白肌娘がダンジョンで活躍するのは間違っているだろうか   作:粉プリン

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第6話

次の日の夜、カリタスは約束していた通りガネーシャ主催で開かれる神の宴にやってきていた。神の宴とは、詰まるところ、下界にそれぞれ降り立った神たちが顔を合わせるために設けた会合だ。どの神が主催するのか日程はいつなのか、そのような決まりは全くもってない。ただ宴に行きたい神が足を運ぶ。神たちの気まぐれと奔放さの一面がここに示されていた。

 

『本日はよく集まってくれた皆の者!俺がガネーシャである!今回の宴もこれほどの同郷者に出席していただきガネーシャ超感激!愛してるぞお前たち!さて積もる話もあるが、今年も例年通り3日後にはフィリア祭を開催するにあたり、皆のファミリアにはどうか協力をお願いしたくーー』

 

設けられたステージの上では巨大な像の仮面をかぶった人物ーーガネーシャが馬鹿でかい肉声で宴の挨拶を行っていた。周囲の神たちはお約束と言わんばかりにガネーシャのスピーチを聞き流し、各々談笑している。会場は立食パーティーの形式が取られていた。純白のテーブルクロスがかけられた元卓には色取り取りの料理が置かれ、瑞々しさを蓄えた果物の香りもまた冷ややかに漂う。靴音がしきりに響く広間には忙しなく動き回る給仕の姿を見受けられ、壁際には舞踏が予定されているのか楽隊が待機している。そんな場所で、とある小さな神が給仕に用意させた椅子に乗り、せっせと料理をタッパーに詰めてれば嫌でも目立つ。

 

「やあヘスティア!なんだなんだ?パーティーに来て真っ先にやることがお持ち帰りとかちょっと貧乏丸出しだぞ、もっとばれないようにやるんだよ!」

 

「煩いな、カリタスには関係ないだろう。僕のところは貧乏だからできることはなんでもやる主義なんだよ」

 

「バイトしてるんじゃなかったの?確かじゃが丸くんだっけ?あれ結構美味しいんだよね、ティアも薄切りにして揚げて食べてるよ」

 

「じゃが丸くんにそんな食べ方があっただなんて……?!」

 

「何バカな会話してるのよ……」

 

「ん?あぁヘファイストスじゃないか!」

 

「えっ?!ヘファイストス!」

 

「他の誰に見えるっていうのよ。久しぶりねヘスティア。元気そうで何よりよ。……もっとマシな姿だったら私はもっと嬉しかったんだけど」

 

「それは仕方ない、貧乏だからね」

 

「カリタスの所だって同じだろう!」

 

「残念でした、僕たちの所は意外と充実してるよ?この前の食事で分かってるでしょ?」

 

「……確かにうちと比べたらすごく美味しそうだったけど」

 

「と言うかカリタス、貴方こっちに来てたのね。今まで知らなかったわ」

 

「そうかい?僕たちは君のところによくお世話になっているよ。これからもティアをよろしく頼むね」

 

「お世話?……納得したわ。今後ともご贔屓に」

 

「いやいや」

 

「ヘファイストスの店で買い物が出来るなんて……」

 

「まぁひとえにティアが頑張ってくれてるおかげだね。ああ見えて結構頑張り屋なんだよ?本人は否定してるけど」

 

「そっちと比べると涙すら出てくるわね。カリタスの所みたいにあんたもそのけち臭い精神で頑張りなさい」

 

「ぐぬぅ……」

 

ハンと鼻を鳴らすヘファイストスにヘスティアは悔しそうに唸る。そこにコツコツと靴音を鳴らしながら誰かがヘファイストスの後ろから近づいてきた。

 

「ふふ……相変わらず仲がいいわね」

 

「え……フ、フレイヤ?なんで君がここに……」

 

「ああ、すぐそこで会ったのよ。久しぶりー、って話してたらじゃあ一緒に会場回りましょうかって流れに」

 

「軽すぎるよ……」

 

「お邪魔だったかしら、ヘスティア?」

 

「そんなことはないけど……」

 

「そうそう、美人美女は大歓迎だよ!」

 

「貴方も相変わらずね、カリタス」

 

「そりゃあ僕だからね。そう簡単に僕は変わったりしないから」

 

「僕は君のこと、苦手だよ……」

 

「うふふ、あなたのそういうところ、私は好きよ?」

 

「おーい、ファーイたーん、フレイヤー、カーリタース、ドチビー!」

 

その瞬間、ヘスティアの顔が苦虫を噛み潰したような表情になった。

 

「……実は、君なんかよりもずっっと大っ嫌いなやつが、僕にはいるんだけどね」

 

「あら、それは穏やかじゃないわね」

 

「おお!ロキじゃないか!」

 

「何しに来たんだよ、君は」

 

「なんや、理由がなきゃきちゃあかんのか?『今宵は宴じゃー!』っていうノリやろ?むしろ理由を探す方が無粋っちゅうもんや。はぁ、マジで空気読めてへんよ、このドチビ」

 

「……あー、これはまずいパターンだね。僕は離れておこう」

 

「私も……」

 

「あら、私も離れようかしら」

 

ヘスティアとロキが喧嘩を始めそうだったので少し離れたところから見守ることにした。

 

「それにしてもヘファイストスはともかくフレイヤは珍しいね。普段塔に引きこもってるのに急に顔出すなんて、何かあったの?」

 

「すこしね、用事があって降りてきたのよ」

 

「まぁいいか、それにしてもヘファイストスの所は随分大きくなったね」

 

「その口ぶりから察するに前から私たちのところに出入りしてるのかしら?」

 

「知らなかった?ティアの初めての武器はヘファイストス・ファミリア製だよ」

 

「それは光栄ね」

 

「まぁまだ小ちゃいし、頑張ってる途中かな。毎朝ランニングしたりして体力作ってるから昔よりはだいぶ変わったけどね。最近じゃオシャレも手を出し始めてるし」

 

「そうだったの。私はまず貴方のところの子が女の子だったことに驚きよ」

 

「ふふ……それじゃあ、私は失礼させてもらうわ。向こうも終わったようだし」

 

見るとロキが泣きながらヘスティアから逃げているのが見えた。

 

「え?フレイヤ、貴方用事があったんじゃないの?」

 

「もういいの。確認したいことは聞けたし……」

 

「……貴方、ここに来てから誰にも聞くような真似してなかったじゃない」

 

「……それに、ここにいる男は殆どみんな食べ飽きちゃったもの」

 

「「「「「サーセン」」」」」

 

「…………」

 

「それじゃあ」

 

「ちょっとストップ」

 

出口に向かって行くフレイヤを呼び止めてカリタスが辺りに聞こえないようにそっと囁く。

 

「僕は結構利己的だと自分でも思ってる。だからこそ僕のファミリアに手を出すなら……その時は覚悟しておきなよ」

 

「……親切な忠告有難いわ」

 

それ以上語ることなくフレイヤはひしめく神達の中に消えていった。

 

「そういえばフレイヤが言ってた殆どみんなって……もしかして貴方が?」

 

「ん?……そういえば確かにフレイヤとか美の神にはあんまり関わらなかったね。一時期凄い絡んできたからちょっと意地悪したんだけどそれが原因かも?」

 

「何したのよ」

 

「いやー、タケミカヅチと一緒にフレイヤの額に三日間は絶対に消えないペンで『肉』って書いたんだよ」

 

「……そんなことしたら誰でも疎遠になるわよ」

 

「それじゃあそろそろ僕も行くかな。またどこかで会おう!」

 

そのままヘファイストスの返事を待たずにホールから抜け出した。建物内から出ると真っ直ぐ家に向かって歩いた。

 

「ただいま!帰ったよー!」

 

「………………おかえり」

 

中に入ると今朝と変わらずティアがいた。それだけのことにいたく安心し、ふた回りも小さい少女を抱きしめた。突然の行動に訳がわからないといった無表情でこちらを見てくるティア。

 

「ごめんね、特に意味はないけどなんだか無性にこうしたくなったんだよ」

 

「………………ロリコン?」

 

「ちょっと待って?!どこでそんな言葉覚えてきたの!」

 

首を傾げながら容赦なくこっちの心を抉りにくる。そんな少女であってもこの子だけは何としても守ると改めて決めた。

 

「………………変態」

 

「だから誰からそんな言葉を吹き込まれてるんだい!!」

 

早速折れそうだったが。


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