ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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さぁみなさんお待ちかね! 私もお待ちかね! 戦争の時間がやってまいりました。
戦場の描写ってとても難しいですね^^; 
と、とりあえずどうぞー!
追記:一話の前に挿入しました。


33 タルブ村攻防戦

 俺はクラウスに参戦の意思を示してから平穏な学院での生活を過ごし、アルビオンが宣戦布告すると思われる日から数日前、再び長期休暇を取ってタルブ村に赴く事になった。今回も俺とモンモランシー、シエスタ、クラウスがアグレッサーに運ばれた。モンモランシーとシエスタはシエスタのご家族に話があるということで、タルブ村にある草原で一度別れた。そして森に囲まれた空軍基地のある場所に何か白い塔を持った巨大な建造物があることに気付いた。

 

 またタルブ村を魔改造してしまったのだろうか。というかこんな魔改造ばかりしているからアストン伯の心象が悪いのではないだろうか。そんな事を思いつつその白い塔に向って俺を乗せた風竜が飛んでゆく。

 

 飛んでいる間にプリシラを呼んでその白い塔をよく見てみることにした。ちょうど森が切れ、プリシラが俺の肩に止まったとき、以前来た時には平地だった場所に置かれたその白い塔を生やした巨大な建造物の全容が姿を現した。

 

 それを見たとき俺はクラッとめまいがして、あわや竜から落ちるかと思った。隊長さんにちゃんと保持してもらっていたので落ちることはなかったが、本来一周飛ぶはずだったところを着地して風竜を歩かせて見学することになった。

 

 そう、どう見ても前にシャレで書いた「強襲揚陸艦アルビオン」である。外から見た感じの変更点はブリッジの形状が少し変わっており、アンテナなどの施設は取り払われ見張り用のデッキがブリッジを囲んでいる。あとは後ろから出ている推進装置が巨大な蒸気機関と複数のプロペラになっている程度だ。

 

 以前カスティグリア研究所副所長のエルンストが、研究所員は全員俺の信奉者とか言っていたが狂信者の域に達しているのではなかろうか。これを形にしてしまうような力を持った狂信者の集まりか……。うん。今度からは自重しよう。黒歴史を具現化し、世界に発信することになったらもはや資料を書くのも辛くなりそうだ。

 

 クラウスが自慢げに「ふふ、驚いたみたいだね。兄さん」とか言いながらこの新型竜母艦レジュリュビの説明を始めた。確か資料には縮小指示や外装、形状以外はほとんど適当に書いただけだったはずだ。まさか1/1スケールで再現するとは思わなかった。

 

 竜に乗りながらズンズン進む。クラウスの説明だと全長は300メイル、全幅210メイル、全高82メイルあり、展開式の翼が4枚、きっちり作られており、このフネは海にも浮くらしい。うん。黒歴史はともかく美しくカッコイイフネだということに間違いはない。

 

 内部には前に突き出た両足は二層になっており、下は36匹の竜を乗せる飼育スペースがあり、中央部分には物資を格納するスペースがあるそうだ。中央からの出入り口が一番大きく、作業用のレールなども作られており、対地攻撃の際にはここから自由落下爆弾をばら撒くらしい。

 

 上面はガンデッキになっており120門の砲がずらりと配置され、後方の推進機関の間にあるガンデッキにも後方に向けた20門の砲が並んでいるそうだ。砲撃手だけで440名おり、乗員は651名。計算上、最大で二千名を越える人員を乗せひと月の連続飛行が可能なのだそうだ。連続飛行に関しては時間がなかったので行っていないらしいが、戦闘訓練はすでに何度も行われたらしい。

 

 しかし、どう見ても俺が登れる高さではない。中に入ったら迷子になって遭難死する可能性もある。このような恐怖を覚えたのは学院の本塔以来だろうか。しかしこのブリッジは天井からも入れるらしい。風竜に乗ったままブリッジの上に降り立ち、クラウスにレビテーションを掛けてもらって天井の入り口からいくつか防犯装置を抜けて無事ブリッジに降り立った。

 

 艦長殿はアマ・デトワール子爵という歴戦の勇士を思わせる人物だ。軽い挨拶を交わし、中央にあるテーブルに着いた。クラウスによる作戦プランをテーブル上にある地図と模型を使って説明されたが、特に大きな穴は見当たらないし、損害もほとんどなさそうだ。

 

 戦闘が想定されているのは5日後とのことなので、艦長殿に断ったあと、それまで過ごす居住空間へ案内された。タルブ村にあるカスティグリアの施設はすでに撤収しており、モンモランシーとシエスタが来たらこのフネもタルブ村を離れるらしい。

 

 交渉で撤収期限を限界まで引き伸ばしたのだが、アストン伯の後ろにマザリーニ枢機卿が付いたことにより、アルビオン艦隊が来る予定の3日前までに撤収を完了することが決まってしまったそうだ。ちょっと納得いかないが、タルブ村には避難施設もある。タルブ村民に被害がでないことを祈ろう。

 

 そんな事を聞きながらブリッジから降りると、ブリッジの下に作られた居住空間は二つ並んでいた。片方はモンモランシー、片方は俺とシエスタが使うそうだ。本来はゲストルームらしく、予定があればその度に使う人数に合わせて家具が置かれるらしい。この高さまでどうやって運んでいるのかは謎だったがよく考えたら魔法がある。手すりの着いた部屋の前の廊下の向こうには吹きぬけのスペースもある。レビテーションで運んだのだろう。

 

 部屋の中は天蓋つきのシングルサイズくらいのベッドが二つ並んでおり、その手前に生活に必要な家具やトイレがあった。意外と広い空間が確保されており驚いたのだが、逆にクラウスは

 

 「フネだからね。この程度しか用意できなかったんだ」

 

 と苦笑した。俺は少し呆れながら

 

 「いや、むしろ広すぎではないかね? もっとこう、なんというか、このベッドくらいのサイズの空間を予想していたよ。」

 

 そう予想を告げると、クラウスはちょっと肩をすくめた。

 

 「小型の戦列艦なんかだとそんなこともあるみたいだけどね。」

 

 クラウスはそんな事を言いながら、部屋の使い方や構造を教えてくれた。とりあえずここで五日間安静にしていることと言われた。クラウスはカスティグリアに戻るとのことで部屋から出て行ったのでさっそく部屋着に着替えてベッドに入って横になると意外と寝心地がよく、あっさりと寝入ってしまった。

 

 

 

 

 艦内では情報漏えいの可能性が高いということで資料を作る事が禁止されていた。以前暇つぶしも兼ねていた資料作りを制限されたときは大変だったが、今回は起きている間にはモンモランシーが訪ねてきてくれるし、シエスタの紅茶もある。フネの周期の長い小さい揺れに身を任せながらモンモランシーと日常生活を送っていると、隠居生活に突入したような気分になりゆったりとした時間が流れた。

 

 シエスタのご家族には戦端が開かれるであろう日が伝えられており、もし何もなくても当日は避難施設の近くで過ごすよう言付けて来たそうだ。ただ、タルブ村はアストン伯の治める地であり、村での影響力もアストン伯の方がカスティグリアより強い。基地建造やその後の生活では村民もカスティグリアに好意的だったのだが、アストン伯に倣うように撤収を渋るカスティグリアに対し不信を抱き始め、シエスタのご家族がとりなしていたらしい。現在は撤収作業も完了し、特に問題はないとのことだ。

 

 そして、戦端が開かれるであろう当日、作戦が遂行される予定日。目が覚めて体調を確認する。今までで一番絶好調かもしれない。頭痛もほとんどなく、四肢の痛みもほとんどなく、少々だるい程度だ。シエスタに身支度を手伝ってもらい、シュヴァリエのマントを纏って部屋を出るとモンモランシーがきれいな真紅のドレスを纏って笑顔で待っていた。

 

 「ああ、モンモランシー、君は本当に何を着ても似合うね。赤い薔薇に飾られた奇跡の宝石をこの目に収められるとは思ってもみなかったよ。」

 

 「ふふっ、ありがとう、あなた。あなたの服装もステキよ?」

 

 照れながらお互いの服装を褒め、レビテーションを掛けてもらい、三人でブリッジに上がると、すでにモットおじさんが来ており、テーブルで紅茶を楽しんでいた。

 

 「モットおじさん。ごきげんよう。いやはやお待たせしてしまい、申し訳ありません。」

 

 「おお、クロア殿。ごきげんよう。いやいや、ちょうど良い時間のようだよ。私もこのフネとシエスタ嬢の淹れてくれた紅茶を楽しむ時間があって良かったというものだよ。」

 

 モットおじさんは笑顔でスマートに気を使ってくれた。モットおじさんがいるということは作戦実行の許可が下りたということなのだが、一応確認しておいた。原作通りアルビオンが自作自演で自分のフネを爆沈させ、宣戦布告したらしい。カスティグリアの戦力に関してマザリーニ枢機卿はある程度知っていたはずなのだが、彼は外交努力に固執し、会議が紛糾してタルブ村の被害がどんどんと増えたらしい。

 

 「タルブ炎上中」の報が入った時に父上とモットおじさんはもはや限界と見定め、独自に動こうとしたところでアンリエッタ姫が立ち、彼女の一声で徹底抗戦が決まったそうだ。そこで父上がアンリエッタ姫にカスティグリアの戦力を使うよう進言し、カスティグリア諸侯軍に勅命が下されたそうだ。そして、アンリエッタ姫も近衛を率いて出陣するらしい。

 

 ふむ。ほぼ、原作通りだろう。ゼロ戦や虚無のルイズ嬢がいない代わりにカスティグリアの戦力がある。特に問題はなさそうだ。今後の展開に注意が必要だが、原作からの乖離を最小限にするのであればあとでルイズ嬢に虚無のことを知らせるべきかもしれない。

 

 話を聞きながらトテトテと歩き、テーブルの椅子に座ろうと思ったのだが、特等席を用意してくれたようだ。一段高くなっており、テーブルの後方にある艦長席の隣に四人分の椅子とテーブルとティーセットが用意されていた。

 

 艦長殿に案内され、モットおじさん、俺、モンモランシー、シエスタの順番で席が用意された。シエスタがシエスタの分も含めて五人分紅茶を淹れ、全員座ったところで、艦長殿から現在の作戦の進行状況が知らされ、一つお願いされた。

 

 いや、うん。一応名前だけ今回の作戦の艦隊最高指令官ですからね。演説して欲しいそうだ。

 

 照れをなんとか隠しながら渡されたマジックアイテムを手に取る。このマジックアイテムはレジュリュビの艦内はもちろんのこと、随行している艦内全体にも声が届くそうだ。演説が終わったら戦力を展開し、作戦が開始されるらしい。

 

 かなり恥ずかしい。その上考えが全然まとまらず、何を言っていいのかわからない。

 

 「クロア殿が望んでいた戦場(いくさば)ですぞ。なに、クロア殿、アレを恐れることはない。この場、この時ならばどんな事を申しても恥にはならず、むしろ彼らの勇気を引き出すでしょう。」

 

 黒い覇道の先人、熟練の黒歴史生産者であるモットおじさんが笑顔で勇気をくれた。

 そうか、ここならば、この時ならば問題ないのか。モットおじさん、ありがとう。モンモランシーもシエスタも笑顔で無言の応援をしてくれる。今ならば問題ないというのであれば全力で逝かせてもらおうか! 

 

 モットおじさんにお礼を言ってから紅茶を一口飲む。そして、席を立ちマジックアイテムを握る。そしてプリシラを呼び、肩に止まってもらい視界を共有する。

 

 ―――さて、往こうか。今ならば外の景色もよく視える。レジュリュビの周りに展開するフネも、その甲板で作業する人間の姿や表情すらよく視える。不安で表情が曇っていたり、緊張で少し手が震えている者もいる。

 

 ならば奮い立たせよう。生死の不安に取り憑かれた人間に必要な戦場の媚薬を与えよう。

 

 「今作戦の最高指令官クロア・ド・カスティグリアだ。カスティグリア諸侯軍、これから生死を共にする戦友諸君。出撃準備中、手を休めず聞いて欲しい。

 我々カスティグリアに住まう者は代々枯れた土地で生を育み、地位の差こそあれ、それぞれ自分が出来る事を堅実に積み重ねカスティグリアという領を作った。そして三年前カスティグリアは変革し、風石を産出し、出来る事は増えたがその中でも戦友諸君はカスティグリアを守ること、そしてカスティグリアを含むトリステイン王国を守ることを選んでくれた。その判断に対し、私はカスティグリアの誇りというものを感じ取らせていただいた。」

 

 本当に誇りに思える。最近ようやく少しカスティグリアの領地についてクラウスから聞いたのだが、農地改革が最後に回されたのもよくわかる状況だった。ほとんど鉱物資源の採掘場を細々と運営し、隣接するゲルマニアと漁場を奪い合い、痩せた農地で取れた農作物を分け合いなんとかやっていたそうだ。もしかしたら風石を売った金で全体の生活が良くなると考えたかもしれないのに、彼らは欲にとらわれず領地を守るための軍備増強を選んでくれた。

 

 「誇りあるカスティグリアの戦友諸君。現在トリステイン王国は、以前カスティグリアに空軍基地を提供してくれたタルブ村は現在薄汚いアルビオンの簒奪者たちによって焼かれている。

 相手は強国、かつてトリステインを超える軍をもっていた強国。最強の空軍を誇っていたアルビオンだ。」

 

 焼かれている原因の半分くらいはマザリーニのせいだと思う。カスティグリアは戦力を用意し、準備していたというのに、出し渋るとは彼らしくないとも思える。カスティグリアのやりすぎを警戒し、外交努力でなんとか収めたかったのだろうか。しかし、アルビオン新政府の息の根を止めない限りこの戦争は終わらないだろう。裏にいるのはガリアの王様だ。こちらが手を緩めた瞬間に食いついてくるだろう。

 

 「しかし、だ。諸君。それはすでに過去の事である。私はこのカスティグリア諸侯軍の信奉者であり、狂信者であり、この軍こそがハルケギニア最強であると信じて疑わない。

 常に最強を追い求め、成長し続ける事を望むカスティグリアの精鋭諸君。我々は三年もの月日をかけてこの戦争を目指していた。領地を隠蔽し、戦力を隠し、邪険にされ、耐え忍んできたカスティグリアの戦友諸君。ようやく、ようやく待ち望んだ戦争が向こうからやってきたのだ。アンリエッタ姫殿下から下された“我らを縛る綱を切れ”という勅命を、危険な戦場を通って王宮勅使のジュール・ド・モット伯爵が直接伝えてくれた。諸君、もはや我慢する必要はない。我らを抑える張り詰めた縄が解き放たれる時が来たのだ!」

 

 あのアグレッサーが全てを物語っている。すでに彼らのライバルは想像上のゼロ戦になっている。彼らは研究所とも懇意にしている関係上、ゼロ戦のスペックもある程度わかっているはずだ。それに対し竜に乗って勝利をもぎ取ろうという執念はすばらしい。

 そして今まで彼らには人を運ぶか訓練するくらいしかまともな任務はなかっただろう。この実戦を誰よりも待ち望んでいただろうことは容易に想像がつく。フーケに対するただのひと当てで垣間見えた彼らの好戦的な深い笑顔が目に浮かぶようだ。

 

 「そう、これから始まる戦闘は、これから向う戦場は、これから続く戦争はアルビオンのものでもトリステインのものでもない! 全てが我々の、我々のためだけに用意された、我々の望んだ戦争だ! 三年もの月日を待ち、入念な準備をし、ようやくたどり着いた晴れ舞台だ。存分に楽しんでくれたまえよ?」 

 

 以前通った黒い覇道を再び自分の意思で進んだ。プリシラの目を通して視える艦隊の船員たちの緊張や不安で強張った表情はなくなり、好戦的な笑みを浮かべる者、もしくは歯をむき出しにして嗤っている者だけになった。今にも興奮を抑えきれずに叫び出しそうな、ここまで彼らの威勢のいい声が届いてきそうな雰囲気がある。どうやら俺の黒歴史を覚悟した演説にうまく乗ってくれたようだ。

 

 「なに、今日はただの前菜だ。お楽しみはまだまだ用意してある。カスティグリアの精鋭諸君。前菜だけでは少々物足りないかもしれんが、折角アルビオンの簒奪者がご丁寧にはるばる遠くから運んできてくれたものだ。存分に味わいたまえよ?

 ―――さぁ、おめしあがれ?」

 

 以前ラ・ロシェールでアグレッサーが言っていたシャレを混ぜて演説を閉めると、椅子に座り、マジックアイテムを艦長に返した。艦長は「よい演説でした」と笑顔を浮かべ受け取ると、キリッとした顔をして立ち上がった。これからは彼が全ての指揮を取る。俺やモットおじさんはただの見学になるが、同じ見学料を支払っているのだ。楽しませていただこう。

 

 「艦隊総員、戦力展開。」

 

 と、艦長殿が命令を下すと好戦的ないい笑顔を浮かべたブリッジクルー達が行動を開始した。

 

 「了解。こちらレジュリュビ、風竜隊出撃。全艦第一種攻撃陣形。火竜隊出撃準備。」

 

 クルー達が他の艦へのマジックアイテムを使った通信を開始すると、レジュリュビからも竜たちが飛び立っていくのが見えた。レジュリュビの後ろに位置する竜母艦から飛び立った風竜も合流し、三匹ずつのデルタを組んで42匹の風竜が艦隊を先行する。続いて回りにいた戦列艦が速度を上げ、三本の縦隊作って進んで行き、少数の艦をレジュリュビの護衛に残して小型艦が戦列艦の後ろに縦隊を作って並ぶ。そして彼らの後ろを守るようにレジュリュビが速度を上げ、最後に残りの竜母艦がレジュリュビを盾にして追従する。

 

 レジュリュビから飛び立った風竜はアグレッサーをコアにした風竜隊の中でも熟練の者たちだそうで、まず彼らが先行してひと当てし、敵の竜騎士を叩き落す。そして、その場に留まることなく通過し、その後ろから残りの竜や戦列艦を盾にした小型艦が戦場に入るという作戦になっている。

 

 戦場までおよそ10リーグほどだろうか。プリシラの目を借りても比較的大きい敵旗艦のレキシントンはともかく、竜はぽつんと点のようにしか見えない。そして、4分ほど経つと風竜隊が敵竜騎士にぶつかった。敵はこちらに気付くのが遅かったようで、まとまった数の連携が全く取れておらず、こちらは三匹と三人のメイジの乗った竜が一つの意思で手足を動かすがごとく連携してあっという間に落としていった。

 

 「風竜隊より。敵竜騎士殲滅。第一段階成功、作戦行動を継続」

 「艦隊行動開始。火竜隊出撃。」

 「了解。こちらレジュリュビ、艦隊行動開始。火竜隊出撃。」

 

 ブリッジに置かれたマジックアイテムの時計を見ると、まだ演説から6分しか経っていない。そして、27匹の火竜が後方にある竜空母から飛び立ち始め、ブリッジの横を通過していった。

 

 は、早すぎじゃないですかね? あ、ワルド子爵とかこの戦場にいるのだろうか。一人でワンマンプレイとかしてそうですな。プリシラにワルドがいるか聞いてみると、レキシントンの上空で待機しているそうだ。

 

 「艦長、プリシラが言うにはレキシントンの上空にもう一匹いるようだ。」

 

 「ほぅ。さすがですな。了解しました。作戦変更、アグレッサーはレキシントン上空にいる者を捕獲せよ。」

 「了解。アグレッサー。こちらレジュリュビ。レキシントン上空に感あり。捕獲せよ。」

 

 ほ、捕獲なんですか? 落とさなくていいんですかね? ま、まぁいいか。

 

 「アグレッサーより、敵竜騎士を捕獲。一度艦に戻ります。」

 「左舷から入るよう伝えろ。艦内放送。左舷ガンデッキ第六班。捕虜一名、竜一騎捕縛準備。」

 「了解。アグレッサー。こちらレジュリュビ、左舷より着艦してください。」

 「了解。ブリッジより左舷ガンデッキ第六班。捕虜を一名、竜を一騎捕縛準備。」

 

 はやっ! たった数十秒でワルド子爵が捕まったようだ。しかしアグレッサー一騎だけでも大変だろうに六騎ではどうしようもなかったに違いない。

 

 そしてさらに数分経つと、今度は重武装した火竜隊が敵艦隊の上空に到達した。アルビオン艦隊はすでに竜騎士という機動性の高い部隊を失っており、艦隊の防御は積まれている砲に頼るしかなくなっている。そして既存のフネではその砲を真上に撃つ事ができないそうだ。

 

 基本的にフネというものは上昇するには少々時間がかかる。そして、竜の上昇能力の方が遥かに高いうえに、相手はすでに竜というフネの上空を守るための兵科を喪失している状態だ。火竜隊の運んだ自由落下爆弾が彼らの艦隊を一方的に破壊し始める。そして先に出て戦場を一度通過した風竜隊が再び敵艦隊に打撃を与えて母艦に戻り、自由落下爆弾を竜に持たせ再び飛び立つ。

 

 火竜隊は継続して損傷の少ない敵艦船の甲板やマスト、そしてそれにかけられている帆をブレスで焼いていく。飛び交う竜からの通信や他のフネからの通信は全てテーブルの上にある地図と模型によって再現されている。最初はただ置かれていた模型だが、今は小型の風石でも使っているのか、四種類ほどの高度を再現している。

 

 喪失部分も再現しているらしく、状況が変わるたびにマストを外したり帆を外したりしている。こうしてみるとカスティグリアのフネは基本的に蒸気機関を積んでいるらしく、小型艦は装甲が厚そうだ。火竜と連携して砲弾をかいくぐるように相手のフネに上手く接触し、すでに何隻か白旗の立った模型がある。

 

 四人ほどのメイジがせわしなく模型を動かし続けている。火竜隊が一度爆撃したときにがくっと敵のフネが減り、一気に敵の艦隊が混乱し別々の方向を向いてかなりばらけた。今では逃げ惑う獲物を一箇所にまとめるような、まさしく牧羊犬のような働きをしている。最初に聞いたプランでは戦列艦とレキシントンは拿捕、ほかは全て爆沈させる予定だ。大抵戦列艦未満のフネは自由落下爆弾を投下され、一撃で爆沈しているようだ。さすが風石まで到達した爆弾である。

 

 そして、演説から14分。レジュリュビが戦域に到達した瞬間。最後まで抵抗していた敵旗艦レキシントンが小型艦5隻、火竜27匹の猛攻撃に白旗を揚げ、拿捕された。

 

 「敵旗艦の拿捕を確認。第二段階成功。作戦を継続。」

 「戦列艦降下開始、風竜隊、火竜隊、地上制圧開始」

 「了解。こちらレジュリュビ。戦列艦降下開始、風竜隊、火竜隊は地上制圧開始。」

 

 レジュリュビから残念ながら下方はほとんど見ることができない。しかし制空権を失った歩兵や騎兵はたとえメイジがいたとしても絶望的だろう。この戦闘が始まってから初めて戦列艦が砲撃を行ったらしく、轟音がブリッジにまで届いた。

 

 そしてその一度の轟音が地上にいたアルビオン軍約3000の兵の心をへし折り、タルブでの戦闘が終わった。レジュリュビもガンデッキから大砲を押し出すと、降下を始め、地上にいるアルビオンの兵士達を威嚇する。風竜隊42騎、火竜隊27騎がタルブを飛び回り、アルビオンが地上に展開していた、すでに武器を手放した兵士達を囲い込み、一箇所に集めていく。

 

 戦列艦はその外周を空中で円を描くように等間隔に配置された。カスティグリアが拿捕したアルビオンの艦船は旗艦レキシントンと戦列艦が14隻。他のアルビオンの艦船は全て爆沈した。カスティグリアの小型艦に配置されていた白兵戦兵員によってアルビオンの船員は完全に捕縛され、カスティグリアの船員達がタルブの平原にフネを降ろす。そして、白兵戦兵員が地上に降りると、降伏したアルビオンの地上部隊の拘束に移る。

 

 小型艦はそのままタルブ上空を回り、タルブ村に起きた火災の鎮火作業に移った。プリシラに鎮火作業を手伝って貰えるか聞いたところ、『餌ね? いただいてくるわ』と言って飛んでいった。そして、完全にアルビオンの兵員の全てが拘束され、竜部隊が彼らを見張りながら順番に補給に戻り始めたころ、ようやくアンリエッタ姫と白い布を頭に巻いたマザリーニ枢機卿に率いられたトリステイン王軍約2000がタルブに到着した。

 

 王軍の到着を確認し、風竜隊の一部がタルブ村の領民の安否確認に向かい、レジュリュビを始め、手の開いている水メイジと土メイジが少し離れたところに救護所の設営に向った。自己中心的だが、せめてシエスタのご家族だけでも無傷でいてもらいたいものだ。

 

 ふむ。しかし、ここはお飾りとはいえ最高指令官として俺が出迎えることになるのだろうか。外で出迎えるのはイマイチ品がない気がする。レジュリュビにアンリエッタ姫とマザリーニ枢機卿を招くのは極秘事項に抵触するのだろうか。戦列艦を一つ下ろしてそこで会議とかになるのだろうか。こういうのはクラウスが全てお膳立てしてくれていたので全くわからない。

 

 悩んでいると、モットおじさんが艦長殿と少し言葉を交わし、アンリエッタ姫とマザリーニ枢機卿をこのブリッジに迎えることを宣言した。そして艦長殿から命令が下り、ブリッジクルーがあわただしく動き、作戦状況を示していたテーブルの上が完全に片付けられ、テーブルクロスが敷かれ、ティーセットが用意された。

 

 俺も一応参加するようで、テーブルに移動することになった。上座を空けるため、テーブルの船首方向にモンモランシー、俺、モットおじさん、艦長殿の席が用意された。モットおじさんの希望でシエスタが紅茶を淹れることになり、アグレッサーがアンリエッタ姫とマザリーニ枢機卿、そして近衛兵四名をブリッジの上部に運んだ。

 

 モットおじさんと艦長殿が二人と近衛兵を出迎え、全員席についた。アンリエッタ姫は白いスカートが破れた俺の心臓に優しくないウェディングドレスを身に纏っており、緊張した面持ちで、たまにマザリーニ枢機卿を観察している。そのマザリーニ枢機卿はアンリエッタ姫の破れたドレスの一部と思わしき布を頭に巻いており、深い皺をさらに深くしている。

 

 俺の正面にアンリエッタ姫、モットおじさんの前にマザリーニ枢機卿といった席順で、近衛兵四名はアンリエッタ姫とマザリーニ枢機卿の後ろに並んでいる。よく考えたらモットおじさんは王宮の勅使のはずなのだが、こちら側に座っている。実際こちら側で彼らと交渉というお話を出来るのは俺かモットおじさんだけであり、俺としてはぶっちゃけ戦後交渉はよくわからないのでありがたい。

 

 そして、俺と向かい合っているアンリエッタ姫はお互い諸侯軍と王軍のお飾りの最高指令官なのだろう。そして、実務担当のモットおじさんとマザリーニ枢機卿が同じく向かい合っているというちょっと皮肉の効いた面白い席順だった。

 

 

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか。私にはこれが現状出しうる戦闘描写能力の全てであります;; 
いや、第三者視点にするべきだったのかな? とチラッと思いました。
 クロア君の演説。かなーり大変でした。ええ、戦闘描写も含めてあまりに書けなくて何度も不貞寝しましたとも!
ア、アニエスどうしようマジで! 本文書き終わって読者様の感想読んで気付きました!
こまったぞー? クラウスたすけてー!

次回、えーっと、戦後処理の話のはずなのですが指が滑ってアンリエッタ姫が乗船してしまってどうしようかとorz
と、とりあえずひねり出します。ええ。ちょっと間開くかもしれません。

次回おたのしみにー!


恒例のおまけ。いつもの如く本編とは関係ありません。たぶん。
ヴァリエール :はぁ? 次は逆侵攻するって? 戦争馬鹿なの!?
モンモランシ :え? モンモランシーも出陣したの? しかも紅茶飲みながら完勝!?
カスティグリア:フフフフフッ 圧倒的じゃないか、我が軍は

アンリエッタ:啖呵切ってドレス破ってユニコーンに跨って戦場に着いたら終わってた
マザリーニ :何あのフネ。巨大なんてもんじゃねぇ!? やっぱりカスティグリア怖い
リッシュモン:え? アルビオン艦隊全滅? ワルド捕縛? ナニソレヤヴァイ
モット   :ふはははは、旨い、なんて旨い獲物なんだ!

アグレッサー:やはり所詮はただの前菜。メインディッシュが楽しみだな
火竜隊   :うはっ! 俺たち敵旗艦拿捕とかっ! やっぱ火竜はサイコーだZE!

レジュリュビ艦内
ガンデッキ砲兵:大砲押し出すしか出番なかった。俺たちの戦争じゃなかったの?
左舷第六班  :いや、俺たちは出番あったし? 大砲撃たなかったけどあったし?
ブリッジクルー:クロア様の演説録音しといた。あとでみんなで聞こう

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