ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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うーん。何も思いつかない。
それではどうぞー!


30 竜の羽衣

 今回俺を運んだアグレッサーは今俺が横になっているベッドのある小屋の近くにテントを張って駐留している。しかし、恐らく時間も押し迫っているというのにラ・ロシェールに向うための口実が思いつかない。モンモランシー達が出て行っても結局思いつかなかったので、ちょっと羊皮紙に夜の散歩に出てくると書き置きして風竜隊が駐屯している場所へやってきた。近づいたところで、夜間の見張りをしていたのだろう。アグレッサーの一人に声をかけられた。

 

 「おい、ここは平民の来る……、はっ、失礼しました。クロア坊ちゃんでいらっしゃいましたか。しかし、このような時間にどのような。」

 

 「いやはや、驚かせてすまないね。任務ご苦労。夜の風竜というものをぜひ見てみたくてね。君にとっては見慣れたものかもしれないが、俺にとっては風竜と接する機会も少ない。見逃していただけないだろうか。」

 

 そういうと、隊長に相談してくると言って走っていった。しばらくすると隊長さんを伴って帰って来た。そして、隊長さんに軽くレビテーションを掛けてもらい肩を貸してもらいながら、先ほどの隊員さんと一緒に三人で風竜の駐屯場所へ歩いていく。そしてそろそろ風竜のいる場所に着くというところで隊長さんに話しかけられた。

 

 「しかし、坊ちゃん。珍しいですな。一人で出歩いてまで風竜を見たいとは……。」

 

 ふむ。隊長殿には気付かれたかもしれない。隊長殿にはいつもお世話になっている上に、今回は確実に彼の協力が必要になるのだ。ここは引き込む方向で話してみよう。

 

 「ふふっ、さすがアグレッサーの隊長殿だ。よい勘をしている。そうなんだよ、何か先日からどうもラ・ロシェール方面で何か起こるのではないかと胸騒ぎがしていてね。何も無ければ良いのだが、特に今日はどうも落ち着かなくてね。隊長殿はどう思うかね?」

 

 そう、自虐的な冷笑を浮かべながら隊長殿に話すと、隊長殿目を爛々と輝かせ獰猛な表情を浮かべて嗤った。

 

 「ああ、坊ちゃん。いやはや、さすがにすばらしいですな。私も今日は胸騒ぎがしておりまして、任務が無ければ今すぐにでもラ・ロシェールへ向いたいと思っていたところなのですよ。」

 

 あ、あれ? 隊長さん。えーっともしかして合わせてくれてますか? まさか本当に胸騒ぎがあるのですかね? それなら勘がいいどころの騒ぎじゃないと思うのですが。

 

 「そういえば隊長、さっきもそんなこと言ってましたね。クロア坊ちゃんもそうですが、気のせいじゃないですか?」

 

 「ああ、坊ちゃん、すいません。コイツは先日アグレッサーの増強が決まって、まだアグレッサーに入ったばかりでしてね。まだ仕込みが足りんのです。」

 

 え、本当に胸騒ぎしてたんですか? もはや原作知識以上にすごい勘ですね。カスティグリアのアグレッサーは一体どこへ向っているのだろうか。し、しかし、これならば都合もよかろうて。

 

 「ああ、構わないとも。カスティグリアのアグレッサーはメイジの枠、貴族の枠、人の枠、竜の枠、そして人と竜の絆を遥かに超え、常に世界最強でなくてはならん。丁寧に仕込んで君も含め、常に世界最強を目指し続けてくれたまえよ。」

 

 「はっ! 了解であります。―――そうですな。こんなキレイな夜は久しぶりかもしれません。どうです? 坊ちゃん。よろしければラ・ロシェール方面へ夜間訓練も兼ねて遊覧飛行などしませんか?」

 

 「ほぅ? それはすばらしい申し出だ。ぜひとも体験してみたいとも。隊長殿、準備を頼むよ。」

 

 「はっ! おい、アグレッサー全員搭乗、全騎特別遊覧飛行準備。一人坊ちゃんと遊覧飛行に出ることをお知らせするのに留守番を置く。他の隊から引っ張って来い。急げよ?」

 

 隊長殿がそう命令を下すと新人さんは威勢よく返事をしてかなり素早く走っていった。俺も準備のため、プリシラを呼び戻す。

 

 夜の空は冷えるというのでアグレッサーの隊長さんにマフラーを巻いてもらい、外套を着せてもらった。マフラーには魔道具が仕込んであって、比較的短距離であればアグレッサー同士で交信ができるらしい。しかし、これは一つの基本となる魔道具を作ってから何個か抽出して作る方式で作られているため、混線などはないそうだ。

 

 ただ、多くても10個くらいしか作れない上に中々作るのが難しいらしく、現在は竜部隊の隊長やテスト部隊、そして艦隊を組むフネに一つずつとからしく、アグレッサーだけ特別に一人一個以上供給されているそうだ。なんだかアグレッサーだけオーバースペックになりすぎている気がする。しかし、空を飛べばファンタジーでも地球でも同じようなものが欲しくなるのだろうか。と、なると次は航法用のマジックアイテムや視認困難な状況での高度計や速度計などだろうか。いや、その辺りは竜に頼んだりした方が早いかもしれない。ううむ。

 

 そんなことを考えていると出撃準備が整ったらしく、隊長さんに抱きかかえられて風竜に乗った。今回は現地まで比較的高空を飛ぶらしく、かなり寒く、風が痛いのだが他の隊員は平然と飛んでいる。プリシラに先行偵察のため、ギーシュの場所を探してもらい、その近くにミス・ロングビルがいるかも探してもらった。

 

 しかし、いつもならこのような環境にいたらすぐに具合が悪くなるなるはずなのだが、妙に高揚感が体中を支配しており、むしろいつもより体の調子がいい。空に浮かぶ青と赤の二つの月はほとんど重なっており、煌々と静かな光を湛えている。強く吹き付ける風にも慣れ、しばらく飛ぶとラ・ロシェールと思しき光が地上に見えた。

 

 「隊長殿。どうやらアタリのようだぞ? メイジ2、盗賊数十ってところだ。脱獄させられた『土くれ』殿がいるらしい。」

 

 「ククク、やはりそうでしたか。大物ならばレコン・キスタのスパイ、小物なら傭兵崩れの盗賊ってところですかね?」

 

 プリシラからの報告で現在フーケはゴーレム作成中のようだ。フーケの隣には白い仮面の男がいるらしい。全てがうまくいっている。この調子ならフーケの襲撃すら防げるかもしれない。一度プリシラに戻ってもらい、竜に合わせた速度で飛び、風竜隊をフーケの下へ案内してもらう。

 

 「隊長殿、作成中のでかいゴーレムがあるらしい。悪いがゴーレムは俺がいただこう。フライパスしてくれたまえ。あとは任せる。」

 

 「了解です。アグレッサー各員。ゴーレムは坊ちゃんの獲物だ。他はすべて譲ってくれるらしい。久しぶりの盗賊狩りだ。食い残しのないよう味わって食えよ? さぁおめしあがれ?」

 

 隊長殿のシャレの効いた掛け声が各員に届くと威勢の良い声が返され、下から突き上げるような重力を感じ、プリシラが先導する地帯に急降下を始めた。俺は隊長の前に座っているので隊長の表情を窺う事はできないが、きっと嗤っているだろう。俺も顔がにやけるのが止まらない。きっと歯をむき出しにして嗤っていることだろう。腰から飾り気のない杖を引き抜き、目を見開く。―――さて往こうか。

 

 急降下し始めて数十秒、ようやくフーケのゴーレムが視えた。近くに傭兵らしき人間も数十人いる。どうやら宿への突入直前らしく、ドアの近くに数人張り付いている。ゴーレムの肩にはフーケとワルド子爵のユビキタスがいるようだ。ふむ。とりあえずアレは邪魔かもしれない。お誂え向きにまだラ・フォイエの射程まで数秒ある。

 

 ファイアー・ボールの詠唱をさっと終わらせワルド子爵の胴体に向けて放つ。ファイアー・ボールの魔法で生み出された火の玉は弾となり、ワルド子爵の胴体を貫通し、そして一瞬で地面に到達し、射線上のものを焼いた。それを目印にするようにゴーレムの上空5mほどをフライパスする瞬間にゴーレムの中心より少し下を照準して今度はラ・フォイエを放つと同時に後続の風竜たちが速度を殺すことなく大地に向けてブレスを放ったのが視界の隅に視えた。

 

 ゴーレムに乗ったフーケは一瞬で通過し、ワルドのユビキタスを塵に返したファイアー・ボールに反射的に反応したようにこちらを向き、逡巡なく離脱に移ったようでラ・フォイエの収束が始まる頃にはすでにゴーレムから足が離れていた。きっと彼女には俺のことがわかったのだろう。なるほど、盗賊としてか女としてかはわからんが天性の勘があるのだろう。前回と同様、彼女の回避が間に合いそうだ。しかし、無傷で逃げ切る事はできなかろうて。

 

 ゴーレムを塵にし、焼けたクレーターを作るラ・フォイエの熱を伴った爆風と、6匹の風竜から一斉に放たれたブレスによって生み出された轟音と衝撃にそこに集っていた傭兵で原型を保っているものは全て地に伏した。フーケはどうやらフライで上手く離脱できたようだが、恐らく怪我をしているだろう。どこかに隠れているだろうが、今のところそれほど脅威ではない。

 

 一度目のアグレッサーによる対地攻撃が終わり、再び編隊を組んで左に旋回しながら高度を上げる。プリシラと視界共有をして戦果を確認すると、起き上がる者もいないようだ。プリシラは『おいしそうね。』と言って焼けた大地の上を旋回してから俺の肩に戻った。

 

 「坊ちゃん、建物からメイジが出てきたようです。マントの色から近衛だと思われます。一応確認のため降りますか?」

 

 ふむ。ここで会って話しても良いのだが、うまく説明できる気がしない。

 

 「いや、敵性勢力はもういないのだろう? まぁ説明に一人二人残して戻ろうじゃないか。どうせ降りても1ドニエの得にもならんさ。」

 

 「はっはっは、確かにそうですな。おい、2番3番、降りてその辺にいるヤツに状況説明の後、帰還せよ。他は巣に戻るぞ。」

 

 そう隊長が命令を出すと後ろを飛んでいた二匹が再び急降下を始め、こちらは隊長を先頭にしてダイヤモンド編隊を組んで帰路を目指した。

 

 

 

 

 

 タルブ村に戻るとクラウスとモンモランシーが待っていた。隊長さんに降ろしてもらい、歩いて彼らに近づく。ちょっと怒られそうで怖い。

 

 「おかえり、兄さん。気は晴れたかい?」

 

 クラウスに笑顔で聞かれたので、

 

 「とても有意義な遊覧飛行だったとも。ああ、アグレッサー隊は責めないでくれたまえよ? 俺が無理を言ったのだよ。隊長さん、とても楽しい遊覧飛行だったとも。ありがとう。」

 

 と、隊長さんにマフラーと外套を返しながらおどけて言うと、クラウスは肩をすくめた。

 

 「ねぇ、あなた。心配したのよ? クラウスさんが何かを気にしてるから自由にさせてあげて欲しいっていうから怒らないけど、事情くらいは知りたいわ。」

 

 モンモランシーが俺にレビテーションを掛けて腕を掴むと強制連行のように小屋へ連れて行かれた。そしてベッドに収納されると、モンモランシーへの説明を始めることになった。

 

 「心配をかけてしまってすまないね。モンモランシー。ただ、今回のことは何と言うか、勘としか言えんのだよ。シュヴァリエ受勲前から付き纏っていた焦りのようなものが俺を動かしたと言っていい。それで懸念のあったラ・ロシェールに行ってみたのだがね。懸念が当ってしまったようで、トリスタニアの監獄にいるはずのフーケがいたんだよ。」

 

 「フーケってミス・ロングビルだった人よね? どうやって抜け出したのかしら。」

 

 フーケのインパクトで上手く逸らせそうだ。ここはこのまま進めよう。

 

 「一緒にユビキタスだと思われるメイジがいた。ほら、風のスクウェアの偏在の魔法だよ。恐らくそのユビキタスが脱獄を手伝ったのだろう。と、なるとトリスタニアに内通者がいるかもしれないね。」

 

 「そう、でもクロア。今度何か思うところがあるのなら反対しないわ。でもせめてわたしも連れて行って。心配しながら待つのはイヤよ。」

 

 モンモランシーはそう言って俺の手を握った。ふむ。確かにそうかもしれない。もし逆の立場なら持てる全ての力を使って探すだろう。

 

 「そうだね。本当にすまなかった。今度からはちゃんとモンモランシーに話すよ。未来の夫婦に隠し事はなしだね。」

 

 「そうよ、あなた。」

 

 モンモランシーはそういうと、俺の頬に手を当てて唇を重ねた。柔らかい唇の感触が脳髄を直撃し、幸せに浸った瞬間、俺の意識が消失した。

 

 

 

 

 意識が戻ると、シエスタが枕元にいた。学院にいる時のように身支度を手伝って貰いながら様子を聞くと、普通に翌日だったようで少し安心した。家族との団欒も楽しめたとお礼を言われたが、本来は年に何度か戻れたはずだ。カスティグリアやモンモランシに移っても交流できるよう考えた方がいいかもしれない。そのことをシエスタに言うと、クラウスも同じような事を考えたらしく、手紙のやりとりや暇が出来た時は戻れるよう取り計らってくれることになったそうだ。本来そのようなことはないそうなので、シエスタは恐縮していたが、心配しながら生活するよりは良いだろう。

 

 お昼ごはんのヨシェナヴェをいただいたあと、クラウスが見せたいものがあると言ってレビテーションを掛け、シエスタに肩を借りてふよふよ浮いて行くと、あの花の平原を越えた辺りに神社のような施設があった。どう見ても佐々木氏が残したものだろう。そしてその隣にも最近できたばかりのような建物が建っている。

 

 「うちの曾祖父が残したものなのですが、とても貴重な物だったらしくてカスティグリアのメイジの方が以前からずっと研究してるんですよ。竜の羽衣と言って以前は村のお荷物だったんですけどね。」

 

 シエスタはちょっと照れたように解説してくれた。ああ、やはり竜の羽衣。よく考えたらシエスタの側室関連の話やタルブ村に置く空軍基地関連の話でクラウスはタルブ村を訪れていたのだろう。基地を置く場所の視察で発見したとしてもおかしくはないし、空戦関連の資料や竜の補助翼の資料、そして蒸気機関でのプロペラ推進関連の資料もあったわけだから、竜の羽衣が飛ぶということはすぐに予想が付いたのだろう。そしてこれがさらに先を行っているまさしく目指すべきものだとすぐにわかったに違いない。

 

 「ふふっ、兄さんの資料がなければコレが空を飛ぶとは誰も思わなかっただろうね? コレを見たときは本当に驚いたよ。」

 

 クラウスがそう言いながら一緒に施設に入ると、20名ほどのメイジが竜の羽衣という名の零式艦上戦闘機の計測やスケッチ、素材の錬金などをしていた。どうやらまだ飛ぶ段階でも分解する段階でもなかったようで安心した。計測は型取り方式らしく、簡単に取り外せそうなものは取り外して計測している。翼や外の形状はほとんど終わったらしく、終わったものは隣の建物に収納されているらしい。

 

 しかし、取り外しなどに使う工具などはもう作られており、ナットの形をした穴のある工具や十字型の棒が整然と置いてある。

 

 「兄さん、やっぱりあまり驚かないね? もしかして知っていたかな?」

 

 「いや、驚いているとも。しかし、どちらかというと竜の羽衣よりもカスティグリアの研究者達に驚いているとも。良くぞここまで成長したものだとね。」

 

 「ああ、なるほど。彼らはとても熱心だからね。総合研究所でもトップクラスの頭脳たちだよ。」

 

 そう話していると一人のメイジがこちらへやってきた。頭は禿げ上がっており、髭も生やしていない。つまり毛が一本も見えない。しかし体格はよく、目つきは鋭い。

 

 「お初にお目にかかります。クロア様でしょうか。カスティグリア総合研究所副所長をやらせていただいております。エルンストと申します。クロア様には常々お会いしたいと思っておりました。お目にかかれて光栄です。」

 

 「クロアだ。こちらこそお会いできて光栄だとも。しかし、総合研究所のメンバー達はすばらしいな。素人ならば、ちょっと解るようならすぐに分解をしたがるものだと思うのだがね。」

 

 そういうと、エルンストはニカッと笑った。

 

 「お褒めいただき光栄の極みでございます。資料を拝見させていただいて以来私はあなたの信奉者の一人なのですよ。信奉者でない者は総合研究所にただの一人としておりません。そしてその信奉者たるもの、このようなものに出会ったらまず正確に少しずつでも把握していくものでしょう。」

 

 「うむ。まさしくその通りだとも。しかしエルンスト殿のような方でも副所長なのか。所長殿はもっと慎重なのだろうな。お会いしてみたいものだ。」

 

 そういうと、エルンストはちょっと首をかしげ、クラウスに視線を向けた。クラウスは笑いを堪えているように頬をひくつかせている。

 

 「に、兄さん。そういえば言うの忘れていたんだけどね。実は兄さんが所長なんだ。エルンストさんが兄さんを差し置いて所長になれないと頑として譲らなくてね。」

 

 ふむ。つまりすでに所長に会っていたと? というかいつの間に所長だったのだろう。いや、特に何も決済していないのだからお飾りだろう。まぁ名誉職だろうし、特に給料や仕事が回ってくるわけでもない。問題なさそうだし、エルンストがそう言うのであればいいだろう。

 

 「ふむ。そうだったのか。エルンスト殿、申し訳ないのだが、たった今知ったばかりなのだよ。所長として何もできないが、そうだな。俺にわかることであれば相談には乗ろう。こちらから資料を流すだけでは少々物足りないと思っていたところなのだよ。これからもよろしく頼む。」

 

 「おお、クロア様。そのように言っていただけるとは。ご相談したいことが山のようにありますので、お手を煩わせるかもしれませんがよろしくお願いします。」

 

 「ほどほどにね。兄さんはそれでよく寝込むんだから。」

 

 そんなことを言いながら竜の羽衣の見学を四人で行う事になった。外観の測定はすでに終わっているらしく、現在は稼動部分の形状を測定したり、何のために付いているかの考察に入っているらしい。

 

 ぶっちゃけゼロ戦の星型エンジンはかなり構造が複雑なので俺でも解らないと思う。というかこの世界に解る人間が現れるかは虚無の召喚で本業の方を呼ぶくらいしか方法が見つからない。とりあえずお目当ての機銃の弾を探す。両翼のものは後々使いそうなので20mmの機銃の取り外しを目指すことにし、当たりをつけて補給用のフタっぽいものを開けると奥に弾薬が見えた。構造的にカウルを外せば取り外しまでできそうだ。

 

 機銃の説明をわかる範囲で伝え、コレについて最優先で研究するように言っておいた。そしてコレの将来性、元込め式の大砲やライフルなどを中心とした利用方法など思いつく限り伝え、あとはお任せすることにした。

 

 ちなみにこのゼロ戦。シエスタの嫁入り道具になるそうだ。先に見つかってたらサイトに渡せばいいやーとか思っていたのだが、渡しづらくなってしまった。いや、むしろサイトに研究を手伝ってもらうべきかもしれない。確かガンダールヴはゼロ戦に反応したし、操縦方法はともかく、整備にも少しは役立つかもしれない。そっとクラウスに近づき隠語で相談してみることにした。

 

 「クラウス。左手に協力を要請できないだろうか。」

 

 「ふむ。さすがの兄さんでも難しいかい?」

 

 「ああ、これはさすがに手に余る。二度と動かなくなり、構造理解も2~3割でよいと言うのであれば構わんが、最低限飛べる状況を維持したい。」

 

 「わかったよ。少し考えてみるね。」

 

 エルンストやシエスタは少し不思議そうな顔をしていたが、クラウスが気のせいといったジェスチャーをして場を濁した。

 

 ふむ。しかし、意外とコレは資料作りにも役立つのではないだろうか。すでに完成品があるのだ。構造や物理学的な意味、そしてなぜそのようにしたのかという目的をまとめて与えれば、完成品はすでにあるのだ。意外とエルンストたちがやってくれるかもしれない。ぶっちゃけこのピトー管を見たら自作できる気がしなくなってきた。いや、管自体は可能だろう、仕組みも知っている。しかし、確かこの角度とか取り付け位置とか内圧ホースがかなり重要だった気がする。

 

 「エルンスト。コレが何かわかるか? ピトー管と呼称しているのだがね?」

 

 「ピトー管……ですか? 今のところ誰にもわかりません。高速旋回や最高速度の底上げのための空力的な構造だろうという意見が多数を占めていますが、それにしては妙だと誰もが思っております。」

 

 ふむ。というか空力という単語が出るとは思っても見なかった。どうなってるんだろう総合研究所。羊皮紙を一枚貰い、クラウスに平たい板を作ってもらってそこを机にしてピトー管の構造や力学的な意味を教える。

 

 「つまりここの穴から空気が入ると圧力によってこことここに差が生じるわけだ。それを二つ組み合わせることによって誤差を減らしている。また、取り付ける位置や角度、それを測定するための計器までもがかなり精密に作られているはずだ。プロペラが発生させる風を飛びながら測定しても誤差が生まれるからな? 恐らくこの場所はプロペラが生み出す風の影響のない部分なのだろう。

 もし竜に取り付けるのであればその中間部分はマジックアイテムで代用した方が良いかもしれん。また、ピトー管に異物が混入したり塞がったりすると内圧が生じて使い物にならなくなる。かなり繊細な物なのだよ。」

 

 「ふむ。なるほど、つまり大気に対する速度計というわけですな? 素材から小さな部品まで恐ろしく精密に作られている上に理解の及ばないものが多々あります。ピトー管もそうですが、いやはや、まさしくこれは宝の山ですな。」

 

 「そうだな。ただ一つ、コレについてだが、基本的に固定化しか魔法が使われていないのはわかるかい? そう、固定化を除けば魔法が一切使われていないのだよ。カスティグリアが利用するにあたって、コレの理解が及べば魔法での代替が可能な部位も多いだろう。しかし、一つ気をつけねばならないことがある。」

 

 「わかります。ええ、ご懸念の通りかと。現在カスティグリアではその辺りかなり厳重に事前措置が敷かれておりますからな。モンモランシの支部に行った者は現地の人間が理解しないと嘆いておりました。当分はカスティグリアが全てを行う事になりそうですな。」

 

 ふむ。やはりカスティグリアのセキュリティシステムはすごいらしい。恐らく人選からすでに厳選されているのだろう。というか、知っているはずの俺が一番最後にゼロ戦の実物を拝んだほどだ。いや、まてよ? よくよく考えてみれば恋愛のプロたちに翻弄されてきたのも全てクラウスが関わっていたな。しかも当事者であるはずの俺には全くわからなかった。

 

 もしかしてこのセキュリティシステムはクラウスが生み出したのだろうか。実際にカスティグリアに関して俺の知らないことは多い。むしろ知っていることの方が遥かに少ないだろう。モットおじさんもあの交渉のとき、最初はただの噂だと思っていたくらいだ。たかが俺のシュヴァリエ受勲のために一日でトリスタニアとゲルマニアから戻るマザリーニの交渉を終えるほど有能な勅使殿が信じるに値しない程度の噂しかキャッチ出来なかったとすると、かなりカスティグリアの秘匿性は高いのかもしれない。もしかしたら漏れるとしたら俺が原因になるとも考えられるほどだ。

 

 ううむ。本格的に隠居を考えた方が良いのではないだろうか。5000エキューの半分くらい使ってラグドリアンの湖畔に家を建て、シュヴァリエの年金でモンモランシーやシエスタとほのぼのと暮らしていた方が幸せな気がするし、カスティグリアの為にもなるのではなかろうか。そう少し落ち込んでいると、

 

 「しかし、さすがですな、所長! 是非とも今後相談に乗っていただきます。」

 

 とエルンストがゴツイ満面の笑みを浮かべた。「う、うむ」と言いつつシエスタを見ると頬を染めてキラキラした目でこちらを見ていた。

 

 そ、そういう目で見られるとだな……少々恥ずかしいのだがね。と顔を逸らすと

 

 「私嬉しいんです。曾祖父が言っていたことを誰も信じなかったのに、今はこんなに信じている人がいるんです。しかも本当にコレで飛んで来たんですよね? 本当のことだったとわかって私の家族もみんな喜んでるんですよ。しかも、クロア様がいたからまだ飛ばなくてもみんな信じることができたんですよ。」

 

 「そ、そうかね。」

 

 できるだけシエスタを意識しないようにそう答えるのが精一杯だったのだが、次の瞬間彼女の肩に置いていた手をシエスタが握り、腕が温かくて柔らかい物に包まれ、頬に彼女の髪と口付けがそっと触れた。

 

 うむ。ついやってしまったのだね? わからないでもないよ。数十年に渡る誤解が晴れたんだ。その嬉しさはとてもわかるとも。

 

 初対面の俺の信奉者の前でこんな姿を晒すとは……、いや、まぁ嬉しいのだがね。モンモランシーがいればこの悲劇は防げたのだろうか。クラウス、あとはまかせ―――。

 

 腕に伝わる感触と頬に訪れた事を正確に理解したとき、俺の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 




 ちょうどいいので明日からちょっとお休みします。

 とりあえずエタるのだけは避けようと思っておりますが、限界超えちゃったみたいなので冷却期間を置こうかなと^^;

 というわけでしばしお待ちを><;

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