アリスLv99
ステータス全99
メギド
死んでくれる?
ムドブースタ
マハタルカジャ
光反射
プララヤ
ゴッドハンド
チャージ
男勝りの肉食獣や戦慄のガチムチ皇帝も真っ青の肉体派呪殺系YOUJYO
「夜風が冷えるね」
春の陽気はすっかり潜まり、夜のもたらす冷えが吹き抜ける微風と共にルイズ達を掠めていく。
食事を終えた四人は部屋に戻り、各々の時間を楽しんでいる。
ルイズはタバサの持ってきている本を借りて読み、キュルケは爪の手入れ。そしてタバサはデルフリンガーを磨いているのだが……
「錆が落ちない」
そう、一切の錆が落ちていないのだ。これに興味深くなったのか、タバサは色々とデルフリンガーに質問をするが、返って来るのは『わかんね』『知らね』『思い出せね』『覚えてね』の疑惑の議員よろしくなものしか返らない。
「……折る」
「ちょ」
言うが早いかエアハンマー、キュルケの制止も聞かずに解き放つ。だが、吹き飛ぶか折れるかする筈のデルフリンガーの刀身は、放たれた空気の鎚をあろうことか吸収してしまった。
「……は?」
「お、おお、そうだそうだ、今ので思い出した、俺っち魔法なら大概のもん吸収出来んだよ」
衝撃発言である。
『はぁぁぁぁぁぁ!?』
ハモったのはルイズとキュルケ、タバサも驚愕の事態に戸惑いを隠せないようだ。
「って、サクヤは何で驚かないのよ!?」
「え?」
紗久弥のようなペルソナ使いにとっては、属性魔法の無効・反射・吸収は普通の事であり、魔法の世界だしそんなことも出来る武具位普通だと思っていたのだが、違うらしい。
「あ、そうそう、夜に戦う予定のシャドウも属性魔法に対して何らかの弱点や耐性……さっき言った無効・反射・吸収も含めて持ってるよ」
それはルイズ達にとって下手すれば死活問題である。
「ど、どうすんのよそれ!?」
「大丈夫と言いたいけど、私も前に戦ってた時は優秀なサポート受けて戦ってたから……」
風花の事を思い出す。時折オラクルでやらかす以外、実に優秀なサポートだったのだから。
ボス戦の時にオラクル支援でHPが1になったのは本当にいい思い出である。それ以来、アナライズしか戦闘中は頼まなくなったが。
「でもまあやれない事はないよ、属性魔法の一番弱いのをぶつけて様子を見るの。そうすれば、反射されてもダメージは少ないからね」
「な、成る程……じゃあ何の耐性持ってるかは私とタバサで調べれるわね」
しかし、何故か紗久弥は少し難しい顔をする。
ルイズが理由を聞くと、属性のカテゴライズが違うらしい。
「ここの属性魔法の系統って地水火風と虚無でしょ?ペルソナやシャドウの持つ属性魔法の系統って炎・氷・雷・風・光・闇なのよ。後物理属性に殴・斬・突ね」
「雷?雷って風属性じゃないの?」
どうやらシャドウと戦う前にやるべき事が出来たようであるーー
ーー仮面の男が金属の擦れる音のする麻袋を取りだし、男達に見せ付ける。
「依頼がある、受けるのならばこれを前金でくれてやる」
袋の口を開いて見えるのはエキュー金貨。袋の大きさ、詰まり具合から見てざっと二百は下らない。
色めき立つ男達は麻袋を手に取り依頼を聞くと、卑下た笑いを浮かべて問い返す。
「本当に襲った女は貰って良いんだな?」
「勿論、捕らえた後は犯すなり売るなりすればいい。だが、桃色の髪の少女は私に寄越せ、一切の手付けを禁止する、良いな?」
麻袋を持つ男は解ったと言い、仲間の元へと戻っていったーー
ーーシャドウやペルソナについて色々と勉強を終えたルイズ達は、改めてデルフリンガーに注目している。
「いくわよ?『着火』」
「あちぃ!?」
キュルケの放った着火の魔法は、デルフリンガーの悲鳴と共に刀身に吸収された。
「熱さ感じるんだ?」
「いんや?何となく」
げしっとルイズが踏みつけると『いてっ!?』っと返ってきたが、これも何となく言ってるような気がするので、ルイズは踏むのを止めない。
「あ、そろそろ時間だね」
ゲシゲシされるデルフリンガーをよそに、時間は影に落ちるーー
ーー宿を出ると、ルイズは小さく悲鳴をあげ、タバサはキュルケにしがみつくお馴染みの光景。
だが、そこに広がる光景は見るに異常、数十にも上る棺が犇めき聳えているのだ。
「な、なによこれ……」
「これが『適性の無い』人の影時間での姿、普通の人の心の鎧。でも、シャドウの声を聞いた人はこの棺から出てしまうの。でも……何でこんな時間に宿の前に?」
「恐らく……襲撃」
『影時間』を歩き慣れている紗久弥が広範囲の警戒にあたることになり、ルイズを連れて棺の森を歩いていく。
キュルケにしがみついていたタバサも、いつの間にか離れて、周囲の警戒にあたっている。
『やれやれ、本番前にこんなチャチャを入れられるとはな』
くぐもった声はキュルケの頭上。
「キュルケ!」
タバサのエアハンマーがキュルケの頭上を過ぎる直前の破裂音は、恐らく魔法の相殺音だろう。そう判断して翔ぶようにその場を離れるキュルケ。
「ほう、良い判断なにっ!?」
降り立つ仮面の男に、唐突に襲いかかる影。
「あ、あれがシャドウ……?」
見たこともない怪物の姿、動揺した仮面の男だが、辛うじて『エアカッター』を唱えるが、ぶつかる直前光の壁が発生、魔法を跳ね返してしまう。
「ば、バ……」
どれ程強烈なエアカッターだったのだろうか、仮面の男はそのまま風となって消えてしまった。
「い、今のって風の遍在?襲撃者に風のスクエアが居ると言うの!?」
「そして、あのシャドウ……風の耐性持ち……!」
キュルケ達に目を付けたシャドウ。
対峙するはキュルケとタバサ。
「先ずは、私の微熱でお相手致しますわ」
その間にタバサは『水の鞭』を唱え、周囲の警戒にあたる。
「『発火』!」
反射はない、吸収された形跡も、無効化された様子もない。焦げ目が付いているから通ってはいるのだろう。
ただ、単純に威力が足りていない。ならばとキュルケはファイア・ボールを唱えるが、シャドウの攻撃でスリップしてしまう。
「ッ!?」
シャドウの追撃、だがタバサの水の鞭がそれを防ぐ。
「助かったわタバサ」
「ん、でも……」
シャドウはその数を増やし、キュルケ達を取り囲む。
「まずくない?」
『メギド!』
キュルケの言葉を否定するような爆発と閃光。
突然の閃光に眼を少し焼かれたか、視力の回復しないキュルケ達だが、周囲にシャドウの気配はもう感じない。
暫くすると眼も慣れたのか、何とか見えるようになり、灯りを浮かべるタバサを見つけるも、愕然とした表情。
「タバサ?」
キュルケの言葉に反応を示すように、タバサは一方を指差す。その指先の示す方に目をやると、巨大な光の拳に潰された仮面の男が風となって消えているところだった。
「な、何よ……今の……」
常識から余りにもかけ離れた光景。
取り囲んだシャドウ達を消滅させた爆発と閃光。
そして、遍在とは言えスクエアメイジを一撃で消滅させた巨大な光の拳。
「……解らない……ただ……あれは、サクヤがやっていた……」
「……今更だけど……サクヤ……何なのあの子は……」
ルイズを庇ったまま、紗久弥は周囲の警戒を始め、息を一つ吐いて。
「もう大丈夫かな?」
振り向くと、そこには険しい顔をしたルイズの姿。
ルイズにしても、あのカリーヌを母にもつルイズにしても、今、使い魔が起こした現象は異常である。
アースハンドと言う一種のゴーレムを操る土属性の魔法とは規模が違いすぎる、その前にキュルケ達を取り囲んだシャドウ達に使っていた『メギド』と言っていた『爆発魔法』もそう。
ルイズは、それでも、そんな使い魔に畏れを抱くどころか、申し訳ない気持ちが勝ってしまう。紗久弥は自分には過ぎ足る者であると、思わざるを得ない。
全てに於いて、自分よりもずっと高みに居る彼女。
(なのに、私の使い魔で居てくれる)
込み上げるのは嬉しさ、申し訳なさ、そして。
「私、アンタに勝って見せるから!」
対抗心だったーー
ーーラ・ロシェールには幾つも貴族向けの高級宿がある。
ここ『女神の杵』はその中で最上級の宿、ゆったりと上品な時間を過ごすには最適な筈のこの宿で、似つかわしくない騒ぎが起きていた。影時間にパニックになっている、と言う訳ではない。何度か起きる中で慣れているようではあるが、宿泊客の一人が突然倒れたと言うことには流石に慣れようがない。
「ワルド子爵!?だ、大丈夫ですか!?水、水のメイジを頼む!」
供の少年、ギーシュ・ド・グラモンが気を使う中で、ワルドは沸き上がる恐怖を抑えるのに必死だった。
ルイズを人質に取ったと思った瞬間、巨大な光の拳が二回も頭上から降ってきたのだから無理もない。
一発目はルイズを解放して避けた、が、避けた先にすかさず二発目、こっちに遍在は叩き潰され、その最後の視界を得たことで、自身がそれに襲われたと錯覚、体が反応してしまった。
だが、得たものもある、それは『土くれ』の時、遍在二体を消したあの『メイド』の正体。
(まさか、ルイズ付きのメイドとはな)
どうやれば殺せるか、と言う思考はいつしか、どうすれば仲間に引き込めるか、に変わる。
ワルドは、自慢ではないが風のスクエアとしてかなり上位の強さだと自負しているが、彼女の強さはこのハルケギニアに於いて、過ぎ足る物だろうと思う。
ならばこそ、レコン・キスタに引き込められれば、聖地へは容易に行くことが出来るだろうと。
(やはり、ルイズから引き込まねばなるまい)
水のメイジの治療は今始まったばかりーー
ーールイズ達は困っていた。
影時間が明ければ、棺の人が宿を襲撃する可能性があるままだと言う事。
流石にこの棺を全部動かすのは無理であるが、どうにかしないといけない。
頭を捻るが良案は浮かばない、時間もない。
そして、時間と言うものは残酷である。
影時間は明け、タバサの読み通り宿への襲撃が始まった時、紗久弥は上空にメギドを放つ。
閃光と爆音が収まった時に、紗久弥は声を張って。
「次はアンタ達にぶつけるわよ!」
と、単純に脅すことにした。
こうかはばつぐんだ!
蜘蛛の子を散らしたように逃げていく襲撃者達を見送って、悠々と宿に戻る四人。だが、部屋に戻ろうとした紗久弥達を待っていたのは大きな喚声と、酒を奢ろうとする男達。
キュルケは『じゃあ頂くわ』と、グラスを取り、代わる代わるに酌を受けていく。
タバサもこれに乗っかって、出ているハシバミサラダをモシャモシャ。
ルイズもどうせならとの紗久弥の声に、キュルケ達と一緒に飲むことにした。
そして紗久弥は……ルイズ達の給仕として働く事にしたようであるーー
ーー宴会は朝方まで続き、給仕をしていた紗久弥も途中から酔ったルイズに酒を飲まされて、今、二日酔いが激しく襲う。
「うあーチェンジ……スカアハ、アムリタ」
よもや二日酔い解消に使われるとはスカアハも思わなかっただろう。
「よし、ルイズ達も今のでスッキリ寝れる(?)でしょ」
さて、と気合いを入れて、紗久弥が酒場の片付けに向かってドアが閉められた直後に、ルイズ達は目を開ける。
「……眠気もスッキリしちゃったわよ」
「ま、良いじゃない」
「ん、朝一のフネと交渉するには十分」
紗久弥のアムリタでスッキリ爽やかな目覚めを体験、気分よくゆったりと着替えに手を伸ばしたところでルイズはふと思う。
「で、アンタ達はいつまで着いて来る気よ?」
「最後まで、よ」
そう言ったキュルケの顔はひどく真剣で、ルイズは思わず息を飲む。
「今、私とキュルケはこの国の監視下に置かれている筈」
タバサは続ける。一緒に行動した事で、疑われている可能性はあると。
「つまり何?アンタ達は今スパイ容疑がかけられる瀬戸際ってこと?」
「ま、あくまでも多分だけどね」
「今回のルイズの旅には、密偵が着いてきていてもおかしくはない」
「下手に離れたらそこでアウト……ってことね」
尤も、全ては予測に過ぎないと、タバサが締めたところで紗久弥が戻ってきた、洗面器と水差しを持って。
236236C+D