鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

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ちと、いつもと比べて短めです。相変わらず会話おかしいのはご愛嬌


第十一話 Face when do not

 …深海凄艦。

 人類の天敵とされる彼等(彼女等?)がなぜ、人間に限らず自分達以外の存在に対して危害を加えようとするのか?そもそも奴等が何者なのか?なぜ艦の姿がモチーフになっているのか?今もなお調査や研究が行われているが未だに真相ははっきりしていないのが現状である。

 これについては深海凄艦に対し、唯一の対抗手段であり同じく正体について謎とされている艦娘自身にも、彼女達を『建造』している『妖精』達ですら正体を把握していないのだ。まさしく地球の『核』に一番近い深海が宇宙以上に謎に包まれているように、深海からやってきた奴らの正体も謎というわけだ。

 …しかし、誰が言い出したのか、研究者の中である興味深い二つの『仮説』が注目されている。

 一つは、かつて行われた『大戦』で沈んだ敵国の艦の怨念が取り付き、当時の敵対者である自分達に対して今も尚攻撃を企てているという事。これについては、深海凄艦の持つ武装や外装が、当時敵国が所持していた敵艦が持っていた艤装によく似ているという根拠を元に推察されている。

 そして、前者の仮説と並ぶもう一つの仮説…。

 それは、無念の内に轟沈したかつての艦娘が、未練や無念といった負の感情を胸に抱きながら、沈める要因となった我々に復讐の為に蘇ったのだという。

 どちらにしても、両者共オカルトチックな仮説の元に考察されている為に、大抵の者は一笑に付す話だが、未だに奴等の正体が不明な以上、こういう話に何やら惹きつけられるものがあるのは好奇心や探究という物を持つ我々人間の『性』なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天…龍……?」

「オォォォォ………!」

 半ば呆然とする俺の声にあの不機嫌で『気安く俺の名前を呼んでんじゃねえ!!』と叫ぶ代わりに、獣のような咆哮で、返事を返す。

「て、天龍…さ…ん?」

 俺の隣で電が世界の終末を眺めるような表情で、天龍『だった』者を眺めていた。頭全体をいつか戦った『ワ級』の頭部分によく似たバイザーのような物を被り、巨大なグローブと一体化している艤装はそのままに、肌は水死体のような青白に染め唯一、天龍が身につけていた服装が、元が何物だったであろうかということを辛うじてあらわしている。

 そこには、先程まで俺に反発していた男勝りな少女の姿はなかった。ただただ艦隊を打ち砕く恐怖の鉄槌を持った異形がそこに佇んでいた。

 

「どういうことだ…?なんで、天龍がこんな姿に…?」

「まさか、あの噂(・・・)は本当だったというの…?」

「っ、どういうことだ!?」

 顔を真っ青に染めて、かすかに震えている邪○眼ちゃんが放った言葉に、首が千切れんばかりに振り返る!

「以前から噂になっていた…深海凄艦の正体が、『轟沈』した艦娘だって…」

「なんだと!そんな馬鹿なことが!?というかそもそも、重症だったとはいえ天龍は『轟沈』なんかしていないぞ!?」

「そんなこと分かっています!私にだって何がなんだか……」

 

 

 この時、突然のことに俺達はパニックになって冷静に状況を分析すだけの思考が停止してしまったんだろう。そして、一瞬の隙が命取りになりかねないという当たり前のことまで忘れてしまったに違いない。

 そのせいか、天龍だったものが巨大なハンマーを思わせる腕を振り上げたかと思えば、近くにいた邪○眼ちゃんに思いっきり振り下ろすのに対して反応が遅れてしまった。

 

 

ゴキィ…!

 あまりにもリアルで嫌な鈍い音が、諸に食らった彼女の胴体部分から響いた。しまったと思っても後の祭り、『く』の字に曲がりながら、唯一右肩に残っている『古』の字が覗く艤装が剥がれ、呆然とした表情のまま吹っ飛ばされる。恐らく本人もこの一瞬何が起こったのか分からなかったのだろう、そんな表情だったから。

 電が恐慌のあまり叫び声を上げた。が、それすらも俺の鼓膜がその音を受信しなかった。いや、受信はしても脳が受理しなかったのかもしれない。それでも幾多の戦いの経験の賜物か、未だ呆然としている脳が命令を下す前に俺の体が反射的にイザナギを呼び出し、吹っ飛ばされた邪○眼ちゃんに向かって追撃を加えようと、変わり果てた姿の天龍に対して体当たりを食らわせ、持っていた武器をバッターのように思い切り振り回して天龍の体を吹っ飛ばす。

 

「…!邪○眼ちゃん!」

 

 イザナギが天龍を吹っ飛ばすのを見て、動作の遅いパソコンのように働きが鈍くなった脳がようやく現状を理解し始める。未だ瞳孔が開いたまま恐慌状態に陥っている電の手を半場無理やり掴んで、大慌てで吹っ飛ばされた邪○眼ちゃんの元へ向かい、『沈みかけている』彼女の体を担ぎ上げる。

 

「ヒュ…はっ…か…ッ…!はぁ…!」

「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!おい!」」

「ふる……たかさ……」

 恐らく直撃を受けたであろう胴体部分が痛々しいでは済まないほど派手に血で染め、吐血しているという明らかに大丈夫でない状態で声をかける。目が虚ろで、呼吸音が明らかにおかしい。

  不意に、胴体にポッカリ穴が開いた電の姉の姿と目の前で負傷した彼女が重なるのが感じた。口から血を流しながら助けを求めるように伸ばしたその姿が、イメージが、目の前の視界にフラッシュバックする。

「お、お兄さん!3日前天龍さんや電に施してくれたあの力を早く…じゃないと…」

「っ…チェンジ!イシ………っ!」

 電に言われてなのと、その光景をかき消すかのように咄嗟に『イシス』を呼び出して『メシアライザー』をかけようとするも、現在『イザナギ』以外のペルソナが失われていることを思い出し、歯噛みする。

「?お、お兄さん?」

「…出来ないんだ」

「え?」

「出したくても出せない…言いにくいんだか、急にペルソナチェンジが出来なくなってしまったんだ…ようするに、今の俺はイザナギ以外出せなくなってしまっている。前に君たちが傷を負ったときに癒すのに使ったペルソナが…出せないんだ」

「っ!?」

 息を呑む電。最悪だ、まさかペルソナチェンジが使えないこんなタイミングで…肝心のイザナギは純粋な戦闘タイプだし、陽介達みたいに一つのペルソナで攻撃と回復をこなすなんて真似は出来ないし…それをカバーするためのペルソナチェンジだというのに…どうしてこうなったんだ!?

 悪態をつきたくなる気持ちを堪えて、着ていた上着を素早く脱いで、負傷した彼女の胴体部分に去年小夜子から教わった方法で手早く巻きつける。こんなものが命に関わる重態の相手に意味があるのかは分からないがやらないだけマシだ、と半分自分に言い聞かせるように、応急にもなるかどうかの処置を施す。落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け…!

 

「なんで…?どうして…こんな事に?こんな目に遭わなきゃいけないのですか?どうして…こんな…」

 不安と混乱で、息遣いが荒くなり始める電。まずいな、このままじゃあ今度は電が過換気症候群(精神的な不安が原因で起こる過呼吸)になってしまうんじゃ…。

「…落ち着け」

 この状況でそんな言葉しか出ない自分を殴りつけたくなる。そして、それしか彼女に出来ることがないこの状況にも……っ!?

 遠くで異形の存在がこちらに艤装についている砲塔を構えているのが見えて息を呑む。瞬間、轟き渡る発射音。

 そして、再び動く口。

 前触れなく掌と腕に、痺れとも激痛とも取れる何かが走る!飛んできた砲弾をイザナギが弾き飛ばすものの、すさまじい衝撃だ。イザナギの持っている矛はバット代わりにするものではないらしい、下手したら折れるかもと思ってしまったほどだ。

「お、お兄さん……」

「…ひとまず邪○眼ちゃんは頼んだぞ。それと、一度肺の中の空気を全部吐き出せ、過呼吸で倒れる前に……イザナギ!」

 

 彼女達のことも気がかりだが、今は俺が出来そうなことをやるしかない!呆然と俺を見送る電を尻目に、返事を待たずにイザナギと共に天龍に向かって駆け出す!

 俺達が向かってくるのを見て迎撃体制…というか砲撃体勢?いや、どちらでもいい!とにかく天龍が身につけている砲塔を全て、ジャキン!と鳴らしながらこちらに向ると、轟音が連続で鳴り響く!

「うおおおおおおおおお!!!!」

 それらを全て、雄たけびを上げながらイザナギの矛捌き(・・・)で全て叩き落す!イザナギと俺自身には勿論、後ろにいる彼女達にも当たらないようにだ。弾くたびに襲い来る痺れから推測して、アドレナリンは仕事をしてくれなかったらしい。

 何をするにしても、まずは相手を無力化してからだ。狙うは天龍の艤装の砲塔だ!

「少し痛いだろうが我慢しろよ!邪○眼ちゃんをあんな目に遭わせた罰だと思ってな!」

 痺れが抜け切れないまま、俺自身が前に躍り出て跳躍し、持っている鉄パイプを思いっきり大上段で振り下ろす!すると相手は、巨大なハンマーを思わせる右の巨大な拳を俺の鉄パイプに合わせて跳ね上げるように打ち出す。

 

バキン!

「っ!」

 衝撃は、思ったほどなかった。よく空手家がやるような瓶切のようにではない、まるで蝦蛄(シャコ)のパンチのような純粋な威力で、鉄パイプの持ち手部分から先が先程のヲ級のステッキのように回転しながら宙を舞い、そのまま海にポチャンと沈んでいった。マジかよ…。

 呆気にとらわれる暇もないまま、もう片方の腕で空中で体勢の崩れた俺の体を掴み、万力か蟹の鋏を思わせる力で俺の体を締め上げる。その拍子に鉄パイプの残った持ち手部分を取り落とし、ポチャンと音を立てて海の底に沈んでいく。

「がぁ!?あああああ………!!」

「お、お兄さん!」

 遠くで電が叫んでいる。この3日間で何回彼女は悲痛な叫びをあげたのだろう?が、それ以前に俺の命の危機なんだが…このままでは内臓が口から飛び出るか、もしくは上半身と下半身がお別れという、どちらにせよグロすぎてR-18G的な展開になってしまうだろう…。そんな考えを他所に、天龍が先程鉄パイプを吹っ飛ばした右腕を俺の頭に向ける。成程、その前に頭を吹っ飛ばすつもりか…。

「イザ…ナギ…!」

 自分でびっくりするほど掠れた小さな声だった。イザナギが天龍の頭部に思いっきり峰打ちを喰らわせると、衝撃で天龍の体が仰け反り、俺の体を圧迫していた力が緩む。その僅かな隙を縫って素早く俺の体を救出させる。危なかった、もう少し遅ければ嘔吐じゃ済まない事態になっていたな…。キリキリする腹部を優しくさすりながら次の一手を考える。とりあえず唯一の武器である鉄パイプはなくなってしまったから俺は前線に出て戦えないとしてだ。

 そもそも問題なのは『俺は天龍に対してどうすればいい?』という事だ。

 去年の戦いを思い出す。かつてテレビの中で戦った『仲間のシャドウ』どれ一つとして楽な戦いではなかった。シャドウ自身の戦闘能力の高さも然ることながら、戦って倒した後、『本体』がその『シャドウ』をいかに受け入れるかどうか、それを成し遂げさせるのだって簡単に出来ることではなかった。けれど、それでも幸いだったのは、『一体どうすればいいのか?』ということが分かっていたことだ。それがあるから、俺達も辛い戦いもなんとか乗り切り、被害者を助けることが出来た。

 だが、今回は『それがない』去年の仲間のシャドウのように戦って大人しくさせることが出来ない。倒すということ=『轟沈』だということは下手に天龍に手を出すのは彼女の命に関わることだし、元に戻すにしても…会話が通じる相手でもないしかといって、このままではいずれこっちがやられてしまう…『五里霧中』というのが今の状況を説明するのに一番ぴったりな表現だった…。

 こんな…目的の見えない戦いなんてものがあったなんてな…これほど厄介なものはないな…。

「っ、天龍!!」

 無駄だと分かっていても、天龍に対して叫ぶ!目的の見えない苛立ちを誤魔化すための叫びだったのかもしれないけれど…。

 イザナギが矛を振る!鈍い金属音が響く!

 

「お前はもう、天龍じゃないのか…?本当に深海凄艦になってしまったのか…身も、心も…?」

 グローブのように巨大化した手でイザナギの矛を受け止める、元・天龍に対してどこか縋るように問いかけるも、返ってくるのは低い唸り声だけ…。

「何もかも放り出して、今更全部壊してしまうつもりか…今までのことも、あの基地も、仲間も、今お前の掌に残っているものをこの海に投げ捨ててしまうつもりか、お前は…!」

 もしイザナギではなく『俺自身』が相対していれば胸元を殴りつけていただろう。活を入れるためにもう一発ひっぱたいてやりたいくらいだ!

「このまま身も心も化け物になってしまうつもりか!?自身の恨みと暴力を撒き散らして、駆除されて冷たい海の底で無念のまま死ぬのを待つだけだというのか!?お前とは、まだ碌な会話だってしていないというのに…俺もお前も、言いたいことはまだ何にも話していないというのに!このまま…終わりだというのか!?それで…お前はいいのかぁ!?」

 イザナギが力を篭めて矛を掴んでいる天龍を弾き飛ばす!ザバァァァァ!!と海面を滑らせる音と波を立てながら異形の体が後ずさる。先程より疲れきっている証拠なのか?よく見れば砲塔も姿が変わる前と同じくボロボロの状態だし…つまり、『天龍だった』頃のダメージが残っているということだ…っ!?

「痛っ…!」

 って、そういう俺も人の事が言えないか、思わず痛みの走るわき腹を押さえる。先程ヲ球から受けたダメージが残っているのもあるけれど、『アグネヤストラ』だの『ブレイブザッパー』だの体力を削るスキルを使いすぎた…今朝まで寝たきりの体で無理をしすぎたか。『武道の心得』、覚えとけばよかった…それでなくともペルソナチェンジが使えれば…。

 つまりはお互い、これ以上時間をかければまずいということだ…。

「ウゥゥゥゥ…」

 自分の状態を理解しているのか、いないのか、力がなくなってきた唸り声を相変わらずこちらに向かって繰り返している。彼女も、苦しんでいるのかな?今、どんな顔をしているのだろうか。深海魚の頭みたいなバイザーで表情を窺い知る事ができない

 …まるで『シャドウ』の仮面のようだなと思った。

 俺の知るシャドウも、英数字が描かれた仮面を被って表情を隠しているのがほとんどだったけれど、今思えばシャドウ自身も無意識に抱えていた思いや表情を隠す為にあんなものをつけていたのかもな…。

 …お前もそうなのか?そんなに見られたくないのか?そんなバイザーみたいなのをつけて…自分自身の思いも、天龍自身の中にいる認めたくないのか?

 特に『俺自身』に対して…。

 

 

 

「もう…やめて……」

 後ろを振り返る。倒れている古鷹の傍らで電が涙で表情をくしゃくしゃにしながら辛そうな顔をしている。

「なんで…こんなことになったんですか…?天龍さん…もうやめてください…」

「電…」

「元はと言えば…電がいけなかったのです…電が弱くて皆を守れなくて…天龍さんばかりに辛いことを押し付けてしまって…それで、ひっ…」

 なきながらしゃっくりをあげる電。鼻をすすりながら顔が小さく震える。

「そ、そんなことすら忘れて…勝手なことばかり言ってしまって…わ、悪いのは電なのです…天龍さんが苦しむ事なんてなかった…()あんな風になるのは(・・・・・・・・・)……ご、ごめん…なさい…謝ります、謝りますから…もう我侭なんていいませんから…何度だってごめんなさいをしますから…だから…

 

 

『んだよ電ぁ、まーたこっそり牛乳なんか飲んでるのか?何?早く大きくなりたいだって?はっはっはっ!マジ笑える…わかった!悪かったって!そんなに怒るなよ!』

 

 

「だから……だから……」

 

 

『んだよ、さっきの遠征のミスでまだ落ち込んでんのかよ?もう気にすんなよ。次うまいことやりゃあいいんだからよ。何、この世界水準超えた天龍様がいるんだ。心配すんな!』

 

 

「だから…お願い…」

 

 

『もうこの基地には俺とお前と妖精達しかいなくなっちまったけれどよ…それでも、例え姫だろうが水鬼だろうがお前らだけは…絶対に…護るから…』

「もう、一人にしないでください…元の、天龍さんに戻って…」

 

 大粒の涙を海に垂らしながらも深々と頭を下げ、距離がありながらも変わり果てた恩人に向かってお願いしますと…もしくは許しを請うように声を震わせる。

「…いいのか天龍?ああやってお前の帰りを待っている仲間がいるんだぞ?それを置き去りにしてさっさと自分だけ退場するつもりか?」

「………」

 聞こえているのだろうか?相手は先程から何かアクションを起こすでもなくただ黙って…。

「ァァァァァァァッッッ…!」

「!」

 ジャキン!と両腕に付いた砲塔で俺の後方…電と倒れている邪○眼ちゃんを狙っている!マズイ!慌てて傷ついたイザナギを差し向けてるも……。

 

 

ドバァァ、ドバァ、ドバァ!!

 

 今一歩遅く、無慈悲な砲撃が俺の横を掠めて後方の電達に向かって放たれる!しまった、そう思った瞬間には海面を叩く爆音が合計三回響く!

 

「電ぁ!」

 

 体中に氷でも詰め込まれた嫌な感覚を覚えながら、ようやく後ろを振り向く!立ち上った3本の海水の柱が先程まで電たちがいた地点を隠していく様は、まるで二人を飲み込んでいく魔物のように見えた。

「そんな……」

 一瞬、何事が起こったのか理解するのにまたもや脳の機能にストップがかかる。砲弾が放たれた…俺の横をすり抜けて、後ろを…後ろにいた電達に向かって…。

「天龍…お前…!」

 変わり果てた彼女に向かって再び向き直る。ご丁寧に彼女はまだ砲を構えた状態のままそこに佇んでいた、その姿を見て鉄パイプを握る力に力が入る。そのまま握り潰してしまいそうな力をもってだ。

「お前は…とうとう踏み越えてはいけない一線を越え…「はわわわわ…!」……!?」

 天龍を睨みつける温度が極高温と極低温が混ざったような…矛盾しているがそんなようなものになりかけたとき、後ろから驚いたようなあの声が聞こえてくる。驚いて再び振り向くと…。

「…電!?」

「あ……お兄…さん…?」

 高い波飛沫が治まり、そこから出来たのは驚いた表情の電と、相変わらず死に掛けている邪○眼ちゃんの姿が…。

「無事…だったのか?」

「な、なんとか…先程の砲弾は電たちには当たらずに沈んでいったのです…それでもお耳がキーン…として痛いですけれど…」

 確かに、さすがに驚いたのかへたり込んでいるものの、服が多少海水に濡れた以外は何の外傷もないみたいだ…。

 天龍の方へ向き直る…まだ意識があるのか?天龍、お前はまだそこにいるのか…?砲を下ろし、低い唸り声がバイザーのしたから漏れる。果たしてそれはYESなのか、NOなのか?

 

「お兄…さん?」

 電が心配そうに声をかける。

「…電」

「は、はい!」

「…もし深海凄艦が艦娘の成れの果ての姿だとしたら、戻す方法はあるのか?」

「そ、それは…」

 言い淀む電。この様子を見る限り、恐らく心当たりはないと見るべきなのだろう。例え元が何であろうと、深海凄艦となった化け物に成り果てれば処分するしかない…そういうことなのだろう。

 …怒りよりも、悲しみのほうが強く感じる。もし友人や肉親が変わり果てた姿だとして、それを討ち取るというのはどれほど辛いことなのだろう…?仮の話だけれど俺だって、もし絆を結んだ相手がシャドウに襲われて死んでしまったり、もしくは、その人がシャドウに成り果てて、それを討ち取る羽目になってしまったら…?

 けれど、それよりも…それ以上にもっと悲しいのは…。

「ウウウウウウッッッッ…………」

 また唸り声が聞こえてくる。怒っているのだろうか?悲しんでいるのだろうか?苦しんでいるのだろうか?その声が分からないのが残念だ…けれど!

「電」

「っ?」

「少し、考えがある。賭けてみないか?」

「………えっ?」

「この方法がうまくいくかどうかも分からない。けれど、このままでいても天龍も助からないし他にうまい手も思いつかない。蜘蛛の糸のように細い方法だけれど…」

 電の返事を待つ間もなく次の瞬間、時間が止まったかのように動かなかった天龍が急に右腕をこちらに向け始める!横目でそれを捉えてすかさずイザナギをけしかけて腕ごと拘束し上に向ける。間一髪で発射された砲弾が空に向かって打ち出され、そのまま放物線を描いて海にボチャンと落ちる。

「…何も伝えられず、なにも分かってもらえないまま消えていくのが、本当に悲しいから…!」

「え……?」

 俺は知っている。また会える時を信じて疑わなかったのに突然、何も伝えられないまま最愛の妻と母を…最愛の思い人と姉を理不尽な死で失ってしまったあの四人の事を…。

 一人だけでも辛いのに、後ろで泣いている少女や目の前で変わり果てた少女は、その何倍もの同じ悲しみや無念を、味わったんだ…。

 これ以上、繰り返しては駄目だ…そうだろう?

 

 

「…一割だろうが一分だろうが一厘の確立だろうが、目の前で助けられる命を見捨てて、何が『特別捜査隊』だ。これ以上『仲間』の前で『仲間』を失わせるなんてそんな真似させてたまるか……その為には!」 

 

 

 天龍の元へ猛スピードでダッシュする!それに合わせて天龍を拘束していたイザナギがその手を放し上空へ避難!天龍がアクションを起こす前にすかさずその懐へ潜り込み…。

 

 

 バキッ!

 

 

「…へ?」

「ッ!?」

 

 拳を振り上げ、天龍の頭のバイザー部分を思い切り殴りつける!深海凄艦と化した巨体が僅かに揺れる。予想だにしなかったであろう行動に、その様子を見て電が素っ頓狂な声を漏らす。

「…そら!」

 電の開いた口が塞がらないような声にも構わずもう片側の頬の部分にももう一撃食らわせる!…当然だけど硬いな。ペルソナで肉体強化されてるとはいえ、鉄の塊をを素手で殴っているもんだからな。

 

(こういう時は頭ひねって、あれこれ理屈つけてゴチャゴチャ考えても仕方ない。多少乱暴でも、体当たりで素直に自分の気持ちをぶつけるのが一番だと俺は思う!)

「まさか…お兄さんの秘策って…」

 

 ああ、その通りだ。天龍に取り付いている穢れのようなものを、大天使やら神様が持っているような包容力と劇的で神秘的な力で祓う…とかご都合主義とロマンチックで感動的なフィクションの塊のようなものではない。

 俺が取る手段はなんてことはない、ただの熱血的で泥臭いものだけれど、自分の中にあるもやもやしたものを吹っ飛ばすには考えうる限りでは最も効果的なものだ!

 

「天龍、意識があるなら聞け。俺が本当に言いたい事がなんなのか…お前の『真実』が何なのか…ぶつかり合おうじゃないか!」

 

さあ、立ち向かおう。逃げ出したりしない。

真実に手を伸ばそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「例の地点までもうすぐよ!急いで!!」

「古鷹さん、無事でいて!!」


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