ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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今回の長さは通常の2倍以上!(当社比)
ちょっと長いかもしれませんが分割したくなかったのでご了承ください。
それではどうぞー!


24 交渉というもの モット編

 私の名前はジュール・ド・モット。トリステイン王宮に勤め、王宮の勅使の役についている。先の王がお隠れになる前はアルビオンに勅使として赴いたものだが、今や交渉の余地が全く存在しない学院やトリステイン国内の領地に篭る貴族へのメッセンジャーくらいの仕事しか回ってこない。

 

 今思えばアルビオンの内戦が始まった頃から私の運も降下し始めたのであろう。いつどのような場所へ勅使として赴くことになってもいいよう、トリステイン国内と外国の情勢は独自に調べることもしているのだが、今のトリステインは他国に赴いて交渉が出来るほど安定しているとは言い難い。恐らく今他国に赴く理由があるとすればトリステインを守るため、同盟先を探すか、保護してもらえるよう交渉するくらいであろう。

 

 宰相の代理を行っているマザリーニは確かに有能だが、王宮内ですら纏められているとは言い難い。本来は枢機卿なのだ、早急に宰相を置くよう進言したこともあるのだが、マリアンヌ様は王位に就く事を頑なに拒んでおり、ヴァリエール公も王位が空席なのであれば勝手に宰相職に就くわけにはいかないと屁理屈をこねたそうだ。

 

 先の王がご存命の頃はマザリーニも今ほど白髪も皺も目立たず、見た目も歳相応で身体も健康そのものだったが、今や鳥の骨と揶揄されるほど憔悴している。現在王宮の中は彼を退任に追い込むため計略を張り巡らせたり、高等法院のリッシュモン殿に賄賂を贈り、財を増やすことに躍起になっているものばかりだ。

 

 しかし、数年前から少々事情が変わり始めた。今までアルビオンからの輸入に頼っていた風石がトリステイン国内から産出されたという報が王宮に届いたのだ。産出されたのはトリステイン国内でも辺境、むしろ誰も見向きもしなかったカスティグリア領だという。カスティグリア領の領主であるカスティグリア伯爵とそのご夫人は王宮に勤めており、伯爵は確か財務卿の下で税の管理、ご夫人は王宮の医療部門にいたはずだ。

 

 カスティグリアに突如沸いた甘い汁を吸おうと王宮の貴族たちは我先にと群がったが元々カスティグリア伯爵は財務部で税の管理を厳正に行っており、むしろ賄賂や財を増やすことのみに躍起になっているような貴族とは対立する立場にあった。脅しも効かず、近寄ることもできなかった貴族達は「田舎者」「成り上がり」「成金貴族」「守銭奴」などと揶揄するようになり、それが王宮でのカスティグリアの認識となった。

 

 王宮勅使として代々仕えているモット家としてはそのような破廉恥な行為を行うには抵抗があるし、モット家の所領は小さいがかつてのカスティグリアの数倍以上の税収がある。領地も安定しており、管理する者もおり、特に領地に手間を掛ける必要もない。何もせずとも趣味である希少本の収集や若い平民の女を何人雇っても使い切れないほどだ。

 

 そして、カスティグリア伯爵とその夫人は王宮に勤めているが、そもそもなぜ王宮に勤めているのかという問にはいくつか曖昧な答えが勅使や外交を行う貴族達の間にはあった。

 

 まず、カスティグリア領だが、かの領地はその広大な版図に比べ税収がかなり少ない。管理に手間が恐ろしくかかる割りにあまりおいしくない領地であった。直轄領になるほどの旨味のある領地であればたった30アルバン(10キロ四方)ほどの領地でさえ一万エキュー以上の税収を期待できるのだが、カスティグリアにそのような土地はなく、気候からか、土地柄か、農作物もあまり育たず、漁業権では隣接するゲルマニアといざこざが絶えなかった。

 

 またカスティグリア領はダングルテールいう厄介な土地も抱えている。独立の気風が強く、何度か王宮から勅使が行ったが迎合する意思はなく、かと言って王軍や領主軍を出すほど産業や税収が期待できるということもない。

 

 カスティグリアは共存を訴え様々な援助をしたようだが、王宮にとってはまさしく疫病で滅びるまで厄介の種ではあった。しかし、共存を訴えた結果、かの地ではロマリアが異端審問に訪れてもおかしくないような新教徒や異教徒を密かに公言するような輩がわんさかいる。

 

 そう、まず答えの一つにカスティグリアは新教徒や異教徒を守るため、王宮の動向をいち早く察知できるよう、当主と夫人が王宮に勤めているのではないか。というものがある。その答えはまさに憶測で信憑性はあるが糾弾できるものではない。しかし、敬虔なブリミル教徒は彼らに近づかない。

 

 そして、カスティグリア伯爵には三人の子がいる。男児二人、女児一人だったはずだ。その長男殿は生まれつき身体が弱く、何度も死の境を彷徨い、王宮から伯爵と伯爵夫人が急遽カスティグリアに戻ることが多く、彼らの周りでは有名だそうだ。

 

 伯爵夫人は医療部門にいるのだが、彼女が師と仰いでいた水メイジは確か「私に治せない病はない」と公言するほどの腕のいいメイジであったのだが、ヴァリエールの次女を治せなかったことで名声が逆に地に落ちた。しかし、その師をカスティグリアが長男の主治医として雇った。つまり、「腕のいい主治医を探していたのではないか?」といった憶測も流れたのだ。

 

 しかし、一度地に落ちた名声を回復する意思が感じられないほど腐っていた師を拾い上げたとも言われている。噂ではヴァリエールの次女よりもカスティグリアの長男の方が重い病らしく、むしろなぜ生きているのかが不思議なほどだそうだ。もしかしたら彼を治すことで落ちた名声が回復し、ヴァリエールの次女も治せると考えたのだろう。

 

 そして、二人が王宮に勤めている最大の理由として挙げられているのが、「長男の治療費を稼ぐため」というものだ。確かにこれが一番信憑性があるといわれていた。私自身もそう思っていたのだが、風石が出ても彼らは王宮に勤めているため否定された。

 

 そのような背景から、一時カスティグリアの反乱が予期されたこともあった。風石の産出量を報告する義務やそれにより得る利益から王国に税を納めるというものは、元々トリステインでは産出可能だと思われていなかったため、法律に記載されていなかった。そのため風石の産出量はカスティグリアで完全に隠蔽されており、勅使が向ってもその件に関することは全て法律を盾に隠蔽された。

 

 むしろそのような利益はトリステイン王国全体で分け合うべきという議論が盛んに行われ、高等法院のリッシュモンが王宮にいる貴族の意見をまとめ、法定に定めようとしたところでマザリーニから待ったがかかった。

 

 宰相の代理をしているマザリーニの発言力が発揮され、一度カスティグリアとマザリーニが会談することでマザリーニがカスティグリアを説得する機会が与えられた。カスティグリア伯爵と伯爵夫人は王宮に勤めていることもあり、その会談はマザリーニの私室で行われたらしい。同僚が出席したのだが、内容は部外秘とされている。

 

 そして、説得を行ったはずのマザリーニはカスティグリアの意見を支持し、その時からカスティグリアはマザリーニと懇意にするようになった。概ね、カスティグリアがマザリーニに賄賂を贈ったのではないかというのが王宮貴族の意見だが、同席した同僚が魔法を使った審問で否定した。

 

 「法に触れる内容ではないため、理由は極秘とさせていただく」その一言で結局「法には触れないが何かあったのだろう」という憶測を生み出しただけだった。しかも、「カスティグリアに赴く場合は宰相の許可を得る」という規定まで生み出される始末で、完全にカスティグリアは隠蔽された。

 

 そして、カスティグリアから風石が産出されるようになって1~2年ほど経ったころ、病弱で有名なカスティグリアの長男がモンモランシ家の長女と婚約した。モンモランシ家は代々ラグドリアン湖に存在する水の精霊との交渉役とされており、伯爵家としては標準的な領地を持っていたのだが、干拓事業に失敗し属国であるクルデンホルフに多額の借金をしていた。

 

 しかし、モンモランシ家の子は一人だけだった。一人娘で実家は多額の借金を抱えているため、中々婿に入りたがる者はいないだろうというものだったのだが、マザリーニが仲介し、あっさり決まったらしい。次代の子を()せるかという問題が付き纏う相手だが、その辺りの事はカスティグリアとモンモランシは了承しているらしい。

 

 あの誰も寄せ付けることを良しとしないカスティグリアがモンモランシと繋がるとは誰も予想していなかった。なぜモンモランシが近づいたのか、近づけたのか。様々な憶測が飛んだ。本来話を纏めるため仲介を行う貴族は社交的で交友関係の広いものが行うため、憶測を呼ぶ事はまずない。

 

 しかし、カスティグリアが懇意にしているのは恐らくマザリーニくらいなものだったのだろう。マザリーニが仲介し、内容を秘匿したため、正確な事を知っているものは少なく、知っているものもそのことに関しては固く口をつぐんだ。

 カスティグリアからは金を、モンモランシからは娘を、という単純な構図に見えたため、病弱な長男がモンモランシの一人娘を見初めたと誰もが思った。実際私もそう思っている。

 

 ただもう一つ、外交関連の貴族内だけでまことしやかに囁かれている噂が存在する。カスティグリアとモンモランシが軍事同盟を結び、内戦か他国との戦争に備えているというものだ。反乱を疑うような噂なため、信じるものがいたとしてもかなり遠まわしな言い方をする。そのため、外交関連の人間にしかわからず、もし本当であれば疑っただけでその戦争に備えている戦力を向けられるだろう。私は単なる陰謀説としか思っていない。

 

 確かに風石が豊富に産出されるのであれば軍備を整えることも訓練を自由にすることもできるが、本来そのようなことは王軍が行うものだ。普通の貴族であれば風石を担保にした囲い込みや金融業を行い、クルデンホルフのように独立を目指すだろう。つまり、それが出来ない程度の産出量しかないのだろう。もしくは、産出するためのメイジや平民を集めることが出来ないのだろうという意見が大半を占めている。

 

 そしてその産出するための投資を行う代わりに一部の利権をいただこうと貴族達が群がっているわけだ。個人的には利益は国と折半し、トリステインの風石産出地として大々的に活動してもらいたいものだと常々思っている。

 

 そんなカスティグリアを中心とした情勢をなぜ今考えているかというと、目の前に座る学院に勤める平民のメイドが原因だ。

 

 今日もメッセンジャーとして朝早くから学院を訪れて仕事を終え、屋敷に戻る際、学院の敷地内で一人、私の鍛えられた選美眼を惹きつける、かわいらしい若いメイドがいた。

 

 彼女はこの国、いや他国でも珍しいツヤのある黒い髪を肩口で揃え、柔らかそうな肌は大変キメが細かく、水仕事をしているはずなのに手が荒れている様子もなく、目に見える範囲には傷やシミも全くない。身だしなみも平民にしてはかなり整っており、優しい微笑を浮かべながら楽しそうに井戸で洗い物をしていた。

 

 一目で気に入った私は彼女を貴族として彼女を保護し、これ以上傷つかないよう、このような雑用ではなくもっと簡単な仕事を与え、その見返りにその可憐な花を捧げてもらおうと声をかけることにした。学院で働くメイドであれば、貴族が平民に声をかけるという行為は屋敷に迎えるということを意味することくらいはわかっているだろう。

 

 「そこの平民、名前はなんという?」

 

 近づいてそう声をかけると、こちらに気づき、彼女が身に着けているきれいなエプロンドレスではなく、ちゃんとハンカチを出して洗い物で濡れた手を拭き、こちらを向いて慣れたようにきれいなカーテシーをし、

 

 「シエスタと申します。何か御用がおありですか?」

 

 と笑顔で返してきた。どうやらかなり教育を受けているが意味はわかっていなかったらしい。このように貴族に対しての対応を知らない純真無垢で可憐な花は、いつどこぞの貴族の手にかかってもおかしくない。保護せねばなるまいて。

 

 「ふむ。シエスタとやら、君に少々話がある。一緒に学院長室へ来るがよい。」

 

 そう、彼女の肩に手をおき、さっきまでいた学院長室へ向った。彼女に近づいて一緒に歩いて初めてわかったが、彼女からはとても良い洗い立てのシーツのような香りがする。そして、シエスタには予想外のことだったのだろう、時折後ろを振り返りながら、洗っていた洗い物を気にしながらも、貴族に逆らえないという心情がよくわかる。素人にはわからないとてもよい素材だ。

 

 そして、学院長室に戻り、いつも通りシエスタを迎えることを告げると、オスマンは拒否したわけではないが、無理と言った。オスマンは王宮の中も貴族の流儀もよくわかっているため、多少嫌味を言う事はあっても勅使である私に対して拒否することはない。しかし、無理だという。

 

 理由を申すよう告げると、シエスタは学院のメイドだが病弱な生徒を介助するため、その家に貸し出されているらしい。ここで私に渡してしまうとその家からどのような対応をされるかわからないため、どうしてもと言うなら当事者同士で話せと言われた。

 

 当事者が誰か聞いてみると、クロア・ド・カスティグリアという名らしい。そして彼は今伏せっており、昏睡状態に陥ってからすでに三日目だそうだ。しかも、よくあることらしい。授業にもマトモに出れないらしい。何のために学院に在籍しているのかまさしく不明だ。

 

 しかし、その時は、「なんと病弱な……」としか思わなかった。オスマンに何とかするよう申し付けるとカスティグリアの次期当主とされている弟のクラウスという者も学院に在籍しているらしい。そちらでも交渉は可能だろうということなので呼び出させた。

 

 呼び出させたはずなのだが、中々来ない。そう、来ないのである。せめて秘書に紅茶を入れさせるよう言ったのだが、先日解雇になっており、現在秘書を探し始めたところだという。シエスタが申し出たが、その隙にどこかへ行ってしまう可能性も否定できないため、ひたすら三者でソファーに座っている。

 

 せめて雇い主の情報を集めるかと、オスマンに尋ねたところで、ようやくカスティグリアという姓に気付いたということだ。まぁ家格としてはモット家の方が歴史も古く、トリスタニアでの権威も高い。風石が産出すると言ってもカスティグリア伯爵を見ている限り、たいした量ではないだろう。財産もこちらの方が多いと断言できる。

 

 恐らく相手は宮廷貴族が言う通り、風石が単なるエキュー金貨を生み出す石としか思っていない田舎の成金貴族の子弟だ。金が入ったことで強気に出ることはあろうが、所詮田舎貴族の子弟。少々脅せばシエスタを手放すだろう。

 

 しかし、すでに雇い主がおり、専属で介助しているとなるとすでに手が付いていてもおかしくない。シエスタに問いかけると、顔を赤くして恥ずかしそうにうつむいて「いえ、まだです」とだけ答えた。うむ。これはすばらしい。しかし、これほどすばらしい素材に手を付けないとは、私にとってはありがたいことだがなんと愚かなのだろう。いや、ここはカスティグリアの長男殿の愚かさに感謝すべきだな。

 

 

 

 かなり時間が経ったあと、ようやくノックの音と「クラウス・ド・カスティグリアです」という若い男の声が聞こえた。オスマンが許可を出し、入室してきた人物は名乗ったクラウスともう一名いた。

 

 恐らく前にいるのがクラウスだろう。彼は学生にしてはそこそこ背が高いように見える。体も少々細身だがしっかり鍛えられているように見える。色白で手入れの行き届いたストレートの金髪を耳の上あたりで切りそろえており、顔立ちも整っていて女性が放っておかないだろう。彼の青い目は父親にそっくりな誠実そうな面影を持っているが父のように人を拒絶するような雰囲気はなく、むしろ心優しい青年といった雰囲気だ。

 

 もう一人、彼に半身を隠すようにしながら彼にしがみついている人物は最初は女性かと思った。しかし、履いているのはズボン。男性なのだろう。制服ではないようだが、身だしなみが整っているとか、いないとか以前にかなりひどい。マントですら適当に引っ掛けてきたような感じが否めない。むしろそのような服装でこの部屋を訪れるのは勇気を通り越して蛮勇ではないだろうか。

 

 クラウスとは正反対で身長は男性にしてはかなり低く、シエスタより確実に低いだろう。細身を通り越して「鳥の骨」という名をマザリーニと奪い合えるほど細い。よく見ると白髪の混じった癖のある薄い金髪は起きたばかりのようにボサボサで、クラウスよりもかなり長いが手入れをする気が全くないことが窺える。

 肌は白いを通り越して青白く、平民のメイドであるシエスタよりも荒れているように見える。顔は少々女顔だが、整っているのが唯一の救いだろう。健康状態や身だしなみに気をつければ母性本能溢れる女性が放っておかないかもしれない。

 

 しかし、何より特徴的なのはあの赤い目だ。年齢にそぐわない老獪さと狂気の滲んだその赤い目は獲物を探すように細められており、ここにいる生物全てを拒絶するような雰囲気を宿している。そしてそれが全ての人間関係を台無しにしていてもおかしくない。

 夜出会ったら獲物を探す血に飢えた吸血鬼と誤認してもおかしくないだろう。

 

 「クロア様! お体は大丈夫ですか!?」

 

 という声と共にシエスタがその赤目の鳥の骨に駆け寄った。なるほど、彼が病弱な長男のクロアか。確かにそう言われれば一目で病弱とわかる。しがみついているのはもしかして自力で立つことも歩く事も叶わないのだろうか、とも想像できる。伏せていたと聞いているのであの細められた赤い目も体調が悪いのを我慢している可能性も出てきた。実際寝起きなのかもしれない。

 

 そしてシエスタを引き止めているのが私だと気付いたのだろう、シエスタの肩にしがみつきながらこちら側に歩み出て、クロアは彼女を連れて帰ると言い出した。確かにあれなら介助が必要なのだろう。しかし、別に探せばよかろうて。

 

 オスマンが引き止め、先ほどシエスタが座っていた場所にクロアが座り、私とクロアをそれぞれ紹介したあとオスマンが「できるだけ穏便にのぅ?」とつぶやいた。クラウスではなく、クロア本人が交渉に出るとは思わなかったがこちらの方が組し易そうだ。

 

 しかし、確かに穏便に収めないと彼は死んでしまうかもしれない。一度恫喝しただけで心臓を止め、天に召される可能性すら漂わせている。組し易いと思ったが、逆の意味で難しいかもしれん。もし、彼が死んだらカスティグリアや学院から公式に非難され、マザリーニに閑職に追いやられる可能性もある。穏便に済ませよう。

 

 と思ったところで、あっさりとクロアがシエスタの引き抜きを拒否し、彼女に捕まりながら部屋を去ろうとした。これだけ待たせておいて交渉の余地もなく拒絶するとは! なんたる無礼だ!

 

 「待ちたまえ、成金貴族。おっと失礼。カスティグリア殿、何もタダで彼女を差し出せと言っているのではない。だがね、彼女も成き、いやカスティグリアのような田舎貴族より王宮の勅使であるモット家で働く方が良いであろう? 悪い事は言わぬ。手を引きたまえ。」

 

 相手を挑発して引き止め、さらに挑発を混ぜて権力と貴族としての格の違いを教え、恫喝することなくシエスタを引き渡す理由を相手に与え提案をした。これなら病弱で授業に出れず、勉学が疎かで世間を知らなくても理解できるだろう。

 

 しかし、クロアはソファに戻り、意外にもこちらが誰の勅使か訪ねてきた。今回は学院にフーケ捕獲の詳細を尋ねるためとシュヴァリエ推薦条項が以前変更されており、捕獲に参加した生徒のシュヴァリエ受勲は認められないということを知らせに来たため、別段女王陛下やマザリーニの使いで来たわけではない。

 

 まぁ答える必要はないのだが、遠まわしに馬鹿にされたのだろうか。オスマンに苦言を呈すると、目の前でクロアとシエスタがなにやらコソコソと話し、軽いスキンシップを取っているではないか。シエスタの引き抜きの交渉に来ているというのに目の前でそのような事をするとは、やはり馬鹿にしていたのだろう。

 

 怒りを抑えながら、彼に渡す気になったか尋ねると、こちらの話は学院の教育方針の内容だから聞いていなかったとイラついた感じではぐらかされ、さらに会話ができないのかなどと挑発してきた。さらにオスマンに苦言を呈すが、オスマンは我関せずを貫くことにしたようで、当事者同士直接交渉しろと言ってきた。

 

 「交渉するつもりがないのであれば下がらせていただきますが? モット卿。」

 

 と、更にさっさと終わらせろと言わんばかりのイラついた声に、もはや我慢がならなくなった。やはりカスティグリアは成り上がり者たちの集まりのようだ。特にカスティグリアの長男であるクロアは勅使に対する敬意も由緒正しいトリステイン貴族のあり方と言うものを知らぬ、貴族とは名ばかりの野蛮な者だったようだ。

 

 彼の後ろにいる次期当主とされているクラウスは先ほどからあまり表情を出さず、真面目に立っているというのに、この長男はダメだ。口だけはよく回るようだが、病弱というだけではなく、性格もひどい上、短気であり、貴族への対応が致命的にトリステイン貴族として認められない。カスティグリア伯爵は風石に関しては愚かな選択をしたが、次期当主として次男のクラウスを選んだのは正しいと私も賛同できる。

 

 「王宮の勅使である私に向ってなんという侮辱。もはや許せぬ。このことは正式にカスティグリアに抗議させてもらう!」

 

 なに、シエスタを渡してもらい、長男を病死するまでカスティグリアに幽閉させるだけだ。今とあまり変わりあるまい? この恫喝で死ぬことだけが心配だがこれで決まるだろう。

 ようやく己の立場をわきまえたのか、クロアは後ろにいる次期当主の顔色や、隣にいるオスマン、シエスタの顔色を窺い出した。

 

 彼の弟ではあるがカスティグリアの次期当主と明言されているクラウスは顔を青くしているし、オスマンは自分の生徒の愚かな言動にハシバミ草を大量に噛んだような表情をしている。シエスタは少々悲しそうな顔をしているが、恐らく愚かな主人の愚かな行為が自らにも及ぶと思っているのだろう。

 

 彼女のような良い素材を持ち、教育を受けた平民が愚かなカスティグリアの長男の介助というような仕事を引き受けたのはきっと給金がよかっただけに違いない。そして、給金に目にくらんでしまったことを今もまさに悔いているのだろう。ふむ。今宵は彼女の悲しい記憶を塗り替えることが私の責務となるようだな。

 

 ようやく周りが見え、自分の立場がわかったのか、クロアは少し顔をしかめたあと、一度こちらを睨みつけ、彼が手にしていた羊皮紙の束をめくり始め

 

 「シエスタ、俺は今まで貴族の誓いを破った事はないが初めて破る事を決めた。クロア・ド・カスティグリアは“君に手を出さず、誰にも手を出させない”という誓いを只今を持って破棄することを宣言する。君に立てたこの誓いを貴族であるこの俺が守り続けられなかったことは本当にすまないと思っている。」

 

 と言った。本当に手を出していなかったようだ。しかも誰にも手を出させない誓いまでしていたとは! うむ。これだけは確かに評価できるだろう。このモットがいただく事になるが、これまでここまでの素材を守り通したことだけは賞賛してやろう。

 

 彼の隣に立つシエスタは顔を伏せ、前髪で彼女の表情はよくわからないが、涙を床にこぼしながら彼に謝った。きっと口だけの嬉し泣きだろう。きっと愚かな主人から開放され、私に引き取られるのが嬉しいに違いない。

 

 しかし、彼は羊皮紙の束に目を落とし、何かを数枚読んだあと後ろにいるクラウスにそのまま渡した。そして立ち上がり、シエスタに謝罪の言葉を投げかけながら「シエスタ、大好きだよ」と言って彼女にキスをした。

 

 一体何が起こったのか一瞬理解できなかった。た、確かに手を出さないという誓いはたった今破棄されたが、まだ雇用関係は続いている。

 

 だがしかし、引き取り手の私のいる前でキスをするとは!

 なんという、なんという破廉恥な! 

 

 いきなり唇を奪われてしまったシエスタを見ると何が起こったのか理解できず、ショックを受けているようだ。ショックのあまり、涙が止まった上、自分の頬をつねったり叩いたりしており、そっと自分の唇に手を当てて確認までしている。恐らく初めてのキスだったのだろう。なんという悲劇。

 

 シ、シエスタよ。夢ではないのだよ。私も夢であったらどんなに良かった事か……。

 

 「じ、次期当主、クラウスよ。成立したかね?」という今にも死にそうなひどい音が混じった荒い呼吸をしながらクロアがクラウスに何かが成立したかどうか確認した。

 

 ああ、貴様の婦女暴行が今はっきりと勅使である私の目の前で成立したよ。もはや許せん!

 

 しかし、クラウスがこの後、何かを確認し、発した言葉は耳を疑うものであった。

 

 「カスティグリア家次期当主クラウス・ド・カスティグリアは契約が成立したことによりタルブ村のシエスタがクロア・ド・カスティグリアの介助要員兼側室候補に任命されたことをここに宣言する。

 シエスタ、こんな状況ですまないね。君の身分は一応今のところ平民のままだが、これからはタルブ村のシエスタではなく、カスティグリアのシエスタになることが本日付け(・・・・)で決まった。」

 

 シエスタをクロアの側室にすることをクラウスが事務的に宣言し、共に、シエスタの所属が学院のメイドからカスティグリアの領民になった事を告げた。どのような契約が結ばれていたのかは知らないが、当のシエスタも激しく混乱し、「え? え?」とクロアとクラウスをキョロキョロと見比べている。

 

 「モット伯。いやはやお知らせするのが遅れて真に申し訳ない。実は本日付けですでにシエスタは俺の側室候補になっていた(・・・・・)のだよ。まだ俺は婚約者がいる身で正式に結婚していないから候補止まりなのだがね? まさか王宮からの勅使殿が俺の側室候補を横取りなどすまいね? むしろそのような話をこちらの耳に入れただけでもカスティグリアを侮辱していると取られてもいたしかたあるまいよ?」

 

 私も混乱していたのだろう。クロアの発言でようやく正気に戻ったようだ。婦女暴行した上に婚約者がいながら勝手に自分の側室候補に収めてしまうとはなんという野蛮で破廉恥な行いだ!

 

 それを目の前で認めるクラウスもクラウスだ。シエスタが選べない状況でこのような……、しかも本日付けで決まっていただと? たった今目の前で決まったことを決まっていたとは何と面の皮の厚いヤツだ。しかもこちらが侮辱していると恫喝にもならない恫喝をするとは!

 

 「き、貴様ら。そ、そのようなことが通るはずなかろう! 馬鹿にしてるのか!? 勅使に対しての無礼だけでは済まんぞ? この事は必ずカスティグリアに―――」

 

 貴様など幽閉では生ぬるい。トリスタニアの監獄に入る理由は充分だろう。カスティグリア殿には災難だが、もはや許せん。と宣言しようとしたところでクロアにさえぎられた。

 

 「よろしい。トリステイン王宮勅使殿のご用件はこのクロア・ド・カスティグリアが完全に承った。証人はこの場にいるカスティグリア次期当主のクラウスとトリステイン魔法学院学院長のオールドオスマンでよろしかろう? ではお引取り願おうか。」

 

 彼は自分の行ったことを省みず、杖まで抜こうとしている。クラウスを見ると覚悟を決めたようで先ほどまでの青く少々怯えた表情は消えうせ、精悍な表情をしている。

 まさかここまで愚かだとは思っていなかったのだろう、シエスタは先ほどのような動きはないがまた新たに混乱し始めたようだ。

 そして、やはりクラウスは次期当主として教育を受けているのだろう。兄が杖を抜いたら私や役人に代わって彼を殺すかもしれない。彼に兄を殺させるのは忍びない、引き渡しまで少々歩み寄ろう。

 

 「杖を抜く気かね? やはりカスティグリアは田舎で野蛮な者が多いようだ―――。しかし、まぁ、待ちたまえ。参考までにこれからどうするつもりなのか聞いておこうではないか。」

 

 そう尋ねると、クロアはこちらが歩み寄ったのを察したのだろう。淡々と“これから彼が行う予定”を語り始めた。

 

 クラウスのために聞いたものがまさか自分を救うとは思ってもいなかった。まさかここまで強気な理由が“後ろにマザリーニがいる”という理由だとは考えもしなかった。たかがカスティグリアの病弱な長男の後ろに、接点もほとんどないマザリーニがいると誰が考えるだろうか。

 

 先ほどの書類は正式なもので、マザリーニをはじめ、カスティグリア、モンモランシ両家の関係者全てが認めているというものだった。最終的な決定は恐らくあの目の前で行われたキスなのだろう。そのような最終決定方法は聞いたことが無いが、ここまで捻くれた人間ならばやりかねない。

 

 シエスタを見ればようやく混乱から復帰しつつあるようで、頬を赤く染め、目をうっとりと蕩けさせ唇に手をあてている。まさかシエスタも了承済みだったのか!? 今までのシエスタや彼らの反応もよくよく考えればそう取れなくもない。

 

 ―――は、謀られた。これは不味い。王宮貴族の足の引っ張り合いなんぞ目ではないような生き馬の目を抜くような所業だ。

 

 クロアはクラウスに王宮に問い合わせるよう、風竜を使えと指示している。風竜なんぞ使われたら今日中に知れ渡ってしまうだろう。馬ならばまだ途中で追いつける。しかし、風竜はダメだ! 学院でどのように手配していいのかすらわからず、オスマンの協力が必要になる。彼が渋った瞬間私の命運が決まる。

 

 「ま、待ちたまえ! どうやら誤解があったようだ! クラウス殿、まだ問い合わせる必要はない。クロア殿、どうか弁解の機会をいただけないだろうか。」

 

 最近全く王宮勅使として動いてなかった私の勘が、シエスタに目がくらみ完全に緩んで油断していた私の王宮勅使としての勘が、―――今はっきりと告げた。

 

 きっとあの愚かさもこの起きたばかりで乱れた部屋着や寝間着のような身だしなみも全てこちらを油断させるための演出だったのだろう。

 

 ―――そう、最初に感じたあの赤い目の印象をそのまま信じれば良かったのだ。

 

 あの愚かに見えた病弱な長男は、今やエルフだろうが火竜だろうが生きたまま押さえつけ、嗤いながら目を抉り出すような老獪な獣だ。もはや油断はならない。たった少しの油断が、ほんの僅かな隙が私の死を招くだろう。上手く何事もなく和解できるよう、必死でクラウス殿とクロア殿を止め、弁解の機会を願った。

 

 「ふむ。誤解ですか? 確かに誤解でこの時期に内戦が勃発するのはトリステイン王国にとってもよくありませんな。クラウス、すまんね。一度戻ってくれ。」

 

 そう、クロア殿は不遜に言った後、ソファに深く身を預けこちらに手振りだけで続きを促した。やはりこちらが本性か。恐ろしい。このような見た目なら誰でも騙されるだろう。むしろどこまでが本当でどこまでが見せかけか完全に判断ができない。

 その点、クラウス殿の行動はわかりやすいブラフだった。こちらに理解と考える時間を与えるため、比較的丁寧にゆっくりした動作だった。

 

 カスティグリアの子弟は二人とも違った意味で恐ろしいほどの才能を秘めているようだ。

 

 兄クロアは他に類を見ない“かわいい見た目の凶悪な野生の獣”と言える。その今にも死にそうな病弱で貧弱な体をさらけ出し、保護してくれる人間にはきっとよく懐き、とても甘いのだろう。クラウスやシエスタを見ればそのようなところが窺える。

 しかし、ひとたび彼を獲物と勘違いし、彼に食らい付こうとした瞬間、隠していた爪を、その凶暴性をさらけ出し、嗤いながらその爪で相手を押さえつけ目玉を抉り出し相手を仕留める。相手がなんであろうと関係ないだろう。どんな相手でも仕留めるという意思が、―――老獪で凶悪なあの赤い目がまざまざと伝えてくる。

 

 逆に弟クラウスは良く調教された若い最高の軍馬だ。大変将来に期待が持て、またカスティグリア殿も楽しみにしていらっしゃるであろう。兄が病弱なこともあって一身に期待を受け、貴族として幼い頃から教育を受けてきたのだろう。まだ若く、素直な感情が表情には出るが、どのようなことも受け止めきる胆力と、その後どのように行動するかが、クロア殿の言葉を裏までちゃんと理解し、名馬のごとくスマートに伝わっている。彼が今から王宮に勤めても簡単な仕事ならすぐにでも始められ、すぐに頭角を現すだろうことが想像できる。

 

 私も軍馬だろう。名馬である自信はあったが最近は少々自信がなくなりつつある。全力で走る機会が失われ、ここの所、短距離の簡単な速歩がいいところだ。しかし、かつての勘が冴えてきておりクラウス殿には大変共感もできるし、思考も今ならばよく読める。このようなところで全力の駈足をする事になるとは思わなかったが、あのような獣に喰いつかれたら軍馬と言えど一巻の終わりだろう。まさに生き馬の目を抜かれてしまう。

 

 「まず最初に私は確かに王宮の勅使として学院を訪問したが、この件に関して王宮に関わりがないことを明言しなかった事については申し訳ないと思っている。しかし、勅使として学院を訪問している以上、この件に関しても勅使として対応されるべきであることはご存知のはずだ。」

 

 まずこちらの不備を詫びるべきだろう。今まさにクロア殿は爪を研いでこちらが本当に牙を剥くか判断しているところだ。しかし、オスマンは彼が病弱で授業もまともに出れないと言っていた。もしかしたら勅使というものを理解していない可能性がある。理解されずに喰らいつかれては堪らない。

 クロア殿は少し記憶を探り、考えるそぶりをしてこちらに問を投げかけた。

 

 「ふむ。生憎と法律関連は不勉強でしてな。迎える側の保護義務や勅使殿の身体の不可侵あたりだと想像したのですが、他に権利が認められているのですか?」

 

 不勉強と言いつつ予想外に勅使の権限が理解されていた。一体どこで学んだのか謎だが、クラウス殿が平然としているのを見る限り別段おかしいことではないようだ。どの程度知識があるのか、どこまでこの交渉の先を読んでいるのか全くわからない。やはり恐ろしい獣だ。

 

 「ほぅ。ご想像の通りだ。そして、それらに付随する形で勅使には可能な限り便宜を図ることや、超法規的な行動が許可される。といったものがある。」

 

 感心が自然と口から出た。そしてこの場で使えうるであろう、私の身を守るための権限を伝える。理解してもらえるのであれば私にかかった爪が外されるであろう。

 

 「それで今回その権利を行使すると? なるほどなるほど。つまり保護義務のある学院長や学院にも迷惑がかかるだろうから見逃せということですかな?」

 

 簡単に先を読んでいるのだろう。裏でどんな台本を書いているのか全く読めないが、このまま見逃してもらえるのであればありがたい。この爪から逃れるため、できるだけ柔らかい人畜無害な笑顔を意識して浮かべた。

 

 「うむ。話が早くて助かる。こちらも誤解を生み、そちらを誤解していたことを認め、シエスタ嬢に関しては今後一切関知しない。それで手打ちにしようではないか。」

 

 別段こちらが譲歩しているわけではないが、いきなり譲歩しては更に爪が食い込む可能性がある。こちらがこれ以上最初に譲歩すると勅使として、モット家として先行きが不安になる。

 

 こちらが杖を収めたことで平和的に終わると誰もが感じ、そっと空気が緩んだ。クロア殿はかわいらしい仕草で首をめぐらし自分の保護をしている周り人間の反応を見ている。ふむ。やはり野生で育った獣のように、貴族社会での状況判断はまだ難しいようだ。

 

 クラウス殿は少し嬉しそうな笑顔を浮かべ一つ頷いた。オスマンも明らかにホッとして緊張を解いている。シエスタ嬢はクロア殿と目が合った瞬間、好意を寄せているのであろう者がするような輝くような笑顔を浮かべた。しかし、なぜかクロア殿はすぐに目を逸らした。先ほど人前でキスをしたというのに意外と照れているのかもしれない。

 

 皆ここで終わり、平和に終わると思っているのだろう。しかし、周りに合わせてくれるかわからないという不安が付き纏うのが野生たる所以だ。私としては油断はできない。

 

 「あはははは! ごふっ、ぜぇぜぇ……、勅使殿、あまり笑わせないでいただきたい。病み上がりの身体に響きますからな。」

 

 周りを見て、私を見て、悟った上で笑い飛ばした。やはり野生の獣を騙すのは無理なようだ。私の笑顔の仮面の下にある驚愕を隠せているか全く自信がない。

 クロア殿は身体を背もたれから起こし、少し前傾になりあの凶悪な赤い目を見開き、狂気の色を濃くした。今では感情を隠すような事もせず獲物にいつ爪を立てようかと嗤っている。そして獲物である私が一瞬それに魅入られ、そのことに恐怖した。

 

 「まだ少々誤解があるようですな、モット伯。なるほど、俺はよく知らないがカスティグリアは成金貴族、田舎貴族、確かにそうかもしれない。そのことに関しては俺も異存は無いがね?

 しかしだね、モット伯。モットは勅使を任されるほどの由緒ある都会貴族なのだろう? こちらが受けた損失に対する賠償くらいなら多少見逃してもいいかもしれないがね? 最低限、正式な謝罪と今後このようなことが起こらないよう、対策を立てるくらいのことはしていただきたい。

 ああ、学院には悪いがね? あなたなら解ると思うが、もはやこれは外交交渉になったようだよ、オールドオスマン。」

 

 いや、誤解はしていないはずだ。しかし、学院まで巻き込み、外交交渉と銘打った割りに相手の要求が少なすぎる気がする。確かに正式な謝罪は私の今後の人生に響くだろう。しかし、ここまで爪を食い込ませ、まさに嗤いながらこちらの目を抉ろうと爪を研いでいる割に私が生きる道を示しすぎているのではないだろうか。

 金なら二十万エキューくらいまでなら軽く出せるし、資産をある程度処分すれば百万エキューでも払おうと思えば払える。しかしこちらは一度値切った状態だ。あちらが示しているのはこちらがいくら払うか、どこまでの事をするかという、まさに獣が舌なめずりしている状況だろう。向こうが納得するものを一回で提示せねばならない。

 そして、迷いで判断を遅らせた瞬間爪をさらに食い込ませてきた。

 

 「クラウス、お前の権限で宣戦布告と同時に風竜隊や火竜隊は出せるな? 

 ―――さぁモット伯。相手が落ちた学院の門弟風情で悪いが勅使の本領を存分に発揮する機会が来たようだ。王宮勅使殿のお手並みを拝見させていただこうか。

 ああ、モット伯、一応忠告しておくがね。モット領がどこにどの程度存在するのかは知らんが、もの別れに終わったら全てが灰になることを覚悟したまえよ? まぁその程度の覚悟は最初からお持ちだろうが、俺も覚悟は出来ている。そう、おっしゃる通り、カスティグリアには野蛮な者が多いようですからな。」

 

 クラウス殿を見ると、一度軽く頷いた。確かにあるのだろう。風竜隊や火竜隊があるのだろう! まさに外交部門の噂は本当だったのだ!

 

 どちらに牙を向けるかは解らないがカスティグリアには確かに戦力が存在していたのだ。だからマザリーニはカスティグリアと懇意にし、断固として反乱や内戦を起こさせないよう手懐けていたのだ。賄賂などという生易しいものでは断じてなかった! むしろそれより数段性質が悪い!

 

 そしてもし内戦となると、モット領のメイジや平民はそれほど多くないし、徴兵には時間がかかる。しかも相手が風竜や火竜であれば私も含め、屋敷にいる人間では抵抗が難しいだろう。どれほどの戦力があるかはわからないが、風石の産出した時期から考え恐らく6匹ほどだろう。私も命を賭して、良くて一匹落とせるかどうか。そして王宮の支援が受けられるかはもはや賭けになる。

 

 「ク、クラウス殿? まさか本気ではなかろう? トリステイン王国の貴族同士で内戦など……。」

 

 と、クラウス殿に問いかけると、本気だと宣言された。しかもモット領が一日で灰になるほどの戦力があるようだ。あの顔に嘘は見当たらず、完全にブラフではないと言い切れる。

 

 そして何と、内戦でシュヴァリエの受勲条件である、「軍役に就く」というものを達成するためにクロア殿が参戦に乗り気になった。私も当然そのようなことに頭が回らなかったが、クラウス殿も言われて初めて気付いたようだ。しかも、彼も乗り気なようで参戦させる平民や女性の候補を上げ、かかる戦費が釣り合うかの計算まで始めたようだ。

 

 モット領を灰にし、かかる戦費をそのような計画で回収するとは……、あちらにとっては内戦が起ころうが起こるまいが、こちらが賠償金を支払おうがそれを逃そうが、もはや関係ないようだ。こちらにとってはいかにその爪を離してもらうか、それを考えるしか手はなくなった。全てが灰になるか、生き長らえてでも名を残し、資産を少々でも残すかの二つの選択肢しか存在しない。

 

 もはや王宮に助けを求めるため、ここを離れた瞬間に風竜が飛び、宣戦布告され、宣言通りモット領は灰になるのであろう。逃げ道も全て潰され、命と金、どちらを差し出すかという究極の状態になってしまった。そしてその獣が心底楽しそうに「では開戦を」と言いかけた瞬間、私は命乞いをしていた。

 

 「ま、待ってくれたまえ! カスティグリア殿! そちらの言う通り私はまだ誤解していたようだ。正式な謝罪もするし賠償金も出来る限り払わせていただく。今後一切カスティグリアに関わらないと誓おう。どうかそれで手を打っていただきたい!」

 

 まさしく全面降伏だ。このような場面をまさか私が人生で経験するとは夢にも思わなかった。ここまで来たらいくら払おうが安く思える。そして、むしろ今後一切カスティグリアに関わりたくはない。

 

 その私の全面降伏を聞いた瞬間、その獣はキョトンとして私に食い込んでいた爪を離した。

 

 「ふむ。そういえばそんな話でしたな。つい、将来いただけそうな資格で話が盛り上がってしまいました。なにぶん俺は病弱でして、シュヴァリエに推薦していただく機会があっても軍役に就く事はできないと諦めていたものでしてな。いやはや申し訳ない。では少々クラウスと相談させていただきます。失礼。」

 

 本当にシュヴァリエのためだけにモット領を灰にするつもりだったのだろうか。むしろそのような機会があれば同じトリステイン領でも嬉々として灰にするのだろうか。彼が病弱なのは完全に疑いようがない、しかしシュヴァリエに推薦される機会があるのだろうか。

 

 しかも本当に、この野性の獣はたかが名誉職の騎士爵程度の権力しかないシュヴァリエに憧れているのだろうか。確かに貴族の男児なら誰でも一度は騎士に憧れてもしょうがない。実際憧れをそのままに王宮の騎士隊に入隊を希望する者も多い。しかし、彼は自分の体のことをわかっているはずだ。いくら憧れても騎士になることは叶わないし、彼にとってそれほど重要とは思えない。

 

 ふむ。しかし、これはこちらにとってもいい話かもしれない。確かシュヴァリエの叙勲式で“始祖と王と祖国”に忠誠を誓う慣わしがある。ただの慣例とも言い切ってしまいそうな雰囲気が彼にはある。しかし、もし彼がシュヴァリエを受勲したならば、トリステインに間違っても牙を剥かないよう、細い紐ではあるが、その紐がついた首輪を彼に付けることが出来るかもしれない。

 

 もし、誰かが推薦をするような事態になったら全ての条項を無視してでも彼に首輪を付けたい。そして、それに協力することが出来れば、一度彼を獲物と誤認し牙を向けた私が、赦された上に懐いてもらえるかもしれない。カスティグリアにもトリステインにも私にも彼にもいい話だろう。たった500エキューの年給でこの獣を飼い慣らし、その老獪で凶悪な獣の爪がトリステインを守り、相手を屠ってくれるのだ。

 

 彼らの相談を聞きつつそのような事を考えていた。あれだけ恫喝され、命さえ覚悟したというのに、どうやら請求されるのは一万五千エキューという私にとってはかなり安い金額だった。やはり貴族の流儀には疎いようだ。クラウス殿の方が私の心情をよく理解している。

 しかも、他の条件は謝罪と学院で働く平民の保護、そして私にとっては小額だが、平民にとっては大金を得るであろうシエスタ嬢のご家族への介入禁止を条件にするようだ。

 

 そして、こちらからカスティグリアに今後一切関わらないと申し出たのに、むしろ同じトリステイン貴族として今後も後腐れなく関わるべきだといったクロア殿の言葉も聞こえる。爪を突きたてる必要性がない限り、愛国心やトリステイン貴族としての連帯感をそれなりに持っているようだ。

 

 最後にシュヴァリエの話が出たが、実際彼はすでにシュヴァリエの推薦は受けており、ちょっと欲しくなって内戦し私の全てが灰にされるところだったようだ。

 

 ―――たった一万五千エキューとシュヴァリエの勲章と謝罪や学院の平民のためにモット領が灰になり、私は全てを失うところだったのか。なんだか少々納得がいかず、やりきれない思いが残った。

 

 クラウス殿が交渉を代わると宣言し、私は笑顔で歓迎した。今までのような緊張感を持つ必要はもうなくなり、クロア殿も完全に爪を元通りに隠し、その赤い目に灯っていた老獪さも凶悪さも消え失せ、かわいい無垢で小さな保護欲をそそるだけの小動物に戻った。

 

 どうやら私は赦されたようだ。彼は今では私とクラウス殿の貴族流の交渉を見学しているだけだ。むしろ今まで他の人間が交渉している場面を全く見たことがなかったのかもしれない。

 

 なるほど、完全に自己流なのだろう。よく頭が回り、一瞬で状況を判断するだけの勘も持っている。まさしく野生の獣だが経験が足りず、教育もなく、まさに勘と爪に頼ったものだったのだ。だから相手がどのくらい旨い獲物なのか判断できず、食べる前に抵抗され、逃がすくらいなら気軽に燃やし、灰にできるのだ。

 

 そのような人間がいるとはな。クラウス殿もそうだが、父上であるカスティグリア卿も苦労されているであろう。しかし、もしかしたら風石を金融の担保などの金稼ぎに使わず、戦力に注ぎ込ませたのはクロア殿ではないだろうか。むしろそれなら抵抗なく完全に納得ができる。クロア殿が大切にしているのは金や狩った獲物などではなく、自分を保護する人間と自らの爪だ。

 

 なるほど、マザリーニ殿を筆頭に近くにいるものが全員隠蔽したがるわけだ。アルビオンも内戦が終わればトリステインに来るという予測もすでに立っている。しかし、王宮は軍備をするかしないかで真っ二つに割れているような状況だ。軍備を反対するものは総じて財を求めており、アルビオンとの戦争も交渉で終わらせることを望んでいる。

 

 私はそこまで楽観的ではないし、交渉にこちらの力が必要なこともわかっていた。しかし、わかっていたつもりで理解していなかったようだ。今日まさにその事を思い知らされた。今から軍備を整えようとしても今日の私のように恐らく間に合うまい。そして、この爪を突きたてられる恐怖がわからなければ自ら爪を研ぐようなこともすまい。そう、―――この獣以外は。

 

 そして、今やこの獣が研いだ爪だけがトリステインが持ちうる、相手を屠ることが可能な最強の戦力であろう。その丁寧に研がれた爪はこの獣のように偽装し完全に隠さねばなるまい。まさしくアルビオンがトリステインを侮り、こちらに牙を剥いた瞬間、今度はこちらが爪を突きたてるのだ。

 

 ふっ、どうやら私にも運が向いてきたようだ。結果は散々に見えるが、それ以上に金では買えない、貴族や王宮勅使という権力ですら得る事がでないような莫大な収入があった。そして、曇っていた私の目が冴え、鈍っていた勅使としての勘がこの獣に呼び覚まされた。今ならマザリーニ殿の考えもよくわかる。

 

 そして、このような高揚感は久しぶり、いや初めてかもしれない。希少本や若いメイドも捨てがたいが、それよりも旨い獲物がいたのだ。今まで恐ろしいと感じていた単なる旨い獲物がいたのだ。何としてもこの狩りのご相伴に預かりたいものだ。

 

 交渉は完全に私の名誉が守られる形になった上、一万五千エキューの見舞金とシエスタ嬢のご家族に手を出さないという封印された開封条件付きの念書と、私の勅使の権限で“学院にいる平民”を引き抜く際の手続きを追加することを認めることと、「互いに問題が起こらなかった」という証人付きの証書を書き、互いに所持することだけだった。

 

 期待していたクロア殿へのシュヴァリエ受勲に関する協力が求められなかったのは少々残念だが致し方あるまいて。こちらは譲歩する側でこちらが持ちかけるには少々時間を置かねば問題が起こりうる。時期を見てクラウス殿に相談してみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 交渉が終わり、あの恐怖から開放され、ほとんど損失もなく自分が得たものを認識して得られた達成感を感じていたとき、ふと世間話のようにクラウス殿が話を振って来た。彼は若い上に地位に差はあるが、今や私の中では志を同じくしたような仲間意識が芽生えている。今ならたとえ下らない話でも笑って相槌を打てる自信があるほどだ。

 

 「時にモット卿。『土くれ』のフーケの件はご存知でしょうか。先日『土くれ』がこの学院で事を起こしたところ他の学生の協力もあり、兄クロアがかのメイジが操る身の丈30メイルほどのゴーレムをたった一つの魔法を一回行使しただけで土くれではなく塵に返し、かのメイジにも瀕死の重傷を負わせたのですが、その事はご存知でいらっしゃいますか?」

 

 たった一度、たった一つの魔法で30メイルのゴーレムを塵に返しフーケに瀕死の重傷を負わせた? 何を言っているのか一瞬理解ができなかった。そのような魔法が存在するなど聞いたことがない。確か初めて会う前にオスマンに聞いた情報ではクロア殿は純粋な火の系統だったはずだ。錬金を合わせて使えば、そしてかなりの素養と協力者がいれば崩すことくらいは可能かもしれない。しかし、協力者がいた場合、たった一つという表現はしないだろう。

 

 クラウス殿の言とはいえ俄かには信じられず、ついオスマンに確認の視線を送ってしまった。心のどこかで否定を望んでいたのかもしれない。何度も繰り返されるオスマンの深い肯定の頷きに驚愕を隠せなかった。この獣は交渉や戦略面だけでなく自らも鋭い爪を持っていたのだ。あのときもし杖を抜かれていたら、彼を捕縛しようとしたものがいたら総じて灰になっていたのかもしれない。

 

 「フーケが捕縛されたことは存じていたが、そのような背景があったのは恥ずかしながら初めて知った。クロア殿は大変魔法の才能がおありのようだ。」

 

 驚愕を隠さず示し、クロア殿の才能を褒めると彼は何と信じられないことに普通の生徒のように照れた。そして何か思い至ったように焦り出し、クラウス殿に非難の視線を浴びせた。

 

 「兄はこのように慎ましい人柄ですので、その場にいた学生に手柄を全て譲ったそうです。恐らくそのことを無下にしないよう、モット卿を始め王宮に詳しく報告されなかったのでしょう。

 しかし、オールドオスマンの計らいにより、その場にいた学生全て、つまり兄にもシュヴァリエの推薦をいただいたのですが、兄は史上稀に見るほどの病弱でして伏せていることの方が多いのです。そのため兄はシュヴァリエの『軍役に就く』という新たな条件を達成することが出来ないと諦めていたのです。」

 

 なるほど、確かに彼は手柄に固執する人柄には見えない。そしてその手放したはずの手柄を秘匿されていたはずの私に、弟によって暴露され焦っていたのか。今では恥ずかしさも追加されたようで、ほのかに顔に赤みが差し激しくうろたえているように見える。

 

 ふむ。オールドオスマンはクロア殿とそこにいた学生が納得できる落し所を用意しただけだったのだろうが、今このような効果を生み出す結果になったのだ。これはオールドオスマンの英断と言わざるを得ない。

 

 しかし、クラウス殿は私だけでなく、恐らく平民のシエスタ嬢ですらわかるような演技を始めた。きっと私の希望と彼の思惑は完全に一致するであろう。よかろう。その共同作戦、不肖このジュール・ド・モット、乗らせていただこうではないか!

 (注:以下カッコ内は副音声でお知らせしております)

 

 「おお、何ということだ……。まさかそのような背景があったとは……。このモット、シュヴァリエの規定改変の不備に遺憾の念を覚えざるを得ない。」(まず私はこの件には関わっていない。その点は断固として了解していただく。)

 「病弱が原因で軍役に就きたくとも就くことができない貴族の若者が、命を賭してトリステイン貴族の名誉を守り切り、そのように慎ましやかに自分の手柄を誇るでもなくにその場にいた同じ生徒の未来を想い譲ってしまうとは! これほどの事を成し遂げたというのに、生まれながらの病気がちな身体が原因で正当な勲章を得る事ができないとは!」(しかし、クロア殿は恐ろしいですな。トリステイン貴族達に苦渋を舐めさせ、名誉を汚し続けていた盗賊を簡単に屠ってその手柄を放り出すなど普通は考えらないことですな。彼には一応でもいいからトリステイン王国に対する愛国心あるよね?)

 「なんという、これはなんという規定改変の不備であろうか! このモット、強く感銘を受けましたぞ!」(私にはクロア殿のために法律を曲げる準備はある。さぁクラウス殿、協力を要請したまえ。)

 

 恐らくこれでクラウス殿にも通じるはずだ。しかし思わぬところから邪魔が入った。

 そう、アノ獣が恐らく直感で嗅ぎつけたのだ。―――なんという嗅覚だ!

 

 クロア殿は少々気がとがめたかのように私に「あの……」などと話しかけようとしたり、クラウス殿に「クラウス?」と普通に訂正を入れようとしている。しかしここで折れては折角クラウス殿が提案してくれた共同作戦が無に帰してしまう。

 

 完全にクロア殿を視界に入れないよう、聞こえない振りをしながら体の向きを変え、作戦再開のためこちらから追加要請を送ることにした。

 

 「クラウス殿。先ほども話したが王宮の勅使には『超法規的な行動が許可される』というものがある。このような時にこそ使うべき権限であろうと私は思うのだよ!」(ぶっちゃけしばらく使いたくないが、この件に限っては使うことを躊躇うつもりはない。)

 「王宮の勅使として、その訴えを厳粛に受けとめさせていただこうではないか。不肖このジュール・ド・モットが王宮に確かに伝え、彼のシュヴァリエ受勲の妨げになる規定条項の特別解除、および実力、実績共に十分であるという証言をさせていただく。」(リッシュモンに私の分も合わせて苦情を入れて、クロア殿に限って規定を捻じ曲げさせて、私もついでに彼を推薦し早急にシュヴァリエを受勲させるつもりだ。)

 「その際、少々事の次第を最低限話す必要はあるだろう。その点だけご了承いただきたい。」(だが、シュヴァリエ受勲の時に理由を言わないと難しいだろうから、マザリーニに言うくらいはお許しいただこう。)

 

 これがまさしく共同作戦というのだろう。途中邪魔が入ったが今度は邪魔が入らないよう、即座にクラウス殿が反応した。

 

 「おお、モット卿! このクラウス恥ずかしながらモット卿のことをまだ少々誤解していたようです。」(乗らないかもしれないと思ったけど乗ってくれるんですね?)

 「小さな誤解から不幸な行き違いがあったばかりだというのに、なんと寛容な!」(さっきは本当にすいませんでした。)

 「私は今モット卿のトリステイン貴族に対する深い慈愛とトリステイン王国に対する深い愛情に心打たれております。今後トリステインが不幸を生まぬよう、そのように厳粛に受け止めていただけるとは何と懐の深い! そのような並び立つものが無いほどの大器ですら愛情が溢れるようなモット卿だからこそ王宮の勅使に選ばれたのでしょうな。」(この辺りで兄が何も言わなければ愛国心を証明できるかと。多分兄の関わっている領の次くらいには大事に思ってると思います。しかし、またあるとも限りませんからね。トリステインの領地が灰になるリスクは少しでも下げたいですものね。とりあえず兄のシュヴァリエ受勲の件、よろしくお願いします。勅使殿。)

 「モット卿さえよろしければ今後も兄クロア共々、カスティグリアと懇意にしていただければ大変光栄です。」(その代わりと言ってはなんですが、カスティグリアに協力して一緒にトリステイン守りませんか? マザリーニ枢機卿だけでは大変だと思うんですよ。)

 

 おお、これはすばらしい提案だ。渡りにフネだ。クラウス殿、ぜひ乗らせて貰おう。

 

 「うむ。うむ。クラウス殿。この愛の勅使、ジュール・ド・モットに任せたまえ。私としても小さな行き違いがあったばかりだが互いに深く分かり合えたと感じている。」(確かに承った。クロア殿は怖いけどクラウス殿には仲間意識を持たせていただいている。)

 「是非とも気高きカスティグリアと懇意にしたいと思っていたところだ。今後ともよろしく頼むぞ。若き次代の当主よ! 共にトリステインを支えようではないか!」(ちょうどカスティグリアの計画に参加したいと思っていたところだ。アルビオン戦が楽しみですな!)

 

 「モット卿からそのようにおっしゃっていただけるとは恐悦至極にございます。モット卿がいらっしゃればトリステインも怖いものなしでしょうとも! このクラウス、トリステインを守るため、モット卿と共に微力を尽くすことを誓いましょう!」(おお、ご協力感謝します。モット卿も一緒にアルビオン戦に向けて準備をお願いします。お互いがんばりましょう。)

 

 互いに作戦の開始が宣言され、新たな方針を共に練る事ができた。やはりクラウス殿とは気が合うようだ。自分の兄を知り尽くしたかのような彼の用いたこの作戦はすばらしかった。お互い得られた成果に満足し、頷き合うと、私は邪魔されると困るのでさっそく実行に移すため王宮へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。他者視点や副音声といったものを試してみました。
 今まで伏せていたクロアの細かい描写やカスティグリアのことをついに書いてしまいました……。
 感想が楽しみで怖いのは初投稿以来です。よろしければご感想お願いします。
 先に言っておきますね! みなさんのイメージとかけ離れていないと良いのですが、かけ離れていたらごめんなさい。マジすいませんorz(土下座

 同じ文章や会話をできるだけ書かないよう心がけましたが、基点になるようなところは使いました。これ以上減らすのはちょっと私には難しかったです。

次回はえーっと、まだ何にも考えてません。寝て起きて思いついたら書きます。ええ、きっと^^


次回をおたのしみにー!



と、言いつつ書いてる途中に思いついたギャグ100%のネタ。本編とは全く関係ありません。

クロア :ぷるぷる。ぼくは虚弱ですぐに死んじゃう子供だよ。悪い貴族じゃないよ?

クラウス:死なないで兄いさああああん;;
モンモン:まぁ、かわいらしい。よく懐くわね。いい子いい子
シエスタ:か、かわいい! ナニナニ? 私がお世話係? キャー><

オスマン:え? え? 何言ってんのコイツ? もしかして熱で壊れた?
コッパゲ:アレは危険だ。心優しく見えてもアレは危険だ!
サイト :殺されるかと思った。他の貴族はそうでもないけどマジこえぇ。
ルイズ :なるほど、アレが真の貴族のあるべき姿なのね……。ぷるぷる。
フーケ :私より盗賊に向いてるんじゃないの?

モット :嘘だッ!!!!!

追記:すいません。ちょこちょこ手直ししてます。 4/9 9:25
追記の追記:直しきれない気がしてきた><; 休憩してからまた手を入れるかもしれませぬorz
追記の追記の追記:あはははは! 直し終わったと思うけど残ってたらすいません。あ、うんとね。クロアの主治医さん学院には同行してないけど気にしたらだめだよ?? うん。……うわああああん;;

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