鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

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長いなぁ…本文も、投稿するまでの期間も…。


Sugomen ship of the deep sea  後編

ギリギリギリギリ…。

 

 ぶつかり合っている鉄パイプとステッキが、火花を散さんばかりの勢いで耳に悪そうな音を立てている。

 傍から見れば男の俺が、深海凄艦とはいえ、女の子に被さるという犯罪臭がぷんぷんする体勢で、今も一進一退の攻防が繰り広げられている。意外とすごい力だな、素の状態の電や天龍よりも遥かに上だな。だが…。

 

「僅かに、俺のほうが上らしいな…」

「…っ!」

 かつてシャドウと相対したときは、こういう展開に持ち込める事はなかったな。あいつらは大抵巨人だったり不定形だったり、変な形していたから、たとえ一対一でもこういう体勢に持ち込めることはなかったな。…あの人を除いては。

 だが今回、人型の少女の姿をしたが相手だからこういう戦い方もできる。

 体勢的に有利なのと、ヒートライザがかかっている状態という結果が功を為して、俺が僅かに上回っているらしく、どんどん鉄パイプを押さえ込むステッキの力が弱まっているのが分かる。更に言えば、さっき海面に叩きつけられたときのダメージが効いているらしく、この状態では圧倒的に有利なのは揺るがない。

 

 

 

 

 

 

 

「油断しないで!そのヲ級は何か妙な能力を使います!!」

「…?」

 後ろから、茶髪の艦娘が後ろから大声で警告する。思わず、それに振り返ったとき…。

 

 

 

 

 

 

「ヲ…」

 

 

 

 

 

 下にいるヲ級が、小さく呟く。

 瞬間、俺達2人を…いや、どちらかというとヲ級か!?ヲ級の周りを暖かな光が覆っている!!

「…!?これは…」

「ッ、アアァ!!!」

 

 突然のことに戸惑ったことによって生じた一瞬の力の緩みを逃さずに、気合と共に鉄パイプで抑えられていたステッキを両腕の力で押し付けてくる!!

 …『ヒートライザ』の効果が切れるのと、同時にだった。

 

 

 

 この感覚は、どこかで味わったことがあるような…。

 思い出した。去年、林間学校で水着に着替えて、千枝に蹴りを入れられて陽介と仲良く崖から叩き落された感覚に似ている。その後になぜか鼻血ブーの完二まで降ってきて………『ガルダイン』くらってもあれほどの衝撃はなかったな。

 もしくはどーん♪されたときの感覚かな?被害者の陽介にどんものかと感想を聞いたら、「人間って、ロケットがなくても月まで行けたんだな…初めて知ったぜ」って、遠い眼で悟ったように語ってくれたっけ…。

 

 

 

 

上から押さえつけていた俺の体が、数m程宙に浮かぶ!遠くで見ていた電が小さく悲鳴を上げる。

 

「くっ…イザナギ!!」

 

 背中から海面に叩きつけられ、ダメージを受ける前にイザナギを咄嗟に召喚!すぐに何処からか飛んできたイザナギが寸でのところで背中から俺をタッチダウンパスのようにうまくキャッチする。

 それでも、イザナギのゴツゴツとした手は衝撃を完全には防いでくれなかったが…。

 

 

 

 痛みを引いてくれるのを、敵は待ってくれなかった。

 

 

 

「…ヲ」

「あ、危ない!!」

 

 電の叫びで、咄嗟に視線を戻す。

 思わず驚きの声を上げそうになった。俺をふっ飛ばしたばかりのヲ級が、別の色の光を纏いながらいつの間にか俺とイザナギの目前にまでステッキを高速で接近してくる!

「早すぎるだろ…おい」

 咄嗟にイザナギが片手で俺を抱えながらの状態で、もう片方の手で矛を振りかざしヲ級が振るってきたステッキを防ぐ。が、今度は僅かにイザナギが力負けしている。イザナギを通じて手の中が振動するようなビリビリする感覚が、矛を持っている方と同じ手が感じている。ヒートライザの効果が切れている所為もあるが、明らかにさっき組み合った時より数段上がっている。

 この力…そしてあのスピード…そしてあのやけに見覚えのある光…。

 

 

 

 

「『タルカジャ』…か?」

「………!」

「だとするならば、さっきやけに動きがよくなったのは…『スクカジャ』か?…だとするなら、お前も『ペルソナ使い』か?」

 ヲ級が僅かに驚きの表情を浮かべる。それと同時に組み合う力が僅かに緩んだような気がした。

 

「驚いた…確かに桐条さん達の例があるから他にペルソナ使いがいてもおかしくはないけれど、こんな所で遭遇するとは思ってもみなかった。しかもまさか『深海凄艦』が目覚めているとは想像だにしなかったよ…」

「…………」

 

 

「?なんですって?何使い…?」

「お兄さん、ヲ級と一体何を言っているのでしょう?」

 

 

 後ろで、茶髪艦娘と電が何か話しているのが風に乗ってなんとなく聞こえる。というか、まさかとは思うけど天龍のこと忘れてはいないだろうな?

 

 

「まさかお前の他にも、深海勢で目覚めている奴はいるのか?」 

「……っ!」

 

グイイイイ!!!

 

「うおっ!?」

 返答代わりに、ステッキに篭る力が増して組み合っているイザナギが僅かに後ずさる。慌ててイザナギの腕から降りて、すぐさま矛を両手持ちに切り替えさせる。

 答える気はない…とでも言いたいのだろうか?ヲ級の表情には先程の驚いた様子はもうない。またいつもの無愛想な顔で、矛を持ったイザナギと組み合っている。それにしてもまさかこんな所でペルソナ使いと遭遇するなんて、恐らく先程邪○眼ちゃんが言っていた妙な術とはこのことだったのだろう。妙な身体能力といい、成程、それなりの力を持っているということだな。さすがの艦娘でも歯が立たなかったわけだ。

 それにしても、このヲ級がペルソナ使いだということは、他の深海凄艦勢にもペルソナ能力に目覚めている者がいるということなのか?だとしたら…!!

 

 

 

「…海ノ底ノ冷タサ」

「っ!?」

「私ガ私デ無クナッテイク、海蛇ニ体ヲ喰イ尽クサレルヨウナ感覚…頭ノ中ヲ私デナイ『ナニカ』ニ食ベラレルモノハナンダ?」

 ヲ級の抑揚のない突然の発言に思考が中断される。しかも言っていることの意味が分からない。こいつは、何を言っている?

「頭ノ中カラ声ガ…『  』ナンダ、『  』デハイケナイ…『   』ナリタイ…肝心ナ部分ガ聞コエナクテイラライラスルヨウナ、ナニカガポッカリ抜ケテイルヨウナ…タダタダ気持チ悪イ、『    』ヲ沈メロ、『   』ガ欲シイ…」

「何だ?何を言っている?」

 

 

 

 

 

「『     』ナンカ……私ジャナイ…ッッ!」

 

 

 

 

 

 僅かに歪んだ表情のヲ級から放たれたその一言に、一瞬俺の体が固まった。両手からフィードバックして感じる圧力すら、今の俺から忘れ去られてしまった。ヲ級がイザナギと組み合っている隙に俺自身が横手からヲ級を攻撃するという、ちょっと卑怯くさい戦法が思いつくも、急に饒舌になり始めたヲ級自身から発せられた、あまりに聞き覚えがありすぎる一言が、俺の足元が凍りつけられたような錯覚を覚えさせる。

 先程の並べられた言葉部分も理解できず、今の肝心な部分も聞こえなかったけれど、辛うじて聞き取れた言葉はかつて『テレビの世界』で嫌というほど聞いてきたあの言葉だ。

 自分の影の分を受け入れることが出来ずに、本体が影を拒絶する時に放たれたあの言葉…!なぜ、今こんな所で?こいつの口からそんな言葉が?

 

 

 

 

 

「モット…『    』ヲ、『    』シナキャ、『     』ニナル前ニ………!」

「…………」

 相変わらず壊れたラジカセのように発せられる、『言霊使い』でも理解不能な言動。もはや会話というより、単語の羅列に近いようなものに感じられる。

 けれどなぜなのだろう?今までの深海凄艦から感じられた怨念といった負の感情とも違う…そのわずかに歪んだ表情から感じられる、必死なその何かは…?

 奇妙なことだが、まるで、ヲ級から救いを求められるように手を伸ばされているように感じたのは気のせいだろうか?

 

 

「ヲ級、お前は一体…?」

「…ヲ」

 

 ヲ級の、瞳の蒼い光が僅かに揺らいだ。

 

「お兄さん!!!」

ピュン!

 

 

 電の声と共に、顔のすぐ真横で、風を切る感触と音が通り過ぎた。次の瞬間、ヲ級の斜め後ろで何かが落っこちたかのように大きな海飛沫が上がる。

 驚いて後ろを見ると、緊張した顔付きで発射口から煙を吐き出している単装砲を構えている電と、邪○眼ちゃん(そう言えばまだ名前聞いてなかったな。僅かに残る焼け焦げた艤装から『古』の文字が見えるけど?)が、相変わらず気を失っている天龍を肩で担ぎながら、焦ったような顔で俺と電とヲ級を交互に見ていた。

 

「電!?」

「イ…イザナギさんとお兄さんがピンチなのです!で、電も微力ながらお…お手伝いするのです!!」

「い、電ちゃん!?」

 カタカタ震えながら、逃げ出したくなるか崩れ落ちそうな、まるで生まれたての小鹿かと突っ込みを入れたくなりそうな足をなんとか立たせている。

 恐らく、何時までも膠着状態の俺達を見て、こちらがピンチだと思い見るに見かねて艤装についている単装砲を発射させたのだろう。

 

 

「電…」

「ま、また三日前のようにみ、皆がき、危険な目に遭う…なんて嫌…なのです…!」

「落ち着け」

「だ、だから今度はい、電も…み、皆と一緒に戦…って!」

 

 

 

「落ち着け…!!」

「っ!」

 

 パニックになりかけている電に、背を向けながら強めに声をかける。言葉の意味が伝わったのか、それとも強めの言葉にひるんだのかは分からないが、ともかく口を閉ざすことに成功した。こういっては少し乱暴な言葉かもしれないけれど…。

 

「下手に攻撃して相手を刺激すると、このヲ級の矛先がそちらに行きかねない。怪我人を二人抱えている時にそんなことをすればどうなる?」

「っ…!」

「もう一度言うぞ、落ち着け電…あとついでに邪○眼ちゃんもだ…」

「………」

 

 かつて生田目をテレビの中に突き落としかけたときに、仲間や…自分自身に対してそういったようにもう一度同じ言葉を2人に投げかける。背中から伝わる空気には、何か別の意図の視線を感じられるけれど…そっとしておこう。

 

「…………」

 

 イザナギと組み合っているヲ級に視線を戻すと、会話を中断されたことを面白く思っていないのか、先程の饒舌も、訴えかけるような視線も鳴りを潜めて、また能面のような表情でこちらを睨みつけている。が、今にもイザナギを弾き飛ばさんとステッキに篭めている力は未だ緩めることを知らない。

 そんなふて腐れたような顔で見つめるなよ、子供なりに俺を気遣った結果なんだ許してやれ…といっても聞く耳なんか持たないのだろうな。

 まあ、こちらも気になるところは色々あるのだけど…。

 

「…電、いい事を教えてやるついでにヲ級、お前にも」

「「?」」

 ニヤリと口元に笑みを浮かべているのを見て、ヲ級が眉を潜める。

 

「俺の知り合いには色々な意味で人外な知り合いがいてな、多数のイケメンのペルソナ仕掛けるドS秘書やら「メギドラオンでございます」な鬼畜仕様のエレベーターガールさんがいるんだが、その人達と戦って生きて帰ってこられたときは、自分自身を何度も褒め称えたい気持ちになった。ついでに、『ああ、生きているって素晴らしい』という気持ちもな」

「………?」

「…何の、話ですか…?」

 

 話について来れず、邪○眼ちゃんがたまらずに疑問の声を漏らす。若干呆れも入っているのは気のせいだろうか?目の前のヲ級も、声には出さずとも似たような雰囲気を出しているのがなんとなくわかる。

 そうしている間にも、イザナギと鍔迫り合いをする力がますます篭っていく。このままだといずれ押し負けるかもしれない…。

 が、そろそろ時間(・・・・・・)かな?

 

「…ようするにだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…『チャージ』」

「………!」

「からの……『ブレイブザッパー』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発音に似た大音量が、鼓膜を破らんばかりにその場に響く…というよりは『轟いた』

 後ろから2人の驚く声が聞こえる。先程までヲ級が立っていた場所に鍔迫り合い状態のイザナギが放った威力上乗せの『ブレイブザッパー』が、数キロ先までの海面を文字通り『割った』(・・・・・・・・・)

 今日一番の大きさの海飛沫の後方で、吹っ飛ばされているヲ級の姿が見える。辛くも斬撃からは逃れたようだがどちらにせよ、あの状態では唯では済むまい。

 

 

 

「…『ヒートライザ』!」

 再び自分とイザナギに『ヒートライザ』をかけて全能力をアップさせる。動きにキレを取り戻したイザナギが、チーターを思わせる瞬発力で向かわせる。

 その間に、吹っ飛ばされていた状態からなんとか体勢を立て直し海面に着水し立ち上がるヲ級。ふらふらになりながらも、自分の元へ高速接近するイザナギを見て一瞬ギョッとした表情をみせるも、もつれそうになる足を動かしてなんとかその場を動かそうとし…。

 

 

「『アグネヤストラ』!」(カッ)

 

 そうはさせじと、ヲ級の周囲に再び『アグネヤストラ』を発動させる。それを確認したヲ級が回避行動を試みるも…。

 

 

 

「万全の状態だった先程と違って、『チャージ」をかけた『ブレイブザッパー』を喰らってふらふらの状態で、いつも通りの動きが出来きるとでも?そして、気づいているのか?そろそろ『スクカジャ』の効果が切れる事に?(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 そして俺の予想通り、思うように動けずに『アグネヤストラ』を回避することが出来ず、自身の大きさの半分ほどもある隕石の洗礼をモロに、苦悶の表情で受けることになるヲ級。普通の人間なら良くて複雑骨折は免れないであろうその攻撃を、なんとか倒れずに受けきるのは『深海凄艦』が持つ脅威ともいえる身体能力の賜物だろう。

 …だからといってその姿に何の罪悪感が浮かばないといえば嘘になるが…。

 

 

 

 

「頭上に必死なところすまないが、何か忘れてないか?」

 が、ここは心を鬼にして追撃の手を止めない。ヲ級が『アグネヤストラ』に気をとられている内に、すぐ目の前には、降り注ぐ隕石を『アリ・ダンス』の無駄のない流れるような動きで回避しながら、イザナギが手に持っている矛を振りかざす。

 それに気づいたヲ級が、あえて隕石を受けながらも慌ててステッキを振りかざすも…。

 

 

「そして、『スクカジャ」が切れた今、その前にかけた『タルカジャ』も当然切れているだろうし…」

 

 

 

ガキィィィィィィィィィ!!!!!!!!

 

 

 

 

 『アグネヤストラ』が消滅したと同時に、甲高い音を立てながらヲ級の持つステッキが、ものすごいスピードで回転しながら空中を舞う。先程の鍔迫り合いの時とはかけ離れた、まるで赤子の手を払ったかのような軽さだった。

 そのヲ級を、イザナギが襟元?の部分を掴んで再び海面へと仰向けに叩きつける!抵抗するも、流石に満身創痍の体では『ヒートライザ』で強化されたイザナギのパワーには勝てるはずもなく、釈迦に握り締められた孫悟空のように無駄な労力となるだけだった。

 それでも諦めきれず、また新たなペルソナスキルを使おうとするも…。

 

 

 

「『詰み(チェックメイト)』だ」

 

 

 

 明らかに驚愕の色の瞳をを宿し、仰向けになりながら行動に移そうとするヲ級の首元に、鉄パイプを突きつけながら静かに宣言する。

 『アグネヤストラ』を発動させ、イザナギを向かわせている間も俺はただ突っ立っていたわけじゃない。ヲ級の注意が散乱している間に、気づかれぬよう大きく迂回して相手の背後にまで近づき、そして今現在に至る。念のため、飛んでいったヲ級のステッキも回収してだ。

 大破にまで追い込まれ、艦載機も全て撃沈、残された唯一の武器もこちらの手の内、俺とイザナギの両名から喉元に武器を突きつけられている状態で、今更スキルを発動しようとしてもその前にこちらがヲ級の息の根を止めるのが早い筈。少なくともこちらの考えうる限りでは、ヲ級に逆転の手は残されてはいないだろう。

 

「身体能力はそちらが上でも、ペルソナ使いとしてはこちらに一日の長があったな。相性やイザナギの力があったのもあるけど、お前はもっと自分の能力をしっかりと把握するべきだった……それと」

 一旦言葉を区切ってそして…。

「こんな所で死ぬわけにはいかないんだ。俺も、向こうで待っている彼女達も……たとえどんな手を使ってもだ」

「……っ」

「再び八十稲羽であいつらに出会うまでは…もう一度言うぞ、こんなところでは死ねない。絶対にだ」

 堂々と勝利宣言に、ヲ級が忌々しげに唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体どれくらい時間が経過したのだろうか?先程仲間を逃がしてから現在に至るまで、すっかり時間の感覚が麻痺してしまった。だが今、視線の先にいる謎の青年と妙な存在が、私と天龍が太刀打ちできなかったフラグシップのヲ級を完膚なきまでに叩き伏せたのを見て、30分位とも、1時間とも、2時間ともとれるような長くて短い戦いは、少なくとも深海凄艦側の敗北という形で終わった。

 

「はわわ…本当にすごいのです!!」

 隣で第六駆逐隊の電ちゃんが感動の声をあげている。ぴょんぴょん飛び跳ねんばかりに体全体で興奮具合を表現する。

「…単装砲の一つも持たずに鉄パイプ一本だけで、出会い頭にエリート二体…少々てこずったもののフラグシップに余裕を残して勝利…もうどこから突っ込めばいいのやら…」

 というか深海凄艦に鉄パイプなんて通用するんだ…初めて知った…いや、そもそもそれを持って戦いに望むという発想自体が艦娘では思いつきませんから…。

 唯でさえ中破して体が本調子じゃないのに、目の前の現実が追撃となってなんかもう…抱えている天龍を取り落としそうになっちゃうんですけど。

「でもお兄さんなら当然なのです!3日前、偶然にもちょうどこの場所でエリート艦隊60体を相手にたった一人でやっつけちゃったのです!」

「はぁ~…60体…」

 エリートを60体ですか。なんかもう、色々な事が起きすぎてもはや何も驚く気が……。

 ………って、んんんっ!?

「?どうかしましたか?」

 どうしたもこうしたも!ちょっと待って、今聞き捨てならないこと言わなかった!?何を言っているんですかといわんばかりに首を傾げられても!?

「へ!?60体!?エリートを!?たった一人でっ!?」

「正確には、お兄さんとあの“イザナギ”さんと呼んでいるあの大きい人と一緒なのです!」

 い、イザナギさん…?イザナギさんって…そもそもあれって何なの?島風ちゃんとか天津風ちゃんとかの連装砲と同じタイプとか?その割には砲の一つも付いてないけれど…というか何か若干浮いているし…。

「…そういえば、先程幾日か時間の経過している深海凄艦の残骸があったけど…焦げているのやら、まるで岩にでもぶつけられたような、叩き斬られたような…艦娘の戦闘とはかけ離れた違和感がありすぎる形跡があったから仲間と疑問に思っていたんだけれど…」

「お兄さんが天龍さんから剣を借りて、戦ったのです!あの時は本当にすごかったのです!」

「っ!!」

 やっぱり、あの深海凄艦の残骸は視線の先にいるあの男性と怪人の仕業だったの!?

 信じられない…あの怪しさ満点で、ちょっとずれたことを言って、しかも私を邪○眼ちゃん呼ばわりしたあの人が…!?けれど、もしそうならあの謎の損傷の原因も頷けるし…なによりこの電ちゃんがそれを裏付けている。

 

「あの人は、死ぬ運命だった電達を助けてくれました。もしあの人がいなかったら、3日前に基地に迫って来ていたエリート艦隊に、電達は為す術もなく殺されていました」

「………」

「あの人は、電達の命の恩人なのです!」

 

 自慢の兄でも紹介するかのように、にっこりと満開の笑顔をこちらに向けてくる。事情はまだ所々しか把握できていないけれど、余程の危機的場面に遭遇したらしい…この子も、そして今私の肩の上に首を預けて気を失っている天龍も…そして少なくともこの電ちゃんはあの男性に全幅の信頼を置いていみたいだ。

 

「えーと~古鷹さん、ですよね?古鷹型一番艦の…」

「え、ええ、そうだけど…」

「古鷹さんも危なかったところなのです!お兄さんが来てくれなかったら危ないところだったのです!」

「ま、まあ…そう…だね」

 相変わらず花のような笑顔を向ける電に、多少圧される感じもあって戸惑いがちに首を頷いておく。

 まあ確かに、助かったのだ、一時は命を投げ捨てる覚悟で望んけれども、嬉しい方向で予想の斜め上の出来事が出来て、私も天龍も、こうやって生きてこうやって立っている。恐らく大急ぎで駆けつけてくれているであろう私の仲間達ともうすぐ再会の抱擁を交わして無事に基地へ帰投する事が、数分後には実現できるのであろう。

 けれどどうしてだろう。これでハッピーエンド、やったネ…なんて、呑気に喜べそうにもなかった。助かったと認識して心の余裕が出来た所為か、途端に言いようのない別の大きな疑問と不安がぐるぐると頭の中で追いかけっこをしている。

 

 あのフラグシップヲ級そうだけど、何なのあの人は?何あの巨大な怪人は?深海凄艦ではないの?そもそもなんで男性が艤装をつけて活動できるの?なんで雷落としたり隕石落としたり、単装砲どころか鉄パイプでエリートやフラグシップを圧倒してるし…後で、詳しい説明を本人に聞かないと。この調子では電ちゃんでは信頼性の方に偏りがちな説明で聞くには心もとないし…あと、いい加減私の名前もはっきりして欲しいし。

 そして先程見せてもらった化け物染みた力に、エリート艦隊の殲滅…あの謎の能力、それらを総合するなら、原理は分からないけれども『鬼』…最悪『姫』級に匹敵する戦闘能力を持っているのでは?今は友好的に振舞ってはいるけれども、もし彼がこちらに牙をむいてきたら…?考えただけでもぞっとする。

 自分の中で黒い雫が垂れてくるのを感じる。…もし、もしそうなったら、場合によっては鎮守府に戻って…それから…。

 

 

「古鷹さん?」

 電ちゃんに話しかけられてはっとなる。こちらの腹の内を何か感じ取ったのか、おずおずと心配するかのような…もしくは腫れ物に触るかのようにこちらに話しかけてくる。

「どうしたんですか?少し…怖い顔していますよ?」

「っ!あ、うん…ちょっと、疲れちゃったのかな?」

 ごまかすように手を振ってなんでもないという風におざなりな笑みを浮かべる。少なくとも電ちゃんに今は話すのはやめておこう。今話したところで、混乱するか真っ赤になって反論して聞く耳持たなくなってしまうだろうから…。

 たとえ、今はその場しのぎの対処だとしても…。

 

 

 

「何ヲ……シテやガる…」

 

 

 突然、馴染み深い声が私の左肩から発せられたのはそんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ヲ……シテやガる…」

 

 聞き覚えがあって……それでどこか歪な声が聞こえてきて、鉄パイプをヲ級に突きつけたまま首だけをそっちに向ける。小さい…が、それでもはっきりと聞こえた。

「っ!天…龍!?」

「「て、天龍(さん!?)」」

 先程まで、邪○眼ちゃんに抱えられて気絶していたはずの天龍が憔悴しながらも、はっきりと凶悪な視線をこちらに向けている。今の天龍の状態といい、顔部分を邪○眼ちゃんの肩に預けているその首位置といい、まるで呪う様な物言いといい、まるで首だけが意思を持って動いているんじゃないかと不気味な印象を受ける。

 

「サッサッと…その深海凄艦をブっ殺せよォ…俺達の…敵をォ…」

「お前……何時の間に気が付いて…」

「ドウでもイイだロォ…!そんな事…サッサと…殺せェ…!」

「て、天龍!」

 邪○眼ちゃんが明らかに戸惑っている様子をみせるもお構いなし、眼力は引っ込めることは知らずに、どころか益々邪悪な輝きを増している。

 視線を仰向けで倒れているヲ級に戻す。青白い肌や瞳に宿る青い光以外は相変わらず、本当に人間の少女ような容姿が眼に映る。

 

「…ヲ」

 

 先程の悔しげな表情は鳴りを潜め、弱々しく…どこか虚無的な声が響く。一体何を言っているのだろうか?『もう好きにしろ』と諦めの意思表示といっているのだろうか?もしくは、悪態をついているのか………。

 

 

 

 

 

 

 

『『     』ナンカ……私ジャナイ…ッッ!』

 

 

 

 

 

「君は…」

 遠くにいる三人には聞こえないように、ヲ級に向かってぼそりと喋る。聞こえたのか聞こえてないのか、ぱちくりとヲ級が瞬きを向ける。

「君は…一体…」

 意味不明の言葉の中に唯一、意思が篭ったかのようなあの一言、今思い返すと、まるでこのヲ級の…。

 

 

 

 

 

 

「何ヲ…シテやがる…」

 こちらの動向を見守っていた…というよりは監視していた天龍が痺れを切らしたのか、自身を抱えている邪○眼ちゃんの腕から這い出るように、押しのける。

「て、天龍!あまり無茶をしちゃ…!」

「ドイ…テロ…!」

 気遣う声を無視して支える手を振り払うも、うまくバランスが取れずに足をもつれさせてうつ伏せに倒れる天龍。電が慌てて駆け寄ろうとするも、それを押しのけてもう片方の手で…否。

「ナゼ…トドメヲ刺さナイ…刺さないナら…俺ガ!!」

 ボロボロになった右の艤装部分の砲身をこちらに…というよりは、ヲ級に向ける。

 

 

 

「殺して…ヤる」

 ありったけの殺意を篭めた、呪言と共に。

 どうする?ここは天龍のやりたいようにするべきなのか?深海凄艦は沈めたほうがいいと周囲は言っているが…だが……。

 

 

 

「殺……ス?」

 たどたどしくヲ級が喋った。驚いて足元を見る。

 先程まで感情を読み取ることが難しかったはずのヲ級の瞳が、大きく見開いている。

「殺………ス?ワタシ…ヲ?殺……ス?」

「ヲ、ヲ級?」

「殺…ス?」

 

 

 

 

 

「死……ヌ?」

 

 

 

 

 

 

『オ前モ、水底ニ沈メ…“     ”』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トットト…くたばれ、深海凄艦ッ…!」

「て、天り…!」

 

 

 パァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

「っ!」

「なッ!?」

 

 甲高い音と共に、蒼い光が俺の足元に突然発生する!

 

「ン……だっ!?」

「何!?今度は何なの!?」

「はわわわわ!?」

「…こ、これは!?」

 

 否、正確に言えば、ヲ級を取り囲むように発生していた。こいつ、まだ何かあるのか!?俺が驚いて面食らった一瞬の隙を突いて、ヲ級が俺の鉄パイプとイザナギの矛を押しのけ、弾くように起き上がる!!

 ものすごい力だった、先程まで追い込まれていた者の力とは思えない!

 

「そんな…まだそんな力が残っていたなんて!?」

「お、お兄さん!?」

 

 二人の叫ぶ声が聞こえてくる。起き上がったヲ級は、あの蒼い光を未だ体から放ちながらこちらと相対している。持っていた艦載機を全て叩き落され、ステッキもこちらが預かっているな中まだ抵抗する術があるとでも?

(この蒼い光…ペルソナを召喚する時のあの光に似て…?)

 

 

 

「………イ、ヤダ…」

「っ!?」

 まただ、またヲ級が…喋っ…た!?天龍に対して言っているのか?それとも一番近くにいる俺に対して言っているのか?もしくは唯の独り言なのか?

 何しろ顔を俯かせてわなわなと震えながら何か自分の世界に入っちゃっているようにも見えるし…。

 

「殺ス…ノカ?死ナス…ノカ?“    ”ノカ…?私ヲ……?」

「お前、何を言って…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サッサト死ネ…!』

 

 

 

 

 

 

「私ヲ…」

「!?」

「私ヲ……‘=|‘{}+?__?_<?*+ッッッッッッ!!!!」

 

 

 ぶつぶつ一人で喋りだしたかと思えば、急に何かを錯乱状態で叫びながらこちらに物凄い勢いで向かってくる!

「っ!」

 慌ててイザナギと共に武器を構えながら備える…。

「アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「!?」

 が、予想に反して、脇目も振らずにヲ級は俺達の脇を通り過ぎる!

 

 

 

「うわっ!?」

「ナッテメエ!待ち……ヤがれ!」

 

 遠くで天龍が艤装の砲を下げながら後を追ようとするも、憔悴した体では進むこともままならずにまたすぐに倒れる。すぐさま近くの2人が天龍の下へ駆け寄る。

 

 

「もう!そんな体で無理して…大丈夫なの!?」

「無茶は駄目なのです!」

「黙…レ…俺はいイから…アイツを…」

 …いや、この距離ではもう遅い。

 ヲ級はもはや、はるか彼方の距離まで今も絶叫を上げながら、だんだんとその姿が小さくなっていった。

 いや、実を言えば『ヒートライザ』をかけなおせば追いつけるかもしれないけれど…。

 

 バシャン!!

 

 天龍が、海面を思い切り悔しげに叩いていた。顔を俯かせて表情は伺えないが、心境はなんとなく察することは出来る。周囲の2人が、どう言葉をかけようと戸惑っていた。

 

「今…優先順位はそこではないからな」

 

 それにしても結局のところ、あのヲ級は何者だったのだろう?他の深海凄艦とは違って意思の疎通が出来るみたいだしそれに……

 

『殺ス…ノカ?死ナス…ノカ?“    ”ノカ…?私ヲ……?』

『………イ、ヤダ…』

 

 最後に聞こえた。あの必死の生への渇望の声、そして…。

 

「なんなんだ?お前達(深海凄艦)は一体…?」

 

 ヲ級の去った方向を見て呟いたその問いに、答えてくれるものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……お前は、また無茶をして」

 2人に囲まれてがっくりとうなだれる天龍を、見下ろしながら心配半分と呆れ半分で見下ろす。先程ヲ級を取り逃がした時よりは幾分かは泣き喚いた後の子供のように大人しくはなっているが、それでも落胆したような感情は隠しきれないようだ。

「そこの邪○眼ちゃんもそうだけど、今一歩遅かったら危ないところだったんだぞ?」

「…その邪○眼はいいかげんやめてください…」

「え、嫌なのか?」

 格好いいあだ名と思ったんだが、どうやら本人は不服だったらしい。雪子辺りが聞いていれば腹を抱えて笑ってそうなんだが…。

 あれ、それじゃあ駄目か?

「ま、まあまあ2人とも…落ち着いて欲しいのです」

 まあまあと、電が『まぁまぁ』のジェスチャーを俺達二人に向ける。いい足りない様子はあったものの、さすがに小さな子に諭されては一旦鞘に収めるしかないと感じたのだろうか、若干ジト目でこちらを一瞥した後に天龍へと視線を戻す。…小さな子に諭されるとは立場ないなぁ…。

「それはともかく、こうやって無事だったから良かったのです」

 電が優しく声をかけるも、俯かせたまま返事がない。聞こえているのか、聞いていても返答する気力もないのか…。

 それにしても、天龍の今の艤装、見れば見るほど奇妙だな。3日前とは明らかに違うその艤装は砲塔の数も増えて体を覆う部分も増えて確かに強くなったような印象を受ける。

 が、それ以上に不気味という印象が強い。3日前の銀色とは違う黒いその塗装?はまるで死後の世界とも夜の世界を思わせるような『闇』で覆われている。俺達がかつて訪れた『禍津稲羽市』から感じられた不気味さとも違う、まるで深淵を覗き込んでいるような…それに、所々、深海魚の歯を彷彿させるような模様があるし、これではまるで…。

 

「なあ天龍、傷付いて疲れているところ悪いが…お前のその艤装…」

 

 

「なんで、こコマで来やガッタんだヨ…」

「!?」

「て、天龍さん?」

 

 俯いて動こうともしなかった天龍が、問いかけようとする言葉を不服そうな声で遮る。

 

「お前、急に何を…?」

「こちとラ、お前ニ来てくレト頼んダオボエねえ。何時までも面白くない態度をトッテイル俺に見せ付けるツモリデワザワザ来たのか?それとも恩に着セルつもりカ?ワザワザ電マで連れ出してヨォ…」

 

 そこで天龍がようやく顔を上げる。肉体的なのか、精神的なのか、疲れた表情が顔に浮かんでいても、隻眼の残ったほうの眼には疲れとは別の、こちらを敵視するような感情が含まれていた。

 …そういえば、3日前の朝にもこうやって天龍に尋問されたっけ。あの時も天龍の機嫌を損ねてしまった挙句に彼女に背負い投げ食らわしてしまい。それからろくな会話もしてなかった…。

 彼女が今宿している瞳には、その時と同じ色が含まれている…となんとなく思った。

 

「…電もお兄さんも、天龍さんとちゃんとお話がしたくてここまで来たのです…」

 

 天龍の凶悪な目つきにおどおどしながらも、俺の代わりに電が前に出て天龍の疑問に答える。

「話ス…ダト?」

「でも、あんなことがあったばかりですから電一人では行く勇気がなくて…そこでお兄さんに頼み込んで一緒に天龍さんに会いに行くことにしたのです…。まだ、深海凄艦がこの辺りにうろついていないとも限らないですし…その、その為に、先ほど天龍さんが持ってきてくれた資源を使う羽目になってしまったのですけれど…そこはごめんなさいなのです」

 そこで一度話を区切って、ごめんさいと頭を下げる電。その資源を俺も使ったので「俺もすまないと」いいながら俺も頭を下げる。

 両者共すぐに頭を上げて、また電が話を続ける。

「そ、それで、この辺りをうろついていたら戦闘の音が聞こえてきてすぐさま駆けつけたのです。お二人ともお怪我が酷かったのですんでのところで間に合ってよ、よかったのです…」

 天龍、そして邪○眼ちゃん順に眼を向けながら、ぎこちない笑みを浮かべる。それに対して俺が頷いて肯定する。

「あ、そ、そうですね…貴方達、というか貴方のお陰で私も天龍も命拾いしました。ありがとうございますえ~と…『シスコン…番長』さん?」

「『鋼の』が抜けているぞ。ここは大事だ邪○眼ちゃん」

「………」

 笑みが引きつって小さくぼそぼそ喋っているが、ここは譲れません。そこを抜くなんて、キャプテンが抜けた『ルサンチマン』みたいなものじゃないか。もしくは唯の『肉食獣』か『黒雪姫』みたいなもの…。

 

 

バシャアアアアアア!!!!

 

 

 またしても海面を叩く音が聞こえてきて全員がびくりとなる。どうやら天龍がまたしても海面を大きく叩いたらしい。電だけでなく、邪○眼ちゃんも咄嗟の事で驚いている様子だ。

 

「…また得意ノおふザケかァ?ウンザリなんだよ、それも含メテテメエのやることナスこと全てガ…」

「…そこは確かにふざけすぎたかもしれない。が、それを含めてとは?」

「全てがッテ言ってるんだロォが!!」

 

 よろけながらも、その場から立ち上がる天龍。邪○眼ちゃんが心配そうに支えようとするも、それを振り払う。

 

「助ケが必要だ何て誰が言っタヨ!?余計なことシテンジャねえ!!ウンザリ何だよ!!そういうノが!いちいち恩に着せヨウとして善イ人ぶってるんじゃ…ねェ!!」

「ちょ、ちょっと!一体何を言ってるの!?」

 片手を払うかのようニ動かして、こちらに怒りをぶつけている天龍。が、言っていること為すことが駄々をこねる子供のように聞こえてならない。

 なんだか、胸に不快感を覚えてくるようだ。

「…あの状態でお前に何が出来たんだ?もしあのままだったら間違いなく、お前も、彼女も死んでいたところだった。そうなってからじゃあ遅いんだぞ?」

「お、お兄さん?」

「ダカラどうしたァ!?」

 自然と俺の声の温度が冷たくなるのを電が感じて戸惑い、天龍は意にも介さない。

 

「前にモ言っただろうガァ!?何にも知らないテメエに何が分かル!?轟沈が怖くて艦娘やってラレるか!俺達に構うなァ!!死ヌマデ戦わせろォ!それが“俺達”の本分…!!』

 

 

 

 

パァン!!!!!

 

 

 

 

 

「っ!?」

「ひゃ!?」

 

 天龍がその言葉を言い切らないうちに、気が付けば俺の右手が彼女の頬を思い切りはたいていた。ほぼ反射的にだ。恐らく、ヲ級に対して振るった鉄パイプよりも強く力を篭めて…。

 思えば、女の子にビンタするのははじめてかも。

 

「っ!何シヤ…っ!」

 天龍が切れてこちらに何か言うよりも先に彼女の襟首を掴んで引き寄せる。アップになった天龍の片頬が赤くなっていた。

 

「…お前のために命を落とした俺の艤装の『持ち主』や慕われていた電の姉妹達が不便でならない…俺や電が助けようとしたのがこんな死にたがりの自分勝手な馬鹿だったとはな…!」

「っ!」

「お、お兄さん!?」

「ちょっ、怪我人になんて…」

「今は黙っていてくれ…!」

「っ!?」

 控えめに言ったつもりなのだが気が立っているせいなのか、邪○眼ちゃんがビクリと恐れをなしたように俺を見る。

 胸の不快感が益々増していく。何て汚い暴言を吐いているんだ俺は、けど、このわきあがる感情は止まらない。

 

「俺はな、お前の事を口が悪いが筋の通った奴と思っていた。3日前にお前が単身出撃したのも、自分の命と引き換えに皆を守る為にだって…方法については思うところがないわけじゃないけれど…でも」

「っ!?」

「お前のその姿に、俺がもっとも憧れる『あの人』の後ろ姿を見たんだ。不器用なりに『家族』を守ろうとしていたあの理想の父親像を体現したあの人の姿を…おまえとは実質2日間位しか付き合いがないから全てはしらないけれど…そう思った…!」

「…誰だか知らネエケド、勝手に俺ニ押し付けんナ…!」

「ああ、そうだな!俺の勝手な押し付けだ!今分かった!」

 もう一度襟首を掴む手が強くなる!天龍が苦しさの所為なのか顔が歪むのも構わない!

「『叔父さん』なら自分の事で他人を巻き込んだり、仲間と心中するようなふざけた真似は絶対しないだろうからなぁ!!今のお前みたいに!!」

「!?」

「艦娘の本分やら、気に食わないからとかそんなふざけた理由で『仲間』を死なせようとするなんてそんな奴を俺は認めない…!!!」

 

 掴んでいた手を思い切り押し付けて、邪○眼ちゃんのほうへと押し付ける。慌てて邪○眼ちゃんが天龍を受け止め、天龍が痛みからなのか苦しさからなのか『ぐえっ』と小さく呻く。

 

 

「どんな思いでお前の『妹』が命と引き換えにお前を助けたと思っている!?それすらも忘れたのか!?少なくとも今のお前がやっていることは、お前が毛嫌いしていたっていう『提督』と、何の違いがある!?」

「っ!!」

 天龍が驚きのあまり眼を見開く、その瞬間だけは眼に宿っていた怒りも忘れたかのように消えてしまったのを感じた。俺へのわだかまりのあまりにそんな事まで忘れてしまったのか?

「お前が俺に対してどう思おうが構わない。だがそんな事で他人を利用する奴なんて…今のお前に」

 

 

 

「『仲間』を持つ資格なんてない……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …誰も口ヲ開こうとシナイ。唯黙ってアイツの言葉を見守っていルダけだ。電モ、今俺を支えていル古鷹ですらも…。

 違う…ソンナのは違う…俺ハ…。

 ナのに、反論の言葉が浮かバない…。アイツに対して言うべき否定の言葉ガ喉にまで突っカカって出てこナイ…。

 …あの時、俺に対して背負い投げして言ったときと同ジ…あの時と同じ目で見られていると返す言葉ガ出てこない。先程まで燻っていた怒りが抜けていっている…違う、違う……。

 何で、コウナッタンダヨォ…ナァ、ソンナ目で見なイデくれよォ…。

 こんなの…コン筈じゃなかったのに…。

 

 

 オレハ…オレハァ…………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄さん…」 

 呆然としている天龍に背を向けると、電が複雑な表情で俺に近づいてくる。

「…今は、天龍を連れて帰るのが先だ。あいつの怪我も軽くはないから…」

「…はい」

 口を開きかけて何か言おうとするも、あえてその口を閉ざす。

 …少し、言い過ぎたのかもしれない。冷静になって自分の発言を思い出してやるせない気持ちが浮かぶ。

 確かに、天龍の言った言葉は許せないこともあったけれど、本当はただの“はずみ”で言った言葉なんかじゃないのか?もっと他に言う言葉があったんじゃないのか?さっきの電の恐らく追求についても、思わず誤魔化すように言ってしまった。これじゃあ、3日前に天龍と話した時と何にも変わらないじゃないか…。

 わかって、いるつもりなんだけどなぁ…。

「俺も、まだまだだな…」

「?」

「いや、なんでもない。すまないな、聞いてる電も不愉快な気持ちだっただろう?」

 ?マークを浮かべる電の頭を、いつも菜々子にしているように優しく撫でる。もしくは、いつか鮫川で陽介が小西先輩の時で落ち込んだ時と同じように…。

 って後半はそっちの気ではないからな。断じて違う。

 

 

「ひとまず、ボロボロのお嬢さんを連れて基地へ戻ろう。まずはそれからだ。あと、邪○眼ちゃんについては…」

「…あの人は邪○眼ではなくてふる……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「て、天龍!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 後ろから例の彼女が驚く声が響く。驚いて二人して振り向く。

 

 

 

「っ!?」

「なっ…!?」

 

 

 思わず、『目の前』の出来事に対して二人揃って目を見開く。

 

 

 

 

「チガウチガウチガウチガウチガウ………コンなのは…コンなのジャナイ…」

「て、天龍!?」

 

 

 明らかに変容していく天龍の姿と、近くでへたり込んでいる邪○眼ちゃん。覆っていた艤装が明らかに先程より広がり、変わっていく…いや、呑まれていく天龍の姿は、それは、まるで…。

 

 

 

「コンナノハ…オレジャナイ…!!」

 

 

 

「深海…凄艦…!?」

 

 

 

 




まさかの連戦、次回に続く!


あと、番長は怒りのあまり天龍に無理やり『全能の真球』つけさせてエリザベスやマーガレットの所へ送り込んでやろうかと考えてないですよ!?

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