白肌娘がダンジョンで活躍するのは間違っているだろうか   作:粉プリン

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第2話

次の日、朝早くから起きたティアは大きく伸びをすると服を脱ぎ昨日用意しておいたトレーニング用のラフな格好に着替えて外に出た。ここ最近は暖かくなってきているが流石にまだ日が昇って間もないこの時間だと少し肌寒さが残っている。ティアは身体を動かし柔軟を終えると走りだした。裏路地を出て都市の外周に沿ってしばらく走ると途中の崩れた教会で折り返し家に向かって走る。毎日続けているためこれでも始めた時よりは結構体力も付いてきた。初めは十分も走れば息が切れていたが今では考え事をしていたらいつの間にか走り終わっているくらいだ。ランニングが終わるとシャワーを浴びて朝食の準備をする。カリタスとの決まりで朝は自分、夜はカリタスが食事を作ることになっている。お昼はまちまちで自分がいない事もあれば、カリタスが出掛けている時もあるため基本的には各々で作っている。

 

「おはようティア!今日もいい朝だね!それに寝室にもいい匂いが届いてきてたよ、もしかして僕の好きなサンドウィッチかな?!」

 

簡単なサンドウィッチを作り終わるとタイミング良くカリタスが起きてきた。どうやら匂いに釣られて起きてきたらしい。そのままカリタスと朝食を済ますと自室に戻った。といってもクローゼットと小さな机があるだけの簡素な自室だが。クローゼットの中から何時もの服に着替える。冒険者は鎧を着こみ体を固めるがティアはどちらかというと服を着込んでいた。ところどころにフリルの付いた白いゴスロリの服を着てその上から要所に金属製のアーマーを取り付ける。何ともちぐはぐな見た目だが本人曰くこれで良いらしい。しばらくアーマーの位置を調節すると満足したのか、部屋から出た。今に戻るとカリタスが椅子に座ってくつろいでいた。

 

「今日はどうするんだい?」

 

「………………武器」

 

「そういえばこの前新しく作ってもらってるって言ってたね。てことはヘファイストスの所かな?気を付けてね!迷宮に入るなら死なない事!行ってらっしゃい!」

 

「………………いってきます」

 

家を出て街の中心部の方に歩いて行く。しばらく歩いていると大きな建物が見えてきた。この街の冒険者を束ねて管理しているギルド本部だ。そこに入ると中は冒険者で溢れかえっていた。そのまま進んでいくとティアの姿に気づいたのか何人かの冒険者がこちらを見てきた。いずれも子供がこんな所にいることを疑問に思っているようだがそんなことを気にする事なく奥に進んだ。ギルド内に設けられている換金所に辿り着くとそこに見知った顔がいた。

 

「あっ、おはようティアちゃん」

 

「………………おはよう」

 

そこにいたのはエイナ・チュール。このギルド本部に初めて来た時に自分を案内してくれた人物だ。それ以来、ギルド関係の事で時々助けてもらっている。ヒューマンとエルフのハーフらしく冒険者にも人気らしい。

 

「ティアちゃんは換金しに来たのかな?」

 

「………………そう」

 

「そっか、まぁ頑張ってね。何より死なない事が大切だから」

 

『冒険者は冒険しちゃいけない』

 

彼女がいつも口酸っぱく言っている言葉だった。これだけ見ると矛盾しているように取れるが、要は『常に保険をかけて安全を第一に』という事だ。駆け出しの冒険者になりたての時期ほど命を落とす確率が高いらしい。

 

「………………分かった」

 

「本当かな?ベル君も、君も心配だからなぁ」

 

エイナさんは戻って行った。その後換金所でモンスターから集めた『魔石の欠片』と落ちたドロップアイテムを全て換金した。合計で14000ヴァリス程になったので今迄貯蓄していた分も合わせると武器の支払いも十分可能だった。ギルド本部から出ると武器屋などが立ち並ぶ区画に足を進める。しばらく歩くと周りに比べて二回りほど大きな店が見えてきた。炎を思わせる真っ赤な塗装を施したこの店は【ヘファイストス・ファミリア】北西のメインストリート支店。彼の有名な大ブランド店、優秀な上位鍛冶師を保持している誰もが知る冒険者御用達の店だ。最も利用しているのはある程度の力を持つものだけだ。店先のショーウィンドウに並ぶ武器や防具の殆どにゼロがたくさん並ぶ値札が付いていた。沢山の冒険者が店先を見ながら通り過ぎて行く中をティアが中に入っていった。

 

「いらっしゃいませ!ご用件をお伺いします」

 

「………………頼んだ斧」

 

「斧?……あっ、もしかしてティア様ですか?」

 

「………………そう」

 

「了解しました。少々待ちください」

 

店員が要件を聞き終わると奥に引っ込みしばらくして奥から巨大な斧を持ちながら出てきた。

 

「こちらが注文していた物になります!それでは代金80000ヴァリスと購入の控えをよろしいですか?」

 

懐の財布からお金と注文時にもらった控えを出すと店員が確認したあと控えに印を押した。

 

「確かに受け取りました。それでは商品をどうぞ」

 

店員が差し出してくる斧を掴んで背中の金具に固定する。固定されたので軽くその場で動いてみるが特に問題はなさそうだ。あとは実践で使い勝手を確かめるだけだった。

 

「有り難うございましたー!」

 

店員の挨拶を聞きながら迷宮の入り口に進んでいく。入り口に辿り着くと最後に装備品と手持ちの確認をした。

 

「………………ん」

 

確認がとれたため迷宮に入った。一層目は昼でも夜でも明るく、また大した広さはないためすぐに通り過ぎる。続く二層から伍層までは運良くモンスターに出会うことなく進むが、六層に入った所で壁に突如ヒビが入った。どうやら迷宮が新しいモンスターを産み出したようだ。ヒビは大きくなり最後にひときわ大きな破裂音を出してモンスターが産まれた。全身が黒に染まり、十字を描く顔に嵌めこまれた手鏡のような真円状のパーツが特徴のモンスター『ウォーシャドウ』だった。ウォーシャドウはこちらに気がつくとその長く鋭い手を使ってこちらに攻撃してきた。が、今更ウォーシャドウ相手に手こずることはなかった。斬りかかってきた手を掠める形で前に飛ぶのと、その反動で背中の斧を掴みウォーシャドウの胴体に叩きつける。素材としてウォーシャドウのドロップアイテムをふんだんに使った漆黒の戦斧はウォーシャドウを真っ二つに切り裂いた。少しして体が崩壊し始めたウォーシャドウから零れ落ちた魔石の欠片とドロップアイテムの顔に嵌めこまれた鏡面をサイドポーチにしまうと更に迷宮の奥に進んだ。


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