ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

4 / 52
 一応まだストックありますが次回からは不定期ってことで!


3 トリステイン魔法学院

 あれから一年が経った。俺の体力も大分付いてきて寝込む日が減った。(当社比)

 それに魔法の腕も上がってきた。かなり威力を絞れるようになった。まぁ副作用で最大威力も上がったんだけどね。あとはラフォイエの発動までの時間を調整できたり、さらに威力を上げたり、小規模なら一瞬で発動できるようになった。これはぶっちゃけ防御用で、衝撃を全て横に逃がすように工夫されている。

 

 それから、モンモランシー嬢とは2ヶ月に一度くらいのペースで文通をしている。主に香水に関してだが、感想を聞きたいらしく、あの安眠安静香水と共に試薬品や今彼女が使っているのと同じ香水が送られてくる。ついでに俺に合いそうな香水も作ってくれた。香水を通して初めての友人が出来たようで嬉しい限りである。

 

 領地改革はまだ一年なのであまり変化はない。ただ、病気が減ったとか少し生産量が増えたとかその程度だ。税収が劇的に増えたわけではないので他の開発関連も遅れがちのようだ。まだ一年だしな、農業は結果がすぐに出るものではないからしょうがない。

 

 ただ、無誘導爆弾の開発だけはガンガン進めているらしい。ついでに風石の鉱脈を掘るべく、爆心地を固定してガンガン掘り進んでいるそうだ。固い岩盤が現れるたびにカスティグリア家が編成した風竜隊から試作爆弾が投下されたり、単純に真上から落としたりという無駄なのか無駄がないのかよくわからないプランで進んでいて、つい先月鉱脈に行き着いたらしい。ガンガン産出して欲しいものである。

 

 というか、固い岩盤割るような貫通力持った爆弾とか木造船一撃じゃね? 戦列艦いらなくね? と思ったがまぁそのあたりは父上やクラウスが考えるだろう。いや、大艦巨砲主義なんかもあり得るしな……一応資料を作って渡しておこう。

 

 今のところ風竜隊は3人編成で私兵としてはかなり多い方らしい。ただ、組織されたときに「よくわかる空戦技術という本の内容」を羊皮紙に書いてクラウスを通して渡しておいた。

 かなり役に立っているようで、今までの戦術と変わったところが多いそうだ。ついでに陸に居るときも模型でイメージトレーニングするといいよー。ついでに流体力学の資料も見るといいよー。みたいなアドバイスもしておいた。是非トリステイン最強を目指してくれたまへ。

 

 時々編隊飛行とかアクロバットの練習をしているのが屋敷から見えるらしく、時々使用人からの控えめな歓声が聞こえる。ちなみに俺はまぶしくて見えない。

 

 野良メイジ雇用政策も進んでいるようで、土系統と風系統は採掘現場、水系統は領内を回って診療、火系統は製鉄関連に従事しているらしい。規模は知らないが、副作用で盗賊被害が減ったらしい。普段は盗賊兼傭兵だったんですね? わかります。更にローテーションで軍事訓練もしているらしい。

 

 

 そしてフェオの月が近づき、未だに俺の入学関連で真っ二つに意見が割れている。

 

 俺はどちらかと言えばちょっと行ってみたい。いや、危険なのは承知だが、ここまで来て原作スルーというのはだな……。

 そして賛成派がクラウス君と父上。反対派が母上とルーシア姉さん。まぁ反対の原因は俺が虚弱だからなんだが、賛成の原因がかなりぼかされていて俺にすらわからない。「兄さんにも普通の学園生活を」とかそんな感じだ。いや、双方の意見共に俺は嬉しいが……。

 

 結局早めにルーシア姉さん付き添いで行く事になった。学院長に陳情して出席日数は卒業や落第に勘案しないこと、体調優先で授業を受ける旨を了承させたらしい。しかも相手の給料とボーナスを支払うことを条件に俺の世話をしてくれるメイドさんも学院で用意してくれるとか。死亡放置とか悲しいですからな……。学院長は「まあいいじゃろ。」とか言ってたらしい。 

 

 それで問題の移動方法なのだが、風竜隊を使うらしい。どうせ訓練とか爆弾落としたりとか最近はアクロバットとかしているのでたまには長距離飛行もいいだろうとのことであちらの隊長さんから提案があったそうだ。

 

 馬で2~3日と聞いていたのだが、半日くらいで着いた。風竜速いね!

 

 風竜隊の人にお礼を言ってルーシア姉さんと学院に入った。

 

 

 まず学院長に挨拶するために塔を登ろうと思ったのだが、少々無理のある高さだった。途中で力尽きる未来しか思い浮かばない。ルーシア姉さんも察していたのか、ここで待つように言われた。

 しばらく待つと、ミス・ロングビルという学院長の秘書の方がルーシア姉さんとやってきた。まぶしくてよく見えないが、緑の髪でメガネをかけている。

 

 「よくいらっしゃいました。ミスタ・クロア。私は学院長の秘書をしております、ロングビルと申します。体調の方に不安があるということで私が対応することになりました。よろしくお願いします。」

 

 丁寧な方のようだ。

 

 「いえ、ご足労申し訳ありません。よろしくお願いします。」

 

 そう言ってまず俺の寮の部屋ではなく、俺の普段の世話の一部をするメイドさんを選ぶことになった。すでに俺のことは伝わっており、やる気があって補助ができるだけの体力があるメイドさんという条件である程度絞って、あとは会ってからあちらが立候補してくれたらその中から選ぶらしい。居なかったらどうするんだ? と聞いたら別に雇うらしい。まぁ異性だろうしな。個人的には家からメイドさんを連れてきてもよかったのだが、浮いてしまうだろう。立候補者がいなかったら実家に打診してもらって彼女を呼ぼう。

 

 転生を果たしてから健康に気をつけたり、積極的に運動(部屋の中を歩く)をしただけあって、当初のようなカサカサ肌は脱却して少し肌荒れあるかな? くらいに収まっているし、白髪も大分減った。恐らく見た目はかなりマシになったはずだ。ただ、初期の発育不足が響いているのか身長が中々伸びないが、まぁ介助される身だ、小柄で軽量の方がいいだろう。むしろ利点だと思おう(涙)。

 

 ミス・ロングビルにポーターを頼んでもらって荷物を寮の部屋に運び込んでもらっておいた。ルーシア姉さんに支えられてメイドさんが集まる宿舎の近くへ行くとそこに4人ほどメイドさんが整列していた。

 

 「こちらが先日お話したクロア・ド・カスティグリア様です。お側付きのメイドになりたい方はいらっしゃいますか?」

 

 「卒業まで迷惑をかけると思うが、よろしく頼む。」

 

 と言うと、3人のメイドが何歩か下がった。おおぅ、これはまずい。早くも選択肢が彼女か実家かの二択になってしまった。何が悪かったのだろう?

 

 「あの、一つだけお聞きしてもよろしいでしょうか。」

 

 「ああ、構わない。」そう言うと少しためらうようなしぐさをしたあと切り出された。

 

 「あの、その、夜のお勤めなどもあるのでしょうか。」

 

 ぶっ! いや、えーと……間違いなくアレですよね? 全くありませんよ多分。俺も男だし興味あるけど最中に死ぬ可能性あるからね? そんなことで死んだら両親や姉弟がそりゃもうあきれた上に、多分カスティグリア家から除名されて共同墓地だよ? いや、それはそれでいいって奇特な人もいそうだけどさ。

 

 「いや、それは含まないが、夜に俺の容態が急変する可能性があるので、できれば同じ部屋で過ごしていただきたい。生活に必要な家具は揃えてあるはずだが、足りないようなら順次用意する予定だ。あと出歩くときに肩を借りたり、荷物を持ってもらうことがある。極力自分で歩くよう努力するつもりだが、そのような接触は許していただきたい。

 ああそうか、男子寮で暮らす事になるが他の貴族からの保護も行うつもりだ。恐らく手を出されることもないだろう。

 

 その……なんと言うか、夜のお勤めというか、手を付けるというかその、えーと、君の将来に不利になるような、そういったことはしないと貴族の名にかけて誓おう。」

 

 最初の方は事務的に進められたのだが、よく考えたら質問に答えきれていない気がしたので後半続けたのだが、……絶対今俺の顔真っ赤だ。耳まで赤くなっていない事を祈るしかない。こんな羞恥プレイを強要されたのはメイドさんに下の世話をされた、いやしていただいた時以来だ。羞恥でうつむいていると―――

 

 「私でよろしければお側に置いてください。」と最後に残ったメイドさんがさっきと違い明るい声で一歩進んで立候補してくれた。「ああ、よろしく頼む。クロアと呼んでくれて構わない。」そう言って少し近づくとぼんやりと特徴が見えてきた。さっきまで5mくらい離れてたからね。ちょっと髪の色くらいがぼんやり見えるだけだったのが少しはっきりした。

 

 髪の色は黒でやや長いボブカットというのだろうか、目の色も黒っぽい、俺の目には光量的な意味で優しいな。身長は俺よりちょっと高いかもしれん。顔はまだ少しまぶしくてよくわからないが素朴な感じがする。

 そして彼女が俺から1mほど離れたところで「タルブ村出身のシエスタと申します。不慣れなことでご迷惑をおかけするかもしれませんが、これからよろしくお願いします、クロア様。」といってメイド服の裾を少しつまんで、あまり慣れていない感じのカーテシーをしてくれた。

 

 隣で支えてくれているルーシア姉さまを見ると彼女からの合格ももらえたのか、微笑んでうなずいてくれた。

 

 「ああ、シエスタさん。無理を言っているのはこちらだ。あまりかしこまらないでくれるとありがたい。気になったことは何でも言ってくれ。」

 

 「シエスタで結構です。クロア様。まずは何をなさいますか?」

 

 ふむ。そういえば予定という予定がまだきまっていな……ちょっと待った。黒髪黒目、タルブ村、シエスタ、メイド……主要人物じゃねぇか!!!

 

 しかも彼女は割りと重要なポジションに居たはずだ。主人公の才人が異世界に召還されてヒロインの洗濯物の洗い場を探すときに遭遇。そして才人は餌付けされ将来はメインヒロインのルイズと争奪戦を行い……どうなったんだけっけ? なんか彼女がドロワーズを披露しているところと自棄酒飲んでるシーンだけ覚えてる。

 

 くっ原作知識があやふやすぎて辛い。俺の記憶力弱補正が辛い! そして俺は前世ではドロワーズ愛好家だったようだ。無駄知識が増えてしまった。いや、ドロワーズの魅力には抗いがたい事実が今でもあることは認めよう。こんなところまで前世を引き継ぐとは……。

 

 まぁいいか、初期で彼女が絡むことになって主人公の生死に関わるようなところでは俺からフォローするように言おう。そうすれば問題ないはずだ。とりあえず才人の最初の食事で賄いを食わせれば大丈夫だろう。その辺りだけ心のメモ(消耗率高)に書き留めておこう。

 

 「姉さん、このあとの予定はどうなっていましたっけ?」

 

 「そうね、とりあえず寮の部屋の確認をしながらとりあえず必要な物のリストを作りましょう。そのあとシエスタの荷物を運び込んで、整理したら、シエスタに私の寮の部屋を覚えておいて貰いたいわ。あとは細かい打ち合わせね。ああ、そうね。私はルーシア・ド・カスティグリア、クロアの姉よ。私もルーシアでいいわ。シエスタ、これからよろしくね。」

 

 結構やることあるんですね。シエスタはルーシア姉さまにもカーテシーを行い、蚊帳の外だったミス・ロングビルから俺の部屋の位置を聞いてシエスタの先導で案内してもらうことになった。

 

 「かしこまりました。ルーシア様。それではクロア様のお部屋へ案内させていただきます。」

 

 「ああ、頼む。シエスタ。初日だし、あまり親しいとはいえないが、後々慣れていってくれるとうれしい。そのことは心にとどめておいてくれ。」というと 

 

 「はい! クロア様!」とちょっと元気に返事してくれた。

 

 案内された部屋は恐らく寮の中では最下層にあり、出口からも割りと近かった。移動距離を極限まで削る努力がなされたようだ。5階とかだとたどり着くまでに生死の境をさまよう自信があるからな! 

 

 さっそく部屋を開けてもらうと、すでに家具などは運び込まれていた。「いつの間に。」と聞いたら、ルーシア姉さんが「先日全部揃ったところですよ。準備期間が短かったのでそれなりの品質ですが我慢なさいね?」と言われた。大抵、寮の家具などは家格によっては備品を使うらしいのだが、全部入れ替えたらしい。ルーシアお姉さまの部屋の説明が始まった。

 

 12畳ほどの広さの部屋が少し狭く感じるほど家具であふれている。まずドアから見て両脇奥の隅にはシングルサイズの天蓋付きのベッドが左側に、それより少しだけ豪華なダブルくらいの大きさのベッドが右側にある。左がシエスタ用、右が俺用らしい。天蓋のカーテンが二重になっていて、レースと厚めのカーテンになっている。着替えなんかは厚めのカーテンを引いてそこで行うらしい。

 

 というか基本的に左側がシエスタ用の家具、右側が俺用の家具になっており、奥の中央にある机や、部屋の中央にあるテーブルなんかは俺や誰かを招待したときに使うらしい。

 

 左右に同じようなクローゼットがあり、下の段は鍵付きの引き出しになっている。そこの鍵はシエスタにも渡されていた。部屋のカーテンは三重になっており、外側から、レース、薄いカーテン、分厚い遮光カーテンとなっている。その辺りの使い方もシエスタにルーシア姉さんからレクチャーされていた。

 

 覚えることが多すぎて大変ではないだろうか。あと一応食器棚や簡単なティーセットなどを載せるワゴンなどが置かれている。なんか屋敷にいるときの俺の部屋より豪華じゃね?

 

 シエスタが文字を読めるようなのであとでまとめてマニュアルを作ってくれるそうだ。ルーシア姉さまがちょっとはりきりすぎな気がするが、とてもありがたい。

 

 あとは汚れ物とかの細かいルールを俺も聞いていた。それもマニュアルにしてくれるそうだ。俺の記憶力弱補正がルーシア姉さまにはお見通しのようだ。

 

 「クロア、少し顔色が悪いわね。そろそろ休みなさい。」

 

 といきなり言われた。確かに少し疲れが出ているかもしれない。こんなに外に出たのは初めてだしな。お言葉に甘えて安静にするとしよう。

 

 「そうですね、少し疲れが出てしまったようです。申し訳ありませんが、休ませていただきます。」と言ってベッドに近寄り天蓋のカーテンを閉めた。

 

 そしてサイドテーブルにモンモランシー嬢の安眠安静香水を置いて、なんとなく瓶の形が気に入っているモンモランシーシリーズの香水を並べる。体の調子がひどいときに香りを嗅ぐとなぜか少し幸せな気分になって楽になるので重宝している。

 

 俺用に作ってもらった香水は一度だけつけてなんとなく今度モンモランシー嬢に会ったときのために機会を取っておいてある。合う合わないがあるから彼女が気に入ってくれると良いのだが。

 

 割れると色々とショックが大きいので資料の講義をしているときに父上に頼んで全部固定化をかけてもらってある。かなり強い固定化をかけてくれたらしくて父上曰く「ハンマーで叩き割ろうとしても傷一つ付かんわ!」と言っていた。

 

 怖くて試せないがありがたいことである。

 

 蓋もきっちり閉まるように父上が調整してくれた。マジ土系統万能すぎだろう。俺も土系統がよかったなー。そんな事を考えながら着替えてベッドにもぐりこんだ。

 

 「ああ、シエスタ。姉さまからも聞くかもしれないが、俺は食事が不定期だ。シエスタは好きなときに食べてくれて構わない。もし必要ならルーシア姉さんと厨房へ話をしておいてくれ。では、ルーシア姉さん、シエスタ、おやすみなさい。」

 

 そう言って眠りについた。

 

 

 それから細々としたことが決まったり、シエスタの私物が運び込まれたり、本棚が無かったのでそれを納入して、いくつかの段はシエスタに提供したが、暇な時間が結構できるかもしれない。読みたい本があれば俺の本も自由に読んでくれて構わないと言っておいた。

 

 入学までにシエスタとの共同生活にも慣れてきた。

 

 彼女はとても働き者で少し頼みにくいことも笑顔でこなしてくれる。とてもありがたい。

 たまに暇なときは彼女の故郷のことや俺の生活のことを話したりして盛り上がったり、いいルームメイトに恵まれたものだ。

 

 一度、彼女の故郷の料理であるヨシェナベというものをいただいた。最初は「貴族様のお口に入れるものではないのですが、」と恐縮していたが、俺が食べてみたかったこともあり、何度かお願いしてようやく作ってもらえた。なんだか素朴で懐かしい味がしておいしかった。

 

 「とてもおいしかった。良ければたまに作ってくれるとありがたい。」というと満面の笑みで喜んでくれた。ルーシア姉さんも呼んで一度三人でヨシェナベを食べたがルーシア姉さんも気に入ったようで、レシピをシエスタに聞いていた。

 

 「そこまで気に入っていただけたのでしたらよろしければ何度かお作りしましょうか?」と言われ、何度かヨシェナベパーティが開かれることが決まった。作るのに必要な調味料があるので今度タルブから取り寄せるらしい。ルーシア姉さんがお金を出すそうで、ちょっと多めに頼んでいた。

 

 今のところ関係は良好と言えるだろう。しかし、本番は授業が始まってからだ。今はまだ生活に慣れるのに双方精一杯だろう。

 

 ヨシェナベの件が無くても毎日のようにルーシア姉さんが尋ねてきてくれて、色々聞かれるが、シエスタが最初の頃持っていた緊張感は今ではほとんど持っていないようだ。

 

 

 そしてあと数日で授業が始まるというときに寮に続々と生徒が入寮し始めた。シエスタに関しての周知は学院長やミス・ロングビルが行ってくれたらしく今のところ特に問題は起こっていない。

 

 

 

 そして入学式の日がやってきたが、ルーシア姉さんの事前情報で出席する価値は低いとの評価だったのでスルーした。

 

 

 スルーした入学式の次の日、授業初日が始まった。2クラスに分かれて行われるようで、自分のクラスにシエスタと一緒に行った。出口に程近い、壁際の席に座り、隣に座るよう促したがシエスタは平民なので立っている決まりもあり、特に立っていることに体力的な問題はないので立っているだそうだ。

 

 少し早めに来たのか生徒の人数は少なめだ。ほとんどが真ん中辺に集中している。周りを見ながら座っていると

 

 「あら、クロア? クロアよね? おひさしぶり。さっそく私の香水使ってくれているのね。とてもあなたに合っていてステキよ。同じクラスになれたみたいで嬉しいわ。」

 

 と、モンモランシーが声をかけてくれた。すごい褒め言葉をいただいてしまった。一応今日はモンモランシーに会うかもしれないので彼女に貰った俺用の香水を少し付けてみたのだ。

 

 「ああ、モンモランシーお久しぶりだね。俺も君と同じクラスになれて嬉しいし、心強いよ。しかし、相変わらず輝いていていい香りだ。いや、会わないうちにさらに輝きが増したかな? 君がいつも送ってくれている香水はとても俺の人生の支えになっているよ。ありがとう。」

 

 「そそ、そう? そう言ってもらえるととても嬉しいわ。隣空いているわよね? 隣いいかしら。」

 

 そう言って彼女は他に席が空いているにも関わらず隣に座ることにしたようなので、俺は一度立って譲ると、彼女は俺が座っていた場所のすぐ隣に座った。すこし照れてしまった。

 いや、通路側は死守せねばならぬのだ。シエスタがいることもあるが俺がいつ倒れるかわからないからな。

 

 「ああ、一人紹介させてくれ。彼女はシエスタ、平民のメイドだが俺が虚弱なせいで、一人で生活するのは危ないと家の許可が出なくてね。学院でメイドを雇うことになったんだ。

 彼女は元々は学院に勤めるメイドだったのだが、こんな俺でもただ一人側付きになることを立候補してくれてね。

 扱いは学園に勤めている彼女をカスティグリア家が借りていることになる。そして共に生活して俺を支えてくれることになっている。階級の垣根はあるが女性同士仲良くしてもらえるとありがたい。

 シエスタ、彼女はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ嬢。今まで一度しか直接会ったことはなかったが、彼女の贈ってくれる香水はとても生活を潤してくれるし心温まる手紙をいただいている。俺の唯一の文通相手だ。」

 

 モンモランシー嬢とシエスタはお互いを見つめたあと挨拶を交わした。

 

 「タルブ村のシエスタと申します。クロア様のお側に置いてもらっております。ミス・モンモランシ、ふつつか者ですがよろしくお願いします。」

 

 ふつつかもの?ああ、いやただ謙遜に言っただけか。なんか嫁入りのときによく聞くセリフっぽくて一瞬びっくりしたわ。

 

 「モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ。クロアが言うならモンモランシーでいいわ。これからよろしくね。」

 

 「かしこまりました、モンモランシー様。」

 

 そういってちょっと硬い挨拶交換が終わった。少し緊迫した気がしたのは気のせいだろうか。いや、貴族と平民だしな。そう考えると普通かそれよりもフレンドリーと捉えても構わないかもしれない。これがハーレム系主人公なら壮絶な恋愛バトルが見れるのだろうが、残念ながら片方は俺の介助要員で片方は香水という共通の話題を持った友人……にはなっているとは思いたい。未だにただの知り合いだったらちょっと悲しい。

 

 

 「ああ、そうだ、モンモランシー。一ついいアイディアがあってね。いや二つかな? 香水の専門家である君に提案するのは心苦しいのだけどよろしければ聞いてみるかい?」

 

 「あら? 何かしら。興味あるわ。教えてちょうだい。」

 

 香水の話題を振った瞬間にモンモランシーの顔が輝いた。やはり香水が好きなんだな。確固たる趣味を持っている人はとても魅力的だ。

 

 「君の作る香水はどれもすばらしいし、俺はいつもあの安静になる香水を部屋で使わせてもらっている。君の纏う香りもステキな香りばかりだ。

 ただ、もし、自分や俺だけでなく周りにいる人間も香水を使ったり楽しめるようになればステキだと思わないかい?」

 

 「そうね。でも香水は高いし、私の作る香水が広まっても香り同士で喧嘩してしまわないかしら。」

 

 「そこなのだよ。だから屋敷や学院に勤める貴族に接する機会のある女性のために清潔感のある、例えば植物性石鹸やのような香りや洗い立てのシーツのような爽やかな香りがほのかに香ればそれだけでメイドや側仕えのような平民が側にいることがむしろすばらしく思えるようにならないかな?

 しかもそれが広がれば勤める平民には売れるだろう? 買う人数も貴族より多そうだし良いと思ったのだけどね。それにもし受け入れられれば雇い主が買い与えることも考えられる。素人考えだから色々問題がありそうだけど。」

 

 ただ、作るための労力や材料費、そして利益を含めた価格が平民に手の出し安い値段で釣り合えば、だけどね。続けてそう言うとモンモランシーは少し考えると授業用に用意してあった羊皮紙に書き込み始めた。

 

 「ええ、クロア、すばらしいアイディアかもしれないわ。作ってみないとわからないけど、価格を抑えて清潔感溢れる香りを纏ったメイドや講師、しかも男性にも受けがいいかもしれないわね。」

 

 「そうだ、シエスタ。君はどう思う? 正直な感想を聞かせてほしい。」

 

 そう、シエスタに振ると彼女は少し真剣な顔をして、

 

 「クロア様。私ならとても欲しいです。他のメイドも同じだと思います。ただお値段が高いと手が出ませんが……。毎日使えるような値段であればたくさん売れると思います。」

 

 「シエスタ。いくらくらいなら平民が気兼ねなく買えるかしら。正直に教えて?」

 

 「そうですね……。月に10~20スゥなら……無理をすれば50スゥでも払えると思いますがそうなると特別な日にしか使えないと思います。それだと人気が出るかによりますが。」

 

 「かなり厳しいわね。少し考えさせてちょうだい。」

 

 「そうだね、たった今ふと思いついただけだし、俺も後でちょっと練ってみよう。あとで資料を送らせてもらうよ。」

 

 「そうね、考えてみるだけの価値はありそうだし、お願いするわね。」

 

 そう言って、香水話が少し途切れた瞬間を見計らったように彼が現れた。

 

 

 「やぁ。可憐なお嬢さん方、香水の話かい? よかったら僕も混ぜてくれないかい? 

僕はギーシュ・ド・グラモン。『青銅』の二つ名を名乗っている。」

 

 室内とはいえ明るいので少しまぶしいくて細部はよくわからないが、やや癖のある金髪にかなり整った顔立ち、目の色は青とも緑とも灰色とも取れるような色で少し釣り目がちな目を艶やかに形作っている。十人に聞けば十人ともイケメンと答えるだろう。

 

 くっ、さすがナルシストでプレイボーイを自称するだけのことはある。実物は予想以上にハンサムだ。これなら天然ハーレムが作られ、モンモランシーが熱をあげ、惚れ薬で独占したくなるのもわかる。

 

 グッバイ俺の元々実る可能性がゼロだった淡い恋。

 

 そして彼は薔薇の形をした杖を会話が終わると口にくわえた。ちらりとモンモランシーを見るとさすがに目を奪われているようだ。シエスタを見ると少し目を伏せている。

 

 君もまぶしいのかい? 俺もまぶしいよ。

 

 しかし可憐なお嬢さん方と言われてモンモランシーが反応しない。シエスタは身分の差があるので加わる気がないようだ。あまり間が空くとよくないのではないだろうか。ここは俺がつなぐか。

 

 「おお、かの高名なグラモン元帥の? いや、これは失礼ミスタ・グラモン。俺はクロア・ド・カスティグリア。こちらはミス・モンモランシ、そしてそちらに立っているのは俺の側仕えのシエスタ。

 彼女はここのメイドだが故あって在学中は俺に仕えてもらっている。これから一緒に学ぶ間柄のようだね、よろしく頼む。あとよければクロアと呼んでくれ。」

 

 モンモランシーは中々現実に戻ってこない。いや、ハンサムだからな。なんというか辛い。今はシエスタが心の清涼剤だ。彼女は俺が紹介したときに少しカーテシーをしただけで自分から名乗る気はないようだ。

 

 「ああ、ミスタ・カスティグリア、いや、クロア、こちらこそよろしく頼む。僕もギーシュと呼んでくれ。それでその……。」

 

 「ああ、モンモランシー? どうやら君の男としての魅力に取り付かれてしまったようだね。モンモランシー?」

 

 と、ギーシュに言いつつモンモランシーをこちらの世界へ呼び戻す。もんもーん? とか呼んでみたいぜ……。ギーシュはまんざらでもないような顔をしている。やはり確信有りか。

 

 いいなー。俺白髪交じりだしなー。最近減ったけど。 虚弱が祟って発育不良でモンモンより背低いしなー。 目赤い上にあんまり見えないしなー。錬金使えないしなー。 どうせならギーシュになりたかったZE

 

 「って、そんなことないわよ! 変な誤解しないでちょうだい! んんっ、失礼しました、ミスタ・グラモン。モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ。二つ名は『香水』、これからよろしくね。」

 

 モンモランシーは照れ隠しか少し赤くなって変な誤解といいつつちゃんと貴族らしい挨拶をギーシュに返した。いや、かっこいいし照れたの隠さなくてもいいんじゃないかな?

 

 「ああ、僕のことはギーシュと呼んでくれたまえ、可憐なミス・モンモランシ」

 

 「私もモンモランシーで結構よ。」

 

 ふむ。例え優良株だとしても目の前でギーシュがモンモランシーを赤くしているのはちょっとこう……。いや、気にするな。俺は病弱だ! そんな権利はない! 

 とりあえずギーシュとモンモランシーの仲を取り持つべく彼との友好を深めよう。そういえば香水の瓶とかギーシュに作ってもらえばいいんじゃね?

 

 「そういえば、ギーシュ、青銅というからには錬金が得意なのだろう? 興味本位ですまないのだが、ガラスなど作れたりしないだろうか。」

 

 「おや? クロアは錬金に興味があるのかい? そうだね、僕は青銅が一番得意だが、少しなら他の物も作れる。ただ、ガラスはまだやったことがないな。すまないね。」

 

 ダメだったか。ギーシュただ働き香水瓶で低価格作戦。いいなー、土系統。

 

 「いや、いいんだ。変なことを聞いて悪かった。俺は火以外の系統が全く使えなくてね。メイジは自分の系統が一番と誇ることが多いが、個人的には俺も土や水の系統が欲しかったところなのさ。」

 

 「ははは! クロアは変わっているね。火は最強と言われることもあるし何よりそれだけで派手だろう? 僕はそれだけでも自慢できることだと思うんだがね。」

 

 おお、さすが社交力が高い。褒め返されてしまった。そしてギーシュは通路を大回りして自然にモンモランシーの隣に座った。現在、通路の壁にシエスタ、そして通路側から俺、モンモランシー、ギーシュとなっている。

 

 「いや、最強の系統は、まぁ虚無を除けばだが、恐らく個人間の戦闘や小規模の戦闘に限っていえば今のところ風じゃないかな?」

 

 少し持論を出してみよう。彼の社交的な反応は大変参考になる。隣で聞いていたモンモランシーも興味があるようで、こちらを向いた。

 

 「おや? そうなのかい? 理由を聞かせてもらってもかまわないかな?」と、ギーシュは意外そうな顔をした。表情豊かで好感が持てますね。

 

 「うん、いくつか理由があるんだけど、一番納得しやすいだろう理由はだね。かつてトリステインで名を馳せた『烈風のカリン』や現在のグリフォン隊隊長殿が風系統なのだよ。所詮は使い手次第とも言えるが、新たな英雄が生まれない限り風の優位性を揺るがすのは難しそうだね。」

 

 「そうね。でも新たにすごい使い手が生まれたらその人の系統が強いということになるのかしら?」

 

 モンモランシーはいいところに気が付くね。ギーシュもなるほどと言った顔をしている。

 

 「うん、例えばだけどギーシュが烈風のカリン殿やグリフォン隊の隊長殿をゴーレムで踏み潰したり地面に埋めたりできれば土になるだろうし、モンモランシーが相手の頭を水球で閉じ込めて溺死させれば水が最強になるだろう。もちろんファイヤーボールで相手を燃やせば火が最強になるだろうけど、結局のところ使い手と方法次第なのさ。」

 

 「クロア、それでは……ああ、だから今のところと表現したのか。」

 

 ギーシュも意外と頭いいな。

 

 「そう、そしてなぜ俺が土や水が欲しかったかという話に繋がるのだけどね? 火は燃やすことしかできないのだよ。悲しいことにね。他の系統は錬金や固定化、偏在、ヒーリングやモンモランシーのようにステキな香水を作ったりと他にも便利な魔法がたくさんあると言うのに火には今のところ全く無い。

 例え火の系統が最強とされてもそれを隠す悲しい嘘にしか思えないんだよね。」

 

 少ししんみりしてしまった。せっかくの初日なのに、最初からこれはまずい。

 

 「ああ、せっかくの機会に詰まらない話をしてしまって申し訳ない。どうか愚痴だと思って聞き流してくれ。ただ、君たちの系統のすばらしさと、憧れていた理由を言いたかっただけなのだ。しかし、自分の社交性の無さには嫌気が差すね。」

 

 と、できるだけ明るい声で弁解すると、

 

 「いや、気にしないでくれたまえよ。僕は自分の系統について改めて考えさせられてとても勉強になったよ。」とギーシュが明るい声でフォローしてくれた。さすが社交MAXイケメン野郎で……いや、ステキな貴族様である。

 

 「そうね、私も少し考えさせられたかもしれないわ。香水が好きで水系統と言えば私にとっては香水だったけど、他にも色々できるのよね。ありがとう。クロア。」

 

 おお、モンモランシーも何か思い至ったようだ。ただ、「最強の魔法はなんだろうね?談義」をするつもりが、いつの間にか自爆して、二人にフォローされてしまった。話題選びって難しいな……。

 

 

 

 

 

 




 で、できれば感想をお待ちしております。豆腐メンタルですが!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。