鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

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おふざけ中篇です。


外伝・なるかみの湯 中編

「皆、揃いましたか?」

 

 鎮守府にある作戦会議室。普段ここで、提督である鳴上や男性三人を初め、艦娘達が次の海域の攻略についての会議が行われているはずの部屋では、普段ならいつもいるはずの提督の姿は見当たらず、何人かの艦娘のみが席についていた。しかし、その艦娘達の浮かべる表情は普段この会議室で、未知の海域や大本営からの大作戦の攻略を話し合う時と同等…あるいはそれ以上に兜のを緒を締めるかのごとき物だった。それに伴ってこの場に漂う空気も、厳粛となるのは必然だった。

 それほどまでに、今日これから話し合う作戦は重大なものであった。

 

「ではこれより、鳴上親衛隊―――通称『護衛艦』による作戦会議を執り行いたいものとします」

 席の最先端中央に座る艦娘―――通称『大淀』と呼ばれる艦娘が、キラリと光を反射している眼鏡を掛け直しながら会議の始まりを宣言する。眼鏡の奥の瞳には静かに青く燃える炎を宿しながら。

「今日皆に集まって貰ったのは他でもありません。先日、妖精達が提督のために建設した『艦息』専用入渠所―――通称『なるかみの湯』が完成したとの報告がありました」

 大淀からの報告に、僅かに目を見開かせるもの、隣同士と目を見合わせるもの、感心したかのような者とその場にいたものがさまざまな反応を見せる。

「本来私達は過去に存在した『軍艦』、ですが何の因果か今はこうして人の姿を手に入れている存在です。そして私たちが異性であることを考慮して、提督は『入渠』兼浴場を私達専用として提供してくださり、自分達は簡素に体を布で清めているのにとどめている程度。そんな時に自分達用の入渠所を作る…それについては何の不満もありません。むしろ、ようやく身も心もリフレッシュできる施設が出来たことにむしろ安心を覚えるほどです…もっとも、要望があれば直に提督の背中を流しても構いませんが…あくまで『提督に限る』ですが…」

 大淀の言葉に、今度はその場にいる全員がうんうんと頷く。

「しかしそんな中………」

 突如大淀が何処から取り出したのか、一振りの日本刀を鞘から抜き、切っ先を会議室のテーブルに思い切り突き刺す!この鎮守府における功績を讃え、鳴上自身から大淀に手渡された『名刀・椿落し』が電気の光を受けてキラリと光る。それを握る大淀の手がかすかに震える。当の大淀本人も、自身の中で暴れまわっている『アギダイン』どころか『ラグナロク』級の炎属性をなんとか胸の内に押し込めている。もっとも、目の辺りから零れていそうな気がしないでもないが。

「…己の立場を忘れ、女人禁制の浴場に乱入し提督の貞操を奪い、あまつさえ既成事実を作らんとする恐れ多い事を企む痴れ者が、この鎮守府に紛れ込んでいるようです…」

 

バリン!!

 

 何かが割れる音が会議室に響き渡る。会議に参加している何人かの艦娘が持っている湯飲みが、艦娘自身の握力によって割れる音である。湯飲みの中のお茶が零れ、破片が手に食い込もうとするも、当の本人は気にせず…いや、気にする余裕がないというべきか、口元を引きつかせ、今の大淀と同じように怒りで身を震わせまさに一触即発の状態である。他の艦娘も舌打ちをしたり、目の前のテーブルを力の限り引っかいたりして怒りを隠せずにいた。

 

「…誰なの?」

 

 そんな中、一人の艦娘が発言するのに全員の目が集中する。当の本人もわなわなと震えながら大淀をほぼ睨むように、問い詰めるように尋ねる。最早目の色が尋常ではない。『疑わしきは罰する』という言葉をすぐさま実行に移そうという思いが、なんとか堪えようとする大淀と違って出掛かっていた。

 大淀本人の口から、実行に移しそうな容疑者の名前が静かに、しかしはっきりと狭くもなく広すぎない会議室に響き渡る。先程尋ねた艦娘を皮切りに、他数名の艦娘が艤装を展開しながら立ち上がるのを、すかさずそれぞれの隣に座っているものたちが肩に手を当ててなんとか押し留める。

 

「……なぜ邪魔をするっぽい?」

「提督は日頃僕達に言っているじゃないか。どんなことがあろうと『落ち着け』と。君が今すぐ容疑者の元へ走り去ってその61cm五連装(酸素)魚雷で雷撃してやりたい気持ちは、腸が煮えくり返るほどによくわかるよ。けど今は大淀の話を聞こうよ?その後、如何するかは好きにしたらいい…」

静かに、しかし抜き身の刀のような鋭さで隣の姉妹艦を宥める(目は落ち着いてないが)。その言葉を聞き、暫く狂犬の如き噛みつく1秒前みたいな視線を交差させていたが、やがて渋々といった感じで座っていた席に戻る。他の立ち上がった艦娘たちも隣の姉妹艦の説得?によって1人、また1人と席に着く。その眼には燻る炎を宿らせながら。

「…話を続けますね」

全員が席に再び座ったのを確認して、大淀はテーブルに突き刺した『椿落とし』を再び鞘に収めて眼鏡をかけ直し、静かに話を続ける。

「提督は現在、先日妖精さんや明石さん達が枯渇させた資源回復の為、花村さん達と共に手分けしてオリョールとキス島のクルージングに励んでおられます」

「…いつも思うけど、それは潜水艦の仕事なのではなくて?」

「ご存知のように彼等の艤装は特別製で謎の疲労と引き換えに、燃料代わりに電力や風力を使ったり、氷を張って移動したりしています。加えて彼等は、砲塔はおろか、機銃の一つも持たずに、近接戦闘や謎の能力を使って戦闘を行うので、燃料、弾薬共にローコスト。加えてそれぞれが高い戦闘力を保持しているので大破撤退も今の所『0』です」

「流石は司令とその仲間達です」

「何それこわい」

 隊の中で新顔の者は困惑と僅かな恐怖、それ以外の者達には明らかな畏敬の感情を表情に浮かべていた。そう、この鎮守府において鳴上達とその仲間達は、並の艦娘達の戦闘能力を遥かに凌駕し、その艤装の特性を使って暇さえあれば『オリョクル』や『キスクル』等にも積極的に参加し、遠征部隊と並んで資源の回復に一役買っているというわけである。

 もっとも、そのうちのメンバーの一人が「およよー、ボーキサイト食べるクマ?食べるクマ?」とか言いながら折角手に入れた資源を『ヲ級』をナンパする為に使い果たし、後に茶髪と金髪の2人に折檻されるという自体も少なくないのだが…。

「で『オリョクル』や『キスクル』から帰った後、『なるかみの湯』で今日の汗を流す…という予定であるようです。そして、もし容疑者達が狙うとすれば…この瞬間をおいてありません!」

 大淀がバンッ!とテーブルに拳を叩きつける。

「…巷では『ブラック』と呼ばれる鎮守府が存在し、私たちを『戦いの道具』とみなしている鎮守府も少なからず存在している中、自分達を省みずに私たちをまるで『家族』のように大切にしていただき、活躍の場を与えてくださるこのご恩はこの喉が破れるほどお礼を申しても足りないくらいです。せめてあの御方になにか恩返しできることはないかと、この『護衛艦』が結成された次第です。いくら鬼神の如き御力をもつ提督でも『万が一』という事があります。その『万が一』に備えるのが我らの役目!」

 大淀の力強い言葉に、新顔の2人を除いてその場の全員が力強く頷く!一応その2人も戸惑いがちに頷くのを見て大淀は満足そうに頷く。

「戦場においては雑兵の放たれた一発の砲弾すらも時には命取りになります!あの御方にはその一発もあってはなりません!その一発の砲弾…今日我々が…!」

 言葉の途中で突然立ち上がり、再び『椿落とし』を抜き目の前の机に向かって振り下ろす大淀。名刀の名に恥じないその切れ味は、スパァ!と目の前のテーブルを、作りたてのバターを両断するかのように真っ二つにする!

「放った射手共々、このように両断します…さあ皆さん」

 そういって俯かせていた顔を漸く上げる。先程の諌められていた艦娘に勝るとも劣らぬ凶悪な笑顔を張り付かせながら…。

「『護衛艦』の名に誓い、悪漢共に死の裁きを…!」

 大淀の静かな宣言に全員が勢いよく席から立ち上がり、海軍式の敬礼を取る。そのいずれかもが今の大淀と同じ顔を張り付かせながら…。

 

 

 

 

 …約二名を除いて。

 

 

 

「何ここ怖い。日本の艦娘ってこんなのばっかりなの?」

「この鎮守府に少しでも慣れる為とかいってこの部隊に入ってはみたけれど…下手したら深海凄艦やあの爆撃機よりも恐ろしいわ…というかあの提督ってそんなに強いの?」

「わからない…あ、でもこの間メンタイコのパスタを作ってくれたけれども、Era molto buono(とても美味しかった)!間宮さんや鳳翔さんに劣らない料理上手だったわ」

「そうなの…?」

「本当よ!あ、今晩提督がまた料理を振舞ってくれるらしいからその時に分かると思うわ」

「…ちょっと楽しみかも」

 

 ヒュン!!

 

 次の瞬間、二人の目の前のテーブルに飛んでくる『椿落とし』。まるで氷漬けにされたかのように背筋から冷たいものが走り、二人の口が止まる。

 

「お二人とも…私語は謹んで…」

 

『ブフダイン』クラスの冷気と共に声と共に浴びせかけられる脅迫に近い忠告。会議室にいる艦娘の視線が自分達に集まる。そのどれもが、視線だけで人を殺せたら百回くらいは自分達を『轟沈』できそうなくらいの威力が感じられた。

 その視線の前に、イタリア艦娘二人は何度も首を縦に振るしかなかった。

 

 

その頃キス島

 

 

「っ!?」

「どうしたんすか先輩?寒いんすか?」

「いや、よく分からないが急に悪寒が……」

「?」

 

 

そして今夜、血生臭く仁義なき戦いが始まる………!

 

 




こんなの艦娘じゃない!フローレ○シアの猟犬よ!


さて、本編の続き書くか………

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