ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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 お久しぶりです。みなさんいかがお過ごしでしょうか。私はぶっちゃけボロボロです。

 と、とりあえずどうぞー!


50 謀略の裏側 モット編 前編

 カスティグリア侯爵が用意してくれたフネは輝くように赤く塗装された小型艦一隻のみだった。わざわざ見送りに侯爵自ら来てくれたのだが、彼は今まで見たことのない満面の笑みを浮かべていた。何でもわざわざ急遽カスティグリアから呼び寄せてくれたそうなのだが、この侯爵の満面の笑みと用意された小型艦がどうも罠に思えてしょうがないと感じるのは今私の置かれた状況と職業病のせいだろうか……。

 

 先日連合軍が制圧したとは言え、戦時中にアルビオン大陸の軍港ロサイスへ派手な小型艦単艦で行くというのはいささか蛮勇ではなかろうか。そして、そのような勇気を私は持ち合わせていない。どう考えても身分の高い者がソレを誇示しつつお供も連れずにスラムへと入っていくようなものではないだろうか。

 

 大体、普通に考えれば自殺行為に近いのではないだろうか。敵に発見され、拿捕され、捕虜になるのであればまだ希望が持てるが、空賊にでも発見されたらどうなるのか想像もしたくない。

 

 むしろ行かせたくはないのではなかろうかという疑問が当然のように沸き、少々侯爵への友情が揺らぎ、つい行き先をモット領の屋敷へと転進したくなったのは肯定されてしかるべきだろうと信じたい……。

 

 しかし、そんな私の感情を読み取った侯爵が少々慌て気味に、この小型艦のすばらしさを私に教えてくれた。曰く、この小型艦は今までよりもさらに速くなっており、早々追いつけるフネはいない上に、普通の戦列艦までなら勝てる……らしい……。

 

 むしろ逆に胡散臭さが増した。普通に考えたらこのサイズのフネであれば、トリステイン空軍ではコルベット艦というランク付けになるだろう。その上のランクにはフリゲート艦、そしてさらに上のランクが戦列艦という事になっていたはずだ。

 

 そして、船種のクラスが変わるというのはそれだけの理由があることくらいは知っている。一つ上のランクのフネが一斉砲撃するだけで一つ下のランクのフネはほぼ反撃不可能なほどの打撃を受け、先に攻撃を仕掛けたとしても相手の装甲を打ち破る事ができず、白旗を揚げるしかない。故に、確か空軍では基本的に上のランクのフネとの戦闘は回避する事になっていたと思う。

 

 しかし、次の侯爵の発した言葉で私は逆に興味をそそられることになった。

 

 「実は以前、クラウスがモット卿に調査をお願いしたフリゲート艦を沈めたのがこのフネでしてな……。」

 

 すぐに思い当たった私が驚きを隠せずに侯爵を見ると、侯爵はイタズラが成功した子供のようにニヤリといい笑顔を浮かべた。

 

 ああ、そういえばあの獣の親はこの方なのだな……。うむ。間違いなく血が繋がっているのだろう。むしろこの父親とクロア殿という存在が近くにありながらも誠実に育つクラウス殿が奇跡なのかもしれない。

 

 しかし、そういう事であれば確かに空軍が艦隊を率いて行くよりは安全なのかもしれない。そして、侯爵が私に新型で極秘事項の多いフネという事で、クルーの指示に従うよう強く要請したことで、逆に安心と興味が不安を遥かに上回った。

 

 侯爵にフネや見送りの礼としばしの別れを告げてフライで乗り込むとこのフネの艦長殿に出迎えられた。小型艦という事で歓迎の人員が少ない事や、機密の多いフネなので小間使いのような人間がいない事を詫びていたが、私も単身である事を根拠に気にしないでくれと返した。

 

 勅使という仕事柄、外国や他領へ向う事が基本であり、私のように単身で動く人間はあまりいないだろう。カスティグリアとのパイプ役になった時点で、彼らの動きに合わせる必要から外国に行く事も考えられたが、私は未だに単身で動いている。

 

 カスティグリアという秘密のベールに興味を示さない者がいないわけでも私の下に付いてくれる人間に心当たりがないわけでもないのだが、中々良い人材がおらず、単身で動かざるを得ない状況だ。

 

 そう、相手があのカスティグリアであり、彼らの秘密や機密をポロッとこぼそうものなら、そして彼らを理解せず手を出そうものなら国が滅びる危険性まであり、むしろ部下を持つ方が危険度があがりそうなのである。私に必要な護衛をカスティグリアが担ってくれる限り、そして、クラウス殿という私の友人がいる限り、ぶっちゃけ単身の方がまだ気が楽なのだ。

 

 そんな事を考えつつ、艦長殿にロサイスまで私が利用する部屋へと案内してもらった。貴賓用の部屋や艦長室という部屋は艦尾にあるのだが、このフネの構造上、その付近は人の休める場所ではないそうで、艦長室は中央付近に設置されており、そこを使うように言われた。

 

 その部屋は小型艦らしく最小限にまとまっており、ベッドと机、そして簡単な荷物置き場以外の侵入を拒むような狭さだった。艦長殿は恐縮していたが、士官室はもっと狭いらしい。そして、艦長殿は私がいる間、その狭い士官室で過ごすと聞いて少々申し訳ない気持ちになった。

 

 しかし、むしろこの狭さがこのフネの秘密につながると考えれば逆に心が躍ると伝えると、艦長殿はホッとした表情を浮かべ、この部屋と階段と上部デッキ以外には極力近づかないようお願いされた。特にガンデッキと艦尾は危険なので近づいて怪我をされたら困ると言われた。

 

 「ではロサイスまでよろしく頼む」と艦長殿に告げ、握手をすると、艦長殿は部屋を出て行った。荷物をベッドの頭上にしつらえられた収納スペースに入れると、部屋の外から艦長殿の「出航」という大声が響き、独特の笛の音とドラムの音が部屋まで届いた。

 

 そして、風石によってフネが浮き始めると部屋が振動し始め、フネがゆっくりと動き出した。確か、レジュリュビの説明を受けた時に聞いた、蒸気機関というものが動いているのだろう。取り合えず慣れない船室で体調を崩さぬよう、少々休むとしよう。

 

 荷物の中から本を一冊取り出すと、さっそく読み始める。

 

 私は希少本を集めるのが趣味ではあるが、希少だから価値があるだけで中身が値段に伴わない物は多々ある。しかし、マジックアイテムのような効果をもたらす本や、見た事の無い言語で書かれた物など理解できずともその文字の量から中身がとても重厚であり、解読できた時の価値が計り知れないものである気がしてくるのだ。

 

 そう、私は言わば風石の鉱脈を探したり、沈んだフネの宝を探すような夢や希望を楽しんでいると言っても良い。

 

 そして、今回の旅で持って来たこの「機動戦○○ンダム 0083(下)」という手のひらサイズの希少本をこの船旅で長時間かけてじっくりと解読すべく開いた。この本は数年前、ガリア王都で行われたオークションで三万エキューほどかけて手に入れたものだ。

 

 見た目は手のひらサイズであり、使われている紙はとても滑らかであり、カバーのようなものには絵画とは思えないような絵具が使われている事が如実にわかる。しかし、落札後、私の落胆は当時ひどいものだった。

 

 なんせ中身は解読不能な文字の羅列、しかも絵はほとんどなく、白黒で表紙に比べるとかなり質のおちるものだったのだ。そして、中身は恐らく召喚したゴーレム同士の戦いがメインの物語と言ったところだろう。文字の羅列が恐ろしく緻密で少々中身に興味は沸くが、内容と金額を考えると気落ちせざるを得なかった一品だ。

 

 しかし、今回の旅の友として持って来たのには訳がある。そう、以前初めてレジュリュビを見たときに既視感のような物がわずかにあったのだ。戦時中ですぐに忘れたが、その後、ふと以前から手付かずになっている希少本を手慰みにパラパラと捲っていた所でこの本に行き着いた。

 

 そう、どうもここに出てくるゴーレムの収納基地と思えるものが、クロア殿の考案した『レジュリュビ』に酷似しているのだ。そして、コレを解読できた暁にはクロア殿の発想の深淵に迫れるのではないかという魅力的な想像が芽生えてしまったからには手を付けずにいられない逸品となってしまった。

 

 自力での解読を試みてはいるが、可能であればこの「異界の言語」とも思える本の解読がこなせる異世界人が近くにいないものかと、そんな無体な想像をしてしまうのは致し方ないだろう。

 

 まぁ、ゆるりと読み進め、それとなくクロア殿との話の種にするのも良いかもしれぬな……。

 

 

 

 希少本との戯れと艦長殿との昼食が終わると、朝から酷使されていたであろう私の精神が解きほぐされ、いつの間にかベッドで寝ていたようだ。そして、起きてみるとすでに朝になっており、身支度を整えつつ、身体の調子を確かめる。

 

 不安に思っていたフネへの順応は初日ゆっくりしたおかげで問題ないようだ。この常に揺れる空間は慣れない者にとっては初日に張り切りすぎるとひどい目に会う事は乗る機会の多い私はよく知っている。

 

 だが、順応に成功したというのであれば、今日は艦長殿の暇を見計らい、彼らにこのフネの案内をして貰おうと思っている。まさに新しいフネなのだ。これから世界を変えていくであろうこのフネに関して、出来る限り多くの情報を仕入れておくべきであろう。

 

 身支度を終えたところでドアがノックされた。少々訝しげに思いつつも返事をすると、一言断り、若い士官が入室してきた。そして、私は彼の発した言葉に驚きを隠せなかった。

 

 「あと一時間ほどで軍港ロサイスへ入港予定です。桟橋からは連合軍の人間が案内してくれるようです。閣下がお使いになる馬車や先触れ、行き先に関して何か準備や言付けがあればお伺いいたしたく存じます。」

 

 そう言えば、ロサイスへの到着時刻に関して聞いていなかった。あと二三日かかると予測していたのだが、まさかこんなに早く到着するとは思っていなかった。

 

 ―――恐るべし、カスティグリア……。

 

 動揺を心の奥底に押し込み、笑顔で連合軍指令本部への先触れと馬車を頼むと、士官は敬礼して出て行った。艦内を見学するために軽く身支度を整えただけだったので、勅使としての仕事着に着替え身支度を整え、持って来た書類を軽く確認すると、ロサイスに到着したのだろう、甲板員の吹く笛の音が部屋まで届いた。

 

 そして、先ほどの士官が再び現れ、甲板まで案内され、艦長殿との挨拶もそこそこに、順調に私は軍港ロサイスへと足を踏み入れる事になった。

 

 私が桟橋へ降りるとすでに馬車が待機しており、連合軍の士官に出迎えられ馬車へと乗り込んだ。そして、カスティグリアの小型快速船を今一度目に入れておこうと考え、馬車の窓から外を見ると、すでにフネは「もう用はない」と言わんばかりにロサイスから離れていく所だった。

 

 確かに今回の案件は時間との勝負かもしれない。しかし、こう、優雅な船旅と馬車での移動がこれから始まる会合への癒しではなく、断頭台へと送るために急かされているようでどうも陰鬱になってしまう。

 

 まぁ、ここまで来たら断頭台を妄想のかなたへと追いやるべく努力すべきだろう。

 

 私が女王陛下の名代である事を示す百合の紋をはためかせながら馬車が総司令部が設置されている赤レンガの建物に到着すると、ド・ポワチエ将軍を始め、多くの高官が出迎えてくれた。

 

 しかし、彼らを動かしたのは女王陛下に預けていただいた名代という権限だという事はわかっているし、ド・ポワチエ殿の表情には期待のような物も浮かんでいる事からご機嫌取りである事は疑いようもない。

 

 彼らは「長旅の疲れを癒すため」という名目で歓待を申し出たが、こちらはもはやそれどころではない。出来るだけ時間を有効に利用し、交渉の準備をするべきだ。私のために用意されたという部屋に荷物を移すようポーターに告げると、会議室に案内して貰うことにした。

 

 会議室へと向いながら、「カスティグリア諸侯軍から連絡は?」と尋ねると、すぐ後ろを歩いていた参謀長のウィンプフェンと名乗る男が足早に私の横に来て「本日の正午ごろ会議のためこちらに来るようです」と返答した。

 

 デトワール殿に以前会っている事が幸いしただろう。彼の好むであろう作戦の傾向という物は基本的に緻密でいて余裕を持たされた素人にも察せられるような芸術的なものである。全てを知り尽くしているであろう彼は、時には強引に、時には柔軟に、そして何よりも相手の度肝を抜く事を好む。

 

 そして、同じく欺瞞や奇襲、そして強襲というものを好むクロア殿とはとても相性の良い人間だ。恐らく彼に下されるであろう指示は搦め手も含め、かなりの要素を持ちつつ、それら全てをまず隠蔽するため、威圧か無力のどちらかを装ってくるだろう。

 

 どちらで来たとしても油断せずに真摯に対応すればその辺りは問題ない。

 

 しかし、まず間違いなく「正午ごろ(・・)」というのにすら罠が仕込まれている。勅使としての勘がウィンプフェンから聞いた瞬間、かなり敏感に反応し、「恐らくかなり早めに到着する」と直感した。

 

 まだ午前中とは言え、やはりそれほど時間が残されているというわけではなさそうだ。しかし、彼らのカスティグリアに関する誤解を正し、注意事項を通達する時間は残されている。

 

 それならばクロア殿が「会議に出席する」というのであればいきなり最悪の事態になることはないだろう。例えばド・ポワチエを始めとした会議に出席する高官達がヘマをし、彼に杖を抜かれるなんて事は起こらないだろう。ソレを先に回避できるだけでも幸運なのかもしれない。

 

 

 会議室に入ると、長テーブルの一番奥に私が座り、左サイドに総司令官ド・ポワチエ、ゲルマニア軍指令官ハルデンベルグ侯爵、参謀長ウィンプフェンとその他高官といった階級順に座らせる。椅子の数は左側だけでは足りなかったが右側は全て空けさせた。

 

 「本来ならばそれなりの歓談の後に行いたかったものだが、かなり時間が押していると思われる故、時間が惜しい。すまないがまずは私の話を聞いていただこう。」

 

 そう言って唯一自分の手で持って来たカバンを開くと何枚かの羊皮紙を出し、よく見えるよう、彼らに提示する。

 

 「まず、この女王陛下とマザリーニ殿の署名が入ったものが示す通り、私は女王陛下の名代として今回派遣された。連合軍とカスティグリア諸侯軍の間で起こった問題を解決するのが、私に与えられた仕事だ。そして私に与えられた権限により、トリステインの軍人に対して独断で賞罰を与える許可すら与えられている。」

 

 それを示す蝋印の入った羊皮紙を広げて彼らに示すと、「おぉ」という感嘆の声が控えめにかなりの数が上がった。

 

 「そして、ゲルマニア軍指令官殿に対しても外交上の方針を判断する権限を持っている事を承知しておいていただきたい。」

 

 再びそれを示す羊皮紙を広げてハルデンベルグ侯爵に示すと、彼は「うむ」と深く頷いた。そして、参謀長に「カスティグリア」という単語が入った議事録を全て提出するよう求めると、少々いぶかしみながらも他の参謀に纏めて持ってくるよう言った。

 

 「確認すべき事が山のようにあり、取れる時間はかなり少ないと思われる。その辺り、ぜひご協力願いたい。本題はカスティグリア諸侯軍が出席してからになるが……、まず、ド・ポワチエ将軍と二人だけで話さねばならぬ事がある。申し訳ないが、他の者は少々席を外していただきたい。」

 

 女王陛下の名代という権力を如何なく発揮し、ド・ポワチエ将軍だけを残す。これから話すことは他の人間に聞かれるには少々都合が悪い。特にハルデンベルグ侯爵以下ゲルマニアの人間には聞かれたくないことだ。

 

 早々にドアをロックしサイレントの魔法を掛けると椅子に座り、少々動揺しているド・ポワチエ将軍に向き直る。

 

 「まず、ド・ポワチエ将軍。私は貴公を元帥職に推薦し、内定させる事も可能だが、貴公はそれを望むかね?」

 

 将軍にそう問いかけると、将軍は一瞬喜色満面の表情を浮かべたが、無理やり自制し、真剣な顔つきをした。心より望むものを「欲しいか?」と言われて笑顔で「欲しい」と言えるのは平民や野良メイジ、そして幼い貴族だけだろう……。

 

 いや、幼いわけではないが、クロア殿ならはっきり言いそうだ……。むしろ彼なら相手が誰であろうともはっきり言うだろう。実際にアンリエッタ姫殿下が女王陛下になった時にそのような事を口にした気がする……。

 

 しかし、「いらぬ」と言ったら本当にもらえなくなる可能性が高い。その葛藤はよくわかるが、いつ時間切れになるか分からないのだ。できるだけ早く答えてほしいものである。

 

 将軍は十数秒硬直し、「はっ!」と軍人らしい返事と共に立ち上がり、姿勢を正す。

 

 「お任せいただけるのでしたら望外の喜びではありますが、それを決めるのは私では無いと心得ております。まずは戦に勝ち、ホワイトホールに百合の旗を掲げる事を第一義とする所存であります。」

 

 「結構。座りたまえ。」

 

 私が笑顔で了解を示すと、将軍は一瞬笑みを浮かべ着席した。模範的な回答であろう。ただ、今のままであるならば恐らくホワイトホールにどんな旗を掲げようが彼は元帥にはなれないだろうが、最終確認だけをしておきたかっただけなので内容は別段重要ではない。

 

 そして、私は彼の協力を引き出すため、これから始まる交渉を無事に乗り切るために、取引とも言える残酷な宣言を行わなければならない。

 

 「将軍……。本来は明かさぬのだが、今回は故あって特別に明かそうと思う。数日前までであれば貴公はトリステインで最も元帥杖に近い位置におられた。しかし、現状、残念ながら貴公はその元帥杖から遠ざかりつつある状態だ。」

 

 今まで笑みや歓喜を浮かべぬよう我慢していたであろう将軍の表情に疑問と猜疑心のようなものが浮かんだ。こちらはあまり隠す気はないようで、眉間に皺が寄っている。

 

 「確かのあれだけの戦果を上げる独立諸侯軍や彼らと行動を共にするミス・ヴァリエールに対し、自らの昇格に脅威を覚えるのはわからぬでもない。」

 

 図星を指されたかのように将軍が何か口にしようとしたが、軽く手を挙げてさえぎる。まぁ、先ほど将軍が口にした本音と建前のうち建前の部分が省かれていることに対する抗議か保身のための自己弁護だろう。

 

 ただ、言質を取られぬよう遠まわしな言い方を好み、断固としてこのように直接的な言葉を口にする事のない勅使の私が「時間がない」という理由でその基礎概念を曲げている以上、わざわざ耳を傾ける気はない。それに、武官に合わせて直接的な物言いで彼に合わせているのだ。問題はないだろう。

 

 「が、しかし、だ。彼らはどのような活躍をしても元帥杖を望む事はないだろう。むしろ数日前までであれば自らの戦果を武器に、貴公を元帥に推したであろうと私は考えている。若さ故の純粋さもあるのだろうが、彼らはそういった貴族なのだよ。」

 

 将軍は「まさか」という驚愕を浮かべ、私が念押しで深く頷くと、眉間にさらに深い皺を寄せて目を瞑り、深い後悔と反省を全身で示した。

 

 分からなくもない。元帥杖を手にするために行ったであろう事は、自ら元帥杖を手放す事だったのだ。

 

 「彼らは己の欲をほとんど持たず、純粋に女王陛下と祖国のため、出来うる限り圧倒し、(いくさ)に勝つことしか考えていないのだ。それ故、彼らは年若いが女王陛下のお認めになった独立諸侯軍であり、それを指揮する最高指令官であり、直属の女官殿であるのだよ。

 つまりは諸君らの言いようで例えるのであれば、同じ駒でもそのあり方や価値感が全く違うのだ。

 ―――そして貴公に……、いや、今後、元帥杖を持つであろう人間に対し、女王陛下が望むのは、以前のようにただ戦果を積み上げ、政略的な調整を行いつつ戦に勝つだけではダメなのだ。」

 

 むしろ、女王陛下より前のトリステインであればそれだけで概ね事足りた可能性は高いのだろう。それに、先代、先々代の元帥であれば身内すらも名誉のために切る事をいとわず、その事すら武器にしたかもしれない。そして、政治的な駆け引きや宮廷の動きも察知できる人材を手元に置いていたのではなかろうか。

 

 恐らく、あのウィンプフェンという参謀長が本来ならばそのような役目を果たすべきなのだとは思うのだが、その辺り、全く期待できないのが残念だ。彼がただの参謀の一人ならば問題は無いだろう。しかし、残念ながら将軍や元帥の右腕としてであれば彼の力量は必要最小限であり、他に人材はいないのかと思わざるを得ない。

 

 「それでも将軍としてであれば問題ないだろう。しかし、数いる将軍の上に立ち、今後王軍を率い、女王陛下のお力になる事を望むのであれば、それでは足りないのだ。

 そして、さらに重要なのはその『女王陛下が自らお入れになった百合の御紋入りの駒』をいかに効率良く運用し、消耗させず、それでいて旧知の間柄の、そう、お互いに親友と明言できるほどの友好な間柄を築けるかが重要なのだよ。」

 

 このような事を私の口から言わねばならないというのは少々気が咎める上に、相手にとっても屈辱的な内容だろう。実際、将軍に対して文官の私が軍人の頂点たる元帥に関して諭しているのだ。

 

 しかし、本来ならば明かさないと最初に言った上で、彼に求める内容をかなり具体的に詳細を明かしている。私の言は嫌味ではなく助力と受け止める事ができているのであろう。彼には怒りや焦りといったものは全く見えず、真摯に耳を傾け理解に務めているようだ。

 

 「将軍、それらに関してカスティグリアという土地柄、そして彼らが貴公の子供や孫のような年若い人間だった事で見誤ったのは致し方のない事だったと思う。それらを勘案して、女王陛下、そして私やマザリーニ殿は将軍に道を残すべきと結論付けた。貴公が真に女王陛下のお力になれるよう私もマザリーニも貴公に期待するところが大きいのだ。」

 

 正直なところ、あの後、他にめぼしい将軍はいないのかとマザリーニに言ったのだ。実際、カスティグリアやミス・ヴァリエールからここまで不興を買ってしまったのであれば挿げ替えた方が早い上に、まだ時間的にもそれは可能だと感じた。というか、カスティグリアが戦争を終わらせる可能性が高いのでそれほど気にしなくても良いはずだ。

 

 しかし、残念な事に、真に遺憾ながら、今のトリステインには彼よりマシな将軍はいないらしい。今回は連合軍ということで、堅実な作戦を取り、人当たりの一番良い将軍が選ばれていたのだ。そして、マザリーニが言うには、他の将軍に挿げ替えた瞬間、連合軍がカスティグリアに焼き払われる可能性が高くなるという酷いものだった。

 

 「ご助言、そしてご助力かたじけない。どうやら私は目が曇っていたようですな。今後は女王陛下、ならびに諸兄らの期待に沿えるよう邁進すると女王陛下と始祖と祖国に誓わせていただく。」

 

 ド・ポワチエ将軍は目の輝きや言葉の強さ、そして彼の持つ雰囲気が、先ほどまでの「名声だけを求める将軍」ではなく、「祖国に尽くす軍人」へと変わっているように感じた。この変化には私自身にも覚えがある。そして、この将軍は信じられると私は評価を改めた。

 

 大事の前であり何の解決もしてないが、その事が私の望むべき第一歩だと実感し、少々笑みが漏れた。私は将軍に手を出すと、将軍も笑みを浮かべてその手を強く握った。

 

 そして、今の将軍であればもしかしたら心当たりがあるかもしれないという一抹の希望を持ちつつ話を振ってみることにした。

 

 「しかし、此度の件、連合軍はそれなりに譲る必要があると私は判断したのですが、クロア殿が何を望むか全く検討が付かないのです。ここがまた厳しい所でしてな。まず間違いなく大金や名誉といったものではないと断言できますが……。」

 

 将軍は少々考えた後、私の忘れていた事を口にした。

 

 「ふむ。以前勅使殿から王軍や空軍に対し、人員の引き抜きに関する要請を出されていたと記憶しておりますが、その件に関してこちらが譲るというのはいかがでしょうか。

 その程度で彼が納得するかは存じませんが、クロア殿は他の学生士官などとは違い、軍隊や戦場というものを分かっている節が多々見受けられます。できる限りこの戦争で彼らが命を失わぬよう取り計らいたかったのでしょう。」

 

 確かに以前、クラウス殿からそのような事が出来るか聞かれ、それとなく王軍と空軍に確認を取った事がある。別段要請まではしていないが、そう取られても問題がない範囲で抑えていたので問題はない。

 

 なるほど。妙案かもしれない。アノ獣は基本的に周りにいる人間を大切にする。彼が引き抜けないかと思うような人間であれば、そのカテゴリに入るのではないだろうか。しかし、そのような人間を代価にするというのは勘気に触れる可能性も否めない。

 

 それに、彼らとて、学生で志願するほどなのだ。家名や名誉、そして王国と女王陛下のために命を捨てる覚悟で志願したはずだ。と、なると、ただ引き渡しても問題が色々と残る。もし、戦果を上げてもそれはカスティグリア諸侯軍の上げた戦果となる上に、名誉の証である勲章などもカスティグリアが絡むのだ。

 

 彼らが将来的にもずっとカスティグリアに仕えるというのであれば問題はないが、そうでないならば、王軍や空軍で活躍し、トリステインの将軍や王国から下賜されるのとでは大きな差が出てくるだろう。

 

 「ふむ。悪くありませんな。しかし、彼らがそれを望まない限り、クロア殿の余計な節介になりかねません。その辺りを上手く調整し、クロア殿だけに分かるよう、それとなく名誉を預ける事が出来れば言う事はないのですが、はたして可能でしょうか。」

 

 「可能か不可能かで判断するのであれば可能だと言えます。しかし、こういった事は結局ある程度の違和感は残るもの。しかし、彼がそれを快く受け取るかはわかりませんが、損はないでしょう。やってみる価値はありそうですな。」

 

 ふむ。確かに将軍の言う通りだ。実際彼は先ほどまで自分の名声や勲章、地位と言うものに固執していた。そんな彼だから敏感にその辺りを察知できるのかもしれない。

 

 「そうですな。その辺り、任せても構いませんか?」

 

 「ええ、元はといえば我々が起こした問題ですからな。ぜひとも任せていただきたい。」

 

 「そう言っていただけるとありがたい」そう、口にしたときにサイレントがかかっているはずのこの部屋のガラスが揺れ、ビリビリという振動と共に大気が震えた。

 

 「なるほど、勅使殿が急がれた理由がわかりました。恐らく彼らが来たのでしょう。」

 

 そう言いながら将軍は窓の方を見て僅かに微笑んだ。

 

 時間切れと共に、事前の仕込みが整わなかった事に焦りを覚えたが、目の前にいるド・ポワチエ将軍の落ち着きが頼もしく思えた。

 

 「ふぅ、時間切れのようですな。もう少し準備をしたかったのですが、そもそも完璧に準備をしても杞憂に終わる事の多い相手ですからな。今回も杞憂に終わる事を祈りつつ、丸く収まるよう努力しましょう。」

 

 そう少しおどけながら会議の準備のため外に出て貰っていた人間を中に入れるよう将軍に伝えると、「はっはっは、確かに手ごわい相手のようですな」と言いつつドアを開けた。

 

 それからクロア殿が来るまでの間にできる限り参謀の持って来た議事録に目を通す。カスティグリアに関してはド・ポワチエ将軍が焦りを見せ、ウィンプフェンがそれに対し意見や提案をするといったものが多い。しかし、どうやら一番気がかりだったゲルマニアの侯爵殿は特に気にはしていないようだ。

 

 ただ、クロア殿のことだ、こちらに対する要求に原因の究明や再発防止などを盛り込んでくる可能性が高い。当然といえば当然なのかもしれないが、交渉の場でそのような要求をしてくるのはクロア殿くらいなものだ。

 

 あの学院でそのような経験をするまで少なくとも私はそのような要求をされた事はない。いや、実際にそのような事を言われた事はある。しかし、愚痴や嫌味といった類のものや、こちらの譲歩を引き出すための口実であり、明確な要求という形で受けたのはあの時が初めてだった。

 

 そう、普通に考えれば、そのようなミスで譲歩を引き出されるというのは屈辱的なことであり、引き出す方にとっては大きな損害を被らない限り二度三度あるたびに使う事のできる武器なのだ。むしろクロア殿はそのような事を要求したため、後々使えるかもしれないその武器を自ら破棄したとも言える。

 

 そして、クロア殿は勘がするどい。司令部が送ったあの命令書だけですでに原因はわかっているだろう。しかし、そのクロア殿が感じた原因がド・ポワチエ将軍が戦功を焦ったという事だけであればすでに問題は解消されている。

 

 だが、それだけでない可能性があるのだ。そして、もしそのようなものが存在した場合、それに絡めてこちらにとって厳しい条件を突きつけてくる可能性が高い。

 

 私の全てを灰にするような内戦の費用を従軍経験で賄おうなどと考えるような相手だ。今回はそのような事は全く無いと誰が断言できるだろうか。

 

 そして、今回はあの時とは違い、私は途中から参加することになる。この件が起こりうる原因は恐らく彼らがクロア殿と接触してから今に至るまでの間に散見されるはずだ。しかし、かなりの日数があり、私がこの件に関して知りえているのはド・ポワチエ将軍とあの命令書くらいなものなのだ。

 

 ―――だが、私の焦りをあざ笑うかのように無常にも時間が過ぎ、そのような確かな原因を見つける事は適わなかった。もはや後手に回るが、その場で対処するしかないだろう。

 

 

 彼らの来訪が衛兵によって伝えられ、ドアが開かれると、先頭はアグレッサー隊の隊長殿だった。恐らく護衛のつもりで連れてきたのだろう。しかし、彼は私と目を合わせると軽く目礼してもう一人の隊員とドアの脇にずれた。

 

 そして、クロア殿とモンモランシー嬢が姿を見せる。クロア殿はやはりあの老獪で獲物を探すような赤い視線を撒き散らしていた。しかも、恐ろしい事に彼の身体から薄っすらと何かが立ち上がっているようで、それが小柄な彼を少し大きく見せている。恐ろしい……。

 

 しかし、モンモランシー嬢に手を引かれて彼の席に近づき、私と目が合うと、クロア殿を包んでいた老獪で凶暴な獣が獲物を狙う雰囲気が完全に消し飛び、いつものクロア殿に戻った。いや、むしろ私がここにいる事にかなり動揺しているようだ。

 

 取り合えず挨拶を交わしたが、私の「勅使」と「査問会議」という言葉にあからさまに反応し、警戒し始めた。むしろクロア殿のためにやってきたようなものなのだが、査問されるような心当たりがあるのだろうか。それはそれでかなり不安である……。

 

 私が今回の査問会議の内容についての口上を終えると、クロア殿はホッとしたようだ。そしてなぜかこちらを目をキラキラさせて見ている。取り合えずこちらを味方と認識してもらえたようだ。第二段階は成功だと言っていいだろう。

 

 あとはいかに連合軍を救うかにあるのだが、ウィンプフェンやハルデンベルグ侯爵に忠告するよりも現状把握に時間をつぎ込んだのが間違いだったのかもしれない。作戦の方針に関してハルデンベルグ侯爵が怒りと共に申し開きしたと思ったらウィンプフェンと怒鳴り合いになってしまった。

 

 それくらいなら問題ないのだが、ウィンプフェンがハルデンベルグ侯爵を馬鹿にするために口にした『火の系統』を貶す言葉が悪かった。

 

 そう、もう一人この部屋には火の系統の人間がおり、この部屋では恐らく最強を誇るであろうアノ獣も火の系統なのだ……。ウィンプフェンのこの暴挙は、伝説にまでなっている『烈風』殿の前で風の系統を馬鹿にするようなものなのだ……。

 

 その言葉が出た瞬間、二人を止めるかクロア殿を宥めるかする必要があるだろうと判断しつつも躊躇したのが悪かったのだろうか……。私の右側に座るクロア殿に視線を移すとクロア殿は僅かに頬を釣り上げて嗤っていた。

 

 しかも恐ろしい事にクロア殿は赤い瞳を爛々と輝かせながら濃密な気配を漂わせている。そして何かが身体から立ち昇ったと思ったら、ソレにあわせるようにふらっと立ち上がりつつあっさりと杖を抜いた。

 

 「『臆病風』のウィンプフェン殿……。そう、火の取り扱いにはご注意せねば……。なに、この『灰被り』が一瞬で遺灰にして差し上げる故、ご案じめさるな……。」

 

 杖に手をかけた二人が言い争いをしているにも関わらず、クロア殿の声が、死神が冷たい手をヒタっと背中になでおろすように部屋中に浸透した。そして、誰もがクロア殿を見、誰もが動けずにいた。

 

 ここで動かねば人が死ぬ事になる。ウィンプフェンだけならばまだ許容できる。むしろ、クロア殿の言う通り、国家の存亡を賭けた戦争で陛下の名を道具のように使い、自分の政治の道具にしようとする人間など論外だろう。

 

 しかし、クロア殿の魔法を見た事はないが、彼の魔法は全高三十メイルのゴーレムを一撃で塵に返すと言うすさまじいものだ。そして、恐ろしい事が脳裏を掠めた。かの高名な『烈風』殿は手加減が苦手という話を聞いたことがあるのだ。

 

 ならば、クロア殿も手加減が不得手でもおかしくない……。彼が誰よりも愛する婚約者殿はまず大丈夫だろう。しかし、私の左側にいる連合軍の司令部にいる人間が一人残らず灰になったとしてもおかしくない。

 

 しかも、彼があっという間に唱えた魔法はファイアー・ウォールだった。連合軍司令部の人間が一瞬で全員灰になるというイメージが私の脳裏に明確に浮かんだ瞬間。クロア殿を止めてるべく私は叫んでいた。

 

 「クロア殿! クロア殿! 落ち着かれよ! クロア殿、ここは処刑の場ではありませぬぞ! そこの二人、死にたくなくばおとなしく座れ!」

 

 以前もこんな事があったような気がするが、私の沽券をかなぐり捨てた言葉は今回も彼に届いたようだ。隣に座る彼の婚約者も杖を収めるよう彼の手を包んでいるが、「灰にするなら後で」とは、なんと言うか……、まぁ彼が望むのであればそれでも構わないがその時はウィンプフェンだけにして欲しい……。

 

 そんな中、クロア殿はあっという間に落ち着いたようだ。しかも、抜いた本人がなぜ杖を抜いたのかわからないというような疑問を浮かべつつ照れている……。お、恐ろしい……。やはり野生の獣……。

 

 普段はその深い思考と知識が如実に際立ち、忘れがちだが、なぜか杖に関しては大して考えもせずにホイホイ抜くのだから恐ろしい……。

 

 取り合えず場を収め、ウィンプフェンに申し開きを促すと、少々見苦しい言い訳を展開した。

 

 「そこで思い至ったのです。もし、そのような戦果を上げたとしても、それらの戦果はミス・ゼロの上げたものではないかと。そして、それならば全ての筋が通ります。

 今思えばそこにいるクロア殿が初めてヴュセンタール号で行われた会議に出席したとき、自分の婚約者の前で彼女との付き合いを匂わせたのも、戦争が始まる前から彼女のためにフネを一隻用意したのも、そして、何より頑なに手放す事を拒否するのも、ミス・ゼロの上げる全ての戦果を独占するのが目的だったのでしょう。

 そうであろう? クロア殿。査問会議での隠し事はあなたの為になりませんぞ?」

 

 陰謀を餌にするスズメの言いそうな事ではあるが、そこまでひどい論理はあまりお目にかかれないのではないだろうか。大体、そこまでルイズ嬢の才能だけで戦果を上げられるのであれば、女王陛下の直属の女官などではなく、名代や代行として参戦しているのではなかろうか。

 

 それに、クロア殿がルイズ嬢を自艦隊に引き込んだのは艦隊の独立的な行動を完全な物にするため、および彼女を保護するためと考えた方が自然だろう。まぁウィンプフェンは彼らの事を知らないのだ。仕方がないのかもしれない。

 

 ただ、第三者の私が無表情を装っているというのに当のクロア殿は今にも大笑いしそうないい笑顔を浮かべている……。まぁぶっちゃけ私も彼の隣に座っていたとしたら大笑いを誘発したかもしれんが……。何か悔しい気がするのは気のせいだろうか……。

 

 まぁウィンプフェンの誤解というか喜劇を見ていたい気もするが、私の腹筋が耐え切れるとも限らない。早々に誤解を解いておくべきだろう。

 

 「ウィンプフェン殿。まず一つ間違いを訂正しておこう。カスティグリアの上げた戦果を何の疑問も持たずに信じるというのは難しいのかもしれない。だが、確かなのだよ。私も諸君らと同じように今回は現場を見たわけではないが間違いなくそのような戦果が上げられており、限りなく正確な報告書がデトワール殿によって書かれているのだ。そうであろう? クロア殿。」

 

 誤解を解きつつ「一人で楽しむのはやめたまえ」という含みを持たせてクロア殿に振ったのだが、この感じは恐らく通じていないだろう。全くこちらの事を気にせず、彼はここからが本当のお楽しみと言い出しかねないような楽しそうな笑みを浮かべたままだ。

 

 そして、どう見ても申し訳ないとは思っていない謝罪をした後、クロア殿は気になる事を口にした。

 

 「ただ、現在までに彼女は確かに功績(・・)をあげておりますが、戦果はあげておりません。そう、彼女と彼女の護衛はまだ純潔であり、その手を血で汚すような事はしておりません。」

 

 ふむ。確かにアノ作戦書を見た事のある私の視点からでも恐らく出番があったとしてもルイズ嬢とその使い魔殿は最後くらいしか出番がないだろう。しかし、ルイズ嬢が功績を上げている……? 

 

 戦果ではないという事から恐らくは折衝や政治的なものだろう。アノ作戦書で思い当たる節は『アルビオン王族の生き残り』を探すというかなり運の絡む副次的なものだ。そのような人物が存在し得るのか甚だ怪しい上に、今でもなぜあのような事が書かれていたのかという疑問の方が大きいが、もしかして見つかったのだろうか……。クロア殿ならやりかねない事が恐ろしい……。

 

 ふむ……。これは後ほどクロア殿に詳しく確認する必要があるだろう。そして、諸侯軍の作戦書に沿った行動であるからして、いかに密談のための密室を作ったとしてもここで話すのは愚行と言えるはずだ。そう、この件に関しては後ほどレジュリュビを訪れる必要があるはずだ。

 

 うむ。決してシエスタ嬢の紅茶を飲むためではない。いや、レジュリュビで話をする以上、彼女の紅茶が出される可能性は高いし、彼女の入れる紅茶がもたらす癒しが今切実に恋しいのは確かだ。しかし、断じてそのためではないのだ。もし、その辺りの話が私の思い違いだったとしても、何としても後ほどレジュリュビを訪れる必要があるだろうて……。

 

 そんな事を考えつつ話を聞いていると、どうやらクロア殿は矛先を他に向けるようだ。つまり、彼が言うにはウィンプフェンが勘違いしたのは連合軍にあったであろう『噂』が原因であり、その噂を広めた人間はトリステインに謀略を仕掛けるために参戦した可能性が高いとの事だ。

 

 なるほど、確かにそのような人間がいてもおかしくはない。カスティグリアの戦果はおかしいが、基本的に戦争というのは人が死んだり行方不明になるものなのだ。負けが込み始めれば脱走などでの行方不明者も多くなる。しかも連合軍という雑多な集団の中に諜報員が紛れ込んでも見つけるのは困難かもしれない。

 

 だが、カスティグリアのように戦争中ですら情報の隠蔽に気を使うような軍がルイズ嬢を確保している限り、外部の者が彼女と接点を持つ事は難しいし、彼女に関する情報も人づてにならざるを得ないだろう。

 

 そして、もしそのような人間がいたとしたら、このような事体はかなり予想外だったはずだ。噂を流し、司令部を動かそうとしたというクロア殿の推論に沿って調査をする価値はあるはずだ。

 

 ウィンプフェンはこの話に乗り、今までの誤解は全て誰かの謀略だと結論付けた。まぁ本気で彼の言を信じている者はこの場に誰一人としていないのだろう。しかし、当のクロア殿が子供のような純真な笑顔でソレを肯定しているのだ。

 

 あの笑顔は誰が見ても怪しいと思える……。

 

 だが、一度不興を買い、死の直前まで進んでしまったウィンプフェンであればそれこそ必死に内定調査を行うだろう事を考えると、ウィンプフェンが漏らした失言の数々をクロア殿が自らあの笑顔で封殺しようとしているとも考えられる。

 

 そして、結局、その事に関して誰も口を挟むことができず、ド・ポワチエ殿の命令でウィンプフェンが調査をする事になった。

 

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか(汗) なぜか筆が止まった第50話でした。
 前半部分はサクサク書けたのですが、モットおじさんとウィンプフェンのやり取りが何度書いても露骨だったりモットおじさんの深読みがクロアくんの妄想エンドレスバージョンになっちゃったりと迷走しまくりだったのでもう思い切ってガッツリ削り取りました(テヘ

 そんなわけで、話の内容が全然先に進まないというちょっと後ろめたい感じでの投稿と相成りました。マジすいません。次話は早めに投稿しようかと存じます。

 ええ、実は私、イベント苦手でして……。クリスマスとかなくなればいいのに……(ボソ
 恋人がいるいないとかそんなんじゃなくてですね。マジで逆イベント補正のかかる日なんですよ。12/24,25は出歩くとほぼ災難や嫌な事が起こるともはや決定されているのです。お気に入りの限定車が僅か半年で貰い事故に遭い中破して廃車寸前になったり……、買った物が大抵不良品だったり……、買い物に行くとなぜか売り切れてたり……。
 ちなみに「HAHAHA 大丈夫だよ。一緒に買い物に行こう!」と誘われて、「ま、まぁちょっとなら大丈夫かな?」と車に乗せられ買い物に行ったら帰りにその人の車、バッテリーがあがって動かなくなりました。
 うん。外出は控えようと思いました。

 あ、感想……、欲しいのですが、貰うのが怖い! え、えーっとどうしよう!? ここここんな日にアップなんてやっぱ無謀だったのか!? いえ、いただければとても嬉しいのでちょっと怖いけどよろしければお願いしますorz(土下座


作者「次回もモットおじさん編だと思うのですが、クロア視点も捨てがたい……。うーん。」

クロア 「おい、作者! おれ! しゅじんこう! だから!」
モット 「作者殿。そろそろ私の体を労わってもらえないだろうか」
ポワチエ「セーーーーーフ! 首つながったあああああああ!」

ルイズ 「空で紅茶なんて優雅でステキね。ちいねえさまに土産話ができたわ」
サイト 「わん……」

 次回おたのしみにー!

 -追記-
 作中に出てくるガンダム0083の小説の挿絵に関してなのですが、残念ながら上巻しか見つからなかったので下巻にアルビオンの挿絵があるか不安です。二択で下巻を採用しましたが違ってたらご指摘いただけたらと存じます><;

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