二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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刈り取る者

ルイズ達が発って暫く、木々や草花の葉擦れや鳥、虫の声を楽しみながら、紗久弥は馬車の荷台でのんびりと過ごしていた。

 

『退屈は、してないみたいだね』

 

「うん、まぁね」

 

時折殺気が向けられはするが、ルシファーをアクティブにしているせいかお陰か、すぐに引っ込んでいた。

 

「……ずっと、ここに居たいけど……」

 

そう呟くと、紗久弥の意識は微睡んでゆく。

 

疲れているのだろうか?等と思いつつも、瞼が閉じていくのを止められない。

 

 

 

……このまま、目を、閉じようか……?

 

 

 

『紗久弥にお客さんだよ』

 

ファルロスの言葉、そして自身に向けられる殺気で、紗久弥の目は完全に覚めてしまう。

 

「……人?」

 

ルシファーの気配を無視して近付くことが出来るのだ、強いか鈍いかのどちらかで、前者であれば声や殺気等なくとも目は覚めただろう。

 

とすれば、こちらに害なす者であると、判断して、人だと当たりを付けた。

 

警戒する事暫し、音を立ててそれは姿を見せる。

 

「こんなところに馬車が停めてあるぜ」

 

「お、見ろよ、誰か乗ってるみたいだ」

 

野盗の類いだろう、囲まれる前に紗久弥は荷台から降り立つ。

 

聞こえるのは感嘆と卑下た口笛。

 

『隠れてるのも入れて、ざっと十五人だね』

 

男達は、これから目の前に降り立ったメイドの美女を、好き放題にする妄想をしているのだろう、歪んだ笑みを溢すのみ。

 

「へへへ……メイドさん、こんなところで貴族様の馬車のお守りかい?」

 

いよいよその妄想を実行に移そうと、野盗の頭とおぼしき男が紗久弥に歩み寄ってくる。

 

「ええ、主は只今森林浴を楽しんでおられますので」

 

「へぇ……メイドさんを置いてとは中々お強い貴族様のようだ、それとも護衛が優秀なのかな?」

 

どうやら只の野盗とは毛色が違うようで、紗久弥の実力をある程度測れるようだとファルロスは言う。

 

同時に隠れている野盗も、紗久弥への包囲を強固にしていく。

 

潜む野盗にはメイジも居るのだろう、だが、それらとは明らかに異質な魔力の高まりを感じると同時に、ペルソナをシヴァに変えてプララヤ発動の用意を済ませる。

 

 

 

 

「オーク鬼の集団も、もう私たちの敵じゃないわね」

 

発動させたペルソナを戻し、髪を掻き上げるキュルケの色香に、思わず見惚れるギーシュに一撃を決めるモンモランシー。

 

ルイズがキュルケとタバサの二人もペルソナを覚醒させたと知ったのは、母から始祖の祈祷書を受けとる前の事。

 

「キュルケのヤクシニーにタバサのパールヴァティねぇ……それってサクヤの世界の神様とかよね?」

 

「ん、そう言ってた」

 

そう言ってたどころか、紗久弥も所有(全書に登録)しているペルソナである、ルイズは素材のスキルに不満があるのか、まだ作っていないが。

 

「ハルケギニア由来の神様ってよくよく考えると少なすぎるわよねー」

 

「基本的にブリミル教が当たり前だと言うのが大きい」

 

「まあ君達、今は教義を語るよりも先に進もうじゃないか、地図の示す場所は幾つかの候補があるのだし」

 

ギーシュの指摘を受け、ルイズ達は一様に頷いて前へと進む。

 

この先に眠るとされる『破邪の標』に向かって。

 

だが、数歩進んだ辺りで、唐突に轟音が届く。

 

「あれは……メギドラオン……!?」

 

 

 

 

「かはっ……っくう……!」

 

隠れていた野盗が、紗久弥に向かって魔法を放とうとした刹那、紗久弥は森の中にプララヤを放つ。だが、鎖の擦れる音が耳に届くと同時に、野盗の頭を中心に大爆発が巻き起こる。

 

それは正しくメギドラオンであり、それを放ったのは、出来ればもっとルイズ達が成長してから出会いたかった、奴。

 

今のメギドラオンで野盗の命、殆どはその名のままに奴に『刈り取られて』いた。

 

「……何の前兆も……影時間も無しで、出会うなんて……ね『刈り取る者』……!」

 

『ルイズ達を呼んでこようか?』

 

だが、紗久弥はファルロスの提案を蹴る。

 

今のルイズ達では、メギドラオン一発で沈むだろう、それでは足手まといなのだ。正直、誰かがメディアラハンやサマリカームでも所持していない限り、後手にしか回らない。

 

(ハルマゲドンは持っているけど……こんなところで使ったら、森が消し飛んじゃう……)

 

先程のプララヤとメギドラオンで結構な範囲が吹き飛んでいるものの『消し飛んで』いる訳ではないとだけは記しておく。

 

怨嗟のように手に持つマグナムを乱射して、刈り取る者は再びメギドラオンを放ってくるが、対抗し、紗久弥はルシフェルにペルソナを変えて明けの明星を放ってそれを相殺、刈り取る者にダメージを通す。

 

 

 

 

キュルケは急いで戻ろうと踵を返すが、ルイズに腕を掴まれて仰向けに転けそうになる。

 

文句の一つや二つや三つや四つ言おうと振り向いたキュルケが見たのは、唇を噛んだルイズの、悔しそうに涙を堪えた顔。

 

「ルイズ……?」

 

暫くの沈黙、それを破るのは誰の言葉でもなく、突然の閃光と轟音では足りない程の爆発音それが僅かにずれて届いた。

 

「戻ったって……サクヤの足手まといになるだけよ……」

 

あれ程の閃光と爆発、間違いなく片方はメギドラオン、もう一つは話に訊いているだけの『明けの明星』だろう。

 

何れも、まだ自分達では使えない強大な魔法だ。

 

その何れも、メギドラの上位であるとしか今の自分達には理解できない。

 

「でも……!」

 

「私が……!戻りたくないと思ってるの!?」

 

絞るように吐き出された言葉、誰よりもあの場所に戻りたいのは、他ならぬルイズなのだ。

 

だが、それは紗久弥の足手まといになると、理解してしまっている、悔しくて、情けなくて、涙が溢れてくる。

 

「……行こう、ここでこうしていても、宝は僕たちの所には来ない」

 

思いもよらぬギーシュの言葉、だが今それを咎めるものは居なかった……

 

 

 

 

「ディアラハン……っと、全くバカスカとメギドラオンだのマハンマオンだのマハムドオンだの使ってくれちゃって……『ゴッドハンド』」

 

マハタルカジャとチャージで強化したゴッドハンドで刈り取る者を叩き潰して戦闘終了。

 

苦戦を強いられはしたが、アリス(改)を装備し、回復の機を逃さないように戦うだけだった。

 

「ルシフェルのままだと危なかったわ……」

 

紗久弥を狙った野盗達の遺体は、刈り取る者のメギドラオンで跡形もない。

 

だが、それでも紗久弥は彼らの為に、祈りを捧げる、せめて安らかに……と。

 

 

 

山間にある朽ちかけた何かの建物、その中。

 

重苦しい空気のまま、ルイズ達は目的の宝らしき物を見付けていた。

 

「……何かしら、これ」

 

「何って……破邪の標じゃないの?」

 

無造作に佇むのは、錆の浮いた何かだった。


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