二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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錆びた標(巌戸台駅前)

「この……ボロボロの何かが破邪の標であることは間違い無さそうね」

 

周囲を探るものの、らしき物はこれ以外に見当たらない、タバサとキュルケの二人でディテクト・マジックを掛けても欠片も魔力の気配がない。

 

当然、破邪の標と呼ばれるコレからも。

 

「紗久弥に見てもらいましょう」

 

ルイズの落ち着いた声。

 

ルーンの繋がりはしっかり感じる、無事であることは間違いない。それでも、あれほどの大技が出ていたのだ、怪我はしているかも知れない……と思ったが、紗久弥の場合メシアライザーがあるのでその心配もないか。

 

そう思い至ると、自然と落ち着けた。

 

「じゃあギーシュ、それお願いね」

 

「ああ、任せたまえ、ワルキューレ!」

 

優雅(っぽく)薔薇の杖を振り、一体の青銅の戦乙女を作り出し、標を運ばせる。

 

(……紗久弥、すぐ戻るわ)

 

 

 

 

一切が吹き飛んだベースポイントを見て、標探しから戻ったメンバーは一様に口を開いていた。

 

喋っている訳ではなく、ただ開いているだけである。

 

「あ、おかえりー」

 

そんなメンバーを何時ものように迎える紗久弥。

 

「あ、ああ、うん、ただいま」

 

異変しかないその状況で、異変など無かったかのように紗久弥は笑顔を見せ、それにつられたかルイズ達も思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「どうだった?」

 

むしろこちらが聞きたいと思う一行ではあったが、取り敢えず『破邪の標』を紗久弥に見せる。

 

「これ……!?」

 

驚き、何かに戸惑いながら、紗久弥は標に触れる。

 

錆び付いて、朽ちる手前であるかのようで、尚原形を残しているのは、魔法でもかかっているからなのか。

 

錆の中に文字が見える、それは紗久弥にとって今日のように思い出せるかつての日常。

 

その日常の中にあったそれは、二つの大きな思い出を甦らせる。

 

一つは毎日の、もう一つは。

 

「荒垣先輩……」

 

一緒に出掛けたりお話をしたり、料理もした、深層モナドに二人で潜っていつもサマリカームをかけたり……楽しい(?)思い出が胸一杯に甦る。

 

「サ、サクヤ?」

 

物思いに耽る紗久弥から、何か不穏な気配を感じ取ったルイズは、思わず半歩後退する。

 

(思えば順平もゆかり……真田先輩に天田くん、コロマルにアイギス、それに美鶴先輩も、良いリアクションしてくれたっけ……)

 

次第に紗久弥の口からくぐもった笑い声が聞こえ、ルイズは更に半歩引く。

 

靴が土を踏み、小石を巻く音がすると、紗久弥の眼がルイズを捉える。

 

ルイズは一歩更に引く。

 

「ごしゅじんさま」

 

いつの間にかがっしりと肩を掴まれ、後退を許されなくなった。

 

ルイズの頭に警鐘が鳴り響く、母を思い起こさずにはいられない、逃げたい、絶対ろくなことにならない。

 

「宝探し終わったら、楽しい事一杯しようね?」

 

絶対、私は楽しくない、そう確信せざるを得ない程、ルイズは寒気を覚えていた。

 

 

 

 

「馬を見付けて」

 

次の目的に行く前に、逃げてしまった馬をシルフィードで探してもらう事にして、欠片も残っていない馬車の荷台をどうしようと悩む一行、学院の物なので弁償費用は免れない。

 

せめて馬を見付けなければ、学生……それが流石に公爵家の娘であろうと、結構苦しい金額が請求されるだろう。

 

「ごめんねルイズ」

 

「サクヤが居なくなるより遥かに安いわ、何か戦った相手の証明に出来るものがあれば、お許し頂けるかも知れないけど……」

 

刈り取る者の得物でもあればと思うが、そうも言えない、あったとしても、それが刈り取る者の物であると相手が知らなければ意味はないからだ。

 

「ま、大人しく罰を受けるわ、それが主人の務めだもの」

 

「ルイズ……」

 

だから『お楽しみ』は無しにして欲しいと、心の底から願うルイズであった。

 

 

 

 

紗久弥が咄嗟に逃がした学院の馬は、無事に事を乗り越えた森の中に居たそうだ、これで弁償は荷台のみとなるとルイズがホッとしたところで、紗久弥はどうせなら馬車も作ってしまおうと言い出した。

 

幸い、車輪はあったので後は荷台部分とサスペンションにダンパーであろうか。

 

接合パーツは技術的に難しいと判断して、ボルトではなくリベットで。

 

「取り敢えず必要なものの設計図はこんな感じだね」

 

ギーシュにチューインソウルをダースで渡し、素材を指定してつくってもらう事に。

 

尚報酬はモンモランシーの熱いベーゼである。

 

「じゃあやるよ『練金』!」

 

次々と作られるパーツを、興味深く見るのは意外やキュルケ。どうやらコルベールの研究室に通う内に、エレオノールに負けじとそう言った方面の知識を深めていく様になったのだとはタバサの談。

 

「これって……ゲルマニアでも見ない技術だわ……」

 

全てのパーツが作られたところで、リベット以外に固定化をかけてもらい組み上げる。

 

ダンパーは油圧式にしようかとも思ったようだが、構造が今一解らなかったらしく、かなり硬いバネを代用。

 

稼働部はリベットの代わりに棒を通して、その両端を荷台の枠にリベットで固定、稼働部がずれないようにストッパーを作る。

 

完成した頃には、荷台部分も出来上がっていたので、これを組み上げて、馬車の完成。

 

かなり簡略化されてはいるが、馬車の荷台であるのだからこの程度で十分だろう。

 

馬は二頭まで繋げることが出来るようにした、元々荷物用の荷台を借りていたのだし、このくらいは出来ても良い。

 

「さあ、明日は傾国の鎧ね」

 

日は既に傾き始めている、今日はこの場所でテントを張る事に決め、支度に取り掛かる面々。

 

次の目的地発表、しかしあるかないか解らない傾国の鎧より、紗久弥が作った馬車の車輪を見せた方が喜びそうだと、キュルケは思う。

 

だがこれは遊びではなく課題である、傾国の鎧探索はしっかり行わなければ……コルベールの評価を下げたくない一心のキュルケであった。

 

 

 

 

明くる朝、馬車で移動を始めたとき、ルイズにキュルケは当然として、モンモランシーもその馬車の、紗久弥が作った物の真価をその身で確と感じた。

 

そしてタバサも、本来感じる揺れをほぼ感じないという事態に、本ではなく車輪を見つめている。

 

手綱を取るギーシュも驚きを隠せず、興奮気味に紗久弥に色々聞いていく。

 

「あー……この揺れ心地よすぎて眠れそう……」

 

そう口にしながら、ルイズは紗久弥の膝に頭を落とすのだった。


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