鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

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いやー、意外とてこずっちゃいました・・・あと、お気に入りが100突破です!!!ありがとうございます!!
特別な評価なんて、岳海にはもったいないです!


第五話 Over my dead body.

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

駆ける、駆ける、駆ける!走るたびに自慢の青いお下げの髪がピョンピョンはねる。

自身の小さな体が今だけは憎い。遅い、遅いのだ・・・人間や艦娘さん達の一歩なら自分の10歩分は進むであろう。ああ!!もうくそっ!しかし、それを今のろっていてもしょうがない!今はただ自分の出せる最高の速度を精一杯出すだけだ!

「急げ!急げ!」

目的の場所は、もうすぐそこに・・・手に持っている携帯型の『電探』によれば、すぐ近くの海岸にいるはず・・・!

 

 

やっと辿り着いた!やはりこの小さな体では長距離を走るのに向いてない。この前の戦いで艦載機が失われていなければもっと早くに・・・いや、愚痴っている暇も惜しい!

伝えなければ!そしてなんとしても電ちゃんに・・・!

 

 

 

バァァァァァン!!!

 

 

「!?」

海岸に向かって再び走り出そうとすると突然、轟音と共に砂浜の方から遠くの海面に向かって、何かが吹っ飛んでった。というか、あの姿って・・・。

「まさか、あれは・・・」

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

手の埃を払いながら、遠くまで吹っ飛んでいった異形の姿を見届けながら一息つく。昨日の黒い魚よりかは少し強かったな・・・ま、少しだけだけど。『能力』だけの戦闘になってしまったが何とかなったみたいだ。まあ2つのサギリや『イザナミ』に比べれば大したことは無い。既に物言わぬ屍となって砂浜に転がっている『ヌ級』と呼ばれた存在に目を向ける。あるものは真っ二つに、あるものは黒焦げに、そしてある一匹は海のほうへ海面をバウンドしていきながら、二つに分かれた異形の体がそれぞれ海に還っていった。

変わった『生き物』・・・なのか?人間っぽいパーツがあってそれらしく見えるけど動物とも、機械ともなんか違うような・・・まあ退けられただけでもよしとしよう。

 

「あわわわわ・・・」

 

恐れ慄く声が聞こえてくるりと向き直る。俺の戦いを黙ってみていた電が、腰を抜かして恐怖に染まった表情をこちらに向けていた。

 

(し、信じられないのです・・・人間の人が深海凄艦・・・それも『エリート』を倒しちゃうなんて・・・そ、それに『今の』は・・・!?)

 

「・・・無事か?電」

「あわわわわ・・・は!?はっはいなのです・・!」

「そうか・・・」

こちらが声をかけると噛み噛みながらも驚いたように返事をする。

・・・うん、服が破れてはいるけれど目立った外傷は無くなっているな。普通なら傷が残っていてもおかしくないくらいだったが、何とか治療できてよかった・・・女の子に傷跡なんて致命的な問題だもんな・・・さて。

腰が抜けている電に向かってゆっくりと目と鼻の先の距離まで近づく。

「・・・立てるかい?」

「あ・・す、すみません・・・」

腰が抜けている電の為に手をさし伸ばし、どう言葉を切りだそうか迷っている電に向かって息を大きく吸い込み・・・。

 

 

 

 

 

「一体何を考えているんだお前は!!!???」

 

 

「ひゃ!?」

開口一番、大きな声で電に向かって一喝する!びくりと、驚いて小さく声を漏らす電。しかし、それに構わず俺は普段より声を荒げて叫び続ける。

「なんで・・・なんでお前はあの時あんな事をした!?一歩間違えれば死ぬところだったんだぞ!?」

「え?え?え?」

「こうやって俺が『能力』を使って何とかなったから良かったものの一歩間違えれば死ぬところだったんだぞ!?」

「そ・・それは・・・・」

反論の余地を与えぬほどに矢継ぎ早に怒鳴る俺に対して、おどおどと小動物のように縮こまって言葉を探している。なんて大人気ないことをしているんだろうか・・・傍から見れば大の青年が小さな女の子を苛めているように見えるだろう、情けない・・・でも俺は、それでも俺はそれでも言わずにいられなかった!先程の事を見過ごす事なんてできない!こんな・・・こんな小さな子が!

「で、でも・・・」

 

「あの時・・・あの時自分の身の安全を優先すべきだったんだ!俺を庇いさえしなければ死に掛ける事も・・・艦娘としての役目とやらのためにか!?ふざけるな!!」」

そんな下らない事のためにこんな子供を死なせるなんて、考えただけでも頭にくる!そんな使命を縛り付けた『提督』とやらにも、それを死ぬ理由として殉じようとする彼女達にも・・・!

菜々子にもぶつけたことのないさらに言葉をぶつけようともう一度大きく息を吸い込み・・・。

 

「でも・・・でもそうしなかったらお兄さんが死んでいました!!貴方だって危なかったのです!!!

 

吐き出そうとしたところを、電の金切り声のような叫びにかき消された。今度はこちらがびくりとなって言葉が止まる。

瞳に涙を浮かべて僅かに怒りの表情を浮かべながらこちらを見ている。その様子に言おうとしていることが体の中で解けるように消えてなくなる。

「貴方だってもし電が庇わなかったら危なかったはずです!!先程お兄さんが“見せた”のがなかったら死んじゃうって思うじゃないですか!!なのに・・・!!」

「だからって、あんな馬鹿なことを・・・死んでしまったらどうする!何が・・・!」

「今はそんなことの話しをしてるんじゃない!話を摩り替えるな!」

「だって・・・だって・・・!」

「だっても何も・・・!」

この子はこんなにも頑固だったのか!?意味が分からない!

そもそも、なんで自分の心配なんかよりも俺(他人)の心配なんか・・・

 

「い、電ちゃーん!!!」

 

 

口論になりかけたところを、横手から来る声に中断される。振り返ると先程の青髪の妖精が、とてとてと走って近づいてくる。傍で電が慌てて瞳に浮かぶ涙を拭う。

「ああ、やっと見つけた・・・ってうわ、『ヌ級』!?なんでこんな所に!?しかも死んでる!一体何が!?」

俺たちに遭遇するなり、傍で転がっている死骸を見て、被っているヘルメットが飛び出すほど仰天している。それを見て俺と電が気まずそうに互いに目をそらす。

「・・・?あの、お2人とも、どうかしたんですか?それに、このヌ級は・・・?」

「・・・そっとしておけ」

・・・すっかり説教の空気じゃなくなった。状況の説明をする気にもなれない。傍にいる電も目をそらしたまま複雑そうな顔をしているのを見て、事情を把握できない妖精は微妙な空気に首をかしげる。

「そんなことより、そんなに慌てて何かあったのか?なにか非常事態でも?」

「はっ!そ、そうだこうしている場合じゃない!た、大変なんです!!」

「な、なんですか・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以前この基地を襲った『深海凄艦』の大群がこの基地に向かっています!!その数60以上!!しかも全て、『エリート』級以上です!!!!しかもそれを聞いた天龍さんがたった一人で出撃すると・・・!!!」

「っっっっ!!!???」

電の声にならない悲鳴が、その場に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燃料は・・・あとこれっぽっちか・・・」

崖をくりぬいて作られた港にて、燃料の入ったドラム缶を覗きこんで力なく呟く。自分の分を入れれば、あとはせいぜい駆逐艦か軽巡2、3人分って所だろう。戦艦なら一人分でも、半分も入れられるかどうかだ。かつて自分が毎日のように遠征に出かけていた時はここまで切らしておくと言う事はなかったというのに・・・いつのまにこんな貧乏な台所になっちまったんだろうな。

ま、それもこれもあのクソ野郎が、自分達が任務でコツコツ貯めた資源を、後先考えず『大型建造』なんか繰り返して減らしていったのも原因の1つなんだがな・・・自分の欲しい艦がなかなか出なくてよく俺達に当り散らしていたっけ・・。

そう思いながら、年季の入っている自分の装備に燃料よりごく僅かとなった弾薬を補充する・・・残りは駆逐艦一人が満足に補給できるかどうかだ、ここまでくると笑いまでこみ上げる。

ここに着任してから遠征任務ばかりであった自分がこんな形で旗艦・・・それも単独出撃とは。『向こう』の皆が見れば、呆れられるのか褒められるのか・・・ま、考えてもしょうがない。泣いても笑ってもこれが最後の出撃になるだろう。

「天龍さーん!」

3つの足音と共に、後方から自分を呼ぶ声が聞こえる。軽く舌打ちしながら首だけを後ろに回して声の主を視界に捉える・・・やはり工廠娘達だ。青髪は先程電を探しに行ったため、今は3人だけだが。残ったその3人が同じようにこちらに哀願するような顔をしている。

「・・・んだよ、これから出撃するって時に」

「無理ですよ天龍さん!あれだけの数・・・それも『エリート』を相手にたった一人で・・・!」

「勝算もなしにこのまま突っ込むなんて、無茶にも程があります!」

悲痛に叫ぶ妖精達を一瞥して鼻を鳴らす。ああ、やっぱりそんなところじゃないかと思ったよ・・・。

「このまま一人で突っ込むなんて無謀すぎます!考え直してください!ひとまずここを離れるなり隠れるなりして・・・」

「ふっ・・・逃げる・・・だと?」

思わず可笑しくなって吹きだしてしまいう。逃げる・・・逃げるだって?

「・・・へっ、そりゃあいい。皆が助かる可能性がある方法と言えばまさにそれだろうな?もし成功すればハッピーな事だな!」

だんだん可笑しくなって笑い声が大きくなる。妖精達が訳が分からない顔で見るのを見てますます笑い声が大きくなる。

「・・・お前ら、それマジで言っているのか?」

ひとしきり笑った後に、くるりと体ごと妖精達に向き直り腕を組む。

「お前らが感知したところによれば、敵さんはあと15分もせずにやってくるそうじゃないか?それがどういうことか分かるか?」

「ど、どういう事って・・・」

・・・少しは考えろよ。ここまで頭が鈍い奴らだったとは・・・それとも分かっていながら現実逃避していやがるのか?ため息が出るよ。

「いいか?このまま脱出に手間取って尻に帆をかけて逃げたところで、敵がすんなりこちらを逃がしてくれると思うか?俺は思わないね。もし俺が敵の立場だったら無防備に尻か腹出してせっせと逃げている船なんかただの的だと思うがね」

しかもこれは、運よく出航の準備が出来たらの話だ。最悪、こちらが準備でもたついているる間にも、敵の大群がこの港になだれ込んで来る可能性だってある。しかも今呼びに行っている電の到着を待っていたらほぼ確実だろう。

つまり、このまま脱出するという前提自体が間違っているんだ。どこぞの幸運艦ばりの奇跡でも起きない限り無謀なんだ。だからもし、もしそれを成功させる可能性があるとしたらただ1つ・・・。

「で、でも・・・!」

その可能性を認めたがらない妖精が、なおも食い下がるための言葉を探すように言いよどむ・・・こいつら絶対口喧嘩弱いな。

「だからだ・・・俺がお前らの逃げる時間を稼いでやろうっていうんじゃねえか。・・・こんな装備でどのくらいまで稼げるか知らないけどやるだけやってやらぁ・・・」

自身に装着された使い古しの14cm単装砲と7・7mm機銃・・・そして自慢の愛剣を見せびらかして不敵に笑ってみせる。まあ、どちらかといえば開き直り気味の笑みではあるのだけれどこの際どっちでもいいか・・・しかしそれでも、妖精達の表情は変わらなかった。

「いつまでも辛気臭い面ぶら下げてるんじゃねえよ、安心しな、自分の役割はきっちり果たすさ」

「私達が言いたいのはそうじゃなくて・・・」

「あ?」

妖精の一人がなお、こちらに食い下がる。

「天龍さんのことを言っているんです!これじゃあまるで天龍さんが死にに行くようなものじゃないですか!よしんば天龍さんの作戦がうまくいったところで本人である貴方はどうなるんですか!?」

「・・・・っ」

こーいーつーはー・・・。またさっきと堂々巡りじゃないかよ・・・。そんなこと思っているとも露知らずに自分のことを純粋に心配してる・・・ってか?

「せめて・・・なんだ?電の到着でも待てというのか?それともあの野郎をか?」

脳裏にあの男の顔が浮かぶ。ああ、想像するだけで不愉快な奴だ。

「遠征ばかりでまともに戦闘をした事がないあいつがいても、無駄死にが増えるだけだし下手したら足手纏いだ・・・あの野郎がいたところで更に何になるんだ?人間のアイツに・・・」

「け、けれど・・・」

 

 

 

 

バァァァァン!!

 

 

 

 

「うわ!?」

「キャア!?」

「ひっ・・・!?」

「ぐちゃぐちゃ五月蠅いんだよ、テメエら・・・」

直も反論する妖精達の口を、天井に向けて7・7mm機銃を撃って黙らせる。室内でこれを撃ったのは初めてだな、そうか、こんなにも音が響くものなのか・・・。

「状況が分かってないのはどっちなんだ?こんな崖っぷちの状態で全員が助かる道が残っているとでも?俺達にはな、そんな都合のいい選択肢なんかもう残っちゃいねえんだ!!誰かが一人あいつらを足止めして犠牲になるしか方法がないんだよ!わかんだろ!?それとも、もっと他にいい方法があるとでも!?」

近くの木箱を蹴飛ばしながら乱暴に言い放つ。今の言葉に怯えているのか、それとも良い反論が思い浮かばないのが悔しいのか、三人共悲痛な表情で俯きながら拳を震わせている。ああわかっている、例え夢想でも、雲霞みたいに掴めば消えそうなか細い望みでも、諦めきれないんだろ?わかっているよ・・・。

「それにだ、俺には逃げることも隠れる事ももう嫌なんだよ・・・目の前で、『仲間』が死んでいくいのは・・・」

声を穏やかにして妖精なのか、それとも自分自身に対してなのかわからない言葉を呟く。聞こえたのか聞こえてないのか、妖精達がはっとなったような表情でこちらを見る。

「・・・だべっている時間すらもったいねえ。とにかく俺が時間を稼ぐ、お前らは脱出の準備を急げ。なあに、ただじゃ死なないさ・・・」

「て・・・天龍さん!」

妖精の呼びかける声も無視して仕切りの途切れている部分から、目の前の海面へと飛び出す。あらかじめ足に装着していた『艤装』のおかげで、海に沈むことなく海面に浮かぶ。続いて外へ出るためのシャッターが開くと同時に、シャッター上部の木で出来たパネルのような物が回転を始めると、すぐに『天龍』という文字に変わり、母港の後方から自分の『艤装』が飛んでくる。それをうまく背中と両腕で受け止めて、シャッターが完全に開くのを確認すると声高らかに叫ぶ。

 

「天龍、水雷戦隊、出撃するぜ!」

 

海面を滑るように進んで、開いたシャッターから外へと踊りだす。後ろから再び妖精達が自分の名を呼ぶ声が聞こえる。

「じゃあなお前ら!運が悪かったらまたすぐに会えるだろうぜ!『龍田』達と一緒に待ってる!

「天龍さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」

振り返ることなく、『魔物』が待ち受ける海へと背水の覚悟を持った隻眼の龍が、海へと昇る。

 

 

 

 

「・・・見えた!」

単五分ほど水平線に沈み始めている夕陽の方向へ進むと、その夕陽に僅かにかぶさるように黒い群れが、こちらに向かっているのを隻眼に捉える。こちらが進むにつれてその数もどんどんはっきりしていく・・・間違いない、妖精達が電探で捉えたと言うのはあの群れだ。ひーふーみー・・・ああ、数えるのが馬鹿らしい数だ。60はいるというのが頷ける。よく目を凝らしてみれば、なんか赤黒いものが見えるし・・・全員『エリート級』だこれも情報どおりか・・・。

「ったく、死に損ないの俺達によってたかって・・・」

駆逐艦は勿論、雷巡『チ級』に重巡『リ級』、止めに戦艦『ル級』に『タ級』までいやがる。さすがにもうすぐ夜戦になるから空母系は連れてこなかったか・・・ここまで来ると笑いまでこみ上げてくる。壊滅寸前の自分達を相手にこれほどの艦隊を差し向けてくるとは・・・弱者でも全力を尽くして潰すという一種の礼儀か?もしくは死に掛けの小さな虫けらが絶望するのを見ながら、集団でプチッと潰して悦を感じるため?・・・だとしたらいい趣味だぜまったく。

いいぜ、死に掛けの虫けらとせいぜい侮ってろ、こっちはもう腹くくってるんだ。お前らの喉元に噛み付いて道連れにしてやるよ・・・。

左腕の単装砲を構える。距離よし、目標、目の前のエリート艦隊。

「待ってろ龍田、こいつらの首を手土産に今行くからな・・・」

もうこの世にいない妹の名前をぼそりと呼ぶ。懐かしい声が聞こえたような気がしたが、恐らく気のせいだ。気なだけに。『向こう』で妹にあったら披露してみようか、またからかわれるのもいいだろう・・・。

敵が射程内に入った、さあ、いよいよ戦い(喧嘩)の始まりだ。食らいやがれ!

気合と共に単装砲の引き金を引く。

 

 

ドォォォォォォォォォォン!!!!!

 

 

 

7・7mm機銃とは比べ物にならない轟音を轟かせて、敵の先頭に命中するのを確認する。が、大したダメージは負っていないようだ。当然か、まあ予測の範囲内だが。そう思うと同時に腰の愛剣を抜く。チャリンと鞘音を鳴らして露になった刀身がきらりと光る。

「天龍型一番艦の『天龍』様だ!あの世の土産に覚えときなっ!!」

剣を振りかざし、敵に向かって名乗りを上げると同時に敵艦隊に向かって進む。後退はない!

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」

単装砲が命中した敵に猛烈な勢いで近づき、手にした剣を振るう!

 

 

 

 

 

 

一方その頃

 

 

 

「妖精さん!!!」

「あ、やっと来た!どこに行ってたんですか!?電さんと・・・えーと・・・」

「はぁ・・・はぁ・・・鳴上だ!」

そういえばまともに自己紹介してなかったな。小脇に抱えた電を放しながら、母港と呼ばれる場所に全力疾走で駆け込む。最初は妖精と電とで並んで走ってきたものの、二人のペースが次第に俺に追いつかないので途中から2人とも抱えて走ってきた。特に妖精さんは体のサイズから俺達に追いつく事は難しかったからな・・・。

それにしてもすごい設備だな、改めて辺りを見渡す。俺の知る港に近い部分もあちらこちらに見受けられるものの、単なる港では使わないであろうハイカラな機械がいくつも並んでいて、かつての直斗の『秘密基地』を思わせる。更に奥の方には何かの機械を操作するためのコンソールと、手すりとも何かの柵とも取れる仕切りみたいなものがあった。が、よく見るとその仕切りが人間2人分くらいの幅で途切れているが、一体・・・?

「そ、それより、て・・天龍さんは!?」

視線が奥の仕切りから妖精と電に戻す。電の問い詰めに3人の妖精が息を呑み、やがて悲痛な顔を俯かせる野を見て嫌な予感が浮かぶ。・・・敵は60ぐらいいると聞いていたが、あいつはそれに対して

・・・何かを察した電が口を開くよりも先にやがて妖精の一人が、重々しい口を開く。

「・・・天龍さんはつい先程、たったひとりで出撃なさいました・・・私達の逃げる時間を稼ぐために・・」

「・・・!」

「馬鹿な!聞いた話じゃ敵はものすごい数だと聞いていたが・・・!?何か策があって・・・?」

辛そうに口を固く結びながら、妖精がふるふると首を振る。

妖精の言葉で、自らの嫌な予感が確信に変わると同時に思いきり歯を食いしばる。

あのじゃじゃ馬、なんて無謀な事を!馬鹿なことを仕出かさなきゃいと思っていたがやはりこうなったか!クソ!!・・・いや、こうなる可能性は頭にあったのに何の対策もしなかった俺も迂闊だった・・・。

「・・・・!」

会話を黙って聞いていた電が堪えきれないように奥のほうへと走っていく!「電ちゃん!?」と妖精が呼びかけるも無視して、例のコンソールへと駆け出す。

「無茶だ電ちゃん!戦闘経験が薄い君一人が向かったところで・・・それに相手は大群・・・」

「だからと言って!天龍さんを見殺しになんてできません!これ以上、仲間を見殺しにするのは・・・!」

操作盤に何かを一心不乱に打ち込みながら叫ぶ電。やがて操作盤から手を離すと、仕切りの途切れている部分から何を思ったのか、その下に飛び込むように身を投げる!

「電!」

咄嗟の電の行動に叫びながら、仕切りのところまで駆け出して手をかけながら下を覗き込む。

「っ、これは・・!」

見下ろした先には海が広がっていた。その先にはシャッターのような出入り口があり、上部分に木製の何か・・・パネルか?あれは?疑問に思っていると、そのパネルらしき部分がものすごい勢いで回転を始めるとやがて『電』という漢字が浮かび上がる。

「あれは一体・・・」

呆然と呟いていると、突然、けたたましい機械音が周囲に鳴り響く!驚いて辺りを見回すと、周りの機械が物凄い轟音を発しながら起動をはじめる。なんだ!?今度は何が起こっている!?

 

「第六駆逐隊電、出撃するのです!」

 

下の海面から電の叫び声が響く!声のしたほうを見ると、なぜか海面に浮いている電がどこからか飛んできた船の部品のような物を、背中や後腕で器用に受け止める。身につけた部品にはコンパクトな大きさになっているものの、物騒な砲塔らしき物を身につけている。ふと、身につけた装備が『暁』とかいう子が身につけていたものに似ている事に気づく。

ガラガラという音が聞こえて前方を見ると出入り口らしきシャッターが次第に開いていき、電が海面をまるでローラースケートで滑るようにそれに向かって行く。

「電ちゃん!!」

いつの間にか隣に来た妖精4人が俺と同じ方向を見て涙ながらに叫んでいた。電が足を止めてこちらを振り向く。

「お願いだから戻って電ちゃん!!!天龍さんだけでなく貴方まで死にに行くつもりか!!」

「・・・電達は『艦娘』です。誰かの為に戦うのが使命なのです・・・だから、ごめんなさい!」

哀愁漂う笑みを浮かべてこちらを見上げ、ぺこりと一礼すると、また出入り口に向かって進み始める。・・・またか、またこんな・・・!となりで妖精が仕切りをバン!と叩く。

「なんで・・・なんでこんな事に・・・」

「いつもそうだ・・・私達はただ黙って見届ける事しかできない・・・」

「『彼女』らに続いて、天龍さんや・・・電ちゃんまで・・・どうしていつも彼女達ばかり・・・くそっ!!!」

四人の妖精が声を押し殺して悔し涙を流している。絶望に打ちひしがれるその姿に俺自身も胸が苦しくなる。

 

「神様・・・」

妖精の一人が漏らした一言に、反射的に視線を向ける。・・・神?

「神様は・・・いないのか?いるんなら・・・助けてくれよぉ!!あの2人を!!神でも、悪魔ででも、なんでもいいからぁぁ・・・!!!」

 

 

 

「神様を倒した男ならここにいるぞ?」

 

俺一人の力じゃないけどな。

妖精達が俯かせていた顔を一斉にをこちらに向ける。全員が訳が分からないと言った表情で涙に濡れた顔をこちらに向けていた。

・・・去っていく者を見送る事は誰にでも出来る。悲しみと後悔で顔をぬらしていく事も誰にでも出来る。・・・しかし、未来を変えたり、理想を現実にしたり、『真実』を手にすることが事ができるのは、最後まで諦めず、例えみっともなくてももがき続ける事・・・俺は、その事をあの一年間でそれを知った・・・。

「・・・電が装着していたあの船の部品みたいな物、まだあるのか?」

「・・・は?」

「な、何を・・・?」

相変わらず困惑する妖精に、強い意志をこめた視線を送り・・・そしてはっきりと言う。

 

 

「俺でも、『あれ』をつければ海に浮いたりする事が可能なのか?」

 

 

数秒間、時が止まったように静寂がその場を支配した。が、数秒後には我を取り戻した妖精が・・・。

 

 

「な、何を言っているんですか貴方は!!!!???」

「無理ですよ!!無理!!『艤装』を装着できるのは適正のある『艦娘』達だけです!!人間の方が扱える代物ではありません!!」

「・・・試した事があるのか?」

俺が言っている事が非常識極まりないのか、こちらの正気を疑うような視線で思い切り首を振る妖精達。そうか、あれは艤装と呼ぶのか、改めて彼女達が人間の姿を持った『艦』なんだなと改めて実感する。

「過去に何人かの『提督』が艤装を纏う事を試みたという話はありますけど、成功したという一例は聞いた事がありません!それによしんば装着する事ができても、人間が『深海凄艦』に敵うはずが・・・」

「関係ない」

妖精達の言葉達を一蹴し、こつこつとある場所へ歩を進める。

「成功した事がない?無理?去年『俺達』は、『テレビ』に落とされた人たちを救うため・・・事件の真犯人を捕まえるため・・・そして『真実』に辿り着く為に、今まで無茶だろうが『シャドウ』だろうが何だろうが押し通してきた。そして何より・・・」

やがて目的の物、先程電が使っていた操作盤まで近づき・・・。

「今尊い命が2つも失われようとしているのを、見過ごす事なんて俺はできない。俺だって、もう後悔したくないんだ・・・」

物言わぬ屍となった少女の姿が頭に浮かぶ。ああ・・・もっと生きたかっただろうに、大人になりたかったのに、そんな夢すら与えてもらえず何の抵抗も出来ないまま死んでいくなんて悔しいよ・・・悔しいよなぁ・・・きっと『君は』俺が見たあの夢を通してそんなことを言いたかったのかなぁ・・・俺の勝手な想像だけど。

本当にごめんな・・・助けてあげる事ができなくて・・・俺がもしこの世界にもっと早く来る事ができたのなら、助ける事ができたかもしれないのに・・・本当に、ごめん。

「所で、『深海凄艦』に敵うのか?って聞いてたな」

「・・・?」

「敵うわけじゃないなら、どうしてあの砂浜に『ヌ級』とやらの死体が転がっていたと思う?」

「えっ・・!?」

青髪の妖精が驚きで目を見開く。状況を把握できていない他の妖精が何のこと?困惑の色を俺と目撃者に向けるが、無視してコンソールへと向き直る。そして瞳を閉じる。

・・・島に眠る全ての『艦娘』達・・・神でもないただの人間の俺は死んでいった命を救う事なんてできない・・・ましてや過去を駆る事なんてのも・・・。

けど・・・けどせめて、今この瞬間に失われようとしている姿だけは救いたい・・・どうか、どうか彼女達を・・・。

 

『天龍ちゃんったら無鉄砲なとこ相変わらずなんだからー・・・2人の事、お願いするわねー?』

『不甲斐ない妹をお願いするわね。レディのお願いは果たしてくれなきゃ駄目だから!!」

 

「!?」

突然の事で目を見開き、後ろを振り返る・・・いない?妖精達が突然振り向いた事に対して困惑の色を浮かべている。

「ど、どうかしたんですか?」

「今、誰か後ろに・・・?」

「へ・・・?」

ますます困惑の色を深める妖精達。今、俺の後ろで女の子の声が囁いていたような・・・それも2人分!気のせい?・・・なのか?疑問が頭を浮かべた矢先の事だった。

 

ゴォォォォォォォ・・・・!!!

 

突然、周りからけたたましい機械音が鳴る。

「!?こ、この音って・・・」

「馬鹿な!まだ機械の操作もしていないのに!?」

間違いない、先程、電がコンソールに何かを入力した時と同じ音だ!俺、まだ何も弄ってないぞ!?妖精達も俺と似た事を考えているのか、ありえないという表情で労働する機械を見渡している。

 

バババババババババババババ!!!!!

 

周りの機械音とは別に、シャッター方面から何かが回転する音が聞こえる。そちらに目を向けるとシャッターの上部分のパネルがやはり先程の電と同じように物凄い勢いで回転を始める。俺も妖精もその様子を黙って見ていたがやがて、パネルがある名前で止まる。

 

「!!!」

「なっ・・・!?」

「そんな・・・そんな事って!?」

「なぜ・・・『彼女』の名前が!?」

「・・・・・・」

 

妖精達が息を呑む。この名前、俺も聞き覚えがある・・・。一瞬、呆然としたが頭の片隅にはなぜか納得できるものがあって、非常時なのに思わず笑みが零れる。

 

「・・・ああ、任せろ!!」

 

そういいながら海に向かって勢いよくジャンプする。すると後方から、何かの機械が飛んできて電と同じように背中と腕で器用にキャッチし、そのまま海面に着地・・・いや、着水か、ともかく沈むことなく海面に立つ。

 

「・・・ええ!?浮いてるえ、何で?なんで!?え?え!?」

「そんな!人間の貴方が艤装を装着するなんて・・・!?それもあの人の『艤装』を!?」

妖精達が次から次へと起こる予想外の事に喚きたてている。どうしてかって?そんなの決まっている。くるりと振り返り、妖精達を見上げる。

 

「『絆』の力は、この世界でも有効だって事だ!」

 

俺の出した答えに、妖精が一斉に「?」の文字を浮かべる。が、それを無視するように、正面の出入り口に向き直る。

ここまで期待されといて失敗しました、で終わらせられないな。あった事もないけど、何となく怒らせるとヤバイ気がするしな・・・さて、先程の電と同じようにハイカラな名乗りを上げてみるか。何がいいかな・・・?

 

「・・・八十稲羽の誇る『自称特別捜査隊』隊長、鳴上悠、出撃する!!」

 

『なぜか』理解している艤装を起動させて海面を滑るように発進する。一瞬よろけそうになるがなんとか体勢を整えて水平線に向かって走りだす!!

 

 

 

 

「行っちゃった・・・」

「艤装、装着できるなんて・・・」

取り残された妖精達が呆然と呟くなか、青髪の妖精は先ほどの砂浜の光景を思い出していた。

(先程の『ヌ級』・・・まさかあの人が・・・!?そういえば聞きそびれてしまったけれど、彼は一体何者なんだ!?)

人間が『艤装』を装着できるなんて聞いた事もない!ましてや『艦娘』以外に『深海凄艦』を倒せるなど・・・。

・・・でも、もしそれが・・・眉唾物だけど、もしそんなことが出来るのなら・・・もし本当にそんなことが出来たなら・・・!

(・・・今は彼に賭けてみよう。もしかしたら彼なら、この基地を・・・彼女達を救ってくれるのかも!)

何かを悟った表情で再び、シャッター上部のパネルを見つめる。

「そう思って貴方も・・・死んで尚、彼女達の為に力を貸してくれたんですね?・・・『龍田』さん・・・」

絆の力・・・か、そう思いながらパネルに表示されている名前を読み上げながら、ぼそりと呟いた・・・。




文章力プリーズ。母港の説明が分かりにくくてごめんなさい。あと、皆さんの期待してた戦闘シーンはもう少しおあずけです。折角活躍させるなら『ヌ級』じゃあ物足りないかなと思ったので・・・。期待を裏切ってすいません・・・。

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