二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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水の精霊

ラグドリアン湖の畔に馬車を停め、モンモランシーとキュルケはタバサにギーシュ達を任せて湖に向かう。

 

「で、これからどうするの?」

 

「水の精霊に話を聞くの。馬車でも言ったけど、元々モンモランシ家は代々水の精霊の交渉役を任されていてね、私も水の精霊と交信は出来るのよ」

 

懐から針を、持ってきたバッグから蛙の使い魔『ロビン』を出すと、針で指を刺し血を絞ってロビンの舌に数滴落とす。

 

「ロビン、この血を水の精霊に」

 

湖にロビンを放すと、スッと湖に潜っていった。

 

「後は水の精霊の機嫌次第ね……」

 

 

 

「シルフィードがこちらに向かっている」

 

ロビンを放して暫し、タバサがそんな事を言ってきた。

 

「シルフィードが?」

 

「ルイズ達と一緒」

 

それを伝えると、再び馬車に戻ってしまった。

 

(ルイズ達が……?あの子、お姫様に呼ばれて王都に行った筈……ん?)

 

「水面が……」

 

細波が揺らいで大きくうねり出すと、モンモランシーがやっと来てくれたと呟いて、湖に入っていく。

 

すると水面が『立ち上がって』人の形となるが。

 

「モンモランシー?」

 

「水の精霊の特徴よ、交信者の姿をとって声を出すの。この場合、私が交信者として認めてくれたと言うことよ。お久し振りです、水の精霊」

 

モンモランシーの姿をとった水の精霊は、ゆっくりと周囲を見渡すような動きを見せて、喉の辺りの水を微細に振動させると。

 

『覚えている、単なる者』

 

声を発した事にキュルケは驚いた。

 

「では、先ずはお願いが御座いますが、宜しいでしょうか?」

 

モンモランシーの問い掛けに、水の精霊は暫く動かずに居たが。

 

『如何なる用か』

 

どうやら話は訊いてくれる様で、ほっと一息吐いてモンモランシーは問い掛ける。

 

「このところ貴方の御身の分身たる秘薬が市場に出回っておりません。現在私共の一族は貴方様との交渉役では御座いませぬ故流通状況を把握しておらず、出来れば現交渉役との交信状況を伺いたいのです」

 

『……大いなる意思の世界の始まり、その時を境に新たな交信は途絶えた。以後、交信は一切行っていなかった。単なる者よ、我が身を欲するか?』

 

「あ、は、はい!欲しいです!」

 

『器を』

 

水の手を翳し、モンモランシーに器を要求。それに応え器をキュルケから受け取り差し出すと、そこに一抱えもある水球が落ちる。

 

「こ、こんなに!?」

 

『単なる者よ、願いが……!!』

 

水面がざわめいたと思うと、それは次第に強く波打ち始める。

 

「モンモランシー!急いで岸に!」

 

「くっ『フライ』!」

 

水の精霊の秘薬を抱えて、激しく波立つ湖からどうにか戻り、湖を眺める。

 

「一体……何が……」

 

『おお……おお……よもや、よもや……!!』

 

立ち上がるのは最早波ではなく湖そのもの。その光景に、普段の穏やかさ等微塵もない。

 

「馬車に戻りましょう!」

 

降り注ぐ水の塊をキュルケのファイアウォールで防ぎながら走り、どうにか馬車へともどれた

時には全身びしょ濡れだった。

 

「全く……なんだっていうの……」

 

馬車から湖を見返すと、そこには見慣れた少女二人と一頭の風竜の姿。それに対峙する見た事のない女性の形をとった水の精霊。

 

「……精霊ウンディーネ……まさか本来の姿になるなんて……」

 

「本来の姿?」

 

水の精霊を始め、精霊魔法(先住魔法)とその下位である系統魔法は共に自然界の様々な物に宿る精霊に働き掛ける魔法ではあるが、この『精霊』が何から産まれているかと言えば、所謂『大精霊』と呼ばれる存在からである。

 

ラグドリアン湖の精霊はその中でも高位の分霊で、大精霊『ウンディーネ』の力そのものを持ち、ウンディーネの受け皿となれる存在で、極めて稀に分霊はウンディーネと代わり、ラグドリアン湖を浄化することがある。

 

この事は、代々水の精霊の交渉役を行ってきたモンモランシ家にのみ伝わり、トリステイン王家でさえ知らぬ事である。

 

「でも……まさか本当に……」

 

「もしかして……あの二人のどっちかに反応した?」

 

「行く、モンモランシーは馬車」

 

タバサはキュルケの側に立つと、モンモランシーに下がるように伝えて湖に向かってフライで向かい、キュルケはその後を追う。

 

「気をつけなさいよー!」

 

 

 

 

時は遡り今朝の事。

 

ルイズの髪を梳かしていると、フクロウが窓を叩いた。

 

「サクヤ、お願い」

 

「うん……ちょっと見せてねー」

 

フクロウの足に付けられた筒から手紙を取り出して、フクロウを帰す。

 

「誰から?」

 

「アンリエッタ様からルイズに勅命、直接伝えるから登城しろって」

 

「じゃあ学院長に伝えに行くから、早馬の手配お願い」

 

「了解」

 

 

 

 

ルイズ達がそれぞれの用事の後、部屋に戻って仕度をしているとキュルケ達が訪ねてきた。

 

「はぁーい、ルーイズー」

 

「ねぇキュルケ?挨拶に関してはもう何にも言う気はしないけど、どうして抱き付くわけ?」

 

ぎゅむっと押し付けられる憎々しい脂肪の塊。

 

「だって最近の貴方ってばすごく良い香りがするんですもの」

 

その言葉を聞いたタバサもルイズの香りを確かめて。

 

「……ハシバミ?」

 

「何で解るの!?」

 

ルイズは現在、紗久弥手作りのボディソープを使っているが、その中にハシバミ草から抽出したオイルを少量混ぜていると聞いている。

 

口を濯ぐ時の水にも一滴垂らして、口内を爽やかにしているのだとか。

 

「ハシバミ草のポテンシャルどうなってんのよ……」

 

驚くキュルケをよそに、タバサは紗久弥にハシバミオイルを譲ってもらって、製法も教えてもらい大満足であった。


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