鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

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意外と苦戦した・・・あと文章がおかしいかもです。
あと、話の内容を考慮して、R-15と残酷な表現タグ増やしました。よくもこんなキチ○イクロスオーバーを!


第二話 nightmare and unreality

暗い・・・。真っ暗で何も見えない。

「お・・・おい・・・どこだ?ここは・・・?誰か・・・いないのか?」

見渡す限りの闇に向かって声をかけるも、返事がない。何も聞こえない・・・。そもそも俺は、なんでこんな所にいるんだ・・・?駄目だ、思い出せない・・・。

誰か・・・誰かいないのか・・・?

「陽介、千枝、雪子、完二、りせ、クマ、直斗、いないのか・・・?返事を・・・してくれぇぇ!!」

闇の中を走り抜ける。走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る。

もうどれくらい走り続けただろうか・・・?10分?20分?それとも1時間?それとも1分も経っていないのか・・・?それなのに走っても走ってもどこにも辿り着けない・・・いや、そもそも俺は進んでいるのか・・・?

今、今何時だ!?あれ、携帯がない・・・!?分からない、くそっ!誰でもいい!!誰か、誰か!!!そう思いながらどのくらい駆け抜けたのだろう・・・?

ふと、前方に何かが経っているのが見える。人だ。人の後姿が見える。身長が低いな、子供か?いや、この際誰でもいい!!安堵で思わず笑みが浮かぶ。迷いなくその人物の元へ駆け出して、声をかける

「や・・・やっと人に会えた・・・な、なあ?ここはどこなんだ?一体ここで何をしているんだい?」

やや興奮気味にその子供に話しかける。やはり子供だ、後姿だけれども格好とセーラー服の服装から女の子だと判断できる。腰ほどもある紺色の髪に、黒い帽子まで被っている。しかし、こちらが話しかけても返事がないばかりか、振り返ることも微動だにする事もない。もしかしたら、興奮しすぎて怖がらせてしまったのかもしれない。

「え、えーと、聞こえたかな?それともお兄さんの口調が怖かったのかな?ごめんよ?改めて、ここは何処か分かるかな?どこへ行けば出られるのかな・・・・?」

今度はなるべく優しく、丁寧に、その子へ話しかける。これでもかつては児童保育のバイトまで経験した身だ、家庭教師だってした事がある。親戚の小学生と1年間暮らした事だってある。少なくとも、子供への対処は慣れているつもりだった。

が、予想に反してやはり相変わらずこちらに正面を向けることさえしない。相変わらずただ、こちらに背を向けて正面の闇を眺め続けている・・・。相変わらず微動だにしないその姿に、少しばかり違和感と恐怖まで覚えてしまう・・。

「あ、あの!流石に聞こえているんだろ!?せめて何か返答くらい・・・」

大人気ないと分かりつつもその子から感じる不気味さを無理やり払うように、少し語気を荒げてその子の肩を掴もうと手を伸ばす。指先が肩に触れようとした瞬間。

「もう・・・駄目なの」

「・・・!?」

こちらに背を向けたまま、突然少女がぼそり、と漏らす。ようやく、喋ってくれた、なんて安心感がなぜか浮かばなかった・・・なにか、おかしい?

「もう・・・どこにも行けないの。学校へ行ってお勉強する事も、皆とももう会えないし、大きくなる事もできないの・・・だって・・・」

そうして、ようやく少女はこちらをゆっくりと振り返り・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなに、大きな穴が空いてしまったから・・・・」

右肩から先がなく、口から血を流して、体に大きな穴が空いた少女が、眼球のない瞳でこちらを見返してきた。

 

 

 

 

 

叫ぼうとしても、声が出なかった。いや、出せなかったと言うべきか?多分今の俺は、誰にも見せられないようなひどい表情をしているのだろう。肩を掴もうと差し出した手を反射的に引っ込めて、無意識に一歩下がってしまう。するとこちらが一歩下がった分、無残な姿の少女は一歩こちらに詰め寄る。

「ねえどうして?なんで私がこうなっちゃったの?どうして?もっと、モット生キタカッタ・・・・」

あるべき物がないが、それでも確かにこちらを“見据える”少女。俺が持っていた『アリス』を髣髴とさせるような・・・愛らしさと、無残でおぞましい存在がさらにこちらに詰め寄ってくる。

「オ前ガ殺シタ・・・」

「ち、ちが・・・・」

「オ前ガモット早クニキテクレレバ、コンナコトニハ・・・・!!」

もし瞳があれば、だんだん敵意と憎しみで、妖しく、赤黒く染まっていく・・・それほどに恐ろしいまでの、言葉に出来ない何かを俺は感じたのだ。ホラー映画で襲われる被害者の気持ちを、理解したくないのに悟ってしまった・・・逃げねば、そう思って反転しようとした矢先・・・・。

ザシュ!!!

突然、右肩に激しい痛みを感じる。またもや声にならない叫びと共に、激痛の走るそれに恐る恐る視線を向ける・・・。

 

 

『ギシャアアアアア!!!!』

 

 

黒い魚のような生き物が、こちらの“右腕だったモノ”を『食いちぎっていた』今度こそ叫び声をあげようとした矢先、続いて左肩、右足、左足と、次々食いちぎられていく・・・・!よく見るとあの生き物は一匹だけじゃなかった、何匹もいる!それぞれが

かつて俺の“一部だったもの”を咥えてこちらを見上げている。

痛い痛いいたいいたいいたいいたいイタイイタイ!!!!頭が激痛でおかしくなりそうだ!いっそ気絶できたならどれだけ楽なのだろうか・・・・しかし激痛が、それすらも許してくれない。

『ギシャアアアアア!!!!!』

『ギシャアアアアア!!!!!』

『ギシャアアアアア!!!!!』

『ギシャアアアアア!!!!!』

『ギシャアアアアア!!!!!』

黒い生物達が口を真っ赤に染めながら、耳を塞ぎたくなるような、狂ったような奇声を、辺りにばら撒いている。相変わらず襲ってくる激痛に苛まれながら、もはや逃げる事もできず、荒くなっていく呼吸を繰り返しながら、それを怯えたように見ているしかできない・・・今まで生きてきた人生で今のこの瞬間ほど、手足があることがなんともありがたい事か、実感できた事もないだろう。

ジャコン!と、すぐ傍で機械音がしてそちらに向くと、いつのまにか少女がよく分からない機械を身に纏って、小さな大砲のような物をこちらに突きつけてくる。ひとたび発射されれば、少女の腹部と同じような風穴が出来上がるであろう。そしてそれは、目の前の少女の憎しみが引き金となって発射されるその時を、今か今かと待ち構えている。逃げたいのに、動くための足がもうない。“アイツら”に食われたからだ。

“アイツら”の奇声のオーケストラがなるたびにますます呼吸が荒くなってくる。足を失った体で何とか距離をとろうとするも、目の前の少女がそれを許さなかった。

『オマエモ・・・ワタシトイッショニ・・・』

少女の殺気が、ますます強くなって・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミナソコニシズメ・・・・・!!!!』

 

 

 

 

 

ダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおお!!!!!!」(ガバッ!)

 

 

 

絶叫と共に意識を覚醒させる!次の瞬間にはあの闇も、あの時の少女もいなくなっていた。

それでも、呼吸と心臓の動悸が落ち着かない。冷たい汗が背筋と衣服に纏わりついて嫌な感じだ・・・。

ふと、自分の手足がついていることを慌てて確認する。“アイツら”に齧られた傷もない。全ては、幻だったのだろうか・・・。

「ゆ・・・め・・・?夢だったのか、今のは・・・?」

そう認識すると同時に、安心と罪悪感が混ざった複雑な心境が、胸の中に引っかかる・・・。

ふと、視線を下にそらす。やけにボロボロな毛布がかけられていて、下からはギシギシと軋むたびに嫌な音を響かせる・・・マット?俺はベッドで寝ているのか・・・?ってどこだここ!?さっきの砂浜から今度はどこへ運び込まれたんだ?

起き上がろうとしたところで、背中に激しい痛みを感じて顔を歪ませる。そういえばさっき、背中を強打されたんだっけ・・・やっぱり、夢じゃない。もちろんあの世、というには感覚がリアルだし・・・まぁ幽霊になった事がないからなんとも言えないけれども・・・。

ふと、胴体に違和感を感じて何か巻かれているのにようやく気づく。どうやら、包帯みたいだ・・・いつ巻かれた?服装も先程まで着ていた私服ではなく、病人服みたいなものを着ている・・・いつ着せられた?

痛みがようやく収まってきたところで改めて、周りを見渡す。部屋・・・だな、どこだと言われれば何処かの建物の部屋みたいだ。机やら箪笥やら必要最低限のものしか置かれておらず、随分質素な印象を受ける。窓は開きっぱなしになっていて、たまに吹き抜ける夜風が心地よく、射しこんでくる月光が、明かりのないこの部屋を僅かに照らしていた。・・・今、夜なのか。俺はどれくらい眠っていたんだ?

そうだ、だんだん思い出してきた。俺は確かあの海岸で夢の中に出てきたあの黒い魚のような生き物を返り討ちにして、それから少女の遺体を・・・。

そういえば、あの遺体はどうなったんだ?そう考えていると・・・。

 

 

ガチャリ

 

 

ちょうど何かが開く音がして反射的にそちらを向く。どうやらベッドのちょうど正面にあるドアが開いたようだ。そして、ドアの隙間から小さな手が差し込んできたと思いきや、ドアが思い切り開かれて来客の姿が露になる。

「あっ!気がついたのですか!?よかったです!あのまま目を覚まさなかったらどうしようかと・・・」

入ってきたのは、一人の少女だった。セーラー服を纏った小学生、それも“菜々子”より少し年上くらいの背格好で茶色の髪をアップにして束ねている、見るからに大人しい印象の子供が、俺の姿を確認すると安堵の笑顔をこちらに向けてくる。

「えと・・・君が助けてくれたのか?」

笑顔をこちらに向ける少女をよそに、意外な来訪者にポカンとなる。

「は、はい!ちょうどこの基地の外へ見回りに行っていたら、お兄さんを見つけたのです!なにやらただ事ではない状況だったので電がこの基地へ運びました!」

「・・・運んだって、君が?」

「なのです!」

いやいやいや、どう考えても体格差があると思うのだが・・・しかし本人は、肯定するかのように、なのです!とにぱーっと花が咲くような笑顔を浮かべる。・・・はは、ここにきてから初めて、微笑ましいものを見た気がする。

ベッドの上で姿勢を正して、腹の位置まで深く頭を下げる。少女は突然の事にポカンと、口を開いている。

「助けてくれてありがとう。君は俺の命の恩人だ、本当に、ありがとう」

「はわわわ・・・ど、どういたしましてなのです!」

照れたように顔を少し赤くさせながら、ぺこぺこと何度もお辞儀を返す少女。

「あ、自己紹介がまだだったのです!私は第六駆逐隊、暁型四番艦駆逐艦娘、『電』なのです!」

「・・・・は?」

少女―――『電』と名乗った少女から意味不明のワードに、首を傾げる。駆逐・・・艦・・・娘?

「電(いなずま)・・・というのが君の名前なのかい?失礼だけど、変わった名前だね」

「か、変わっているって・・・そういわれましても・・・」(しょんぼり)

「ああ、いや、すまない。そういう意味で言ったんじゃなくて・・・」

少し傷ついた様子で落ち込む電に、慌てて両手を振りながら謝罪する。どうフォローしようか考えていると不意に、ふと、彼女の身に纏っているセーラー服に目が留まる。

瞬間、先程の砂浜での光景と、夢の中の出来事が、頭の中でよぎる。

そのセーラー服・・・似ている、あの『少女』が身に纏っていたあの服に・・・。どうしよう、聞いたほうがいいのか・・・?でも・・・ええい、ままよ!

 

 

「あのさ・・・非常に聞きにくい事なんだけどさ・・・」

「?」

「その・・・俺のほかにもう一人、いなかったか?髪の長い、君ぐらいの年の・・・」

意を決して、少女にあの場に誰か他にいなかったかを尋ねる。瞬間、その少女の顔から表情が消えた。それを見て思わずこちらも息を呑む。

あらん限りに目を見開かせて、驚愕か、怒りか、悲しみか、何を押し殺しているのか?少女の前に組んだ両手がスカートを握り締めて、内に溜まるものを押し殺すように口を震わせながらつぐんでいる。それが何なのかは分からないが、先程の少女についての質問が原因である事は伺えた。この少女にとっては、触れられたくない事である事も・・・。

「あの・・・大じょう・・・」

彼女を気遣う言葉と謝罪をしようとした瞬間・・・。

 

バァン!

 

「お?目ぇ覚ましたのか?」

 

突然、彼女の真後ろにあった入り口のドアが勢いよく開かれ、俺と彼女の視線がそちらに向かう。

「て・・・天龍さん!」

「おお、お前もいたのか?電?」

来訪者―――『天龍』と呼ばれた少女が、意外そうな顔で電を見、そして再び視線をこちらに向ける。薄い紺色のような短髪で、怪我でなのかそれともファッションなのか、なぜか左目に眼帯をつけ、頭に角のような機械的なパーツをつけている。人の格好にケチつけるのもあれなのだが、なんかすごい格好だな。あと、胸囲的な意味でも・・・そっとしておこう。

「生憎、ここには物資が不足してて包帯巻くぐらいしか出来なかったけどよ・・・悪いな」

「い、いや、手当てしてもらえただけでも助かったよ。ありがとう」

「礼ならそこにいる電にしとけよ。俺は別に何もしてねえ」

親指で横にいる電と呼ばれた少女を指す。・・・自分のことを『俺』とか言う女の子をはじめてみた。『僕』なら俺達の周りにいたけど・・・何か眼帯つけているし、もしかして何か痛い人か?なんともいえない俺の視線に気づいて天龍が、「なんだよ?」と不審な顔を向ける。

「あ、いや、なんでもない・・・」

「ふーん・・・」

すぐに興味を失くしたのか、やる気なさげに頭をかく。

「お、お腹すいてますよね!?大したものはありませんけど、何かとってくるのです!」

「あ、おい!」

「よしな、そっとしておいてやれ」

俺達の一部始終を黙って聞いていた電が突然、回れ右をしてドアへと駆け込みそのまま出て行ってしまった。バタバタバタバタという足音が次第に小さくなっていく。あわてて声を掛けようとした俺を、眼帯の少女が制止する。

「まあ無理もねえな、あんな事があったんじゃあよ」

「え・・・?」

「倒れていたお前のすぐ傍にいた、『モノ」だよ・・・」

天龍がベッドの近くに備え付けられていた椅子を、背もたれを正面にして座る。そういう天龍も、何処か翳のある表情を張り付かせて僅かに俯かせる。

・・・ああ、やっぱりあの少女とこの2人は、何かあるのだな・・・。気にはなるけれども、あまりそのことについて触れるのはやめたほうがいいようだ。

しかしそれは、直後に天龍本人によってあっけなく崩される。

 

 

 

「お前の見つけたあの死体は・・・さっきのガキ―――『電』の姉なんだよ」

 

 

 

口に重りをつけられたような重々しい口調で、しかしはっきりとその答えを隻眼の少女は紡ぎだす。自分以外の時間が止まったような、なのにやけに視界がいつもよりやけにクリアになったような錯覚を俺は覚えた。その時の光景を、俺は忘れる事はないのだろう・・・。

 

数秒間、静寂がその場を支配した。かち、かち、と壊れた壁に貼り付けられた時計の音がやけに大きく感じられた。

 

 

 

 

一方その頃、厨房の“ような”場所。

ような、といったのはあまりにもその場所が、普段我々がイメージしているような清潔感のある整った調理施設がある場所とは、あまりにもかけ離れていたからだ。

散乱して割れた陶器やガラス製の食器やコップ類、さらに千切れたり歪んだりしたナイフやフォークや箸、さらにはひっくり返って半壊したテーブルや、破れた白いその上に載っていたであろうテーブルクロス等がその空間の半分を埋め尽くし、白い壁紙がまるでナイフで裂かれたかのように無残ビリビリにされ、壁や地面には大小無数の・・・まるで銃撃戦か地震でも起きたのかと疑わんばかりの穴があり、まるで強盗にでも入られたかと言わんばかりの・・・とにかく見るにも耐えない有様で、かろうじて、所々歪んだ冷蔵庫や流しが、そこが調理場であった面影を残すばかりだった。

その壊れかけの流し台の前に、一人の少女―――電が何をするでもなくそこに立っていた。視線は前髪に隠れ、表情をうかがい知る事はできない。流しの縁の部分を震えるほど掴んで、人知れず、胸の内からあふれ出てくるものを一人堪えていた・・・。

 

 

 

「・・・お姉・・・ちゃん・・・」

 

 

搾り出したかのような声は、倒れたテーブルの陰、ちょうど少女の後ろから心配そうに様子を伺っていた数人の“小さな存在”だけが、人知れず聞いていた。

 

 

 

「まあ、死体が残っているだけまだマシだったかもな?大抵は“海の底に沈む”か“敵の駆逐艦にきれいさっぱり喰われる”かどっちかなんだからよ」

淡々と呟く言葉の中に、聞きなれない単語や、物騒な言葉が紛れ込んでいた・・・が、今は、そんな事はどうでも良かった。

 

「・・・だよ・・・れ・・・」

 

傍らの天龍が顔をあげる。

 

「なん・・・・だよそれはぁぁぁぁぁぁ!!!!???」

 

かけられている毛布を剥ぎ取って、座っている天龍の襟首を掴む。彼女の体が椅子から引き剥がされる。

「なんで・・・なんであんな小さな子が、あんな目にあわなきゃならないんだっ!!!???まだ、中学生にもなっていないようなあんな子が!!あんな・・・むごたらしい・・・」

脳裏に砂浜の少女の様子が去来する。この目の前の眼帯の少女の襟首を掴んだところでどうにもなる事じゃない。ただの八つ当たりじみた事だって分かってはいる・・・それでも・・・。苛立ちをぶつけるような声は次第に小さくなっていき、眼帯の少女は抵抗するでもなく、ただ俺の視線を真っ直ぐに見つめていた。

 

「・・・別にお前が気にする必要はねーよ。そもそも無関係のテメーが、見ず知らずのあのチビの死に対して激昂する事ねーし・・・知り合いでも、親兄弟でも『ケッコンカッコカリ』を交わした間柄って訳でもないだろ?それに・・・」

一旦瞳を閉じて、一呼吸置いた後にもう一度こちらを見つめ・・・。

「『深海棲艦』と戦って死ぬのは、俺達『艦娘』にとって本分であり本望だ。『人間』のお前が気にする必要なんてねーよ。それとも、『死体』を見るのが初めてだからそんなにさわいでいるのか?」

何の感情を込めずに、ただ淡々と言い放った。

「!?」

「というかいいかげん放しやがれ。苦しいし痛いんだよ」

表情を変えずに俺の掴んだ手を予想外の力で乱暴に引き剥がし、その拍子に起こしていた上半身が再びベッドに倒れこんでしまう。その様を見て彼女はつまらなそうに鼻を鳴らして、倒れてる俺を見下ろす。

「色々と聞きたい事はお互いあるけどよ、そんな様子じゃまともに話も出来なさそうだし、いちいち掴みかかられたんじゃあたまったもんじゃあないからな、アンタも怪我してるだろうし今日はもう食って寝とけ。大したもてなしはできねえけどこの個室ぐらいは貸してやっからよ。幸い“この建物の住人のほとんどがいなくなっちまったから”、部屋の空きは貸すほどあるしな」

「!?どういう事だ?」

「そのうち分かるだろうよ。じゃな」

「待て!」

こちらの静止の言葉を無視して彼女は振り返ることもせず、ドアを開けて部屋を出る。後には呆然とドアを見つめる俺だけが残された。

 

 

 

しばらく部屋のドアを見つめていたがやがて、我に返って思考が冷静になると先程の会話を頭の中でリフレインさせる。

『深海棲艦』?もしかして、さっき俺が戦ったあれか?それと戦う?どういうことだ?少なくとも俺のいた世界では聞いた事もない言葉だ。何なんだ?それに、先程の少女達は『艦娘』とか名乗っていたな、これも聞いた事がない・・・それに、他にも気になることをいっていた。

俺のことを『人間』・・・と、まるで自分達が人間じゃないみたいに、深海棲『艦』と『艦』娘?先程のあの2人名乗りといい、まるで自分たちのことを艦(ふね)みたいな言い方をしていた。何なんだいったい?

どうなっているんだ?俺は一体どこにいるというんだ?

しばらく頭の中で考えを巡らせてみたものの、いっこうに答えは見つかるはずがなかった。なんだか今日は色々ありすぎた。明日には事情を聞けるんだ、もう休もう。もう一度ベッドに倒れこんで毛布を被る。が、そうは言っても先程の疑問が頭にこびりついているせいか、なかなか寝付けない。

そういえば、人間の死体を見るなんて生まれて初めてだな。去年の殺人事件も、実際に死体を見たわけじゃないし・・・叔父さんは、いつもあんな人の死を毎回見ているのかな?

・・・あの子の死体は、今どうなっているのだろう?多分、あの2人が回収したっぽいけど・・・。

 

『『深海棲艦』と戦って死ぬのは、俺達『艦娘』にとって本分であり本望だ。『人間』のお前が気にする必要なんてねーよ。それとも、『死体』を見るのが初めてだからそんなに鼻息荒くしているのか?』

 

「おかしいかよ、人の死を悲しんだりするのは・・・」

毛布を握り締めながら放った言葉は、静寂に飲み込まれていた。

 

 

数十分後、建物のはずれにあるとある場所。

 

眼帯をつけた先程の少女―――天龍が、地面に胡坐をかくという、一部の人が見れば女性らしかぬ行為だと注意されそうな座り方をして、液体の入った瓶を片手に持ちながら、目の前の『あるもの』を見つめている。

「今日は、いろんなことがあったんだよ」

目の前の『モノ』に独り言のように呟いき、一旦言葉を区切って瓶の中の液体を飲む。元々半分くらいの中身がさらに半分になる位まで飲み干すと、ようやく瓶から口を離し、言葉を続ける。

「・・・『一番上の姉』の死体が見つかったんだ。電の奴、今頃一人泣いてるんだろうな・・・けど、『他の姉2人』みたいに『アイツラ』に食われずに残っていたのはまだ幸いだったろうよ・・・『天龍幼稚園』とか色々言われながら遠征いったのが昔の事に思えるよ・・・」

もう一度瓶に口をつけ、そして今度はすぐに口を離す。表情は前髪と夜の闇で窺い知る事ができない。

「あと、どこから来たのか人間も一人拾ってきたぜ。男だ。綺麗ごとぬかしてさっき掴みかかってきたから、逆に突き飛ばしてやったぜ?でかい図体して情けないったら・・・男の癖にな。あれでも笑い堪えるのに苦労したぜ?多分『お前』が傍で見たら、間違いなくいつものあの顔で小馬鹿にしてただろうな・・・いつも俺に言ってたみたいに・・・ははっ」

『もし』の可能性を頭に浮かべ、力なく笑う。

「この基地も、随分広くなっちまったなぁ・・・前までは部屋の数が足りないとかあったって言うのに・・・今では俺と電と『妖精』達だけってなもんだ、後は今言った野郎か・・・貸し宿が経営できんぞ?なぁ?」

こみ上げるものをごまかすかのように、瓶の中身を全て呷る。ぶはっ!と息をつくと瓶をどん!と乱暴に地面に置く。

「多分、『俺達』もすぐに“そっち”に行くだろう。そしたらまた、お前のいつものお小言と皮肉も好きなだけ聞いてやるよ・・・なーに、そんなに待たせないからよ?」

目の前にあるもの・・・木でできた十字架と、一本の『薙刀』に対して、隻眼の少女が悲壮な決意を誓う。

 

 

 

 

 




なんだかやっつけ気味?詳しい説明については、また次ということに・・・。

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