二人の『ゼロ』   作:銀剣士

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タバサという少女

「ルイズ、私達は部屋に戻りますよ」

 

タバサの放つ雰囲気を受け、その場は離れた方が良いだろうと判断したカリーヌは、ルイズ達を伴おうとしたが。

 

「私は……残ります」

 

キュルケは動こうとはしない。

 

「タバサは、私の親友です。苦しんでいる、なら……手を差し伸べない、そんな手は無いですから」

 

カリーヌはそれを受け、そうですかと言い。

 

「ルイズ、貴方はどうしますか?」

 

その言葉に、ルイズはキュルケ、タバサの順に見て紗久弥を見る。

 

「……私も残ります、親友……ですから」

 

「解りました、ですが……『当家』は助けになれない、と言うことだけは忘れないように」

 

ルイズにはそのカリーヌの言い回しが気になった。だが、追いかけようにもカリーヌは既にフライで飛び去った後。キュルケの隣に立ち、成り行きを見守ることにした。

 

オスマン、そしてコルベールにカトレアも、既にこの場から離れ、ヴェストリの広場にはルイズとキュルケ、紗久弥といまだ跪いたままのタバサのみ。

 

沈黙の中、影時間を終わらせて紗久弥はタバサに理由を訊く。

 

「私は、私の名はシャルロット、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。かつて、王家に名を連ねていたオルレアン家の娘、助けて欲しいのは我が母。エルフの毒により心を壊された、私のかあさま」

 

ルイズはその名を訊いたとき、母の言い回しが何を意味しているのか理解した。

 

(確かに……『ヴァリエール家』では助けられない……か)

 

もし、タバサの……シャルロットの母親が何かの罪により服毒を命じられたのであれば、助けた場合、こちらも罪に問われるだろう。

 

そうでないならば解毒そのものは罪にはならないだろう、だが、シャルロットは『助けて欲しい』と言ったのだ。

 

つまり、手の及ばない場所に匿って欲しいとも取れる。だとすれば『オルレアン夫人』を黙って国外に脱出させるとなると、それは拉致とされる可能性が極めて高い。

 

「私はタバサと名を変え、王女イザベラに従い、母を癒す薬のために戦ってきた」

 

そして……その薬を手に入れられたその時は……

 

タバサの瞳に、闇の帳が降りたような気がしたーー

 

 

 

 

ーータバサは現状母を癒す事は出来ないと言う。

 

直接ジョゼフから指令が下れば、その報告の際に謁見することになる、そうすれば……タバサは、握る拳に力をを込め。確実に助けられる様な機会はきっと訪れる、そうなる様に動いていると。紗久弥に伝え、その目を見て。

 

「だから、貴方はそれまで待っていて」

 

紗久弥は小さく頷き、ルイズを見る。

 

「私は……タバサ、ごめん……今夜、ここでの会話は『無かったことに』出来ればしたい。でも……お母様と部屋に戻らなかったのは私の意思、だから『ルイズ』としてなら『その時』は、協力するわ」

 

タバサはその言葉に首肯で返す。

 

キュルケはタバサの頭を撫でながら。

 

「もし、お母様を国外に脱出させるなら、家に匿うわ、ツェルプストー領はガリア国境から遠いし、近道しようと思えば必ずトリステインを……ヴァリエール領を通らざるを得ないもの」

 

ガリアの軍が精強であれ、ヴァリエールの軍を素通りは出来ないだろう、そう踏んでの事である。尤も、ヴァリエール家が軍を動かす保証も無いが。

 

ともあれ、現ヴァリエール私設軍は、単体でトリステイン全軍を相手取れる程の戦力を保持していると、キュルケは教わっている。

 

(ま、あの公爵夫人が居るんだものねぇ……)

 

強いはずである。

 

「もうひとつお願いがある」

 

撫でられながら、タバサは紗久弥に視線を向け。

 

「ペルソナと言うのは、私も使える?使えるなら使えるようになりたい」

 

「うーん……ペルソナの発現には詳しくないんだ、ごめんね?」

 

「……そう」

 

「でも、影時間の中であんなにはっきりと動けるって事は、素質はある筈なんだよねぇ」

 

或いは、魔法を使えるからこそ、自由に動けるのかもしれない。

 

「もし、覚悟があるのなら……戦ってみる?シャドウと」

 

タバサは力強く頷き、それを見たキュルケも『私もやるわよ?』と言い、ルイズもまた『当然、やるわ』と杖を抜く。

 

「ふふ、じゃあラ・ロシェールでやってみよっか、アルビオンに行かなきゃいけないし……ね?」

 

タバサの衝撃的な告白ですっかり忘れていたアルビオンでの任務、ともあれ皆は明日に備えて眠ることにしたーー

 

 

 

 

ーー影に喰われた者達に、それは効果を示さない。

 

殺せばどうかと思ったが、結局なんの効果もない。

 

そして、影に喰われるものは、その力を『死んでから』使われた者達が多く、気が付けば部隊は半壊に至っていたーー

 

 

 

 

 

ーー明くる日、ルイズ達はカリーヌ達に見送られ『昼前』にトリステイン魔法学院を出立したのだが。その際、シエスタから早朝にギーシュがグリフォンを駆る男と共に出掛けたと聞かされた。

 

「ギーシュの奴サボりかしら?」

 

「殿方と?」

 

「薔薇だけに」

 

春の陽気に、すっかり脳みその溶けた少女達であった。

 

 

 

 

ルイズ達は街道上空150メイル付近を順調に飛行。

 

「トリスタニアでティータイムにしましょうよ」

 

タバサの風の結界で快適な空の旅、キュルケはそんな事を言い出した。作ってきたサンドイッチを平らげたのは半刻前。

 

流石にサンドイッチだけでは物足りないのだと、キュルケは訴える。

 

タバサのお腹も可愛く訴える。

 

「まあいいわ、シルフィードの速度なら今日中にはラ・ロシェールに着くでしょう?」

 

その言葉にタバサは首肯して、トリスタニア郊外の森に降り立つ様指示。

 

きゅい、と鳴くシルフィードにタバサは『後で肉』と告げて、キュルケ達とトリスタニアに入っていったーー

 

 

 

 

ーー街道を疾走する一頭の馬と一頭のグリフォン。

 

当然ながら、それを駆る二人に会話はない。

 

だが、グリフォンを駆る男は流石に気を使ってか、馬の速度に合わせて飛んでいる為、馬に乗る少年は多少余裕があった。

 

街道を渡る蹄と風を切る翼の音は、変わらないペースで疾駆し続けるーー

 

 

 

 

ーーキュルケはルイズの前に鎮座するクックベリーパイ2ホールを呆れた目で見ると。

 

「サクヤの分でしょ、それどっちか」

 

だが、紗久弥はアップルパイ1ピースとクックベリーパイ1ピースを食べている。

 

タバサはルイズと同じく2ホールを並べ、切りながら食べていく。

 

「サクヤだけよ、見てて胸焼けしないのは」

 

「あはは……よくあんなに入るねぇ……」

 

どうやら紗久弥も食傷気味のようだ。スキル『甘いものは別腹』をデフォルトに持つ紗久弥、キュルケの二人でも、目の前の光景には呆れる様だ。

 

大好きなクックベリーパイを幸せそうに頬張るルイズ、黙々と平らげるタバサ。

 

対照的な食べ方であるも、消化ペースは何故か変わらない。何とも不思議な光景である。

 

やがて食べ終わった二人は紅茶を啜り、一息吐く。

 

「あー美味しかった。やっぱりここのクックベリーパイは最高ね」

 

「同意」

 

キュルケに口元を拭かれるタバサは、シルフィードへの土産を考える。

 

(牛か豚……)

 

『牛が良いのです、きゅい』

 

どうやら感覚共有していたようだ。希望通り牛肉をブロックで買うことに決めたタバサであったーー

 

 

 

 

ーー夕方過ぎ、馬を街道沿いの厩で交えたのはこれで二度目。朝から駆け続けて少年の体は悲鳴を上げる。

 

「大丈夫かね!」

 

「はい!耐えきります!」

 

「そうか、だが限界だと思えば言うといい、変わってあげよう!」

 

「ありがとうございます!」

 

少年はそう言うとハミを噛ませて馬を駆る。

 

「ふむ、いい根性をしている……が、惜しいなーー」

 

 

 

 

 

ーー夜の帳も降りた頃、ルイズ達はラ・ロシェールに到着し、宿を探す。が、見つけられたのは酒場兼宿屋の安宿のみであった。

 

「うう、まさかこんな宿に泊まらなきゃならないなんて……」

 

「それ以前の問題よ、アルビオンへの定期便が出てないって言ってたわね」

 

「謎の奇病が流行っているとも言ってた」

 

ラ・ロシェールに到着後の事、世界樹とも言われる大樹にある桟橋に向かったルイズ達は、管を巻く船員達を見つけ、アルビオン行きの定期便を手配しようとしたが、船員から定期便は全て欠航だと突っぱねられたのだ。

 

理由を聞くと、何でも妙な奇病が流行っていると言う。そして、その奇病にかかっている者はすべからく『まともに喋れない』『ろくに動かない』『灰色にも似た肌の色になる』と言う。

 

「無気力症……」

 

「むきりょくしょう?」

 

「……影時間に現れる『シャドウ』と呼ばれる存在に、ペルソナを持たない人が襲われた時になる状態、人の脱け殻と言ってもいいかな?」

 

『シャドウ』とは人の心を喰らうもの、故にシャドウと戦うには『心を護る鎧』……つまり『ペルソナ』が必要となると、紗久弥は言う。

 

だが……そのペルソナの覚醒には、恐らくかなりの危険が伴うだろうと紗久弥は思う。

 

そう、それこそ、心を喰われるか命を喰われるか。そんな危険が……だからこそ、紗久弥は再び問う。

 

「『シャドウ』と、戦ってみる?」

 

「……戦って……」

 

タバサは、それでも力強く頷き、ルイズ、キュルケの二人も尚頷いた。

 

実際に戦う前に、紗久弥が一度戦って様子を見ることに決め、ルイズ達は当座の問題をどうするかで悩んだ。

 

「やっぱり輸送便に乗せて貰うしかないのかなぁ?」

 

アルビオン人の為に物資を運ぶ輸送便だけは出ると言うが、こちらには乗せられる様な客室は無いと言う。

 

「贅沢はもう言ってられない事態よね……」

 

背に腹は代えられない。とりあえず朝一の便と交渉する事に決め、ルイズ達は階下の酒場で食事を摂ることにし、部屋を出た。

 

 

 

 

酒場は足止めを食った人や、何やら厳つい格好の男達で溢れ、活気に満ちている。

 

酔いが回っているのか、幾分荒くれた男達は目敏くキュルケに目を着け、次いで紗久弥、ルイズにも晩酌をしろと高圧的に言ってきた。

 

当然、ルイズはこれに強く反発、男達にこれでもかと文句を放つ。

 

それを聞いていた男達はついに怒り、ルイズを掴まえようとするが、紗久弥に阻まれる。

 

「なら、ねーちゃんが相手してくれや?俺らぁそのガキんちょにさんざ言われて傷心だぁ。へへ、やぁわらけえお手てだなぁ、さぞやその立派なモンもやぁらけぇんだろうなぁ?」

 

言いながら紗久弥の胸に延びていく男の手。

 

「はりゃ?」

 

そんな間抜けな声と共に、男は紗久弥に手首と肘、肩の関節を極められ、叫び声を上げる。

 

「酔い、覚めた?」

 

「さ、さささ覚めっただだだだだ!?お、おれおおおおおれっ!!」

 

「あ、無理に抵抗したらホントに折れるよ?」

 

ピタリと動きを止めた男に、満足そうに頷いて、紗久弥は男を解放した。

 

「いくら彼女らが魅力的でも、弾けていい相手かどうかはちゃんと見ようね?」

 

痛む腕を擦りながら、男は漸くルイズ達の姿にはっとする。マントを羽織り、平民には縁遠い上質な布の『同じ服』を見て、男達は顔を青ざめ。

 

「ま、まさか魔法学院の生徒さん方で……?」

 

首肯する紗久弥に、男達は一斉に頭を下げる。どうか無礼討ちは御勘弁をと懇願。

 

これに困ったのはルイズ達。そんなことする気はないからと言っても頭を上げようとしない。

 

「じゃあ……あなた達の中にアルビオン行きのフネに伝がある人は居る?」

 

手を挙げたのは四人、その四人に紗久弥は、今回の件はそのフネの交渉の手伝いしてくれたら不問にすると伝えると、男達はありがとうございますと、改めて頭を下げた。

 

 

 

 

このやり取りを、一人の仮面の男が見ていた事に気に止める者は誰もいない……




うーん……タバサ関連の話は触れるのがぶっちゃけ難しい、色々間違ってると思いますので気になった所は指摘お願いします、はい。


文字数の少なさ?そこは黙殺して下さい(震え声)

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