ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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どどどどうしてこうなった!? え、ええ、取り合えずどうぞー!
がっつり加筆しました。5/6 21時くらい


34 戦果

 現在カスティグリア諸侯軍旗艦レジュリュビにてタルブ防衛戦のあとの話し合いが始まろうとしている。ブリッジに用意されたテーブルには少し重い空気が垂れ込めている。すでに戦闘というものが終わった後処理の最中にやってきた王軍をモット伯がレジュリュビに出迎えたのだが、ぶっちゃけ何を話していいのかわからない。

 

 いや、今作戦のカスティグリア諸侯軍の最高指令官ではあるが、“タルブ村を守る”ということくらいしか考えてなかったため、本当に何を話していいのかわからない。むしろなぜアンリエッタ姫とマザリーニ枢機卿はレジュリュビに来たのだろうか。偉い人の方に出向くというのが普通なのではなかろうか。

 

 特に話すことはないし、とりあえず来たから挨拶だけでもと言った感じかもしれない。

 ふむ。言い得て妙というやつだろうか。恐らく「遅れちゃったよ、ごめん」「いやいや、全然大丈夫でしたよ」みたいな感じだろう。そう考えればただのメンバーが豪華なお茶会と言えるかもしれない。ちょっと緊張して損した気分である。うむ。

 

 とりあえずお茶会らしい軽い空気を演出するために基本の挨拶をするべきだろう。というか誰も話し始めないこの空気は一体なんなのだろうか。全くもって不明である。

 

 「お久しぶりです。アンリエッタ姫殿下。マザリーニ枢機卿。」

 

 そう挨拶すると、二人の少し疑念が隠されたような真面目な視線が集まった。

 か、軽い空気を、ええええ演出しなければなるまいて。はっ! よく考えたら二人とも一度しか会ったことがない。大量にいるトリステイン貴族の、隠蔽されたカスティグリアという田舎の、ほとんど外に出ることがない病弱な長男は印象に薄かったに違いない。ここはさりげなくフォローしつつ改めて自己紹介しよう。

 

 「以前、お会いしたことがあるのですが、改めて、クロア・ド・カスティグリアです。こちらは俺の婚約者のモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシです。よろしくお願いします。」

 

 そう言って軽く一度目を伏せるとようやくマザリーニ枢機卿が口を開いた。

 

 「ああ、よく覚えているとも。クロア君。お隣のモンモランシー嬢との婚約式のとき以来だな。君達の仲人は私の初めての機会だったからよく覚えているとも。二人とも仲むつまじそうでなによりだ。」

 

 ふむ。覚えている、なによりだ、と言いつつもマザリーニ殿の声は硬い。

 

 「わたくしも覚えていますわ。今日は体調がよろしいようで何よりですわね。でもシュヴァリエは名乗りませんの?」

 

 アンリエッタ姫は少し首をかしげた。ふむ。そういえば名乗ってませんでしたな。よく考えたら二つ名も名乗ったほうが良いのだろうか。

 

 「いやはや、少々気恥ずかしくて今まで名乗っておりませんでした。では改めて。今作戦のカスティグリア諸侯軍の最高指令官を勤めさせていただいております、クロア・シュヴァリエ・ド・カスティグリアと申します。二つ名は『灰被り』を名乗らせていただいております。よろしくお願いします。」

 

 そう改めて自己紹介すると場の空気がピシッと固まり、重い空気がさらに質量を増した気がした。

 ふむ。もはや訳がわからない。正確に完全に抜けのない自己紹介をしたと思うのだが……、はっ!? なるほど、姫様や枢機卿は毒見役がいないと紅茶が飲めないのだろう。折角おいしい紅茶が目の前にあるのに手を付けることが出来ず、イライラしているのかもしれない。ここは俺が毒がない事を示すべきだろう。

 

 そっとティーカップを取り、二口ほど飲み、ティーカップを戻す。そしてマザリーニ殿とアンリエッタ姫に視線をそっと戻すが、二人は相変わらず硬い表情でティーカップに手を付ける気配がない。少し手持ち無沙汰で何をしていいのかわからないので、諦めて紅茶を楽しむことにした。

 

 「んんっ、ミスタ・クロア。王軍の最高指令官はこちらにいらっしゃるアンリエッタ姫殿下なのだが、すまんが私が代理で話させていただこう。まず此度の防衛戦、真に大儀であった。露払いだけでなく全て終わらせるとは思わなかったが、見事勅命を果たしたと、アンリエッタ姫殿下もお喜びだ。」

 

 紅茶に癒されているとマザリーニ枢機卿が咳払いのあと宰相の顔で発言した。

 ふむ。ちょっと遠まわしな貴族流の会話というやつだろうか。しかし、一箇所よくわからないところがあった。どう見てもこの戦いは露払いだろう。うむ、どう考えても終わったのは露払いだけではなかろうか。モットおじさんやクラウスではないので俺が正確に理解するには遺憾ながら聞き返して確認する必要が出てくる。ううむ。彼らにあの会話法を学ぶべきなのかもしれない。

 

 「お褒めの言葉ありがとうございます。しかし、マザリーニ殿。諸侯軍は露払いしたまで、全てはまだ終わっていないのでは。」

 

 そう言いながら気軽なお茶会を楽しみつつ紅茶に口をつける。

 しかしながら、その露払いもまだ途中なのではないだろうか。戦果の確認はともかく、タルブ村の被害状況がわからない。シエスタをチラッと見ると仄かに笑顔を浮かべているが、いつもより緊張している気がする。

 

 シエスタは俺やモンモランシーはともかく、クラウスやギーシュ、マルコ、それにモットおじさんなど、貴族と対応する機会が多い。そのため、彼女はあまり緊張せずに紅茶を提供することができるはずなのだが……、なるほど、恐らく彼女も自分の家族が、そして知り合いの村民が無事かどうか気になっているのだろう。ぶっちゃけお茶会などより確認に行きたいだろう。そう思うと俺も気になってきた。

 

 「ふむ。確かにまだ始まったばかりと言えるでしょうな。マザリーニ殿。此度のことでトリステインに必要なものが明らかになったのではないでしょうか。」

 

 ようやくモットおじさんが代わってくれた。しかし、気になる。こういうのは艦長殿に聞くべきだろう。しかし艦長殿は会話を始めたモットおじさんの向こう側にいる。コソコソ話すことができない距離である。

 

 「うむ。もはや時は戦時、早急な王の誕生が望まれるであろう。ゲルマニアの軍事同盟も即応するには当てにならん。そこでアンリエッタ姫殿下の婚約破棄、そしてアンリエッタ姫殿下にこのタルブ防衛戦に勝利を導いた『聖女』として玉座に就いていただこうと思っておるのだがどうだろうか。」

 

 原作通りですな。今回活躍の場がなかったとは言え、王軍を率いて最高指令官として戦場に来ましたからな。それに、彼女の勅命がなければカスティグリアも大腕を振って動く事が出来なかったことを考えると、別段彼女が導いたと言っても過言ではないのではなかろうか。

 

 紅茶を楽しみつつ、モットおじさんの反応を窺うべくチラッと見ると、モットおじさんがこちらを見て目で俺が答えるよう、合図した。

 ふむ。この問は俺が答えるものだったのか。なるほど、モットおじさんが会話のキャッチボールをフォローしてくれるようだ。

 

 「カスティグリアとしてはアンリエッタ姫殿下から王族として勅命をいただいた身。俺としては殿下が玉座に就く事に関して問題があるとは思えませんし、何より戦時、華のある聖女様が率いるとなればトリステインも沸くでしょうな。」

 

 自分で言っておいてなんだが、交渉の空気に近い気がしてきた。もしかしたらお茶会ではないのかもしれない。気を抜いていたら食われるかもしれん。少し考えよう。

 

 諸侯軍はともかく、王軍は基本的に傭兵を雇ったり、下級貴族の次男以降を引っ張り込む形態だろう。つまり、旗頭次第で集まり方が変わるはずだ。そう考えるとアンリエッタ姫の人気から、かなり集まりやすくなると思っていい。原作でも学院でも志願を募り、学生がわれ先にと志願していた。アニメ版では強制だった気がするが、中級、上級貴族の子弟が集まる場で強制しては後の禍根になるのではなかろうか。というか、強制ならコッパゲ先生も引っ張られると思うのだが、色々謎だ。

 

 そんなことを考えつつ、紅茶に口をつけると、すでに残り少なくなっていたのだろう。飲み干してしまった。少し残念に思いながらも仄かな期待を胸に、シエスタをチラッと見ると彼女はすぐに笑顔を浮かべ、俺の側に来ておかわりを淹れてくれた。

 

 ふむ。この場で動いても問題ないのはシエスタのみ。彼女に伝言をコソコソ頼んで艦長殿へ伝えることができるのではなかろうか。シエスタも気になっているはず。しかし、タルブ村の人たちのことだけを艦長に聞くのは飾りとはいえ最高指令官としてはダメだろう。

 

 「シエスタ。艦長殿にシエスタのご家族とタルブ村の人間も含め、死傷者の確認と戦果を知りたいと伝えてくれ。」

 

 そうコソコソと言伝を頼むとシエスタは僅かに頷いて、艦長殿のおかわりを注ぎに移動した。淹れたての紅茶に口をつけ、モット伯ごしに艦長殿を見ると、艦長殿に伝わったのか、彼は笑顔で一度ティーカップを上げてから従者と思わしきクルーを指のサインで呼んでコソコソと話している。

 

 「そこでミスタ・クロア。王軍としてはトリスタニアに示すため、拿捕した艦船と捕虜の委譲をお願いしたい。」

 

 どうやらお茶会だと思っていたこの席はやはり交渉の場であったようだ。彼の硬い言葉と雰囲気、そしてこの場を占める重い空気はこの言葉を発するが故のものだったらしい。

 しかし、捕虜の委譲か。現在、拿捕によって得た敵艦や捕虜というものはカスティグリア諸侯軍が単独で全て確保している状況だろう。そして、それはかなりの高額の金になるはずだ。

 

 しかし、協定を破って侵攻してきたアルビオン貴族に対してこちらが協定や法を守る必要性も薄そうに見える。

 つまり、相手が貴族であろうと、拷問により情報を引き出すことも可能だし、トリステインで禁止されている、惚れ薬などのマジックアイテムや禁呪であるギアスなどの魔法を使った情報収集も可能かもしれない。そして、上手く仕込むことができれば二重スパイを作ることが出来るのではなかろうか。

 

 いや、ディテクトマジックでバレるかもしれない。しかもあちらが持っている虚無という名のマジックアイテムはアンドバリの指輪という死体さえ操るものだ。かなり危険が伴いそうだ。やめておこう。

 

 「そうですな。マザリーニ枢機卿のおっしゃりたい事はよくわかります。しかし、すでに拿捕されたフネ、およびその乗員に加え、敵地上軍はすでにカスティグリア諸侯軍の得た戦果であり、財産になっております。そして俺はその諸侯軍を任された身ですが、得た財産に関しては父上やクラウスを始めとしたカスティグリアに還元されるべきもの。俺の一存では決め兼ねますな。」

 

 とりあえずクラウスに言ってよ、といったニュアンスをマザリーニ殿に伝えると、彼は少し顔をしかめ、皺を深くしてモットおじさんに視線を送った。特に問題はないと思って口にしたのだが、何か行き違いがあったのかもしれない。俺もモットおじさんに視線を送ると、モットおじさんはちょっと困ったような苦笑を浮かべた。

 

 「クロア殿。名前だけとは言え、諸侯軍の最高指令官である限り得た財産の配分などは最高指令官に委ねられます。この件はトリスタニアに戻るまでに決めねばならぬ案件、そのためクロア殿が独断で決定する必要があるのです。」

 

 お、おおう。なんという……。まさかこんなところに罠が潜んでいるとは思ってもみなかった。ちょっと演説して指令官ゴッコして紅茶飲んで終わりかと思っていた。まさかそんな権限を与えられているとは……。どうしたらよいのだろうか。

 

 「そうでしたか」と少し時間を稼ぐため、紅茶に口をつける。問題はいくつかある。まず、意思決定が俺に委ねられたことだ。それ自体に問題はないのだが、カスティグリアの方針を知らないし、過去の事例を全く知らないため、信頼できる人間に判断してもらう必要が出てくる。まずはこの辺りの確認をしておくべきだろう。

 

 「しかしながら、俺はカスティグリアの考えを存じておりませんのでな。モンモランシー、モットおじさん、それに艦長殿、このような状況に対してカスティグリアから何か聞いてませんか?」

 

 そうこちら側に座っている三人に問いかけると、

 「私はクロア殿が譲りすぎないよう、助言して欲しいと頼まれましたな。」

 「私は艦隊に関しての情報を随時提供するように、と命令を受けております。」

と、二人が笑顔を浮かべた。モットおじさんと艦長殿は補佐するように言われているだけのようだ。最後の頼みの綱であるモンモランシーを見ると、輝くような笑顔を浮かべて、

 

 「私は婚約者として隣に座っいていて欲しいと言われたわ。がんばってね。未来の旦那様。」

 

 ふむ。モンモランシーは未来の妻として隣にいてくれるらしい。そして期待に目を輝かせる婚約者殿の期待を背負ってこの戦いに挑むことがいつの間にか決定していた。どうやら俺にとっての本当の戦いはまだ始まったばかりだったようだ……。

 

 しかも、もはや撤退は難しいように見える。隣にいる真紅の薔薇に包まれた奇跡の宝石が期待の眼差しを送ってくれている限り、俺に撤退は許されず、期待に背くことも許されず、負けることも許されない。相手は強敵。今までトリステインという王無き王国を一人で支えてきた百戦錬磨の(つわもの)であり、この国で最高の権力を持っているであろう王宮のトップ。

 

 ううむ。お飾り(・・・)の最高指令官という餌でこのような戦場に立たされるとは思ってもみなかった。

 

 しかし、カスティグリアの戦友諸君はこの戦争の口火を切る戦いに命を賭け、そして勝利してくれた。お飾りとはいえ、カスティグリアの名を出して彼らを扇動した以上、彼らの期待に背くこともできないだろう。彼らも勇気を持って強大な敵に立ち向かったのだ。俺が引いていい道理はない。

 

 よかろう。この戦い、受けて立とうではないか。この交渉という名の戦場は命を獲られることはあまりないだろう。しかし、貴族にとっては命より大切な名声が削られる可能性がある。その名声の削りあい。カスティグリアの貴族として受けて立とうではないか。

 

 「艦長殿、戦果や損害の確認をしたいのだが、ざっとで構わない。教えてもらえるだろうか。」

 「はっ、書類を確認されますか?」

 「ああ、頼む」

 

 書類は省略文字や記号などで書かれているため、艦長殿が席を離れて俺とモットおじさんの間に書類を置き、一項目ずつ指差して小声で教えてくれた。相手に知られたくない内容があるので、このような心配りがとても嬉しい。

 

 戦果は撃破、拿捕、捕虜、平民、平民士官、貴族士官に分かれており、損害は被撃破、損傷大中小、死亡、怪我大小に分かれている。損傷や怪我の程度によってこの表示が決まっており、大判定だと損傷の場合は廃棄、怪我の場合は良くて後遺症が残り引退、悪いと死亡するという重体や重症のような状況。中判定は損傷の場合、修理すればカスティグリアに戻れる程度、と言ったところだろうか。小はこの場である程度治療や修理が可能なのであまり気にしなくていいらしい。

 

 そして、戦果については「大体」や「約」という前置きが多数なされていて、今のところ確度が低いらしい。後々調査や聴取などをして確定していくものでこれはとても時間がかかり、面倒くさいとやらないこともあるそうだ。

 

 アルビオンの被害でもあるこちらの戦果は、竜騎士二十名+二十騎撃破、ワルドと竜捕縛、旗艦レキシントンと戦列艦約十四隻拿捕、フリゲートクラスの中型艦約二十爆沈、スループクラスの小型艦約五十爆沈、捕縛した貴族約七百名、平民八千名。推定戦死者数一万六千名。

 

 こちらの損害は艦船の小破や中破は小型艦に大抵出ている。そして被撃沈はないが大破が8隻。死者98名、重傷者824名、軽傷者は約四千名。と辛い数字が並ぶ。しかし、幸運な事に竜部隊やタルブ村の住人に死者や重傷者は出ておらず、軽傷が少しある程度で、シエスタのご家族は無傷だったそうだ。しかし、タルブ村にあった全ての家屋は焼失、畑も約半数が焼失し、まっさらな状態になったらしい。ちなみにこの戦闘に関わったカスティグリアの兵士は総勢16,923名。

 

 カスティグリア全体から見ると被害は微弱だが、98名が死に、824名がこれから後遺症を背負って生きて行くと思うと少し気分が沈んだ。しかし、これは決闘ではなく、戦争という大規模な殺し合いだ。貴族として、最高指令官として来た以上、彼らを死地に赴かせた以上、せめて彼らの死が誇れるものであると認めなければならないだろう。そしてこれを見た瞬間、少しも譲る気はなくなった。

 

 艦長殿から戦果と被害を報告され、少し気持ちが沈んだが、モットおじさんや艦長殿は損害の低さに笑顔を浮かべている。隣のモンモランシーも、もしかしたら羊皮紙が見えたかもしれない。そっと彼女の方を窺うと、表情を曇らせていた。慰めるつもりでテーブルの下でそっと彼女の手に自分の手を載せると、モンモランシーは俺の手を握り返した。

 

 「よろしい。これ以上望み得ないであろう大変すばらしい戦果だとも。艦長殿。」

 

 意識して笑顔を浮かべ、艦長殿に賞賛の声を送ると、彼は笑顔を深めて「恐悦至極にございます」と言って元の席に戻った。癒しを求め紅茶を一口飲むが、約一万七千人の死を生み出したばかりで気分が晴れない。とりあえずシエスタにご家族の無事を知らせるために彼女の方を向いて頷くと、シエスタにあった緊張が少し和らぎ、自然な笑みを浮かべた。

 

 しかし、自分の演説で愚かしくもカスティグリアとして、カスティグリアの一部として彼らの痛みを感じてしまう。そして、それは日本人や平民としてならばそれは美徳であり、人として正しい感じ方であるという思考と、貴族であり指揮官である人間としては愚かな考えだという思考がせめぎ合うきっかけになってしまったようだ。

 

 そのせめぎ合いの中で、俺は今彼らを、この戦闘に関わった全ての人間をチップとして数え、対戦相手であるマザリーニから対価をもぎ取らなければならない。これから戦争を続けていくということはこの『人の命をチップにしたゲーム』を続けていくのと同じことだ。楽になりたいのであれば簡単にチップとして数えていくしかない。死んだ人間には悪いが、これも彼らのためと納得するしかないようだ。

 

 そこで、隣にいるモットおじさんにチップになりそうな拿捕した艦や捕虜の大体のお値段を聞いてみた。その上で単純に合計すると軽くトリステインの王国の税収2~3年分らしい。むしろそれを支払うためのエキュー金貨が存在するのかすら怪しい。しかし、大抵の場合は領地や爵位などで差っぴかれていき、そこまでの大金を払うことはないそうだが、今回の場合はさらに少し特殊な事になっている。

 

 そう、マザリーニ殿はアンリエッタ姫のために委譲して欲しいと言っていた。つまり、今この場で権利を渡せと言う事であり、その評価や支払いと言う物は後々トリスタニアの裁量でざっくり決まるということだろう。

 

 しかし、契約内容がどうなっているのかは知らないが、個人的にはカスティグリアから戦死者や重傷者に見舞金など出した方が良いのではないだろうか。それに、この戦闘に参加した人員全てに臨時の追加給金(ボーナス)を支払う必要があるのではないだろうか。これらは本番であるアルビオンでの戦闘に対して兵士達の意欲も変わってくるはずだ。

 

 それに、活躍した人間に対する褒章をトリスタニアから引き出す必要がある。以前オスマンはフーケ討伐の際、そこにいた学生全てにシュヴァリエの推薦を行っていた。タバサ嬢は元々持っていたはずなので違う勲章だろう。そのような細やかな対応もしなければならない。

 

 さらに、カスティグリアに属している人間は総じて現在トリステイン王国の国民でもあるわけだから、勲章によって年金がつく。つまりその年金もある程度釣り合っていないと承認が降りるかわからない。フーケのときは確か彼女に賞金が懸かっていたはずだ。賞金の話が出なかったということは、その分で年金を払うということだったのではないだろうか。

 

 取り合えず、ざっくり計算すると、見舞金を500エキューを40年分として2万エキュー、戦死者、重傷者が922名、となると、18,440,000エキュー。端数切り上げで二千万エキューか。更に竜部隊全員のシュヴァリエをもぎ取ったとして、年三万五千エキューくらい。しかも、艦長職の人間や白兵戦に参加した人間にも勲章が出るかもしれない。この辺りの評価はさすがに後にならないとわからないだろう。

 

 しかし、見舞金から考えるとはした金に見える。取り合えず二千万エキューほど自由になりそうな金があれば問題なさそうだ。この辺り、事前交渉でどの辺りまで引っ張れるかモットおじさんに頼んでから考えてもいいかもしれない。それ次第では以前のように杞憂で終わる可能性がある。この辺りは方針を示して最終的にはモットおじさんに頼ることになるだろう。

 

 ふむ。しかし、本当にこの場で即決する必要があるのだろうか。確かにアンリエッタ姫を聖女であり女王にするためには諸侯軍が得た戦果を掲げてトリスタニアに戻る必要性があるかもしれない。しかし、王女が勅命を下したところを多数の貴族が目撃しているはずだ。つまり、女王が諸侯軍の力をもってこの戦いに勝利したという図式にすれば問題ないのではなかろうか。

 

 しかし、アンリエッタ姫は今この瞬間、トリステイン王国の女王になることに不満を持っていないだろうか。彼女はこの戦いが始まる前までゲルマニアに嫁ぐことが決まっていた。マザリーニに敷かれたレールだが、マザリーニはアンリエッタ姫を女王に据えるというレールも概ね自分次第で敷く事が可能だと楽観視しており、まさしく彼が決めればアンリエッタ姫は女王になるのであろう。しかし、今彼女には分岐点が生まれ、自ら選ぶことも可能かもしれない、彼女は決めかねているはず……。

 

 個人的には彼女が女王になることに全く異存はない。以前手紙についての考察をしたときに感じた彼女の深慮、そして計画性、そしてそれを実行するだけの意思と決断力を持っている。さらに、彼女が女王になるのであれば原作からの大きな乖離を防ぐことが出来るのが大きい。むしろ、今ルイズ女王が生まれてしまうとカスティグリアとしては後々面倒になるだろう。

 

 しかし、あの手紙のいきさつから考えると彼女にはトリステイン王国を裏切る可能性がまだ残っている。その可能性が潰れない限り、即決や安売りする必要は皆無になる。彼女のトリステイン王国に対する誓約がいただけるのであれば問題ないのだが、不敬罪や反乱を疑う状況に陥る可能性がある。その辺りがかなり危険を伴うが、避けては通れまい。

 

 ふむ、こちらの代表はお飾りの諸侯軍最高指令官。そして、実務はモットおじさんか艦長殿であり、あちらの実務はマザリーニだ。しかし、実務担当のマザリーニがこちらのお飾りに交渉を持ちかけているという少々アンフェアな状態になっている。そう考えると、こちらがあちらのお飾りに少々話を振っても問題ないのではないだろうか。

 

 「マザリーニ殿。お待たせして申し訳ない。いくつか確認したいことと、要望があるのですが構いませんか?」

 

 マザリーニ殿はようやくこちらの準備が整ったとみて、その間に飲んでいた紅茶のカップを置いた。紅茶を飲んでいた間気を抜いていたわけではないだろうが、ただの硬い雰囲気からトリステイン王国を代表する宰相という威圧感を伴った雰囲気に変化した。

 

 「うむ。何なりと申してみよ。」

 

 もはや俺も一人ではない。以前の俺ならばビビッていたが、カスティグリア諸侯軍の最高指令官としてここは何としても押し通らねばならない。これから続く戦争の、露払いであるこのタルブ村を守る戦闘で98人が命を失い、824人が重傷を負い、約四千人が怪我をし、16,923名のカスティグリアの人間が命を賭して戦った。俺も命を賭けるべきだろう。―――さて、往こうか。

 

 「では、お言葉に甘えます。先ほどマザリーニ殿はアンリエッタ姫殿下を『聖女』として玉座に就けるとおっしゃいました。俺もそのお考えには大いに賛同いたします。しかし、アンリエッタ姫殿下は本日のこの戦いが終わるまでゲルマニアにお輿入れすると考えていらっしゃったはず。御自らがトリステイン王国の玉座に就く事に関してアンリエッタ姫殿下がどう思っていらっしゃるか、ぜひともお聞きしたい。」

 

 俺の言葉にマザリーニ殿は眉を寄せた。確かに不敬だろう。確かに際どい発言だろう。王家の人間を疑う発言だ。それに、マザリーニ殿ではなくお飾りでいるはずのアンリエッタ姫殿下に話を向けたのだ。彼にとっては意外であり、厳しいところであるはずだ。そして彼から目を離すことはできないが、場の空気が一気に硬くなり、隣に座るモット伯からは少し息を呑む音が聞こえ、モンモランシーの俺の手を握る手に少し力が入った。

 

 「姫様、お言葉を頂戴してもよろしいでしょうか。」

 

 数秒の葛藤のあと、マザリーニ宰相が折れ、アンリエッタ姫に発言を促した。余計な事を言わないよう、あらかじめ言い含めていたのだろう。そしてこれから登場するのはマザリーニの操り人形であるアンリエッタ姫ではなく、王国の王女アンリエッタ・ド・トリステイン殿下だ。マザリーニ殿からアンリエッタ姫殿下を視線を移すと、彼女は自分の指にはめられた大きな宝石の付いた指輪を両手包み込むように組んで祈るように少し頭を下げていた。そして決意を新たにしたように強い眼差しを俺に向けた。

 

 「クロア・ド・カスティグリア。私は弱い姫なのです。しかし、あの時は王宮の紛糾を見て、王国の民を守れない貴族たちを見て、勇敢に生きるという誓いを立てたこの風のルビーに助けられ、弱いながらも王家の者として王国を、王国に住まう民達を守ろうと思いました。

 しかし、それでも私は弱い姫なのです。王国のためとゲルマニアに嫁ぐ事を否と言えなかった姫なのです。それでも私に女王になれとおっしゃるのですか? お母様にこそ女王に相応しいのではないでしょうか。」

 

 間違いなく本心だろう。最後の方ではアンリエッタ姫殿下の水色の瞳が少し揺れた。しかし、この場で本心を告げる勇気には敬服せざるを得ない。枢機卿や宰相という職務とトリステイン王国に対する忠誠で支えられているマザリーニと、モンモランシーやカスティグリアの兵士16,923名に支えられ、貴族という鎧に身を包んだ俺に対し、彼女はたった一人、女王候補やトリステインの王女ではなく、ただ王家に生まれた姫として素の自分をさらけ出して本心を打ち明けた。

 

 「トリステイン王国の誇る聖女アンリエッタ姫。あなたは強く、そして美しい。この場にいる誰よりも勇気を持っていらっしゃるようだ。そして、王宮にいるどの貴族よりもきっと孤独で、純粋で、脆くも強いのでしょう。

 確かに玉座には考えられないほどの責任と心を削られる痛みが伴うのでしょう。眠れぬ夜を過ごし、食事が喉を通らない日々がやってくるかもしれません。そしてその玉座にあなたを据えるという俺やマザリーニ殿を恨む日が来るでしょう。聡明な姫殿下の恐れは充分によく分かります。それでも、姫殿下以外に今のトリステイン王国を守りきれるお方はいらっしゃいません。

 もしアンリエッタ姫殿下が始祖と水の精霊の名の元に、トリステイン王国を裏切らず、守り続けると誓っていただけるのでしたら、このクロア・シュヴァリエ・ド・カスティグリア、微力ながらアンリエッタ女王殿下に生涯変わらぬ忠誠を誓い、殿下のお力になりたく存じます。」

 

 アンリエッタ姫殿下には不敬だが命を賭けさせていただいた。この上申が退けられ彼女が断ると、不敬罪で俺が処刑される未来もある。それを避けるため、カスティグリアが反乱する未来もある。この場でケリをつけるべく灰になる可能性もある。しかし、トリステイン王国がこの先突き進むには女王が必要だ。

 

 原作通り、流されるまま女王になることもあるだろう。しかし、この戦いで死んで行った人間と、この戦いで普通の生活を失った者が大勢いる。決して彼らの犠牲を無駄にはできない。彼らのために、この戦いに参加した全ての人間のために、トリステインを守りたい全ての人間のために、強いトリステインが欲しい。トリステイン王国の頂点に自ら立つ強いアンリエッタ女王が欲しい。この戦いで望みうる最高の褒章が欲しい。

 

 無意識にモンモランシーの手を強く握り、彼女も強く握り返してくれた。そして、ブリッジにいる人間が席を立ち、跪く音が聞こえる。彼女とマザリーニ宰相を守る近衛も元々崩れていなかった姿勢を改めて正した。

 

 アンリエッタ姫は俺の言葉を聞き驚愕で目を見開いた。そして、俺の言葉を受け止めた彼女はマザリーニ宰相を見る。彼女に対しマザリーニ宰相が深く頷き、それを確認した彼女はこちらを向くと一度深く目を閉じた。そして、再び目を開けると彼女は覚悟を決めたような意志の篭った光をその水色の瞳に宿していた。

 

 「トリステイン王国王女アンリエッタ・ド・トリステインはトリステイン王国を裏切らず、守り続けることを始祖と水の精霊と、そしてこの風のルビーに誓います。」

 

 アンリエッタ姫は、アンリエッタ女王は風のルビーにまで誓ってくれた。彼女の勇気の源泉、彼女の想い人の形見である風のルビー。それにまで誓ってくれるというのであればもはや疑う必要はないだろう。モンモランシーの手を放し、席を立ち、アンリエッタ姫と目を合わせたまま五歩ほど下がると、跪いて顔を伏せる。すると、モンモランシー、モット伯、艦長殿も席を立ち、俺の後ろまで下がったあと跪く音がした。

 

 「クロア・シュヴァリエ・ド・カスティグリアはアンリエッタ女王陛下に変わらぬ忠誠と微力を尽くすことを始祖と火の精霊と水の精霊に誓います。」

 

 俺が宣誓を終えると、「アンリエッタ女王陛下万歳!」という声が三度、ブリッジに鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 俺としては強いアンリエッタ女王という最高の褒章をいただいたわけだが、よく考えると交渉自体は全く進んでいない。万歳の声が終わり、席に戻って交渉を再開する。

 

 「俺としては望みうる最高の褒章をいただきました。ありがたき幸せにございます。」

 

 そうアンリエッタ女王陛下とマザリーニ宰相に笑顔を向けたあと、モットおじさんに戦果の委譲に対してどの程度の報酬が望めるのか、配分に関して艦長に任せることができるか、遺族や重傷者への見舞金を出せるか聞いてみた。

 

 モットおじさんはこのような事になるとは思っていなかったと笑顔で言ったあと、艦長殿と相談し、大体の条件を提示してくれた。それによると、カスティグリア家は侯爵に昇格、タルブをカスティグリア家に下賜され、竜騎士や活躍した士官などに勲章、大体それらを差っ引いたお金、そして後々カスティグリア家から宰相か元帥に就く人間が選ばれるだろうとのことだった。

 

 配分に関してはそのお金の中から規定の金額を生き残った人間に支払われるのだが、今回は戦果が大きく、初陣でもあるため色をつけて配分されるらしい。そして、基本的に戦死者の遺族や重傷者に支払われる見舞金というのはそれらと同じ配分で、親しかった人間から自分の配分の一部が見舞金として贈られるのだが、今回は俺の意向でかなり多めに足してくれるらしい。

 

 いや、多めと言ってもさすがに一人二万エキューは今後や他の軍の事を考えると厳しいらしく、最初は最大でも五百エキューと言われた。しかし、五百エキューでは確か四人家族で一年分だったはずだ。しかもシエスタの最初の支度金が一千エキューだったはずだし、成人男性の稼ぎを考えると亡くされたご家族には見舞いにもならないのではないだろうかと、一万エキューを提示したのだが、最終的にどうがんばっても一千エキューが限界だと言われた。

 

 俺自体がお金を持っているわけでもないし、ポケットマネーで支払うことはできない。カスティグリアの経営状況もわからないし、確かにモットおじさんの言う通り五百エキューにしておいた方がいいのかもしれない。しかし、今回だけは大目に見ていただくことにした。大体、このような交渉に俺を出したのが間違いではなかろうか。その間違いはクラウスや父上にかぶっていただくことにしよう。

 

 父上やクラウスも今度はカスティグリア侯爵や次期侯爵になるわけだし、その位なら問題ないだろう。しかも、タルブ村もいただけて空軍基地を戻すこともできるし、ゼロ戦の研究も捗りそうだ。そして、勲章もカスティグリア諸侯軍に大量にばら撒かれ、その辺りは艦長殿が推薦などをしてくれるらしい。竜部隊や重傷者へはちょっと多めにとお願いしておいた。

 

 ただ一つ気になる問題がある。カスティグリアから宰相か元帥になる人間が出るとのことだが、そうなると誰がなるのだろうか。カスティグリア領の事を考えると、父上かクラウス辺りだろう。俺は病弱だし未来のモンモランシだ。後々のカスティグリアにはいないと思うし、どう考えても適任ではないだろう。

 

 ふむ。父上が宰相でクラウスが領地経営か? それが一番すんなりと理解でき、納得できる。父上はマザリーニ枢機卿や勅使であるモット伯と仲も良いようだし別段問題はなさそうだ。少々問題があるとすれば次期当主のクラウスがどのような立ち位置になるのか気になるところだが、かなり先のことだろう。

 

 こちらの提案の方針がまとまり、それらが書かれた羊皮紙をマザリーニ宰相殿に手渡すと、彼にあった硬い雰囲気が完全に消え、笑顔で快く承諾した。

 

 

 

 

 アンリエッタ女王やマザリーニ枢機卿との戦後交渉を終え、後を艦長殿とモット伯に任せて俺はモンモランシーにレビテーションを掛けてもらい、部屋に戻った。交渉の緊張感が抜けると、今まで溜め込まれていたように一気に体調が悪くなったからだ。

 

 うむ。やってしまった。思いっきり目の前でわかりやすく設置されたばかりの罠を踏み抜いた気分だ。以前シュヴァリエ受勲の時にお断りした王家への忠誠を誓ってしまった。戦場の高揚感、そして一度気を抜いた直後に来た交渉という名の戦場。そこに現れたのは裸の姫様だった。

 

 それを見たとき、確かに感じた彼女の勇気と弱さと強さに、彼女をあの場で自分の意思で女王にすることが俺を含め、カスティグリア諸侯軍の最高の褒章に見えた。その考えや感覚に間違いはないと思う。こうして冷静に考えてもそのことに対しては問題ない。

 

 しかし、彼女に生涯忠誠を誓ったのは良くない。今こうして冷静に考えるとなぜあの場で誓ったのか本当に謎になるくらい良くない。もしかしたらあの場の空気に流されたのかもしれない。そして、その空気をあの場で生み出したアンリエッタ姫が少し怖くなった。恐ろしい……、恐ろしい女王が生まれてしまったようだ。

 

 この部屋に戻るまで、モンモランシーの柔らかい手に引かれ、彼女の表情を観察したが、彼女は笑みを浮かべていた。そして部屋に戻りベッドの天蓋の中でシエスタに着替えを手伝って貰うとき、シエスタも優しい笑みを浮かべていた。

 

 そして、流れ作業のようにベッドの中に収められると、モンモランシーが枕元にある椅子に座った。

 

 「モンモランシー、俺は君に謝らなければならないことがある。」

 

 そうおずおずと言うとモンモランシーの顔に疑問を浮かべた。そして「何かしら」と言って俺の額に手をおいた。

 

 「この戦いでトリステイン王国のために死んだ人間がいた。重傷を負った人間がいた。彼らに報いるために、俺はトリステイン王国に強いトリステイン女王が欲しくなった。」

 

 「ええ、人が死んだことはとても悲しいわ。でも彼らは名誉と王国のために戦ってくれた。そしてあなたはそれに報いることができた。とてもすばらしいことだと思うわ。」

 

 「いや、だが、俺は誓ってはいけないことを誓ってしまった。自分の浅はかさにはほとほと嫌気が差す。生涯変わらぬ忠誠は君にこそ贈るべきだったのではないか? 答えてくれ、俺の人生を捧げた人。俺はとてつもない間違いを犯してしまったのではないのだろうか。」

 

 確かに王に忠誠を誓っても貴族は誰もが始祖に愛を誓い伴侶を得ている。しかし、俺はモンモランシーに人生を捧げている。彼らとは違うのではないだろうか。あの場でモンモランシーを通して誓うこともできたが、それでは上申が退けられた場合、彼女を巻き込んでしまう。

 

 そう、俺は病弱なだけでなく、貴族の仮面をかぶらなければ貴族になれないほど弱く、過剰なほどの守りが欲しくなるほど臆病なのだろう。そしてあれだけカスティグリアが力を注いで、風竜隊が日々最強を目指して訓練して、艦隊が恐ろしく強固な防御性能を誇っても、いざ戦闘になってみると被害が出た。

 

 あれだけ完璧を目指して、最強を目指してもいざ戦うと被害が出る。戦争や戦闘に絶対はないのは分かっているが、それは何にでも当てはまるのではないだろうか。もしかして無意識のうちにモンモランシーを裏切ってしまったのではないかと気付いたとき、モンモランシーに完全に惚れていると思っていた俺の心というものに疑問が浮かんだ。

 

 確かに側室候補のシエスタに癒しを感じ、プリシラという半身に愛おしさを感じる時もある。しかし、俺にとっての生きる意味はモンモランシーだと言い切れた、―――疑問を持つまでは。

 

 「あなた。王国の貴族は皆、王に忠誠を誓うわ。それに、王の下にトリステイン貴族が存在するのよ。トリステイン貴族であるならば忠誠を捧げるべきなの。それは私があなたに人生を捧げられていても同じこと。大丈夫、あなたは間違いを犯していないわ。それにもし間違ったら私が正してあげるから安心して? 私の全てを捧げた人。」

 

 モンモランシーは優しい笑みを浮かべると、そっと俺の顔を両手で包んで唇に口付けを落とした。しかし、いつもならばそこで失うだろう意識は、彼女への絶対の愛に疑問を持ったことでなんとか繋ぎとめられたのだろう。そして、この疑問の浮かんだ心も、この柔らかい唇がきっと正してくれると信じ、彼女の頬に手を触れ、目を瞑ると、唇にいつもと違った濡れた感触がして、プツッと意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 




 漢数字とアラビア数字が入り混じっております。何度か試行錯誤して一番見やすそうな形態にしました。本当はどちらかに揃えた方が良いということを聞いたことはあるのですが、基本的に細かい数字はアラビア数字、ざっくりとした数に万や千を付ける場合は漢数字にしておきました。
 ええ、16,923名なんかだと一万六千九百二十三名や一六九二三名になるのですが、ちょっと見辛いかなと。大きくて細かい数字が頻発しましたので今回はご了承のほどを;;

 ええ、カスティグリアやアルビオンの人員数は個人的に設定した数字をいじって出しております。原作の中では上陸した兵士の数をカウントして約三千や約二千、公称五万、トリステインゲルマニア連合軍約六万と言った数字がありました。でも戦列艦や空母の数を細かくカウントして行くと、戦列艦の船員だけで最低三万とか……。その時点で考えるのを止めました^^

 ちなみに今回の最終バージョンまでの間には約三万字の犠牲があった事をここに明記させていただきたく存じます。あと、クロア君の不敬罪に関してはちょっと生暖かい目で見ていただけるとですね;;

 
 次回もおたのしみにー!



難産すぎて次回全く考えてない。どうしよう……(遠い目

追記:シエスタに家族の無事伝えてなかった! ええ、ちょこっとその辺り追加しました^^;
追記の追記:交渉後、ちょっと次に持ち越せないと思い加筆しました。次話ちょっと書いてからアップした方が良いかもしれませんね^^;
 今回はさすがにちょっと迷走っぷりがひどかったかもー;;

追記2015/19/14
 感想でご指摘をいただきました。ええ、マザリーニ枢機卿はクロアのシュヴァリエ受勲の時に会ってるので三度目、ついでに婚約式以来というのはおかしいですよね。
 ただ、ちょっと直すのがたいへんそうなので「勘違いしているクロアにマザリーニが大人の対応で合わせた」ということにしておこうかと存じます。最初の方から大幅に改編することがありましたら修正しようかと!(マテ
 ご指摘いただいた読者さま。真にありがとうございました!

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