ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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おまたせしましたー。どぞー
後書きに追記を追加しました。


18 サイトとの決闘

 どうしてこうなった? 親友であり、掛けがえのない友であるギーシュのイベントをわくわくしながら楽しみにしていた罰だろうか。ふむ。そうかもしれない。それならばこの罰は甘んじて受けよう。そしてもし生き残れたらあのハンカチの手触りを確かめさせてもらおう。

 

 手触り次第では俺も欲しい。ケティオリジナルだとギーシュに頼むしかないが、もし既製品だったらたくさん買ってモンモランシーやシエスタ、それと家族にも送ろう。いや、お金出すのはカスティグリアか……。となると、ルーシア姉さんやクラウスに言った方が早そうだ。って考えが逸れたな。

 

 さて、サイトをどう倒すか。どう倒されるか。そのことを考えながらマルコに決闘の場であるヴェストリの広場へ運んでもらっている。できればサイトは殺さずに、できるだけ原作から乖離しないよう彼の評価を少しでも上げておきたい。

 

 しかし、基本的に俺は一撃貰っただけで死の淵を彷徨うだろう。この虚弱さだ。サイトが殺すのを忌避し、殴ろうが蹴ろうが剣の腹で撃とうが関係ない。それだけで当たり所は関係なく恐らく死ぬ可能性がある。こんなところで命を賭けるのは少々不満だがきっとこれは罰でもあるし、俺はカスティグリアの貴族だ。そこは我慢しよう。

 

 確か原作のサイトの戦い方はまず「喧嘩は先手必勝」とフライング気味に突っこんで、ギーシュのワルキューレにボコられ骨折箇所多数で立つのも難しくなったときにギーシュが剣を彼に進呈し、サイトがガンダールヴを発動してワルキューレを切り刻んだあと、ギーシュの顔面を蹴って転がった彼の近くの地面に剣を刺して降伏を迫る。といった感じだったはずだ。問題は蹴りだ。これで死ぬ可能性が今のところ一番高い。

 

 たしか、サイトの左手の甲に刻まれたルーンでもあるガンダールヴは「神の左手」や「神の盾」と呼ばれ、虚無の長い詠唱中、主を守るために与えられたもので、武器を持ってれば全ステータス大幅アップ&武器の使用方法が最適化され頭と体で完全に理解し、使いこなせるとかそんな感じだったと思う。この穴の抜けた原作知識では詳しいことはあまり覚えていない。とりあえず、武器に触れることと感情次第でどんな怪我を負っていようが戦闘能力が完全に人間離れするということだけわかっていればいいだろう。

 

 そんな人間離れしたガンダールヴ相手でも負けるつもりは毛頭ないが、偶然が重なり原作通りに進行し蹴り殺されるのは百歩譲って我慢しよう。我慢できないのはサイトが「殺つもりは全く無かったけど殺しちゃった」という状況で自己弁護に浸る可能性が高いことだ。どれだけ悔やもうがこれだけは許せない。

 

 こちらは殴られただけで死の淵を歩むのだ。どうせなら殺すつもりで殺してもらわないと割に合わない。やはり最初から剣をギーシュに作ってもらってサイトに渡し、ガンダールヴとして全力で戦ってもらうのが良いだろう。

 

 次に俺がサイトへの攻撃をどう行うかだ。まず突っこんでくるサイトを止める必要がある。ガンダールヴの能力で底上げされようがされまいが関係なく向こうの方がスピードもパワーも上だろう。初撃を止め、なおかつ殺さず、できれば後遺症を残さない方法。

 

 前回のように足を焼き尽くすのはダメだろう。骨折、軽い焼けど、キレイに切断、内臓にある程度までのダメージあたりまでなら医務室でも後遺症を残さず治せたはずだ。一応衣類からはみ出る首から上の焼けどには気をつけよう。焼けどの痕が残るかもしれない。

 

 あと骨折も骨が飛び出すような複雑骨折は感染症の恐れがある。水メイジが治せるか、対処できるかグレーゾーンなのでこの辺りも気をつけた方がいいかもしれない。とりあえず相手に与えるダメージの範囲は絞れた。あとは使える魔法をベースに考えるか。

 

 ファイアー・ウォールで進路を塞ぐ。突き破られたら意味がないし、回り込まれる可能性が高い。ファイアー・ウォールを連続で使用して囲んでもいいが、囲むと恐らく中が見えないのでやりすぎて酸欠どころか(いぶ)されてサイトの燻製(くんせい)になりかねん。

 

 ファイアー・ボールまたはフレイム・ボールで威嚇射撃。ギャラリーを巻き込む可能性がある。却下だな。

 

 ラ・フォイエを直撃させずに爆風で行動を制限。まぁこれが一番無難だな。ミスると一撃で死ぬだろうが恐らく立つ事すら困難な状況に持っていくにはいいかもしれん。

 

 ブレイドを延ばして四肢のどこかを切断。見た目がグロい以外は最高の手段だろう。一撃で何もかも決着するし出来るだけ焼けないよう上手く切ればあとでちゃんとくっつくはずだ。感染症や他の病気が後々出てくる可能性があるが一応候補に入れておこう。

 

 あとは―――発火か。彼が火達磨になる光景しか目に浮かばない。いや、誰かが止めに入れば一番軽傷……なのか? 不安が残る。やめておこう。

 

 大体の方針は決まったがやはり手段の少なさが痛いな。できればもっと簡単な、そう、エア・ハンマーやアース・ハンドのような非殺傷に向いている魔法が今切実に欲しい。相手を殺さずに無力化するには、ほぼ後遺症や傷跡を残してしまうのが火の系統の弱点かもしれない。コッパゲ先生なら体術や土系統で捕獲できるのだろうが、そもそもの身体能力が違いすぎる。

 

 「友よ。着いたよ。」

 

 というマルコの声で没頭していた思考の海から浮上する。空を見ると雲ひとつ無い快晴。まぶしい。ヴェストリの広場は日陰が多いのが唯一の救いだな。

 

 「ありがとう。友よ。」

 

 そうマルコにお礼をいい、降ろしてもらう。「構わないとも、友よ」と笑ってマルコはギャラリーに混ざっていった。この貧弱な体つきの俺を弱く見せないための彼なりの気遣いだろう。すでにギャラリーが集まっていて、俺はいつの間にか円の中にいる。見回すとマントの色から判断して一年生の割合が多いかもしれない。前回のアレが響いて二年生以上は見学辞退者が多かったのだろうか。

 

 ギーシュがこちらに来て、「大丈夫かい?」と真面目な顔で確認してきた。体調が悪そうなら自分がヤルつもりなのだろう。彼は友人思いのいいヤツだからそう考えてもおかしくない。しかし、今回は彼に渡すわけにはいかない。

 

 ここでギーシュに決闘を渡してしまい、原作とは違い、ギーシュが油断せず一方的に勝てば原作との乖離が大きくなる上にサイトとミス・ヴァリエールは更なる苦境に立たされるだろう。今俺の目の前にいるギーシュは原作のギーシュと違い、パフォーマンスだけでなくガチで勝ちに行きかねない。それはそれでまぁ見てみたい気もするのだが、今回は遠慮していただこう。

 

 そして、もし彼が原作通り油断して敗れた場合、サイトの貴族に対する態度は増長し、同じ事が何度も起きる可能性が出てくる。そして何度も起こしている間にそれにシエスタが巻き込まれる可能性もあるし、「ミス・ヴァリエールが使い魔をけしかけてる」などと噂されれば彼女の孤立化が深まる。

 

 今回の場合、恐らくサイトの貴族に対する嫌悪感は俺の方が大きいだろうし、調子に乗って後日俺にまで決闘を仕掛けてくる可能性もある。前回の俺の決闘を見ていた人間に、俺も担ぎだされるだろう。そして増長しているサイトは簡単に俺との決闘を受け、更に被害が大きくなる可能性が高いし、その後の修復は今回より困難なものになるだろう。

 

 ―――ならばもっと力を持ち、傲慢で性格の悪い貴族に彼が出会う前に、ここでちゃんと貴族やメイジの怖さ、不敬罪の怖さを教育してしまった方がいい。もしそのような出会いがあっても判断の糧になるだろうし、この後彼がむやみに貴族を馬鹿にして反感を買うことがなくなるかもしれない。

 

 それにもしかしたらミス・ヴァリエールに使い魔の教育や制御を真剣に考えてもらうことが出来るかもしれない。もし彼の心が折れず、素直にミス・ヴァリエールと向き合えばミス・ヴァリエールの良き使い魔としてハルケギニアを満喫できるはずだ。彼はきっとガンダールヴの能力だけはちゃんとあるはずだ。問題は彼の素行と言動、そしてこの世界に関する常識や知識が無く、それらを理解するつもりが無いことだろう。

 

 「ああ、大丈夫だよ。これでも二度目だしね。そう、ギーシュに頼みがあるんだ。決闘が始まる前に使い魔君へ剣を2~3本渡して欲しい。こちらは杖を使うからね。少しは公平にしたいんだ。」

 

 「そうかい? 無知な平民のために君を傷つけるための剣を作るのはいやなのだがね。君の頼みなら引き受けるとしよう。」

 

 ギーシュは頼まれた剣が「サイトのガンダールヴを発動させるため」という本当の理由は知らない。しかし、彼は別の理由で剣を作ることに葛藤し、友人である俺の頼みを聞き入れ引き受けてくれた。

 

 「本当にすまないね。友よ。恩に着るよ。」

 

 ああ、そういえば原作ではオールドオスマンとミスタ・コルベールが遠見の鏡でこの決闘を観戦してたんだっけ? 決闘を止めるために教師が眠りの鐘の使用許可を求めたが貴族の遊びに秘宝を使うなと止められたんだっけ? 確かに決闘が眠りの鐘で止められたという前例を聞いたことが無い。

 

 「来たようだね。諸君! 決闘だ!」

 

 と言ってギーシュが離れた。残念ながらまだ遠いようで判別が付かない。

 

 「来たぞ、キザなチビ貴族。」

 

 と、サイトが言ったのを皮切りに罵声が飛び交う。貴族の子女に囲まれていながら貴族を馬鹿にするとは、日本人の癖にエアーリーディングが出来ないのか? ヌケてるとかいうレベルじゃない気がするのだがね。あとギャラリーが(はや)し立てるのは毎回の事だがね。「ゼロのルイズの使い魔だ!」というのは辞めておいた方がよいと思うのだよ。もし万が一彼女が女王になったら本当にゼロって言った回数ご飯抜きにされてしまうよ?

 

 「ああ、よく来た。ギーシュに立会人を頼んだ。本来は無関係な第三者に頼むのだがね、君の知り合いも少なそうだし、俺も友人や知り合いは少ないんだ。すまないね。彼は立派な貴族だから公平に見届けてくれるよ。そこは安心してくれたまえ。

 俺は貴族だから杖を使うが、それじゃあ武器を持たない君にとって不公平だからね。彼が君の武器を作ってくれる。君が人生最後に握るかもしれない武器だ。今から君の人生を左右することになる“平民がせめて貴族に一矢報いるために磨いた牙”だ。恐らく剣か槍だが、どちらがいい? 青銅製になるとは思うがある程度なら希望を聞いてもらえると思うよ。」

 

 そう杖を引き抜きながら淡々と告げると、サイトはひるんだ。いつ彼に突撃されるかわからないので準備だけはしておこう。しかし、これで怯むくらいならもしかしたら説得がまだ可能かもしれない。

 

 「け、喧嘩に武器は必要ないだろ!? 素手で勝負に決まってるじゃねぇか!」

 

 「いや、ただの喧嘩ではないのだよ。使い魔君。決闘だと言ったろう? 貴族の名や名誉は命よりも重い。それゆえに貴族の名がかかったらお互いが和解するか、どちらかが折れない限り双方無傷では済まされない。そして俺が決闘で平民相手に折れることはカスティグリアの貴族として許されない。

 だから俺は出来るだけ回避しようとしたのだがね。君に貴族を馬鹿にしたことに対する謝罪の意思がなく、君がやる気ならしょうがない。もはや俺にとって君が平民だろうが貴族だろうが使い魔だろうが関係がないのだよ。俺はもう君を殺す覚悟と自分が死ぬ覚悟は決めている。まぁできるだけ手加減はするつもりだが、少しのミスで君か俺が死ぬだろうし、例え生き残ったとしても重度の後遺症が残るかもしれない。

 さぁ選びたまえよ。選ばないのであればこちらが決めてしまうよ?」

 

 そう真面目に平静に告げながら先に決闘の礼をする。恐らく隙を見せればすぐさまそこを突いてくるはずだ。選んでいるうちに決闘の様式美だけは終わらせておこう。

 

 「め、名誉だかなんだか知らねぇが命より重いわけねぇだろ!?」

 

 「ギーシュ、すまんね。彼は決められないようだ。剣2本に槍1本でいいだろう。彼の足元に頼む。」

 

 そう立会人であるギーシュに伝えると彼はうなずいて杖として使っている造花の薔薇を華麗に振りサイトの足元の地面に剣2本と槍1本を作り出し突き刺した。

 

 「それは君の無知な常識だろう? しかしね。君の名誉や意地が命より軽いというのならば、その場で跪いて額を地面につけて許しを請いたまえよ。それが道理だろう?

 だが、もしできないのであれば、君も同じように君の名誉や意地が命より重いというのであれば剣や槍を取りたまえ。」

 

 サイトは答えに窮したのかキョロキョロと周りを見回し始めた。飼い主に何かを訴えるつもりかね? 飼い主は「謝っちゃいなさいよバカ犬」って言うと思うよ。

 

 「君の飼い主でも探しているのかい? ただのじゃれ合いだと思ったらお互いの命のやり取りでビビってるのかい? まぁ俺は自慢ではないが虚弱だからね。そのじゃれ合いでも命のやり取りになるんだがね? さぁギャラリーも飽きてきたようだし、せっかく集まってくれたんだ。そろそろ始めよう。一歩でも動いたら死を覚悟したまえよ?」

 

 と杖を向けて詠唱するフリを始める。最初はラ・フォイエで吹き飛ばす予定なのでぶっちゃけ杖も詠唱もいらない。あ、どうせだからこっそり小声でブレイドの詠唱にしておこう。

 

 「やめなさい! サイト! クロアは本気よ! 謝っちゃいなさいよ!」

 

 と、言うミス・ヴァリエールの声が響いた。ちょっと止めるの遅くないですかね? すると、サイトは何かを決めたようで、彼の足元に刺さった剣を引き抜いた。武器を手にしたことで彼のガンダールヴのルーンが反応し、サイトの左手にほんのり光が灯る。

 

 「俺は元の世界にゃ帰れねぇ。ここで暮らすしかないんだろ?」

 

 「そうよ。それがどうしたの! 今は関係ないじゃない!」

 

 サイトがこちらを睨みつけながらつぶやき、ミス・ヴァリエールは何かを押さえ込むように両手を握りサイトに言い返す。

 

 「使い魔でいい。寝るのは床でもいい。飯はまずくたっていい。下着だって、洗ってやるよ。生きるためだ。しょうがねぇ。でも―――下げたくねぇ頭は下げられねぇ!!」

 

 そうサイトが吼えると左手の光が一気に溢れ、踏み出したと思ったら一瞬で加速した。

 なるほど、速い。以前俺に撃たれたファイアー・ボールと同じかそれ以上に速いだろう。人間として体が耐え切れるのか疑問の残る加速度だ。そして剣を振ったらさらに(はや)いのだろう。彼が俺を間合いに入れ、剣を振った瞬間に恐らく俺の死は確定する。だが、すまんね。普段はほとんど見えないこの赤い目でも今の君の姿はよく視える(・・・)。さて往こうか。

 

 わずか数瞬でお互いの距離を半分まで縮めたサイトをその間に放たれたラ・フォイエの爆風が襲う。ラ・フォイエの爆発の前兆であるキュィンという収束音に反応したのか、サイトは普通なら目で追うのが難しそうな速度で避けつつ剣での防御を選択し、目の前で腕と剣を交差させるが、残念ながら爆風の範囲からは逃れきれず、ドゴーンという炸裂音と共に生み出された爆風が彼を襲い横に吹き飛ぶ。

 

 ―――ああ、あれではギャラリーを巻き込んでしまうね。

 

 そんな事を考えながらギャラリーを巻き込まないよう、比較的小規模なラ・フォイエを何度も使い、彼の体を爆風で彼の元いた場所へ返す。

 

 キュィン、ドゴン! キュィン、ドゴン! キュィン、ドゴン! という収束音と炸裂音がヴェストリの広場を支配し続ける。

 

 オリジナルと違ってディレイが無いので出来る芸当だが、もはやこのラ・フォイエは原型を留めていない気がする。いや、今さらか。

 

 彼はところどころ焼け焦げては爆風で消される。足や腕、胴体とお構いなしに爆風に煽られたサイトは最初にギーシュが地面に刺した剣と槍から2mほどのところに転がった。足は折れ、ひざから曲がってはいけない方向に曲がっているし、両腕は関節がいくつか増えている。だが視たところ欠損は無いようだ。指もちゃんと揃っている。骨も露出していない。多分まだ治る範囲だろう。

 

 しかし、この感じだと内臓もかなり逝ったかもしれんね。咳き込むように血の塊と血の泡を吹いている。このままでは彼の時間切れが近いかもしれない。彼は仰向けで顔だけ横を向けて何度か咳き込みつつ激痛に呻いているので意識はあるだろうし、まだ生きてはいるだろう。一応即死しないよう、出来るだけ後遺症を残さないよう背骨や腰椎を含め重要器官への直撃は避けたし、首の周りやそこから上に範囲が入らないよう調整したので首から上だけは土で汚れているだけだ。それにしても恐ろしく頑丈だ。俺なら最初の一撃でブリミルに面会している自信がある。

 

 「生きているかい? 使い魔君。返事ができるかい? 命乞いはできるかい? それともトドメを刺されるのがお望みかな?」

 

 そう尋ねながらいつでも発動できるよう小声でブレイドの詠唱を繰り返す。発動せずに繰り返す。どこで巻き返してくるかわからないのがガンダールヴだ。油断はできない。さきほどまで握っていたギーシュの作ったキレイな青銅製の剣は柄以外もはやバラバラになりどこにあるかわからないが彼の2m先に予備があるから大丈夫だろう。

 

 「もうやめて! お願いだからもうやめてクロア!」

 

 ミス・ヴァリエールはそんな叫び声をあげつつサイトに駆け寄る。自分の使い魔の惨状を見て涙を流しているようだ。女性の涙を見るのは何度目だろうか。いやはや、彼女とはほとんど接点がないとはいえ辛いものがあるね。

 しかし、俺は何度も止めたのだけどね。本来君が止めるべき相手は君の使い魔なのだがね。まぁ彼女が代わりに俺の杖を治めてくれるのならこの際構わないか。

 

 「ミス・ヴァリエール。俺は彼に何度も警告し、思いとどまるよう何度も止めたのだけどね? 自分の使い魔なのだから君が彼を説得するべきだろう?

 そうだね。彼は返事をするのも辛そうだ。彼の代わりに彼の飼い主として君が謝罪をし、ちゃんと彼の手綱を握り、教育し面倒を看るというのであれば杖を引こう。誰が何と言おうと君はとても努力家で気高く可憐な、誇りあるトリステインの貴族だ。こんなことで同じ貴族の俺に跪く必要はない。ただ、理解して口頭で謝罪してくれればいい。君の言葉なら信じられる。」

 

 サイトの近くにミス・ヴァリエールがいるので杖先を彼女に向けないよう胸元まで引き寄せ、真面目に提案した。場合によっては彼女の反感を買い敵が増えるが、こちらは最初から努力を強いられているわけだし、何よりシエスタが俺のために作ってくれた今までにない奇跡のようにおいしいデザートがだな……。と、別の事を考えながらいきなりミス・ヴァリエールの爆発魔法が飛んでこないかビクビクして……いや、警戒していると、彼女はハンカチを取り出し自分の涙を拭いた。そして、真面目な顔をしてすっと立ち上がると、こちらに向き直り、彼女は誠実で意思の強そうな鳶色の目で俺の赤い目をまっすぐ見て

 

 「ミスタ・カスティグリア。この度は私の使い魔がご迷惑をおかけしました。まだ御せませんが努力いたしますのでご容赦ください。」

 

 と、貴族の顔をして言った。やはり彼女は気高い。

 

 「クロアで構わないとも、ミス・ヴァリエール。とても丁寧な謝罪をありがとう。謹んで受けさせてもらうよ。俺はまだ未熟だから君の使い魔に対してやりすぎてしまったかもしれない。本当にすまないね。

 彼はとても強く頑丈で速い。ただの平民とは思えないし、このようなことで死ぬのはもったいないくらい、とてもいい使い魔だね。頭は悪そうだけど、ちゃんと教育して向き合えば他に並び立つことのないほどいいパートナーになると思うよ。」

 

 と、杖を収めて彼女に伝えたところで少し足元がぐらついた。決闘の緊張が解けたのだろうか。

 

 「そう。ありがとう。私のこともルイズで構わないわ。」

 

 ミス・ヴァリエールは少し微笑んでルイズ呼びの許可をくれた。

 

 「ありがとう。これからはルイズと呼ばせていただくよ。」

 

 とこちらも少し微笑んでルイズと呼んでみた。

 

 

 「決闘は終わりだ。誰か医務室から水メイジを呼んでくれ。あとヒーリングを使える者はミス・ヴァリエールの使い魔に―――」

 

 とギーシュが決闘の終了を宣言し、サイトの治療の段取りを立てているところで聞こえる音が遠くなり、フラフラしてきた。今まで抑えられていた症状が一気にぶり返してきたような感覚。昨日まで続いていた症状がじわじわと体内を蝕み始めた。この感じだともしかしたら部屋まで戻れないかもしれない。こみ上げる嘔吐感がとても気持ち悪い。苛み始めた四肢の鈍痛と思考を邪魔する頭痛と熱がさらに拍車をかける。

 

 そういえば体調が悪くなったらプリシラからシエスタに伝えるよう約束していた。プリシラにシエスタへの伝言を頼んでフラフラと自分の部屋を目指す。数歩進んだところで爆風で沸き立った土ぼこりと焼けたような匂いの中、ふわっと香水の香りが俺を包んだ。

 

 「初めてのアルヴィーズの食堂デートが台無しになっちゃったわね。でも格好良かったわよ。」

 

 というモンモランシーの濡れたような声が届き。彼女が俺にこっそりレビテーションとヒーリングを掛けたのがわかった。何か気の効いたことを返したかったが、これから多分格好悪いところを見せることを考えると何も思い浮かばなかった。でも格好良かったって言われたの初めてかもしれない。ちょっと嬉しかった。

 

 そして、彼女は何気なくただの恋人のように、ただの婚約者のように俺の腕に自分の腕を絡めて何度かヒーリングをこっそりかけながら部屋まで送ってくれた。俺は彼女のおかげで倒れることなく、担がれることなく、情けないところを見せることなく決闘の勝者として部屋に戻る事ができた。

 

 「ありがとう。モンモランシー。愛しているよ。俺の生きた奇跡の宝石。」

 

 と自分の中で一番のお礼を彼女に告げると、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
サイト君の意思、関係ナシに決闘が終わってしまいましたね^^;

次ですか? ええ、まだ1文字も書いてませんよ。
ここでクロア君起きなかったendになりそうです。(爆

マジどうしよう。なんとかひねり出しております。


次回おたのしみにー!


してくれると何かいい案浮かぶかも(ぇ

追記:なんとなく思いついた案というか決闘を見た人たちの反応

サイト決闘後、貴族クロアに結構すごいと認められる
マルトー サイトやるじゃん? 賄い食う? 古いワイン開けるほどじゃねぇな
シエスタ サイトバカじゃん? なに邪魔してるの? 死ぬの?
メイドA サイト将来有望? 彼はシエスタ狙い? でもシエスタは。。。

ギーシュ 確かに速い でもクロアはもっとやばい
マルコ  か、勝てるかな? でもクロアはもっとやばい
モンモン 次邪魔したら殺す クロアが心配
クラウス 名にやってんのにいさん 治療費出した方がいいかな? ルイズに接触
ルーシア ジャックとマルコかわいい 決闘?どうでもいい

カスティグリア おk 今度はヴァリエールか。クルデンホルフよりは小さいな
モンモランシ  け、決闘したの?

ルイズ  貴族ってあんな感じなのねー 爆発で勝っちゃった! 強かった! 
キュルケ あれがタバサの言ってたオリジナル魔法? 欲しいかも? サイトも中々
タバサ  強い。戦力ほしい

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