鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

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あー…しばらくほったらかしにして本当に申し訳ないです…それでもお気に入り解除をせず待ってくれてありがとうございます…。
 それと、今回で終わらせるといっていたな。スマン、ありゃ嘘だ。長くなりそうなので…。


第十三話 You are not alone.  前編

『おい、なぜ今日呼ばれたかわかっているな?』

 

『………』

 

『先程の貴様の不手際で、2番艦の龍田が敵に襲われて死んでしまったそうじゃないか?馬鹿の一つ覚えのように、無闇に敵に突っ込んだ貴様を助けるために、身を挺したそうだな?クズみたいな姉の行動で妹を死なせたというわけだな、ええ?』

 

『………』

 

『何度も言った筈だ。貴様等の役割は戦闘要員ではなく遠征要員なのだと。低燃費だけが売りの旧型艦が出しゃばったところで、足手纏いのお荷物にしかならんというのが分からんのか?無能者が。それとも、私の言われたことすら理解できていないのか?貴様の頭の中はどうなっておる?』

 

『っ………』

 

『しかし龍田も龍田だ。仲間の足を引っ張る貴様なんぞさっさと見捨てて、自分だけが生き残ればよいものを。おつむが良さそうに振舞ってはいたが、所詮奴もそんな簡単な駆け引きができない愚か者だったということだな!流石は馬鹿なお前の妹ということだな。なあ、無能なポンコツ姉妹艦?』

 

『………っ!!!!!!て…!!』

 

『なんだその目は?この基地の司令官であるこの私に向ける目ではないぞ。そもそも私を恨むのはお門違いじゃないのか?お前の大事な妹だって、貴様が私の言いつけを守らないからあんな結果になったんじゃないか』

 

『っ!?』

 

『躾のよい犬みたいに、私の言う事をキチンと聞いていればあんなことにはならなかった。躾の悪いお前が私の言いつけを守っていれば、大事なポンコツ妹が敵の晩飯になることはなかったんだ。貴様の迂闊という言葉では片づけられないくらいの行動のお陰で、龍田は死んだ。つまり、龍田はお前が殺したようなもんじゃないか?』

 

『っ……!!!!!』

 

『全くもって嘆かわしい。命令違反の上、戦果も上げられずおめおめと自分だけ生き残り、自分がやったことすら省みずに、司令官の私に逆恨みだとはな。本来ならば貴様のような屑は即刻解体処分ものだぞ?貴様ごときの代わりなんぞいくらでもいるんだ。貴様が今生きていられるのは、私の温情によるものなのだから有難く思え。』

 

『っ……』

 

『今度こそ分かったら二度と出しゃばったマネはせずに、犬は犬らしく私の言うことを聞いているんだな。お前の妹より長生きしたかったらな……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

『………天龍さん』

 

『………なんだ?』

 

『…○○○さんが起きてこないのです。もしやと思って妖精さんに診てもらったら、もうすでに…』

 

『…………そうか』

 

『………………』

 

『…事あるごとに「あのクズ」が口癖だったアイツの生意気な口も、これでもう聞き納めって訳か……』

 

『………………』

 

『…後で、埋めて供養でもしてやらないとな…。大層なもんはできやしないけれどよ…やらないよかマシだからよ…』

 

『……はい…………』

 

『………………………』

 

『………………………』

 

『………………………』

 

『……この基地が大量の深海凄艦の襲撃を受けて、司令官さんたちが逃げちゃってから、一週間たちましたね』

 

『………………そうだな』

 

『……うまく、逃げられたのでしょうか?』

 

『…………いっそのこと、アイツこそが敵の晩飯になっていることを俺は切に願っているよ………』

 

『………………………』

 

『………………悪い』

 

『いえ……………』

 

『………………………』

 

『……これでもう、この基地には電と天龍さんと、妖精さんたちしか残っていませんね……』

 

『………………そうだな』

 

『…あの襲撃で主力の人たちはみんな『轟沈』してしまって…残っているの人達も○○○さんのように…』

 

『………………………』

 

『……これから、電達はどうなるんでしょうか?』

 

『……さあな。今も敵が徘徊してるだろうから、これまでの状況から考えてみても援軍や救助は……あまり期待できないだろうな。リスクにに見合うだけのリターンもここにはないからな……その、言いにくいんだけれどよ……』

 

『………………………』

 

『………すまねえ』

 

『………………でも』

 

『……………?』

 

『天国にお姉ちゃんや龍田さん、基地のみんながいるのなら………寂しく……ないのです』

 

『…………………っ!!』

 

『今度はもう………離れ離れには、ならないのです………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………振り返ってみても、自己嫌悪が6割強の惨めな人生だったな…。虚飾なんだ、何もかも。強く見えるように馬鹿みたいな量のメッキを分厚い層になるまで塗ったくってみても、所詮は張り子の虎、竜頭蛇尾、猿に烏帽子、口先三寸…等々、世界水準越えの天龍どころか、幼稚園の先生にすらなれてもいねえじゃねえか…はは、いざ自分で口にしてみると、惨めすぎて泣けてくる以前に、笑いまでこみ上げてきそうだ…。

 俺の妹を…龍田を侮辱したあのクソ野郎に言い返すこともできず、生きることを諦めかけた電に対して、気の利いた言葉さえかけてやることができなかった…。ああわかっている、あの提督以上に俺は俺自身が憎く、いっそのこと殺してやりたいくらいに情けなかった………。

 だからといって今更今の自分を変えることなどできるのか?今更だ、遅すぎる。最早死という物が現実味を帯びて俺達に眼前に迫ってきたいるんだ…手遅れだ。愚かな自分が考えていたことは、せめてその人生の幕引きを少しでもまともにしてやろうとするくらいだ…。『艦娘は戦って死ぬのが義務』とかいう、予測の外れた馬券程の価値もない手前勝手な理屈を振りかざして…あの世に行ったとき少しでもあいつらに言い訳ができるよう…それでもなお、心の片隅では電や、妖精たちだけでも助からないかなとかいう淡い期待を捨てきれずにいながら…。

 …結局、ようやく迎えようとしているフィナーレが、あれほど忌み嫌っていた深海凄艦になって、退治されてめでたしめでたしか……有終の美とはかけ離れた展開だな、俺らしいといえば俺らしいか。

 …そういえば、基地の妖精達にも礼を言えてなかったな…こんな自分を支え続けてくれてありがとう…って。電や古鷹に謝ることもできなかったな。

 …この期に及んで天邪鬼な性分と嫉妬の所為で、いつもいつも突っかかってばかりだったけれども、それでも心の内では認めているのかもと…。

 …もし、あのクソ野郎ではなくお前が『提督』だったらと…もっと、素直に伝えていればよかったのにな…。本当に自己嫌悪と後悔ばかりだ、俺の人生。

 本当…馬鹿は死ななきゃ治らないよなぁ…どうしようもないよなぁ…。

 …………………………。

 

 

 

 

 

 

『今からでも~遅くはないんじゃないかしら~?』

 

 

 

 

 

 

 …………………………え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何よアレはっ!!!」

「嘘、あれほどの爆撃を受けて…」

 

 

 いつの間にか増えているハイカラな娘さん達が、天龍を庇ったイザナギを見て驚愕を隠し切れずにいた。ついでにボロボロな俺も見て。辛うじて聞き取れた先程の会話から判断すると、どうやらあの邪○眼ちゃんを救出しにきた仲間達のようだが…。

 

「お、お兄ざぁん!」

 

 電が声を濁らせながら、こちらを呼ぶ。また、泣いているのか?相変わらず泣き虫だな。まぁ、こんななりじゃあしょうがないけどな。一応『大丈夫』の代わりに親指を立てて強がる。それでも心配そうな顔は消す事はできなかったけれど…。菜々子といい、電といい、俺の知っている小さな子はやけに勘が鋭いからなぁ…。

 まあ仕方ない、咄嗟に両手を交差させて直撃を防いだとはいえ、ガードを弾くほどの威力だった…冗談抜き、比喩抜き、スペシャル肉丼の卵抜きで、頭が割られるかと思ったな。こめかみに手を当てると、ぬるっとした感触が手に伝う。あまりよくない予感を感じながら手を見ると、掌の6割が真っ赤な液体で染められていた。うわ、これ全部俺の血か…やっぱちょっと割られてるのか…もしくはちょっと切れているだけなのか…頼むから後者だと思いたい。そういえば心なしか頭も少しぼうっとする…そっとしておこう。

 不幸中の幸いか、天龍はどうやら無事っぽいな。弱っているとはいえ深海凄艦になってガードが固くなっているのと、とっさのイザナギのガードが間に合ったみたいだ。…代わりに俺とイザナギが無事ではないけれども…。何度も言うが、本当に危なかった。ミニチュア模型みたいな戦闘機から繰り出された爆撃も、大きさの割には馬鹿にならない威力だったけれどもそれ以上に、セーラー服の子が放った魚雷?がマジでやばかったな…また意識が刈り取られるかと思った…。

 …けれど、こうして生きている。日頃の行いかな?いや、そうじゃない…。

 まだ死ねないんだ。俺は、こんなところで…。

 

 

「あ、あんた、いったい何なのよ!?なんで人間が…しかも男が『艤装』をつけられるなんて…」

 

 道着らしきものを着た活発そうな印象の少女が、弓矢をこちらに向けながら怒鳴り声をこちらに向けてくる。怒鳴る、というよりは困惑と動揺をごまかすような、不純物が混じった不自然な怒りだったが。

 

「しかも何よ、あの得体のしれない変なデカブツは!?私たちの爆撃機や、大井さんの雷撃をまともに食らって立っているなんて…」

「あの、俺も雷撃して…」

「あんたは黙ってなさい!」

 

 天龍みたいに眼帯をしている子が、先ほどの魚雷をかましてきたセーラー服の子に怒鳴られ、すぐにしゅんと黙るのを見てちょっと気の毒に思えた。というか、この辺りではああいうのが流行っているのか?しかも自分の事を俺とか言っているあたりちょっと痛い子と思ったのは、心の内に留めておこう。

 …頼むから菜々子と電は、こんな風に育たないで欲しい。いや、あれもあれでギャップがるのだけれども…。

 それと、電と邪○眼ちゃんの傍らにいる少女…だよな?とにかくその二人は、直接戦闘には絡んできてはいないのだけれども、どちらもこちらに対して警戒心は崩してはいない…。相変わらず横たわっている邪○眼ちゃんの看病なのかな?頼むからそのまま大人しくして欲しいものだが…。

 

「何を黙っているのよ!?聞いてるんでしょ、なんとか言ったらどうなの!?」

 

 さっき怒鳴ってきた女の子が、いつまでも黙っている俺に対してまた騒ぎ立てる。気の短さといい、気の強さといい、千枝みたいだな…。他の女子たちも言葉にしないものの、目がその子と同じ事を訴えている。

 さて、どう説明したものか。

 

「…そこにいる電と、この天龍のいる基地に厄介になっているものだ。そしてこの大きくてハイカラな格好をしているのはイザナギだ」

「………?」

 

 未だ涙目になっている電と天龍、そして天龍の前にいるイザナギ指さし、一触即発状態の彼女たちに向けて短く自己紹介する。それぞれ程度の違いはあるけれども彼女たちは、『そういう事を聞きたいんじゃないから』というような不満と怪訝で満ちた表情をこちらに向けている。庇ったことに関してもそうだけれど、ペルソナに関しては説明が面倒なので割合させてもらおう。

 

 

「さて、早速来てもらって申し訳ないんだがこちらにも要求がある…」

「?」

「…全員速やかにお引き取り願えないだろうか?」

 

「っ!?」

「はぁ!?」

 

 それぞれの反応で、俺の言った言葉に対して目を見開かせ、驚愕の表情を浮かべる彼女たち。本当ならもっと納得のいく説明が出来ればよかったけれども、事情と状況がそれを許してくれない。

 

「君らは、もしかしなくても邪き…そこの艦娘の救助に来たんだよな?応急処置はしたみたいだけれども、それでも危険な状態には変わりはないはず。ならば一刻も早く帰って、仲間の命を助けることに専念してくれ…」

「…それはいいとして、そこにいる『ツ級』はどうするつもりですか?」

 

 電の近くにいる艦娘二人に抱きかかえられている邪○眼ちゃんを示しながら、全員を見渡す。と、奥にいる銀髪の道着姿の艦娘が一歩前に出る。その瞳は蝋燭の火のように、懐疑と僅かな敵意を宿しながら…。

 

 

「それについてはこちらに任せて欲しい。俺が…何とかする」

「どうするとは、具体的には?見たところそんなボロボロで、そこの『ツ級』をどうにかできると?しかもよくわかりませんが、そこにいる御方が私達の攻撃からそこの深海凄艦を庇ったのは事実です。残念ですがあなたの言葉を鵜呑みにすることはできません」

「そ、そうよそうよ!そんなこと言って、実はアンタとその大男が深海凄艦を逃がそうって魂胆なんじゃないの!?どこの誰かもわからない奴が、何を偉そうにしてんのよ!!」

 

 ……やっぱあんな説明じゃ納得できないよなあ。

 ツインテールの子が銀髪の少女に便乗して、怒鳴り声を上げる。なんか、便乗して強がっているところを見ると小物っぽく見えるのは偏見なのかなぁ。格好と相まって、なんだかしつこい男に言い寄られてあっち行けと怒鳴っている女子高生にしか見えない…。

 しかし、俺達に対する敵意とかその手の視線に関しては間違いなく本物だ。さっきから問答を続けているこの胴着姿の二人に限らず、電を除くその場にいる艦娘全員がそういう目で見ている。どうあっても彼女たちは深海凄艦に身を落とした天龍を滅ぼしたいようだし、そしてその深海凄艦を庇った俺に対しても、友好的な感情は持っていないようだな。当然といえば、当然なのだろうけれど。

 ちらりと、天龍のほうに視線を向ける。さっきまで自分以外は敵だみたいに暴れていたさっきとは打って変わって、俺が気絶してからというものやけにおとなしい状態だ。それこそ、台風一過といった表現がぴったりくるみたいに。

 …天龍はまだ死んでいない、まだ心の底にあいつの魂が残っているはず。だったらこんなところで益々死なせてたまるか。電も、『この艤装の持ち主』もそれを望んでいるはず。

 

「…なぜ男性、それも人間のあなたが艤装を装着することができるのか、なぜそこの深海凄艦を庇ったのか、そこに立っている大男は何なのか(恐らく自立式の連装砲の類かもしれないけれど)貴方に対してもいろいろ聞きたいことはありますけれど…」

 

 銀髪の少女が、矢を取り出してそれを弓に装着し…。

 

「まずはそこの深海凄艦をしとめることが先決です!どいてもら…」

 

 

 

 

 

「やらせないぞ」

「っ!」

 

 

 言葉を遮り、こちらにたいして弓矢を構えるのと同じタイミングで、天龍を庇うようにして立っていたイザナギが、『チャキン』と音を鳴らしながら矛を構える。電の傍らにいる2人の艦娘除く他の艦娘達が、慌てて各々の得物を構える。…眼帯の子だけが他の人が構えるのを見てから慌てて出した感じだが…先ほどのやり取りを見ている限り経験が浅いのだろうか?

 …どちらにせよ、こちらのやるべきことは変わりはしないのだが。こいつを沈めるつもりなら、断固として阻止する!

 たとえ、どんな手を使ってでも…。

 

「…任せろとか言っていた割にはやはり貴方は『深海凄艦』の、その『ツ級』の味方をするつもりですか…」

「彼女は…そこにいる電の姉貴分の『天龍』という『艦娘』だ。そんな風に言うな…!」

 

 目元が鋭くなった銀髪の少女に対して、幾分か低い声を、叩きつけるように放つ。

 

「天龍はまだそこにいる、こんな姿になってしまってもきっと元に戻るはずだ…」

「何を根拠にそんな出鱈目を…出来もしないことを気安く…」

「してみせるさ!!」

 

 声を大きくして真っ向から反論する!急に大きな声を出したもんだから何人かの艦娘がびくりとなる…関係ないけどな!

 

「失くしても……絶対に、彼女を取り戻す!お前達こそ僅かな可能性にもかけようともせずに、簡単に艦娘(なかま)を沈めようとするな!」

「っ!」

 

 奥にいる長髪のセーラー服の艦娘が逆上した表情で、両手足に装着している何本もの…魚雷?を構えて発射しようと…。

 

 

ズバァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!

 

 

 

「っ!!??」

「お、大井姉ぇ!?」

 

 

 すかさず、イザナギが放った『ブレイブサッパー』が彼女のすぐ真横、左腕と左足についていた発射装置と海を切り裂きながら通過していく。もちろん、彼女の体には傷つけないようにだ。

 

「余計な真似…するなよ?」

「……っ!!」

 

 ドスを利かせるように低い声で睨みつけながら、魚雷を放とうとしていたセーラー服に警告する。威嚇のつもりで放った斬撃でも、数mmでもわずかに体がずれれば直撃したであろうギリギリの位置と、その場合腕と足が海飛沫と共に吹っ飛んでいったであろうイザ(事故)ナギの斬撃の威力。次の瞬間にそれを本人も認識したのか、呆然とした顔で腰を抜かしている。表情を青く染めて、冷たい汗を流しながら…。

 

「だ、大丈夫かよ大井姉!?」 

「あ、あの大男…今何をしたの!?」

「あの…大井さんが…!」

 

 今の一撃で本人だけでなく、その場にいた艦娘達に対しても抑止力になったようだ。皆明らかにこちらに対して恐怖と慎重を植え付けれたようだ。これで大人しく引いてくれれば…っ!?

 

「ぐぅ…!?」

 

 

 

 

 

 

「お兄さん…」

 

 雷巡のお姉さんにイザナギさんの一撃をお見舞いした直後、お兄さんが僅かに苦しそうな表情を浮かべたのを…ほんの一瞬で、ほかの人たちは気づかなかったようだけれど、私には見えた。

 無理もない、天龍さんと古鷹さんを襲っていた深海凄艦たちを追い払ってその直後に、天龍さんを戦って決して少なくないダメージを負っていたというのに、天龍さんを庇って艦攻や雷撃をまともにその身に受けて…戦艦クラスでさえよくて大破、最悪轟沈をしてもおかしくないダメージをその身に負っていながら、あんなふうに立っているのが奇跡なくらいなのだ。そんな状態でイザナギさんのあの技を使ってしまって、益々立っているのが辛くなっているのではないだろうか?…それでも彼は、ここにいる人たちに気取られないように何とか平気なふりをして立っているんだ…。

 …そんな状態になってなお、天龍さんの…私たちの為に立ち上がろうとするなんて…。

 

 

 

 

『だいじょうぶ、お兄ちゃんは立つよ!●●●はしっているもん!』

 

「っ!?」

 

 思わず顔を上げる!再び周囲を見渡しても、呆気にとらわれている重巡のお姉さん二人と介抱されている古鷹さん以外に誰もいない。もちろん、その三人が喋っているわけでもない

また脳裏に声が聞こえる!?でも…。

 

『●●さんが教えてくれたんだよ?お兄ちゃん『たち』はあんな風になりながらも、いろんな人たちを助けてあげたんだって!●●●の事も、お父さんのことも、まちのいろんな人も、そうやってたすけてあげたんだって!●●●●おにいちゃんや●●さんのほかにも、●●おねえちゃんも、●●●おねえちゃんも、●●●おじちゃんも、●●ちゃんも、●●ちゃんもそういってた!じまんの、たよれる●●●●だって!家でも、●●●のためにいっぱいおはなししてくれたり、ごはんを作ってくれたり!すごいんだよ!』

 

 先程の脳裏に響いてきた私の声とは、違う声だ。もっと…幼い声。先ほどの私の声とは違う年相応の雰囲気…しかしなぜか一部がかすれてよく聞き取れない…。それに、まるで存在しないはずなのにまるでずっと後ろから囁いているような…。

 先ほどの声といい、今響いてくるこの声といい、私に今一体何が起こっているのだろう!?

 

『でも、●●●そのせいでお兄ちゃんはいっぱいいたい思いしてるの…しってる…。自分がいたいのを我慢してまわりの人をたすけているんだよ…?』

「っ!」

『●●●、もうわがまま言わない…お手伝いも、しゅくだいもやるから…いい子にするから、だから…』

 

 

『だからまたげんきに、●●●の街にかえってきてほしい…』

 

 

 姿を見せないでさっきから頭に響いてくるこの声は、お兄さんを知っている?まるで自慢の兄を紹介するような朗らかな雰囲気から一転、どこか辛そうな…声。

 

 

 

 

 

 

 

『だから…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………?

 『だから』…その言葉を最後に、囁いてくる声の気配が遠ざかっていく。直接見えたわけではないけれども、とにかくそれっきりあの声も、聞こえなくなった。周囲を見ても、やはりその場の全員がお兄さんに夢中で誰も気づかない。

 今のは…?立て続けに嫌なことばかり起こったから私の精神が錯乱状態を起こして幻聴でも聞こえたのだろうか?わからない…。

 でも…さっきの声にしても、今の声にしてもやけに現実味のある声だったな…。それに、今の声…まるでお兄さんの事を言っていたような…。

 

 

 

「私に…いったい何が…?」

 

 

 

 

 

「そこまでですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後編に続きます!

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