ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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クロア:ふむ。作者よ。予定では軍のお偉いさんと会議して次話で侵攻が始まると聞いていたのだが、どうしてこうなった?
作者 :わかりません><;;;

そ、それではどうぞー!


39 コルベール先生の餞別

 約一ヶ月前、カスティグリア研究所でのゼロ戦に関する研究が全く進まなくなったらしく、学院から歩いて20分ほどの距離のところの土地を借りて、カスティグリア研究所魔法学院支店のような物ができた。そして、滑走路やハンガーなどの研究所施設が設置された。元々俺がタルブ村に行った時にガンダールヴの協力が得られないかクラウスに聞いていた件がここに来て形になったようだ。

 

 ルイズ嬢の協力でサイトの協力を得る代わりに戦力としてゼロ戦の貸し出しを要求されたのだが、なぜかアンリエッタ女王陛下の耳にも入っており、戦時中に限りガンダールヴにゼロ戦を供与するよう女王陛下から要請があったらしい。クラウスの出した折衷案で侵攻作戦の開始ギリギリまでは研究を優先し、開始時にはサイトに供与されることになったそうだ。そして、戦争が終わったら再びカスティグリアに戻されるということだ。

 

 なるべく無傷で済ませて欲しいところだが戦闘機動をするにあたってそれほど期待はできない。恐らく一度の出撃だけでも磨耗するようなものだろうし、箇所によっては固定化が掛けられていても整備や、ひどいようなら部品の交換が必要になるだろう。その辺りは最優先でテスト飛行を繰り返して整備箇所の追求と方法を模索することになっている。

 

 しかし、なぜアンリエッタ女王陛下の耳に入り、あっさりとカスティグリアが従う事になったかと言うと、ルイズ嬢がいつの間にかアンリエッタ女王陛下の女官になっていたのだ。いや、原作でも女官になるのだが、一体何が起こったのかよく分からない。以前の手紙の件と虚無の使い手であること、そしてこの混迷の時期に気を許せて信頼できる部下が欲しかったといったところだろうか。

 

 少しでも女王陛下の心の支えになるのであれば、ルイズ嬢が原作通り女官になるのは吝かではないし、ガンダールヴの助力も得られるのであれば問題はないだろう。最近はテスト飛行に付け加えて、空戦機動のテストと共にアグレッサーが戦技訓練を行っているらしい。実弾を撃つと双方傷つくので、大体の機動で判断するのだが、訓練自体はかなりシビアで1対1の戦いでは今のところやはりゼロ戦の方が強いそうだ。

 

 アグレッサーとしては久々に現れた強敵にかなり燃えているらしい。というかすでに3対1であれば勝てるそうだ。これにはさすがのサイトも驚いたそうだが、安心するがよいて、俺も驚いているし、正直信じられん。

 

 アグレッサーやゼロ戦だけでなく、カスティグリア諸侯軍の準備も順調に行われている。いや、主にクラウスや父上、そしてモットおじさんががんばっており、俺は大抵クラウスからの報告を聞いているだけなのだが、クラウスはタバサ嬢の母上救出の件も同時に扱っているためオーバーワーク気味だそうだ。特にタバサ嬢の件に関してはクラウスも本気で準備しているらしく、アグレッサーを使って何度もカスティグリアで訓練している救出部隊の視察に行き、話し合いや作戦会議に出ているらしい。

 

 それを聞いて、数週間後に行われる王軍との調整は俺が出向く事にした。クラウスは特に必要ないと言ってくれたのだが、少しは兄らしいところも見せねばなるまいて。しかし、王軍の旗艦を訪問して顔合わせと作戦の最終的なすり合わせを行うくらいなのでぶっちゃけ大したことないと思うし、兄らしいところを見せられるかは謎ではある。

 

 トリステイン・ゲルマニア連合軍の総司令官は原作通りオリビエ・ド・ポワチエ大将。総参謀はウィンプフェン。ゲルマニアの軍指令官はハルデンベルグ侯爵。それに追加で俺が独立諸侯軍の最高指令官という総司令官並の権限をアンリエッタ女王陛下から頂いている。

 

 カスティグリア諸侯軍以外の連合軍の戦力は六万の兵を乗せた総数五百の大艦隊になるらしい。内訳は戦列艦が六十隻、兵員や補給物資を積んだ輸送用のガレオン船が四百四十隻。ぶっちゃけ船員も含めれば十五万くらいの人間が動くのではなかろうか。

 

 ちなみに、ヴァリエールは原作通り金を払って参戦しないことにしたそうだ。ヴァリエール諸侯軍を率いる人間がおらず、公爵は年齢的に問題があるらしく、女性は軍を率いる事ができないらしい。まぁ年齢が問題にならないのであればグラモン元帥が出てくるだろうし、そんなヴァリエールに要請するマザリーニ枢機卿もある意味度胸があるのかもしれない。

 

 しかし、恐らくハルケギニアで最も虚弱であり病弱なこの俺が戦場に行くというのだからヴァリエールも参戦しても良かったのではなかろうか。いや、この侵攻作戦には反対で、再侵攻に備えてくれていると思えばそれはそれで問題ないかもしれない。

 

 あと、以前クラウスに頼んだ条件は全て履行され、それぞれ必要な署名がされた羊皮紙は、俺の確認後レジュリュビに移された。そして、追加でギーシュとマルコの引き抜く件や、ルイズ嬢やサイトが参戦するのであればこちらに引き抜けないかと提案してみたのだが、それらは残念ながらほぼ失敗に終わった。ギーシュやマルコはすでに王軍に志願しており、カスティグリア諸侯軍に移籍することは認められないそうで、ルイズ嬢とサイトは王室直属のゼロ機関として動くことになっているそうだ。

 

 ただ、サイトがゼロ戦に乗ることが前提になっており、ゼロ戦の機密を王軍に渡すことを拒否しているため、ゼロ戦の母艦はカスティグリアで作られたゼロ戦に対応できる竜母艦となっている。そのフネで風竜の一小隊と共にゼロ戦と燃料と弾薬を満載していくそうだ。弾薬に関しては少々精度がまだ足りていないため、安全性を考慮して命中率はあまり期待できないそうだ。その点は補充できるだけマシだと思ってもらうしかない。

 

 そして、このゼロ機関に関する取り扱いは、ルイズ嬢に女王陛下の女官としての地位が与えられているため、軍が彼女に要請し、彼女がそれに応えるというものらしい。俺からの要請も彼女が頷けば取り扱ってくれるそうだ。つまり、命令系統は別だが、母艦がこちらのフネなので原作とは違い、王軍ではなく諸侯軍の作戦に協力してもらうことの方が多いだろう。折角なのでおいしいところをサイトに回す予定でもある。

 

 そんな中、俺はこれまでの期間、大抵クラウスからの報告や相談を受けながら、これから先の想定される問題点と対処法、そして俺の考える平和への道筋の資料を作成していた。ただ、少々ブリミル教との軋轢が生じる可能性があるのでその辺りは本当にざっくりと書いている。とりあえずそろそろ仕上がるので仕上がり次第クラウスに渡す予定だ。

 

 

 

 そして、現在、俺の部屋に少々面倒くさい人物が訪問している。ぶっちゃけお引取り願いたいところなのだが、なぜかサイトも一緒におり、今のところ彼は協力者なわけなのでお断りしづらい。

 

 ベッドの上で書き物をしていた俺は、彼らを一度外に待たせて、シエスタに制服に着替えさせてもらい、テーブルに着いた。シエスタに人数分の紅茶を淹れてもらい、準備を整えてシエスタに部屋に招き入れてもらう。

 

 軽い挨拶を終わらせて、対面の椅子を彼らに勧めると、俺の正面にコルベール先生、その隣にサイトが座った。きっとゼロ戦のことが彼に伝わったのだろう。しかし、今現在の所持権はカスティグリア研究所が持っている上に、機密情報として扱われている。そのことに関してはクラウスがサイトを説得したそうで、サイトは納得してくれているらしい。

 

 情報の隠蔽が一番厳しく行われているのはカスティグリアにある研究所本部なのだが、ここでは情報や資料をかなり厳しく取り扱われている。機密情報などに触れる人間はマジックアイテムだけでなく、魔法のギアスに自らかかり、必要箇所以外で口外しないよう対策されているとかなんとか前に聞いたことがあった気がする。

 

 だた、まぁ、ゼロ戦に関しては、すでにある程度漏れ気味なのはしょうがないのだろう。すでにタルブ村の人間の目に触れており、学院の近くで研究しているくらいだし、学院の外で爆音を轟かせて飛行してるし、サイトは色々と抜けてるらしいし……。そんな事もあってゼロ戦に関してはかなりゆるい措置、というかある程度諦めてるかもしれない。

 

 そして、コルベール先生がサイトを伴って訪ねて来たのは、恐らくだがそんなゼロ戦に対しコルベール先生が興味を示し、サイトに見せてもらえるよう頼んだ。そして、サイトが懇意にしているであろうゼロ戦の研究スタッフであるメイジにサイトが頼んでみたが、彼らにとっては意外とセキュリティが堅く、なんとかするために、名前だけだが、カスティグリア研究所所長の俺のところに来た。といったところだろうか……。

 いやまぁ、あくまで想像だが、大して違わない気がする。

 

 「コルベール先生。こうしてここで話すのは三度目でしたかな? 使い魔君、研究だけでなくアグレッサーの教練にも付き合って貰ってるそうだね。改めて感謝の言葉を送らせてもらうよ。ありがとう。せめてシエスタの淹れた紅茶を楽しんでいってくれたまえよ。さて、先生、使い魔君を連れてきたことで大体予想はつくがまずお話を窺いましょう。」

 

 面倒くさそうだが、ある意味今回コルベール先生から接触してきてくれたのは運がいいのかもしれない。できれば二人で話したかったが、ただの巡りあわせだし贅沢は言えまい。むしろ向こうから来たということを幸運に思うことにしよう。

 

 シエスタはコルベール先生とサイトの前に置いたカップに紅茶を入れると、ティーカートの側まで下がった。サイトは「おう! こっちもいい練習になってるぜ」と笑っていたがコルベール先生の顔はかなり真剣だ。

 

 「ミスタ・カスティグリア、いくつか聞きたいこととお願いがある。」

 

 コルベール先生のその真剣な表情から出された声も表情通りに硬い声だ。そして、その声を隣で聞いたサイトも少し硬くなった。視線で続きを促しながら紅茶に口をつけると、コルベール先生が再び口を開いた。

 

 「あのゼロ戦というものをサイト君から聞いたよ。彼の世界の『ひこうき』という物で空を飛び、戦うための兵器だそうだね。アレを研究して、君は……、カスティグリアは何をするつもりなんだ?」

 

 「ご想像の通りかと思うが勘違いされても困る。一応はっきり言っておこう。当然戦うつもりだとも。コルベール先生。」

 

 「アレははっきり言ってメイジを殺しうる兵器だ。研究すればするほど、戦争が悲惨なものになるのは君にも容易にわかるはずだ。それでも君達は研究を続けるというのかね?」

 

 ん? 少し疑問がわいた。確かあのゼロ戦に搭載されていた兵器は機銃だけだったはずだ。しかも現在は一本か二本は取り外され、分解されている可能性もあるし、ゼロ戦関連の機銃の研究は弾の量産でもしているのではなかろうか。別のところでは元込め式の大砲などの兵器の開発をしている可能性はあるが、それはサイトも知らないはずだ。

 

 そして、それらの報告書は極秘なため、俺が学院で確認することは出来ないし、研究所にはタルブで初めて足を運んだだけだ。しかも、ゼロ戦の機銃に関しては実際の射撃を学院の近くで行っているなどということは聞いたことが無い。そう、コルベール先生が見ただけで想定できるとは思えないのだ。

 

 「ふむ。使い魔君。少々確認だ。彼に搭載兵器の事を話したり見せたりしたかね? 極秘事項になっていると思っていたのだが……。」

 

 サイトにそう聞くと、サイトは挙動不審になり、代わりにコルベール先生が答えた。

 

 「ゼロ戦の戦闘能力に関しては彼から聞いているが、あのゼロ戦ではなく、彼の世界にあった兵器全般に関して、どのようなものがあり、どのくらいの威力があり、どのくらいの死者が出るのかを聞いただけだ。重ねて言うがあのゼロ戦自体ではなく全体の中の一部の同じようなものとして彼から聞いているので極秘事項には当らないはずだ。」

 

 恐らくサイトの兵器関連の知識に関しては原作通りならば存在するくらいしか知らないと思っていいだろう。ただ、ミサイルや爆弾、元込め式の大砲やライフル、突撃銃、重機関銃、それに蒸気機関、列車、自動車、旅客機あたりはそういう物が存在する程度の情報がすでに流れていると思っていいかもしれない。問題はその中からコルベール先生がどの程度実現するかになりそうだ。

 

 そして、コルベール先生は自分にポロッとこぼしてしまったサイトを咄嗟に庇ったつもりだろうが、それはあまりよい手とは言えないだろう。

 

 「なるほど。そういうことなら構わないとも。驚かせてすまないね、使い魔君。しかし、コルベール先生も人が悪い。人の善い使い魔君からそのような情報を引き出しておいて、もしそんな情報が他の人間に渡ったらどうするつもりです? その人間が実現し、メイジ殺しだけでなく、そこいらの平民や傭兵、そして敵軍に渡り、量産されたらどうするつもりです? 

 少なくともカスティグリアは使い魔君の反応を見ればわかるようにかなりの隠蔽がされており、情報開示制限や使用制限、研究のための権限や罰則を厳しく設定しているはずです。」

 

 そう、そのためにカスティグリアでは平民出身の兵でも長期契約で雇っているそうだ。そして、機密条項が漏れないよう、傭兵などのような一時的な兵は全く雇っていない。恐ろしく莫大な資金が諸侯軍を維持するために使われているはずだ。恐らく主力の収入源である風石が暴落でもしたら早めに軍事関連を縮小して軍事開発された中でも比較的安全なものを一般レベルに落とし、主力を輸出業にでも事業転換しないとカスティグリアはあっさり破綻するかもしれない。

 

 そして、俺の言葉を聞いてコルベール先生は少し気まずそうにしたあと紅茶に口をつけてから再び真面目な顔で口を開いた。

 

 「カスティグリアが隠蔽に気を使っているのはわかった。しかし、カスティグリアは戦争をしたいのかね? 一方的に勝ち、数多くの不幸な人間を生み出し、それでどうするつもりなんだね? それならば平和利用のために注力すべきではないかね。」

 

 言いたいことはわからなくもない。しかし、今は戦時中であり、すでに一回戦はタルブでやり終わっている。そういう事はガリアの王様の前で言って思いっきり笑われて来てから言って欲しい。いや、先生が「狂ってる」とか言って杖を抜いた瞬間に王様に殺される未来しか見えんが……。

 

 「ふむ。つまり人口の少ないトリステイン王国は人口の多い他国に蹂躙されるべきで、平和を謳いながら滅びろとおっしゃる? それとも人口の少ない国は武力を放棄して国として消滅するべきだと? 確かにハルケギニア全体から見れば不幸な者は減るでしょうな。」

 

 「はぐらかさんでくれ。君ならそんな事を言っているのではないとわかっているだろう。正直に言うと以前サイト君から彼の国の様々な事を聞いた時、私は新たな希望を持った。そしてあのゼロ戦を見た時、私は感動と期待で心が躍った。すでに実現されている『ひこうき』や『えんじん』という物がこの世界に存在していたことに歓喜した。

 しかし、君はすでに知っていたのだろう? 約一年前あの時、君の決闘後の医務室で私がはぐらかされた答えの……、カスティグリアが目指す一つの集大成がアレなのだろう? カスティグリアがすでにそれを戦争に利用するために研究していると知ってその事がよく分かったとも。

 そして、私はそんな長い時間と情熱を掛けて戦争の準備をするカスティグリアが争いの種にしか思えなくなってしまったのだよ。君は以前、“カスティグリアの戦力は防衛のため”と言っていたが、今回はアルビオンに侵攻するのだろう? その次はどこだ? アルビオンだけでなく、さらに長く続く戦争に備えていたのではないのかね?」

 

 コルベール先生の声が荒くなり、少々こちらを攻める口ぶりになった気がする。サイトもそんな先生を初めて見たのだろう。ちょっと驚きつつこちらをチラチラと見ている。

 ふむ。確かに良い所を突いてる。以前俺が言ったことが少しは彼に届いていたのだろうか。ただの研究者ではなく政治や世界情勢にも少し目を向けるようになったようだ。

 

 「コルベール先生。詳しくは話せんが、これだけは正直に話しておこう。カスティグリアが望むのは侵略されず、戦争の起こらない安心できる平和な時間だということに嘘はない。そして、その平和な時間を得るためにカスティグリアの人間は命を()して戦い、その平和な時間を望み自らの命を賭す人間の尊い命を守るために兵器を開発し、一方的に相手を殺すのだよ。」

 

 「しかし、今カスティグリアやトリステイン、そしてゲルマニアが行おうとしているのは学生までもを巻き込んだアルビオンに対する侵攻だ。侵略し、平和な土地を蹂躙しようとしているのはこちら側ではないか。アルビオンを封鎖し、枯渇させ、和平を引きだす方法もあったのではないかね?」

 

 「コルベール先生。そう考えてしまうのは致し方ないことだと思うがね。間違いなくトリステインゲルマニア連合軍にはアルビオンの封鎖は出来ない。そしてその作戦を取ると、遠からず必ずトリステインは再び侵攻され、タルブのように焼かれ、カスティグリアの人間が死ぬ。」

 

 実際アルビオンに侵攻するのは意外と難易度が高い。相手の土地はフネでしか上陸できない上に相手にはアンドバリの指輪がある。こちらは一撃に賭けた総力戦に近いので失敗して被害が甚大になると再度侵攻され、今度はあっさり負ける可能性もある。

 

 連合軍は公称六万、アルビオンは公称五万。侵攻作戦による攻め手は三倍の兵力が必要という意見もあったらしい。となると十五万の兵が必要なわけだが、それは結局のところ歩兵の数であり、フネや町を破壊する戦列艦、ただの平民に対しては異常な戦力を発揮する竜や幻獣やメイジの比率はどうなのだろう。そう考えると意外といい線行っていたりしないだろうか。

 

 いや、カスティグリアが参戦しなければだが……。

 

 「それに、使い魔君ならある程度わかっていると思うが、コルベール先生、これはただの侵攻作戦ではないのだよ。すでに戦時で作戦が立案され準備されているこのときに、部外者であるあなたにはっきりと詳細を言えないのは俺としても心苦しい。しかし、俺は少なくともトリステイン王国の平和のための努力を惜しんではいないよ。」

 

 最初はカスティグリアを守るためだけだった。そしてモンモランシが増え、タルブ村を、それらを含むトリステイン王国をと、この一年と少しの間に再現なく増えていった。そんな中、俺はそれらを守るためにこのいつ死んでもおかしくない命を今まで何度も賭け続け、削り続けている。

 

 ふむ。よく考えたら彼の説得に何の意味があるのだろうか。最初は彼から贖罪を引き出し、彼が持つ炎のルビーを言葉巧みに譲渡していただこうと思っていたのだが、少し面倒くさくなってきた。ここは早めに見切りをつけてその要件を済ませよう。幸いコルベール先生は少々考えに沈み始めたし、サイトはそんなコルベール先生と俺を見比べている。

 

 『プリシラ。俺の目の前、使い魔君の隣にいる人間の巣はわかるかい? 彼の巣にいくつか机があると思うのだが、その数ある引き出しの中に『炎のルビー』という指輪があるはずだ。アンリエッタ女王やルイズ嬢がしていた似たような指輪があったろう? アレを赤く染めたようなものなのだが。』

 

 『あら、これね。あったわご主人様。不思議な感じがそっくりよ。とても赤くてキレイな指輪ね。』

 

 はやっ! 僅か数分たらずでプリシラは補足したようだ。何かもうぶっちゃけプリシラにアンドバリの指輪の奪取も任せてしまったほうが早い気がしてきた。というかプリシラに任せれば生物以外なんでも手に入るのだろうか……。実は四つのルビーを揃えるのは簡単なのか? しかし、王族相手はさすがにまずいだろうし、ルイズ嬢から盗むのは気が引ける上に今の所全く意味が無い。最終的手段として使う以外はやめておこう。

 

 『その指輪を持って空で待機し、この部屋にいる人間が出たら持ってきてくれないか?』

 『構わないわ。ご主人様。』

 『ありがとう、俺のつがい』

 『ふふっ、どういたしまして、わたしのつがい』

 

 ぶっちゃけ使い魔によるコソ泥であり、初めての経験だが、これに関して彼に所有権があるとは思えない。いや、あるとしても認めない。元々はロマリアのものだろう。だが、一人の女性が命を賭けたことによって炎のルビーはダングルテールに運ばれた。そして、その指輪のためにロマリアはリッシュモンに金を払い、リッシュモンが実験部隊を使ってダングルテールを焼いた。

 

 隊長であったコルベールが指揮する実験部隊の誰かが、最後に毛布で隠された幼少のアニエスに水の魔法を使って庇い続けた女性を焼き、その女性の持っていた炎のルビーを入手しただけのことだったはずだ。少々原作知識があやふやだが、そんなところだったと思う。

 

 原作のコルベールのように、彼女が命を賭けて、ダングルテールを巻き添えにしてまで守ろうとした炎のルビーを、ダングルテールを焼くよう画策したロマリアの元に戻すつもりはない。そして、それをコルベールに説明するのも困難だし、彼の思い違いには少々腹が立つ。彼女が命を賭けて奪取し、ダングルテールを巻き込んでまで入手した炎のルビーは、俺とダングルテールを併合したカスティグリアが彼女の意思と彼女を受け入れたダングルテールの志と共に守るべきだろう。

 

 「コルベール先生。前にも言ったと思うが、あなたは今、教師という職に就いてはいるが本質は学者だ。政治家や法律家、そして貴族でもなければ領主でもない。疑問を持つことは結構なのだがね。残念ながら平和や戦争について語り合うには、あなたの平和や戦争というものに関する考えは少々浅いと思うのだよ。まだ使い魔君の方が理解を示してくれるかもしれないね。」

 

 人の考え方や理想はそれぞれあるだろう。俺の理想の平和が万人に受けられるという驕りはない。しかし、それならばせめて平和の道筋を用意してから会話に望むべきではないだろうか。どうすれば今後トリステイン王国が戦争に焼かれずに済むかを彼は考えたことがないのだろう。その点、アンリエッタ女王殿下は女王に即位した時からずっと考え続けているはずだ。そして恐らく彼女には俺の理想を理解していただけるだろう。

 

 「惜しむらくは、本来トリステインに関係ないはずの異世界から連れてこられた使い魔君や君の飼い主のルイズ嬢が巻き込まれてしまったことだよ。出来る限り戦争に巻き込まぬよう個人的には気を使っていたのだが、ゼロ戦関連のことがきっかけで完全に巻き込んでしまったようだね。必要に迫られたゆえ、アレに関しては秘密裏にとはいえ君に協力を依頼するしかなかったのだよ。本当に申し訳なく思うよ。すまなかった。」

 

 そう言ってサイトに真摯に頭を下げると、サイトは慌てたような声を出した。

 

 「いやいやいやいや、頭を上げてください。クロア様! あの、ゼロ戦の事をルイズに教えちゃったのは俺だし、ルイズが姫様に教えちゃったわけだし、気に病んでいただくと俺も怖いんで、その、あー、そうだ。前に何かプレゼントをいただけるとおっしゃってましたよね。それでチャラにしてください。どうかこのとうり!」

 

 サイトがそんなことを言って両手の手のひらを合わせて頭を下げたので、何か前世の日本人のお互いに頭を下げる文化を思い出してしまった。そして、そんな前世の思い出が何か懐かしいような面白いような気がして、悪乗りすることにした。

 

 「いやいやいやいや、使い魔君。それとこれとは別さ。このとーり、本当に悪いと思っているのだから受け取ってくれたまえよ。」

と言って頭を下げると、

 

 「いやいやいやいや、クロア様。俺も悪かったんだし、そう簡単に受け取れませんって! それにほら! 俺もゼロ戦に乗らせてもらってるし! だからこのとーり! どうか頭を上げてください。」

 

と言ってサイトも手を合わせたまま更に上にあげ、再び頭を下げた。ぶっちゃけなんでサイトが頭を下げているのかは不明だが、彼は混乱しているのかもしれない。いや、以前の後遺症が再発してしまったのだろうか。もしそうならこのお遊びは早めに止めたほうがよいだろう。

 

 「そうかね? まぁ使い魔君がそう言うのであれば、この件に関する謝罪は撤回させていただき、代わりに元々クラウス辺りが不問にしていそうだが、そちらの違反も問題ないものとして扱わせていただこう。それで良いかな?」

 

 そう簡単な落し所を示すと、サイトは笑顔と懐かしさに浸るような表情を顔に浮かべた。

 

 「ああ、そうしてくれよ。でも何か懐かしいやり取りだったな。」

 「そうかね? 俺も少々楽しくなって悪乗りしてしまったようだ。」

 

 そう笑顔でサイトと笑い合うとシエスタも釣られたように「ふふっ」と少し笑って紅茶のおかわりを注いでくれた。そしてそんな空気に当てられたのか、コルベール先生の顔に浮かんでいた険のある表情が緩み、ため息を一つ吐いたあと、少し笑顔を浮かべ、教師らしい雰囲気になった。

 

 「ミスタ・クロア、私は君の言う通り、平和というものについてまだ考えが足りないのかもしれない。それに関しては認めよう。

 しかし、君とサイトくん、二人にお願いがある。どうか死なずに戻ってきてくれたまえよ。君達はまだ若い。それに平和を願っているのだろう? ならばその平和を私に見せてくれたまえよ。そしてサイトくん。君の故郷もぜひ見てみたい。どんな事があっても諦めず、二人とも必ず生きて戻ってきてくれたまえよ。」

 

 ふむ。こんな事を目の前で言われるのは初めてかもしれない。ちょっとジーンと来てしまった。コルベール先生は学者ではなく教師の方が似合ってるのだろうか。

 

 「最善を尽くすとも。先生。」

 「俺も必ず生きて戻ります。」

 

 ちょっといい雰囲気の中で、そう彼の想いに応えると、無粋な追加依頼が来てしまった。

 

 「それと、もう一つお願いがある。君達はこれから戦争に行くんだ、たくさんの人の死に触れねばならんだろう。だが……、慣れるな。人の死に慣れるな。

 私は昔、愚かしくもそれに慣れてしまった。そしてそれを当たり前だと思った瞬間、何かが壊れた。私は君達に私のようになって欲しくはない。だから重ねてお願い申し上げる。戦争に慣れるな。殺し合いに慣れるな。“死”に慣れるな。」

 

 真剣な表情のコルベール先生の言葉にサイトは深くうつむき、「わかったよ、先生」とつぶやいた。贖罪を背負ったコルベール先生らしい言葉だ。生徒であるサイトには深く届いただろう。

 

 しかし、俺は自らの手で人を殺したことはないが、すでに純潔とは言えないだろう。それに、人の死に慣れないことへの辛さを理解している。時には指揮官として数字で自分が生み出した人の死を数え、時には必要だからという理由で命を奪い、時には簡単に自身の死を選び、日々苦痛に晒され、毎年来る誕生日には毎年死に損なうというイベントをこなしている俺には少々場違いな発言だと思った。

 

 ふむ。そうか……。すでに俺は彼の言う何かが壊れているのかもしれない。いや、この世界で生を感じ、初めて死を覚悟したときからその何かが壊れているのだろう。だからコルベール先生の言葉は今まで俺に届かず、今回も場違いだと感じたのだろう。そして、俺はすでに正確な数を把握できないほどの人の死を生み出し、これからも生み出し続けねばならない。俺がガリアの王様に届くまで……、そして……。

 

 だが、そう考えるとコルベール先生の戦争を忌避する感情も分からないでもない。きっと彼はまだ壊れていないのではないだろうか。いや、一度何かが壊れ、それを自覚してしまい、再びその何かが壊れるのを恐れているのだろう。なるほど、その恐れはよくわかる。

 

 しかし、俺には不要だと断言しなくてはならないだろう。タルブ防衛戦から続く戦いは……、三年前から準備されてきたカスティグリアと共に戦う戦争は、すでに俺の望んだ理想の未来を描くために多くの人間を巻き込みながら進み始めてしまっている。残念ながらすでに礎になってしまった人間もおり、彼らの死を無駄にするわけにはいかない。

 

 そんな事を考えながらちょっと苦笑を浮かべたあと、シエスタの紅茶を一口飲んだ。このシエスタの淹れる俺にとっての救いの紅茶が、俺の壊れた何かというものを癒してくれているのだろうか。それとも、壊れた何かがあるからこの紅茶の癒しを感じる事が出来るのだろうか。この癒しの紅茶を飲めるのであれば……、それなら、壊れたままでも構わない気がした。

 

 「コルベール先生。先生の真摯な言葉と考えと想いは確実に俺に届き、考えさせられました。しかし、残念ながら俺がそれに応えることはできない。大変申し訳なく存じます。」

 

 そう頭を下げてコルベール先生に告げると、「そうか、君は……」という先生の悲しそうな声が聞こえたが、この場で続きをはっきりと言わせたくはないと思った。

 

 「ええ。それにご存知の通り、そんな人間が必要になる場所があるのですよ。俺はそこに向います。なに、後々のために死力を尽くして出来るだけ減らしてみせますよ。」

 

 まぁ俺の想定した戦争は多くの犠牲を伴う。しかし、原作よりは確実に犠牲者を減らす事が出来る上に上手く行けば長い平和も訪れることだろう。いや、まぁ上手く行けばだが、その点は実際死力を尽くすつもりである。―――うむ。がんばろう。

 

 そう決意を新たにしていると、コルベール先生は悲しそうな顔をした。

 いや、俺は死力を尽くすがそれが原因で死ぬとは思ってない。ぶっちゃけこの虚弱な体が原因で死ぬ可能性の方が高いのだが……。

 

 「生徒の君にそんなことを言われると悲しくなるじゃないか。聡明な君にとって私に出来る事はほとんどないのだろう。しかし、教師として何かできることはないのかね?」

 

 先生が本当に悲しそうな顔で、本当に悲しそうな声でそんなことを言ったので、ちょうどいいのでプリシラに盗ってもらった指輪に関してお許しをいただくことにした。

 

 「おお、でしたらお許しをください。実はこっそり先生の所持品を一ついただいたのです。まぁかわいい生徒のいたずらだと思って見逃していただければ大変ありがいですな。はっはっは!」

 

 ちょっとイタズラ好きな生徒を演出しつつコルベール先生に盗んだことを告げるとコルベール先生だけでなく、サイトまですごく驚いたようだ。デルフリンガーがしゃべれる状況なら「おでれぇた」とか言ってくれたのだろうか。ちょっと聞きたかった。

 

 「なっ、ちょっ、んんっ、ま、まぁ何を盗ったかは知らんが君にも生徒らしいところがあったと思うことにしよう。その代わり、君、必ず生きて戻りたまえよ?」

 

 おどけたイタズラ生徒の俺をコルベール先生が許してくれ、真面目な顔に戻し、真面目な事を言ったので、何となく悔しくなった俺はイタズラ生徒ごっこを続行することにした。

 

 「はい、ありがとうございます。大切にしますね。コッパゲール先生。」

 

 すると、コルベール先生はちょうど紅茶を飲んでいたところだったので噴き出しそうになり、なんとかカップ内で止める努力を強いられた。そしてそんなやり取りをサイトとシエスタは笑顔で楽しそうに見ていた。

 

 「ぶっ、ごふっ、き、君、いくらいたずら好きな生徒だからといってもそこまで許すつもりはないぞ? 訂正したまえよ。」

 

 「あはははは! いやはや、申し訳ない。ではコルベール先生。一つ忠告と申しましょうか、願いと申しましょうか。」

 

 ちょっと怒ったような楽しそうなそんなコルベール先生に笑いつつも謝り、そんな生徒好きな先生にお詫びも込めてちょっとした助言を与えることにした。

 

 「何かね。私を変な名前で呼ぶことを許可する気はないぞ?」

 

 「戦時中、連合軍の侵攻作戦が始まり、連合軍が優勢になるとこの学院の生徒が人質として狙われる可能性があります。恐らく夜から明け方、少数で哨戒を抜けてくるでしょう。俺としてはそのような隙を与えずに終わらせるつもりですし、王宮もそれなりに対処するでしょうが、予想外の事が起こるのが戦争とも言います。正直不安が残ります。」

 

 少々拗ねたようにカップに入った紅茶に視線を落とすコルベール先生に原作ではあった襲撃の予告を真面目に行い、彼に注意を促すとコルベール先生の顔が真剣なものに変わった。

 

 「ふむ。なるほど、確かにあるかもしれない。分かったとも。いち教師として私の生徒を不埒な輩に傷つけさせるようなことはさせないとも。この『炎蛇』に任せてくれたまえよ。」

 

 そしてコルベール先生は優しくも不敵とも取れる笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか!
 ええ、プリシラさんが活躍すると何でもかんでも彼女だけで全てが片付いてしまいますね。水の妖精しかり、指輪しかり、偵察しかり……。それじゃあイマイチっぽいのでこれでもできるだけ自重してます^^;


えっと、うーん。いつものオマケが思いつかないので、ちょっと後日談風味で! 
ええ、いつもの如く本編とは何の関係ありません。

コルベール「しかし、ミスタ・クロアもやはり子供っぽいところがあるようだ。さて、彼が興味を引いた私の発明品はナンだろうか。兵器関連に転用できる空飛ぶヘビくんなど以外であるならば嬉しいのだが……。
 ふむ。空飛ぶヘビくんや兵器関連のものはなくなっていないようだ。しかし、何がなくなったのかわからない。うむ。帰ってきたら是非とも聞いてみよう。」

 そして、クロアがレジュリュビに移動するというので、コルベールはクロアの見送りにでることにした。そこで、コルベールが目にしたのは竜騎士の補助を受けて風竜に乗る“指に『炎のルビー』をしたクロア”だった……。そして、その赤いルビーの指輪が嵌められた手をコルベールに見せ付けるように笑顔で振るクロアを、コルベールは苦笑いで見送るしかなかった。
なんちてw



まだ侵攻しないと思いますが
次回もおたのしみにー!

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