ルイズ達は足早に王城に辿り着き、アンリエッタに報告を済ませると、学院へと戻っていった。
そして執務室に於いて、この一件を検討する二人。アンリエッタとマザリーニ。
「モンモランシ家の御息女に目をつけるとは思いませんでしたな」
アンリエッタは紗久弥からの手紙で報告を受けた後、これをマザリーニに話し、後正式にモンモランシーへの任命を行う事になっている。
「ま、交渉出来ると言うのであれば、問題は無いでしょう。後ろの汚い物は私達で片付ければ良いのです」
それよりもと、アンリエッタはマザリーニに一通の手紙を寄越す。
「ふむ……これは何と……」
それは正しく招待状だった、ガリア王からのチェス対局観戦の招待状。
思惑があっての事か否か、判別をつけられないが、一つだけはっきり言える事がアンリエッタにはある。
「ルイズの活躍、観ないわけにはいきませんわ」
ニューカッスルはウェールズの居室。
そこでウェールズは届いたガリアからの招待状に目を通し、いつぞやの出来事と関わった少女達を思い出す。
「あの日、救われた我が命……いまだに信じられんが……私は生きていて、アンからの新たな手紙も読むことが出来た。そうだな……折角の機会、使わせてもらおう」
そして、ゲルマニア皇帝アルフデヒド三世の元にも招待状が届き、彼も出席を伝える。ここに、ガリア王ジョゼフ一世を始め、四国の王が集うチェス交流会が開催される運びとなった。
その渦中の少女は、学院へ着くと約束の牛一頭を学院から買い取り、シルフィードに出すように紗久弥に伝え、一旦部屋に戻り、タバサに渡された手紙を読む。
「はあ……ガリアの王様と一席設けることになるなんて……」
王族と指す事は始めてではないが、それはアンリエッタやタバサと指す機会があるからで、こうして公の場で指す事は始めてである。ましてや他国の王を相手に等、父や母でもあるかないかだろう。
「うう……緊張してきた……」
紗久弥に仕事を命じたのは失敗だったと今さら思う、こんな時にこそ一緒に居て欲しいのに、と。
ため息を一つ溢して、ルイズは紗久弥との棋譜を書棚から引っ張り出して眺め始める。ニューカッスルからの帰りのフネから始まった、対局と指導。その殆どの棋譜、随分と溜まった物だとルイズは微笑む。
不思議と心は落ち着いてきた。
一局一局、棋譜から感じられるのは紗久弥の気配。
落ち着いた、そう感じた途端瞼が重くなってきた。抗うこともなく眠りに誘われ、棋譜を抱いたままルイズは眠りについた。
「あら?呼んでいないのにここに来るだなんて、貴女で二人目よ……フフ、これもきっと運命の導き……そう、貴女はそのゲームで遊ぶのね?良いわ、一局相手になりましょう」
「ごめんなさいね?勝負事には負けてあげられないの……え?また勝負したいと……ええ、勿論構わないわ。でも、ただ勝負するというのも面白くないわね?」
ルイズは少し考えて、賭けを申し込む。
「フフ、良いわよ。貴女が勝てばご褒美をあげる、でも私が勝てば、簡単なお願いを聞いてもらうわ」
簡単なお願いとは何かを聞くと、その時に必要だったり必要ではなかったり、そんなお願いだとマーガレットは微笑む。
「そろそろ主も戻って来るだろうし、この密会も一旦お開きね。またいらっしゃい、主不在の時はまたチェスを楽しみましょう」
目を開けて周囲を見渡す。
「まだ、戻ってないのね」
然程時間は経っていないようである。紗久弥を気にかけるよりもルイズはまっさらな棋譜を取り出して机に向かう。
側にチェスを置いて、先ほどのマーガレットとの一局を思い出しながら、駒とペンを動かしていく。
紗久弥が戻って最初に見たのは、机に向かっているルイズの姿。勉強かとも思いはしたが、側のチェスを見て棋譜を書いているのだろうと思うが、相手が思い付かない。
とりあえず後で聞いてみることにして、おやつを用意するため再び部屋を後にした。
「んー……んっと」
軽く延びをしたところで、紗久弥が丁度部屋に戻ってきた、手に何かを持って。
「戻ったのね……その手に持っているのって何?」
「これ?タコスっていう食べ物だよ」
その時、ルイズに電流走る。
何故かは解らない、或いは解っているのかもしれない。
ルイズは受け取ったタコスを一口かじり、ゆっくり咀嚼。その味を噛み締めていく。
やがて食べ終わると、紗久弥におかわりを要求。だが紗久弥はこれを却下、また明日作ることを約束した。
「ちゃんと作りなさいよ?」
「うん、気に入って貰えて良かったよ」
ルイズはタコスとの出会いをもたらした紗久弥に、ますます惚れ込んだと、後に語るかどうかは解らない。だが、この日、確かにルイズはタコスに出会い、運命を、否、魂を感じたのである。