鳴上悠と艦隊これくしょん   作:岳海

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なんだか長くなりそうなので、二分割にしました。後半はもう少しお待ちを・・・。


第六話 You're myself, I'm yourself  (前編)

『ギシャアアアア!!』

『おらぁ!!』

飛び掛りながら襲い来る敵駆逐艦を、気合と共に袈裟切りで剣を振るう。真っ二つになった敵は断末魔の叫びをあげる間もなく2分割のまま海へ帰っていく。

『『『ギシャアアア!!!!』』』

『小賢しいんだよ!!』

続いて、自分の単装砲を遠く前方にいる敵に向かって連射する。3体の敵の駆逐艦は奇妙な悲鳴を上げ瞬く間に『轟沈』させる。それを確認すると油断無く周囲を見渡して他に接近する敵がいないか確認する・・・いない。周囲に何もないことを確認すると、静かに抜き身の愛剣を鞘に収めて不敵に笑う。

「フフフ、怖いか?」

 

 

 

『すごーい!!天龍さん!』

自分の後ろから賞賛の声がかかってゆっくりと振り返る。『遠征』の引き連れである駆逐艦の2人が、自身を尊敬するような眼差しで見ている。

『すごいのです!あんな簡単に敵をやっつけてしまうなんて・・・!』

『ハラショー、さすがだね』

素直に感嘆している茶髪をアップにした少女と、錨マークの帽子を被った薄い水色の髪を被った少女が、自分達なりの賞賛の言葉を自身に向ける。

ある輸送任務の最中、突然襲ってきた敵の駆逐艦を、後ろにいる二人に代わって一人で蹴散らしてやった。なんせこの2人ともう2人の姉妹は実戦経験が浅い。だからこうして、いわば戦いのチュートリアル兼世界水準越えた自分の力を見せ付ける意味合いでこんなことしているというわけだ。そしてこちらの予想通り、四人姉妹の四女と次女がこちらを無駄にキラキラした眼差しでこちらを見ているというわけだ・・・。

『へっ!世界水準クラスの天龍様にかかればこのくらい余裕ってもんよ!いずれお前らもこのくらいやらなくちゃな?』

『はわわわわ!天龍さんみたいにですか!?なれるのでしょうか!?で、でもやっぱり・・・』

『・・・まだ敵を沈める事に関して抵抗があるのかい?』

次女が出来る限り優しく問いかけ、四女が恐る恐る頷き、それを見た自分が無意識にため息をつく。・・・まだこんな事言っているのか?このガキ・・・。

四姉妹の中では一番気弱で戦いを好まない性格の彼女は、事あるごとに沈んだ敵も救いたいとかいつも言っていやがる。なんでこんなような奴が、艦娘になったのだろうか不思議でならない。戦場でこんな甘い事言っていたら長生きできないぜ?コイツ。

 

『・・・とりあえず、自分の身の安全を守れるくらいの力つけろ・・・まずはそこから・・・』

『!天龍さん後ろ!!』

『へ?』

茶髪の少女が突然前触れもなく、驚いた顔をして自分の後ろを指差す。つられて振り返ると先程の『轟沈』したはずの駆逐艦が自身の頭上に飛び掛って大きな口を広げていた。しまった!仕留め損なったのか!?

悪態をつきながら単装砲を向けようとするも相手のほうが早い!ダメージを覚悟した瞬間・・・。

 

ズドォォォォォォォォン!!!

 

どこからか飛んできた砲撃が、自身に向かってきた敵駆逐艦を打ち抜く。敵は自身の牙を自分に打ち立てることができず、そのまま垂直に『ボチャン!』と音を立てながら今度こそ『轟沈する』

 

『もぉ~、天龍ちゃんったら相変わらず危なっかしいんだから~』

『あ・・・』

 

声のするほうにに振り返ると、発射したばかりらしい煙の出ている単装砲を構えながら遠くに出ていた『妹』がいつもの笑顔でこちらを見つめている。その傍にはヘアピンと八重歯が特徴的な茶髪の少女と、先程の少女と同じ錨マークの帽子を被った紺色のロングストレートの髪を持った少女が、どちらもこちらを見咎めるように頬をむくれてみていた。

 

 

『も、戻っていたのかよ?』

『とりあえず、この周辺の偵察は終わったわ~、もちろん私も後ろの子達もこの通り無事よ~。・・・それよりも・・・』

頬を膨らませながらずいっと、不機嫌そうに顔を近づけてくる。

『この間だって同じ目に遭ったばかりじゃな~い、もう少し気をつけてもらわない

と駄目じゃない。天龍ちゃんはもちろん、後ろの子達だって・・・命の危険に・・・』

『う、うるせーな!いつも一言二言多いんだよ!!お前は!』

言っていることは正論だろうけど、素直にそれを受け入れる事ができずについ反論してしまう。意見を突っぱねられた妹が唇を尖らせる。

 

 

 

 

『もう、駄目じゃない!龍田さんは天龍さんのことを気にかけていっているのよ!もーっと素直になったらどうなの!?強いだけじゃ駄目なのよ!』

『そうよそうよ!龍田さんが助けなかったら危ないところだったわよ!それに、助けてもらったら『ありがとう』でしょ!?』

成り行きを見守っていたヘアピンをつけた『三女』が、腰に両手をあてて子供を叱るような口調を突きつけ、そしてそれに同意する『長女』

『いつもいつも妹に迷惑をかけて恥ずかしいと思わないのかしら!少しは『暁』を見習ったらどうなの⁉︎一人前のレディなら・・・』

『だー!うるっせえな!そういう事は自分達で遠征いけるぐらいになってから言えよチビ!!』

『ちょっ・・・チビとはなによチビって!』

『この間ブラックコーヒーを無理して飲んで吹きだしたお子様に言っているんだよ!!』

『ぬわんですってぇ!?』

長女の長い愚痴にとうとう耐えきれなくなり、罪悪感を感じながらもつい、強い口調に出てしまう。先日の恥ずかしい出来事を暴露された事に怒りと羞恥心で顔を真っ赤にしながらこちらを見上げる長女。

こちらのやりとりを、他の四人が微笑ましいような、呆れるような、もしくはそれらが混じったような視線で自分と一番上の『姉』を見つめている。

『・・・何見てるんだよ?』

『お2人とも、本当に仲がいいのです!』

『『何処がだ(よ)!!』』

『一目瞭然じゃないか』

『仲がいいのはいい事ね!』

温度差を感じる視線に二人揃って思わずハモリで反論するのを『次女』が冷静に突っ込みを入れ『三女』が便乗。先程の不機嫌は何処へやら、その様子を『妹』が口元を押さえ笑いを堪えながら見ている。いつも通りのあの笑みを浮かべてだけだ。その様子に耐えきらなくなったように、頭をガシガシかきながらヤケクソ気味に言い放つ。

『あーもうわかったよ!俺が悪かった!悪うございました!』

『『『『素直じゃ無いんだから(のです)』』』』

『ほっとけ!妙なハモりはやめろ!』

くそっ!こういう時に妙な連携見せてんじゃねえ!いつかこいつらの尻ひっぱたいてやる!喰い殺すような視線で睨みつけるも、四人はにやにや笑みを浮かべるのみだ。

『でもね~天龍ちゃん』

口元を押さえていた手を下ろして『妹』が静かに切り出す。全員の目が魔法でもかけられたみたいに一斉に『妹』のほうに視線が集まる。

『冗談抜きで私心配なのよ~?天龍ちゃんったらいくら言って聞かせても全然危険を顧みないんだから・・・この子達が言ったようにもしもの事があってからじゃあ遅いのよ?』

『おいおい、急にどうしたんだよ?お前らしくもねえ・・・』

『私は真面目にいってるのよ?』

いつもの人を食ったようなあの笑顔ではない珍しい反応だ。有無を言わせないような真剣なその様子に、自分も駆逐艦の四人もきょとんとした顔になってしまう。

『天龍ちゃんは見栄っ張りなのか勇敢なのかは知らないけれどね?もう少し自分を大事にしてほしいわ。その性格が災いして敵の砲撃を受けて『轟沈』なんて事になったら私・・・ううん私だけじゃないわ、ここにいる子達も基地の皆も、きっと悲しむわ。だから・・・』

懇願するような目でこちらを見つめる妹。この時ばかりは普段の冗談を言ったりや茶化すような気持ちは無い、純粋に此方の身を案じている悲しげなその瞳でこちらを見ている。

『・・へっ、珍しく何をマジになっているんだよ?お前らしくもねえ』

『天龍ちゃん!私は真面目に・・・』

『心配いらねえよ!』

『え?』

『俺は死なねえ』

ニッ!と不敵な笑みを浮かべるのを、龍田がきょとんとした顔で見てくる。駆逐艦の四人も同じような顔を浮かべている。

『俺様は世界水準超えた天龍型のネームシップの天龍様だぜ?どんな奴が来たってそう簡単にやられはしねえよ!それに・・・』

腰から愛用の剣をスラリと抜き出して妹に突きつける。突然の事に、『妹』がぎょっとなって駆逐艦の四人も何事かと目を見開く。傍から見れば敵対するような構図に見えなくも無いがもちろんそんなつもりは無い。

『ここにはその世界水準超えた俺の『妹』が傍にいるんだ!いざとなったらお前が俺の背中を守ってくれるんだろ?』

『!』

『妹』が目を見開くのを見てますます自分の笑みが深くなる。俺が戦いを恐れずいつも最前線で戦えるのはこいつ等がいるからだ。ここに守るべき小さな妹分達と、自分が最も信頼できる妹が自分の傍らに、いつもいてくれるおかげだ。

その様子にしばし呆然とする『妹』だったがやがて、「はぁ」と一息ため息をつく。呆れながらも・・しかし、どこか満更でもない顔を浮かべながら・・・。

 

 

 

ザバァァァァァン!!

 

 

横手からの水しぶきに、全員の視線がそちらに向く。駆逐級の敵6体が、敵意丸出しでこちらを睨みつけていた。仲間の敵討ちでもしようと思ったのだろうか?一触即発のその様子に怯むことなく啖呵を切る。

『はっ!雑魚がまだ残っていやがったか面白れぇ!!抜かるんじゃねえぞお前ら!』

『暁の出番ね!見てなさい!!』

『不死鳥の名は伊達じゃないよ』

『もーっと私に頼っていいんだからね!』

『い、電の本気を見るのです!』

自分に続いて、まだまだ新米の四人が臆する事も無く、それぞれが敵に向かって自分の得物を敵に向ける。へっ、ひよっ子が一丁前に啖呵きってやがるぜ。・・・将来が楽しみだ。

『ちょっと~私を忘れたら駄目よ~?』

と、後ろから妹が愛用の『薙刀』を持ちながら、いつもの調子で自分の隣に並び立つ。

『しょうがないわね~いつものように背中は任せて。危なっかしい『姉』の背中を守るのは『妹』の役目だから♪』

『妹』の方へ顔を向ける。こちらの視線に笑って答えるいつもの笑顔に思わず笑みが浮かぶ。そうさ、いつだってお前達がいるから・・・こいつ等と一緒ならどんな敵も怖くない。何とだって戦える。たとえ、世界中が敵に回っても皆と一緒なら・・・。

 

 

『行くぞお前ら!!天龍様の攻撃だ!うっしゃぁっ!』

『あはははっ♪砲雷撃戦、始めるね』

 

 

 

 

こんな時が、ずっと続くと思っていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞳を開く。なぜか海面に倒れそうになっているのに気づき、慌てて右足を踏み出す。その足は沈むことなく『パシャリ!』と音を立てて“着水”する・・・なぜ自分はこんな所にいる?眠っていたのか、なぜ?何が起こったのか一瞬分からなかったが次第に意識がはっきりしていくと、自分の置かれていた状況をだんだん思い出していく。

・・・ああそうだった、思い出してきた。自分は基地にいる者たちの為に時間稼ぎを買って出ていたんだ。それで、敵からいい一撃をもらって一瞬オヤスミしてたわけだ・・・ということは先程見ていたのは夢か。

随分懐かしくて幸せな夢を見ていたものだ。何時の日か生き残りの電を含む第六駆逐隊と龍田が生きていた頃の記憶だ。いつものように遠征の任務に向かっている時に敵の駆逐艦と遭遇して龍田と一緒に殲滅してやったんだっけ。駆逐のガキ共が自分を尊敬の眼差しで見たりしたり無茶を咎めたり・・・挙句の果てには、龍田にからかわれたりと・・・懐かしい夢。

思い出すたびに熱い何かが零れそうになるのを頭を強く振って誤魔化す。

今おかれている状況はどう控えめに見ても地獄そのものだが。ゆっくりと俯かせていた顔をあげて『現実』を直視する。

赤黒いオーラを纏った不気味な雰囲気を醸し出している夥しい数の深海凄艦達が、単身孤独なこちらを何の感情も篭めずに見つめていた。まるで機械だ、いや、それとも黄泉の国の亡者のような冷たい瞳と表現すべきか?

「・・・意外と詩人だな俺も」

傷ついた片腕を抑えながら力なく笑う。ああ、もうここまでくると開き直りの心境かな?それとも自棄になっているのか?敵のあまりの大群にも何の感情も浮かばなくなってきた。

改めて自分の状態を確認する・・・服の所々が破れ、体のあちらこちらも敵の砲撃を貰ってボロボロだ控えめに見ても、中破といったところだろうか?まあ気にする必要もない。いつもなら咎めるような口煩い『妹』も、いないことだしな・・・。

もう、いないんだからな・・・。守るべき者たちも、自分の後ろを預ける相方も・・・。

だが、だからと言って今ここで立ち止まるわけには行かない。稼ぐ時間は多ければ多いほどいい。抑えていた手を離して、盾代わりに使ってしまって役立たずとなった7・7mm機銃を投げ捨て、変わりに剣を抜く。片腕は負傷して満足に動くかも怪しいので、剣の持ち手を口に咥える。いつものような立ち回りは期待できないものの、何もないよりはマシだろう。あとはもう片方の手に装着単装砲だが・・・使えない事はない。うん、いける。

「ほうひた?ほいよ、ほれはまはうほへる!(どうした?こいよ、俺はまだ動ける!)」

啖呵を切ってみたものの、剣を咥えたまま喋っているので、相手に通じたかどうかは分からない。が、それでも先頭の相手――戦艦『ル』級は、不愉快そうに眉をひそめる。しぶとい奴だと不愉快にでも思っているのだろうか?

やがて何を思ったのか、まるで挙手をするように、右腕をゆっくりと上げたと思いきや数秒間そのままの姿勢で止まっていた。『はい先生』『なんだい?ル級ちゃん?』みたいなやり取りを期待しているようにも見えない。というかそんな空気でもないし、ジョークというものがこいつらにも存在するのか?そう思いながらも次の挙動に備えて油断なく構えて咄嗟の行動が出来るようにする。

が、何時までたってもそのままの姿勢でこちらを見ている。一体、何秒間がたったのだろうか?それとも1分、2分?痺れを切らしてこちらから攻めてやろうかと考えがよぎった時だった。

『ル級』のあげていた腕が、ゆっくりと振り下ろされる。

 

ザバァァァァァァァァァン!!

 

 

『キシャァァァァァァァ!!!!』

 

自分の四方から水しぶきが起こったと思いきや、それぞれの方向から敵駆逐艦が奇声をあげて突進してくる。

咄嗟の事に、声をあげることも避ける事もできずにそのまま敵の攻撃を許してしまう結果になってしまう。

「ごふっ・・・・!?」

自身の口と体から、鈍い音が聞こえてくる。痛みのあまり口から剣を放してしまい、そのまま仰向けに倒れこんでしまう。

自分の無防備な隙を、敵は見逃すはずはなかった。

数人のビキニ姿の深海凄艦――重巡『リ級』がこっちに向かって腕の砲身をこちらに向ける。凶悪な笑みと赤い瞳をこちらに向けながら。

 

「・・・くそったれ」

 

思わず漏らした悪態と共に、リ級の三錬装砲が一斉に火を噴く。

 

「こ・・・・のぉぉぉぉ!」

 

倒れた状態のまま、激痛を堪えながら咄嗟に先程自分に突進してきた敵駆逐艦を鷲掴みにして放り投げる。敵の砲弾のいくつかが敵駆逐に当たって盾代わりになり直撃を防ぐ。が、いかんせん数が多すぎて全てを防ぐには至らず、逸れた砲弾と爆風が体全体を襲う。まるで物凄い巨大なドライヤーを使って、台風みたいな強風で吹きつけられたような感覚と共に体が吹っ飛ばされる。

数mぐらいは飛んだだろうか?直も酷くなっていく激痛に顔をしかめる。体のほうは確認するまでもない、間違いなく『大破』してやがる。直撃は防いだものの先のダメージで片足がもう沈みかけているからあともう一発食らえば間違いなく『轟沈』は免れないだろう・・・。

痛みをこらえながら首だけを敵のほうに向ける。相変わらず小馬鹿にでもしたような顔をぶら下げた『リ級』が、今か今かと『ル級』からの合図を待っている。

ああ・・・もはやこれまでか。いつもならあのリ級の顔に憤慨していただろうけどもうそんな余力もない・・・。あのル級の手が振り下ろされた瞬間、何もかも終わるのだろう・・・だがもはやどうしようもない・・・。

最後に心残りがあるとすれば、基地の皆はどうなったのだろうか?電達は?時間は十分に稼ぐことは出来ただろうか・・・?うまく逃げれたらいいのだが・・・。

ふいに、頬に熱いものが流れる物を感じる。・・・涙?泣いているのか俺は?

 

『あら~?天龍ちゃんったらどうしたの~?』

 

「はは・・・なんでだろうな」

聞こえるはずのない妹の声が聞こえたような気がする。大丈夫、自分も今そっち行くから待ってろよ?多分ガキ共も一緒だからそっちは楽しそうだからな・・・。どこか安心するものを感じて瞳を閉じる。

 

「皆、今行くよ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

ドォォォォォォォォォォォン

 

 

唯一働いている聴覚が、轟音と少女の声を聞き取る。ゆっくりと、閉じていた瞳を開く。

朦朧としている視界が、砲撃を加えようとしていたリ級の一団が崩れているのをかろうじて捉える。なんだ・・?なにが起こった?疑問に思っているとゆっくりと、自分の体が動いているような錯覚を覚える。いや、錯覚じゃない・・・で誰かに両腕を掴まれている・・・誰に・・・?

「天龍さん!しっかりしてください!!天龍さん!!」

聞き覚えのある声が聞こえる・・・やけに重く感じる首をゆっくりと上げながら声のする真上を見る。

ガキだ。小さなガキが俺を見ながらぼろぼろ涙を流してながら必死に声をかけてやがる・・・あれ、見覚えがあるぞ?確か・・・そうだ、こいつは・・・。

「いな・・・ずま・・・?」

「天龍さん傷に触るのです!喋らないで!!今・・・今基地まで連れて行きますから・・・!」

涙ながらに自分を見下ろす少女――電が必死に自分の体ごと運ぼうと思い切り引っ張っている。が、体格差と馬力のせいか、思うように動かす事ができずに這うようなスピードを出すのが精一杯だった・・・。

「なんで・・・ここにいやがる・・・?」

「天龍さんが一人で出撃していると聞いて・・・いてもたってもいられなくなって・・・」

「ばっか・・・やろー・・・・!」

倒れている状態から伝の襟首を掴む。途端に電の動きが止まる。

「そんなチビの・・・体の癖しやがって・・・!俺を、運ぶ・・・だと?」

いくらなんでもこんなスピードで逃げ切れるなんて到底思えない。敵に狙い撃ちされて沈むのがオチだ・・・第一・・・。

「第一・・・お前が・・・こんなとこで油売っている所為で俺の・・・俺の出撃の意味がパーに・・・なるじゃねーか・・・俺のことはいいからさっさと・・・」

死にかけの自分に構うくらいならさっさと逃げてくれ。お願いだから・・・折角、折角命投げ出してまで出撃したと言うのにこれでは・・・。

「早く・・・早く逃げ・・・」

「嫌ですっ!!」

激しく首を振って拒否の姿勢をとる。初めて見せる拒否の目に驚きで目を見開く。

「天龍さんを置いて逃げるなんて嫌です!!基地の仲間や龍田さんや仲間の皆が次々にいなくなって・・・天龍さんまでいなくなるなんて嫌なのです!!」

「電・・・・」

「天龍さんにはいつもいつも助けてもらいました・・・だから今度は・・・今度は電が天龍さんを・・・!」

「・・・ばか・・・やろう・・・」

目頭が熱くなり、再び頬に熱いものが流れる。いつもびくびくして敵を殺すのにも躊躇している腑抜けの癖して・・・

「甘ったれの・・・チビの・・・腰抜けの癖・・に・・」

自分を・・・助けるだと?バカヤロー・・・。

落ちてくる電の涙と自分の涙とが交じり合い、落ちていく・・・。

もういい、もういいんだ・・・頼むから逃げてくれ。お前が逃げるんだよ・・・生きる気力も、目的も失くした自分なんか放っておいて・・だから・・・もう片方の手も電の襟首に伸ばす。

「頼むから・・・逃げてくれよ・・・お前だけでも・・・お願いだから・・・」

「天龍さん・・・」

「俺だって、皆には死んでほしくないんだ・・・!もう、俺の目の前で仲間がし、死ぬのは・・・!」

涙で舌が回らない・・・それでも態度で、表情で、意思で、目の前の幼い『仲間』に懇願する・・・。

「て・・・天・・龍さ・・・」

 

 

 

ドォォォォォォォォン!!!

 

 

「きゃあ!?」

「うぅ・・!?」

すぐ傍で敵の砲弾が水しぶきをあげる。視線を正面に戻すと例のリ級達が再び自身の砲をこちらに向けている。いや、リ級だけではない。左目と口部分が露出している仮面を被った雷巡『チ級』までもが、今にもこちらに向かって魚雷を発射しようと凶悪な主砲で覆われている左手をこちらに向けている。

・・・まずい、もうすぐ夜になる。夜戦はあいつ等の独断場だ。戦艦ですらそんな奴らの攻撃を貰えば満身創痍の自分は勿論、駆逐艦の電では生き残るなんて絶望的だろう・・。

「・・・電、もうここまでだ・・・手遅れになる前に・・・・!」

「嫌です!!」

逃げるどころか、自分の前に立って盾になるように両手を広げる電。

「お前・・・」

「天龍さんをおいて逃げるくらいなら、電もここで・・・お一人では逝かせないのです・・・」

「電・・・」

たよりなく震えながらも、梃子でも動かないといわんばかりに言い放つ。・・畜生、最後の最後ででかい事言うようになりやがって・・・四人の中では一番の弱虫だったくせによ・・・。

・・・ごめんな、俺が弱いばっかりに・・・他の姉妹に続いてお前までこんな目に遭わせるなんて・・・何が、世界水準超えの天龍だよ、実の妹も、他の妹分も守れなかった挙句、こんな様で、最後に生き残った妹分まで守れなかった・・・畜生、悔しい・・・悔しいよ。

チ級がガチャリと構えなおす。電の体が強張るのが分かる・・・。ああ、もう無理だ・・・。

「・・・ごめんな暁・・・響・・・雷・・・龍田、ごめんな電・・・」

 

 

守る事ができなくて、本当にごめん・・・。諦めた様に、ゆっくりと瞳を閉じて・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォォォォォォォォ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

再び、轟音が走る。しかし、何時までも衝撃がやってこない・・・。

恐る恐る閉じていた目を開いて前を向くと、こちらを狙っていたチ級の一人が、なぜか肩を押さえてこちらを見ていた。大したダメージではなかったものの、キョロキョロと辺りを見渡すその様子から、仮面の奥で動揺しているのが分かる。なんだ?何が起こった?

「これは・・・一体?」

前にいる電も何が起きたのか分からないと言う有様で、自分と同じようにただただ乱れている敵艦隊を目を丸くして見ていた。

 

 

 

「危ないところだったな・・・“     ”」

 

突然、後ろから声がかかり、何事かぶつぶつ呟く。次の瞬間、自分の体が光に包まれる。

「!?」

「え!?」

突然の事に驚く中、光は一瞬で止む・・・すると。

 

「・・・あぁ!?か、体が!?」

信じられない事に、砲弾を受け、ボロボロになった筈の体が癒えている。完治までとはいかないものの、少なくとも『中破』位には回復していた。・・・なぜ!?今の光か!?一体何が!?訳が分からない!

 

「これで少しはマシになったはずだ。平気か?」

その人物は自分の横を通り過ぎると自分達を守るように前方に立つ。

「え・・・・!!」

その姿を確認した電が驚きの声を漏らす。その理由は言わずとも分かる。自分とて驚きの声をあげそうになったからだ・・・!

「お前・・・なんで・・・・!?」

予想外の人物に目を見開くとタイミングを見計らったように、その人物は振り返る。

 

 

「さすがに、そっとしておこうって言ってる場合じゃないからな・・・」


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