二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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if#2d『閃光のワルド』

ワルドがルイズ達を助けようと空賊のフネに乗り込んで来た、その騒ぎはあっという間にフネ全体に拡がり、集まってくる。

 

だが、そこはスクエアメイジであり、魔法衛士隊隊長を任される男である。空賊程度を相手にするのに、問題などは無い。

 

ある程度伸した辺りで、空賊の頭が姿を現した。

 

その男は浸入したワルドによってもたらされた現状を見、ワルドの名乗りを受けるや、容姿に反して高らかに笑うと、髪と髭を引っ張り外して正体を明かす。

 

その正体こそ、ルイズの帯びた任務の最重要人物である、ウェールズ・テューダーその人であった。

 

 

 

 

「さあ、ここが我等アルビオン王家最期の領地、ニューカッスルだ」

 

大陸の下の危険な地帯を、何事もなく縫うように抜け、辿り着いた縦穴を上昇、その終着点には港があった。

 

それを見たワルドは感嘆の声を漏らし、ウェールズにまるで空賊の様だと声を掛け、ウェールズはそれを笑顔を見せて正にそうさと切り返す。

 

係留されたフネから降り立つと、老執事がウェールズを出迎える。その後に続くルイズ達を見て訝しみはしたものの、彼女達が正式なトリステインからの使者であることを聞くと、態度を軟化させ、ウェールズに私室へ案内するよう命ぜられると、ルイズ達を先導するため歩いていく。

 

そうして連れられ、辿り着いたのは質素な部屋、其処は今はウェールズの私室なのだと老執事は語る。

 

「レコン・キスタによる進攻のせいでこの様なところに追われ……」

 

涙を堪え、語る執事の言葉を遮ったのは、部屋の主ウェールズであった。

 

「ここの居心地も悪いものじゃないさ、それよりも……ミス・ヴァリエール、早速君の用件を済ませるとしよう」

 

老執事を下げ、ウェールズは机の引き出しから今の部屋に似つかわぬ箱を出し、蓋を開けて数瞬懐かしみ、件の手紙を取り出してルイズに渡す。

 

「コレが……?」

 

「そう、アンリエッタの手紙だよ」

 

読み込まれ、随分傷んだ手紙。

 

どの様な気持ちでウェールズがそれを所持していたか、その思いが伝わって来るようだ。

 

「……確かにお受け取り致しました」

 

渡された手紙を懐に仕舞うところを見届けたウェールズは、この後開かれる宴に出てほしいと伝え、部屋を後にした。

 

 

 

「ルイズ」

 

出席を望まれた宴、それは最後の晩餐とでも言えるもの。

 

そこに居るアルビオン王家に仕える者達、彼等の笑顔をルイズは見る事が出来ずに、宴場を後にしていた。

 

それを紗久弥は見付け、後に続いて声をかけ、隣に立つ。

 

「サクヤ……」

 

「見てられない?彼等の事を」

 

その言葉に、素直に首を縦に小さく動かし肯定する。

 

「殿下は最期と仰っていたわ……」

 

だというのに、皆一様に笑顔を見せていた、それも無理のない、悲壮もない、自然な笑顔を。

 

それがルイズには解らない、解りたくなかった。

 

死に逝く明日を前に、何故ああも笑えるのだろう、想い人の心を知りながら死地に向かう、ウェールズの気持ちが。

 

「理屈は解るの、解るのよ……でも……」

 

亡命してでも生きて欲しい、アンリエッタの為に。

 

けれど彼は王家の者、それはきっと赦されないのだろう。

 

それをルイズは理解してしまっている、だからこそ納得したくない。

 

死地に向かう兵士が皆笑顔なのは、何故なのか……気が付けば紗久弥に抱き締められていた。

 

「……理解なんて、納得なんて、しなくていいよ、ただ……ルイズは彼等を覚えて、想いを知って?」

 

それが、歴史に残らないであろう、彼等の真実を知る客人の役目だろう。

 

「……うん」

 

「じゃあ、行こうか」

 

ルイズは紗久弥の手を捕り、宴場に歩いていった。

 

 

 

 

宴の中、キュルケは兵士を相手にし、タバサは誘われれば踊り、ギーシュは女性を壁の華にせぬように立ち回る。ワルドはルイズが一人になると、近寄り彼女を連れて抜け出した。

 

「ルイズ、君にお願いがある」

 

そう切り出したのは、宴場からの音楽も遠くに聞こえる静かな廊下の一角。

 

真剣なワルドの顔は、ウェールズとはまた違う、武人として漢としての魅力が滲んでいる。

 

「僕と、結婚してくれないか?」

 

余りにも突然なプロポーズ、飾りも、駆け引きもない、真っ直ぐな言葉。

 

再会してからはろくに言葉を交わせて居なかったが、元々彼は婚約者であり、憧れていた事もある。完全に不意を突かれた形となったせいか、警戒すべき人物であるという事を忘れ、ルイズは顔を真っ赤に染める。

 

それを見たワルドは、翌朝礼拝堂に来て欲しいと伝えると、一人宴場へと戻ってしまう。

 

残されたルイズはその場に座り込み、ドレスどうしよう等と考えてしまうのだった。

 

 

 

 

明くる朝、目を覚ましたルイズが始めに見たのは、美しい純白のドレスを持った、メイドの姿。

 

「ワルド子爵より言付けにございます、こちらのドレスを御召しになり礼拝堂へとお越し下さい」

 

まだ起ききっていないルイズを手際よく着替えさせ、身嗜みを整えたメイドは部屋を後にした。

 

「……あれ?サクヤ……は?」

 

しばらく頭を捻るが、何も思い付かない事もあり、とりあえず記憶に新しい情報を思い出して、礼拝堂へと足を向けるのだった。

 

 

 

「う……ん……え?」

 

紗久弥が目を覚まし、最初に見たのは見知らぬ部屋。

 

と言ってもニューカッスル自体初めて訪れたのだから当然ではあるが、自分が泊まった部屋を間違える程飲んだ覚えはない。

 

「ファルロス、どうなってるの?」

 

『どうやら一服盛られた様だね、おまけに影時間外であったせいで、僕は君に触れられなかった』

 

だが、誰が紗久弥をルイズから引き離したのかは、はっきりと見たとファルロスは言う。

 

「動く石の像?」

 

アルヴィーズの食堂にある人形を思い出す、恐らくあれと似たようなものなのだろう。

 

「っと、のんびりしてられないか……ルイズを捜さなきゃ」

 

着の身着のままであったのは幸いだろう、素早く身なりを整えて、紗久弥は部屋を後にした。

 

 

 

 

紗久弥を安じながらも、ルイズは礼拝堂へと辿り着いた。

 

その礼拝堂には先客が二人、ワルドとウェールズである。

 

「やあルイズ、思った通り似合っているよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

一言二言交わし、ワルドはルイズの手を取り、ウェールズの前に歩み寄る。

 

「これは、仮初めの儀式でしかない、二人が真に夫婦となるその日を見届けられないのが残念だ」

 

その台詞を聞いたルイズの顔が、悲しみに僅かに歪むが、気を取り直す。

 

「では、殿下お願い致します」

 

 

 

 

「迷子かいお嬢ちゃん」

 

紗久弥の前に現れたのは傭兵の男。

 

「……貴方は?」

 

その問いに、男は手に持つ杖から炎を出して笑い。

 

「侵入者だよ」


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