自分の前世が漫画になってました   作:村人ABC

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Fate/GrandOrderの新情報、出ましたね!
オラ、ワクワクしてきたぞ!!!

***

今回は独自設定の塊となっております。矛盾も多いかもしれません。

苦手な方はご注意下さい。


十巻

―――その光景を生涯、少年は忘れはしないだろう。

 

 

***

 

 

 

月の光を背にしてその女はそこにいた。

 

赤という強烈な色をその瞳と髪に宿しながらも、何にも染まらぬ無色を連想させる女だった。

この世の全てから切り離されたような女だった。

 

もしこの女の立ち姿をカメラで記録したとしてもこの厳かな、それでいて見る者に魂の安寧をもたらす幻想的雰囲気を伝えることは難しいだろう。少年は見惚れるようにその場に立ち尽くした。

 

「サーヴァント・・・?!」

 

そんな少年とは真逆に、傍らに控えていた女は畏れににも似た声を上げ身構えた。この聖杯戦争において『ライダー』のクラスを得て召喚された女の頭の中で警鐘がガンガンと鳴り響く。あの心優しき乙女にマスター権が戻ったとしても自分ではこの少女には敵わないであろうという確信が女にはあった。シンジ、逃げましょう。私達では分が悪い。そう仮初のマスターに声をかけるも魂が抜けたように敵である少女を見つめたままで反応を返さない。

 

「シンジ!」

 

再度女が少年の名前を呼べばその声にようやく我に帰った少年、慎二は上擦った声を目の前に佇む少女にかけた。

 

「な、なんだよ、お前もサーヴァントなのか」

「それは是であり否でもある、少年よ」

「―――はあ?意味分かんないんだけど?」

「真にか?」

 

苛立ちの言葉を斬り伏せるようにぴしゃりと放たれた言葉に慎二は知らず後退っていた。ごくりと唾を飲み込み不思議な問いかけをしてきた少女を見下ろす。―――これは一種の試験だ。その真摯な瞳がそう彼を悟らせた。

思えば今までこれ程までに自分を真っ直ぐ見つめてくれた人間がいただろうか、と慎二は今まで関わった人間を振り返りそう自嘲した。誰も彼も自分という存在だけを見たことはなかった。最も血の繋がりの濃い父だって憐れみを含まない視線を一度だって向けたことはないまま死んでしまった。嫉妬、恨み、無関心・・・そんなものばかりだけを向けられていたことを他でもない彼自身が良く知っていた。

だからこそ慎二は神秘的な雰囲気を纏う少女の言葉に誠意をもって答えたいと思った。誠意をもって接しなければならないとさえ思った。幸い自分の頭の回転は速い方である。彼女の発した言葉、自分の問いかけをもう一度頭の中で繰り返した。

 

(サーヴァントであってサーヴァントじゃない・・・)

 

謎かけと言ってもいい言葉を慎二は吟味した。どこかで聞いたことのあるフレーズだ。いや、違う見たことのあるフレーズだ。その書物は全てイタリア語で書かれていて辞書を片手に四苦八苦した記憶がある。段々思い出してきた。魔術の才がないと分かっていながらもどうしても諦めきれなかったその努力が今こうして結ぶとは。いや、そんなことは今はいい。確かあれは悪魔に関する書物だった。その本の中の『悪魔憑き』の章で先程に似た問いかけがあったのだ。じゃあ、この問いに関する答えは。

 

「お前は、サーヴァントになることも出来、マスターにもなることが出来る存在・・・?」

「ほう、先程の短い言葉でよくぞそこまで辿り着けたものだ」

 

慎二の言葉に少女がパチパチと手を叩いた。馬鹿にしている訳ではないのは誰が見ても一目瞭然だった。純粋に賞賛の声を上げた少女が柔らかい笑みを浮かべる。―――なあ、同盟を組まないか。先程までとガラリと漂わせた雰囲気を変えた少女の言葉に慎二達は目を丸くした。

 

「・・・どういうおつもりですか。その実力なら同盟なぞ組まなくてもどの陣営とも渡り合えるでしょうに」

「ふむ、どこか勘違いしているようだな。私はお前達陣営と同盟を組みたい訳ではない。そこの少年と同盟を結びたいだけだ」

「・・・シンジと、ですか?」

「ああ」

 

そのサーヴァントの頷きに驚いたのはライダーだけではなかった。そこまで自分が高く評価されている理由が分からなかった。何よりライダーの言葉が正しければこのサーヴァントが自分達を殺すこと位容易いことだろうに何故しないのかが分からなかった。何が目的なのかが分からない。もしかしたら自分をすごい魔術師だとでも思っているのではないか。なら、自分にそんな力がないことを知られてしまえば。自分の祖父の眼差しを思い出し、ひゅうと喉がなる。もう落胆されたくない。もう、要らない人間だなんて思われたくない気づけば慎二は自分のコンプレックスでもある魔術回路がない事実を赤髪の少女に告げていた。

 

「ううむ、色々と言いたいことはあるが随分と複雑な話となろう。どこか座って話さないか?君の家は・・・ああ駄目だな、目も耳も多くある。そうだな、君が今まで『何か』・・・そうだな、普通とは違うと強く思った場所はないか?そこで詳しく話すとしよう」

「お前さ・・・ああもういいよ、分かったよ」

 

自分の言葉に特に反応を返す訳でもなく、かといってなおざりに反応する訳でもない奇妙なサーヴァントに慎二は人知れず呆れたような笑みを漏らした。自分を蔑ろにしているのではなく寧ろ尊重しているということ位は卑屈な彼にも伝わっていた。そんな少年の反応に驚いたのはライダーである。召喚されて以来初めてみたその年相応の無邪気な笑みに仮初のマスターを凝視する。そんな彼女には気がつきもせず「ついてきなよ」と慎二は二人に背を向けたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

慎二が案内した場所はそれなりに大きな泉を有した一軒家だった。母が好み、ちょくちょく間桐の家を出奔してはこの家を訪れていたのだと随分昔に父に聞いて以来慎二も何かあれば此処に来ていた。不思議と此処にいれば心が安らぐのだ。慎二にとって此処は自分に唯一許された場所だった。

目を和ませる慎二の横でコウは泉の水を軽く掬い僅かに眉根を寄せた。そもそも世界によって『理』というものは形を変える。つまり誰かしらが『理』を『書き加えなければ』この場所みたいに『コウが生きていた世界』の『理』と少しでも似ているということは有り得ないのだ。いや、有り得てはならないのだ。書き加えた人物が『理』について仙並に知っていたこと、書き加えた範囲が僅かでありこの世界のそれに上手く溶け込んでいることが幸いだ。そうでなければ世界は異常を排除しようとし、下手すればこの世界の『理』を直そうと“やり直す“だろう。それほどまでに『理』とは本来ならば誰も触れてはいけないこの世の原理そのものなのだ。一体誰が此処の『理』に書き加えたのだろう。

 

(どこかで視たことのあるような“書き加え方“だな・・・)

 

どこだったか、とコウは内心で首を唸った。コウの仲間の一人であった女仙が出来るだけ『理』に与える影響を最小限に止めようとした結果細かく書き加えていた例のように、書き加え方というのは否が応でも個性が表れるものである。こんな感じの、そう、言うならば斜め三十二度に屈折したような書き方を視たことがある。なのにどうしても思い出せない。もしかしてこれも未だ思い出せない『コウ』の一部の記憶なのかもしれない。コウは掬った水をそっと返した。

 

「これは、いえ、此処は・・・どうなっているのですか」

 

この場に満ち溢れた、自分が認識出来ない奇妙な力に不気味さを感じていたライダーがそんな少女の背に声をかけた。この空間の『何かが』違うということだけは今よりも魔術と密接に関わっていた時代に生きていたからこそこの場を訪れた時から分かっていた。だが『何が』違うのかが分からない。自然強ばった声の己の言葉に少女が感心したように瞬きを落とす。「ほう?“違う“ことは分かるのか。何、そんなに警戒することはない。『理』が少々書き加えられているだけだ」と言葉を返した少女に「お前の言う『理』ってなんだよ?」と慎二が問いかければ、「君達の考えている魔術とは切り離して考えてくれ」と前置きを置いて説明が始まった。

 

「『理』とは全てのものが持つ成り立ちを表したものだ。そうだな、設計図だと思えば良い。その『理』の大元なるものが『世界の理』だ。それに従い万物は例外なく『理』を描く。自分の『理』を解し、『世界の理』に照らし合わせ自らの『理』を介し意図的に『理』に触れることに長けた者を”仙”と呼び、それには及ばずとも媒体を介しある一定の過程を経て・・・言うならば術式を使い理解には至らずともほんのちょっぴりでも意図的に『理』に触れることが出来た者を“方術師“と呼ぶ。ここまではいいか?・・・話を続けるぞ。『理』は『世界の理』に反しない限り『書き加える』ことが出来るのが大きな特徴だ。朱に交われば赤くなるという言葉を知っているだろう?それは周りのモノからの影響で自らの『理』に本人が無意識に触れ書き加えた結果とされている。故に普通の方術師は周りの影響を恐れて引きこもり、ひたすらに『理』を解することに努める者が多い。『理』を知る方法は様々あるが・・・私のやった方法は手っ取り早いが下手すれば死ぬどころではないからな、オススメしない」

「どうやったんだよ?」

「仙が『理』を書き加えた水を飲み自分の『理』に無理矢理干渉させるという方法だ。干渉によって歪みどう変わるかはそれぞれで、失敗すれば本来生じてはいけない『理』が出来てしまい『世界の理』に押し潰され『理』自体が消え輪廻の輪を巡ることすら出来なくなってしまう」

「・・・そんなモノをどうして飲んだんだよ」

 

咎めるようなその響きに『コウ』は視線を僅かに伏せた。前の世界でも何人もの人に投げかけられた問いだった。泣きながら言われたことも、罵るように言われたこともあった。それだけ自分を想って心配していてくれていたということなのだろう。それでも、自分には「そうする他無かった」。

 

「私はただ、奪われたくなかっただけだった。でもそのたった一つの想いさえ成し遂げることが難しい世界だった。・・・確かに、力があるこそ失うものがあるだろう。それでも力が無いからこそ失うものを、失いたくないと強く思った」

 

 

《―――誰かに助けを求めたくて、誰も助けてくれなくて》

 

《―――だけど自分には力がなくて》

 

《―――救いが与えられないことも、望みが叶わないことも知っている筈なのに》

 

《―――それでも、諦められずに無様に求め続けて》

 

《―――ただ足掻き続けた》

 

 

自分によく似た少年に『コウ』は微笑んだ。彼が何を想い、傷つき、絶望したのかを彼女は知らない。それでも諦めず力を渇望するその瞳を、彼女は世界の誰よりも知っていた。

 

ーーーだからこそ『コウ』は慎二に手を差し伸べる。

 

「なあ。・・・力が、欲しくないか?」

 

 

 

―――どこかで、あの時手を差し伸べられることもなく終わった『コウ』が笑った気がした。


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