鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

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短めです、投稿!


第十六話 Flowerbed of calamity . Fool of flower beds  前編

『ちらっと耳にしたことがあるだけですけど、あれは恐らく戦艦『レ級』と呼ばれる種類だと思うのです』

『戦艦『レ級』・・・?』

『数ある『深海凄艦』の中でも強い力を持っている個体だと聞いたことがあるのです。歴戦の艦娘や提督でも手を焼く相手だと聞いております』

 

 あの時、電の言っていた言葉が脳内で再生される。

 誰も動けなかった。先程まで騒いでいた妖精も、天龍も、電も、ヲ級を抱いたままの俺も。北北東からの微風でさえも、この場にいる全員が声を失っていた。少なくともそう感じられた。

 

何があった? (降ってきた。)

何が?(見覚えのある、黒いレインコートのような物を着た何か。)

何をしているんだ?(手を合わせてお辞儀している。)

一体何のために?(わからない)

 

真空状態に突然発生する素粒子のように、疑問とその自己解答が繰り返し、頭の中に現れては消えてゆく。その頭の中の自問自答がやけに長く行われたように感じられたが、恐らくは1~2秒もかかっていなかったのかもしれない。

 事戦闘においては致命的な、そんな悪循環の俺のサイクルを破壊してくれたのは皮肉なことに、周囲の味方の天龍や、電、妖精さんでも、今腕の中ですやすやと寝息を立てているヲ級でもなく…意外なことに両手を合わせ、お辞儀をしたままの状態である侵入者(レ級)のその、一見しただけでは見逃してしまいそうな、挨拶を交わすには奇妙な、膝を曲げた状態にあった。

 

 なんだあの体勢は?(まるでこれから跳躍するような…)

 何処に?(自分か、もしくは仲間たちのいずれか)

 もしこいつが向かって行ったらどうなる?(誰かが…危ない…)

 

 瞬間、脳裏に映るのは昨日、助けて、助けられた光る左目を持った茶髪の一人の少女。反応する事も出来ずに、鈍器を思わせるような巨大な手で殴りつけられぐったりと、血だらけで倒れ伏す姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブレイブ………ザッパァァァァァァァァ!!!」

「ッッ!???」

「オオオアッッ!?」

 

 

 思考が、一気に現実へと引き戻される。

 周りの視線が驚いた様子で俺に集まる。張りつめた空気をパンクさせるかのように思いきり叫びだし、言い終わるか終わらないかのタイミングで、イザナギが矛を袈裟切りに振り下ろすと、その斬撃の軌跡が『ブレイブ・ザッパー』となって、未だににお辞儀しているレ級の方向に飛んでいく。

 速さ、方向、タイミング、どれをとっても問題なし。強いて言えば『ヒートライザ』と『チャージ』がかかっていないので威力の面で不安があるものの、とにかく早く攻撃せねばならないと、余裕がなかった。

 そんな苦し紛れの、それでも今考えうる最善を尽くした即決の攻撃を…バネのようなしなやかさと力強さを彷彿させる跳躍…それも前ではなく縦方向に勢いよく何回転もバク宙することで躱し、忌々しいほど華麗に膝から着地する。脳と反射神経を総動員させ繰り出された『ブレイブ・ザッパー』が、レ級を虚しく通り過ぎて後方の木々を薙ぎ倒していく。ザクザクザクという音が、次第に次第に消えていく。

 一方、うまく斬撃を躱してみせた当人―レ級は、着地した地面に屈んで手をつきながらゆっくりと、顔を上げこちらに向く。

…先程と変わらない歪な笑み。初めて逆上がりを披露して見せた子供が『どんなもんだい』と自慢げに浮かべる顔のようにも見え、もしくは『ざまあみろ』とこちらを挑発するような笑みともとれる。…浮かべる笑みは子供のようなのに、どうしてこうも危険な香りが漂うのか。紅く輝く瞳が、どうしてこうも禍々しく見えるのか。『シャドウ』が浮かべる金色の瞳とは別の意味で…不気味な色。

 

「っ!!」

 

イザナギを急発進!未だ真っ直ぐ未だ膝をついているレ級に向かって全速力で飛ぶ!本体である俺とは裏腹に、キレのイザナギの動きが矛を刺突に構えてそのまま…。

「無茶スンなヨ、怪我人のクセニ」

 

 声が、聞こえた。遠くからではなく、すぐ目の前から。互いの吐息がかかるまですぐ近くに、遠くにいたはずの不気味な紅がケタケタと、呆気にとられる俺の瞳をのぞき込んでいた。それを見て、『馬鹿な』と、ありきたりな一言が頭に浮かぶ。僅かに眼球を動かし前方を確認すると、先程レ級がいたであろう位置にイザナギの刺突が空振っている場面。嘘だろ、数メートルあるあの位置から瞬間移動でもしたのかこいつは!?昨日『スクカジャ』がかかっている状態のヲ級より早い!?

 それでも反射的に行動を起こそうとするも、両手がヲ級を抱えているのに気づき次に浮かぶのは『しまった』という一言。

 そのわずかな隙に、レ級の大蛇を思わせるような尻尾が俺の首に巻き付き、そのまま地面に豪快なキスを見舞ってしまう。その拍子に、両手で抱えていたヲ級の体を手放してしまい、地面に投げ出されるのを感じる。

 

「コレデ2回目ダな…お前ガ私ニヤラレるのハ…ヒヒっ」

「く…う…」

 

 楽しそうな声と共に、背中から小学生程の体重にのしかかられる重圧。周囲が、驚きと悲鳴でざわめく。

 …意外と軽い、元々小学生程の体躯でもアナコンダみたいな尻尾の重さも加わっているというのに、傍で転がっているヲ級よりも軽いかもしれない。だがその気になれば、いつでも俺の命を刈り取れるのであろう。さしずめ大蛇に丸呑みにされる小動物といったところだろうか…いまだに首に巻き付いている尻尾の感触がそれを物語っている。

 

「2回目…ということはお前やっぱり、先日の『レ級』だな…?」

「知っテタのか、私のコトヲ。まあ大方、そこの二匹と妖精ドモに聞いたッテトコロか?」

「ッ!て、てめえ…!」

「っ!やめ……」

「動イテンじゃネーよ!」

 ドゴォォン!!

 

 やめろ、と言いかけた時、轟音が響き軽い地震が響く。妖精と電がひっ!と小さい悲鳴を上げる。

 首すら満足に動かせる状態ではないので見ることが敵わなかったが恐らく、尻尾状の主砲から地面に向かって発射したのであろう。

 話に割り込まれたのが気に入らなかったのか、それとも別の思惑があるのか、先程とは打って変わって、癇癪を起した子供のように怒りの感情をむき出しにしているレ級

 

「『ペルソナ』も持タネー雑魚の軽巡の分際デ!少しでも長く息吸っていたカッタら、アホみたいニ黙ってツッタってロ!!」

「…っ!?」

「て、天龍さん!?」

「…や…めろ…!」

「…オット!お前も妙な真似はヤメナ!」

 

 巻きつけている尻尾に加えて、左手で俺の頭を握りしめる!感じられる手の感触から、俺の頭を握りつぶすくらいの力があるのが感じられる。

 

「ツイデに何かと厄介ナ、あの『愚者』のペルソナも動かスナよ?お前ノ大事なオトモダチがどうナッテもイイっていうんナラ、話は別だガ」

 

 その言葉に、反撃に転じようとしたイザナギの動きが止まる。…怪我で本調子じゃないことを含めて、俺がこうやって拘束されて動けない以上、俺の上に跨っているレ級は、イザナギの攻撃よりも早く電達を攻撃するだろう…。そうじゃなくても、視界が見えない状態でイザナギを動かしてこのレ級に攻撃を当てることが出来るだろうか?

 …己の無力さに、レ級に見えないよう強く歯ぎしりする。

 

「お、お兄さん…」

 

 電が震えた声をこちらに向ける。小さくレ級が舌打ちする。

 

「電、俺は大丈夫だから…心配するな…」

「で、でも!」

「大丈夫だ…落ち着け」

「………」

 

 レ級の怒りの矛先が行く前に、顔が見えない電に対してなるべく平静に、そして穏やかに声を掛ける。例え強がりでも、少しでも不安を和らげねば…。

 ついでに、どうにか隙を見つけて反撃できればいいんだが…。

 

「…こうヤッて深海棲艦に拘束されてヤバイッていうのに、自分よりオトモダチの心配とハ…泣かセルね…」

「………」

「それトモ、ソレこそが『お前』が『お前を』ヲ足らしめルモノだってぇのかナ…ヒヒっ」

 

 どういう腹積もりで話しているのかは分からないが、表情に張り付けている嘲笑のおかげで、たとえ褒めているつもりなのであろうともこちらの神経を逆撫でしている風にしか聞こえない…。苛立ってくるな、歯を剥き出して笑っているこいつにも、その相手に為すがままに押し倒されている無力な自分自身にも…。それがおかしくてたまらないというように、クックとレ級は笑うつづける。

 

「…そんなオ前の甘さガ、今の状況ヲ招いているといウノニな」

「…?」

 

 が、ひとしきり笑った後何を思ったのか、急に深いため息をつく。こちらを見下ろす紅の瞳に、どこか失望の色を浮かべながら…。

 

「〝昨日”お前ガ余計な事ヲ考エズにサッサと、『成り掛けた』そこの雑魚軽巡モ、ウざってぇ救出部隊の艦娘ドモモぶっ殺せばヨカッタンダ。『ペルソナチェンジ』を失ったトハイエ、お前の力ナラ造作もナカッタ筈ダロ?」

「……っ!?」

「お陰デコッチが他にバレナイヨウニ『後処理』シナキャいけない羽目になっちマッタし、全く面倒くさいったらアリャシねえぇ…。マ、ソウヤッテボロボロになってくれたオ陰で、こっちもやりやすくなったわけダカラ、結果オーライダケドネ。」

 

 レ級の放った言葉に思わず目を剥く。こいつは、一体何を言っているんだ!?昨日の事を知っているのか!?どこかで監視していたというのか!?

 い、いや、それも気になるがそれよりも……。

 

「『こいつは俺が愚者…つまり〝ワイルド”である事。そして〝ペルソナチェンジを失ったことを知っているのか!?』って考えテルダろ?」

「!」

 

 指を銃のように突きつけニヤニヤと、俺の心を見透かしながら楽しそうに笑うレ級。

 

「ああ知っているトモ。ツいでに言えバ、お前ガ育み繋いだ絆の力であの『アルカナ』を手にしたことも…その『真実を射止める究極の言霊』を使って『神』スラモ打倒したコトモ…」

「ッ!?」

「だカラこそ、オ前をこの世界ニ連れてきたンダ(・・・・・・・・・・)

 

 レ級が放った『メギドラオン』級の衝撃発言に、ただただ言葉をうしなった…。。

 

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 体が…重い…。重力に逆らえず深い闇に堕ちていくこの感覚…。既視感を覚る…この感覚。私は…沈んでいるのだろうか…。

 目を開くと、長いトンネルのように真っ暗な闇の世界のはるか先に、朧げな小さな光…。いつか見た、私たちが求めていたもの…。いくら手を伸ばそうとも、今ではもう手の届かない光…。掴むことすらできない蜘蛛の糸の先の…天上。

 …そういえばどうして、あの光を求めていたのだろう…?どうして私達はあの光を目指して、そしてこんなにも悲しい気持ちになるのだろう…?

 どうして、こんなことになったのだろう…?

 

 

『今日はお前ニイイものをクレテヤロウ』

『…………』

『…先日手に入レタ『コレ』ヲお前ニヤロウ…ウマクイケバお前ハ、かねてより求めテヤマなかった『力』ヲ、『人格』ヲ、この青白いカードは与えテクレる』

『…………』

『〝今”ノお前ニハ分かラネえだろウガタトエ、それが植え付けラレタ偽りの物だったとシテモ、文句ハナイダロ?まぁ、うまく『適合』デキナけれバ、この『カード』に宿ル人格に意識ヲ乗っ取らレタリ、最悪殺さレタりするんだロウガな…』

『…………』

『マァ別に失敗しテモ『替え』ナンザイクラデモいるし、そもそも拒否権もないケドな!って言うか拒否ル意思モナインダッケナァ!アッハッハッハッ!!!!』

 

 

 そうしてアイツに与えられた『意思』と『力』。…例え偽りの物だったとしても、求めて止まなかった物にしがみつくことしかできなかった。もう二度と失わないために…もう二度と暗い海の底に戻らないために…。

 その筈…だったのに……!

 

 

 

『クヤ……シイ……』

「……ぇ………た」

『クヤ…シイ…』

「………き……て……」

『クヤシイ………』

「起………ら」

『クヤシイ……ヨォ……!』

 

 

 

 

「ねえ、起きて?」

 

 

 …声と共に肩に手が置かれる。誰?先程まで開いていたはずの瞼をゆっくりと上げ、声と手の人物を確認する。

 

「大丈夫?すごい顔でうなされていたからちょっと心配になって…」

「…………」

「貴方、見かけない顔ね。それにすごい格好…いくら夏だからと言って風邪ひくわよ?」

 

 苦笑しながら、一人の人間の女性が話しかけてくる。茶髪の長い髪を束ねて、広い額が覗かせている。…って、人間!?なぜ!?

 ふと、ようやく周りの景色が先程と違うことに気づいてハッとなる。深海ではない奇妙な…そして安らぐような薫り。草の…匂い?

 先程の闇のような海の中とは打って変わって、まぶしいくらいの陽の光が、地上を照らしていた。…どこだろここは?緑色の草が茂って、たくさんの木があり、近くには木製のテーブルと椅子のようなものもあって、その上には赤い屋根があった。…休憩所…だろうか?

 寝そべっていた体を起こして、ゆっくりと立ち上がる。ふらつきそうになりながらも、近くの木にまで歩み寄り、幹にそっと手を触れる。木特有のざらざらしたこの手触り、何度も何度もその木の表面をなぞって、そして匂いスンとにおいを嗅ぐ。微かな、何とも言えない自然の匂いが鼻腔に充満する。視線を上にあげると、木の樹液を求めてカブト虫とクワガタが、ゆっくりと動いている。

 遠くを見渡すと地面が途切れていて、木でできた柵もある。どうやら崖のようになっているらしく、その下からは人間の住む無数の家が見下ろせた…街?

 訳が分からない、どうして自分はこんなところにいるのだろう?先程まで海の底へと沈んでいくのをしっかりと覚えている。夢…なのだろうか?いいや、あの冷たさ、感触は夢というにはあまりにリアルすぎる…だったら今見ているこの光景は何だ?もしかして今見ているこの光景が夢なのだろうか?それならば今見えているこの光景はなんだ?この眩しい日差しに、温かさ、そして風に運ばれてくるこの草の香り…握りしめる拳の圧力と痛み…夢というにはあまりに現実的すぎる。

 深海に沈んでいる私が、夢となってこの光景を見ているのか?それとも『今』の私が、深海に沈んでいく夢を見たのだろうか?

 どちらが…本当の『私』なのだろうか?

 

 

「どっちもよ」

 

 堂々巡りになりそうな疑問が脳内を支配しそうになった頃、先程の女性が発言をし、思わず女性を振り返る。

 

「『先程』の沈んでいた『貴方』も、『今』こうやって高台から街を見下ろしている『貴方』も、どちらも『貴方自身』よ」

「………?」

「たとえ姿形は変わろうとも、大切なのはそれも自分だという事。自分であることを受け入れること」

 

 なんなんだこの人間の女性は?まるでこちらの考えを見透かしているかのように、柔和な笑みを浮かべながら脳内の疑問に答えていく。

 訳が分からない、そもそも先程の自分も今の自分も同じだなんて…当り前じゃないか。現に私は……?

 ふと、自分の腕を見て違和感を感じる。平均より少し細めの肌色の…腕。気のせいか、私の腕はこんなのだっただろうか?もっと白かったような…。そういえば、いつもより景色が高くなっているような気もする。まるで先程よりも身長が高くなって…いや、そもそもこんな感じだったような気もするような…あれ?

 どういう事かと分かるはずもないのに、先程の女性に向き直る。女性は先ほどと同じように、ただただ柔和な笑みを浮かべるのみだ…。

 

 

「お母さーん!」

「ああ、ユー君どうしたの?」

 

 

 パニックに陥り掛けたところに、横手から小さな男子が走ってくる。その子は女性の傍まで近づくと、ポケットから何かを取り出して見せる。

 

「さっきね、先生とオニごっこしてたら、見つけたんだ!『四つ葉のクローバー』」

「まぁ、すごいわね。よく見つけられたね」

「おかげで先生に捕まっちゃってオニに交代させられちゃった…」

「まぁ…うふふ」

 

 子供の背の高さに合わせるようにしゃがみ込んで、子供の頭を撫でる…親子なのだろうか?

 ひとしきり撫でられた後、ようやくこちらの存在に気づいたのか、男の子がこちらを向く。

 

「ねぇ、お姉ちゃんは誰?」

「……!」

「なんか、変な格好してる。それに髪の色も変ー」

「こら、ユー君。人に向かって指さしたら駄目よ?」

 

 変だ変だとしきりにこちらを指さす『ユー君』と呼ばれる子を、女性が注意する。…私の服装はそこまでおかしいものだろうか?それに、髪の…色?注意されたにもかかわらず、『ユー君』はこちらに次々と疑問をぶつけてくる。

 

「お母さんの知り合いー?それとももしかして、『先生』の知り合いー?」

「……『先生』?」

 

 『ユー君』が指さす方向につられて、視線を向ける。

 

 ドクン。

 

「…お姉ちゃん?」

「………」

 

 不審そうに声を掛けられる。しかしそれには応えない。いや、応えられない。その視界にある『モノ』に、目が釘付けになってしまったから。

 遠くの方でたくさんの子供たちに囲まれ、それに手を焼いている男性の姿が見える。若い男性のようで、後ろ姿しか見えないが、やけに高い身長に灰色の頭髪。エプロンを着用しているらしく、留めるための紐が腰から見える。そんな男性の元に、遊んでほしいとせがんでいるのか周囲の子供たちに両手を引っ張られたり、エプロンを引っ張られて引き連れられそうになっている。

 なんだろう…あの男性どこかで見たような…首の後ろ辺まで登りかかっているのに思い出せない。どうして、あの人から視線を外すことが出来ない。そんな新たな違和感と共にそれとは別の、もう一つの…何といえばいいのだろうかこれは…だめだ、言葉にしようとしても出来ない…。

 視界が、滲んでぼやける。何なのだろうと拭ってみると、透明な液体のようなもんだった。私の目からどんどんどんどん溢れて出てくる。だというのに、不快な気持ちはない。どころか…懐かしい。私は知っている…言葉にできないけれど知っている。この感情も、あの後ろ姿も……。

 

「ああ…ああ…!」

 

 ゆっくりと、千鳥足のようなペースで子供たちに囲まれたあの後ろ姿へと向かう。瞳からあふれる液体はいまだに止まらない。私は…あの人の顔を見たことがあるはず…そこまで前でもなく本当に、ごくわずかつい先程…。出逢ったのも、そこまで時間は経っていない…まだ碌に会話すらもしていないのだろう…。

 けれど知っている。魂が覚えている。いまだこちらに背を向けている貴方は、沈んでいく私の手を引き上げてくれた事…。私を…受け入れてくれた人…。距離はあと数メートル…。私の視界にはまるで、周りの子供達どころか景色すらも消えて、ただその人だけしか見えないような錯覚に陥る。

 お願いです、その顔を見せてください。私を見てください。私と、お話してください。私はここです、ここにいます…!だから…!

 

 

 ドスン!!

 

 

 

 覚束ない足取りと、前ばかりに注意がいってしまい足元にある小石に躓いて、前のめりに倒れてしまう。花がつぶれてしまうかのような衝撃と、顔に小石が刺さるような痛みが走る。

 砂利だらけの地面に手をつきながら、もう片方の手で顔を抑える。別の意味で、目から瞳が出そうだ…。情けない…。そう思った時だった。

 

 

 ザッザッザッ…。

 

 

 砂利を踏み歩く音と共に、地面に影がかかる。疑問に思って見下ろしていた地面から視線を上にあげると…。

 

 

「あ………」

 

 誰かが、私を見下ろしていた。陽光の逆光で、その人物の顔がよく見えない…筈なのに、なぜか私には見えた…。

 私が…一番見たかった顔が…。

 

 

「…貴方が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方が、私の提督ですね…?初めまして…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに、隣の並行世界だったら……。
























番長「お前のおかげで俺の胸ポケットに入れていた菜々子のツーショット写真に焦げ目がついたんだが、どうしてくれるんだ?おい?『真言』叩き込むぞ?え?」
大淀「どうします提督?処す?処す?」(椿落としを肩にポンポン乗せながら)
不知火「『全能の真球』装備して長女ですか?(スキルカード抜きの)事故ナギ作成?『ホムンクルス』無しで『刈り取るもの?』物体Xの一気飲み?好きなの選びなさい」(果心居士で頬をぺチぺチと叩きながら)
レ級「アガガガガガ……」(番長にアイアンクローを食らっている)




疲れてるな、俺…。

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