さて、頭痛を乗り越えなんとか土日に間に合うよう書き終えました。皆様の暇つぶしの一助になれれば幸いでございます。後半長文の会話が続きますがお許しくださいorz
そういえばヨシェナヴェだったんですね。ヨシェナベって書いてました。今回からヨシェナヴェで行きます。
ここのところプリシラを使ってキュルケの使い魔であるフレイムの偵察を行っている。もしキュルケ嬢がサイトへのアプローチを計画しているのであればフレイムが偵察を行うはずだ。プリシラは全長10cmほどの小さな鳥なのでフレイムよりも目立たない上に音もしない。しかも上空からの偵察はもちろん、室内の小さな場所に潜むこともお手の物である。そう、出入りするときになぜか鍵がかかっていようがいまいが元々閉まっていたドアや窓が自動ドアのようにプリシラが近づくと開き、遠ざかると元の状態に閉まるのである。
最初はフレイムから約5mくらいの距離から偵察していたのだが、プリシラがその圏内に入るとフレイムが怯えるので現在は10m以上離れることを余儀なくされているらしい。フレイムの尻尾の炎がプリシラの餌として認識されていると誤解? いや、実際餌なのかもしれんが、フレイムにそう思われているのだろうか。
ここ数日のフレイムの行動パターンから推測するに、恐らくキュルケ嬢はサイトに興味があると思う。原作消化するにあたってはかなり順調なようだ。ちなみに最近はめっきり授業に出ていない。ルイズ嬢の調教、もとい教育が教室でも行われるため、爆発や彼女の振り回すムチに巻き込まれたら生死の境を彷徨う可能性があるためだ。
そしてキュルケ嬢がサイトを連れ込む予定のダエグの曜日の夜。シエスタは何か用事があるとかで隣のモンモランシーの部屋に行っている。プリシラはサイトとフレイムの接触がありそうな廊下の一番端で偵察待機中。俺は資料作成に没頭していた。
『ご主人様。フレイムに動きがあったわ。今黒オスの袖を引っ張っているわ。』
おお、ついに来たか! さぁ連れ込まれてしまへ。と、思っているとモンモランシーとシエスタが部屋に入ってきた。
「クロア様。モンモランシー様がいらっしゃいました。」
と言って天蓋から下がる半分だけかかった分厚いカーテンと薄いカーテンがシエスタの手で開けられた。
「こんばんは。クロア。ちょっと話があるのだけどいいかしら?」
と言って、モンモランシーは俺のベッドの縁に腰掛けた。
「やぁモンモランシー。俺は君の姿を見れるのはいつでも大歓迎だよ。どんな話だい?」
「あなたの体調が良ければ明日の夜、ヨシェナヴェパーティをしようと思うのよ。」
彼女が言うには、明日の虚無の曜日にトリスタニアへ食材その他を買い出しに行って、夜に俺の部屋でヨシェナヴェパーティをするという計画がルーシア姉さんから持ち上がったそうだ。そういえばマルコは食べてみたいと言っていたし、ルーシア姉さんも食いつくだろうと予想していた。それに虚無の曜日は基本的に休日なので、食堂で食事を摂るのも予約や注文が必要だった気がする。いや、俺はいつも基本的にシエスタが運んでくれるので実は全く知らない。
買い出し係はルーシア姉さんとマルコというある意味デートを兼ねてるのでは? という人選でギーシュが錬金でテーブルや椅子、調理するために必要なもの各種作ってくれるそうだ。シエスタは調理係、モンモランシーは俺の体調管理を担当するらしい。
というかそこまで決まっていたらあとは体調を整えてお招きを受けるだけという感じですね。いや、俺の部屋でやるならお招きする方なのかもしれないが……。
「とてもにぎやかなヨシェナヴェパーティになりそうだね。今から楽しみだよ。そうだ、せっかくのヨシェナヴェパーティならシエスタも給仕だけじゃなくて一緒に食べれるよう提案したいのだけどいいかな?」
うん。本当に楽しそうだ。そうモンモランシーに言うと。
「ええ、そうね。そうしましょう。だから今日明日は安静にして体調を整えてね?」
と俺の書いていた資料と筆記用具を側にいたシエスタに渡し、簡易テーブルも片付けられ、早くも寝ることになってしまった。そして枕元にシエスタがたまにやる俺の監視ポジションに椅子を置いて、そこにモンモランシーが座った。
ちょうどプリシラから『ルイズ突入、黒オス捕獲したみたい。それじゃあ戻るわね。』という声が聞こえたので『ああ、ありがとう。プリシラ。おつかれさま。』と労ってモンモランシーに寝ることを伝えようと
「えっと、モンモランシー。その、見られてると恥ずかしくてですね。ちょっとその。」
となんとか抗議の声を上げると、彼女は「ふふっ」と笑って左手をそっと俺の額に置いた。柔らかくて少し冷たくて気持ちがいい。「目を閉じて?」といわれたので目を瞑ると目も疲れていたみたいでじわっと疲労を伝えてくる。
小声で何か詠唱する声が聞こえたあと、「おやすみなさい、あなた。」というモンモランシーの声がそっと耳元で聞こえて夢の中に落ちた。
すっと意識が浮上すると部屋の中にいるこの部屋にしては大勢の人間のあわただしい気配がした。いつもは天蓋からかかる分厚いカーテンは半分ほどしか閉じていないのだが、今日はきっちり閉じられている。
ああ、もしかしてヨシェナヴェパーティの直前ですかね?
そう思いつつそっとシエスタの名前を呼ぶと、カーテンをかき分けてモンモランシーとシエスタが入ってきた。
「おはよう、あなた。そろそろパーティよ。ちょうどいい時間ね。」
と、モンモランシーは安心したような笑顔を見せた。恐らく起きなかったら起きなかったで先に始めるとかそういう予定だとは思うが、気に病んでいたようだ。
「おはよう。モンモランシー。ゆっくり眠れたみたいで少し調子がいいみたいだ。」
自分の体調を確認して彼女に告げると、「良かったわ」と目を細めてそっと俺の頭を撫でた。
「ではお着替えをお願いします。」
と、シエスタがちょっと真面目な顔で告げるとモンモランシーは笑顔で「ええ、お願いね」と言って天蓋から出て行った。シエスタに用意してもらった着替えは制服ではないが、部屋着のようなゆったりしたものではないが、ソコソコゆったりしたつくりのシャツとズボンだった。恐らく俺の部屋着に見慣れた人ばかりだから問題ないのだが、「一応着替えました」と、言った感じだろう。
シエスタに着ていた部屋着を脱がされて、軽く濡れた布で背中を拭いてもらってあとは自分で拭いて着替えをする。
「自分でできるのだがね」と言うたびに「いえ、貴族様が自分でなさってはいけないとルイズ様がサイトさんに話したのをお聞きしました」と返されて、もはやどうしようもなくなった。恥ずかしいのは我慢しよう。
着替えが終わってシエスタに肩を借りて天蓋から出ると、すでに準備が整っていた。
いつも使う長いテーブルは片側6名ずつ、お誕生日席に1名ずつ座れるのだが、ギーシュの錬金で少し延長され、配膳用のテーブルまで容易されている。
こちら側に開いている席が2つあるのは俺とシエスタの分だろう。配膳用テーブルの方からシエスタ、俺、モンモランシー、クラウスが座り、向こう側にはシエスタの対面からルーシア姉さん、マルコ、ギーシュ、多分ケティと思われる女性がいる。
「みなさん、ごきげんよう。お待たせしてしまったようで申し訳ない。」
そう言いながら自分に用意された椅子に座る。予想通り、シエスタは配膳用テーブルの横だった。簡単にみんなと挨拶したあと、シエスタが器にヨシェナヴェをよそい始めたところでギーシュがケティ(仮)を紹介してくれた。
「クロア、起きてこられて良かったよ。もし体調不良ならせっかくのこの機会を逃してしまっていたからね。彼女はケティ・ド・ラ・ロッタ。今年の新入生であのハンカチをくれた子だよ。ケティ、彼が僕の友人のクロア・ド・カスティグリアだよ。」
恐らくギーシュはケティとの会話で俺の話題を出したことがあったのだろう。あまり詳しい説明はしなかった。ぶっちゃけ少し席が遠いので細かいところは見えない。ぼやっと輪郭がわかり、こげ茶の長い髪と紫っぽい感じの目の色がほんのりわかる程度だ。
「初めまして、ミス・ロッタ。ギーシュの友人のクロア・ド・カスティグリアだ。ぜひともクロアと呼んでくれ。いやはや、ギーシュという薔薇に初めて自分の居場所を作りだしたことはある。とてもかわいくてステキな蝶のようだね。」
そういうと、ミス・ロッタはパッと顔を赤くして、
「いえ、そんな。ギーシュ様とは、まだ、その、少し親しくしていただいてるだけです。私のこともぜひケティとお呼びください。クロア様。」
と少しうつむき気味に答えた。ふむ。おだてすぎただろうか。ちょっとギーシュの顔が強張った気がする。
「しかし、ギーシュ。キミは薔薇だからたくさんの蝶を引き寄せてしまうのは仕方のないことだとは思うがね。ケティ嬢が相手ならばキミも薔薇の意義を通しきれずに彼女に少なからず惹かれてしまうのもしょうがないかもしれないね?」
そういうと、ギーシュは余裕を取り戻したのか、少し微笑みながら薔薇の杖についている花を見つめたあと、香りを嗅ぐしぐさをスマートに決めて、
「ああ、我が友クロアよ。キミならそう言ってくれると思っていたよ。彼女に会った時ほど、自分が薔薇であり多くの人を楽しませる使命を忘れそうになったことはないかもしれないね?」
と、カッコイイ決め台詞を言った。ケティはギーシュを蕩けた顔でポーっと見つめているが、ギーシュはあえて少し目を伏せながら薔薇の杖を見ている。マルコのツッコミが入るかとも思ったが、マルコはマルコでルーシア姉さんとヨシェナヴェについて語り合っている。
そしてシエスタの給仕が終わって、彼女も含め、みんな席について各々自己流の「いただきます」をしたあとヨシェナヴェをいただく。
今日のヨシェナヴェは海鮮物らしい。この俺の赤い目で見たところ、具の原型を留めているのはキノコや野菜、カニの身や貝の身くらいだが、この色、この香りは間違いなくカニミソが入っている。殻がないので恐らく食べやすいよう、ゆでたあと剥いたのだろう。かなり手間のかかった一品のようだ。というかトリスタニアにカニ売ってるのか……。
「クロアがこの前食べていたものとは違うようだが、こちらはこちらでとてもおいしいね。シエスタ嬢。これは貴族でも中々食べられない味だと思うよ。」
という食の帝王マルコの評価がたった一口目であっという間に出た。シエスタは笑顔を浮かべてお礼を言っている。
うむ。確かにおいしい。恐らくこのカニと貝と昆布ダシのうまみが絡み合ってそれらが喧嘩しないよう、ショーユでうまく整えられている。今なら胴鍋一杯でも飲み干せる気がする。モグモグ。
「ふふっ、マルコ、今回は特別なのよ。せっかくの機会だから、ここで使っている具の海産物はカスティグリアから直送してもらったの。あなたのお口に合ったようでとても嬉しいわ。」
とルーシア姉さんが笑顔で具の説明を始めた。ふむ。カニはどうやらカスティグリアの海から北の方で取れるらしい。漁業権で一度ゲルマニアともめたことがあったが今では仲良く獲ってるそうだ。
というか海産物が獲れたんですね、カスティグリア。ああ、海産物は足が早いから風竜隊じゃないと間に合わないのか? 海産物らしきものは屋敷でもたまにしか出ないのに、学院でこの鍋をつつく為だけに風竜隊を使うとは……ルーシア姉さん、恐るべし。モグモグ。
一応テーブルにパンも置いてあり、それをスープにひたして食べてもおいしいと思う。いや、俺のはすでに入っているのだが、「パンもスープにひたして食べるとおいしいよ」と言うと、食の帝王マルコがパンをモリモリ食べ始めた。
ううむ。さすがである。多めに作ってあったようだが、俺以外みんなおかわりしつつもマルコは群を抜いてモリモリ食べていた。そしてそれを眺めるルーシア姉さんの目が恍惚としているように見えるのはきっと目の錯覚だろう。
ヨシェナヴェが食べ終わると、ケティがお菓子を作って持ってきてくれていたようで、それを紹介されつつ一口いただいた。ほんのり甘くて柔らかい口当たりのクッキーだった。ケティ、お菓子にかけてはもはやプロ級なのではなかろうか。お菓子に関してシエスタと気が合ったようで、軽くレシピの交換をしていた。モグモグ。
そして大好評のうちにヨシェナヴェパーティが終わり、ギーシュが作ったものは「また機会があるかもしれない」とのことで贈呈され、部屋の片隅に片付けられた。
ギーシュはケティ嬢を送っていき、マルコもルーシア姉さんのおねだりで送っていき、シエスタとモンモランシーは食器などを外へ洗いに行った。モンモランシーがシエスタの手伝いをすることをシエスタは拒んでいたが、護衛も兼ねてと押し切られていた。
そしてシエスタが片付けに行く前に出してくれた紅茶に口をつけつつ、残ったクラウスに話を振る。
「ところでクラウス。何か話があるのかい?」
「ああ、兄さん。少し兄さんの意見を聞きたくてね。」
と、クラウスも紅茶に口をつけつつ真剣な顔をした。真面目な話のようだ。内密な話で人払いを自然にしたと考えればモンモランシーが外に出たのもわからないでもない。しかし、未来の夫婦に隠し事はなかったのではなかろうか。いや、今回は特別なのか?
「ふむ。かなり機密性の高い話のようだが、サイレントや錬金、固定化はいいのかい?」
そう聞くと、サイレントはパーティ前に終わらせてあるので、扉の近くに人が来たらわかるよう、プリシラに頼んでくれと頼まれた。プリシラに頼んで、そのことを告げると、クラウスが話し始めた。
「この話は兄さんの耳にもすぐに入ってくると思うけど、ゲルマニアとの同盟を条件にゲルマニアにアンリエッタ姫が嫁ぐことになった。恐らく調印のため、アンリエッタ姫と共にマザリーニ枢機卿やグリフォン隊が現在ゲルマニアの首都であるヴィンドボナに向っているはずだ。」
ふむ。そのあたりは別段原作通りだし問題ないのでは? いや原作通りで問題あるけど、今のところ楽観視は可能だ。
「これからのカスティグリアの舵取りに関して少し兄さんの考えを参考にできればと思ってね。何でもいいからこのことに関して思いついたことを話して欲しい。」
と、真剣な顔でクラウスに言われた。思いついたことか。まぁ色々あるんだが、話してしまっていいのだろうか。
「そのことに関して話すことは吝かではないのだがね、クラウス。それでは少し情報が足りないね? 確かヴァリエール公爵の子供は娘が3人で三女のルイズ嬢とは俺も面識がある。ヴァリエール公の長女や次女、三女殿は婚約者などいるのかね?」
そう聞いたところで、クラウスの目がスッと鋭くなった。
「ああ、いる、今となっては
エレオノール嬢が婚約破棄された時期は原作では曖昧だったけどこの時期だったか。いや、時期はあまり重要ではないのだがね。
クラウスは「もしかしてプリシラを使って偵察でもしているのかな? いや、いつものことかな?」とブツブツ言っている。
ふむ。原作知識で知っていてもこれからは「実はプリシラから聞いた」とか言えばいいのか。それに関しては気付かなかった。さすがクラウスである。
「我が自慢の弟よ。それに関するヴァリエール公とマザリーニ枢機卿の考えや感情はわかるかい?」
「そうだね。ヴァリエール公はバーガンディ伯爵に関して長女殿とソリが合わず、軟弱と思っているみたいだね。彼女の新しい婿を探しているみたいだよ。
―――マザリーニ枢機卿に関しては……僕にはちょっとわからないけど兄さんが思っている通りだと思うよ?」
と、クラウスはこわばった表情をほぐすように肩をすくめてから紅茶に口をつけた。どこで緊張したのかわからないが、まだ俺は自分の考えを何も言っていないのだけどね。
「そうか。それでカスティグリアがどちらに舵を切るか、という話だったな。今までどおりマザリーニ枢機卿と懇意にしつつ力を蓄え、アルビオン戦に備えればいいのではないかね?」
「話が飛んでるよ、兄さん。僕が聞きたいのはアンリエッタ姫がゲルマニアと同盟を結ぶためゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事に関して思いついたことを聞きたいんだけどね?」
と、クラウスがちょんと首をかしげて苦笑した。
「ああ、そうだったな。まぁクラウスの方が詳しそうだが、“見落としがないか”などを確認したいのか? 俺の考えは憶測がかなり含まれているがそれほど逸れているとは思えない。そんな考えだが、自慢の弟が聞きたいというのであれば確認の意味も込めてこの稚拙な考えをお話ししよう。」
そう言いながら、紅茶に軽く口をつけて湿らせながら考えをまとめる。
「まず、この複雑に絡み合った状況を整理するにはそれぞれの行動指針、優先順位、目標を考える必要がある。
まずマザリーニ枢機卿は最優先にトリステイン王国自体の事を思っているのは間違いないだろう。トリステインを安定させるため、誰かを王位に就け、宰相を配置し、自らは枢機卿に戻り来る戦争に対してガリアかゲルマニアと同盟を結ぶ事を考えるはずだ。そして以前から王位か宰相にヴァリエール公を、と思っていた可能性が高い。」
「ふむ。確かにヴァリエール公にも王位継承権はあるからね。」
「それが何の話になるんだい?」といった感じでクラウスは何でもないようにヴァリエール公の王位継承権について流した。恐らくそこが本題とわかっていつつも自分の反応が原因で悟られたくないのだろう。しょうがないのでこちらも真剣にクラウスの目を見て話すことにした。
「そうだ。そしてそのヴァリエール公爵の中ではマザリーニ枢機卿ほどトリステインの優先順位は高くない。まず先の王がお隠れあそばされた直後に動かなかったのが裏づけになると思うが、彼の家族、彼の領地が最優先であろうことが窺える。そしてゲルマニアのツェルプストー領と接していることから代々因縁があり、ゲルマニアのこともあまりよく思っていないだろう。
そして、彼の中で王国の優先順位が低いとはいえ生粋のトリステイン貴族でありその中でも一番高い爵位を持っているわけだから誇りも当然あるだろう。そのため外国人であるマザリーニ枢機卿の事も快く思ってない可能性が高い。
次に王家であるマリアンヌ元王妃とアンリエッタ姫だがマリアンヌ様は政治に無関心であり、良く言えば政治は専門家に任せる奥ゆかしい性格だが、他に王位に就く人間がいない以上、単に周りが見えていないだけとも取れる。そしてアンリエッタ姫は母親の影響で何も出来ずにトリステインのことはあまり考えていないだろう。まぁ現状の生活がずっと続けばいいと思っているのかもしれない。」
特にこの見解については問題ないようでクラウスも「まぁそうだね」くらいしか相槌を打たない。
「そしてここから今回の状況に入っていくわけだが、マザリーニ枢機卿は誰かを王位に就けたい、しかし誰もが譲り合ってなろうとしないという普通では考えられない事態になってしまっているわけだ。
善意の解釈をすればお互いを尊重しあい、誰かを置いて自分が王位に就くわけにはいかないという事をお互いに表明しているわけだが、問題はこの三者ともマザリーニ枢機卿ほどトリステインという国を把握し、救おうと考えていない上に彼を疎ましく思っている事だ。
そして、そのことを問題視したマザリーニ枢機卿は恐らく様々な事を考え手を打ったのだろう。現状を鑑みるに、マリアンヌ様の説得に失敗したのか、彼女がひたすらに頑なだったのかは想像外だが、恐らくすでにマリアンヌ様を王位に据えることは彼の頭にはないだろう。
となると、アンリエッタ姫とヴァリエール公爵の二人になるわけだが、アンリエッタ姫もあまり政治に興味を持たず、消極的なのだろうし、ヴァリエール公爵は二人に遠慮して宰相にすら就かない。
一見手詰まりに見えるが彼は外堀から埋めることにしたようだな。恐らくヴァリエール公爵かアンリエッタ姫を自主的に王位に就かせるため、かなり際どい事をしたみたいだ。」
そこまで話したところで再びクラウスの様子を窺いながら紅茶に口をつける。なぜか我が弟殿の顔には少し怯えが混じっている気がするが気のせいだろう。
「下手にカスティグリアやヴァリエールをつつくと内戦で消耗する可能性も否めない。マザリーニ枢機卿はあれだけ切れる人物だ。ヴァリエール公に対して強制することなく、自然にそう選ばなくてはならないようどのように外堀を埋めたのだろうね?
そこで彼の打った手は王位の問題だけでなく同時に同盟の事も考えて打たれた。まさにすばらしい手だと思うよ。
ここでまず同盟相手のことだが、ガリアと同盟を組むにはこちらから差し出せるものがあまりに少ない。カスティグリアの風石を売れば可能だとは思うが、その手段は選びたくなかったのだろうな。彼は後の禍根を残すだろうことを知りつつ欲しい物がわかっているゲルマニアを選んだ。
ゲルマニアが欲しいのは始祖の血筋。候補はかなり絞られる。始祖の血筋とはっきりと明言されている未婚女性はアンリエッタ姫にヴァリエールの娘達の四名だが、ヴァリエールの次女殿は俺と同じく体が弱い。ゲルマニアに血を残す前に死ぬ可能性があるため今回は除外しただろう。そして三女殿の婚約者は名高いグリフォン隊隊長で今回のお供に連れて行ったくらいだ、マザリーニ枢機卿は彼を気に入っているかもしれない。
と、なるとアンリエッタ姫か長女のエレオノール嬢になるわけだ。しかし、エレオノール嬢には婚約者がいた。長女殿の婚約者のバーガンディ伯にはもしかしたらマザリーニ枢機卿からヴァリエールにバレないよう、かなりのプレッシャーをかけられたのではないだろうか。でなければ長女殿の性格がどうあれ、婚約が決まっていたのに公爵家相手に断れるはずがない。しかもヴァリエールの跡継ぎになれる可能性まであったのだからな。真相はバーガンディ伯しか知らないし、『もう無理』としか言っていないのだろう? 今からその真相を暴いてもいい事はないし、実際かなり難しいだろうから憶測になってしまうところだな。もしかしたら本当にヴァリエール公やエレオノール嬢が思っているように彼女の性格について行く事ができなかっただけなのかもしれない。」
むしろあの長女殿の性格は裏表がありそうだが、その辺りのデレの部分に惹かれていてもおかしくないのではないだろうか。もし俺がヴァリエール公なら婚約→結婚コンボを早期に決めて安定させる。長女殿の年齢、伯爵という相手の家格、しかも原作のエレオノール嬢は伯爵に恋愛感情を持っていたはずだ。あの家族思いのヴァリエール公がなぜ相手を逃がしたのかわからないし不自然すぎる。
「真相はわからないが、長女殿の婚約がめでたく破棄されたことで恐らくマザリーニ枢機卿はヴァリエール公にそれとなく探りを入れたのだろう。エレオノールをゲルマニアに嫁がせるのはいかがかと。相手は他国とはいえ大国の皇帝。しかもトリステインとの同盟もオマケについてくる。トリステインにとっても長女殿にとってもヴァリエールにとってもいい話ではないかと。
しかし、ここで彼に誤算が生じた。彼が思っていたよりもヴァリエール公は王国より娘を愛しており、ツェルプストーだけでなくゲルマニア自体にいい印象を持っていなかったようだ。
もし長女殿が皇帝に嫁げばヴァリエールにとっての怨敵であるツェルプストーの力を内側から削ることも可能なのにそれを捨てたくらいだからな。いや、もしかしたらそのことに気付いていなかった可能性もあるか……? だがまぁ、そういったところだろう。」
そう、まずアンリエッタを切るのは最後の手段にしたかったはずだ。アンリエッタはマザリーニが忠誠を誓っていた先王の一粒種だし、マザリーニはその先王が守ったトリステインを守ることに執着している。もしエレオノールがゲルマニアに嫁げばアンリエッタを王位に据えたかったはずだ。現状アンリエッタ姫に王としての器量や意思が少なくとも宰相と一緒にマザリーニが支えつつ、安定させれば次世代の教育でなんとかなると考えてもおかしくない。それにゲルマニアに渡る始祖の血筋も現状エレオノールよりアンリエッタの方が正当性が高いのでトリステインの今後のリスクを考えても出来れば渡したくはない。
「そして彼は最後の手段を取らざるを得なくなった。恐らく俺が婚約式でマザリーニ殿に愚申したよりも前にアルビオンの情勢についてはかなり気に掛けていたのだろう。そしてここに来てもはや時間がないと感じた彼はアンリエッタ姫をゲルマニアに嫁がせる事を決意した。
話を持って行ったところマリアンヌ元王妃も国のためとアンリエッタ姫を慰めるだけでマザリーニ枢機卿の考えはわからなかったのかもしれない。誰に守られることも教えられることもなく、アンリエッタ姫はトリステインの平和へと繋がる同盟と天秤に掛けられ、めでたくゲルマニアにお輿入れし、同盟を結ぶのだろう。
そして、恐らく今後の展開はいくつか考えられるが、比較的早期にマリアンヌ元王妃はお隠れになるか幽閉、または病気を患い後宮へ。順繰りに回ってきた王位継承権をヴァリエール公爵に押し付け、ヴァリエール朝トリステインが始まる。そして長女殿か三女殿が継ぐわけだが、長女殿に
そこまで話したところで軽く紅茶の残りを飲む。クラウスもつられるように紅茶を飲み、ハンカチを出して軽く自分の額を拭いた。
「ただ、まだこれが決まったわけではないだろう。マリアンヌ后は頑なに政治に関わろうとしていないが、アンリエッタ姫は流されているだけだ。もし彼女が何らかのきっかけで自ら王位に就くと宣言するだけで状況はひっくり返る。マザリーニ枢機卿としてはその場合、エレオノール嬢をアンリエッタ女王の代わりにゲルマニア皇帝に嫁がせることになるが、アンリエッタ女王を説得して王令を発するだけで新たに外堀を埋める必要はほとんどない。
または開戦が早まって同盟前にアルビオンがこちらに攻めてくる可能性もある。その時にゲルマニアとの同盟というものがどの程度発揮されるかでエレオノール嬢を代わりに送る必要がなくなる可能性もある。
しかし、その場合トリステイン一国でアルビオンの侵攻を止めるため、トリステインはかなり窮地に陥るはずだ。カスティグリアとモンモランシの全面的な協力が必要になるだろう。俺としては場合によってアルビオンに攻め入る覚悟も必要だと感じているし、カスティグリアが積極的に戦えばかなり押し込めると感じている。そのあたりはさすがに父上やクラウスが判断すべきだがね。
我が自慢の弟よ。憶測がかなり混じっているが何かの役に立ちそうかね?」
そう最後に問いかけると、クラウスはゴクリと一度喉を鳴らして、
「ああ、さすが兄さんだね。相談してみてよかったよ。でも不敬罪に引っかかることもあるから大っぴらに言わないようにね?」
と苦笑いした。確かにマリアンヌの暗殺を仄めかしてますからな。
「当然だとも、クラウス。家族以外には言うつもりはないとも。」
とこちらも苦笑いを返した。そして今話した内容を考えたいということでクラウスは部屋を出て行った。そして、クラウスから告げられたのだろう、モンモランシーとシエスタが部屋に戻ってきて、再びティータイムに入った。
後半何度か全部書き直して一番マシなのがこれだったんです;;
ええ、後半の個人的な新解釈をひねり出すまでちょっと大変でした。考えたことを上手く文章にするのも大変でした。箇条書きならもっとキレイにまとめられたのですが、うまく伝わっているか不安です。
まぁ誰でも思いつきそうだし、どこかでネタになっていそうでなんとも言えませんが、思いついたとき原作者の張った伏線に慄きました。ええ、ゾクッとしました。風邪かもしれませんがorz
どこが新解釈やねん! ○○ですでに書かれてるわ! といったご意見はよろしければ活動報告の方にお願いします。ぶっちゃけノーチェックですorz
ええ、まぁ、そのときは、そうですね。理系の子ががんばったと思って生暖かくですね……(遠い目
えーと、次回多分フーケさん登場します。ええ、たぶん。
ちょっと文字数多くなったので遭遇まで行けませんでした。実はシエスタ嬢とモンモランシー嬢が外にいるときに「きゃー!」と来るはずだったのですがね;;
次回おたのしみにー!
といいつつ心が折れそうですorz
誰か補修用の透明で頑丈なセロハンテープをください。
追記:後半のプリシラに関する会話を少し直しました。4/4 0:15