最近友達の一色いろはがあざとくない件について 作:ぶーちゃん☆
一年ぶりの投稿ですありがとうございます。
このお話は最新13巻を読んでいる事が前提となっております!
読んでない方は回れ右ッ!
「くあ〜……ッ」
軋む身体をのび〜っと延ばすと、なんともいえない爽快感が脳と全身をこしょこしょくすぐる。ん〜、か、い、か、ん☆
いつのまにやら日も暮れて、昇降口を出るとそこはすっかり夜景色。もう学年末だと言うのに、今日も今日とて我が部活の拘束時間のあまりの長さに、やはりブラックな企業かどうかは入社する前にきちんとリサーチしておくことが大事だと思いました(小並み感)
「チッ、今度の卒業式に部長も卒業しちゃえばいいのにぃ!」
と、冒頭から元気いっぱいぶちぶち恨み言を呟いていると、なんたるグッドタイミングか、前方にいろはすはっけーん! 亜麻色の髪とチェックのスカートをふわりなびかせて、なんかとてとてっと走ってんぞあいつ。そんな短いスカートでそんなに走ったらパンツ見えちゃうぞー。
駐輪場に向けて、どうやら誰かを追い掛けているらしい一色いろは。我らが生徒会長様がご所望の背中とは、果たしてどこの誰の背中なのやら。まぁ駐輪場に向かってる時点でその誰かさんの名前は一択ですけどもね!
おやおや? これは早くも私の天命のお時間かな? スタートからクライマックス、だと……? まだ冒頭も冒頭だよ? やはり神は私に休息の時間を与えてはくれぬというのかッ……!
「お」
するといろは、駐輪場から校門へと気だるそうに歩いてる背中を発見した模様です。駐輪場から出て来たのに歩いてるとか、愛車はどしたのん? チャリパクでもされたのかな? 目も腐ってるし。あ、それはいつものことか。
そんな腐り目のプリンス様、比企谷八幡先輩を発見したいろは。ぐいーんと方向転換して奴の懐に真っ直ぐ走る。
王子様も自分のもとへ向かってくるプリンセスの姿に気付いたらしく、彼女の到着を今か今かと待っていると、プリンセスってば迷わず彼の横っ腹にいろはすパーンチ!
胸に飛び込むんじゃなくて殴っちゃうのかよ。うちのプリンセス荒ぶりすぎだろ。お城の外に出してもらえないからって、自室の壁を蹴破ってお外に遊びに行っちゃうアリーナ姫も真っ青のおてんばっぷりだね!
おや? 「なにイチャイチャしてやがんだクソがっ!」と、ぺぺっと砂糖を吐き出しながら生暖かい目で見てたんだけど、どうやらそんなにスウィートな空間でもないようであります。
いろはのやつ、フニャーっ! と猫パンチを繰り出したあとは、呆れたような怒ったような不満たらたらの顔で奴と一言二言だけ交わすと、腐り目王子を置き去りにすたこらさっさと歩いていってしまった。その速度たるや、いろはすオチから裸足で逃げ出す香織&エリエリコンビの如し。つまりバリ早。
そんなプリンセスの迅速な背中を申し訳なさそうに追っているプリンスの姿は、なんとも痴話喧嘩じみていて。
なんつーの? むくれた彼女のご機嫌を窺うダメ彼氏の装いっての? なんだよ結局砂糖吐かなきゃなんないのかよ。ぺっぺっ。
んー、なんかあったのかしらん。
──あのプレプロムのあと、順調に進行していると思われていたプロムは、突如まさかの暗礁に乗り上げてしまった。らしい。
まぁいろはから聞いた程度の知識しかないからよく知らないんだけど、やっぱりあの時の軽く乱れた感じの写真をインスタ映えさせた連中がいいねいいねと相互クラスタしまくった挙げ句、それを見た一部の保護者から待ったがかかったらしいのだ。ったく、これだからインスタ映えのことだけ考えて生きてる連中はよぉ……
つか香織さんや、あんただって一応はイマドキJKなんだから、少しは映えとかいいねに興味持ちなさいな? いやいやなにをおっしゃいますやら香織さん。私だっていいねに関心ありまくりよっちゅーねん。但し私の興味が向いてるいいねは、インスタとかじゃなくってようつべアニソン踊ってみた動画のいいね数だけど! 目指せ、ヒカキン生活! 香織チャンネル登録してねっ♪
おっと、そんなヤクザな商売の夢を二人(香織同士)で語らい合ってる場合ではなかったわ? そんなペアレンツの窓口役として学校に乗り込んできたのが、あの雪ノ下姉妹のお母たまだというからさぁ大変! あの姉妹の母親とか、大魔王倒したあとの裏ボスかよって話よね☆(吐血)
いろはも必死に応戦したらしいんだけど敢えなく撃沈。すっかりお通夜モードだったのだとか。
んで、その際に魔王母娘からの初見殺しコンボでボロ雑巾と化した奉仕部一同とはっちゃけ生徒会長様。特に比企谷先輩のダメージが半端なかったらしく、それから数日間、比企谷先輩ってば雪ノ下先輩といろはの前に姿を現してないみたい。
そんなこんなな状況が今日まで続いていたにも関わらず、突如こうして目の前で痴話喧嘩を繰り広げてるっていうね。こんなの、神に覗き見の天命を与えられた香織ちゃんが気にならないわけがないじゃないか!
てなわけで、すたすた歩いていってしまった二人をこっそり尾行いたしましょうか♪ いやいやちげーし。尾行じゃねーし。
二人は駅方面に向かってるし、当然私だって帰宅の為に駅に向かわねばならないのよ。
つまりこれは世間様から後ろゆび指されるような疾しい尾行などではなく、たまたま偶然目的地が同じだから、あたかも後ろを尾行してるように見えるだけなのである。見えるだけなのであーる。大事なことなので二回言っておきました。
言い訳も済んだことだし、よっし、Let's尾行たーいむ!
× × ×
学校から駅方面へ向けて歩くことしばし。相も変わらずいろははぷんすかぷんすか先を歩き、比企谷先輩はそんないろはに置いてかれまいと、一向に縮まらない距離を必死に追い続けていた。なんだあれ、まるで浮気がバレて愛想尽かされて、謝ろうと必死にご機嫌窺う間男じゃん。
このまま無言で駅までランデブーしちゃうのかと思っていたら、唐突にいろはが立ち止まった。駅まであとほんの少しの、小さな小さな公園の脇の小道で。
そしていろははかくっと肩を落として溜め息を吐き出したかと思うと、公園脇に設置された夜の闇に浮かび上がる自販機をびしっと指差した。どうやらジュースを奢れという無言の圧力らしい。ふむ、なにを怒ってんのかしらないけど、許してあげたくてもどこで折れてあげればいいのかきっかけが無いから、ジュース奢ってくれんなら許してやんよっ、てのが落としどころってヤツなのかもね。
そんないろはの思惑を察したのか、比企谷先輩ってばやれやれと嘆息しながらも、なんだかほんのり嬉しそうでやんの。ヤツは二本のジュースを購入して、好きな方をどうぞと両手を差し出す。そしてプリンセスは、プリンスの左手から花束ならぬ小さめの缶を不満げに受け取った。
……しかしいかんせん、私とヤツラの間にはまだまだ距離がある。普段の尾こ……盗み聞……ぐ、偶然の立ち聞きの時は、人混みに紛れたり物陰に隠れたりと上手く周りの景色と同化する香織ちゃんではありますが、残念ながらここには我が身を紛れさせる人も物陰もないんですよ! なにせいろはが自販機を背にしゃがみこんで缶ジュースを飲みはじめちゃったもんだから、近付いた瞬間に自販機から眩しく漏れるスポットライトに照らされてバレバレまである。
つまり、今二人がなにを飲んでいるのかも、今しがた始まったばかりの会話内容さえも私には分からない。やれやれ、こんなんじゃキキミミスト失格じゃよ。
ふむぅ……、なんたる失態か。自販機の前ではすでにめくるめく夫婦漫才が繰り広げられているというのに、覗きの天命を背負った私は未だまごまごしてるというていたらくである。
ダメよ香織っ! こんなんじゃ私に天命を与えて下さった神様にちょきんとリストラされちゃうじゃない! かしこまの時代が終わっちゃったからって、私もうクビなのん? 私の出番もう終わりなのん? ふぇぇ……この業界ブラックすぎんよ(白目)
しかし、まだだ、まだ終わらせんよ! とばかりに、なんとか聞き耳立てなきゃと一旦裏に回ってから公園に侵入し、自販機の裏にカサカサ近付いてゆく私。花の美少女女子高生が真夏の夜の黒いアイツもかくやってほどにまで身をやつし、多くの方々に夫婦漫才をご提供できるよう体を張って頑張るなんて、なんとも泣けるじゃありませんか。この作品は、涙無しには語れない感動の物語です。
そして、そんな感動物語にさらなる花を添えてやろうと、自販機越しに聞き耳を立てた私の鼓膜を揺らしたのは、私の友達の口から発っせられた衝撃の一言だったのです。
「わたし、こう見えて友達いないじゃないですか」
──いやん! 私の友達()一色いろはに友達と認識されていなかった件について☆
× × ×
お、おうふ、き、気を確かに香織……! な、なんかこう、友達と思ってたのは自分だけだったみたいダヨっ? が発覚した時の脱力感てのは半端ないものがあるよね!
な、泣いてなんかねーし。
「お前は自分がどう見えているんだ……」
「むっ」
「どうぞ続けて」
そして比企谷先輩も比企谷先輩である。あんた「わたしの友達です」って私を紹介されただろうが。そこは家堀達が居んだろ……ってフォローしなさいよぅ!
しかし私とてプロのキキミミスト。比企谷先輩のプロぼっちにも決してひけは取らない由緒あるジョブなのである。
たとえショッキングな事態に陥ろうとも、公私混同で仕事に穴を空けるなんて一流のプロとして愚の極み。ここは涙をぐいっと拭って職務に邁進しようではないか。へ、へんっ、お前なんか友達じゃないやい! (涙目)
「先輩たちだけです。だから、先輩も雪乃先輩も結衣先輩も葉山先輩も……ついでに戸部先輩とかのその他大勢もちゃんと送りだしたいんです」
するといろは、先程までのおちゃらけた雰囲気とは一変、とても優しい声音で想いをそう紡いだ。生憎彼女は自販機を背に腰を下ろしているから、陰に隠れている私にはその表情までは窺えないけれど。
でもその顔がどんな顔してるのかは容易に想像できるよ。いつものあざとい笑顔はどこへやら、とっても自然で優しい眼差しを比企谷先輩へ真っ直ぐ向けてるんでしょ?
ここまでの話の流れが分からないから単なる憶測でしかないけれど、たぶん比企谷先輩は「なぜそんなにプロムがやりたいのか、なぜそんなにプロムにこだわるのか」という質問でも投げ掛けたのだろう。そりゃ疑問に感じるのも無理ないよね。三年生とはそんなに関わりを持たないいろはが、ここまで反対されても、ここまで難儀な目に合っても、未だ折れずに絶対遣り遂げようと頑張ってるんだもん。
そしてその解答が「先輩たちをちゃんと送りだしたいから」なんだ。送りだしたいのは現三年じゃなくって、来年の三年生。つまりあなたたちなんですよ、って。
うん、やっぱりそうだったんだ。城廻元生徒会長達には申し訳ないけど、本年度のプロムは、いろはにとっては来年度のプロムの為の布石なんだね。
来年のプロムを確実に開催する為に……自分が一番送りだしたい大切な先輩方を自分の手できちんと送りだす為に……一年後の未来の為に“今”を頑張ってるんだ。
そんな温かな想いを、思いもよらず強引に受け止めさせられた比企谷先輩。可愛い後輩のその想いにどう応えるのやら、と思って聞いていたら──
「ははぁん、さてはお前いい奴だな?」
と、おちゃらけた返しでお茶を濁しましたよ?
うむうむ、気持ちは分かるぞよ、比企谷くん。そうでも言わないと、つい目頭が熱くなっちゃいそうなんだろう?
普段生意気でクズい後輩が不意に見せる真っ直ぐな優しさ。これはズルい。もはや卑怯ってレベル。ふふ、あんたの後輩は最強だろっ?
「わたしが後悔しないためにですよ。わたしのためです。別に先輩のためじゃないです」
そしてそんなおちゃらけに返す答えもまた、比企谷先輩に負けず劣らずの捻くれっぷりである。あくまでも自分の為だと宣ういろはって、どことなく比企谷先輩に似てるよね。ホントどっちも素直じゃなくてめんどくさい。
さてはいい奴だな? とからかわれて「あんたの為じゃないんだからね!?」とか、見事なまでにツンデレ丸出しだよ! 自販機と生け垣に遮られていろはの表情までは窺えないけど、あいつ今絶対耳とか赤くなってるんだろうなぁ。ふひっ。
比企谷先輩と友達の(友達じゃない)いろはのアルティメット級の素直じゃ無さについついにんまりしていると、いろはは呟くようにぽしょりと言う。
「……だからプロムやりたいんですよね」
そうぽしょっと溢したいろはの声音は、まるで夢に焦がれる無垢な少女のよう。そしてぽしょっと溢したその想いは、このプロム計画に向けたいろはの本音を、遂にあらわにするのだった。
「そうやって、わざわざめんどくさいことやって、長い時間かけて、考えて、思い詰めて、しんどくなって、じたばたして、嫌になって、嫌いになって……それでようやく諦めがつくっていうか。それで清々したーって、お別れしたいじゃないですか」
初めは呟くように語りはじめたそのセリフ。次第に熱を帯びはじめ、最後には明るく元気な笑い声に変化していった。
でもいろはのそんな明るい声音とは裏腹に、わたしの心にはえもいわれぬモヤモヤが飛来するのだった。
──いろは、それって……
「……まぁ、わからなくはないな」
わからなくはないとか言いながらも、今のいろはのセリフの中に込められた本当の気持ちはなにひとつ理解していないであろう比企谷先輩。
……それは仕方ないことなんだろうとは思う。だって、あなたはあなたに向けられているいろはの本当の気持ちを知らないのだから。……でも、なんだか、胸が苦しいよ。だっていろは、あんたは……
「ほんとですかー? だったら……」
それでも、やっぱいろははとことんめんどくさい女だね。ホントは苦しいくせに、それでもそんな風に笑えるんだから。
そして、そこでようやく私の目にいろはの姿が捉えられた。比企谷先輩のマフラーを掴んで立ち上がり、その小さな身体を自販機の陰から月明かりの下に晒したから。
「もっとちゃんとしてください」
ようやく見えたいろはの表情に浮かぶ色は優しい微笑み。でも、その瞳に浮かぶ色は優しさではなく真摯なまでの厳しさ。
見つめる瞳があまりにも近すぎて、比企谷先輩は頬を赤く染め上げ後退を試みる。しかしいろははそんな意気地なしな先輩の情けない姿に深〜い深〜い溜め息を吐き出すと、敗走寸前な先輩の首を……もといマフラーをむんずと掴んで逃がさない。
「あ、ああ、悪い……」
「ちゃんとしてくれないと、こっちもちゃんとできないんですから。ほんと困るんですよ、こういうの。めんどいし、厄介だし、あとめんどくさいんです。それにめんどくさいし」
誰よりもめんどくさいいろはが、誰よりもめんどくさい比企谷先輩にめんどくさいを連呼して、責めるようにぐるぐるぐるぐるマフラーを絞め上げる。ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる。それはもう中尾彬も引くくらい、ぐるぐるぐるぐる。
「あいったぁ……」
そして風が入る隙間もないくらいの見事な中尾巻きが完成すると、その上からもふもふミトンでふにゃっと猫パーンチ!
絶対に痛くないであろうもふもふでぐるぐるなふにゃっとパンチではあるけれど、比企谷先輩にはそれはそれは大層重い右ストレートだった事でしょう。幕之内一歩が弟子に対する暴行(ビンタ)で自首しちゃうレベルの破壊力。
だって、いろはの色んな想いがたっぷり詰まった、クリティカルで会心な痛恨の一撃なんだから……
× × ×
「あ、わたしちょっとこれから用あるんで、ここで解散しましょうか」
一連のイチャイチャも幕を閉じ、残った缶ジュースをこくっと煽った一色いろはは、空き缶をゴミ箱にぽいすると突然別れのご挨拶。
これには私もびっくりである。まぁいろはにも色んな感情が渦巻いているのかもしれない。今は比企谷先輩と一緒に帰るのが辛いのかもしれない。でも二人で帰れる機会なんてあんま無いから、せっかくの機会だしこのまま駅までイチャイチャしてくのかと思ってた。
なのにまさかここでいろはから現地解散を言い渡すとは。それほどまでに大事な用でもあるのかな。
「お、おう、いきなりだな。どこで用事があるのか知らんけど、もう暗いし、駅までは行けばいいんじゃねぇの?」
そんないろはの突然の別れの挨拶に、他ならぬ比企谷先輩も驚きを隠せないご様子。だって普段ならつねに解散→帰宅提案する隙を窺っているあの先輩が、まさかの同伴帰宅を提言するくらいなんだもん!
まぁそれもそのはず。なにせ現在地は駅まで目と鼻の先なのだから。あとちょっと歩けば駅なのに、ここで解散とか意味わかんないんだろうね。
「え、どうしちゃったんですか先輩、らしくもない。らしくなさすぎて若干鳥肌が立つレベルなんですけど。そんなにわたしと一緒に帰りたいんですかー?」
「ちげぇから。決して一緒に帰りたいわけではないから。つか暗いからと優しさを見せただけで鳥肌立たれちゃうのかよ……」
「いやいや鳥肌超立つでしょ。なにせあの先輩が率先して夜道を心配してくれるなんて。……は!? もしかしていま口説いてますか、心配するフリして送り狼になっちゃう気ですか、確かに普段ぶっきらぼうな先輩が急に優しさアピールしてくるとかちょっとフラッときて少しくらい食べられちゃってもいいかなとか思わなくもないですけどよくよく考えたら今日は両親が在宅中なので無理ですごめんなさい」
両親がお出掛け中だったら食べられちゃってもいいのかよ。とんだ肉食系な羊ちゃんだな。
「ああ、そう……」
ちょっと!? ちゃんと聞いてちゃんと気付いて比企谷先輩!? いろは、美味しく召し上がれっ♪ って言ってますからね!?
「ま、とにかくです。その優しさは気持ちだけいただいておきます。ちょっと忘れ物があるですよ。さすがに付いてこいとは言えないんで、ここでさよならです」
「そうか」
「はい」
ほーん。忘れ物か。ならここで解散も納得。
ま、男ならそこで「学校まで付き合ってやるよ」でしょ! と言いたいトコではありますが、この比企谷先輩にそこまで期待するのは酷というもの。暗い夜道を心配した時点で先輩にしちゃ及第点っちゃ及第点だね。だって比企谷先輩だし。
にしてもいろは、本当に忘れ物なのかな。普通忘れ物したらそれなりのリアクションしない? 「あ!」とか「うへぇ」とか。
でもいろははここまで何一つリアクションを起こさなかった。まるで最初からここでお別れする事を決めていたみたいに。
あれかな? 忘れ物には随分前から気付いてたけど、どうしても比企谷先輩に追い付きたいから忘れ物は一旦置いといてとりあえず走ってきたのかな?
「んじゃ帰るわ。お前も気を付けて帰れよ」
「はい。ありがとです。あ。あとごちそうさまでした」
「おう、お粗末さま」
「ではではです」
自販機の明かりにぼんやり照らされたいろはは、次第に小さくなっていく比企谷先輩の背中に小さく手を振り続ける。
こういう時、見送られる側は何度か振り返って送り人に手を振り返すものなのだろうけれど、生憎あの先輩はそんな気の利く心など持ち合わせているはずもなく、振り返る事のない愛しい背中にただ手を振るだけのいろはの姿は、なんとも物憂げに見えた──。
「あ、そだ! せんぱーい」
でもね? うちのいろはがそんな切ないシーンのまま幕引きするはずないんだよね。うちのもなにも友達じゃないんだけど(涙目)
いつまで経っても振り返る事のないダメ男に業を煮やしたいろはすは、こうして強引にヤツを振り向かせるのだ!
「あん?」
「今日のところはお汁粉で勘弁してあげましたけど、フツー怒ってる女の子にお汁粉なんてくれたって、絶対許してくれませんからね」
「う、うす」
なに飲んでんのかと思ってたらお汁粉だったのかよ。チョイスが渋い〜(千鳥並み感)
「とゆーわけで、今度デートする時は今日のツケをちゃんと払ってもらいますんでよろしくでーす」
「はい? なんでデート?」
「はい? 約束、忘れたとは言わせませんよ? 前のデートのとき、カフェで約束しましたよね、「今度はもうちょっと知り合いが少ないところにしましょうね」って」
「……了承してねぇじゃねーか」
「ふふ、超高いの期待してますからねー。ではではでーす」
「聞いてねぇし……」
──今度こそ、ゆっくりだらだら去ってゆくだらしのない猫背。でも同じお見送りシーンでも、つい先程までの切ないお見送りとは雲泥の差です。さすがはシリアスクラッシャーいろはす、見事なお点前である。
……うん。こっちの方が見てて楽しいから好きよっ!
「……じゃ、さよならです、先輩」
そして、なんの迷いもなくくるり回れ右する我らが一色いろは。回れ右するのは忘れ物を取りにいく為か、はたまた比企谷先輩への想いに背を向ける為なのか。
それは私には解らない。解らないけれど、それでも私はあんたの決めた選択を全力で応援してあげるよ?
だって、いろはの瞳は全然後ろ向きじゃないもん。全然回れ右してないもん。
『長い時間かけて、考えて、思い詰めて、しんどくなって、じたばたして、嫌になって、嫌いになって……それでようやく諦めがつくっていうか。それで清々したーって、お別れしたいじゃないですか』
たとえそれが諦める為の……お別れする為の回れ右なんだとしても、そこに至る想いは全力投球どストレート。たくさん考えてたくさん思い詰めてたくさんしんどくなった先にある諦めとお別れならば、それは一色いろはの本物なんだろうなと思う。
……だから、私は友達の選択を信じて、友達の選択を全力で応援するからね! 友達じゃないけどっ(遠い目)
「さて、っと。それでは先輩も帰ったことだし──」
──そしていろはは真っ直ぐ進む。どこまでも、どこまでも、どこまでも真っ直ぐに。
「香織ー、どうせ居るんでしょ? とっとと出てこい」
「なんでッ!?」
「うっわ……、ホントに居たよこの人。五分五分くらいかなー? って気持ちで先輩先に帰したのに、当たり前のようにフツーに居るなんて……。軽く引くんですけど」
「嵌められた!?」
「嵌めてないから。むしろどっちかって言ったらわたしが嵌められてるから。……ったく、毎回毎回人の話を盗み聞きしやがって。あーあ、ホントわたしにはろくな友達居ないよねー。生徒会長に勝手に立候補させられたりプライベートを覗き見されたり。てか、人のプライベート覗き見してニヤニヤしてる子とか、友達って言えなくないですかー?」
「ご、ごもっともです(白目)」
いやん! 確かにいろはには友達居ないね! 主に私の悪癖のせいで!
「で、いつまで隠れてんの? 長くなりそうだから、ほら、とっとと出てこい♪」
「……か、かしこまっ! (吐血)」
──どうやら、いろはの忘れ物とは私への折檻だった模様DEATH☆
というわけで、ようやく発売された最新刊に伴い、最新話の投稿と相成りました(^^)
やー、この巻で遂にいろはすの気持ちが確定しましたねぇ。しかしながらそれは諦めること前提という切ないモノでした(;_;)
なのでこのお話はとても書きづらかったです。友達居ません発言なんかもあったものだから余計にね(白目)
とりあえず今回の最新話ではこういう流れとなりましたが、このあといろはすはどうするのか!?そして香織の運命やいかに!?待て次号!待て最終巻!!
…いや、その前に香織の処分といろはすの愚痴回がある可能性も微レ存…?
それではまたいずれお会いしましょうっノシ