二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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貴女の傍に居たいから

明くる日、コルベールに着いて『竜の羽衣』の元に赴いたルイズ一行、そこでコルベールが調査していた物の正体が明かされる。

 

「これって……零戦?」

 

プロペラは取れ、左翼は中頃から先がない、最早飛ぶことは叶わないであろうその機体。

 

紗久弥は機体に触れ、暫し黙祷を捧げる。

 

その行動にハルケギニアの住民は頭にクエスチョンマークを浮かべながらも、その光景に見入る。

 

黙祷を終えて、紗久弥は零戦について知っている事を語りだす。

 

それはかつてあった戦争の遺産。

 

それはかつてあった戦争の記憶。

 

コルベールは、知り得ることを語り終えた紗久弥から目を外し、零戦へと視線を向ける。

 

「これが……貴女の世界の、戦争の兵器……」

 

紗久弥はその言葉に、今はそれ以上のものが空を飛んでいると伝え、様々な用途があるとも言う。

 

「例えば数百人を一回で遠くに運んだりも、こう言った戦争の兵器から技術を得たものが使われてたりしますね」

 

「ううむ……技術と言うものは善きにしろ悪しきしにしろ……だが……」

 

何事かを考え始めたコルベールは、自問自答を行っているのだろう、物思いに耽ってしまった。

 

「サクヤちゃん……これは、もう……」

 

シエスタがどこか悲しそうに訊いてきたのは、もう飛べないのだろうかと言うもの、プロペラもなく、翼も最早修復不可能。

 

この世界の魔法使いに、この零戦に使われた金属が作れるとは思えない。

 

よしんば作れたとして、コンマゼロゼロ以下の精密な加工技術等在りはしないだろう。

 

ハルケギニアでの生活水準は、ルイズの寵愛もありメイドとして見れば言うに及ばず、平民とは比べるべくもない程、良い暮らしが出来ているのは間違いない。

 

だが、それは所詮ハルケギニアでの生活の話、元居た世界との利便性において見れば、遥かに劣る。

 

それは単に技術水準の差、そして、皮肉にもそれらの技術向上は少なからず戦争の影響はあるだろう。

 

当然ハルケギニアでも戦争はあった、だが、その戦争で産まれた物はあくまでも魔法ありきの技術、そしてその恩恵は貴族中心にしか及ばない。

 

決して平民の技術向上が無いとは言えないが、紗久弥の世界で言えば、それは最早百年、或いは数百年以上も前の技術。

 

そんな世界で零戦を零戦足らしめる技術を期待する等、出来る筈もない。

 

それは、紗久弥が作った馬車用の簡素な板サスペンションとダンパーパーツを作ったギーシュの消耗具合から見ても解る。

 

あれに求められた技術は小さくとも誤差コンマミリ程度、ギーシュのランクが上がればまだ違うだろうが、それでも零戦に使えるとなると、果たして何人のスクエアメイジが必要となるか。

 

「これは、このままここで眠っておくべきものだよ」

 

その言葉をどの様な想いで紡いだか、紗久弥の言葉にうなずいたのは、考えに耽っていたコルベールのみであった。

 

 

 

 

「さて、コルベール先生のお手伝いも終わったし……ルイズ、皆に話はした?」

 

それは昼食を終えた後の事、ルイズの願いに対して伝えた条件の確認。

 

「うん、キュルケもタバサも、ギーシュも良いって」

 

この言葉に、ギーシュは最後の確認とばかりに『本当にやるのか』と訊いてきた。

 

ルイズの意思は固く、皆に改めて宣言する。

 

「サクヤの傍に居たいから、主と使い魔じゃなくて、隣に居られる『相棒』で居たいから、戦うの、サクヤと」

 

その決意はキュルケ達にも伝わっていた、だからこそこの戦いに共に挑んでくれるのだ。

 

皆の意思を受け、紗久弥はルイズの手を取り。

 

「じゃあ……行こうか、シエスタから良い場所聞いたんだ」

 

 

 

 

乗り心地が異常なまでに向上したその馬車への興奮を隠さない立会人のコルベールに、この仕合が終われば見せると約束をして、紗久弥とルイズ達はタルブから離れた平原にて、相対していた。

 

「勝敗の条件は、ミス・コシハタが倒れるか、ミス・ヴァリエール方が全員倒れるか……ですな」

 

その言葉を受けて、紗久弥は武器を構え、ルイズ達は杖を、タバサはデルフリンガーを構える。

 

「うむ、では……始め!」

 

先手を打つのはギーシュ、三体分の魔力を込めたワルキューレを作り、壁の一枚として紗久弥に向かわせ、それに併せてタバサも躍り出た。

 

「ブフダイン」

 

デルフリンガーで紗久弥と打ち合いながら、ワルキューレとの連携で紗久弥に隙を生ませようと試みるための一発。

 

降ろしているペルソナの相性なのだろう、ブフダインは一切の効果を紗久弥にもたらさず、冷気を辺りにもたらすのみだった。

 

ならばとキュルケがアギダインを仕掛け、紗久弥にダメージを通すものの、然程効いていないのかワルキューレを討ち、タバサと切り結ぶ。

 

「ちょーっとプライド傷付くわ」

 

実際は今すぐにでもディアラハンを掛けたい程度には痛いが、それをおくびにも出さないで武器を振るえるのは、経験の差だろう。

 

「やっ!」

 

「っくあっ!?」

 

薙刀を一閃、デルフリンガーの鎬に当てて、弾き飛ばし、回転させて石突きで腹を突き距離を取ってディアラハンを掛け、その場を飛び退くとルイズの爆発魔法が炸裂する。

 

着地と同時にペルソナをアリスにチェンジ、ルイズに向かってメギドを放ち、キュルケに飛び掛かるがギーシュのワルキューレがそれを阻む。

 

「流石ギーシュ!」

 

その言葉と裏腹に、ワルキューレを一刀に伏して、ギーシュに迫るその先に、タバサのアイスジャベリンが突き刺さり、それに薙刀の石突きで突いて静止を図るがそれも読んでいたか、タバサとキュルケのマハブフーラとマハラギオンが同時に襲い来る。

 

刹那、水蒸気を伴う大きな爆発。

 

立ち込める水蒸気と土煙を見て、思わず紗久弥の身を案じるルイズではあったが、それらが晴れる前にタバサとキュルケがルイズの前に吹き飛んできた。

 

「痛ったた……」

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「このくらい、いつもの事でしょ……っと」

 

起き上がる同時に、晴れかけの水蒸気に向かい、フレイム・ボールを撃ち込み拡散させ、そこにギーシュは石の礫を錬金で作り、タバサがそれらをエア・ハンマーで打ち出して、ウインディ・アイシクルで追撃、ルイズが止めとばかりにメギドラを放つ。

 

メギドラで一帯の水蒸気と煙は晴れ、その中心にボロボロになったメイド服(ヴァリエール家専属)をそのままに、無傷で佇む紗久弥の姿。

 

「今の一連の攻撃で、三回もディアラハン使っちゃった」

 

そう言って笑う紗久弥に、ルイズ達は苦笑を浮かべる事しか出来ない。

 

「あれだけやって『たった』と悔やむべきか『も』と誇るべきか……」

 

「誇って良いと思うよ、実際危ないと思ったから使ったんだもの」

 

でも……と、紗久弥は言葉を続ける代わりに、一体のペルソナを召喚、それを維持する。

 

そのペルソナは棺桶を背負い、剣を携えた、紗久弥の半身とも言えるモノ。

 

「……死なないでね?」

 

そのタナトスは、アリス・スカアハ・キクリヒメと並び、端正込めて鍛え上げたペルソナ。

 

鍛え抜かれたそのステータスに補正をかけるのは、この世界に呼ばれた際に己の肉体となった、ニュクス・アバター。

 

ルイズとの結び付きであるガンダールヴとリーヴスラシルのルーン。

 

成長限界など、在りはしないだろう。

 

紗久弥は、コンセントレイトを行い、そして解き放つ。

 

「メギドラオン」

 


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