最近友達の一色いろはがあざとくない件について 作:ぶーちゃん☆
渡航先生、長い間、大変お疲れ様でした。
最終巻、とてもとても最高のラストでした。素晴らしい作品で我々読者を楽しませてくださり、本当にありがとうございました。
さて、今まで読んで下さった読者様方、原作の思い付く限りの最高の終幕を受け、この物語も私なりの終幕を迎えたいと思います。
【注意】このお話は、つい先日発売されたばかりの最終巻のネタバレを含みます。
最終巻をまだ読んでいない方は、お引き返しくださいませm(__)m
華やかなダンスナンバーと煌びやかな装飾達に包まれて、どうせこれが最後だ! 我こそが本日の主役なりっ! と舞い踊る総武高校三年生一同。
そんな荒くれ者どもなパーリーピーポー達の影が、レーザービームの如きスポットライトとミラーボールから降り注ぐ光の中にゆらゆらと蠢く。そう、本日はついにお世話になった先輩方の晴れ舞台、プロムナードである。
本日を持って我が学舎を去ってゆく比企谷先輩を筆頭とする三年生方の最後の勇姿を、私家堀香織はちょちょぎれる涙をハンケチーフでつついと拭いつつ、優しく穏やかに目を細めるのだった。
え? なんで卒業すんのが八幡なのん? 誤字っちゃってない? って?
いやいやそうではありません。だって今日は、今はもう私もあとほんのちょっとで最上級生の仲間入りという春の一日なのだから。二年生の終わりを告げるプロムなのだから。
いやん! 唐突に刻がぶっ飛んで『──それから一年後』から始まる冒頭なんて、まるで打ち切り漫画の最終回みたいじゃない☆
だ、大丈夫! このぶっ飛んだ期間って、逆にこれから語りたい放題なんだから! ストーリーテラーたるこの香織ちゃんの気分次第で、如何様にも物語は続いてゆくのっ! ふはははは! 物語の続きを欲する者共よ! 我を崇めよ! 「香織ちゃーん! 今回も面白かったよー! 終わっちゃったからってお気に入り削除なんてしないし、なんなら評価10だってもりもり入れちゃうゾ☆」と我をおだてて我の気分を良くさせて、物語の続きを促すがよいわッ!
……ま、待ってェ! ひっさしぶりの出番に浮かれちゃって、ちょっと調子に乗っちゃっただけなのぉ! やめてください物を投げないでください罵声を浴びせないでください画面を消さないでください! ……ちっ、うっせーな、反省してまーす。
けふんけふん。
──今からおよそ一年前、プレプロムで盛り上がりすぎて調子に乗って、PTAから待ったが掛かり開催が危ぶまれたあのプロムもなんとか乗り切り、私達は無事二年生に……比企谷先輩達は無事三年生へと進級を果たした。
いや、アレは決して無事にとは言えなかったよね。比企谷先輩も雪ノ下先輩も由比ヶ浜先輩も。そして……私の友達一色いろはも。
あんなことやそんなこと、たかがストーリーテラーという名の覗き趣味の持ち主でしかないモブな脇役ヒロインの私には、到底想像も付かないような複雑怪奇な人間模様を乗り越えて、今、こうして彼ら彼女らはこの学校を巣立とうと……巣立たせようとしている。
『なんかさー、先輩と雪乃先輩、付き合う事にしたっぽいんだよねー。本人達は周りに気付かれてないとか思ってるみたいだけど、マジありえねーっつーの、あー、アホらし』
三年生を送り出すプロムにて終わりを告げるかと思われていた、あの出会いと別れの春の催しごと。しかし、そのプロムが閉幕したかと思いきや、返す刀でまた違うプロム──しかも海浜との合同プロムとやらをぶち上げだしたあの人達。いろはにそれを聞かされた時は、謎過ぎて「は?」を何度か連呼したまである。
まぁ当のいろはすも、それを聞かされた時「意味わかんない」を連呼したらしいけれど。
とにもかくにもそんな意味不明イベントの準備中な真っ最中、教室で仲良く駄弁ってた私達グループ員に向けて、突如そんな衝撃的セリフを鼻で笑いながらぽつりと溢し、また忙しそうにぱたぱたと仕事に戻って行った私の友達。
──え……? なに?─待って? マジかよあの唐変木があの唐変木と意思を疎通したのかよ。じゃ、じゃあいろはも由比ヶ浜先輩も爆死したってこと? うっそマジ?
いろはの去り際、そんな語彙力皆無で小並み感満載な思考に囚われてしまった私。いやさ私達。
いやほんとマジで、一体なにがどうなってんだかどうなってゆくんだか、いろはには聞きたいことが山ほどあった。
でも、あの衝撃的なセリフを鼻で笑いながら吐き捨てるだけ吐き捨てて、そのいきさつも内幕も一切つけず、そそくさと仕事に戻ってしまった時点で、このお話はもうこれでお仕舞い! と、言外で私達に伝えていたのだろう。
その予想通り、それ以来いろははその件について──自身の失恋について……、私達に何一つ語ってくることはなかったし、私達から聞くこともしなかった。あの子が語るのは、自身の色恋沙汰とは全く無縁の、今までとなんら変わり無いあの人たちとの面白可笑しくめんどくさい関わりのお話だけ。そしてそんな当たり障りのない話を、私達はただ聞いていた。
『そうやって、わざわざめんどくさいことやって、長い時間かけて、考えて、思い詰めて、しんどくなって、じたばたして、嫌になって、嫌いになって……それでようやく諦めがつくっていうか。それで清々したーって、お別れしたいじゃないですか』
──いつかの帰り道、いろはがあの先輩に向けて口にしたあの言葉。
その言葉通り、失恋(推定)した後のいろはは、生徒会長として一生懸命色々頑張っていた。もう比企谷先輩と結ばれることも叶わないというのに、それでもあの人達とあの場所を大切に思い、色んな行事を(副会長が)真面目にこなし、二期目の生徒会長もきっちり当選。めんどくさくて、思い詰めて、しんどくて、じたばたして……
そして今日、昨年の卒業式とは違い、二期目のベテラン生徒会長様らしく、涙を見せず堂々とした立ち居振舞いで先輩達を送り出した。もっとも、昨年の卒業式に見せた涙はヤラセ……演出だけどね!
今、こうしてプロムを進行している我らが生徒会長は、あの日のあの言葉通り、めんどくさくて思い詰めてしんどくてじたばたして、ちゃんと比企谷先輩を嫌になれたのかな……。嫌いになれたのかな……。諦められたのかな……。
……清々しくお別れする準備は出来たのかな──
『──香織せんぱ~い! これ終わったら余興始まりますので、BGM捌け次第会場のライト前消しして例のスポットライトよろしくでーす』
と、一年ほど前の思い出を振り返ってちょっぴりセンチめってた私の耳に、インカム越しに可愛い後輩からの確認が飛んできた。
その可愛らしくもあざとい声にはっと意識を戻した私は、少しだけずきりとした胸の痛みを振り払い、何事もなかったかのように元気にこうお返事をするのでした。
「──かしこま☆」
……ええ、わかってますよ。もうかしこまはオタ界隈では終わってるコンテンツなんだって事くらい!
そ、そんなことないもん! 今MXで再放送してるから現役バリバリだもん! (涙目)
でもね、私には界隈のブームとか覇権とか、そういうのはどうだっていいのさ! いろはが永遠のかしこガールなら、私は永久不滅のかしこまガール! 世間で廃れようが忘れ去られようが、好きなものは好きなんだと、どんっと胸を張って好きを貫いていきたい! それが立派なオタ道ってもんじゃーい!
あ、いや、私オタとかじゃないんですけど!
「──小町ちゃんもばっちしのタイミングで音出しよろー」
『──かしこまち☆』
私達ズッ友だよ!? と心の中でらぁらに横ピースを向けつつ、今やすっかり仲良しになった比企谷さんちの小町ちゃんにそう確認を返すと、小町ちゃんも可愛くお返事を返してくれました。やだんこの子ったら可愛い♡
今年のプロムは、昨年のプロムの大成功体験もあってか、お手伝いを買って出てくれる有志には事欠かなかったらしい。なので人手満載期日楽勝ガハハハハ。去年はほんと大変みたいだったからね。特に合同の方。
そんな中、今や奉仕部部長である小町ちゃんや、いろはグループメンバーでもある私達ももちろん有志に参加している。
私は照明まわりを。小町ちゃんは音響まわりを。書記ちゃんこと新副会長ちゃんは全体の統括を。そのほか下っ端ども(エリエリとかエリエリとかその辺)は受付だのケータリングまわりだの雑用だのを割り振られ、去年は超大変だったらしい生徒会長様は、今年はMCに集中してる。
去年コスパ優良選手な割になかなかウケが良かったらしいスライドショー(BGM 小田和正大先生の例のアレ☆)にて幕を開けた本イベントは、参加者様方思い思いのご歓談を挟み、そしてメインイベントダンスタイム。
きらびやかなドレス、ピシッと決めたタキシードで着飾った卒業生達が、舞えや歌えの大騒ぎを楽しむ中つつがなく会は進行していき、そして今、小町ちゃんからの連絡通り、ダンスタイムとダンスタイムの合間に行うちょっとした余興のお時間となった──。
『──香織、そろそろ行くよー?』
「──かしこま☆」
インカムから聞こえてきた、舞台袖でスタンバるいろはの声。かしこガールにかしこまガールが元気よく応答した。
『──お米ちゃん、準備おっけー?』
『──あいあいさー!』
次にいろはは小町ちゃんに確認をとる。
この二人、初顔合わせの一瞬こそ若干の同族嫌悪でモメかけたらしいけど、今やお互い遠慮なしに物を言い合える仲良し姉妹のようである。今さらだけどお米ちゃんてなんだよ。
『──よし、んじゃ書記ちゃん、始めるよー』
『──了解しましたー。でももう書記ちゃんじゃないからね、いろはちゃん……』
─そして最後に全体の統括をしている書記ちゃんこと新副会長ちゃんにいろはがゴーサインを出し、書記ちゃんこた新副会長ちゃんが私はもう書記ちゃんじゃなくて新副会長ちゃんだからね、と悲痛な声で念を押した。なにこれややこしい。
「ご来場の皆さま方、それではここで、一時の余興をお楽しみください」
定番のダンスナンバーがフェードアウトし、一瞬の暗転。書記ちゃ……藤沢ちゃんのアナウンスが場内に響き渡り、そして私は、この余興の為だけの特別なスポットライトで舞台を煌々と照らすのだ。
さぁ、狂喜と狂気のフェスティバルの始まりだぜ! あそれ、ぽちっとな。
× × ×
ダンスダンスでウェイウェイウェイのノリ感満載な赤、青、黄色が輝く原色色彩が溢れていた会場から一転、私がぽちった照明から降り注ぐ光は、クラブもかくやという程アゲアゲ空間だったこのパーリー会場には不釣り合いの、春の日差しのような穏やかな暖色。真っ暗な会場にぽっかり浮かんだ舞台は、暖かな優しい光に包まれた。
と同時に、激しかった重低音が消え失せた会場に響くのは、皆の身体を──心を優しく満たしてくれるようなメロウでエンダァァな名曲の数々。
事前告知してあるとはいえ……タイムテーブルに記載されているとはいえ……、先ほどまで本能の赴くままに踊り狂っていた来客達は、この雰囲気のあまりの変わりように一気に静けさを取り戻し、皆一様に舞台の上に立つ一色いろはに期待の眼差しを向けた、
「みなさん注目でーす。お待ちかね、余興タイムがやって参りました! 実は去年もコレやりたかったんですけど、PTAやらなにやらお偉方の目が厳しくて開催出来なかったので、安心と信頼の実績を得て若干緩くなった今年はこっそり開催しちゃいます」
「「「ウェーーイ!」」」
「こっそり開催という手前、混乱を招いてしまうとわたしの立場的にちょっとやばいんで、こっそり配った事前募集にて厳選なる抽選の結果選ばれた方々だけの参加となる事をご了承くださーい」
「「「はーい!」」」
「ではではいっちゃいましょー! …………公開告白タイム、です♪」
「「「おぉぉ!」」」
MC回しで盛り上げに盛り上げ、最後のセリフだけ、ばちこん☆とウインクを交えて密やかにあざとく宣言する一色生徒会長に、会場のボルテージは最高潮。
そう。本場のプロムなんかでは定番のイベントらしいこの公開告白イベント。しかし残念ながら、去年は開催を諦めた、らしい。なぜなら、いろはの言う通りPTAのザマス共が五月蝿かったからである。
しかし今年は去年の実績がある分、保護者の方々の目が前回のように光っていない。それすなわち、自主性を重んじる我が校の校風上、ある程度は生徒達に責任を委ねられるという事。もちろん、あくまでも学生モラルの範囲内で、との注釈付きでね!
そして、こうしてお偉方うるさ方の目が届かない隙が出来た今回のプロム。ついに総武高校創立以来、初のふしだらイベントが開催される運びとなったのである! ……え? せっかくそれなりの信頼を勝ち得たってのに、こっそりふしだらイベントやっちゃうとか大丈夫なのん?
──ん、んー、それにしても……、あ、あれ? なんだっけ? なんか私、一年くらい前にこの公開告白イベントとやらに、なにかしら思うトコなかったっけ……?
なんかこう、胸がざわざわするんだけど……
「それでは一人目の参加者さん、どうぞ!」
と、なんだかわからない不安にドキがムネムネしていると、そんな私の不安をよそに、いろはに促された一人目の挑戦者が舞台上へと!
……ん? あ、あれは!
「……え、えー、三年B組、大和です」
って誰!? いやいや、私あの人ぎりぎり知ってるよ? 由比ヶ浜先輩のグループの人でしょ?
なんでよりによって貴重な一発目にあのモブパイセンなのん?
「えっと……ゆ、由比ヶ浜結衣さん!」
「え!? あ、あたし!?」
「結衣! 実は俺、ずっとお前と二人でスクラム組みたいと思ってたんだ! 俺にお前をジャッカルさせてくれ! 二人でワンチーム──」「ごめん無理」
「ぐはっ」
即断だった。食い気味どころかセリフ遮っちゃったよ。
なんで大和パイセンなのかと思ってたら、せっかくのラガーマン設定が生きるのが正に今! ここだけ! だったからかよ。
……ふ、ふぅ、さて、次、次っと!
「やー、残念でしたねー。ではでは次の方、どうぞー」
全然残念そうじゃない、なんなら半笑いのいろはに促され、次に舞台に上がったのは……!?
「ど、ども、三Dの戸部翔っす……」
戸部先輩キター!
これもうやる前から負けフラグびんびんじゃないですかやだー。てか、大和パイセンに続いて戸部先輩とか、これほんとに厳選なる抽選したの?
「え、えーと……、……っべー、超緊張しまくりなんだけど……! え、えと、海老名、姫菜さん!」
「……うん」
「ず、ずっと前から好きでした! 付き合ってください!」「ごめんなさい」
「ぐはっ」
これまた即断だった。あれ? このイベント大丈夫? 盛り上がる気配がないんですが。違う意味ではめっちゃ盛り上がってるけどね!
……いや、まだだ、まだ終わらんよ! さ、さて、次、次っと……!
「やー、残念でしたねー。ではでは次の方、どうぞー」
と、全然残念そうじゃない、なんなら半笑いのいろはに促されて、懲りずに次の挑戦者が!
「……え、えっと、三年G組、海老名姫菜です」
……なん、だと? 今戸部先輩を振ったばかりの海老名先輩が、てれってれに照れた様子で舞台に上がった、だと?
っべー! 今まさにとぼとぼと舞台から下りようとしていた戸部先輩の呼吸がやばい。
にしても、これ完璧に厳選なる抽選(笑)だわ。主催者側の独断と偏見にまみれすぎじゃないかしら!
「え、えと、……ひ、比企谷、八幡……くん」
「は?」「は?」「は?」「は?」
おっと、ここでまさかの比企谷先輩だー! なんか会場のそこかしこから低~い「は?」が聞こえてきましたよ?
あれは呼ばれた本人と雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩とマイク越しのいろはの声だね! お前もか。
そ、それにしても、まさか海老名先輩までもが比企谷推しだったなんて超意外! これは面白くなってきた! 一体どんな告白すんの!? やっばい、超気になるー!
「ヒキタニくん! もし良かったら………、…………は、隼人くんと夜のスクラムを組んでワンチームを超えたワンボディーにブハァ!」「勘弁してくれ……」「勘弁してくれ……」
……気にならなきゃ良かったよ! この公開告白イベント、もうダメかもわからんね(白目)
× × ×
鮮血に染まる舞台と、阿鼻叫喚なBL被害者二人の叫び。
これはもう、このままカオスな大失敗に終わるかと思われたこのイベント。しかしながら、最初の出オチ三人衆以降の参加者達は存外真面目なノリで、もちろん失敗もあったけどカップル成立大成功もあったりと、最終的にはなかなか盛り上がったイベントでした♪
……ヘッ、こういうノリだけの告白で誕生したカップルって、一夏の恋くらい儚く終わんのよね! 精々今のうちだけ喜んでればいいんじゃない!?
べ、別に羨ましくて妬ましいから悪態吐いてるわけじゃないんだからね!?
『──やー、一時はどうなるかと思いましたけど、なかなか盛り上がりましたねー』
誕生したカップル共のあまりのはしゃぎように、思わず一年前に離別した平塚先生ばりの呪怨を周囲に振り撒いていると、不意にインカムから小町ちゃんの声が。
『──でもああいうのって長持ちしなさそうですよねー』
そしたらこっちからも黒い波動が!
まぁ小町ちゃんの場合、平塚思考じゃなくて腹黒いろは思考の率直な感想なんだろうけども。率直な感想でコレだから酷い。
「──それね! どうせ後々ノリに負けた自分を殺したくなんだから、ほんと早く別れればいいのに」
『──……うわぁ、なんかお兄ちゃんと話してるみたい』
せっかく乗ってあげたのに、なんか全力で引かれました。解せん。
『──まぁ香織先輩の残念さは今更なんでいいとして』
どうも。可愛い後輩に軽く流されるくらい残念さに定評のある、わたくし家堀香織と申します☆残念じゃないやい!
『──確か今告って振られそうな人が最後の人手ですよね』
「──そうだね。この今にも振られそうな人が二十人目だから、これでラストだね」
『──ですよねー。じゃあこの人が振られたら、またダンスタイム再開になるんで、照明の方お願いでーす』
「──かしこま☆」
『──あ、あはは……』
普通に会話してただけだけど、なんか酷いやりとりだった。いつから聞いてたかわかんないけど、藤沢ちゃん完全にドン引き笑いしてるし。
てか藤沢ちゃんさー、ちょっと彼氏居るからって、なんかその小馬鹿にした笑い方、ちょっと上から目線なんじゃないかしらー? とっとと牧人くん(笑)と爆発しちゃいなYo!
「やー、残念でしたねー。ではでは次の方、どうぞー」
そして、もはや恒例になりつつある定型文を持ってして、ついに予定されていた二十人分の告白タイムが終了したのである。やっぱし振られちゃったのね。
―…って、あれ?
「──え?」『──え?』『──え?』
あれ? いろは今なんつった? 次の方どうぞ? やば、あいつ勘違いしちゃってない?
『──あ、いろは先輩マズくないですか……? 今の人で終わりなのに、進行間違えちゃってますよ……?』
『──ど、どうしよ、いろはちゃん今インカム着けてないから伝えられないよ……』
私と同じく、いろはの進行間違いに慌てふためく裏方二人。これはマズい。なにがマズいってまじマズい。
せっかく盛り上ってたイベントでさらなる参加者の紹介。これは、会場中がいやが上にもさらに盛り上がってしまう。
それなのにここでのこのミスは、大惨事とまではいかないまでも、会場のせっかくの熱に水を差してしまいかねないのだ。
「──見えるかわかんないけど、とりあえず私が上から合図送ってみるわ。最悪一回暗転させちゃうし」
となれば、一時でも早い火消しが必要である。照明係の私は、めっちゃ遠いし上階ではあるけれど、言うなればいろはから真正面に位置している。ぐるぐると手を回して巻きの合図を送ってやれば、あいつ気付いてくれるかもしんない!
「……え?」
そう思った。そう思ってたよ。次の瞬間、舞台の真ん中に立ついろはの姿を、こうしてまじまじと見るまでは、ね。
──呼び込まれたはずの参加者は、なかなか登場しようとしない。ボルテージ最高潮の来客達は、次第にその喧騒を鎮め始め、どうした事かとMCに視線を集める。
すると、今や会場中の注目の的となった主演女優一色いろはは、両手でマイクをそっと握り締め、静かに……ただ静かに瞑目していた。
しん、と静まり返る会場。誰も彼もが、この異様な光景に、ただ息を飲む。
「……それでは、公開告白タイム、最後の参加者となります──」
言って、いろははゆっくりと瞳を開けてゆく。まるで、会場中が静けさを取り戻すのを待っていたかのように……、会場中の視線が、自身に集まるのを待っていたかのように……
──ああ、私、すっかり忘れてたよ。……私の友達は、一色いろはだったということを。
めんどくさいことやって、思い詰めて、しんどくなって、じたばたして。
そして、嫌になれたかな、嫌いになれたかな、清々しくお別れする準備は出来たのかな、だって?
アホか私は。どんだけあの傲慢で傲岸で豪胆で豪傑なクズ女と付き合ってきたんだよ。あの女が、あのいろはが、そんな生易しいタマなわけないだろが。
そう気付けたから、気付くことが出来たから、私は手を回す事も暗転させることもせず、今からやらかしてしまう大切な友達を真っ直ぐに照らそう。春の日差しのような、暖かな優しい暖色のスポットライトで。
──真っ暗な会場にぽっかり浮かんだ舞台上で、ゆっくりと瞳を開けたいろは。その顔には、これからとんでもない事をやらかしてしまうとは到底思えない、そんな穏やかな微笑をたたえて。
そして彼女は、とても……とても優しい声音で、囁くようにこう紡ぐのだった──
「……最後の参加者、二年F組、一色いろはです」
続く
ついに次回がラストとなります。
もうこんなSSは忘れ去られているかも知れませんが、なんとか今年中には仕上げたいと思いますので、もしよろしければ最後までお付き合い頂けたら幸いです。