二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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宴、そして

「ーーお帰りなさいませ、皇子」

 

出迎えたのは老執事とメイド数名。

 

「ああ、ただいま。バリー、トリステインからの使者が参られた、彼女が使者団の団長、トリステイン王国ラ・ヴァリエール公領ヴァリエール公爵家三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢、そして彼女がミス・コシハタ、ヴァリエール嬢の使い魔なのだそうだ」

 

ウェールズは次いでキュルケとタバサをあくまでも魔法学院の生徒と言う形で紹介し、バリーと呼ばれた執事は、一つの疑問を浮かべていた。

 

ギーシュとワルドは使者団の一員としてではなく、マリー・ガラント号の乗客として紹介された。

 

「しかし……人が使い魔……ですか?」

 

ただのメイドにしか見えないですが……と呟いたバリーの言葉に、ウェールズは紗久弥を誉めちぎる。

 

それはまるで、アンリエッタの事を話す時の様だと、否、それよりも熱がこもっているのでは?と、バリーは思う。

 

なにより信じられないのは、軍の精鋭の一部で編成した『空賊』を制したと言うこと、使者団四人でとなっても、とても信じられる話ではない。

 

このバリーの疑念に、ウェールズはある提案をする……前に。

 

「ミス・ヴァリエール、申し訳ないが暫しの間ミス・コシハタをお借り願えないだろうか、勿論後で詫びをする」

 

「は、はい、どうぞ」

 

勢いに圧されたままに承諾、ウェールズはそれを受け、紗久弥の手を取り宣言する。

 

「彼女に勝てた者には、エキュー金貨千、出そう!これは宴、武闘会である!だが、彼女に挑めるのはただの一人、武を競い覇を唱えた者のみに彼女に挑める権利がある!」

 

その宣言に食い付いたのはワルドであった、他国の私も参戦できましょうか、と。

 

ウェールズは力強く頷き、強き者なら歓迎すると、声を高くに張り上げ。

 

「この場に居る強き者達よ!挑むがいい!私も挑む!」

 

暫しの沈黙の後、ボルテージは一気に最高潮となり、一様に中庭へと向かう。

 

その中には、キュルケとタバサ、ギーシュの姿もあり、ワルドも当然と言わんばかりに。

 

「なんか、凄いことになっちゃったね?」

 

「断りなさいよあんたもぉぉぉぉぉぉっっっ!!」

 

ルイズの絶叫を尻目に、人は皆居なくなった。

 

 

 

中庭では既に幾つかの戦闘が決着、その勝者の中には意外なことにギーシュの姿もある。

 

「フフ、私の『微熱』は堪能頂けましたかしら?」

 

キュルケ。

 

「これで仕舞い」

 

当然のようにタバサも、勝ち名乗る。

 

「あらルイズ、貴方も参戦したら?」

 

熱気に圧され呆気にとられるルイズに、良い汗かいたとばかりに髪をかき梳くキュルケ、その彼女のたわわに実った揺れる胸。

 

その色香にあてられる男たちと一部の女。

 

(ぐぬぬ……自慢げに……)

 

隣に居るタバサからも、似た気配を感じるのは気のせいではないだろう。

 

「ルイーズ?」

 

「はっ!?な、なによキュルケ」

 

「や、だから貴方は出ないの?って訊いてるじゃないの、人の胸に食い入ってるから聴き逃すのよ」

 

キュルケは呆れつつもわざとらしく腕を組み、胸を持ち上げるように強調すると、どこからか口笛が聞こえた。

 

男を挑発するには十分で、女も挑発される者も居る。

 

挑発に込められた意味合いは大きく異なる気もするが。

 

ともかく、ルイズに参加の意思はなく良いからさっさと次に行けと言わんばかりにキュルケをしっしっと、送り出す。

 

「あらつれない」

 

キュルケもそれに応じ、ヒラヒラと手を振って『会場』へと戻っていった。

 

 

 

武闘会こと『宴』も正に宴もたけなわ、会場に立つは四人の猛者。

 

ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド

 

ウェールズ・テューダー

 

キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー

 

タバサ

 

の四名。

 

キュルケの色香に惑わされ、実力を読み違えた者や、タバサの見た目に実力を見誤った者は少なくないが、それでもウェールズは素直に感心していた。

 

少なくとも、あの時マリー・ガラント号に襲撃をかけたメンバーは手を抜いてはいない、だが勝てなかった。

 

二人とも、特にタバサの練度は非常に高く、ワルドでさえも感嘆を漏らす程。故にワルドはタバサと戦う事を望み、それをタバサは受ける。

 

「では、私の御相手くださいますか、ウェールズ皇子」

 

「ええ、喜んで」

 

差し出された手の甲に口付けるウェールズに、微笑みで応えるキュルケ。

 

そして行われる戦いは、対照的な物となった。

 

タバサとワルドの戦いは、血生臭い戦場を思い起こさせる程に鋭く、人々を拒む。

 

対してキュルケとウェールズの戦いは、情熱的なダンスでも踊っているかのように人々を惹き付ける。

 

ルイズもまた、キュルケとウェールズの戦いに釘付けとなって、思いを巡らす。

 

(私も、あんな風になりたかったな……)

 

憧れていた、初めて見たその日から。

 

強くて綺麗で、羨ましいと思っていた。

 

努力家だと知ったのはいつの事だっただろう?

 

その日にもっと憧れを強くして、自分との違いに泣いた。

 

頑張って上を向いていても、下を見れば涙は溢れて落ちるのだと知った。

 

ルイズは『踊る』キュルケを見ながら、頭を一つ振り、思う。

 

(お母様に、ちぃねえさまに、キュルケに、サクヤになれないのなら、私は私になる、誰もが認める私になる!)

 

 

ーー強き決意が、汝の心に我を生み出すーー

 

(!?)

 

辺りを見渡すと、世界は色を失っている。

 

ーー我は汝、汝は我ーー

 

(だ、誰!?)

 

ーー我は汝の心の海より生まれし者ーー

 

ーー我が名はブリミル、我は汝と共にあるーー

 

声が消えると共に、世界は色を取り戻して動き出す。

 

纏まらぬ頭で眺めていた会場で、それは起こる。

 

それは悪夢、キュルケが、ウェールズと共に、仮面の男に、胸を貫かれると言う、悪夢。

 

 

 

 

「き、キュルケェェェェェェッ!!」

 

飛び出したのはルイズと紗久弥。

 

タバサは、杖を手放してキュルケを抱き起こそうとしている。

 

ワルドは、その光景を、笑う。

 

「崩壊して行くレコン・キスタのせめてもの道連れだよ、ウェールズ。ああ、そのお嬢さんはせめてもの手向けだ、あの世で仲良くすると良い」

 

死んだ。

 

キュルケが、死んだ。

 

婚約者を名乗った男が殺した。

 

「ワルド……ワルドォォォッ!」

 

「はは、ルイズ、小さなルイズ、君は僕が連れていこう。僕の、僕だけの『虚無』ルイズ」

 

ただ、ルイズは叫んでいた。

 

心のままに、あの声の導きのままに。

 

 

 

「ペルソナァァァッ!!」

 

 

 

ルイズの周囲に蒼白い光が立ち上ぼり、目の前にカードが一枚舞い降りて、そのカードを握り潰すと蒼い焔となり、消える。

 

同時に顕現するのは金色の髪をたなびかせる青年。

 

その姿は一瞬で消えるものの、ルイズの雰囲気は先程までのものとは大きく異なる。

 

「これは……これが……サクヤの……」

 

「ルイズ!ちょっとワルドお願い!」

 

心の奥から沸き上がる力、それを何も疑わずに言葉にする。紅き力の奔流、炎の顕現。

 

「アギ!」

 

ワルドはそのルイズを鼻で笑う、まるで子供のおまじないだと。

 

だが、足下から立ち上る炎がワルドの下半身を焼き、耐え難い痛みが声を留めるを赦す事はなく。

 

「がぁあァァァぁぁッッ!?」

 

ルイズはずっと魔法を、普通の魔法を、皆と同じ様に使いたかった。なのに、ルイズが初めて普通に使った魔法は異質で、異端だった。

 

だが、憎しみに囚われたルイズに、その異質で異端な力への拒絶は無い。

 

「熱いですか子爵様?冷やして差し上げますわ、ブフ!」

 

 

焼け爛れた下半身に容赦なく突き刺さる氷の錐。

 

ルイズは次はガルにしようかジオにしようか軽く頭を捻り。

 

「ワルド子爵は風のメイジでしたわね、こちらをどうぞ、ジオ!」

 

短く発せられたルイズの言葉と共に迸る閃光は激しく音を鳴らして、ワルドに命中する。

 

「あ……が……」

 

最早ワルドに言葉を紡ぐ余裕はない。

 

「ルイズ!もう良いよ!」

 

紗久弥の叫び声に、ルイズはそちらを向く。

 

視界に飛び込んできたのは、泣き付くタバサを愛しそうに抱き締めるキュルケと、紗久弥に礼を述べるウェールズの姿。

 

(……!?)

 

信じられない、死んだ人が生き返るなど。でも、確かにキュルケ達は怪我さえしておらず、元気な姿を見せてくれた。

 

驚きはあったが、直ぐに嬉しさが勝り、キュルケに向かって走りだし、紗久弥と擦れ違い、キュルケに飛び付いて、泣いた。

 

「ちょ、ちょっと貴方まで」

 

「よかった……本当に……」

 

「もう……宿命のライバル、永遠の天敵の関係はどうしたのよ」

 

そうは言いながら優しく微笑んで、ルイズとタバサ、二人の頭を撫で、その殺気に気が付く。

 

 

 

 

「貴方が、仮面の男だったんですね」

 

ルイズの魔法による痛みからのショックで、最早ワルドに言葉はなく、ただ呻くのみではあるが意識ははっきりとしているようで、苦痛に歪む顔を向ける。

 

「助けませんよ」

 

震える手がゆっくりと伸びてくる。すがる様に。

 

「貴方はやり過ぎた」

 

チャリ……チャリ……

 

そんな音が紗久弥の耳に届く。

 

「次は、貴方が死ぬんです」

 

「……い……だ……」

 

「ルイズは今後今日の事で苦しむ事になるでしょう。ですから、今は逃げるだけの回復位はしてあげます」

 

ポケットから傷薬を取り出してワルドに使い。

 

「逃げるなら、どうぞ」

 

その全ての動作に、ルイズ達に向けられる様な温もりはない。

 

「……『フライ』……」

 

ゆっくりと浮かび、陽も傾き始め紅く染まり行く空へとワルドは姿を消し、鎖の音もワルドと共に消えていった様だ……

 

「ワルドは……?」

 

「逃がしたよ、ルイズの前であの男は血を流すべきじゃない」

 

尤も、生きていられる時間は、今夜迄かもしれないが。そんなことは、ルイズは知らなくても良いことと、紗久弥は黙っておく。

 

「何で……!」

 

そう紗久弥を睨むルイズの瞳には憎しみの炎。だからこそ、紗久弥はワルドを逃がしたのだ。

 

「サ……クヤ……?」

 

慈しむ様に、たしなめる様に、紗久弥はルイズを抱き締める。

 

「ダメだよ……ルイズは、ダメ……憎しみに囚われちゃ……キュルケも皇子様も無事なんだから……ね?」

 

「痛いよ……サクヤ……」

 

「うん……ゴメン……」

 

抱き締める腕が僅かに震えている事に、ルイズは抵抗をやめざるを得なかった。

 

(……サクヤ……)

 

紗久弥の背中にそっと腕を回して、ルイズは紗久弥を抱き返す。

 

こうしているだけで、憎しみに満ちていた心が落ち着くような気がする。

 

(……サクヤ……)

 

紗久弥の胸に顔を埋めて深呼吸。

 

良い香りがした。

 

クンカクンカスーハースーハー

 

(サクヤサクヤサクヤァァァァァァ)

 

モフモフ、モフモフ

 

「ちょ、ちょっとルイズ?」

 

クンカクンカスーハースーハー

 

 

 

 

ハルケギニアのサクヤに届けぇぇぇっっっ!

 

「……あれ?」

 

ようやっと正気に戻ったルイズを、紗久弥は流石に困った顔で見ていた。

 

胸に顔を埋めて深呼吸し始めてから、ルイズは何処かに飛んでいっていたような、そんな気さえする。

 

「うーん……何だかとても大切なものを失った気分だわ」

 

一心不乱にクンカクンカ、スーハースーハー。

 

何が悪い!!

 

とは言えないルイズである。




愚者・ブリミルLv??

ステータス
力・5
耐・4
魔力・14
速・8
運・7

耐性
斬突殴・無し
炎氷雷・無し
風・弱
光闇・耐

スキル
アギ
ブフ
ジオ
ガル

NEXT SKILL.Lv??
メギド


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