白肌娘がダンジョンで活躍するのは間違っているだろうか   作:粉プリン

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第1話

迷宮都市オラリオ

 

『ダンジョン』と通称される地下迷宮を保有する、いや迷宮の上に築き上げられた巨大都市。都市、ひいてはダンジョンを管理する『ギルド』を中核にして栄えるこの都市はヒューマンも含めあらゆる種族の亜人が生活を営んでいる。そんな迷宮都市のダンジョンから帰ってくる一人の姿があった。白い肌に白い髪、全身から色素が抜け落ちたかの様な白い姿をしている少女だが今だけはその白さも汚れていた。ダンジョンで倒したモンスターの返り血を浴び、またそれを拭き取らずにそのまま戦い続けた結果、体中に赤黒く変色した血の塊がこびりついていた。それを気にする事なく少女は街へと戻っていった。

 

 

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少女が辿り着いたのは街の片隅にある小さな家だった。裏路地を抜けた先にあるその家の扉の前に立つとノックをして中に入った。

 

「………………」

 

少女は無言で奥に進もうとするがそれを阻む者がいた。

 

「おかえりなさいティア!こんばんは!大丈夫?帰ってきたら挨拶をして手を洗うって毎日言ってるでしょ?それに何で全身返り血状態なの?!そのままじゃ駄目だから早くお風呂に入ってきなよ、お風呂から上がるまで待ってて上げるから!着替えは僕が持って行くし心配ないから早く入ってきなよ!」

 

一度も舌を休めることなくマシンガントークをかまして来るがこれでも一応少女に力を貸してくれている神様なので無下にすることはなかった。最も少女が自分から何かをしたのは初めてあった時だけだが。小さく頷くとティアは風呂場に歩いて行った。その背中を見送ると神様は少女の着替えを持ってくるためその場を去った。

 

ーー遠い昔、『神様達』は彼らからすると『下界』にあたるこの地へと降り立った。神様たちの言葉だと要するに「天界は退屈で仕方なかった」らしい。一般的に大勢が思い浮かべるような楽園、『天界』にて、無限の時をダラダラと過ごす毎日に飽き飽きしてしまった沢山の神様達は、様々な無駄を拵えながら文化や営みを育む下界に住む人間達に娯楽を見出したという。

 

『人間達と同じ地位かつ同じ能力で、彼らの視点に立つ』

 

結果的に下界は神様達を大いに興奮させた。全く思うように行かない事象、食事や趣味や芸術などで満たされる欲求、親交という名の不特定多数の繋がり。

 

笑えた、らしい。

 

神様達にはまるでゲームでもやっているような感覚らしいが、予断を許さないこの一時が楽しくて楽しくて仕方ないのだと。ほどなくして神様達はこの下界に住みついた。多くの神様達が永住することを決めたらしい。神様達が子供達と称する人間達の中に紛れて、人間達が互いにそうするように日々を助け合い、生きていく。不自由とは無縁の生活を捨てて、神様達は不便極まるこの世界にのめり込んでいった。

 

「………………」

 

そんな数々の下界に来た神様達の一人に力を貸してもらっているティアはお風呂場で体中にこびり付いた血を洗い流していた。結構な量が付いていたらしくお風呂場の床があっという間に血だらけになるがティアはピクリとも眉を動かすことなく全身を洗い流した。

 

 

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「おっ、出てきたみたいだね。早速だけど夕食にしよう!今日は簡単なシチューを作ってみたから味を見てくれると助かるよ」

 

用意されていた服に着替えて小さな居間に着くと少女の主神カリタスが鍋を両手に持ってテーブルに座るところだった。カリタスの反対側にティアが座ると二人は両手を合わせて「いただきます」というと(少女は聞き取れるかどうかの音量ではあったが)食べ始めた。

 

「そういえば今日は新しい層に行ってみるんだっただけ?何回まで辿り着いたのかな?」

 

「………………七」

 

「七層か!この前は六層で止まってたから今日は一つか!いやぁ早い早い!これなら次の層もすぐだね!」

 

食事中に関わらず基本的にカリタスが話しかけてそれにティアが少しだけ答える、という会話だったが概ね両者は満足?しているらしくティアも僅かに頷いたりと話は聞いているらしかった。

 

「そういえばガネーシャのところが宴やるらしいんだよ!そこに行ってみようと思ってるんだけどその日は僕いないけど一人で平気?食事は作っていくけど大丈夫?何ならガネーシャのコネ使って連れてくことも出来るけど」

 

「………………平気」

 

カリタスが心配そうに話しかけるが表情一つ動かさずティアが答えた。カリタスはティアの受け答えから平気と判断したのかシチューを食べ終えるとキッチンで皿洗いを始めた。その後ティアの分も洗い終わると狭い廊下を抜けて寝室に戻った。

 

「それじゃあ早速今日の分の【ステイタス】更新始めるよ!いつも通り服脱いでそこに寝っ転がって!」

 

カリタスの指示通りにベッドの上に寝そべるとカリタスが自分の指先に針を刺し血をティアの背中に垂らすと背中に刻まれている【ステイタス】ーー『神の恩恵』を書き換えていく。【経験値】と呼ばれる物がある。様々な出来事を通じて得られる、文字通り経験した事象のことだ。その中に埋もれている、例えば『モンスターを倒した』という一つの軌跡を引き抜いて、成長の糧へと変える。神様達が扱う【神聖文字】を、神様の血を媒介にして刻む事で対象の能力を引き上げる、神様のみに許された力。これによって神様達は下界の者達に持ち上げられる。

 

「終わったよー!これが今回の分の新しい【ステイタス】だからちゃんと目を通しておいてね」

 

明日の朝にでも見れば良かったが神様に言われたので目を通すことにした。

 

 

ティア・センティシスハート

Lv1

力:C607→C621

耐久:I13→I18

器用:B781→A810

敏捷:C633→C672

魔力:I45→I47

《魔法》【 】

《スキル》【血霧孤高】(ナイトメア・フルーレ)

     ・早熟する

     ・血を浴び続ける限り効果持続

     ・孤独の存在で在ることにより効果向上

 

 

「耐久が少し伸びてたけどどこか怪我でもしたのかい?だとしたら早く病院で検査したほうがいいよ!そうじゃなくてもなんで上がったのか説明が欲しいな!」

 

「………………斧、盾」

 

「なるほど!つまりモンスターの攻撃を食らったけど斧を盾代わりにして防いだから怪我はないんだね!確かに攻撃を受けてたのならもうちょっと伸びてたし納得したよ!良かった怪我してなくて、次も怪我せずに帰ってきてよ!」

 

「………………ん」

 

「それじゃあ今日はもう遅いしさっさと寝よう!はい電気消すよ、おやすみなさい!」

 

「………………おやすみ」

 

ダンジョン探索で疲れていたのかティアはすぐに寝た。隣で横になっていたカリタスはそれを確認するとそっとティアの頭を撫でた。

 

「その小さい体でよく頑張るよ……君は一人じゃない。例えあんなスキルがあろうとも僕は君を見捨てたりはしない。約束するよ」

 

カリタスの声は誰にも聞こえることなく、暫くして再び聞こえてきたのは二人分の寝息だけだった。




主人公ティアの名前はラテン語のProddtio『裏切り』から
主神カリタスの名前はラテン語のcaritas『愛情』から
スキルの名前は作者の厨二病から

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