二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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死と白の国アルビオン

「ちょっと待ってくれルイズ、どうして君まで驚いてるんだい?」

 

「あ、いえ、その、初耳だったもので」

 

と、ルイズは言うが、これは彼女が覚えていないと言うか、覚えている方が不思議とも言える時期にルイズ抜きで話が決まった事に起因している。

 

ルイズ当時六歳の事である、十年も前の事、まして当時の頃に親から聞かされ一度合った程度で、覚えていると言うならばかなりの記憶力であろう。

 

ましてやこのルイズ、当時から母の魔法訓練で『そんな事』に気を回す余裕はなかった。件のパーティーの日は流石に訓練は無かったが、それでもルイズは自主的に訓練を行っていたのだ。

 

疲労も相まって『自分に関わりの薄い事』は記憶出来なかったのである。

 

ルイズは母の導きに希望を見出だし、前を向く強い子供時代を過ごしていた事もあり、ワルドとの思い出と言う思い出は皆無、ましてや憧れは母に抱いていたし。

 

今は紗久弥に憧れを抱いている様子だと、キュルケの談。

 

おまけに最近見た夢はベルベットルームと言う不思議な部屋の夢。

 

(そう言えば、契約は結ばれたとか言ってたわね……)

 

紗久弥に後で訊こう、そう決めて、一生懸命に婚約者アピールを頑張るワルドを見て、一言。

 

「では私の姉を説得なさってくださいませ、両親もですわ」

 

そして、最後に私の心を説得なさってくだされば、お受けするかどうか考えさせて頂きますと告げると。

 

「では殿下、先ずはこちらの手紙をお読み頂けますでしょうか、これに今回の私共の目的が記されております」

 

改めてウェールズの前に跪き、アンリエッタに託された手紙を渡す。その手紙を受け取ったウェールズは、封を解きゆっくりと手紙を広げて読み進めていく。

 

最後まで読んだ時、ウェールズはルイズと紗久弥、そしてキュルケとタバサに目を向け微笑む。

 

「用件は承った、だが生憎今は持っていなくてね、例のものはニューカッスルに置いてあるんだ。済まないが来てもらえるかな?」

 

「は、畏まりました」

 

「さ、公用は今はこれでお仕舞いだ、ニューカッスル迄のフネの旅、ゆっくりと寛いでくれたまえ、ミス・ヴァリエール達は、このフネの一等船室に案内しよう」

 

船員とワルド達をマリー・ガラント号に戻して、ウェールズ達アルビオン空軍はルイズ達を加え航路をアルビオンはニューカッスルへととったーー

 

 

 

 

「ーークク……ままならぬものよ、緑色の闇の世界のせいでこうもあっさりと我が手からかけ離れてしまうとはな……」

 

『あの男が力を使えば使う程、戦況の悪化は拍車をかけております。このままでは……』

 

「あの世界が訪れ続ける限り『指輪』は逆効果か……ミューズよ、余のミューズよ、指輪は……そうだな、回収して戻っておいで。今の盤にはもう飽いた、余と新たな一局を指そうではないか」

 

『ジョゼフ様……直ぐ様戻りますわ』

 

「……さて、どんな局を指すしようかーー」

 

 

 

 

ーーニューカッスルに着いたのは、空が紅く、遠くは闇が迫りつつある黄昏時。

 

二隻のフネはニューカッスル近郊の森を拓いた簡易の港に着陸、そこから歩いて城に向かっていたのだが、キュルケが街道の脇に経つ幾つもの石が立ち並んでいるのを見つけ、その事をボーウッドに訊いてみると。

 

「墓、ですよ、この戦争で戦うことなく散っていった兵士や傭兵達の……」

 

「戦うことなく……?」

 

ボーウッドの話によれば、ここ最近起きている謎の現象『緑色の闇の世界』が起こる度に、レコン・キスタの兵士が多く死体となっているのだと言う。

 

難を逃れ、王党派に帰属を求めた傭兵の話には、鎖が擦れる音の後にレコン・キスタ兵は死体となっていると訊かされ、調査にあたった王党派の兵士も多くは帰らぬ人となってしまったようだ。

 

「生きて帰ってきた者の報告では、見たこともない化物……いや、化物どころの話では無いようだったな」

 

ウェールズは続ける、それは精巧な二丁の銃を持ち、見たこともない魔法を使う。

 

その魔法は強力無比、スクエアスペルでさえも比べるに値しないかもしれない。

 

命からがら逃げてきた兵士からの報告を訊くに、そこにあるは絶望。

 

ルイズはその話に思わず紗久弥を見るが、その紗久弥もまた、顔を青くしている。

 

「さ、サクヤ……?」

 

意外だとしか言いようがなかった、母と対等に戦うことの出来る、紗久弥がこんな顔をするとは思わなかった。

 

「ん……もし、その話が私の知ってる『そいつ』なら……私一人では勝つのはちょっと難しいかも」

 

「勝てないって訳じゃないの?」

 

少し考えて紗久弥は答える、この大陸がどうなっても良いなら確実に勝てる、と。

 

「ぶ、物騒なこと言わない!」

 

だが、紗久弥の表情は至って真剣であり、その言葉は真実なのだろうと思う。

 

物騒なことこの上ないが。

 

しかし、そんなことを言わしめる相手が、このアルビオンに存在していると言うのなら……

 

「ひょっとして……レコン・キスタだとか聖戦とか言ってる場合じゃない?」

 

「聞く限りじゃ『影時間』外での活動は無いようだから、こちらから仕掛けない限り何故かレコン・キスタ兵以外襲われては無いようだし……今はそっとしておくべきだと思う」

 

あれを相手にした時、現状戦えるのは紗久弥とスクエアクラスのワルドのみ、或いはウェールズも戦えるかもしれないが……

 

メギドラオンを撃たれた時、紗久弥以外は生きていられる保証が『ゼロ』なのだ、はっきり言って現状は足手まといしかいない。

 

だからこそ、今は捨て置くしか出来ない。紗久弥は、ルイズに解らないように、奥歯を噛み締めた。

 

『刈り取る者』

 

いつか、必ず……きっちり倒すーー


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