白肌娘がダンジョンで活躍するのは間違っているだろうか   作:粉プリン

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第7話

ポツポツ、と窓を空から降る雨が叩き始めた。作業机に身を置くエイナはおもむろに首を上げ、屋外の光景に目を向けた。

 

(降ってきちゃった……)

 

つい先ほどまで綺麗な月が見えていた空は雲に覆われ、激しい雨を降らしていた。建物の外では路上の人々が走り回り、瞬く間に通りから人気が消え失せていく。ギルド本部内であてがわれた事務作業を進めていたエイナは一旦手を止めて、連続する雨音に耳を貸しながら、しばし窓からその光景を眺めた。

 

「うぇ〜、残業に加えて帰りは土砂降りの雨なんて、ついてな〜い」

 

「……多分にわか雨だから、帰る頃には止んでると思うけど」

 

「祭が控えてるこの時期は忙しいってわかってるけどさぁ、もうちょっと上もこっちをいたわって欲しいよぉ〜。みんながみんな、英なみたいに要領良くないんだから〜」

 

「ちょっとミィシャ、重いって。仕事の邪魔よ」

 

「って、あれぇ?もしかしてエイナ、祭りの案件もう片付けちゃったの?」

 

抱えていた書類の山を脇に下ろした彼女を、エイナが何かを言う前に、ひょいっとその二枚ほどの紙を奪ってしまう。

 

「担当冒険者の紹介資料……ああっ、エイナが新しく受け持つことになったあの新人君たちだ」

 

「……班長に提出するよう言われたから、今の時点の詳細をまとめてたの」

 

もう何を言っても無駄だと悟ったエイナはため息をこらえながら受け答えをする。同僚の持つ用紙にはその人物の簡素なプロフィールが書き記されていた。種族や出身地や経歴、所属ファミリアなど、このオラリオで冒険者として活動するための最低限の情報が網羅されている。神の一番上に綴られている名前は【ベル・クラネル】。

 

「えぇ〜?!ソロなのに半月で五階層まで行ってる!すごいじゃん、この子!」

 

「全然っ。各階層をしっかり攻略したわけじゃないもん。調子に乗って下に降りて行って、運よく五階層にたどり着いただけ。しっかりそこで死にかけてるし」

 

「ふ〜ん……こっちの子は?」

 

「あっ……そっちは」

 

「あれ?こっちの子、名前以外殆ど何も書いてないじゃん」

 

めくって二枚目の紙に書かれていた名前は【ティア・センティシスハート】。それだけだった。他に書かれているあるはずの経歴はなく名前と所属ファミリアのみだった。

 

「これ駄目なんじゃないの〜?」

 

「私も初めはそう思ったんだけど……これで良いって上が判断したのよ」

 

「変なの〜。でもこの子も半月ちょっとで七層まで行ってるし実力はあるんでしょう?」

 

「まぁ、ベル君に比べたらまだ安心できるけどね。ちょっと心配なところもあるのよ」

 

「なになに?」

 

「他の冒険者の話だと、ダンジョン内で浴びた血を落とさずに歩き回ってたりとか、斧と槌で二刀流してたりとか。なんて言うのか……感覚が違うのよ」

 

「それって私達と〜?」

 

「そう、前に血濡れで帰ってきたから叱ったのよ。ちゃんとダンジョン内の泉とかで洗い流してから来てって。そうしたら首を傾げて『何で?』って聞かれてね……。普通なら洗い流すでしょ?だからその辺りの感覚と言うか、常識というかが抜けてると思うの」

 

「へぇ〜。なんだか不思議ちゃんなんだね」

 

「そう言うのもどうかと思うけど……」

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

その頃、噂の本人はダンジョンから帰宅する最中だった。あれから予想外にモンスターとの遭遇が重なりいつもより脱出に時間がかかってしまった。ようやく二層から一層へと向かう階段にたどり着き登りきると。

 

「………………ん」

 

「うわっ!」

 

曲がり角から突然人が飛び出しぶつかりかけた。とっさに避けたが向こうはいきなりの事で止まれず勢いよく転んでしまった。

 

「いたた……」

 

「………………平気?」

 

「……すいません」

 

よく見ると防具も着けずにダンジョンから帰ってきたらしく、身体中に浅くない傷が付いていた。手のひらも鋭利な物で切ったかのように裂けて、固まった血が出血を止めていた。

 

「………………防具、ないの?」

 

「えっ……あります、けど」

 

「………………着ないと」

 

「……ごめん、なさい」

 

誰かは分からないが今回は運良く生き残れただけだ。次の日にはもういないかも知れない。

 

「………………じゃあ」

 

「……あの!……名前、聞いてもいいですか」

 

「………………ティア、センティシスハート」

 

「僕はベル・クラネルです。注意、有難うございます!」

 

そのままベルと名乗った少年はあった時と同じく走り去っていった。

 

「………………」

 

それを感情の篭らない瞳で見送ると自分もダンジョンから脱出するために歩き始めた。




はい、今回で主人公と原作主人公が初めて出会いました。

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