ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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うおおおお! 日曜日に間に合った! ええ、がんばりました^^
それではどうぞー!


40 連合軍の会議

 侵攻作戦の開始予定日まで一ヶ月を切った。現在俺とモンモランシー、そしてシエスタはレジュリュビに生活の場を移している。ここでの資料作りは禁止されているので、日々チェスの本を読みふけりながらチェスの練習をしている。ガリアの王様とチェスをやる事はなさそうだが、もしかしたらあるかもしれないので練習をしている。

 

 クラウスにチェスの話を振って何度も彼と対局して全敗したのが理由ではない。笑顔で毎回そんな様子を見ているモンモランシーやシエスタが理由なのでもない。いや、ぶっちゃけクラウス攻略法をガリアの王様に聞いたほうが早いのかもしれない。いやいや、それではなんというか……、まぁ気にしないようにしよう。

 

 そして、モンモランシーは授業に出る代わりに俺の部屋を訪ねてきてくれたり、時折隣に停泊しているフネにあるルイズ嬢の部屋に出向いてはその時の話をしてくれ、シエスタは艦内での生活環境に慣れる努力をしている。

 

 レジュリュビは現在カスティグリアの所領となったタルブ村の以前あった空軍基地に停泊している。空軍基地も元通りに再建され、基地への補給物資と一緒に運ばれてきたモンモランシやカスティグリアからの輸入品がタルブ村に出回ったりと村自体も少し活気付いている。

 

 最初は村の人たちに嫌がられるかとも思ったのだが、すでにタルブ領主が父上に代わったことが周知されており、防衛戦ではタルブ村を焼かれたとはいえ人的被害がほとんどなく、その後の援助もちゃんと行われていたため、むしろ大歓迎された。

 

 タルブ村ではワインの原料であるブドウやショーユやミソの原料となる大豆、そして麦などが主に栽培されている。ほぼ全員農家なのだが、三男四男坊などが出稼ぎに行ったりしているらしく、カスティグリアの空軍やあの戦いを見たり、話題になるたびに空軍に入りたいという人間が出てきているそうだ。

 

 その辺りの管轄はぶっちゃけ父上やクラウスなので俺に言われても困るが、基地の整備などは彼らに任せてもいいかもしれないし、タルブの空軍基地からタルブ村までは多分子供でも歩いていける距離なので彼らにはちょうどいいかもしれない。そんなことを一応伝書フクロウで現地の状況報告として父上に送っておいた。

 

 そして、500m四方の空き地にレジュリュビとゼロ戦対応の新型竜母艦が揃って鎮座しているわけなのだが、新型竜母艦も規格外にでかい。通常、戦列艦は大体全長70~100mで、今回の侵攻作戦のためにトリステインが新造した戦列艦は全て全長70mのものだ。それに、トリステインの新型竜母艦も戦列艦よりちょっと大きい程度だったはずだ。

 

 巨大戦艦と評されたレキシントンが全長200m、規格外の大きさであるはずのレジュリュビの全長は300m、そしてなぜかこの新型竜母艦も全長300m……。でかすぎではなかろうか。カスティグリアの竜母艦の新規格が全長300mで統一されてしまったのだろうか。いや、きっとゼロ戦が安全に離着陸できる長さにしたに違いない。違いないのだが、少し不安になってきた……。

 

 ただ、この新型竜母艦は基本的にレジュリュビの設計を参考にして作られたのだが、一応試作艦という位置づけに留まっている。そして、艦の名前を決める時に、ゼロ戦やタルブ村にちなんだものが良いだろうとのことで、サイトにも話が行き、『タケオ』に決まった。

 

 シエスタの曾祖父の佐々木さんの名前なのだが、サイトがゼロ戦と邂逅したときにゼロ戦の出所を知りたがり、クラウスがシエスタの生家に案内したそうだ。そして、サイトが佐々木武雄氏の墓を訪れ墓石に刻まれた文字を読み、シエスタの父から武雄氏の事を聞き、ゼロ戦以外の遺品を引き取ったらしい。そんなことがあってゼロ戦のために作られたのならとタケオに決まったということだ。

 

 タケオの外観はレジュリュビのような双胴艦といった風体ではなく、船体幅は30mで上面は平らな飛行甲板になっており、艦橋が中央右端についている。そして、ゼロ戦を参考にしたのであろう巨大な水平の主翼が胴体の中ほどに複葉機の翼のようなものが四枚と船尾に尾翼が二枚ついており、胴体中ほどの主翼それぞれには巨大なプロペラがついている。主翼まで含めた全幅は50mほどで船体の割りに翼の長さはかなり短い。巨大な蒸気機関が船内に配置され、シャフトで動力を伝えるらしい。

 

 すでにテスト飛行は行われ、カスティグリアとタルブを何度も往復しているそうだ。速度的にはレジュリュビとあまり変わらないのだが、消費される風石の量が通常の戦列艦とあまり変わらないというエコなフネに仕上がっている。ただ、その代わり全体的に装甲が薄く作られているそうだ。通常のレキシントンに積まれていた大砲などの砲撃には耐えるのだが、ゼロ戦の20mmだと貫通するらしい。重要部分と艦橋だけは頑丈に作ったそうだが、レジュリュビの規格から考えるとちょっと怖い。

 

 主翼は全体から見るとかなり小さいがエコなフネに仕上がっているということは効果があるということだろう。さすがカスティグリア研究所である。ぶっちゃけ蒸気機関よりも高出力で軽量なガソリンエンジンなんかを作れるようになったらゼロ戦の量産化なんかも出来てしまうのだろうか……。それともファンタジー式の飛行機が生まれるのだろうか。少し楽しみではある。

 

 しかし、まぁ翼が脱落すると一気にバランスを崩し、浮力を風石のみに頼ることになるので、その辺りは片方の翼がダメになったら両方の翼をパージして爆破するらしい。そして、風石の消費量があがるため、かなり余裕を持って積んでいるらしい。

 

 ただ、どう見ても翼部分が打たれ弱そうな上に、機密の多いフネなのでゼロ戦や竜を運ぶくらいにしか使えず、大砲などの武器は搭載されていない。そして、敵地で墜落や拿捕された時のための非常用の手段がかなり取られている。脱出用の小型艇がいたるところに搭載され、隠滅のため初の完全自爆機能付きのフネとなっている。カテゴリ的には戦闘用の竜母艦というよりテスト用や輸送用の竜母艦といった位置づけになっているようだ。

 

 俺はぶっちゃけあまり乗りたくない。しかし、ルイズ嬢とサイトはこの竜母艦『タケオ』に乗艦しており、狭いながらも個室がそれぞれに割り当てられている。乗るときに二人は“カスティグリアの機密の詰まったゼロ戦のために作られた新型”ということでかなり喜んでいたのだが、内情を知って真剣に避難訓練を何度もやっていたらしい。いや、避難訓練はレジュリュビ以外どのフネでもやるのだが、タケオに関しては自爆もありうるので乗員はかなり真剣に訓練するらしい。

 

 そして、サイトは毎日タケオの上部にある飛行甲板で着艦と発艦の訓練を行っている。最初はびびってたらしいが、今ではかなり慣れてきたそうだ。

 

 実はゼロ戦にも少し手が加えられており、風石を使ったマジックアイテムで離艦と発艦の際の衝撃を減らしているそうだ。そんな感じでサイトとカスティグリアの研究所員が意見を交わし、ゼロ戦のファンタジー化が進みつつある。ゼロ戦に積んである通信機を模倣できればかなり通信が楽になるのだが、そちらは今のところハルケギニア式のマジックアイテムを搭載している。

 

 そして、以前拿捕したレキシントンにはアルビオンにいたミョズニトニルンが携わって作られた東方の技術を組み込んだ新型の大砲が積んであったのだが、それをこっそり二門ほど拝借したカスティグリア研究所があっという間に解析し、カスティグリアで量産された。

 

 別段大して機密にする必要はなかったため、トリスタニアにもこの件に関しては流されており、トリステインは新造する戦列艦にこの砲を使うことにしたらしく、カスティグリアに製造依頼が来たそうだ。ただ、カスティグリアとしてはすでに元込め式の大砲の研究が完成までもう一歩といったところまで進んでいる。その上、完成を見越して量産体制も整いつつある状況になっているので、このアルビオンの新型の大砲は作った分をほとんどトリステインへの輸出に回しているらしい。

 

 「カスティグリアでも使いたいんだけどトリステインの王軍や空海軍が優先だよねー」と言ったところだろうか。これである程度ごまかせるだろうし、外貨も稼げてかなりおいしいと思う。まぁある程度ごまかすため、戦列艦の大砲もアルビオンの新型大砲に変更された。

 

 しかし、本命の大幅に変更された部分は極秘扱いになっている。戦列艦の三層あるガンデッキのうち一層分が大砲から劣化20mm機銃と劣化7.7mm機銃に変更された。そう、実物よりはかなり劣化しているがついに機銃の量産化に成功したのだ。おおよそだが、戦列艦一隻あたり大体32門の大砲が4基の20mm機銃座と28基の7.7mm機銃座に変更され、銃弾と交換用の銃身が大量に用意されている。

 

 ガンデッキに搭載するために回転式の機銃固定台に関してはこっそり俺も設計に関わっている。そして、薬きょうなどの回収が出来るよう、フネも機銃も少し改造された。機銃用のガンデッキは一番下なのだが、そこから更に下の船底近くの層に排出された薬きょうなどが送られ、回収しやすいようまとめられ、再利用しやすいようにしてある。

 

 ぶっちゃけデッドコピーな上、かなりの劣化コピーなので命中率や有効射程距離、耐久性に関してはあまり期待出来ない。特に20mmは100発ほどで銃身の交換が必要になるという酷さだ。その上、レジュリュビやこちらの戦列艦のような装甲は抜けないし、やたらとコストが高く付くためちょっと使うのにお金を気にする兵器になってしまった。しかし、対人や対空の面制圧にはかなりの効果が望めそうだし、基本的に木製の敵戦列艦などには効果がありそうなので現状でもある程度量産したそうだ。

 

 そして、劣化7.7mmなどは人間相手にしか効果を望めないのだが、20mmよりはコストが安く、敵艦の甲板制圧や対地攻撃での面制圧にかなり期待が持てるとカスティグリアでも判断された。しかし、何よりも評価されたのが火竜隊の装甲をこれでは抜けないということだった。つまり、敵船の拿捕の際や、乱戦時でも火竜隊くらいなら味方への誤射を気にせず使えるだろうというちょっと怖い理由だった。

 

 ふむ。そう考えると、今のところかなりのオーバースペックと言っていいのかもしれない。というか自由落下爆弾もあることだし、囲んで空から一方的に叩けば相手が十万だろうが百万だろうがあまり変わりが無いのではなかろうか。

 

 というか戦車の資料も昔作ったのだが出番がないかもしれない。風石があるので小型艦の装甲を分厚くするだけで戦車の代わりになってしまいそうだ。諦めたほうがいいかもしれない。

 

 

 

 そして、そんなレジュリュビの生活に慣れてきたころ、連合軍の作戦本部を訪問する日がやってきた。連合軍の作戦本部はラ・ロシェールに停泊するトリステイン空海軍の旗艦であるトリステイン王国で作られた新型竜母艦ヴュセンタールに設置されているそうで、俺とモンモランシー、そしてルイズ嬢とサイトがアグレッサーの風竜に運ばれた。

 

 ちなみに、ラ・ロシェールはトリステイン最大の港であり、ラ・ロシェールの上空に着くと木になる実のようにそこら中に船が古代の世界樹に停泊しているのが見えた。この中にはカスティグリアの戦列艦や小型艦も含まれており、なぜかカスティグリアのフネはレジュリュビとタケオ以外全て赤く塗装されているのですぐにわかった。

 

 灰色とか水色のような航空迷彩の方が良いのではないだろうか。カスティグリアの趣向がたまによく分からない。いや、きっと三倍速いから赤いのだろう。うん。蒸気機関も積んでるしな……。

 

 そして、ヴュセンタールには上面に飛行甲板があり、マストは左右三本ずつに突き出した形になっている。蒸気機関やプロペラだけでは量産や航続距離を稼ぐのが難しいため、カスティグリアでもレジュリュビやタケオ以外のフネは帆走も行うのだが、帆走オンリーの純粋な帆船に乗るのは初めてかもしれない。

 

 ヴュセンタールの飛行甲板に降り立つと、空海軍の士官らしい人が十数人で迎えてくれて、モンモランシーに手を引かれながら船尾にある王軍の作戦本部となっている会議室に案内してくれた。一応護衛でアグレッサーの隊長殿と副官殿が一緒に来てくれるらしい。まぁぶっちゃけいらないとは思うのだが、彼らもトリステインの新型竜母艦の内部を見てみたいのだろう。

 

 会議室の前で案内してくれた士官が真っ白なマントを付けた近衛のようにも見える当番兵に名前を告げると、「ようこそ、ヴュセンタールへ」と俺たちに笑顔を向けたあと、会議室の中に入り、迎え入れてくれた。

 

 会議室の内部は真ん中に長いテーブルが横向きに置いてあり、奥の真ん中に金モールと様々な勲章で飾りつけられた美髭の男が座っていた。彼が恐らく総司令官のド・ポワチエ大将だろう。そして彼の右隣にいる角の付いた鉄兜をかぶったカイゼル髭のゴツイ人がゲルマニア軍指令官のハルデンベルグ侯爵で、逆隣にいる皺の深い小柄な人がウィンプフェン参謀総長だろう。皆四十歳くらいに見える。

 

 他に何人か将軍や艦長と思わしき両肩に金モールをつけた人間がいるが紹介されたところで覚えきれる気がしない。ぶっちゃけこの三人だけ覚えておけば問題ない気がする。

 

 「アルビオン侵攻軍総司令部へようこそ。ミスタ・“灰被り”、ミス・“虚無(ゼロ)”。総司令官のド・ポワチエだ。」

 

 総司令官殿が真っ先に挨拶してくれたので、こちらも挨拶する。

 

 「お招きに預かりまして、大変光栄です。カスティグリア諸侯軍、最高指令官のクロア・ド・カスティグリアです。こちらは婚約者のモンモランシー。以後お見知りおきを。」

 

 軽くお辞儀して、モンモランシーも紹介すると、彼女もきれいなカーテシーをした。護衛についてきてくれた隊長殿と副隊長殿は名前を知らないので、申し訳ないが適当にそれっぽくしていてもらうしかない。

 

 「お招きに預かりまして、大変光栄です。女王陛下の女官でゼロ機関の長を務めております、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。こちらは護衛のサイト。以後お見知りおきを。」

 

 ルイズ嬢も同じく自己紹介とカーテシーを行い、サイトは「ど、ども」とか言って軽くお辞儀した。すると、総司令官殿は少し優しい笑みを浮かべて軽く何度か頷くと隣に座る人間を紹介してくれた。

 

 「こちらが参謀総長のウィンプフェン、そしてこちらがゲルマニア軍司令官のハルデンベルグ侯爵だ。」

 

 ウィンプフェンは軽く頷き、ハルデンベルグ侯爵は重々しく頷いた。

 

 「さて、各々方。揃ったところで軍議を始めましょう。ミスタ・カスティグリア、ミス・モンモランシー、そしてミス・ゼロはそちらにおかけください。」

 

 薦められた椅子に座ると、軍議が始まった。トリステイン・ゲルマニア連合軍は基本的にド・ポワチエ将軍が総司令官を務めており、最終決定は彼がするのだろう。しかし、連合軍という形態のため、トリステイン軍のトップであるド・ポワチエ将軍に彼の補佐をする参謀総長のウィンプフェン、ゲルマニア軍指令官のハルデンベルグ侯爵に、カスティグリア諸侯軍最高指令官の俺、あと定員二名のゼロ機関トップのルイズ嬢という最高指令官クラスが五人もいるので、中々カオスな状況になりそうだ。

 

 ド・ポワチエ将軍の役割はどちらかと言うと総司令や将軍職というよりも緩衝材としての役割が求められそうだ。そう考えるととても苦労が多そうで鳥の骨化しそうな気配漂う恐ろしい地位である。うむ。

 

 そして、そんな総司令官殿が「ウィンプフェン」と声をかけると、参謀総長殿が今分かっているこちらの戦力の確認とアルビオンの戦力の確認と主要な場所の説明を始めた。アルビオンの戦力に関しては複数の捕虜からの聴取により、ある程度確度の高いものだそうだ。

 

 アルビオンの戦力は戦列艦が約40隻、メイジや幻獣を含めた兵力が約五万、加えて竜騎士が百以上いるらしい。この竜騎士が戦列艦を中心とした敵空軍や歩兵などに随伴するかどうかは不明だが、恐らく主任務は首都近郊の空の防衛や伝令、偵察といったところだそうだ。

 

 カスティグリアとしては敵竜騎士の数が多すぎな以外は別段単独でも勝てそうな相手だ。まぁ相手の竜騎士の数はこちらの倍だが、タルブ防衛戦で当たった感じでは大した被害もなく勝ってしまいそうでもある。それに敵竜騎士は基本的に対空戦や対歩兵戦くらいしかできないだろう。ただ、敵戦列艦とうまく連携されるとこちらの対艦攻撃部隊の主力である火竜隊が近づきにくくなるかもしれない。

 

 まぁ風竜隊が自由落下爆弾を運びつつ相手の竜騎士が出てくるようなら爆弾を破棄して空戦でもいいのだが、相手が全力で戦力を投入してきた場合、こちらの戦力を抜けて補給艦への攻撃を敢行してくる可能性もある。さらに敵が二手以上に分かれており、こちらの戦列艦や風竜を誘引した隙に補給艦を叩かれるのが一番痛いかもしれない。

 

 タルブ防衛戦では保護対象であるタルブ村にすでに侵攻されており、他に保護対象がいない上、戦力もこちらが圧倒していた。しかし、今回は保護対象として連合軍だけでも440隻も輸送用のガレオン船があり、カスティグリアの輸送艦も30隻ほど行動を共にする。そして、敵戦列艦の数は以前の倍、竜騎士の数は最大百騎の約五倍。というか440隻はさすがに多すぎではなかろうか。原作ではどうやって守っていたのだろうか謎だ。

 

 しかし、そのようなことは問題ではなかったようで、アルビオンに六万の兵を上陸させるためのウィンプフェンの上げる障害はたった二つだった。一つは迎撃に出てくるであろう戦列艦四十隻を筆頭にしたアルビオン空軍。そして、もう一つは上陸するための港の選定。

 

 六万の兵を降ろせる港は首都ロンディニウムの南に位置する空軍基地ロサイスか、北部に位置する港ダータルネス。規模からいってロサイスが望ましいのだが、まっすぐそこを目指すのであれば敵に迎え撃つ時間を与えてしまうそうだ。

 

 「強襲で兵を消耗したら、ロンディニウムの城を落とすことは叶いません。」

 

 ウィンプフェンが冷静に分析してそう口にすると他の参謀記章をつけた人が続けた。参謀としては強襲ではなく奇襲でなんとか無傷で六万の兵をロサイスに降ろしたいらしい。そこで、相手の艦隊を壊滅させ、相手の約五万の兵をロサイスに向わせない工夫が必要なのだそうだ。

 

 「どちらかにカスティグリア殿か虚無殿の協力をあおげないか?」

 

 ふむ。クラウスに簡単な作戦方針を書いたものを以前渡したはずなのだが、彼らには伏せられているのだろうか。ぶっちゃけカスティグリアの戦力がある今、原作のようにルイズ嬢やサイトを消耗させてまでダータルネスに敵を誘引する気は全くない。

 

 こちらの問題は同じく二つ。艦隊の数の少なさから飽和攻撃をされると輸送船が傷つく可能性が高いこと、そして、制圧するための歩兵が千人しかいないこと。いや、砲撃手から抽出すれば可能だし、基本的に敵船を拿捕するための訓練も行っているので可能ではある。可能ではあるのだが、個人的に都市制圧には使いたくない。しかも長期間の制圧となると戦ってもいないのに精神的に消耗し、いざこざが起こる可能性が高い。

 

 「ウィンプフェン殿。カスティグリアは強襲しか考えておりません。迎撃に出てくるようならその敵戦列艦を屠り、そのままロサイス上空を目指します。カスティグリアが敵に過小評価され迎撃に来なかった場合、そちらに全ての敵戦列艦が回ることも考えられますが、その時はそちらにお任せします。

 そして、敵艦隊の突破後、傷ついた艦や人員が出ていればロサイス上空に残し、旗艦を始めとした残存戦力はそのまま北上。ロサイスの北50リーグほどのところに艦隊を並べ、簡単な防御陣地を形成、敵の進軍を阻止するつもりです。ド・ポワチエ将軍閣下の率いる軍がロサイスを制圧し、連合軍の拠点とするまで、五万だろうと十万だろうと、カスティグリアが死力を尽くして止めて見せましょう。」

 

 テーブル上に広げられた地図を指し示しながら説明する。まぁもし迎撃に来なかったら彼らに任せるしかあるまいて。わざわざ広い上空で敵と追いかけっこする時間が勿体無い。

 

 そこまで説明したところで、総司令官のド・ポワチエ将軍を始めとした将軍達やウィンプフェンを始めとした参謀が眉を寄せて唸った。恐らくカスティグリアが損失を生み出しつつも全ての手柄を奪っていく事を恐れたのだろう。しかし、その辺りは皮算用ではあるが、おいしい餌を与えておけば問題はなくなる。カスティグリアとしてはその辺りの手柄は必要ないはずだ。

 

 「ただ、カスティグリアには制圧に慣れた指揮官や兵がおりませんので、ロサイスの制圧に関してはそちらに任せきりになってしまいます。さらに、要衝であろうサウスゴータ、そして首都ロンディニウムの制圧は、閣下の制圧したロサイスでカスティグリアが補給を行ったとしても消耗した残存艦隊による支援攻撃が関の山でしょう。

 ド・ポワチエ将軍閣下。重ねて申し上げますが、恥ずかしながらカスティグリアは制圧に関して全て閣下のご威光とお力に頼りきることになってしまうのです。」

 

 少し悲しそうとも申し訳無さそうとも取れる子供のような演技を心がけてド・ポワチエ将軍に訴えかけると、彼は相好を崩したような笑顔を向けた。

 

 「なるほど。勇猛果敢で知られ、女王陛下の杖とまで言われたカスティグリア殿にもそのような懸念があったとはな。このド・ポワチエ、恥ずかしながらカスティグリア殿を少々誤解していたようだ。ウィンプフェン、そうであろう? 都市の制圧という第一功を我らに譲り、我らのために露払いをするなどと、この場にいる誰が申し出るであろうか。なんと慎ましく、ありがたいことだ。

 しかし、ご安心めされい、カスティグリア殿。我らが無事ロサイスを完全に制圧し、貴公らが安心して翼を休める場所を作ってご覧にいれよう。」

 

 女王陛下の杖というのを初めて耳にして少し驚いたが、これで大体の方針は決まった。実際、向こうとしては懸念を全てこちらが解決し、橋頭保を安全に確保するだけなのでこちらを怪しむことが無い限り受けるだろうとは思ってはいた。

 

 しかし、本当にカスティグリアだけで相手の五万の兵を押さえ込めると信じているのだろうか。いや、信じてもらえることに問題は全くないのだが、完全に信じているとすると少々この続きが言いづらい。いい案が思いつかなかったので方針転換しつつ最後の手段を使うことにした。

 

 頭の中で婚約式の日のモンモランシーをコマ送りのスライドショーのように思い浮かべ、隣に座る彼女の熱を出来る限り探り、テーブルの下で相手に気付かれないよう彼女の柔らかい手をそっと握り、彼女の香水の香りに浸ることに集中する。そして、何とか気絶しないように耐えつつ心拍数を限界ギリギリに維持したまま口を開く。

 

 「しかし、将軍閣下。それでもこの強襲には、その、艦の数に少々不安が残ります。その、勝利を磐石にする為にもですね、よろしければゼロ機関という駒をこちらに譲渡していただければと思いまして……。」

 

 そう恥ずかしそうに逆隣にいるルイズ嬢(・・・・)をチラチラと見ながらおずおずとド・ポワチエ将軍にお願いすると、ド・ポワチエ将軍は何かを察したように明るく豪快に笑った。そして、隣にいるウィンプフェンや今まで表情を崩さなかったハルデンベルグ侯爵までもが苦笑とも取れる笑顔を少し浮かべた。

 

 「はっはっは! 大人顔負けの聡明さで知られるカスティグリア殿もまだ年齢どおりお若いようだ。あえてこれ以上は言うまいて。うむ、うむ。そう……、確かルイズ殿(・・・・)とカスティグリア殿は同じ魔法学院の同級の生徒でしたな。戦場という場でも親交の厚い学友が近くにいた方が何かと心強かろうて。なぁウィンプフェン。構わぬな?」

 

 「はい、ではそのように処理いたします。閣下。」

 

 ルイズ嬢は女王陛下から預けられた“虚無”ではあっても彼らには使いどころが難しかったのだろう。そして、どの程度の効果があり、どの程度のことができるかすら分かっていない節があり、その割りに女王の女官という扱いにくい相手とも言える。

 

 さらに、元帥職を目指しているであろうド・ポワチエ将軍にとって女王陛下の覚えがめでたそうなカスティグリア諸侯軍トップの俺はなんとしても蹴落とさなければならないライバルとして見られる可能性が高いと最初から感じていた。そこで彼に得られるであろう一番の名誉と勲功を引き渡し、ルイズ嬢に気のある振りをして俺の名誉を少々傷つけゼロ機関をこちらに渡してもらった。

 

 女性関連のそういった事は彼らにとってはよくあることで、かなりわかりやすかったのだろう。ぶっちゃけ婚約者の前でそんな事を相手に察してもらおうとする人間がいるとは思えないが、上手くいったのなら問題ない。相手にとって渡りにフネだったかもしれないが、とりあえず「ありがとうございます。閣下」と笑顔でお礼を言っておいた。

 

 そして、概ね作戦の方針が決まったので、あとは出撃する日取りと出撃する順番、最後にロサイス制圧までのタイムスケジュールをある程度すり合わせ会議が終わった。詳しい内容は書面にまとめられ、参謀からカスティグリアの艦隊に届けられるらしい。

 

 それと、作戦状況を随時確認できるよう、何人か伝令役がカスティグリア諸侯軍に派遣されるとのことだったのだが、機密が多すぎてどこに乗せていいかわからない。いや、普通にレジュリュビのブリッジでいいのだろうか。ふむ。どうせ目にするだろうからそこでいいだろうが、一応王宮にいるであろう父上かクラウスに窺って欲しいと頼んでおいた。

 

 会議が終わったので部屋から出ると、ルイズ嬢とサイトが何か言いたそうな視線をこちらに向けたので、「タケオで」と言って黙ってもらった。恐らく彼女たちの言いたい事は今後の作戦内容や機密に関わるだろうから、このフネで話したくはなかった。

 

 上層にある飛行甲板までヴュセンタールの士官に送られると、アグレッサーに迎えられ、彼らの竜に乗せてもらい隊長殿に一度全騎タケオに降りるよう伝えた。

 

 そして、タケオに降りると、アグレッサーに少し大きめの円陣を組んでもらい、人払いを頼むと、とりあえずルイズ嬢とサイトに謝罪することにした。

 

 「いや、言いたいことはたくさんあるだろう。しかし、一つだけ先に謝罪させていただく。あの場でルイズ嬢と使い魔君を駒扱いして悪かったと思っている。申し訳ない。」

 

 「それは構わないわよ。元々あっちが私たちを駒として見ていたから合わせたんでしょう? サイトも気にしてないわよね?」

 

 「おう、何か最初俺たちをバカにしているような嫌な雰囲気だったしな。」

 

 ルイズ嬢やサイトは察してくれていたようで、簡単に許してくれた。気持ちが少し軽くなったところで彼女らの疑問を解消すべく、話を振ることにした。

 

 「そう言ってくれるとありがたい。それでだが、何か言いたいことや聞きたいことがあったら聞いておこうと思うのだが、何かあるかい?」

 

 そう尋ねると、ルイズ嬢の表情が少し曇り、眉をちょっと寄せた。

 

 「ねぇクロア。あなたはわたしが虚無の系統だってことを本当に信じているの? 少なくともあそこにいた人たちは信じていないように見えたわ。」

 

 「うむ。完全に信じているとも。むしろ使い魔君がこの世界にやってきたときから確信を持っていたとも。そして無事に虚無の系統に目覚めたようで安心したとも。」

 

 胸を張ってルイズ嬢の疑問にちょっと得意そうに答えると、ルイズ嬢やサイトだけでなく、モンモランシーまでもが驚いたようだ。

 

 「ねぇ、あなた。わたしそんな話聞いてなかったんだけど……。」

 

 「ああ、本当にすまなかったね。俺の奇跡の宝石。ずっと君に伝えることができず俺も心苦しかったとも。ルイズ嬢の虚無や使い魔君のガンダールヴに関してはクラウスと父上、そしてオールドオスマンにコルベール先生しか知らなかったことでね。特にオールドオスマンから直々に口止めされていたのだよ。」

 

 そうモンモランシーに虚無に関して申し開きすると、彼女は「わかったわ。それならしょうがないわね」と笑顔で言って俺の頬に手を触れた。俺も釣られるように彼女の柔らかい頬に手を触れてそっと目を瞑ると、使い魔君が無粋な咳払いをした。

 

 「んんっ、それで、クロア様? 俺たちゃ何をすりゃいいんだ?」

 「女王陛下のためにあなたに協力するのはいいんだけど、学院で使ったようなエクスプロージョンは多分撃てないわよ?」

 

 モンモランシーとのキスは諦めて、少し不機嫌そうな声を発したサイトとちょっと申し訳なさそうなルイズ嬢に向き直り、彼らにさっさと協力して欲しい事を伝えることにした。彼女が学院で使ったというエクスプロージョンを俺は見たことがなく、敵味方を正確に判別できるかわからないのでエクスプロージョンに関してはあまりアテにしていない。

 

 しかし、まぁすでにこちら側に付いてくれたことでほとんど目的は達成されているのだが、それでは恐らく納得してくれないだろうからある程度協力を依頼する必要があるだろう。

 

 「構わんとも。まず最初に……、俺は君達を使い潰すつもりは全くない。あちらに任せるとその懸念があったためこちらに来てもらった。君達には出来るだけ無傷でトリステインに戻ってもらいたいと考えている。

 しかし、どうしてもカスティグリアだけでは大きい被害が出ると思える戦場では使い魔君の乗ったゼロ戦を頼りにさせてもらいたい。その時はタケオの艦長殿経由で連絡が行くと思う。しかし、コルベール先生も言っていたが必ず生きて戻ってくれたまえよ。」

 

 真剣にルイズ嬢とサイトを交互に見ながらそう告げると、「おう、任せとけ」とサイトはサムズアップして笑顔を浮かべた。しかし、対照的にルイズ嬢は少し沈んだ表情になった。

 

 「そして、ルイズ嬢。俺は君に戦って貰うつもりはない。殺し合いは誰にでもできるが、虚無を扱うことは君にしかできないことだ。俺はそんな女王陛下のたった一人しかいない切り札を気軽に切るつもりはないのだよ。できれば切らずに……、相手に悟らせることすらせずに終わらせたいというのが本音だ。しかし、君が協力してくれるというのであれば、ルイズ嬢にしか頼めないことがある。」

 

 そこまで言うとルイズ嬢は真剣な表情で黙って頷いた。ぶっちゃけ使うつもりは全くないが、保険は掛けておくことにしよう。

 

 「もし、虚無の魔法に存在するのであれば、ほしい魔法が二つ。一つはあちらが持っているであろうアンドバリの指輪の効果の対策として魔法の効果を打ち消すような魔法。もう一つは相手の過去を見たり相手自身に見せたりできるようなそんな魔法があるといいのだが……。

 ただ、そのような魔法が無くとも何とかするつもりだし、君がこちらに協力してくれているという事だけで俺としては大変心強いのだよ。そして、君の本来活躍するべき場所は女王陛下のお膝元であるはずだ。そこだけは間違えないで欲しい。」

 

 まぁ解除(ディスペル)記録(リコード)なのだが、言葉通り本当に保険にしかならない。ぶっちゃけ水の精霊がいるのでディスペルに関しては本当に必要ないかもしれない。いや、一応彼女の身の安全のためにも覚えておいて貰いたいとは思うが……。

 

 俺の言葉を消化できたのか、ようやくルイズ嬢は「そう、探してみるわね」と笑顔とやる気をその可憐でかわいらしい顔に浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか。アルビオン侵攻に関しては最後だけは決まっているのですが途中経過に関してずっと悩んでます。そして今のところこれがベストだと判断しました^^
 話の中では語られませんでしたがルイズ嬢やサイトにはレジュリュビや戦列艦に関しての情報が全て伏せられています。彼らは機密を漏らさないために自爆装置が付いているのがカスティグリアのデフォだと信じてます。真相を知ったらちょっと怖いですね^^;

 ゼロ機関やヴュセンタールなどに関しては大体原作通りなのですが、少し変更点があります。原作では武装を持たない旗艦のヴュセンタールが狙われると困るという理由でヴュセンタールが旗艦であることは極秘だったのですが、すでにカスティグリアがタケオを作り、タケオに武装がない時点でカスティグリアやゼロ機関に対しては破棄されたことにしました。

 火曜からちょっとPCから遠ざかる予定となっております。間が開くかと思いますがご了承ください。

 次回おたのしみにー!


 書いてる途中で思いついたヘルシングネタ。当然本編とは関係ありません。あったらちょっと怖いくらい関係ありません。

クロア「機関長……、ターケオに帰ります。なーかなかいいフネですね。今度孤児院の子供たちも連れてきましょーう」
ルイズ「機関長!? 孤児院の子供って誰!? な、何かの暗号かしら……」
サイト「いや、どう考えてもレジュリュビやタケオの方がすごいだろ」

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