二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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タルブで……

快適な馬車を紗久弥がもたらし、旅(課題)は順調に進む。

 

次の目的である『傾国の鎧』は、紗久弥もよく知るハイレグアーマーであることが判明。かなり際どいその布地部分にルイズは若干引き、キュルケは着てみたいと言い出した。

 

「じゃあタルブに着いたら着てみようか」

 

「あら、良いわねそれ。ミスタへの報告もこれ着てやっちゃいましょう!」

 

等と会話する二人の美女に、すっかり呆れるタバサであった。

 

 

 

 

一行がタルブに到着したのは課題を始めて二日目の夕方になる前、夏の日差しがもたらす熱が最も肌にひりつく頃。

 

「あーやっと着いた……」

 

幾ら快適になったとはいえ、クッションのない荷台に座っていれば、疲れるものである。

 

疲労を隠さぬまま、タルブに居るであろうシエスタの家を住民とおぼしき人に尋ねて歩けば、さして広くはない村である、すぐに数人の学院の生徒が捜していると言うのは本人の耳に届く物。

 

そうこうしている間にシエスタが迎えに現れ、家にお邪魔した頃には、すっかり歓迎の仕度は整っていた。

 

「いやはや、まさかこんなに早く課題をこなしてくるとは」

 

「それなのですがミスタ、お伺いしたいことがありますの」

 

どうやらコルベールもこのシエスタの実家に世話になっているようであり、すっかり寛いでいる。

 

「ふむ、宝に関しての事ですな?」

 

「ええ、サクヤ」

 

キュルケに促され、紗久弥は二つの『宝』を取り出し、コルベールの前に置く。

 

「指定の宝、破邪の標と傾国の鎧に間違いありませんが……」

 

「伺いたいのは、この二品がサクヤのよく知る物であるという事……それがなぜトリステインにあったのか、或いはミスタの所有物なのではないかと」

 

キュルケの問いに、コルベールは感嘆をこぼし。

 

「ミス・ツェルプストーの仰る通り、これ等は私が学院に寄贈していた物です。今回、フィールドワークを生徒に学ばせるため、先んじて各々の場所に置いておいたのですよ。ただ……これらがこのハルケギニアの物でないことは知ってはいましたが、何故ハルケギニアにあるのかまでは存じません」

 

恐らく、と口にして、コルベールはこれらが学院にある『破壊の杖』と出所は同じなのではないかと言う。

 

『破壊の杖』とは、かつて土くれのフーケが狙った学院で一番厳重に保管されている宝物の事で、生徒もその存在自体は知っている、稀少な品。

 

ルイズはそれを聞いて、紗久弥であれば破壊の杖について何か解るかもしれないと、コルベールに告げる。

 

「なるほど……これらがミス・コシハタの既知の物と言うより傾国の鎧いえ、ハイレグアーマーでしたかな……については使用したことがあると言うのであるのなら、破壊の杖についても……か、解りました、学院に戻り次第オールド・オスマンに伺うことにします」

 

話が落ち着いたところで、一先ずはタルブでの休暇を楽しみましょうと、コルベールは口にしたが、これにギーシュは残る一つの宝については良いのかと問う。

 

「『竜の羽衣』ですな、これに関しては滞在中の私の調査に一度でもお付き合い頂ければ構いません」

 

この言葉にギーシュは解りましたと伝え、キュルケはこれに楽が出来ると喜ぶが。

 

「ああミス・ツェルプストー、貴女にミス・エレオノールより言伝てが」

 

「エレオノール様から……ですか?」

 

ルイズも思わず頭を捻る。

 

「はい『ミス・ツェルプストーの視点で竜の羽衣の詳細を聞かせて欲しい』と」

 

「キュルケ、あんたいつから技術屋になったわけ?」

 

「さぁ? でもまぁ退屈はしなさそうだし、従うことにするわ」

 

果たしてそれは本当に退屈しのぎなのか否か、本当のところはキュルケ自身にしか解らないだろう。

 

 

 

 

話も段落がつき、庶民の味もバカに出来ないと舌鼓を打ち、タルブに名品ありと云われるだけはあるワインを楽しんだ後、ルイズは紗久弥と二人で村を散策する事に。

 

「ん……ん、ふぅ……」

 

腹ごなし、もしくは酔い醒ましにもなる散歩。

 

ルイズは夜の空気を目一杯取り込むかのように、伸びをする。

 

「……ねぇサクヤ」

 

その名を呼ぶ声に、いつに無い覚悟を感じ、紗久弥は言葉の続きを待つ。

 

「一度、一度で良いの『本気』の貴女と戦いたい」

 

酔いはまだまだ覚めはしない、けれど意思はしっかりしている、今思い付いた物ではない。

 

「あの光景の中で、平然と立つサクヤを見て、私は貴女の『全力』を知りたくなった。そして……そんな貴女の隣に立てるのか『主』として何処まで近付けているのか……それを知りたい」

 

「……もし、このルーンが無くても、私はきっとルイズの使い魔になったと思う……そう言ったとしても、そんな事はきっと欲しい答えじゃないんだよね?」

 

ルイズが欲しい答え、それは『戦友』足り得るか否か、それに限る。

 

圧倒的等では片付かないその力の差。

 

使い魔の契約で従うだけではないと、紗久弥は言った。

 

それはそれで十分嬉しくはある、けれどそれでは『対等』とは言えないだろう。

 

ならば、今の自分が何処まで通ずるか、それを知りたい。足りないのなら、もっと努力すれば良い。

 

幸い努力を苦に思う時期などとうの昔に捨て去った。

 

「解った、でも一つだけ条件があるわ」

 

「条件?」

 

それは……


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