二人の『ゼロ』   作:銀剣士

22 / 54
力が欲しい

ルイズ達のみでシャドウと戦ってから一週間。

 

タバサは影時間の度に草原へシルフィードに乗って通い詰めた。力を求め、ペルソナを求めて。

 

だが、ペルソナが目覚める事はなく、得たものは対シャドウ戦闘の経験に絶え間ない怪我。

 

その間に祖国よりの密命を受け吸血鬼を倒し、そのまま『地下水』と呼ばれる暗殺者を倒した。

 

尤も……

 

「デルフの旦那、タバサ嬢は何を焦って居るんでしょうね?」

 

「力が欲しいんだとよ」

 

その『地下水』と呼ばれる暗殺者の正体は、デルフリンガーとくっちゃべるインテリジェンス・ナイフ。

 

「力ですか……十分強いと思いますがね」

 

「嬢ちゃんが求める力ってのは、上見ちまってるもんだから際限がねぇのさ」

 

タバサが宿す闇の奥、根底にある『救いたい、救われたい』と言う願い。

 

『殺意』と『願い』

 

闇の中で、二つは混ざりあい『迷い』となる。

 

だが、本来この二つは『同一』のものだった。

 

『越端紗久弥』

 

彼女と言う『目の前の救い』が現れなければ……否、知らなければ。

 

だがタバサは知ってしまった、母を彼女に任せれば恐らくは治せると言うことを。

 

『自分の命』を引き換えにしても『生き返らせて』貰えるだろうと言うことを。

 

揺らいでしまったのだ、力を求める根底が。

 

だからこそ、タバサは改めて力を求めている。

 

『揺るぎのない力』を。

 

紗久弥に頼らずとも『願い』を叶えられる力を。

 

『殺意』と『願い』の中で迷いながら……

 

 

 

 

ギーシュは一心不乱に杖を振る。

 

エレオノールの教えのまま、倒れる寸前まで。

 

悔しかった、影時間でワルキューレと言う『動かせる壁』の役割しか出来なかった事が。

 

戦術を改めて父に教わる事にした、手紙でだが。

 

「七体のワルキューレを同時に操れる様になる前に、思い通りに動かせる数を増やしていきなさい」

 

現状『完全に自分の意のままに同時に』操れるのは二体と言う体たらく。

 

それでも四体までなら『同時に動かす』事に違和感はない。

 

六体になるとぎこちなくなり、七体だと『戦術的に動かす』事は難しい。

 

これをエレオノールは、ドットであるがゆえと見ている。

 

ワルキューレを初めて見たときは、数と造型からラインクラスと勘違いしたが。

 

だからこそ、ギーシュに才能を見た。

 

(真面目に修行すれば在学中にトライアングルもあり得るはず)

 

エレオノールはルイズの為に培ってきた知識をギーシュに向ける事に決めた。

 

後にギーシュはスクエアメイジとなるが、それはまだまだ先の話。

 

 

 

 

キュルケはフレイムと共に荒れ地に居た。

 

「さ、やるわよ!」

 

『プロミネンス』を唱える。歌うように、踊るように、情熱的に、身を焦がす『微熱』のままに。

 

(この子を自在に操ることが出来たなら、私はあの子の傍に居られる)

 

だが、発動した『プロミネンス』はキュルケの精神力を根こそぎ奪っていく。

 

「ぐ……う……!」

 

「『ウインド』!」

 

倒れそうになりかけた所で、杖を吹き飛ばされ、倒れなかった事に安堵しながらも声の主を睨み付けるが、そこに居たのはコルベールだった。

 

「ミ……スタ……?」

 

「ミス・ツェルプストー、無茶な魔法を使いますね」

 

呆れながらも、安堵の溜め息を吐くコルベールに、キュルケは問いかける。

 

「何故……ここに……?」

 

「たまたまですよ。ここにはよく訪れるんです、屋内で実験出来ないものを実験する時にね」

 

そう言って、手に持つ筒を見せ、マントを外してキュルケに座るよう促すコルベール。

 

「あの炎の龍の魔法ですが、貴女が扱うにはまだ早い……と言うのはご自身が理解しているようですが?」

 

促されるままコルベールのマントに腰を下ろし、キュルケはポツリと言葉を洩らしていく。

 

「……置いていかれるんです、このままだと」

 

そんな事を寂しそうに、悔しそうに。

 

ルイズがキュルケを羨むように、キュルケもまたルイズを羨んでいる。

 

『普通のメイジ』には決して歩む事の出来ない道を行き始めたルイズが、心より羨ましい。

 

キュルケの才能は学院に於いては確かにタバサと並び突出している。だが、それでも『普通のメイジ』でしかない。

 

ルイズの様に『特別』ではないのだ。

 

だからこそ、置いていかれる、そんな気がする。

 

認めたくはない、そんな事は。ツェルプストーの女がヴァリエールの女に遅れをとるなど……そんな建前に頭を振り、違うと苦笑する。

 

寂しいのだ、ただ、単純に。

 

一歩も二歩も自分が前を歩いて居た、時に並んで……そう、紗久弥が現れるまでは。

 

気が付けば、ルイズは紗久弥と歩き出していた。自分を置いて。

 

そして、アルビオン。

 

脳裏に浮かべると、胸が貫かれた時の感覚が蘇る。

 

こうして生きていることが奇跡としか言えない。

 

「ミス、顔色が悪いですぞ、学院に戻り医務室で休んではどうですかな?」

 

「大丈夫……です」

 

そうだ、私は大丈夫。そう自分に言い聞かせてゆっくりと立ち上がる。

 

この傷も、ルイズに置いていかれそうな焦りと寂しさも、引っくるめてキュルケは前を向く。

 

「ミスタ・コルベール」

 

「何ですかな?」

 

「……貴方の『炎蛇』を教えて下さい」

 

荒れ地に、強い風が吹き抜ける。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。