自分の前世が漫画になってました   作:村人ABC

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Fate/GrandOrder新情報出ましたねー!
今から楽しみで仕方がないですw


四巻

乱れた呼吸のままに私は自分へと襲いかかってきた槍を刀で受け止めた。なんて、重い、一撃か。無駄なく、いっそ美しさすら感じさせる程に鍛えられた全身から放たれた一撃に息が詰まり、筋肉という筋肉がその衝撃に悲鳴を上げる。刀越しに嫌でも伝わる男の純粋な闘気はいまや彼が私に目をつけた時とは比ぶべくもなく高まっており、先程よりも強く刀を握りしめそれに耐える。そうして押し返し距離を取れば「こりゃ少しなら楽しめそうだな」と興奮を押し殺そうともしない声が男の唇から吐き出された。

 

ーーー非常に、まずい状況である。

 

そもそも私の最も得意とする得物は刀ではなく薙刀である。勿論奪われない為ならなんでもやった為に弓や短剣等他の武器も使えるようにしてはいたが、それでも薙刀を最も好んで使用していた為にどうしても薙刀を使う時より劣ってしまう。自分が極めるよりも極めた者を仲間にした方がよっぽど手っ取り早い、とその偏りを直す努力を怠った過去を今更になって、しかも転生した先で恨むことになろうとは。いやはや人生っていうものは本当何が起きるか分からないものである。

次にこの場に衛宮がまだいる、ということだ。実は言うと男の一撃を防いだ時点で彼にはそのまま逃げて欲しかった。欲を言えば蹴飛ばした時点で逃げて欲しかった。確かに今夜・・・正確には校内で戦場の空気に触れた時から魂の記憶に引きずられるように、霊山奥の泉より千年に一度湧き出る霊水によって身体能力が強化された前世の身体へと現世の身体が変化しつつはある。だからこそ男の槍を防ぐことが出来たのだが、それでもまだ飛仙すらも超えた当時の自分に至るにはまだ程遠い。正直、衛宮が逃げ自分が思いっきり戦えるようになったとしても今のままでは青き死神からは逃げきれないかもしれない。けれど、その僅かな希望に今は賭けるしかないのが現状だった。

 

「ーーー妬けるな。あの坊主がそんなに気になるか?」

 

此方の様子を伺い爛々と暗闇の中でも美しく煌めいていた瞳がその言葉と共に僅かに細められた。何を言い出すのかと警戒に眉をひそめる私とは対称に、なんとも意地の悪そうな顔を浮かべる男。薄く整った唇が弧を描いた。

 

「嬢ちゃんが集中出来ねーなら、先に坊主を殺しておくか」

 

残酷な宣言と共に、紅い槍を持ち直した死神は衛宮へと槍を突き出した。衛宮への距離は男の方が短く、何より彼の得物のリーチは圧倒的に刀よりも長いという事実が衛宮の命運を分けていた。どうしよう、間に合わない。奪われて、しまうのか。絶望に視界を滲ませながらも、それでも諦め切れずに足を踏み出す。ガキン、と鈍い音が暗い部屋に響いた。

 

ーーー衛宮が、お茶を載せていた盆で穂先の軌跡を反らしたのだ。

 

それはあまりにも有り得ない、いや有り得てはならないことだった。あれだけ妙な力に溢れた武器をこの世にあるもので防げる筈がないし、なにより今響いた音は確かに金属が激しくぶつかり合うことによって生じた類のものだった。普通に考えて木で構成されたモノが金属音を生じさせる訳がない。つまりは衛宮が盆に何か細工を施したという訳で。男もそれに考え至ったのだろう、どこか冷めたように彼を見ていた眼差しがその一瞬でこの部屋を訪れた時のように面白いものを見るモノに戻る。

 

「・・・微弱ながらも魔力を感じる。心臓を穿たれても生きてるってことはそういうことか」

 

低く重い声がややあって空気を震わせた。

 

(魔力?心臓を穿つ?)

 

聞きなれない、けれどどこか引っかかりを覚える単語を心の中で繰り返す。何か重要なヒントを言われたような気がしてならなかった。勝ちを掴むつもりで全力をもって挑まなければ引き分けにさえもっていけない私に出来ることは、考えること。目をこらせ、相手をよく見ろ、常識に囚われるな。考えろ、考えるんだ。

西洋の血を色濃く残している顔立ち。紅い槍。全身を包む青。先程から感じている妙な力は魔力というモノ。魔力を使うということは方術師・・・いや、こちらでいうならば魔法使いか魔術師が妥当か。槍に長けた魔法使いとはなんとも面妖な。いや今はそんな感想はどうでもいい。心臓を穿つ。この言葉の意味を考えなければ。

先程防いだ一撃。衛宮を狙った一撃。共通するのは全て心臓を狙ったものだったということ。確かに心臓をやる方が下手に腹を切って多量出血による死を狙うよりも死に至る速度は格段に上がる。けれどそんな効率的なことを考えてあの男が心臓を狙っているとは考えにくい。あれはこだわりにも近いものを感じる。そのこだわりを、利用出来ればいいのだが。

幸いにも男には僅かな隙があった。それも当然だといえば当然だろう。鍛えられているとはいえ自分には遠く及ばない少年に、刀を持っているとはいえ使い慣れていないと一目で分かる少女。衛宮に魔力があるということも私の身体能力が普通の人間よりも高いということも戦力差を埋めるには至らないのは明白だからだ。

しかしそれは大きな勘違いである。こうしている間にも私の身体能力は向上しているし、何よりも私は、私達はまだ諦めてはいない。衝撃に耐え切れずにひび割れた盆を投げ捨て、部屋の隅に転がっていたポスターを構える衛宮も、剣先を男に向けたままの私も諦めてなどいない。どんなに無様でもいい。どんなに卑怯でもいい。生き残るのに、美しさなんてものはいらない。幸い目はまだ潰されていない。地を踏みしめることが出来る足もまだついている。刀を握ることが出来る手も残っている。

 

(ーーーまだ、何も奪われていない!)

 

再度衛宮の心臓に吸い込まれるように突き出された赤い槍の穂先を、下から掬い上げるような形でずらした。そう、私達はまだ奪われていない。まだ、奪われてなんかいないのだ。衛宮も私もまだ生きている。ならば戦え。刀を握れ。奪われない為に、奴の命を奪え。衛宮が横でポスターを振りかぶったのを目の端で捉えながら刀を握り直す。

 

「・・・少しは楽しめそうじゃねぇか」

 

流石というべきか、男は動揺すらせずにそれを斜め下に薙ぎ払った。と同時に鈍い音が弾け、くぐもった呻き声が衛宮から漏れ出る。防ぎきれずに腕を僅かに負傷したらしかった。ぐしゃり、と衛宮の手の中でポスターが崩れ落ちた。つまり衛宮の唯一の得物がなくなったということだ。唇を噛みしめるその様から考えられるに衛宮の方術・・・いや魔術はモノを媒体しないと発揮出来ないものなのかもしれない、と推測は容易に出来た。すなわちそれは私しか戦えるものがいなくなったということをも意味していて。それでも奪われることを諦める訳にはいかない、と衛宮を背に庇うように立つ。そんな私の手に触れるものがあった。

 

ーーー衛宮の手だ。

 

「こっちだ!」

「衛宮?!「おいおい坊主、興醒めなことをしてんじゃねーよ」っ!」

 

強く手を引く衛宮に意識を一瞬向けた私の隙を男は見逃さなかった。呆れた声と共に迫りくる穂先から逃れるように衛宮を床に押し倒し、そのまま勢いを殺さずに衛宮が行こうとした廊下へと転がり出る。何を考えているかは分からないが少なくとも今は衛宮を信じるしかなかった。言い争っている暇があるなら足を動かした方が賢明だ。

 

 

起き上がり、私達は手を取り合ってそのまま廊下を駆けた。

 

 

 

***

 

 

 

男の追撃をどうにかかわしつつ、私達は廊下の窓を蹴破り外へ出た。そのことで少し安心したのだろう、衛宮が荒い息を整えながらその場にしゃがみ込む。だがまだあの死神から逃れてはいないのだ。衛宮、辛いだろうがもう少し我慢してくれ。そう彼にかけようとした言葉は途中で消えることとなった。横腹を強く蹴られたからだった。

 

「榎本!」

「・・・坊主を咄嗟に庇ったか」

 

悲鳴のような声で私の名を呼ぶ衛宮には目もくれずに男はそう笑った。こんな奴に、奪われてたまるか。げほり、と口から血が溢れ地面を紅く汚す。衛宮を抱きしめることで男の蹴りから彼をなんとか守ることは出来たものの、その重い衝撃は私の内臓の一部を損傷させていた。

それでもまだ立ち上がることは出来る。けれど、まずは衛宮を逃がさなければ。

そう考え、強く彼を抱きしめていた腕の力を緩めれば衛宮が私の手を強く掴んだ。

 

「逃げるぞ、榎本」

 

ふらふらになりながらも力強くそう告げ身を起こした衛宮は、その声と同じ位に力強く私を引っ張り起こしてみせた。そのまま互いの手を握りあったまま、蔵のようなところへと身を投じる。床に転がっている色々なものを避けながら、奥へ奥へと足を進めていく私達。その途中で魔方陣のようなものを見つけた次の瞬間、私は衛宮を、衛宮は私を強く突き飛ばしていた。

 

「追撃がくる!」

 

宙を銀の閃光が切り裂きそのまま衛宮へと槍が迫るのを、

冷たい床に倒れこんだ姿勢のまま見てしまった私は声を張り上げた。彼の手にはいつの間にかまた筒のように丸められた紙が握られており、その声に衛宮が紙をまるで盾のように眼前に広げる。と同時に紙に触れる穂先。

 

「ーーー詰めだ」

 

それは、死の宣告にも等しい言葉で。今度こそ容易く貫かれてしまうだろうと絶望にも似た予想に息を呑む。が、またもやその予想は外れ暗い土蔵の中に鈍い音が響いた。

 

衛宮がまたしても攻撃を防いでみせたのだ。

 

「ーーー今のは驚かせられたぜ、坊主」

 

男は感心したように呟いた。それに応える余裕がないのか、先程よりも息を荒げた衛宮がその場に崩れ落ちるように膝をつく。肩が激しく上下しているのが遠目に確認出来た。

 

「しかし分からねぇな」

「ーーーふざけるな」

「機転はきく癖に魔術はからきしときた」

「ーーー名前も知らない誰かに、榎本に助けて貰ったんだ。助けて貰ったからには簡単には死ねない」

「筋はいいようだが・・・もしやお前が七人目だったのかもな」

「ーーー俺は生きて義務を果たさなければならないのに、死んでは義務を果たせない」

 

それは、あまりにも噛み合わない言葉の応酬だった。いや、応酬ですらないだろう。相手に聞かせようだとか理解してもらおうという意思がそこに全く感じられない。しかし今はそんなことはどうでもいい。七人目?義務?この二人は何を言っているんだ。

また増えた、意味の分からない単語に眉根を寄せる。もしかしたら偶然の不慮で巻き込まれたこの状況にはちゃんとした理由があるのかもしれないと今更ながらに考えた。

 

戦う二人の男。紅い槍。ヒトでは有り得ない程の力を有した存在。心臓を穿つ。魔術。七人目。

 

義務は今はおいておくとして、これらは一見関係なさそうな単語の羅列でしかない。が、『何か』によって密接な関係があるものだとすればそれらの単語一つ一つが特別な意味を持つ。それは一体なんなんだ。考えろ、考えるんだ。それしか今の私には出来ないのだから。

・・・七人目ということは、既に六人が存在するということ。その六人は何の為に存在するのか。その六人になる為に必要なものはなにか。もしかして、それが魔術なのか。この世界の魔術師がどういうものかは知らないが前世の世界では方術師は己の術を磨くことを専念していた。集うのは何らかの共通の目的がある時か何かしら儀式を行う時だけだったのを記憶している。いや待て、あの男は「七人目だったのかもな」と言っていなかったか。つまりは術者は固定されていないということか。魔術を持っているだけではその『何か』に参加することは出来ないということか?

分からない、私には分からない。情報も知識も今の私には足りな過ぎる。でもそんな私でも分かることがたった一つだけだがある。

 

衛宮士郎は此処で命を奪われてしまうということだ。

 

「ま、だとしてもこれで終わりなんだが」

「こんなところで意味もなく、平気で人を殺す、お前みたいなやつにーーー!」

 

心臓を貫く為に男が踏み出す。衛宮が叫ぶ。

 

ーーーその瞬間魔方陣が、衛宮の左手の甲が光りだした。

 

それは美しい光だった。それでいてどこか哀しみさえ感じられる光だった。どうしてだか胸を締め付けられるような痛みさえ覚える。懐かしい感覚が、鮮明な記憶が魂を通じて思い起こされる。この魔方陣が何を起こす為に描かれたものなのかは分からない。それでもその魔方陣から漏れ出る魔力の余波は確実に私の身体に影響を与えていた。

先程までに比べて格段に動体視力が上がった目は、魔方陣より現れた金髪少女が目には見えぬ『何か』で男の槍を弾いたのをしっかりと映し出した。

 

「七人目のサーヴァントか!」

 

男はそう言って少女から距離を取るように後ろに跳び、そのまま土蔵を出た。また、妙な言葉だ。サーヴァント、それは使用人や召使いを意味するもの。しかし金髪の少女にその単語はあまりにもそぐわなかった。気高ささえ感じるその佇まいに知らず私の身体が身構える。鎧を身に纏った少女はそんな私には目もくれずに衛宮を見下ろし、凛とした声音で高らかに宣言したのだった。

 

「サーヴァント、セイバー」

 

 

ーーー召喚に従い参上した、と。


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