それを忘れない。改めて誓いを立て、玄関のドアを開けた。自分達3人の集合写真を片手に……
父親がドアを開けると、まぶしすぎる光が差し込む。真っ白だ。いや、そこに何かはある。けど、見えない。なぜなら、まぶしすぎるから。
光を放っているのは外にあるお日様ではない。目の前にいる。その大きな背中は憧れだ。大好きで、尊敬している父親の物だ。
今の彼に尊敬と言う言葉は分からないだろう。それを知るのはもう少し先だ。けど、その感情はもう宿っていた。自分にとって、一番のヒーロー。そのたくましい背中を見送った。
いつもどおりに、毎朝繰り返していたそれが、今日は特別なのは知っている。けれど、何も不安は無い。なぜなら、彼の父はヒーローなのだから。憧れのヒーローが負ける道理などない。
そう彼は信じていた。だから、いつもと同じだ。いつもと同じく父を見送った。
それがこの家の、いつもの光景だった。
*****
その年は、人類にとって歓喜に満ちた年であり、哀惜にさらされた年だった。世界最高の技術を持つ、NAXAが世界に世紀の発表を行ったからだ。
地球外生命体の存在を確認した
人類が宇宙に足を運べるようになって、200年。夢、幻とされていた物が現実になったのだ。そして、星河博士が発明した、”ブラザーバンドシステム”をその惑星に向かって送信し、コンタクトを取る計画が立ち上がった。
『きずなプロジェクト』
人類の夢を託された宇宙ステーション『きずな』は地球の軌道外に飛び出し、長い未知なる冒険へと旅立った。
しかし、その数ヶ月後だった。人類の夢は簡単に砕かれた。『きずな』が消息を絶ったからだ。事故原因は不明だった。
NAXAは総力を挙げ『きずな』の捜索を行った。そして、捜索開始からさらに数カ月がたったとき、世界中の人々の夢を乗せた『きずな』の一部がニホン海に落下。これを機に、NAXAは捜索を断念。キズナプロジェクトの永久凍結と、乗組員全員の殉職を発表した。
その中に、星河大吾の名前が記されていたのを、少年は昨日のように覚えている。
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