ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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ええ、明日は日曜日ですね。私はすでに力尽きました。

それではどぞー!


19 決闘後と今後のこと

 意識が浮上するとちょうど誰かが俺の顔を拭いてくれているところだった。丁寧に顔をくすぐる湿ったタオルの感触が気持ちいい。目を開くと目の前に少し頬を染めたシエスタの顔があった。

 

 「あっ、クロア様。おはようございます。」

 

 「ああ、おはよう。シエスタ。ありがとう。あとは自分でやるよ。」

 

 体を起こして背もたれに寄りかかるときにシエスタが支えてくれた。何か最近接触が増えたような……。う、うむ。きっと介助に慣れてくれたのだろう。シエスタからタオルを受け取って顔と首周り、背中や体を拭く。

 

 「どのくらい寝てた?」

 

 と拭きながらシエスタに聞くと、手持ち無沙汰なのか、ちょっと手をもじもじしながら

 

 「今日はあの日から5日目の朝です。」

 

 と返答が帰って来た。とりあえず上半身が拭き終わったのでシエスタにタオルを渡して、しばし考える。たしか原作サイトは三日三晩ルイズ嬢の部屋のルイズ嬢のベッドでルイズ嬢の献身的な介護を受けながら意識が戻らず寝ていたはずだ……。しかし今回は原作より派手なダメージを与えた自信がある。一週間くらい寝ていてもおかしくないはずだ。うむ。決闘に勝った俺の方が寝ていた時間が長いということはないはずだ。

 

 「そうか。ルイズ嬢の平民の使い魔はどうなった?」

 

 と、シエスタに聞くとサイトは三日三晩“医務室”で意識が戻らなかったが、水メイジの診療を受け、今では後遺症もなく普通の生活に戻っているそうだ。

 そして今では、アルヴィーズの食堂にサイト用の餌が用意されることはなく、ルイズ嬢が厨房に乗り込んでサイト用の食事を用意するよう依頼したらしい。出される食事は賄いで変わらないが、今まで厨房の善意だったのが貴族の依頼になったので気兼ねなく出せるようになり、サイトも気兼ねなく食べれるようになった。

 しかし、ご飯抜きの威力が凶悪になったらしい。三食以上連続では抜かないことにはしているそうだが……。サイトよ。強く生きろ。

 

 ふむ。しかしサイトは三日か……、もっと追撃しておくべきだっただろうか。無傷で勝利したはずなのだが何かこう、釈然としない物がだな……。

 

 「そろそろモンモランシー様がいらっしゃると思います。」

 

 考え事をしているとシエスタがそう告げた。毎日朝と昼と午後に様子を見に来てくれていたらしい。いや、隣の部屋だが……。ううむ。しかしちょっと今回は顔を合わせづらい。初めてのアルヴィーズの食堂でのデートへ誘ったのはいいけど、本当にご飯食べるだけだったし、デザートの途中だったし、ぶっちゃけギーシュの決闘イベントをモンモランシーと見学して帰る予定だったのがサイトに絡まれて俺が決闘することになったし、結局五日も寝てたし……ううむ。でもモンモランシーには会いたい。

 

 そんなことを考えているとノックの音が聞こえ、シエスタがモンモランシーを出迎えた。ドアから部屋へ招きいれ、さっき起きたことを知らせたのだろう。ちょっと歩く足音が早くなった。

 

 「クロア。大丈夫? 熱はもう無い? 本当に心配したんだから。」

 

 とモンモランシーは泣くのを我慢するように眉を寄せ、目を潤ませ少しベッドに乗り出しておでこをくっつけた。

 

 「心配かけてごめんね。もう大丈夫だよ。」

 

 と安心させるように笑顔を作ってモンモランシーの滑らかで柔らかい頬にそっと触れると泣きそうな顔を少し伏せたあとちょんと柔らかい感触が唇を襲った。何が起こったのか悟った時ちょうどモンモランシーがヒーリングを掛けてくれた。

 

 「これから朝食と授業だからまたお昼に様子見に来るわね。ルイズやマルコたちにも知らせてあげなくちゃいけないし。」

 

 モンモランシーは自分の頬に当る俺の手に自分の手を重ねながら赤い顔で目を逸らしながら言った。

 

 「ああ、そうだ。モンモランシー、ギーシュに一つ頼みたいことがあるんだ。時間が出来たら一人で来てくれるように頼んでもらえないだろうか。」

 

 そういうと、今日の昼の予定を聞いてみて、空いてるようなら来てくれるよう頼んでくれるそうだ。その後ちょっと話をして「じゃあ行ってくるわね」と行って朝食と授業に向った。シエスタも俺の朝食を取りに厨房へモンモランシーと一緒に行った。

 

 今回のサイトとの接触でいくつかわかったことがある。とりあえずあのサイトは原作かアニメかわからないがオリジナルサイトということでいいだろう。まず原作知識があったのなら俺に関して不思議に思うはずだし、ギーシュが落としたハンカチが香水のビンでなかったことに驚くはずだ。しかし極自然にハンカチをギーシュに返していたし、特にモンモランシーが俺の横にいたことに驚いた様子はなかった。

 

 決闘したことによってわかったことも多く、有意義な判断材料が得られた。まずサイトは武器を取る事にためらった。原作知識があれば、そしてもし事前に対応を考えていたならば、ある程度剣を使えるように訓練するはずだし、体も鍛えるだろう。

 

 しかも、槍の方が非殺傷能力やリーチ、防御に優れているにも関わらず、彼は剣を選んだ。恐らく使ったことのない、槍の有効性を知らないが故の選択だと思う。ある程度武器の知識があれば槍を使うはずだ。いや、体育で剣道を選択していたり、普通に槍より剣の方が日本人としては馴染みがあるだけかもしれん。

 

 しかし、戦ってみた結果、ガンダールヴの能力での身体能力や剣の使い方の底上げはされていても戦い方は素人の喧嘩と言っていいだろう。魔法に関する知識があればまずあのようにまっすぐ突っ込んでくることはしないだろう。隙を作るためにフェイントを織り交ぜるか、円周状に移動しつつ間合いを詰めそうなものだ。

 

 もし俺が彼の立場ならまず剣を一本左手に持ち、右手で槍を投げたあと、右手でもう一本剣を持って走りながら間合いを詰めつつ更にもう一本回転させながら避けにくいように投げて一気に間合いを詰め一撃で決める。

 

 恐らくラ・フォイエを二回使えばそれでも防御は可能だが、手加減することを考えているとかなり際どい戦いになるはずだ。というか最後の位置次第ではラ・フォイエの選択が不可能になり、ブレイドでの切断を余儀なくされたはずだし、それすら避けられたらもはや打つ手は無かった。こうやって落ち着いて考えるとかなり危険な橋を渡っていたことがわかる。いや、最初から殺すつもりなら手加減抜きのラ・フォイエやブレイドで一撃なのだが……。

 

 もう少しラ・フォイエだけに頼るような戦い方ではなく、搦め手に対処可能な戦法を考える必要があるかもしれない。今回は最初から使って行ったが、本来防御も視野に入れているものだ。以前タバサ嬢に言ったように自分でオリジナル魔法の研究をしてみるいいきっかけかもしれない。

 

 いや、ぶっちゃけ魔法に頼るより防御は防御で考えた方がいいのだろうか。だがしかし、プロテクトアーマーやフルプレートアーマーを着たところで俺の場合手を動かすのも難しくなる可能性もあるし、なんか転がされてボコボコにされる未来しか思い浮かばない。いやまぁボコボコになる前に昇天するとは思うが……。

 

 ふむ。やはり魔法を基準に考えよう。おそらく一番カッコイイのはファイアー・ボールやフレイム・ボールの多重起動に自動目標設定、自動追尾、自動相殺防御などだろう。しかし、そんな便利な魔法はマジックアイテムでも仕込まないと無理な気がする。むしろ目標選定誤ったりして自分が燃える可能性もある。いや、むしろこの基本的にほとんど見えない目で目標を捉えるのがまず難しい。

 

 となると面か。ファイアー・ウォール? うーん。突破されないファイアー・ウォールか。なんかウィルスに対応するような感じになってきたが、気のせいだろう。このファイアー・ウォールの問題は燃え尽きずに突破されるということだ。ぶっちゃけエア・ハンマーなどでこちら側に煽られる可能性も否定できない。使いどころが難しいというレベルではなく、むしろいつ使うのか疑問な魔法である。

 

 うむ。思いつかない。というか、戦闘になった時点で相手を殲滅しないと俺が倒れて死ぬ気がしてきた。一気に決めないとその後が無理そうだ。やはり防御はラ・フォイエに任せよう。うむ。

 

 途中でシエスタが朝食兼お昼を持ってきてくれたので食べつつ、小一時間ほど考え、結局いい案が無かったので、思いつきメモに「魔法の改良」とだけ書いて他の資料作成に取りかかることにした。資料作成リストを眺めながらちょっと先の事を考える。

 

 確か、原作では次の虚無の曜日の前日であるダエグの曜日にサイトがキュルケに連れ込まれて、キュルケの男遊び……いや、十股……いや、ラフレシアっぷりを見せられ、キュルケに言い寄る男たちからの襲撃を恐れルイズに剣を欲しがり、翌日の虚無の曜日にトリスタニアへ二人で向かい、しゃべる剣でありインテリジェンスソードであり、ガンダールヴ専用武器であるデルフリンガーをゲットし、なんだかんだでルイズとキュルケが決闘して、その時にフーケがゴーレムで学院の宝物庫を襲い、破壊の杖が盗難に遭うと言った感じだったはずだ。

 

 もはやかなり乖離していると思うが、まだ取り戻せるはずだ。大筋ではあまり変わっていないと思う。とりあえず、デルフリンガーはでかいので彼の手に渡ればすぐにわかるだろう。

 

 そしてアルビオン関連に手を出さないことは決まっているので、俺の中ではフーケ関連もパスすることになっている。となると? ふむ。次のイベントはミスタ・ギトーの講義中にコッパゲが乱入して姫様が来るよー。という話か。アルビオンも遠いし、恐らくパスだな。となると間がかなり空く事になる。順調にルイズ嬢とサイトが原作イベントを消化できているか確認するだけの楽な作業になりそうだ。

 

 となると、まずは目の前の問題に取り掛かるだけか。その問題解決のための布石はすでに打ってある。今は資料作りに没頭しよう。カリカリ

 

 

 

 

 そしてお昼が来て、ギーシュがやってきてくれた。

 

 「やぁ、具合はどうだい? モンモランシーから君から話があると聞いて来たのだが、気になることでもあるのかい?」

 

 と、シエスタが招き入れて出された紅茶に口をつけつつギーシュは微笑んだ。くっ、最近ギーシュの光量も上がっている気がする。まさかケティ効果か!? 恋すると男も輝くのか!?

 

 「君にも心配をかけてしまったね。今日はそれほど悪くないよ。あの時は決闘の立会人をしてくれてとても助かったよ。ありがとう。それでなのだがね、今俺は大きな問題に直面していてね。君にしかコレは解決できない。ぜひとも協力してほしい。」

 

 そう、お礼を言った後、真面目な顔で依頼すると、ギーシュも真面目な顔になり、「友の頼みだ。出来る事なら協力するとも」と、言ってくれた。

 

 「すまないね。友よ。単刀直入に言おう。あの決闘のあった日、アルヴィーズの食堂で君が落としたケティから貰ったハンカチの手触りを是非確かめさせてくれ。できれば入手方法も知りたい。」

 

 と、真剣に頼むと、ギーシュは一瞬ポカンとして

 

 「キキキキミ。も、もしかして、あの一瞬で刺繍が見えたのかい!?」

 

 と裏返り気味の声で取り乱した。

 

 「うむ。刺繍の内容は全て知っている。内容はあえて口にしないが、何もせずにポケットから落ちるくらい滑らかなハンカチなのだろう? とても気になるじゃないか。ぜひとも俺も欲しいし、いつも世話になっている近しい人たちに送りたいのだよ。」

 

 と、言うと、ギーシュはしばし逡巡したあと、刺繍が見えないように何もないまっさらな面を上にしてそっと突き出した。「すまないね」と一言断ってから、彼に持ってもらったまま、その面に何度か指を滑らせると絹を越えるような滑らかさと柔らかさを持っていた。一体何で出来ているのだろうか。

 

 「ありがとう。とても滑らかだね。このハルケギニアにこのような布が存在していたとは驚きを隠せないよ。」

 

 と笑顔で言うと、ギーシュも笑顔になり、ハンカチを仕舞ったあと、

 

 「僕も初めてもらった時はびっくりしたよ。」

 

 と照れていた。このハンカチの出処はケティなのだが、ケティも偶然トリスタニアの露店で一枚だけ見つけて入手したらしい。つまりは今のところ入手できない二つとないハンカチだった。

 

 「ギ、ギーシュよ。錬金などで作れたりは……。」

 

 「ははは、友よ。すまないが無理だ。」

 

 くっ、ハンカチの癖に恐ろしくレアなアイテムだったようだ。ここは諦めよう。もしかしたら幻獣の毛で布を織ってるとかじゃなかろうか。ふむ。よく考えたらここはファンタジー。幻獣の毛で織る布があってもおかしくない。そしておあつらえ向きに今度アンリエッタ姫が来る時は最低でもグリフォンとユニコーンだかがいたはずだ。そこで手触りを確かめればカスティグリアでも作れるかもしれん。あとで思いつきメモにメモしておこう。

 

 「そうか。しかしそれは本当にすばらしい品だね。君が愛用するのもわかるよ。」

 

 「おお、わかってくれるかい? もはやこのハンカチは彼女の愛と共に手放せないものになってしまったよ。」

 

 ギーシュは薔薇を自称しているだけあって基本的に誰か一人と付き合うと言うのを忌避する傾向にある。しかしこの反応だとケティはかなりリードしているようだ。原作では食べ物だったと思うのだが、まさか刺繍もできるとは……ケティの能力は相当高いようだ。

 ああ、そういえばサイトとの決闘関連のこともついでに聞いておこう。

 

 「そういえばギーシュ、本題はそのハンカチの事だったのだがね。ついでと言ってはなんだが、俺と使い魔君との戦いは君の目にはどう映った?」

 

 と、紅茶に口をつけながら世間話でもするように気軽に聞いてみた。するとギーシュは先ほどまで浮かべていた照れたような顔から少し真面目な顔になり、見て考えたことを話し始めた。

 

 「ふむ。正直予想外だったよ。こう言ってはなんだが、キミだから初見で勝てたと言っても過言ではないと感じたよ。マルコとも話したが、もし僕が彼の相手でただの平民相手と決めつけてワルキューレを出していたら負けていたかもね。あのスピードに対してワルキューレ一体で反応できるとは思えない。最初から全力でアース・ハンドやブレッドで牽制しながら全てのワルキューレを出して囲むしかないだろうね。」

 

 「そうか。確かに速かったが、恐らく以前見せてもらったワルキューレだと同じ青銅製の剣で切断される可能性もある。使い魔君の能力は速さだけじゃない。あの加速度に耐えれる頑強さと、あの加速度を出せるパワー、そして俺の魔法の発動に反応した反射神経。彼の間合いに入っていたら負けていたのは俺かもしれないね。まぁそのための魔法なのだけどね。」

 

 そう言って、紅茶に口をつけ、少し間を空ける。

 

 「しかし、一番気になるところはだね。恐らく彼は戦いに関しては素人だよ。あのバケモノ染みた動きが出来たのはルーンの影響かもしれない。」

 

 ギーシュはそれを聞いて少し疑問を覚えたのだろう。

 

 「ふむ。しかし貴族のいない世界から来たのだとしたら平民でもあのような動きが出来てもおかしくないと考えたのだがね? 確かに使い魔にはルーンが刻まれ、特殊な能力を得ることがある。しかし少し突飛ではないかね?」

 

 と彼なりの考察を交えて恐らくなぜそう考えたのかを知りたいのだろう、彼にしては少し強い疑問を挟んだ言い回しをしてきた。確かに突飛かもしれない。しかし、真実だ。ガンダールヴや虚無といった名詞を出さずに上手く伝えられるか少し疑問が出てきた。

 

 「今朝起きたあとあの決闘のことを考えてみたのだよ。そして俺が負ける可能性が少しあったことに気付いた。」

 

 そこまで言ったときに、彼は眉をピクッと動かし動揺を隠すように紅茶に口をつけた。

 

 「俺はいつも大体どの程度相手に傷を負わせるか、どのように勝つか考えてから始めるのだがね。どうも今回の決闘に関しては俺の戦闘推移の想定に穴があったのだよ。そして、比較的簡単に思いつくその戦法を彼が選ばなかったのは恐らく彼が素人だからだと思う。もしあれだけの身体能力を持つ傭兵なら確実に使ってきただろうし、彼か俺が死んでいただろうね。」

 

 そして俺が朝思いついた「俺がサイトならどうしたか」という戦法を彼に伝えると、彼もサイトが素人ではないかという推論に納得したようだ。

 

 「つまり、まず彼が授業で見た程度しか魔法を知らないのは本当だろう。そして、彼が剣を手にした瞬間から光を放ち始めた左手の使い魔のルーン。戦う事を決めて彼が吼えたときに更に光を増したことから、武器を持つことと戦う意思が強くなった時に発生する身体強化型のルーンではないかと推測したのだけどね。そして、恐らくまだ彼は使い魔のルーンや戦いに慣れていないのだろう。どう見ても武器とは考えられない箒や丸めた羊皮紙などであの動きが出来るのかわかれば確信できるのだけど、難しいかもしれないね。」

 

 そう、閉めると、ギーシュは何か思いついたように、この推論を肯定した。

 

 「ああ、そういえば彼がルイズ嬢の折檻を避けようとしているときは、あのような身体能力を発揮できずに簡単に受けてるね。友よ。その推論は意外と的を得ているかもしれないよ。」

 

 あー、そういえばそうでしたね。わざと受けて愉しんでいるとも取れますが、ここで口にするのは憚られますなー。と、思いながら紅茶を楽しんでいるとシエスタが空になったギーシュのカップに紅茶を注ぎながら珍しく会話に入ってきた。

 

 「あの、クロア様。一つよろしいでしょうか。」

 

 「ん? ああ、構わないよ。ギーシュも構わないよね?」

 

 「ああ、シエスタ嬢。構わないとも。ぜひ気軽に話してくれたまえ。」

 

 二人で許可を出すと、シエスタは一度咳払いをしたあと

 

 「その……、サイトさんがミス・ヴァリエールの折檻を愉しんでいるという可能性はありませんか? そういう趣味の方がいらっしゃるという話を聞いたことがありますし。」

 

 と、少し顔を赤くしながらおずおずと話した。ごふっ、シ、シエスタさん? すごい言いづらいことを……。と、紅茶が変なところに入って咳き込んでいると、「だ、大丈夫ですか?」と言いながらシエスタは俺の背中をさすってくれた。

 

 「ふむ。確かにそれも一理ある。シエスタ嬢。よく気が付いてくれた。」

 

 と、真面目な顔でギーシュが検討し始めた。ギ、ギーシュよ。もしかして君もそうなのかい? 愉しんじゃうのかい? マルコだけかと思っていたよ。いや、この世界のマルコがそのような趣味を持っているかは不明だが、目覚める可能性はきっと秘めているだろう。

 

 ふむ。しかし、ギーシュにそういった趣味があったとしても、特に友として軽蔑するものでもないし、問題もなさそうだ。いやむしろ彼にとっては必須技能なのかもしれない。彼は自らを薔薇に例え、自分に惹かれる女性を蝶と呼び、全ての蝶に愛され、愛すことを信条としている。つまり、そういう趣味の女性が現れたとき、対応できないと彼にとって満足できないのではないだろうか。つまり相手が何を求めているのか、その心の奥深くに眠る他人には決して打ち明けることのできないような願望をそっと掬い上げ、相手を満足させることも彼の愛に含まれているに違いない。ううむ。さすが我が友ギーシュ。深い愛を目指しているのだな……。

 

 そして、結局ギーシュはマルコにも相談してしばらくサイトの観察してみることにしたそうだ。お昼の休憩時間が終わる頃になったので彼は授業に向うことになった。

 

 「ギーシュ、わざわざ来てくれてありがとう。また授業で会おう。」

 

 「構わないとも。友よ。また寄らせてもらうよ。」

 

 と笑顔で去って行った。さすがギーシュ。友人相手でもカッコイイ貴族様である。ギーシュを見送って忘れないうちにハンカチについてメモしておいた。

 

 

 

 

 

 そして午後、モンモランシーと一緒にクラウスが訪ねてきた。クラウスがここに来るのはかなり珍しい。恐らく決闘騒ぎの話だろう。

 

 「兄さん。久しぶりだね。モンモランシー嬢から起きたと聞いてね、兄さんには事後報告になるけど一応話しておこうと思って来たんだ。」

 

 シエスタが紅茶を用意してくれて、モンモランシーが俺の横に座り、クラウスが俺の前の椅子に座った。

 

 「兄さんの決闘騒ぎを聞いたときは驚いたよ。」

 

 と、クラウスは苦笑いをしながら話し始めた。決闘の日ちょうどクラウスはアルヴィーズの食堂にはおらず、寮で軽い食事を取りながら父上への手紙を書いていたそうだ。そして決闘騒ぎを彼の同じクラスの友人から聞いて駆けつけてみると、すでに決闘は終わっていた。俺は部屋に戻っており、ギーシュがサイトの治療の指揮を取っていたところだそうだ。

 

 ギーシュやマルコとは婚約式のときに交流があったため、忙しそうなギーシュではなく、マルコから話を聞いたらしい。決闘に関しては正当なもので、決闘の原因となったサイトはともかく、彼の主であるルイズ嬢とも和解しているとマルコから聞いたのだが、一応ルイズ嬢にも接触したらしい。

 

 彼女はむしろ迷惑をかけたと感じていたらしく、クラウスにも丁寧だったそうだ。しかし、サイトの状況はかなり危険で、水の秘薬が必要になると判断された。ちょうどクラウスは緊急の事態に備え学院に水の秘薬を持ち込んでいたため、彼はそれをルイズ嬢に提供することにしたらしい。そしてルイズ嬢は秘薬を買い取ると申し出たらしいが、クラウスも売るために申し出たわけではないので、結局話し合いの結果秘薬代の半分だけ受け取ることにしたらしい。

 

 しかし、クラウスよ。兄さんの決闘恐怖症か何かかい? 少々過剰反応ではないかね? カスティグリアの次期当主なのだからこう、ドーンと構えてだな……。って前回は内戦勃発寸前までいきましたな。一応事の経緯は父上に手紙で報告済みだそうだ。特に問題にはならなそうとのことだ。

 

 ふむ。クラウスが秘薬代の半分を持ったということはルイズ嬢がガンダールヴの専用武器であるデルフリンガーを手に出来る確率も上がったのだろうか。問題はまだありそうだが、とりあえずキュルケがサイトに惚れてアプローチを掛けてくれることを今は祈ろう。

 

 ん? デルフリンガーを売っているのはトリスタニアか。そういえば行った事がない。ルイズ嬢の好物であるクックベリーパイも食べてみたい。多分お酒飲めないしスープくらいしか食事もできないけど魅惑の妖精亭も是非見てみたい。モンモランシーとのデートも前回のアルヴィーズの食堂が初めてだ。ここはトリスタニアデートへお誘いするべきだろうか。しかし、遠い上に却下される可能性が高い。って俺お金全く持ってないな……。というかハルケギニアのお金を見たことがない。

 

 くっ、体のことがなくてもこれではスマートにエスコートできる自信が全くない。ここは手を引くべきか? いや、しかし、どうせだから一度は行ってみたい。デルフリンガーのことが無くても一度は行ってみたい。ううむ。何とかならないだろうか。

 

 「兄さん。また何か考えてるみたいだね? 相談があるなら乗るよ?」

 

 こっそりモンモランシーとのトリスタニアデートの計画を練っているとクラウスに突っ込まれた。しかし、ここでこっそり隣にいるモンモランシーとのデートに思いを馳せていましたというのはこう、兄としての威厳が保てない気がする。ふむ。真面目な話で聞きたいこと……。

 ああ、せっかくだからあの件に関する情報を仕入れておこう。

 

 「そうか。クラウス。突然で悪いが今のアルビオンの情勢はわかるか?」

 

 そう真面目な顔で聞いてみると、クラウスも真面目な顔になった。

 

 「うん。一応父さんからは聞いているけど、そろそろ終戦も近そうだよ。王党派はニューカッスル城に集結し始めているようだけど、もうまとまった規模とは言いづらいね。トリスタニアではいつ終戦になってもおかしくないけど遅くとも1ヶ月ほどで貴族派の勝利で終わると見られているみたいだ。」

 

 ふむ。まぁ原作通りか、確か最後は王党派勢力300名前後、貴族派勢力5万というわけのわからない数字になっていたはずだ。ぶっちゃけもっと早く決めらそうなものだが、次のトリステイン攻略への布石をモリモリ仕込んでいるのだろう。いや、原作のご都合主義という可能性も否定できないが……。

 

 しかし、5万か……、食料とか兵站線がどうなっているのか気になる。毎日5万人分の食事を用意するだけでも大変なのではなかろうか。トイレとかも長蛇の列に……ってフリーフォールなんですかね? ううむ。アルビオンのトイレ事情は少し気になる。アルビオンがいくら空に浮いているとはいえ、そのような爽快感溢れるトイレ事情だとしたらちょっとなんというか……。

 

 と、アルビオンのトイレ事情に思いを馳せていると、再びクラウスから真剣な声で話しかけられた。

 

 「やはり次はトリステインに来ると思う?」

 

 「うむ。その考えは変わらない。恐らく新政権を樹立した後、難癖を付けて強襲ラ・ロシェールかタルブ村への侵攻はあるだろう。かの艦隊がこちらに来る事を政治的に断るか、難癖をつけ始めた瞬間に戦争勃発を意識しておかないとかなり押し込まれるだろう。しかしな……。」

 

 しかし、本当の敵はぶっちゃけトリステインではなかろうか。原作での展開はツッコミ所が多すぎる。ルイズが虚無に目覚めていなかったらトリステインは滅亡していただろう。

 

 まず、王がいない。これに尽きる。恐らく今継承権を持っているのは王妃のマリアンヌと王女のアンリエッタ、そして公爵のヴァリエール公とその娘達だろう。つまりルイズも持っているのだが、誰も王位を継承しようとしていない。マザリーニ枢機卿は一体なにをやっているのだろうか。って彼にはそのような義務は本来ないのだったな。

 

 王がいないと決定権をもつ人間がいなくなるので、国としての対応ができなくなる。その辺りなんとかならないだろうか。ぶっちゃけ個人的にはヴァリエール公爵あたりがいいかなと思うのだが、彼もイマイチよくわからない人物なので何とも言えない。

 

 次にアルビオンの貴族派はトリステインにも浸透しているだろうことだ。確か原作ではかなり浸透していたはずだ。まぁ覚えているのはルイズ嬢の婚約者でありグリフォン隊隊長のジャン・ジャック・ド・ワルド子爵だけだが……。もしかしたらもっと名前が長かったかもしれない。

 

 「クラウス、今さらなのだがね。もしアルビオンの内戦が終わった場合、カスティグリアは独自に動けるのかね? トリスタニアのお話し合いを待っている暇はないと思うのだよ。」

 

 「その辺りはマザリーニ枢機卿がかなり動いているみたいだね。ただ、カスティグリアも独自にタルブやラ・ロシェールと交渉したよ。タルブ領主のアストン伯との交渉は今のところ順調みたいだね。ラ・ロシェールからは嫌味を言われて突っぱねられたみたいだよ。でもタルブだけでも部隊を置ける土地を租借できればかなり楽になるからね。タルブなら他の領地の上空を通ることなく海側から入れるからね。」

 

 ううむ。確かにそうだ。マザリーニ枢機卿も動いているのか。ならば問題ないのか? いや、原作にあったゲルマニアにアンリエッタ姫を嫁がせて不可侵条約と軍事同盟を結ぶという話だろうか。となると、トリステインごとゲルマニアに避難だろうか。まぁ個人的にはカスティグリアとモンモランシが守れればいいのだがね。

 

 「まぁ順調に準備が進んでいるなら問題ないか。むしろ俺一人で考えたところでどうしようもないな。クラウス、これは最近まで書いてた追加の資料だ。何かあったら聞きに来てくれ。」

 

 と言って、追加の資料をクラウスに渡した。

 

 「そうかい? この件に関しては兄さんも考えてくれると助かるんだけどね?」

 

 と、クラウスは苦笑いで資料を受け取った。

 

 

 

 

 

 




 書いててもグダグダっぷりが半端ないです。何度も消しては書いて削除ボタンにポインタが何度も向いました。
 ええ、なんか現実逃避気味に投稿しました。ぶっちゃけいらない話じゃね? 時計の針をゴリゴリ回した方がいいんじゃね? とか思いながら書きましたorz

 まぁなんといいますか、うーん、そう、次の案が浮かぶまでの休止期間だと思ってください;;


それでは次回おたのしみにー!

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