鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

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諸君、私は艦これが好きだ。
諸君、私はペルソナ4が好きだ。
諸君、私はクロスオーバーが大好きだ。

・・・すいません、気の迷いです。


本編
prologue


「おっと」

不慣れな“艤装”の操作を誤まって、よろけそうになるも、持ち前の運動神経でなんとか体勢を整える。いつも思うがすごいなこの装備は。うまく使えばこうやって海の上を走る事ができるなんて。本来ならば、人間である自分が使う事は出来ないのだろうが、“ある存在”のおかげで自分でもこうやって動かす事ができる。使いこなすにはまだまだ修練が必要そうだが。

「今日の遠征も大成功だ」

背中に背負ってあるドラム缶を、ちらりと横目で見ながら満足な笑みを浮かべる。今日は特に『燃料』がたくさん手に入った、“あの子達”が言うには『燃料』は特に大事な資材だと聞く、実際今身にまとって動かしている“艤装”も、この燃料がないと動かす事ができずに、ただの鉄のガラクタと化すであろう。他にも『鋼材』や『弾薬』もそれなりに手に入った。特に『弾薬』は、燃料に次いだ量を確保できた。『ボーキサイト』は流石に手に入らなかったが・・・まあ、今はいいか。

本来ならば、こんな大荷物は一人では運ぶ事ができなかったであろう。だが、俺にはある特別な理由がある。

1つ、『ある能力』を発動しているおかげで今の俺は身体能力が上がっている事、そして二つ目は・・・。

ちらりと、俺の後ろにあるものに視線を向ける。

自分の背丈以上の体躯を持つ異形の存在が、宙に浮きながら俺につき従うようにずっと後ろについてきている。金色の瞳を持つ、鉢巻をしめた機械的な顔。そして学ランをイメージした黒いコートを纏い、その両手には俺が今背負っているのと同じドラム缶を軽々と持っている。異質な人外の風貌を特に恐れる事もなく、むしろ、頼もしさと感謝が込めた意味の微笑を顔に貼り付ける。まあ、“俺自身”に対して頼もしさや感謝というのも変な話なんだけどな・・・。

機械的な表情をした異形、“イザナギ”が、わずかに照れたような顔をしたのは気のせいだろうか?

 

 

 

それから数十分たったであろうか、やがて遠くのほうに、崖の上にある見覚えのある建物が視界に映る。それを一瞥して「見えた」と小さく零して走行スピードを上げると、イザナギも合わせてスピードを上げ、それから数十分の後に崖の下にある穴に辿り着き、その穴をくぐる。

・・・正確には崖をくりぬいてつくった、母港をだが。

崖の中へ入ると、何かの秘密基地を思わせるような大掛かりな施設が視界に入る。何処かの工場を思わせるその施設は、機械が一生懸命喧しい音を立てながら忙しく動いている。少し前まである大規模な戦闘があってそのせいでここの機械もボロボロになってしまったのだが、これもまた“ある存在”の日々の努力によってなんとか使用可能になるまでこぎつけている。一体何の機械なのかはよく分からないけど。

え?さっきから言っている“ある存在”って何?だって?あせらずとももうすぐ会えるよ。ほら、ちょうど“停泊”しようとしているその場所に集まってきている。どうやら俺の帰りを待っていてくれたようだ・・・。

数人の小さな出迎え―――俺の手の平位の大きさの、デフォルメされたような2頭身の小さな小人―――通称“妖精”達が、俺の姿を確認すると、一斉に集まってきて頭を下げる。

 

『お帰りなさい提督』

『お疲れ様でした』

『成果はどうでした?』

『お怪我はありませんか?』

『イザナギさんもお疲れ様です』

「ただいま、今日も大成功だったよ」

俺達を出迎えてくれた彼女(彼?)達に、いつものように出迎えのお礼を言いながら、背負っていたドラム缶をおろし、イザナギもそれに倣って両手のドラム缶を下ろす。

そう、この小さな存在、通称“妖精”がこの装備の開発をしてくれたのだ。他にもこの“基地”の設備の操作や管理、そして何よりも大事な仕事が、俺の纏っている“艤装”といった装備と“ある代物”の開発に携わっている。ふつう妖精と聞いたら、御伽噺に出てくるような羽の生えた小さな人間のような姿を想像するだろうけどな、『この世界』ではガテン系とは・・・しかもその技術力が侮れないとするのだから恐ろしい。

 

 

「おう!帰ったか提督!」

「お帰りなさいなのです、提督さん!!」

 

突如響きわたる自分を呼ぶ声に、視線をそちらに向ける。奥のほうから2人の少女が、俺の帰還を歓迎するかのように笑顔を見せながらこちらに駆け寄る。

片方は薄い紺色のような短髪で、怪我でなのかそれともファッションなのか、なぜか左目に眼帯をつけ、頭に角のような機械的なパーツをつけている。もう一人はなぜかセーラー服を纏った小学生、それも“菜々子”より少し年上くらいの背格好で茶色の髪をアップにして束ねている。

 

「ただいま“天龍”、“電”。今遠征から帰った。」

「おーおー、今日も大漁だったんじゃねーか?まあ、やるじゃねえか?」

「相変わらずすごいのです!提督さんも、イザナギさんも!」

眼帯の少女――“天龍”と呼ばれた少女が俺の背負っていたドラム缶を、指でこんこん叩きながら『ま、俺ならもっととってこれるんだけどよ?』と上から目線で俺に笑いかける。しかしそこそこの付き合いではあるものの俺は知っている、口ではこういっているがきっと心の中では『スッゲー!!さすがだぜ!!さっすが俺たちの提督だ!』とか言いながら感激しているんだろうな。天龍とはそういう奴なのだ。

「な、何見ているんだよ?」

俺の視線に気づいた天龍がじっと見てくる視線が気になるのか、僅かに頬を赤らめながら右目を半目にしながらこちらを見てくる。

「いや、確かに経験豊富な天龍なら、俺なんかよりもっとうまくできるんだろうな。期待してるよ」

「・・・!!と、当然だろ・・・・!!こ、この世界水準軽く超えた天龍様ならよぉ・・・いや、まあ、提督だって十分凄いけどよ・・・(ぼそぼそ)」

「?なんて言ったんだ?最後のほう聞こえ・・・」

「だぁーーー!!うっせえ!!いいだろ!!そんな細かい事!!!」

「?」

急に声を荒げ、すぐにそっぽ向いてしまった。耳がいつもより赤い気がするけど・・・。

「今日はどちらに向かっていたんですか?」

そんなことを思っていると、イザナギのほうをかまっていた電が、いつの間にかこちらに向かって期待するような眼差しでこちらを見ていた。・・・いい笑顔だ。本当に菜々子を思い出すなぁ。

「今日は、オリョールという海に出ていたんだ。その帰りに、『鋼材』が手に入りそうな場所まで寄って行ったよ」

資源の入ったドラム缶をバンと叩きながら指し示すと、電が「はわー!!」と尊敬するような視線を向けながら声をあげる。

集めた情報によると、俺が向かった『東部オリョール海』と呼ばれる場所は、燃料や弾薬がよく取れるということで有名らしく、ならばということで俺自らがとりに出かけた。(天龍からは『提督のする仕事じゃねえ!!』と突っ込まれた)

情報に嘘偽りはなく予定通りに『燃料』や『弾薬』を効率よく集め、時には襲ってきた『深海棲鑑』と呼ばれる化け物を刀で切り、イザナギの雷で撃退しながら何回も何回もその海を回った。通りかかった水着姿の2人の少女からは、まるで二足歩行する魚でも見たかのような『信じられない』という目で見られたのはちょっとショックだったな・・・。

電がこちらを心配そうに見ている。いけない、表情に出ていたか。ごまかすように鼻の頭をかきながらごまかすように話題を変える。

「留守中に、何か変わったことは無かったか?」

「「・・・・・・」」

電に対してそう尋ねる。が、電はなにかまずい事を聞かれたかのように歯切れ悪く口をもごもごさせている。疑問に思って天龍のほうも見ると、いつの間にか通常の顔色に戻った天龍も電と同じように気まずそうに視線を泳がせる。心なしか、空気が少し重くなったような・・・。

「・・・えーと・・・その・・」

「とりあえず、執務室行こうぜ。そうすりゃあわかる」

 

 

 

 

 

「・・・またこんな物を」

「いくらこちらの事情を伝えたところで関係なしに送って来るんだもんなぁ・・・こいつらは」

「なのです・・・」

艤装を外して、取ってきた資源を妖精たちに任せて天龍と電を伴い移動。あちこちがボロボロになっている執務室で、三人仲良くテンションダウンする。遠征で手に入る資材を使って、部屋の中はなんとか最初よりはましになっているものの、やはり客を招けるほど綺麗とはまだ言いがたい部屋だ。いや、今はその事はどうでもいいのだった。

複雑な目線で来客用のやっぱりボロボロなソファに座りながら、目の前の机の上にある『問題』―――とある手紙の山を見下ろし、三人がタイミングを見計らったようにため息をつく。いや、先程の2人の顔を見て嫌な予感は感じていたんだが、まさか『コレ』の事だったとは・・・。

毎回毎回、よく送ってくるものだ・・・いや、まあ確かにありがたいことなんだろうけどなぁ・・・でも今のこの基地の状況じゃあなぁ・・・ちらりと、机を挟んで座っている二人に視線を向け、2人も視線に気がつく。

『・・・読まなきゃ駄目?』とそんな意図を込めた視線を送る。視線の意味を察したのか2人とも一瞬、視線を俯かせるものの、やがて天龍が目を閉じて『あきらめろ』と言わんばかりに首を振る。ですよね。

もう一度ため息をつきながら目の前の紙の1つを手に取り、中の文字を読む。やがて、概ね内容がこちらの予想通りだったのでまたしてもため息が出る。この数十分で幸せが何個消えただろう?

 

 

『HEY!お元気にしてマスカー!?金剛型戦艦四姉妹のネームシップ、金剛デース!そろそろ私たちノパワーのTURNじゃないですカー?それとも照れてるんデスカー?いい加減イイ返事してくれなきゃNO!ナンダカラネー!』

 

「先日断ったはずなんだけどなー・・・」

げんなりしながら次の手紙を手に取る。うん、やっぱり同じような内容だ。

 

『元気にしているか?ビッグ7こと長門型一番艦長門だ。さすがにそろそろ私たちの出番が来たんじゃないか?敵艦隊との殴り合いなら任せておけ!妹の陸奥共々、そろそろ色よい返事を待っているぞ!』

 

「すいませんけど今はそれどころではないんです・・・と」

今読んだ手紙もそっとしておいて、次の手紙を読む。

 

『妙高型三番艦足柄よ!よかったら今度お見合いでも・・・』

 

「お呼びではないのです!!」

読んでいる最中、いきなり電が上から手紙を取り上げた。突然の事に思わずぎょっ、としながらもどうした?と目を向けると、なぜかむくれた表情で鼻を鳴らしていた。

「重巡も戦艦ほどではないのですが燃費を食うのです!」

「そ、そうか・・・」

「あんな飢えた狼に、この基地をうろうろされたくないのです・・・なにより提督さんの貞操が危険なのです・・・」(ぼそぼそ)

なぜかそれだけが理由ではなさそうだが・・・そっとしておこう。まあ、どっちにしろお誘いを断るつもりではいたのだが。

 

「どいつもこいつも、同じような内容の手紙よこしやがって・・・これじゃあラブレターじゃねえか・・・」

見事にこちらと気分がシンクロしたように、明らかに疲れた様子で手紙を読んでいる天龍。この分だとどうやらこの2人が読んでいるのはまあ、俺と同じような内容というのは想像に難くない。しかし、今変な事言わなかったか?ラブレター?誰に?

「こっちにゃ他の戦艦だけでなく、正規空母まで・・・『貴方なら多聞丸のようになれるわ!!』だの『いいからボーキサイトだ!!』って・・・うお!?大鳳までいやがるのか!!」

「そんなにすごいのか?」

おい、後者は何だ?と出そうになる言葉をこらえて疑問を投げかける。ウチはボーキサイトはもっと不足してるよ?念のため。

「こいつを大型建造するために、何人もの提督が資材を大量に溶かしているくらいだからな・・・ま、こいつを運用するのにもかなりの資源が必要だけどよ・・・」

「なるほど」

だとすれば答えは同じだ。残念ながらウチにはそんなのを運用する余裕なんてないからな。俺の考えを察したのか、天龍が「勿体無いけどアウト」と言いながら次の紙に手を伸ばし、またすぐ書面とにらめっこする作業に戻る。

「あ、こっちには軽巡の子のお手紙もきているのです!」

「本当か?・・・一応チェックは入れておくか」

「なのです!」

軽巡や駆逐艦なら、燃費がいいからまあなんとかなるだろう。決してロリコンだからなのではない。念のため。俺の返事を受け取るや否や、その紙になにか書き込む電。たぶん何かの印でも入れてるだろう。

「しかし、彼女たちはなんでこんな所に転属したがるのだろうな・・・」

俺の漏らした呟きに、2人が顔をあげる。

そもそもここは、戦艦や正規空母みたいな本格的な艦を運用できる余裕はないのだ。元々『深海棲艦』の襲撃をうけて壊滅状態だったのをなんとかみんなで資源を集め、かろうじて基地としての機能を果たしているに過ぎない。駆逐艦や軽巡ならばともかく、戦艦クラスなんか入れたりしたら瞬く間にここは資源不足に陥り、砂上の楼閣のように崩壊していくに違いない。それが、この手紙に記されている戦艦勢の着任要求を断る理由だ。純粋な好意を断るのは気が引けるけど。今のところ、ここにいる天龍や電で事足りている。まぁ・・・その分彼女達に苦労をかけることになってしまうのだろうが、そこは申し訳なく思う。

「けどよぉ、普段運用はしなくても一隻くらいは手元に置いといてもいいんじゃないのか?」

「資源の問題を抜きにしても今のところ、戦艦を手元に置いておく必要性はない。こちらが独占して使わないまま埃をかぶっておくよりは、今必要としている基地で活躍してもらったほうがいい。他の提督や、艦娘本人の為にもな」

天龍には顔を向けず、別の手紙を読みながらきっぱりと言い放つ。向かいの天龍が、わずかに喉を鳴らしているのが聞こえた。どんな意味だったのかはあえて問わないでおく。

しかしある意味では手紙だけで済んでいるからまだましだ。この間なんかどこからこの基地の話を聞きつけたのか、外国人を髣髴とさせる戦艦が駆逐艦2人と重巡と潜水艦一人ずつを引き連れて「いいのよ?私達が力を貸しても」と直接やってきた時には流石に対応に困った。なんとか『生き字引き』と『言霊使い』のスキルを生かして30分の論争の末、なんとかお帰り頂くことに成功した。悔し涙を流しながら去っていく5人の姿がさすがに良心に突き刺さったけど、そこは勘弁してもらいたい。この基地の死活問題に関わるからな。

そんなことを思い出しながら、またげんなりする書面確認へと視線を戻し・・・。

 

『北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さんマジ女神北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん食べちゃいたい北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さんムシロワタシヲタベテ』

 

「どうした?そんなに顔を引きつらせて」

「いや、間違いの手紙だ。内容は見なくていい・・・いや、見るな」

「?」

即座に手紙を後ろに放り投げる。即座に今見たモノは忘れよう・・・・。いや、俺は何も見なかった。なんか着任関連とは全然関係ない、たまにこういった手紙が来るから余計に性質が悪い。この前なんか『不幸だわ・・・』だの『今日は何の日!?』だの、特に前者は不幸の手紙でも送ってるんじゃないかと疑うくらいのレベルだった。御祓いでもしたほうがいいのか?神社があればの話だが。

 

「あ・・・」

「?今度は何だ?」

先程の記憶を消去し終わった途端、電が僅かに驚きの声をあげ、一枚の紙を凝視している。

「どうした?」

「・・・・・・」

何事かと俺が声をかけると、電がびくりと体を震わせてこちらを見る。その目は戸惑うような・・・少し脅えているような・・・そんな目を向けながら持っている紙を俺に恐る恐る渡す。僅かに手が震えているせいで紙が僅かにばさばさと音を立てる。いやな予感を感じさせながらもその書類を受け取り、内容を読む。

 

 

『○○○基地の臨時提督の鳴上悠殿、貴殿の基地における実績を称え、緊急措置ではあるが勲章の授与と少佐の地位、○○○鎮守府への移転を命ずる。つきましては○月○○日○○時に大本営まで出頭願いたい。良き返事を期待する。  海軍元帥 ○○○ ○○』

 

 

「お、おい、なんなんだよ?そんな渋い顔して。何が書かれてるんだよ?」

一人話についていけず、天龍が困惑した顔で電と俺の顔を交互に見る。俺は黙ってその紙をテーブルに置き天龍にも見せるとすぐさま事態を把握したらしく、ガバッ!と効果音がつきそうな勢いでまさに驚愕といった表情をこちらに向ける。

「・・・おい、これって」

「て・・・提督さん・・・」

かすれたような声を絞り出して2人は言う。

そんな2人を他所に、俺は先程の紙面にもう一度視線を落とす。一介の高校生に階級・・・それも佐官クラスとはな、軍の学校に入学していないとどんなに頑張っても大尉が限界だと聞いた事があるのだが・・・それほどまでに俺なんかを手元に置きたいのか・・・?

馬鹿馬鹿しい。

むすっ、とした表情を隠す事もせず書類を持ち上げる。天龍と電が俺の一挙一動を緊張の中見守る前で・・・。

ビリビリビリビリ!!!

「・・・・!」

「あ・・・!」

「・・・あとで手紙の準備を頼めるか?『有難い話ですが謹んでお断りします』と書かなければな」

意外な行動、とでも思ったのだろうか?驚愕で目を見開く2人の目の前で、大本営からの書類をビリビリと破り捨て、白い紙吹雪がボロボロの絨毯の上にはらはらと降り注ぐ。部屋の隅にあるほうきとちりとりを取り出して、ざっざっと紙を集めてゴミ箱に投げる。こんなことするくらいなら直接投げたほうが早かったな・・・。

「ん?どうした?いつまで呆けているんだ?」

「あ・・・・いや、その・・」

「て、提督さん・・・」

やっと意識を再起動させた2人の様子に失礼ながら何処か可笑しくなって、力んでいた眉を緩めて口角を僅かに上げる。俺の今の行動に何かいいたげな様子の2人を手で制して言葉を紡ぐ。

「妖精たちや君たちは俺の事を提督と呼んでいるけど、別に俺は提督になったつもりはない。ただここに勝手に居座っているだけ、遠征や出撃も働かざるもの食うべからずという言葉に従っているだけなのと、宿泊代代わりみたいなもんさ」

まあ、今言った事も間違いではないけれども、建前みたいなものだな。手紙だらけのテーブルに両ひじをついて口元に両手を組ませながら考えにふける。

細々とやっている僅かながらの書類仕事や、あちこち半壊しているこの建物の修理の指揮など、本来『提督』と呼ばれる立場の人間がやっている仕事を悪戦苦闘しながらこなしているのに加えて、本来ならば彼女達艦娘達の役割である出撃や遠征すら、俺一人でこなしている。なぜか?

この基地で壊れているのは何も、内装や外壁だけじゃない。新しい艦娘を『建造』するための工場や、怪我をした艦娘を修理するための『入渠』をするための設備も、俺がこの基地に来る以前の大規模な戦闘において壊滅してしまったらしい。つまりこの基地は新しい艦娘を建造する事も、怪我をした艦娘を回復させる事もできない。そのせいで、被害軽微な電はともかく、見た目以上にダメージを負っている天龍はうかつに出撃も遠征も出来ないという有様だ。俺の『能力』でなんとか少しずつ回復はしているものの、今はせいぜい経験不足な電と一緒にかろうじて使用可能な装備を持たせて、俺が不在の間の留守を任せるのが精一杯だ。『工場』と『入渠』の修理は俺が集めた資源を使って、妖精たちが基地の修理と平行して頑張ってもらっているものの、何分壊れた建物の修理とあわせて大量の資源が必要なので、進行具合が芳しくない。そしてその資源不足が先の戦艦クラスの艦娘達を着任できないという原因にも繋がっている。

そしてそんな火の車の中、唯一動ける俺がここから去ってしまったらここはどうなる?彼女らはどうなる?崩壊寸前の虫の息のこの基地を大本営は面倒見てくれるのか?いや、しないだろう。使えそうなものは回収しておいて、さっさと見切りをつけてこの基地を『なかったことにする』。それが一番手間がかからない方法だろうから・・・先の戦闘でまだ完全に回復しきっていない彼女たちを放って置いて、自分だけ遠くでのうのうとしているわけには行かない。できるものか。

そんなことを考えていたら、無性に腹が立ってきた。組んでいる両手がぎゅうぅぅと力が篭る。

 

「あの・・提督さん」

電の声にはっと意識を覚醒させる。いつのまにか組んでいた両手に力を入れすぎたのだろう、爪が食い込んでいるところから血が滴り落ち、それに気づいた電が「ち、血が出ているのです!!」と慌てふためき、すぐさま近くの棚から救急箱を取り出して絆創膏を俺の手に貼り付ける。すまない、と小さく礼を言う。

「・・・お前、いいのかよ?」

「ん?」

「向こうへ行けば、アンタもお偉いさんの仲間入りなんだぜ?俺達のことなら、別に付き合わなくても・・・。せっかくいい話が舞い込んで来たんだ、こんな潰れかけの基地に無理に付き合う必要ないんだ・・・「てい(ガス!)」ぐえぇ!?」」

「あ、間違えた」

「はぁ!?いきなり何しやがる!?」

言い訳をする子供みたいに、俯きながらぼそぼそと喋る天龍に、つい軽くチョップをかます。軽くやったつもりだったが、本人は少し痛かったみたいで、チョップされた部分を両手で押さえ、若干涙目になりながら抗議してくる。その様子に、俺が『元いた世界』の相棒を思い出してしまい、つい可笑しくなってしまう。そのやり取りを傍で見ていた電はいきなりの事にどうしていいかわからず、救急箱を抱えながら「はわわわわ・・・」と震えていた。

「そっちこそいいのか?俺がいなくなったらどうやってこの基地を維持していくんだ?資源は?身の安全は?それとも天龍は、そんなに俺がこの基地から出て行ってほしいと願うのか」

「そ、そんなこと・・・言ってないけどよ・・・ただ・・・」

頭を押さえながら、ばつが悪い顔で視線を泳がす天龍。

「さっきも言ったけれども、これは俺が勝手にやっている事だ。二人が気に病むことなんてない全くない。別に俺は軍の中で偉くなりたいからやっているわけじゃないさ。俺に気を遣うぐらいなら、早くその体を直すんだな。まだ本調子じゃないんだろ?」

「け、けどよ・・・」

しどろもどろになりながら、うまい言葉が見つからずにうなだれる天龍。

「おっと、もうこんな時間か。空も暗くなり始めたし、俺はそろそろ夕飯の準備をしてくるよ。すまないが2人は残りの作業をよろしく頼むよ」

「あ、提督・・・」

「じゃあ、よろしく」

机の上の紙の山を指差しながら席を立ち、何かいいたげな2人を強引にスルーして執務室のドアをくぐって廊下に出る。量こそは多いものの、内容を振り分けるだけの簡単な作業だから2人でも出来るだろう。この部屋に残って、行く行かないの問答を続けても時間の無駄だ。あ、そういえば大本営に手紙を出すのを忘れてた・・・。

ま、いいか。

丁度すれ違う妖精に軽く挨拶を交わし、次の瞬間には今日の夕飯の献立はどうするかと考えながら、鼻歌交じりで瓦礫があちこち散らばっている廊下を歩き出す。明日は、この建物の掃除でもするか。

 

 

 

「変わった奴だぜ・・・」

執務室に取り残された2人のうちの一人天龍が、テーブルの手紙に手をつけずに、両手を頭の後ろに組んでソファに深く座り込みながら、電灯のついている天井を仰いで呆れと感嘆と・・・どこか安堵したようなものが混じったような呟きをもらす。

「でも、いい人なのは間違いないのです」

「・・・まぁ、そりゃあ否定しねーけどよ」

向かいのソファに座るもう一人の少女――電の放った言葉に、肯定の意を出す。

「ここを去ろうと思えばいつでも出来るのに、あの人は傷ついた電達の事を気にかけてここに残ってくれました。今ここで電達がこうしているのも提と・・・あの人のおかげなのです」

提督、と言いそうになり、青年が自分は提督ではないとの言葉を思い出して慌てて言い直す。しかし天龍は、その様子を見ても、『無理もない』と苦笑を零すのみだ。電が提督と呼びたくなる気持ちは十分に分かるから。

「わかるぜ、その気持ち」

「ふえ?」

「お前が、思わず提督と呼びたくなるその気持ちだよ」

 

 

普通天下の大本営からあんな好待遇の条件を出されたら普通なら喜んで飛びつくに違いない。そうじゃなくても、こんな大掛かりな要求を跳ね除けると言う事は、ますます自分の立場を悪くさせる可能性が高いだろう。中には『謙虚な奴だと』思う人物もいるであろうが、悪い印象を抱く人物がほとんどだろう。前にここにいた提督(クソ野郎)だったらここの状況などお構い無しで、二つ返事でこの要望に飛びついていたに違いない・・ここに残された者たちの後の事など考えもせずに。

しかし『彼』は違った。最初は自分が知る人間なら持たざる能力に恐れおののきながら(電なんかはじめてみたとき、恐れのあまり尻餅をつきながら「はわわわわわ」と震えながら漏らしそうになったらしい)、『それ人間のやることじゃねーから!!』と突っ込みを入れたこともあるが、今電が言ったように、なんとか崩壊したこの基地で、ぼそぼそと無残に生きつないでいる自分達を放っておけず先の負傷で満足に出撃できない自分達の代わりに、自らが前線に立ち、時にはに遠征に行き、日夜この基地の復興の為にその身を削っている。出会ってほぼ間もない他人同然の自分達のためにだ。この基地にいる者たちを守るために自ら刀を振り、優しい笑顔で「大丈夫か?」と手を差し伸べながら自分達を気遣うその姿はまさしく人間の鑑であり、その姿に、かつて自分達が理想としていた『提督』の姿を見た。

・・・まあ同時に、絶対に怒らせてはいけない存在でもあるのだが、彼の持つ『能力』とは別にだ・・・。以前『何にも知らないてめえに何が分かる!?轟沈が怖くて艦娘やってられるか!俺達にかまうな!!死ぬまで戦わせろ!それが“俺達”の本分だ!!』そう言った瞬間、彼に思い切り頬を叩かれて、普段からは想像もできない物凄い剣幕で胸倉掴まれながら迫られて、何も言い返せなくなったのはまだ記憶に新しい。その一件以後、『姫』クラスを怒らせても、彼は絶対に怒らせてはいけないと固く電と誓ったものだ。

あと欠点といえば・・・天然なジゴロなところか?見た目も中身も言う事なしで、この目の前の艦娘からの着任の要望の手紙とも、もしくはラブレターとも取れる書類とも取れるの山も、恐らくそういった要素が大きいのだろうが、本人は女性の好意には鈍いからなぁ・・・あいつに好意を持つ女子は大変だろうな。

・・・・ま、自分達もだが。

 

「電も早く、あの人の力になりたいのです」

ぶすっ、と悔しそうに電が呟く。

「何かを殺すのは、たとえ敵さんでも嫌なのですけど、せめて遠征とか・・・何か身の回りのお世話でもできたら」

「まぁーだそんなこと言っているのかよ?お前は。前にも言っただろ、『深海棲艦』と戦うのにあいつらの事を気づかってどうすんだよ。やらなきゃやられるんだぜ?ここが戦場だって事を忘れちゃいないだろうな・・・?」

「ううぅ・・・・」

痛い所を突かれたかのように電が喉を唸らせる。相変わらず甘っちょろい奴だ。未だに『沈めた敵艦も、出来れば助けたい』なんてまだ言っているのか?他の艦娘や提督が聞いたら嘲笑われるか、軟弱な!と唾を吐きかけられるかどっちかだろう。

(ま、あいつならその考えを支持するだろうけどな。あの笑顔で「その考えを大事にしてほしいとか」臭っせー科白を吐きながら・・・んなことしてるから連日のように手紙の山が尽きないんだよ)

その事に対して複雑な物を抱えながらも、すぐさまそれを心のうちにしまいこむ。

 

「ま、何はともあれ、まずは俺達が動けるようになってからだな!その時には世界水準超えたこの天龍様の力をあいつにみせてやるぜ!!」

「そ、その時は電の本気も見せるのです!」

 

片や忠実な狼を思わせる笑みを、片や純粋無垢な笑みを浮かべながら、2人の少女はごつんと拳をぶつけた。

自分達の敬愛する――『鳴上提督』の力になるその時をを思い浮かべながら。

 

 

 

 

崩壊寸前のこの基地の艦娘達と、突然、どこからかこの基地にやって来た、番長こと鳴上悠。彼と彼女達との出会いは、1ヵ月と数週間に遡る。




改めて、ご意見くださった黒城優輝さん、ありがとうございました。

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