ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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先に言っておきます。ええ、クロア君の挑発がイラッとするかもしれません。気になったかたはえーっと……どうしようorz



6 火と炎と処分と

 

 目を覚ますと知らない天井だった。恐らく医務室だが、ここはお約束のあのセリフを言わねばなるまいて!

 

 「知らないて「クロア様! クロア様!」……」

 

 シエスタがちょうど看病していてくれたようだ。ベッドのすぐ側にシエスタがいて目を開けてあのセリフを言おうとしたらシエスタに呼びかけれ中断することになってしまった。

 

 「ああ、心配かけたね。ところでどのくらい寝てた?」そう聞くと五日ほど寝ていたらしい。やったねクロア君新記録更新だね!

 ついでに空いていたベッドを借りてシエスタはここで生活していたらしい。たまにルーシア姉さんがマルコやギーシュと警護を代わって彼らと寮の部屋を掃除に行っていたらしい。シエスタは「医務室の方を呼んできます。」と言って離れたので、Take-2行くしかあるまいて……。貴族は諦めないのだよ!

 

 「知らない「クロア! 我が友クロア! ああ、良かった。目が覚めたんだね!」……」

 

 扉の外で聞いていたらしい、護衛についてくれていたマルコが飛び込んできた。

 

 「ああ、我が友マルコ、心配してくれてありがとう。また生き長らえたようだ。意外と俺は頑丈なのかもしれないね?」

 

 そう笑顔で言うと、「ははは!そうだね。でもビックリしたよ。」と言ったあと、ギーシュを呼んで来ると言って出て行った。嫌な予感はするがTake-3に挑戦しよう……。

 

 「知らな「ミスタ・カスティグリア、目が覚めたようだね。」……」

 

 ちょうどシエスタもマルコも出て行くところを見計らったようにコルベールが来た。いや、見計らっていたのだろう。

 

 もういいや。次の機会に回そう。そう、諦めたわけではない、機会を窺うことにしたのさ! いやごめん。貴族でも俺には無理かも。知らない天井の部屋にたどり着けるかわからない。いや、機会は多いけどね? 大抵同じ天井なのだよ。毎回往診してもらってたから今回は初の医務室だったのだよ! 諦めてベッドの背もたれに身を起こす。

 

 「護衛任務ご苦労様です。コルベール殿」

 

 そういうと彼は目を細め、眉を少し寄せた。

 

 「今なら絶好の暗殺チャンスですよ? マルコもギーシュを呼びに行ってますし、シエスタも医務室のメイジを呼びに行っています。それに幸い俺の杖がどこにあるか俺にはわからない。ああ、軽い焼けどなどの軽傷はオススメしません。殺るならマジック・アローで心臓か首がオススメです。」

 

 さらにそう言うと、彼はため息を吐いて

 

 「君に危害を加えるつもりはない。オールドオスマンに解除されない限り、君の護衛任務期間は決められていないからね。一応私も貴族なので誓いを破るつもりはないよ。」

 

 と、言った。一応ね……。

 

 「今は、ですかね?」というと、コルベールは少し目を伏せ「いや、君がまたあのように牙を剥いて生徒を傷つけない限りはもう杖を向けるつもりはない。」と言った。

 

 「あはははは! では今後俺が不可避の決闘を強いられたら俺の従者のようにあなたが戦ってくれるのか? コルベール。君自身が甘いのは結構だがね? 色々と根本から考え直した方が今後のためではないかね?」

 

 「私は! 私は君と違って火の系統を破壊に使いたくないだけだ! そのための研究もしている。君もどうか火の系統を破壊の為だけに使わないようにしてもらいたいだけなのだ!」

 

 ちょっと突いたら本音が飛び出した。もしかしてあの決闘は彼のトラウマを刺激したのかね? あまり詳しくは覚えてないが、原作での彼は昔特殊部隊に所属していて、ロマリアからトリステインのお偉いさんのリッシュモンに依頼があり、買収されたリッシュモンから実験部隊という名の特殊部隊に「疫病の蔓延を防ぐため」という名目でダングルテールを焼き払うという任務が出され、実行された。

 だが、真相は疫病ではなく、ロマリアが弾圧している新教徒がそこに逃げ込んだだけだったというものだった。それを知ったコルベールは逃げて、結局部隊を解散させたとかそんな感じだったと思う。

 逃げ方に関しては元特殊部隊だっただけあって、かなり巧妙なのだが甘いというよくわからない人物である。名簿から全て自分の名前を破り取るほど徹底しているくせに生き残りの少女は保護した。自分がやったくせにね? 開き直ってた方がまだ潔いと思うよ? でもあがくのも人間だ。それがすばらしいというバケモノもいるからね。美的センスは人それぞれだね。

 

 「ほぅ? ではここの教師として火の破壊以外の使い方を教えてくれると? カスティグリアで使っているモノや、俺のオリジナル魔法のほかにそのようなモノがあるとは興味深いね?」

 

 そういうと、彼は少し目を輝かせて、

 

 「ああ、ある。今色々研究しているのだ! ぜひ君にも興味を持って欲しい。」

 

 と言ったのだが、残念ながら興味がない。空飛ぶへび君という名の簡易ミサイルの実験データをくれると言うのなら領地防衛のためにぜひとも欲しいが、あれはくれないだろう。というかまだ着手していない可能性もある。

 

 ふむ。今度領地向けの資料に追加しておこう。

 幸い空対空ミサイル関連の知識はほんのりある。「空対空ミサイルの赤外線追尾方式の原理」もまだきっちり覚えている。いらない知識だと思ったがこんなところに実用段階にまで開発したヤツがいたんだ。領内でも作れる可能性はある。

 

 「だがね? コルベール先生。あのときの消火の手際からして錬金を使えるのではないかね? 土系統にもかなりの才能があると窺えるのだが?」

 

 「ああ、私は錬金も使える。それも合わせて火の系統を平和利用できるよう、日夜研究努力しているつもりだ。」

 

 自分の系統を言い当てられた驚きよりも、俺を研究に勧誘することにご執心なようだ。とても明るい顔で自分の研究のアピールをしてくれるのだが、残念な事にこれから曇らせてしまうかもしれないね。上げて落とすことはあまりしたくないのだがね。

 

 「ふふ、あなたは本当に研究が好きなようだ。ただね? ジャン・コルベール先生。聞いておいて否定するのは大変心苦しいのだが、それは火の系統ではなく恐らく土の系統がメインなのではないかね? 俺は火の系統以外全く使えないので、もし錬金や他の系統を重ねずに平和利用できるモノがあるのならば、是非ご教授いただきたいものだがね?」

 

 そういうと、コルベールは浮かべていた笑顔が消え、表情が固まり絶句した。

 

 「やはり、あなたは俺の望む知識を持っていないようだね? いや持っているだろうけどそれを教えるつもりは全く無いのだろう? あなたが何を恐れているのかはこの際どうでもいいのだが、あなたの研究が人を死傷させるのに使われない保障は誰がするんだね?

 ―――火の系統による破壊を恐れるのは結構だがね、結局のところそれらを使うのは、もしくは使うことを強いられるのはメイジなのだよ。ミスタ・コルベール。」

 

 そう、コルベールがすべきだった事は火の系統の平和利用ではなく、逃げることでもなく、ダングルテールの虐殺を告発し、リッシュモンやロマリアに牙を向けることだったのではないかね? 本人も縛り首になるかもしれんが、仇打ちに来た相手に身を晒すくらいならそうしろっつーの。まぁ無理だから逃げたんだろうけど、一番気に食わないのは教師として生徒をその逃避の道連れにすることだ。

 平和的に解決するなら戦争まで含めた争いのルール化を世界に広めて作ることだろうが、一番危険な聖戦があるので難しいだろう。実際任務で虐殺を行わされたのだからそれが今後起きないよう努力するのが正しい方法ではなかろうか。

 コルベールも懸念していたことを指されたのだろう、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 

 「教師に教えるつもりはないのだが、ここまで言っても思い至らないかい? それとも、わかっていながら君の欺瞞に溢れた信念や心の弱さが口にするのを邪魔をするのかね?

 コルベール君。君は魔法やアイテムの研究者としては優秀だが、教師としては最悪だね。身勝手でその癖、自分のその考えが頑固に正しいと思っている。」

 

 そういうと、コルベールは鋭い目つきをして杖があるだろう場所に手を置き、言った。

 

 「君に何がわかる! 争いや人を傷つけるだけの系統の平和利用は絶対に必要なことだ! 破壊からは何も生み出さない!」

 

 やはり俺はコイツが嫌いだ。前々から気に入らなかったが今確信した。

 

 「あはははは!! では愚かで頑固で最悪な教師の君にひとつ教育して差しあげよう。

 ―――その程度のことは火の系統以外全く使えないとわかった時点で、貴様より深い絶望をすでに嫌と言うほど味わったのだよ。錬金やそれで作り出されたアイテムに逃げた貴様にはわからんだろう? 

 そして、その絶望から逃げずに色々考えた結果、結局のところ火の系統の魔法は錬金に頼らない限り“メイジの精神力が続く限りという短時間の燃焼”か“それに伴うであろう破壊”くらいしか能が無い。これは恐らく決定事項であり基本だ。ここから目を逸らしている以上、進展は無いと思わんかね? コルベール君。」

 

 そこまで言うと、呆れたのか哀れんだのか、俺がおかしいヤツ認定されたか? いやそれでも構わないがね。コルベールは目を見開き手を下ろした。

 

 「そして、その基本から色々と考えた末にカスティグリア領では俺の愛する家族の協力もあって燃焼や破壊から生み出すための使い方もされている。結局のところ要は使いようだからね、コルベール。燃焼や破壊からでも生み出されるものはあるのだよ。また逆に、理解しているとは思うが、日常に溢れているものは使いようによっては戦争の道具でもあるのだよ? 君が作ったものがこれからどれだけ人を殺すのだろうね?

 その辺り、どんな内容かを詳しく教えるつもりはないよ? 俺は君の教師ではないからね?

 君が本当に平和利用を望むならそこ(・・)を研究するべきだったと思うがね。政治家や法律家や領主や国王でなく、ただの教師で研究者だったのが残念だね? だがまぁ俺はただの虚弱な一生徒だからね。あまり気にせず精々新たな発見のために懲りずに自分の研究室に引き篭もって魔法やマジックアイテムの研究でもしていたまえよ。ふふっ。」

 

と、言うとタイミングを見計らっていたのか、シエスタと医務室の水メイジ、ギーシュとマルコがこちらに来た。

 

 煽りすぎたか? いやしかしな、実際ちょっと言いたかった。先に言ったような葛藤は彼もすでに持っているだろう。だが、それこそ破壊しないと進めないのではないかね。停滞が許されている彼への嫉妬かね? コッパゲに嫉妬? まぁいいか、きっと気のせいだ。忘れよう。

 最近誇り高くて良い貴族の仮面が壊れかけてる気がする。今さらだが、才人にコルベール製戦争用兵器がコルベールから渡らなかったらどうしよう……。―――状況次第だがカスティグリアで補給するしかないな。

 

 そして、医務室の他の職員がオールドオスマンにも連絡したらしい。この後来るかな?

 

 「ミスタ・カスティグリア。まず診察いたします。今回は無理をしたようですね?」

 

 「ええ、毎度のことながら本当に申し訳ありません。よろしくお願いします。」

 

 そう言って淡々と診療を始めてくれた。シエスタはその診療の補助をしてくれ、ギーシュとマルコは順番を待っているようだ。コルベールは気落ちしたような顔で扉の前まで下がった。警護はしてくれるようだ。

 

 「まだあまり良くないですが、これなら自室に戻っても大丈夫ですよ。ただ、数日安静にしてくださいね。何度か診療に伺いますので、経過を診ましょう。お大事に。」 

 

 そういうと水メイジはどこかへ行き、、ギーシュとマルコが近くへ来た。

 

 「やあ、どうも大丈夫そうだね? 今回はさすがに心配したよ。」と、ギーシュが爽やかな笑顔で言った。

 

 「マルコにも言ったが、意外とこの体は頑丈なようだよ? 生命の神秘ってヤツかもしれないね?」

 

 自虐的に少し苦笑して言うと、ギーシュも爽やかな笑顔で答えてくれた。

 

 「あははは! そうかもしれないね? 君の自虐を含めた冗談も戻ったようで安心したよ。さて、我が友よ、体調がそれほど悪くないようなら君の部屋まで送らせてもらおうと思うのだが、君にレビテーションを掛けても良いかね?」

 

 「ああ、すまない、友よ。よろしく頼む。マルコ、時間があればシエスタの護衛を頼みたい。シエスタ、先に行って部屋を整えておいてくれないか? もし時間が余るようなら紅茶の用意も頼む。」

 

 そう、三人に頼むと、

 

 「はい、クロア様。お部屋のお掃除は欠かしておりませんが、先に行ってお部屋を整えて紅茶の用意をさせていただきます。マリコルヌ様。よろしくお願いします。」

 

と、シエスタは笑顔で言ってマルコにカーテシーをした。シエスタのカーテシーはなんか最初の頃はぎこちなさが目立っていたのだが、どんどん慣れている気がする。環境だろうか。もしかしてルーシア姉さんが特訓とかしてるのか?

 

 マルコもまんざらではなかったようで、「友よ、任せてくれたまえ! シエスタ嬢。君には誰にも手を出させないよ。」とキリッとした顔で言った。

 原作のマルコはどこへ行ったんだろうね? すごく格好よくていいヤツなんだが……。「もしかして中身は転生者か?」と、疑ってしまうほどだ。いや、太り具合から転生者じゃないとは思うが……。

 

 ドアを出るとコルベールも付いてくるようだ。護衛任務中か。問題のある生徒が多いと教師も大変だな。って俺もか。

 

 自室の前でギーシュに下ろしてもらい、コルベールはどうするのか聞くと、ドアの前で待つそうだ。これからオールドオスマンが来るらしい。自室に入ると、先に行っていてもらったマルコは紅茶を飲み、シエスタは新たに紅茶を入れてテーブルに置き、「ギーシュ様。こちらへどうぞ」と言って紅茶を勧め、俺をベッドへ連れて行った。

 

 そして天蓋を閉めてシエスタの補助で制服に着替え、マントを着けて、杖を差してシエスタの肩に捕まりながら天蓋を開くと、ちょうどノックの音が聞こえた。

 

 シエスタが俺をテーブルにある椅子に座るまで補助してもらっているので、紅茶を飲み終わったマルコが気を利かせて出てくれた。

 

 「オールドオスマン、ミス・ロングビル、ミスタ・コルベールだ。」

 

 マルコが客を教えてくれた。意外と早いな。ほとんどロスタイム無しで来るとは……。

 

 「どうぞ。お入りください。」

 

 俺がそう言うと、マルコはドアを全開にして丁寧に三人に入室を促した。

  

 「失礼するぞい。」そう飄々(ひょうひょう)と言いながらオスマンを先頭にして入ってきた。相変わらず椅子は二つしかないので俺の正面にオスマンが座り、シエスタが俺とオスマンに紅茶を出す。

 計らずも前回と同じような配置になった。シエスタにお礼を言い、紅茶を一口飲む。

 

 「いやはや、たった今戻って着替えたばかりでしてね。何も準備できておりません。彼らから経緯を聞こうと思っていましたが、聞きそびれましたね。それで、私が寝ている間の事を全く知りませんが構いませんか?」

 

 「うむ。ワシから直接知らせようと思っての。医務室から君が目を覚まして自室に戻る事になりそうだということでこちらも準備して来たわけじゃが、少し早すぎたかの? ほっほっほ。」

 

 そう言って、オスマンが飄々(ひょうひょう)と笑った。

 

 「しかし、私に何の話でしょう。思い当たる事が多すぎてさっぱりわかりませんね。」

 

 「ほっほっほ。そうじゃろうな。本題じゃが、君の処分についてかなり揉めての。中々決まらんのじゃ。」

 

 ふむ。やはりお咎め無しとはいかないようだな。しかしまだ決まっていないとすると俺に選ぶ権利をくれるということかね?

 

 「ふむ。学院の最高権力者であるあなたが中々決められないとすると、かなり揉めてそうですね? それでこれからそちらが提案される中から私が選ばせていただけると?」

 

 「うむ。察しが早くて助かるのぅ。まぁ背景からじゃがまずは詳しく説明するとしようかのぅ。」

 

 そう言って俺が寝込んでからの経緯や調べられた情報が語られた。まず、『激炎』アレクシス・フォン・メンドルフや取り巻きはクルデンホルフ大公国出身の留学生で、メンドルフ家は大公国のトップであるクルデンホルフ家の傍系の少し離れた家の長男で、取り巻きはメンドルフ家に仕える家の子息だそうだ。ややこしい。

 

 クルデンホルフ大公国は先代だか先々代あたりのトリステイン王に大公領を賜り、一応独立国となっている。先代だか現役だかの大公は大公国の有り余る資金をトリステイン貴族に貸しているので彼らに頭が上がらない貴族が多い。確か独自の軍事力も持っていたと思うが、原作では戦争には参加していないはずだ。

 

 カスティグリア家も借りてたのかね? そうなるとちょっと不安が残るが、言いがかりをつけられて借金に上乗せで賠償金の支払いを迫られたら丸ごと踏み倒せばいいのではなかろうか。ダメだろうか。

 

 そして、アレクシスは大公国の姫であるベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフの婚約者だったそうだ。つまり、見た目や力や暴力もあるが大公国の姫の婚約者ということで貴族や平民を脅しており、貴族や学院の教員もあまり手が出せなかったそうだ。

 

 そして今回の決闘騒ぎでアレクシスは治療の結果、両足の太ももから下を消失することになったそうだ。きっちり炭にしましたからな。ファンタジーじゃなかったら死んでいてもおかしくないとは思うが……。そして、アレクシスはその怪我に対する賠償として俺の処刑と治療費および多額の賠償金を支払うよう学院に要求したらしい。

 

 しかし、オスマンが調査中ということで突っぱねたため、クルデンホルフに頭の上がらない貴族の三年生の一部が借金減額などとそそのかされ、取り巻きとその三年生が俺の療養している医務室を襲撃したが、警護に当たっていたコルベール、ミスタ・ギトー、ギーシュ、マルコに取り押さえられたらしい。

 

 「何ということだ! ギーシュ、マルコ、二人とも大丈夫だったかい? 怪我はなかったかい? 俺にとって君たちはもはや英雄だよ。本当にありがとう。―――ついでにコルベールもありがとう。」と言うと、

 

 「ああ、ちょっとしたかすり傷はあったけどもう治ったよ。初めての実践だったが、逆にいい経験になったさ。それに色々と工夫の余地もあることがわかって収穫もたくさんあったしね。」と、ギーシュは爽やかに笑い、

 

 「ああ、我が友よ。僕も少し怪我をしたけど大したことなかったさ。僕も君達を守れて、そして初めての実践が教師付きで経験できて良かったと思っているよ。相手の魔法が一度腹に当たったんだけど、初めてこの腹の肉が役に立ったよ。」とマルコは自分の腹を叩いておどけた。

 

 シエスタがマルコの言いように少し「ふふっ」と笑って四人に紅茶を継ぎ足した。マルコも渾身の自虐を含めた言いようがシエスタにウケて嬉しかったのか、「ありがとう、シエスタ嬢」と言って紅茶を一口飲んだ。ちょっと仲良くなってるね? いや、健全に貴族と平民の仲が良いというのは良いね。

 

 しかし本当に二人とも英雄だな。俺が王だったら迷わずシュヴァリエに叙しているね! コルベールは少し顔をしかめただけだった。ミスタ・ギトーには後でお礼状を出そう。

 

 「すいません。続けてください。」と言って続きを聞いた。襲撃者の数が多かったため、現在はオスマンが急遽作った謹慎室という名の簡易牢獄に収容されているそうだ。寝ている間に襲撃とか! でもシエスタ直で狙われたら厳しかったかもな。

 

 その事件を前後するようにアレクシスは実家に手紙を出したらしく、実家からクルデンホルフ大公家に話が行き、そこからトリステイン王国に伝わり、余計にややこしくなったそうだ。

 

 一応事件の経緯や過去の判例、オスマン主導で調べ上げられたアレクシスや取り巻きの余罪、その後の事件の経緯と状況などをオスマンはクルデンホルフ大公家とトリステイン実質トップのマザリーニ、それにカスティグリア家の父上に書面にて報告した上で最終的な裁量権は学院長のオスマン自身にあると宣言したらしい。

 

 ふむ。原作が始まる前に内戦や戦争になるかもしれませんなー。あはははは!って笑い事じゃないんだけどさ……。原作ブレイクなんてレベルじゃないね! でもカスティグリア家はどう思っているんだろうね?

 

 今トリステインに王は無く、最高権力者というものが曖昧で、実質仕切っているのはロマリア出身のマザリーニ枢機卿である。彼はかなりトリステインに対する忠誠心が高く、宰相としての能力も高いのだが、重責から来る見た目から「鳥の骨」などと言われ貴族や民衆の人気はない。

 

 個人的にはかなり評価させていただいている。ぶっちゃけ彼は貴族ではないが一番貴族らしいし、もし決断力のある王がいれば国にとっては理想の忠臣だろう。俺なら国王が崩御されてからすぐに王妃のマリアンヌかアンリエッタ姫が即位しなかった時点でさっさとロマリアに引き篭もる自信がある。

 

 いや、俺が帰るのはカスティグリアだが……。マザリーニにとってトリステインがそのようなものなのかね? 「Youそれならトリステインに帰化しちゃいなYO!」って感じなんだが……。あーそうか、ロマリアやブリミル教とのつながりも維持する必要があるのか。手詰まり感MAXで大変だな。そりゃ「鳥の骨」に進化するわ。(涙) 俺ならすでに間違いなく死んでるな。

 

 しかし、王が居ない上、実質宰相として働いていても役職は枢機卿なので彼がトリステインを纏めることは難しい。王が居ない間にどんどんと国力が落ちているのではないだろうか。さっさとマリアンヌでもアンリエッタでもヴァリエール公でもいいから王や宰相になって欲しいものである。

 

 と、いうかこの王不在というトリステインの危機的状況下でヴァリエール公が動かないとか、バカなの? 反逆するの? やってることは公爵じゃなくて辺境伯だよね? 「鳥の骨」可哀相だと思わないの? と言いたいくらいなのだが……。

 

 そんな事情で、色々なところから要請というか脅迫というかそういった干渉が来ているらしい。最終的な裁量権はオスマンにあると宣言しているのだが、学院長を代えるという意見まで出ているとか。

 

 「それで、それぞれ出された処分の要望なのじゃがの?とりあえず落ち着いて最後まで聞いて欲しい。」

 

 そう言って要望を出したところと要望の内容が伝えられた。大体纏めると、

 

 一番 クルデンホルフ大公国:密かに当人引き渡せ 大公国出身者は早期卒業で返せ

 

 二番 大公寄りのトリステイン貴族:カスティグリア領没収して幽閉か処刑してやり過ごそう

 

 三番 大公国関係ない貴族:学院に任せる クルデンホルフ調子乗るな潰すぞ? 

 

 四番 学院というかオスマン:俺は判例通り謹慎 余罪モリモリの大公国出身者と襲撃に加担した生徒は自主退学か退学 賠償などはなし 宣誓した命のやり取りもなし

 

 五番 被害に遭っていた人達と関係者とそれに同情的な人:無罪放免 むしろクルデンホルフ賠償しろ ついでに決闘相手側全員自害しろ

 

 六番 カスティグリア家:俺を家に戻せ 戦争しようか? つか相手自害しろ

 

 だそうだ。平和なの三番と四番だけですね。

 

 「ふむ。選ぶとしたら三番から六番ですね。個人的には三番が一番理想的です。五番についてもこれまでの被害者に対して考える余地はあると思います。

 一番については情報が正確に伝わってない可能性もありますね。二番については敵意を覚えます。後で二番のリストください。相手の宣戦布告に備えるようカスティグリアに送ります。」

 

 「そう言うと思ったがの。今お主を動かしたら戦争になりかねん。ワシとしては判例通り謹慎を選んでくれるのが一番ありがたいのぅ。」

 

 リストに関してはスルーされたようだ。まぁ戦争になりかねんというのは同意しますね。むしろカスティグリアが強気に出れるとは思いませんでした。何かあったんでしょうかね?

 

 「ふむ。動かさなくても戦争になりかねませんが大丈夫ですかね? 私を引き渡してもらって私が命を賭けてクルデンホルフ大公家滅ぼしましょうか? カスティグリア家が戦争する選択肢を持つなら大公寄りの貴族とクルデンホルフは家族や同情的な貴族が滅ぼしてくれるでしょうし、ええ、それがいいですね。そうしませんか?」

 

 「ぶっ! 短絡的に考えんでくれ! いかに戦争や内戦を避けるかというのを一番重要視して欲しいのじゃ!」

 

 ちょっとお茶目でいい案だと思ったんだけどね? というかそれなら選択肢は四番しかないじゃないですかー。

 

 「いや、政治や外交や統治の授業がありませんからね。ほとんど部屋から出ない私に政治的な判断を求めても困りますよ? しかしまぁ、つまるところ、四番を選びつつ、私にカスティグリア家を宥めて欲しいといった感じですか? 他はオールドオスマンが引き受けてくれるんでしょう?」

 

 「うむ。君の実家はなぜか妙にやる気があるようでの……。もしかしたら内戦の危機に発展するかもしれんのじゃ。それを避けるためならば他はワシが引き受けよう。」

 

 だよねー。でも大義名分は有り余るほどあるからね? 力さえあれば戦争だよね?

 

 「と、言うか二番の貴族は金でトリステインを売る反逆者でしょう? 処刑しないんですか? ああ、今トリステインには王も宰相も居ませんでしたね。

 では、それらを勘案してこちらも譲歩しましょう。以前私が行った“申し開き”を全て飲み、情状酌量として記録にそれらを記入の上どうしても避けられないモノだったという説明を加えた上で、私が校則を破り決闘を行ったという罰則として謹慎処分を受ける代わりに実家にその旨報告し、説得させていただきます。そうすれば家族も納得してくれるでしょう。

 これ以上の譲歩を迫るのであればこのままカスティグリアに帰ります。」

 

 そういうと、オスマンは少し真面目な顔をし、コルベールは目を睨むように細めた。

 

 「あい分かった。では、その方向で調整するとしよう。ミス・ロングビル。」

 

 そういうと、ロングビルがテーブルに二枚の羊皮紙を置いた。読んでみると、両方とも同じ物で俺が言った内容のモノがすでに書かれていた。あとは俺とオスマンがサインするだけのものだ。恐らく見落としがないか、俺が納得するか、最後に確認させたのだろう。

 謹慎期間はご丁寧に決闘のあった日から長期休暇直前までになっている。と言っても、あと8日ほどだが……。

 

 俺が「用意がいいですね。」と、苦笑しながら二枚ともサインしてオスマンに渡すと、オスマンは「学院長室とここの往復は老骨にはちと厳しいからのぅ。」と、同じく苦笑しながらその場でサインしてそれをここにいる全員に見せたあと一枚をロングビルに渡し一枚を俺に渡した。

 

 そして、コルベールが護衛を解くことを宣言し、三人とも退出する運びとなった。

 

 「ではそちらも頼んだぞ? お主のことだから律儀に果たすと信じておるがの。」

 

 と、オスマンが最後に言って退出した。

 

 

 「ふぅ……、どうやら俺に政治は難しいようだね? オールドオスマンの読みはすばらしい。政治的なバランスもさすがだ。彼は学院長ではなく宰相になるべきだったと思うね。俺の体のことがなくても次期領主を弟に譲ったのは正解だったようだよ。」

 

 と、紅茶を飲みながら緊張を解くと、

 

 「いや、君も堂々としていて貴族らしかったじゃないか。確かにオールドオスマンは彼の普段の言動からは考えられないほどすばらしかったね。まぁ僕にも政治は無理だろうから軍人志望でよかったかもしれないね?」と、ギーシュがオスマンを認めつつ褒めてくれた。

 

 「ああ、ギーシュの言う通りさ、友よ。僕は長男だからこんな話し合いをする羽目になることが将来あると思うとゾッとするよ。オールドオスマンのような相手と交渉することになったらかなり譲歩させられそうで今から不安だよ。」と言って、真面目な顔で肩をすくめた。

 

 ああ、そうか。マルコは長男だったな。しかも小さいが領地持ちの……。かわいそうなのでその不安をできるだけ取り除くとしよう。

 

 「マルコ、それにギーシュ。興味があるなら今の解説と持論を少し語らせてもらいたいのだがね。」と、いうと、二人とも「ぜひ頼むよ。」と言って紅茶に口をつけた。

 

 「今のは交渉というより、俺への状況説明と互いに方針を確認するだけのものだよ。俺との交渉自体はオールドオスマンが書類を用意していたことでもわかるように、前回の申し開きのときに終わっていたのだよ。」

 

 そう言うと、ギーシュとマルコは驚いたようだ。いや、オスマンの手際のよさに俺もびっくりしたけどね。

 

 「そして、実際に譲歩させられたのは俺やオールドオスマンではなく、クルデンホルフ大公国とそれに連なる関係者達だ。彼らの言い分は全く通らなかったのだからね。そこがオールドオスマンのすごい所なのさ。学院長の立場で政治的に国内の貴族と大公国を押さえ込めるのだからね。どんな人脈があるんだろうね? ちなみに俺は杖を収める努力を求められただけだよ。」

 

 そう言って、紅茶を一口飲む。「確かにそうだ。」と二人が同意してくれた。

 

 「マルコはオールドオスマンのような人間との交渉に不安を覚えたようだけど、はっきり言ってしまえばマルコが今回の大公国側のような立ち位置にならないよう注意すればいいだけだよ。あとは信頼できて力のある人脈と、できるだけ自分の家だけでなく領地全体としての力を蓄えることだね。」

 

 「人脈なら俺はいつまで居られるかわからないけど、とりあえず今のところ俺と社交的で人脈を増やすのが得意なギーシュがいるから安心だね?」と言って笑うと、マルコに「友よ。そこまで自虐的だと笑えないよ?」と言われた。

 

 「おおぅ。友よ。むしろ俺は自虐的で笑えるかどうかのラインを見極める力を備えなければならないようだね?」

 

 と、ちょっと大げさにわざとらしく言ったら、ようやくマルコも明るい笑顔を見せてくれた。

 

 そして、オスマンとの話し合いも終わり、軽く解説したあと、俺が寝ていた間の詳しい話を聞こうと思ったところで、二人は帰り俺は休むことになった。「五日間の詳しい話は気になるだろうが後日にしよう。安静が必要なのだろう?」とギーシュに言われた。

 

 「シエスタは……」と聞こうとしたら、「さぁ、クロア様。着替えてお休みになってください。お話は安静が解かれたらにしましょうね。」と釘を刺された。

 

 気になるではないか! 余計に気になるではないか! 

 

 「大丈夫ですよ。みなさんのおかげで私も含めて誰も嫌な思いはしませんでしたから安心してお休みください。」

 

 と、言われ渋々ベッドに入った。ああ、ミスタ・ギトーにお礼の手紙を書かねば……。それこそ明日以降にしよう。サイドテーブルにあるメモ用の羊皮紙にギトーへのお礼状と書いてベッドに潜ると消耗していたのかあっさりと寝てしまった。

 

 




でも彼まだコッパゲの授業受けてないから!
ってことで許してください。

あと何か色々穴がありまくりでですね。大変恥ずかしくて何とか埋めようと努力したのですが、ストックも貯めたくてですね。

あまりお待たせするのも悪いので投稿しましたorz

これから先よく穴のある論理がモリモリ出てきます。ツッコミは大歓迎ですが埋めれるとは限りません。
私が 「ああああ、そこかぁ><;」 って画面の向こうでなるだけですが、なんか私もモヤっとしてるので指摘は嬉しいかも。 


あ、たくさんの感想ありがとうございます。肯定的な意見も否定的な意見も要望も提案も大変励みになります。皆様のお気遣いが心に沁みております。


次回をおたのしみに! していただけるとですね。ええ……。

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